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2026年7月5日日曜日

短冊CDの日2026


 2023年から展開されていた『短冊CDの日』のキャンペーン・イベントも今年で4回目となり、7月7日”七夕の日”に開催される。 
 このキャンペーンは1988年に8cmサイズのCDを短冊型パッケージにしたシングルCDが生産開始されて35周年となった、2023年から展開されている『短冊CDの日』のイベントであり、密かなブームの兆しを見せているのだ。
 1990年代に青春時代を送った世代にとっては懐かしく、デジタル配信で育った令和の若い世代にとっては、この8cmサイズのCDのフォーマットは、アナログ盤やカセットテープと同様に音楽産業のリバイバル・ブームと言えるのだ。

 今月1日に弊サイトで吉田哲人のインタビューを掲載したばかりの、イエスハッピー!/吉田哲人の『I Saw The Light』もこのキャンペーンにエントリーしている作品なので未読の方はチェックしよう。


関連記事
★イエスハッピー!/吉田哲人『I Saw The Light』
吉田哲人リリース・インタビュー>記事はこちら

 
 ここでは『短冊CDの日 2026』にエントリーされて、7月7日に同時リリースされる中から、弊サイトのカラーや筆者の好みやで選出した作品を中心に紹介したいと思う。各作品の文末に予約リンク先を付けているので、筆者の解説で興味を持った読者は入手して聴いてほしい。

●短冊CDの日2026 Supported by Pococha公式サイト:https://tanzaku-day.jp/



sommeil sommeil と なんちゃらアイドル 
『9月の海はクラゲの海』(NRSD-3176)

  まずは2人組アイドルグループ”sommeil sommeil(ソメイユ・ソメーユ)”と”なんちゃらアイドル”の2組のコラボレーションによる、ムーンライダーズの「9月の海はクラゲの海」(『ドント・トラスト・オーバー・サーティー』収録1986年)カバーから取り上げたい。
 4月23日にリリースされたばかりの岡田徹氏トリビュートアルバム『Adventures in Modern Recording by TOHRU OKADA』でも覚和歌子 with Life Goes Onが取上げていたが、ライダーズ史上屈指の美しさを誇るこのメロディは、巧みな歌唱力で歌い上げるタイプの曲では決してない。例えるならフェデリコ・フェリーニ監督『道』(1954年)でのジェルソミーナ(ジュリエッタ・マシーナ)の生き方に通じる純粋無垢な歌唱が似合うのだ。そしてその直向きさが聴く人の心を強く打つ。掛け値なしに名曲とはそういうものなのだ。


 ここでのカバー・ヴァージョンは、sommeil sommeilのnemumiと夢乃なこ、なんちゃらアイドルの御茶海(みさみ)マミとあおはるが、4人のユニゾンと各々のソロパートに分けてボーカルを取っており、その無垢な歌声を聴かせている。編曲と演奏は1989年に結成されたベテラン・バンドのスキップカウズのリーダーでギタリストの遠藤肇が担当し、モジュレーションが効いたギターリフを中心に、岡田徹へのシンパシーが感じされるサウンドを構築している。
 カップリングにはsommeil sommeilがなんちゃらアイドルの「PansyとDaisy」(同名7インチシングル/2020年)、なんちゃらアイドルの方はsommeil sommeilの「夕立クロニクル」(『Re:relation』収録/2025年)をトレードしカバーしているのがユニークだ。バックトラックはそれぞれのオリジナルを流用しているようだが、ボーカルの声質やキャラクターが異なるのでファンは楽しく聴けると思う。
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平野友里
『MICKEY』(NRSD-3174)

 昨年PRINCESS PRINCESSの「世界でいちばん熱い夏」と渡辺美里の「恋したっていいじゃない」カップリング・カバーで短冊CDをリリースしたアイドル・シンガーのゆり丸こと平野友里は、今回Great Hunting主宰で敏腕A&Rマンの加茂啓太郎のプロデュースにより、アメリカの女性シンガーで振付師のトニー・バジル(Toni Basil)が1982年に大ヒットさせた「MICKEY」をタイトル・ソングとしてカバーしている。
 またカップリングは平野友里のセルフ・プロデュースで、小室哲哉の作編曲とプロデュースでヒットしたhitomiの「CANDY GIRL」(1995年)を取り上げている。前者は加茂が発掘したクリエイターのZuuun、後者はマイクロスターの佐藤清喜が編曲と演奏及びプログラミングを担当しており、いずれのサウンドもダンス・ミュージックとして優れているのでDJ諸兄は必携だろう。
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 なんちゃらアイドルや平野友里とレーベルメイトで、同日に短冊CDをリリースする他のアーティストも触れておこう。シンガー・ソングライターのルカタマと、伝説のガールズバンド“マサ子さん”のボーカルまゆたんで結成された女性2人組ユニットTAMAYURAMは、昨年の『bye-bye, tape echo』に続き、1980年代子供番組「どきんちょ!ネムリン」のテーマ曲をカバーした『ぴんく ピンク PINK』(NRSD-3175)をリリースする。
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 前出の『Adventures in Modern Recording by TOHRU OKADA』にも参加した、富士山ご当地アイドルグループで井出ちよのソロユニットというべき3776(みななろ)は、昨年の『さよなら渦巻きの中の私』も音楽性が高かったが、今年の『六四』(EXTE-3776)も変拍子と巧みなギターカッティングを持つ実験作ポップスで音楽通を唸らせるだろう。
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松永天馬
『唇まで8センチ / 背中まで45分』(NRSD-3172)

 そして最後に紹介するのは、前衛ポップロックバンド、アーバンギャルドのリーダーでボーカルの松永天馬がソロ名義で『唇まで8センチ / 背中まで45分』をリリースする。
 両A面扱いであるがメインタイトル曲は、本キャンペーンの短冊CDのサイズである8cmから着想されたと思しき松永による作詞と、音楽プロデューサーでソングライターの佐々木喫茶(ささき きっさ)が作編曲した書き下ろしの新曲である。
 作家や詩人の肩書を持つ松永の歌詞の世界は、エスプリが効いた言葉の選び方やダブルミーニングの使い方もプロフェッショナルな仕事で、佐々木による1980年代中期のYAMAHA DX7などのアタックの強いFM音源系シンセサイザー・ベースやブルースハープを模したリード・シンセのリフ等々、懐かしくも新しいエレクトロポップ・サウンドにマッチしている。主役である松永のボーカルもBPMが変化しまくるこの曲でピッチや表現力など申し分なく、正にこの短冊CDキャンペーンのアンセム(Anthem)として相応しい完成度なのだ。


 両A面のカップリングは、井上陽水がソングライティングして沢田研二(以降:ジュリー)に提供した「背中まで45分」(1983年)のカバーである。ジュリーにとっては38枚目のシングルで、同曲のシングル・ヴァージョンの編曲を担当したのは、嘗てりりィのバイバイ・セッション・バンドやナイアガラ・レーベルのセッションにも参加していたベーシストの吉田建で、彼が率いるエキゾティクスがジュリーのバックバンドだった時期(1981年~1984年)でもあった。当時のニューウェイヴ・サウンドとの親和性が高い時期でも知られ、ジュリーとエキゾティクス、それを許容したプロデューサー加瀬邦彦(元ザ・ワイルドワンズのリーダー)の先見性の高さは、音楽界の最前線を生き抜いてきた一流の嗅覚と言えよう。
 ここでのカバー・ヴァージョンの編曲と演奏及びプログラミングは、アーバンギャルドのサポート・キーボーディストも務めるシンセサイザー奏者の杉山圭一で、陽水の独特な歌詞世界に流れているデカダンスでアンニュイなイメージを巧みに演出している。オリジナルの編曲はシングルVer:吉田健、アルバム『MIS CAST』収録Ver:白井良明(ムーンライダーズ)と各人の異なるセンスによって制作されていたが、杉山は更に個性的なサウンドを追求している。それはエキゾチックなミッドテンポのポリリズムやフィル・マンザネラ(Phil Manzanera)に通じるギター・サウンド、空間の隙間を活かしたミックスで施したサウンドで、ロキシー・ミュージック(Roxy Music)の最終作『Avalon』(1982年)を彷彿とさせて、実に素晴らしいカバーになったと一聴して魅了されてしまった。
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 なお松永天馬が率いるアーバンギャルドは、彼らが主宰する恒例のミュージック・フェスティバル「鬱フェス」を9月に開催するので、興味を持った読者は是非参加してほしい。
 同フェスにはバンドの二枚看板である松永と浜崎容子を中心に交流を持つ、神聖かまってちゃんや大槻ケンヂなど個性的な著名アーティストやバンドが多くゲスト出演し、弊サイトでもお馴染みの才女シンガー・ソングライターのフレネシの出演も決定している。
関連記事
浜崎容子/『フィルムノワール』>記事はこちら
★フレネシ記事一覧>記事はこちら  


アーバンギャルドpresents
 鬱フェス 2026

◎日時:2026年9月21日(月・祝)
開場 14:00 / 開演:14:30~

◎会場:CLUB CITTA’(神奈川県):アクセスはこちら

◎出演者
アーバンギャルド

◎ゲスト出演者
神聖かまってちゃん
大槻ケンヂ(オーケンギャルド)
挫・人間
色々な十字架
東京メルヘン倶楽部
フレネシ
水中、それは苦しい
赤いくらげ
絵恋ちゃん
古山菜の花
カラコルムの山々
AIR-CON BOOM BOOM ONESAN

◎イープラス先行チケット予約:こちらをクリック


(テキスト:ウチタカヒデ

2026年7月1日水曜日

イエスハッピー!/吉田哲人『I Saw The Light』吉田哲人インタビュー

”アイドル業界屈指の名士作のエールソング”

 2人組アイドルグループのイエスハッピー!が、デビュー15周年となるアニバーサリー・イヤーの第一弾として、作編曲家でシンガー・ソングライターの吉田哲人の書き下ろしの新曲を短冊CDとして7月7日にリリース(NARISU RECORDS/NRSD-3171)する。

 本作はイエスハッピー!と吉田哲人の連名で両A面でのリリースとなり、それぞれのボーカル・ヴァージョンが収録されている。
 吉田の作編曲にイエスハッピー!の2名が作詞したこの友愛に満ちた曲は、イントロのソフトロック風コーラスから高揚感のあるポップスで、各パートの随所に吉田らしいエッセンスがちりばめられていて完成度が高く聴き飽きない。吉田は全体のプログラミングに各種キーボード、ベース(リッケン4003s)を生演奏している他、ブラス・アレンジも担当している。ゲストとしてアコースティック・ピアノの演奏と多彩なストリングス・アレンジは、吉田の盟友であるユメトコスメの長谷泰宏が参加している。
 また坂村健次によるジャケットの両面のデザインは、嘗て小沢健二とスチャダラパーのコラボレーションでヒットした『今夜はブギー・バック』(1994年)のそれをオマージュしていて、マニア心をくすぐった。


イエスハッピー!
(左からこころ、さやか

 イエスハッピー!のプロフィールに触れるが、彼女達はさやかとこころの女性2名で結成されたアイドルグループである。共に島根県松江市出身で、中学、高校の同級生だったが、ハロー!プロジェクト・ファンという共通の趣味を知ってから親しくなったという。高校卒業後アイドルを目指していたこころは、数々のオーディションを受け、関西最大都市の大阪にも足を運んでおり、大学進学で同地に移住していたさやかの住まいに通って最終的に同居するようになる。2008年頃にはイエスハッピー!の前進となるユニットを2人で組み、ショッピングモールや地域のイベントスペースなどフリーステージを中心に、アイドルソングやアニソンをカバーしてパフォーマンス活動をしていた。
 その後さやかの就活がきっかけで、芸能事務所アップフロント関西支社と接点を得て、同社が経営するハロー!プロジェクトのオフィシャル・ショップ大阪心斎橋店に揃って勤務し、2011年にはイエスハッピー!として同事務所に所属して正式にグループ活動を開始した。
 2016年には同事務所を退社し、フリーを経て独立事務所 ”ミケネコカンパニー” を設立し現在に至る。彼女達はこれまでに4枚のアルバムと2枚のミニアルバム、シングルは6枚リリースしており、関西を拠点に日本全国で精力的にライブ活動を繰り広げてファン達を魅了している。


吉田哲人

 続いて吉田哲人だが、98年にThe Orangersとしてデビュー後、様々なコンピレーションへの楽曲提供やリミキサーとして参加し、2001年には小西康陽氏が主宰するReadymade Entertainment所属のマニピュレーターとして多くのプロダクションに関わっていく。鈴木亜美やきゃりーぱみゅぱみゅといったメジャー・アイドルから、竹達彩奈やNegicco、チームしゃちほこ、私立恵比寿中学、WHY@DOLL(ホワイドール)など新鋭の若手アイドルの楽曲に関わり、彼女達の熱心なファンの間でもよく知られた存在なのだ。2023年11月22日には、シンガー・ソングライターとして記念すべきファースト・ソロアルバム『The Summing Up』と『The World Won’t Listen』をリリースして高い評価を得ていた。翌2024年7月7日には芸大時代の先輩で、サウンドクリエイターとして知られる田中友直とのエレクトロニック・デュオ”BABY JOHNSONZ”として、『BABY JOHNSONZ e.p.』を短冊CDでリリースしてテクノ・ファンに注目されていた。
 弊サイトでは、なりすレコード代表の平澤直孝氏(ムーンライダーズ関係コンピレーションアルバムのコーディネートでも知られる)の紹介により、2023年9月から1年に渡り『わたくしのオフコース』と題した連載コラムを寄稿して読者にも好評だった。

関連記事
★吉田哲人:『The Summing Up』『The World Won’t Listen』リリース・インタビュー前編>記事はこちら
★吉田哲人:『The Summing Up』『The World Won’t Listen』リリース・インタビュー後編>記事はこちら
★わたくしのオフコース -1->記事はこちら

 ここからはそんな吉田へのインタビューと、本作『I Saw The Light』の曲作りやレコーディング中のイメージ作りで聴いていたプレイリストをお送りする。


特別インタビュー★ゲスト~吉田哲人 
”人生いろいろありますが、
それでも前を向いて生きてゆくのだいう
決意の曲(歌詞)になっている”

●今回は久しぶりのリリースでおめでとうございます。
  まずはこれまで2年程の期間の活動状況を聞かせて下さい。
   2023年11月のソロアルバム『The Summing Up』と『The World Won’t Listen』の2枚同時リリースから、翌年7月の田中友直氏とのユニット”BABY JOHNSONZ”のシングル・リリースと多忙な時期を経て、実に2年振りとなりますよね? 


吉田哲人(以下吉田):ありがとうございます。
実は、いくつかを除いて仕事を断っていた状況でした。

BABY JOHNSONZのシングル発売後もアルバム制作を進めていたのですが、その年の暮れ、田中友直さんにしばらく楽曲制作が出来なさそうであることを伝えて以来、作業が止まっている状況です。

『BABY JOHNSONZ e.p.』

というのも、ウチさんや僕のXをフォローしてくださっている方はご存知かもしれませんが、数年前に音楽出版契約のトラブルに見舞われまして、相手の不誠実な対応に我慢の限界に達してしまって半ば引退したような状態になってしまいました。あとで情報は正しく修正されたものの、ショックのあまり、楽曲提供を決めた僕が悪いのか?とまで思い詰めてしまい、その頃のXの投稿はネガティヴになりがちでした。まあ、色々と自分自身のリリースが続いたことで燃え尽き症候群のようになっていたのかもしれませんが、とにかくいろいろと重なってしまって、もう音楽制作はウンザリだ!と。

そうは言っても音楽を捨てることはできずに、アウトプットできないならインプットするいい機会かなと、楽理の勉強を始めたり、新たにベースを買ってみたりと、悲嘆に暮れて過ごすよりもできるだけ前向きにと努力していた日々でした。そんな中、唯一聴いて(聴けて)いたのは幼少期から聞いていたThe Beatles(及びソロ)でした。 


 ●なるほど、本作に至るまで紆余曲折あったのですね。
今回2人組女性アイドルグループ、イエスハッピー!(以降イエハピ)さんとコラボレーションすることになったのは、どういう経緯だったんでしょうか? 
彼女達は今年デビュー15周年ということで、これまでにも楽曲提供など交流などはあったのでしょうか? 


吉田:今回の楽曲は先ほどの「いくつか」にあたるのですが、以前から依頼を受けていたので、自分のメンタルはどうあれ、引き受けていたからには約束をきちんと果たさなければと。ただ、実際作ってみたら楽しくて、いい曲が出来たことで自信も回復したので、イエハピさんには感謝しかないですね。

僕が初めてイエハピを見たのは、2019年に大阪の味園ユニバースで開催された「Mezzo Forte in 味園」だったかな、2回目は横須賀の短冊CDフェス。そこで楽曲依頼をされました。その後も東京でのイエハピのイベントに行ったり、僕のリリース・イベントにも出演してもらったりと交流が続き、今回、デビュー15周年という記念すべきタイミングで改めて声をかけてもらったという流れです。

イエスハッピー!
(左からさやか、こころ

イエハピさんからの熱心なオファーによって、吉田さんの音楽活動再開にも繋がったということで安心しました。
では本作『I Saw The Light』のテーマ、コンセプトを教えて下さい。


吉田:イエハピさんからは「友情。辞めていった仲間にエールを送るような。」というテーマと聞きました。歌詞については何度かやり取りしながら、ほんの少しだけ僕も手伝い、タイトルも僕が決めました。 

僕へのリファレンスとして、WHY@DOLL(ほわどる)に提供した「ケ・セラ・セラ」「ふたりで生きてゆければ」を挙げてくれました。不思議なもので、上記の2曲は発売当時、正直ほわどるファンの方からの反応がちょっと薄いように感じていましたが、その後、別のアイドルの方から上記の2曲が好きだと言っていただけたことも裏付けとなり、それらのエッセンスを含みつつ、イエハピさんやそのファンの方、また、イエハピさんのアイドル仲間の方にも気に入ってもらえるような曲を目指しました。 


●本作のソングライティングやアレンジのアイディア、レコーディング時のエピソードなどはありますか? 


吉田:自身を見つめ直していた時期の依頼だったため、それまでの僕の楽曲制作とは違う考え方で、歌謡曲のフォーマットは守りつつも自分のアイディアに忠実に、転調してもそのまま走り切り(今までは部分転調くらいにとどめ、歌いやすい/作詞し易い曲になるようにしていた)、勢いのまま曲を完成させました。あと、今までは頭の中にある音(アイディア)を全部一曲に入れて音色の多い作品になりがちでしたが、今回はデモからボーカル・レコーディングまで諸事情で9ヶ月ほど空いたことで距離をとって楽曲を見つめ直し、不必要なものを削ぎ落として、必要最低限の音数で仕上げられました。 

今回の僕のヴォーカルは、デモ用のガイド・ヴォーカルそのまま使っています。歌い直した方がいいと思う箇所やタイミングを修正した方がいいと思う箇所もないわけではないのですが、歌詞が完成してすぐ録音した勢いが真空パックされていて、そこがとても気に入ったのでそのまま採用しました。仮に、もう一回歌い直してきっちり完成させればピッチやタイミングの精度は上がるかもしれませんが、結果、平坦な表現になりそうなので避けたのもありますね。 

レコーディング時のエピソードと言えば、4月下旬に行ったボーカル・レコーディングのときに、「この曲、めっちゃ気に入っているからいつか僕もセルフ・カヴァー出していい?」と話したら、「いつでも大丈夫です!何なら先に出していただいても大丈夫です!」と言われたので「いやいや、先に出すのはさすがに仁義に反するよ。どんなに僕が早く出すとしても、その場合は同時リリースだよ。」と話したこともあり、レコーディング終了後、どういうアプローチがあるかをぼんやり考えていたところに短冊CDの日のことを思い出し、イエハピさんとなりすレコードに連絡を取って急いで諸々作業し完成させました。

それと、先ほど話したウンザリしていた時期にRickenbacker 4003s(ベース)を買ったが、今回は音数少ないアレンジに仕上げるため、普段なら入れていたであろうギターを入れない代わりにそのベースを弾きました。ベースのレコーディングは短冊CDを出すと決めてから録音し、それで完成となりました。


●本作のソングライティングやアレンジのイメージ作りで聴いていた楽曲のプレイリストをお願いします。

『I Saw The Light』吉田哲人プレイリスト 

吉田:今回のプレイリストはビートルズ関連が大半な上、明確に影響を受けた/参考にしたという曲が見当たらないのですけれども、これらを昇華して今回の曲ができたのだとざっくり捉えてもらえれば、というリストになってます。別の言い方をすれば、僕は4歳(ジョン・レノンが亡くなる年の夏休み)からビートルズを聴いており、それらが血肉となっているので、今回の曲を自己分析してみたら、この辺りの影響が出ているのだろうと思われる曲が中心のリスト、とも言えます。

オリジナル・ミックスよりも、ここ近年のリ・ミックスの方がアレンジが聴きやすいのでそちらを積極的に選んでいます。下記の発売年はオリジナル発売(シングル曲はオリジナル・シングル発売時)年に準じています。 加えて、ビートルズを解説するなんて大胆なことはさすがにできないので、とりとめのない話を少々。

1.Hello, Goodbye - 2015 Mix / The Beatles 
 (『The Beatles 1967 - 1970』/ 1967年)
ポールの手ぐせみたいなコード進行の曲。音楽的な基礎ができる前の幼少期にビートルズをインストールしてしまったので、自分がつくるコード進行に影響がない訳がない。

2.What Is Life / George Harrison(『All Things Must Pass』/ 1970年)
曲もアレンジもいいし、あと歌詞も。

3.Instant Karma! (We All Shine On) - Ultimate Mix / John Lennon
 (『Gimme Some Truth』/ 1970年(2020年))
レコーディングから発売までの過程/コンセプトを考えるとミスタッチを直す時間はなかったと思うがそれも含めて全てカッコいい。どれを良しとするかの、美意識の問題。

4.Jet / Paul McCartney & Wings(『Band On The Run』/ 1973年)
Rickenbacker 4003sを買って最初に練習した曲。

5.Helter Skelter - 2018 Mix / The Beatles(『The Beatles』/ 1968年)
ジョンのベースってカッコいいですよね。確か使っているのはFender Bass VIなのでちょっとニュアンスは違うけど、僕もこの曲くらいの勢いでリッケンバッカーを弾いてみた。

6.Happiness Is A Warm Gun - 2018 Mix / The Beatles
 (『The Beatles』/ 1968年)
コード(楽曲)デザインというものは結局、作った本人が良しとすればそれで良しな訳で。戻らずに展開しっぱなしのこの曲の構造は素晴らしすぎる、と改めて。

7.One Love In My Lifetime - Single Version / Diana Ross
 (『Diana Ross』/ 1976年)
DJする時によくかける曲。ユメトコスメ長谷くんにストリングス・アレンジをお願いする際に頭の中で鳴ってる(=参考にして欲しい)曲として伝えました。

8.Remember - Ultimate Mix / John Lennon(『Plastic Ono Band 』/ 1970年)
ジョンのピアノってカッコいいですよね(既視感)。アレンジで必要な事は何かを教えてくれる曲。

9.I Am The Walrus - 2023 Mix / The Beatles 
 (『The Beatles 1967 - 1970』/ 1967年)
大人になるまで他人がいう変わったコード進行(この曲のみならずビートルズは多いのですが)の曲と気がつかなかった。

10.Baby You're A Rich Man / The Beatles 
 (『Yellow Submarine Songtrack』/ 1967年(1990年)
今回プレイリストを作って思ったのですが、普段ギターを中心にして聴いていない様子ですね…。

11.Sexy Sadie - 2018 Mix / The Beatles(『The Beatles』/ 1968年)
ポールのピアノってカッコいいですよね(既視感)。遠くで聞こえるオルガンは僕もよくやる手法で今回も当然。

12.Penny Lane - Stereo Mix 2017 / The Beatles
 (『The Beatles 1967 - 1970』/ 1967年)
展開してもしれっと元のキーに戻してみたり、新たに旅立ってみたり。
展開しても何とかキーを戻すのは作曲の醍醐味。

13.For No One - 2022 Mix / The Beatles(『Revolver』/ 1966年)
アレンジをする際、割とハープシコードを使うのですがそれはビートルズの影響が大きいと思います。

14.Gimme Some Truth - Ultimate Mix / John Lennon
 (『Imagine』/ 1971年
この曲、歌詞も重要であるが、ハープシコード、もしくはクラビネットのようなキーボードがうっすら使われており、それがめっちゃ効果的。”真実が欲しい”ですね本当に。

15.I Saw The Light / Todd Rundgren(『Something / Anything?』/ 1972年)
イエハピさんから届いた歌詞を読んだ際、世界観の象徴と思ったものが二つあるのですが、それを表すのにぴったりのタイトルでした。

(収録曲が同一アルバムのジャケットは共通で1枚のみ掲載)


●では最後に本作『I Saw The Light』のピーアールをお願いします。


吉田:イエスハッピー!さんの15周年を記念する楽曲が作れたことを光栄に思っております。人のために曲を作るのは天職であるなと改めて感じることができました。
ストリングス・アレンジをしてくれたユメトコスメ長谷くん曰く「一連の、吉田さんが一筆書きで書いたような曲」であるようですし、イエハピさんからのオファーにあったのもありますが、僕が、僕の曲をリファレンスに今作るとどうなるか、どんな癖があるのか、成長しているのか、否か。それらがよく表れた曲になっていると思います。僕にも金太郎飴ができたのだとすれば、それは喜ばしいことですし、それを分かってもらえるくらい聴いてくれる方がいれば、それは本当に嬉しいことです。

人生いろいろありますが、それでも前を向いて生きてゆくのだという決意の曲(歌詞)になっていると思います。奇しくも、僕は実生活でその決意が必要だったタイミングでこの曲を作りましたので思い入れはひとしおですし、(いつ出るのかは未定ですが)自身の次のアルバムで試してみたかったアイディアのデュエット・ヴァージョン制作もこのCDで実現しています。気に入っていただけたら幸いです。みんなでイエスハッピー!さんの15周年をお祝いしましょうよ! 聴いてね。


イエスハッピー! / 吉田哲人『I Saw The Light』
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吉田哲人プロフィール
作編曲家/SSW。 48歳にして初のアルバム『The Summing Up』アーカイブ集『The World Won’t Listen』を同時発売した遅咲きボーイ。BABY JOHNSONZのメンバーとしても活動。1999年にP-Vineより発売されたコンピ『テクノ歌謡』選曲家チーム8-bitsの1号でもある。作家としての代表作『チームしゃちほこ / いいくらし』『WHY@DOLL / 菫アイオライト』『Sputrip / 光の惑星』『WAY WAVE / SUMMER BREEZE』 等。
INSTAGRAM : @tetsutoyoshida

イエスハッピー!オフィシャルHP:https://yeshappy.jp/
イエスハッピー!X:https://x.com/UFK_YesHappy


(設問作成、本編テキスト:ウチタカヒデ
















2026年5月1日金曜日

コンピレーション:『Adventures in Modern Recording by TOHRU OKADA』


 ムーンライダーズのキーボーディストで同バンドきってのメロディーメーカーだった岡田徹氏のトリビュート・アルバム『Adventures in Modern Recording by TOHRU OKADA』(Headland Records / HEAD-0001)が4月23日にリリースされたので遅ればせながら紹介したい。 
 惜しくも2023年2月14日に逝去した岡田氏は、前進バンドのはちみつぱい時代からムーンライダーズでリーダーの鈴木慶一氏を支えていたメンバーとして知られ、多くの名曲を残してきた。またプロデューサーやソングライター、キーボーディストとしてバンド外での多くの活動も知られており、ライダーズ系譜の若手バンド、アーティストの育成でも貢献をしてきた。彼が手掛けた中ではPSY・S(サイズ)やパール兄弟、Nav Katze、野田幹子、矢野有美(元シャワー)。メジャー系ではガールズバンドとしては国内で最初に成功したプリンセス・プリンセスの名付け親としても知られおり、その影響力は多岐に渡る。

岡田 徹 

 このような幅広い岡田氏の交流関係から、本作にも世代を超えた多くの人材が参加しており、『MODERN MUSIC』(1979年)や『カメラ=万年筆』(1980年)、『マニア・マニエラ』(1982年)に歌詞を提供しボーカルやコーラスでも参加して、この時期ライダーズの準メンバーとも呼べる存在だった佐藤奈々子を筆頭に、鈴木慶一がプロデュースしたコンピレーション・アルバム『Bright Young Aquarium Workers (陽気な若き水族館員たち)』(1983年)にPortable Rockのメンバーとして参加し、『Don't Trust Over Thirty』(1982年)にコーラスで参加した野宮真貴のライダーズ人脈。
 岡田がファーストから初期アルバムを手掛けたシンガーソングライターの野田幹子、同様に岡田がデビュー時のアルバムやEPをプロデュースしたPSY・SのCHAKA、ガールズ・ニューウェイヴ・バンドのNav Katze、読者モデルからガールズバンドに転じたChiroline(チロリン)の初代リーダーの島崎夏美まで参加している。
 若手では元地下アイドルで現在はライター業の傍ら、音楽ユニット”僕とジョルジュ”の活動をしている姫乃たま、富士山ご当地アイドルグループで、井出ちよのソロユニットというべき3776 (みななろ)も参加し、この2名は2016年の岡田のセルフカバー・ソロアルバム『Tの肖像』でフューチャー・ボーカリストでもあった。更に岡田が生前手掛けようとしていた逸材として、アニメ映画『天気の子』(新海誠監督)のテーマ曲歌唱や映画『ドライブ・マイ・カー』(濱口竜介監督)の演技で新人俳優賞を受賞した、女優兼歌手の三浦透子まで加わっており、全曲のリードボーカリストが、女性陣というのも注目である。

 本家ムーンライダーズからはリーダーの鈴木慶一をはじめ、武川雅寛、白井良明、鈴木博文、夏秋文尚と、実質的メンバーであるスカートの澤部渡、”想像力の血”の佐藤優介という現在のフルメンバーに加えて、岡田が参加していたユニットのLife Goes On、ya-to-i(山本精一との)、CTO LAB.のメンバー達も演奏やアレンジでそれぞれ参加するという、豪華な参加者により、愛に溢れる稀有なトリビュート・アルバムに仕上がっているのだ。 そして本作を飾る装丁面では、一際目を惹くペガコーン(ペガサス+ユニコーンのミックス)のジャケット画は、岡田の立教大学時代からの盟友で、ペガサスをモチーフとした一連の作品で知られるイラストレーターの真鍋太郎氏の描き下ろしである。

1.ウェディング・ソング / 岩下清香 with ROSE-UNLIMITED 
 (鈴木慶一とムーンライダース『火の玉ボーイ』1975年
2.Try Again / 野田幹子 with 武川雅寛、夏秋文尚
  (アグネス・チャン『Mei Mei いつでも夢を』1976年)
3.週末の恋人 / 佐藤奈々子 with 鈴木博文、佐藤優介
4.さよならは夜明けの夢に / 姫乃たま with 山本精一
5.ビューティコンテスト / 野宮真貴 with 鈴木慶一
  (以上3曲:ムーンライダーズ『イスタンブール・マンボ』1977年)
6.いとこ同士 / Nav Katze(ナーヴ・カッツェ) 
(ムーンライダーズ『ヌーベル・バーグ』1978年)
7.いつの日か Happy End / 島崎夏美(Chiroline) with CTO LAB. 
 (杏里『哀しみの孔雀』1981年)
8.Good Nightは嫌い / 3776 (伊藤つかさ『Osusume = オススメ』1984年)
9.(チロリンの)星に願いを / CHAKA with 白井良明 
 (Chiroline『Chiroline - For Camp Fire Use Only』1986年)
10.9月の海はクラゲの海 / 覚和歌子 with Life Goes On
 (ムーンライダーズ 『ドント・トラスト・オーバー・サーティー』1986年)
11.途中にしてね / テノリエリ with 黒田英明
 (Chiroline「途中にしてね」シングル 1987年)
12.涙は悲しさだけで、出来てるんじゃない / Pyokn
 (ムーンライダーズ 『最後の晩餐』1991年)
13.硝子MOON / ジーニアス (須藤まゆみ『電影少女OST』1992年)
14.空の名前 / 三浦透子 with 澤部渡(スカート) 
 (コミック・イメージアルバム『君だけをみつめてる Scene2』1997年

 
岡田徹(ムーンライダーズ)トリビュート・アルバム
「Adventures in Modern Recording by TOHRU OKADA」トレーラー 

 ここでは先月末に本作の音源を入手し、80年代にライダーズを愛聴していた筆者が収録曲の中から特に気になった曲を厳選して詳細解説していく。
 「Try Again」は、70年代前半に人気絶頂だったアイドル歌手のアグネス・チャンが、海外留学のため一旦引退する直前の1976年4月にリリースされた7THアルバム『Mei Mei いつでも夢を』に収録されており、レコーディングには前年からライブのバッキングを務めていたムーンライダーズが全面参加していた。岡田が作曲してアグネス自身が作詞したこの曲はオリジナルからレイドバックしたサウンドで、アイドルからシンガーに脱皮しようとする姿が見て取れる。シンガーソングライターの野田幹子が美しいボーカルを聴かせる本作のヴァージョンでは、ライダーズから武川がバイオリン、夏秋がドラムで参加し、アレンジとその他の楽器演奏とプログラミングをマイクロスターの佐藤清喜が担当している。オリジナルの雰囲気を大切に踏襲したそのサウンドは、アメリカン・ルーツ・ミュージックの芳醇な香りがするエヴァーグリーンな名曲で、作曲家としてのキャリア初期から岡田が円熟していたことが理解出来る。 
 続く「週末の恋人」はライダーズ提供曲の中では珍しく岡田自身がリードボーカルを取った曲で、上品な声質を持つシンガーの大野方栄とデュエットして、フランス系カナダ人シンガーソングライターのルイス・フューレイに通じるヨーロピアンなストリングスに変則的なボサノヴァのリズムを取り入れたサウンドだった。このサウンドとハース・マルチネスを彷彿とさせる岡田のだみ声のコントラストが極めて欧州映画的で素晴らしく、ライダーズ・ベストソング10の1曲に選ばれると思う。ここではこの曲を作詞した鈴木博文のベースと佐藤優介のピアノのバッキングのみで、佐藤奈々子が一人でアンニュイに歌い、サビで優介がコーラスを付けている。やはりサビ前のフックとなる「もう一度あなたの肩にもたれたいわ いつまでも 素敵でいてね・・・」のパンチラインは、このカバーヴァージョンでも光っている。また今回の参加シンガーの中でライダーズと関係性が最も古い佐藤奈々子がこの曲を取り上げたのは意義深いと考える。

鈴木慶一氏、佐藤奈々子氏サイン入り
『Radio Moon and Roses 1979Hz』
アナログ盤(2022年 / 管理人所有) 


 続く「さよならは夜明けの夢に」、「ビューティコンテスト」も前曲同様『イスタンブール・マンボ』収録で、オリジナル曲順通り収録されおり、同アルバムが岡田の代表曲を最も収録していたということだろう。曲順を決定させた本作プロデューサーの川村岬と岡田の愛娘である岡田紫苑 (little moa)の拘りと深い愛を感じさせる。
 前者のオリジナルはこれまた鈴木博文の作詞で、アコースティックピアノのコードワークにエレピや複数のアナログシンセのオブリガード、リードボーカルを取る鈴木慶一の多重録音によるコーラスが入る、中期10cc風のサウンドがブリリアントだった。後の1981年には岡田自身によるリアレンジでシンガーの杏里が『哀しみの孔雀』で取り上げている。ここでは元ボアダムスでオルタナティブ・ギタリストの山本精一、彼とのユニットPARAに参加するピアニストの西滝太、多くの前衛ユニットに参加するギタリストのmoooting(むうとん)がフルートで参加している。音数の少なさはオリジナルを踏襲し、西によるドビッシー風のイントロからこの曲のもの悲しさを表現しており、本編の”less is more”なサウンドも姫乃たまの無垢なボーカルを引き立てた名カバーと言える。
 後者のオリジナルは無国籍且つユニークなパーティソングで、同じく作詞:鈴木慶一とのコンビによる「マスカット ココナッツ バナナ メロン」(『Moon Riders』1977年)から連なるライダーズ・カラーを引き継いでいた。ここではその鈴木慶一がリアレンジしエレキギターと全てのプログラミングを担当し、チャイニーズ風味を強調させたサウンドに仕上げている。ボーカリストには鈴木がPortable Rock時代にプロデュースし、その後ピチカート・ファイヴの活動で成功した野宮真貴が迎えられている。野宮の独特な歌唱法と声質によって、ソフィスケイトされたお洒落ポップスに生まれ変わったのはさすがである。

 そしてライダーズ及び岡田の代表曲として、多くのファンが挙げる「いとこ同士」が本作でも取り上げられている。タイトルや鈴木博文が書いた歌詞のインスパイア元は、1959年ベルリン国際映画祭金熊賞を受賞しフランスのヌーベル・バーグ(Nouvelle Vague)映画の代表作、クロード・シャブロル監督『いとこ同士』である。またオリジナルではシンセサイザー・プログラマーの第一人者だった松武秀樹によりローランド社製マイクロコンピューター・ミュージック・コンポーザー”MC-8”(初期YMOでも使用)が導入され、ピンポン・パンニングする独特なシーケンス・サウンドが斬新だった。この松武をライダーズの鈴木慶一に紹介したのは、恐らくYMO結成前後の細野晴臣ではないだろうか。細野はこの曲ではスティール・ドラムの生演奏で参加しているのが興味深い。この様に革新的映画のモチーフと当時最先端のミュージック・テクノロジーを融合させた、鈴木と岡田のアイディアには脱帽するしかない。
 ここではNav Katzeがオリジナルのアナログシンセのサウンドをデジタルシンセに置き換えて、シャープでよりヨーロピアンなテクノ・サウンドでリメイクしている。長年彼女達の共同プロデューサーとしてエンジニアリングやプログラミングを務めている杉山勇司とメンバーが構築したトラックは、山口美和子が意図的にフラットにしたボーカルとの相性が良く、ヌーベル・バーグ映画のイメージを現代的に解釈して、このトリビュート・アルバムをより格調高くしてくれた。

 筆者がライダーズの最高傑作と考えるアルバム『ドント・トラスト・オーバー・サーティー』から「9月の海はクラゲの海」が取り上げられたのは非常に嬉しい。当時パール兄弟のボーカリストだったサエキけんぞう(佐伯健三)による作詞で、サエキはハルメンズ時代の81年から作詞家としてライダーズに関わっていた。オリジナルではドイツ製デジタル・サンプリング・シンセのPPG Wave 2.3 WAVETERMを全面的に使用し、サンプリングされたメンバーの声をモザイクの様にコーラスで配置させたサウンドが新鮮だった。
 本作では岡田が1995年に結成したアコーディオン・テクノバンド、Life Goes Onが作詞家兼シンガーソングライターの覚和歌子をボーカリストに迎えてアコーディオンバンド・アレンジで取り上げている。因みに覚は、蓮田ひろかのペンネーム時代を含め80年代後期のアイドル作品や沢田研二などに提供して、ライダーズ・メンバーの外部提供曲の作詞家としても度々関わっている。Life Goes Onには元ヴァリエテの鶴来正基、元カーネーションの棚谷祐一、元ZABADAKの上野洋子等実力派キーボーディスト達が多く参加して非常に音楽性が高い。この曲はライダーズ史上屈指の美しいメロディーを持ち、どことなくポール・マッカートニーの匂いをさせていたのだが、鶴来のバンド・アレンジや上野のコーラス・アレンジ、元々ボーカリストではなかった覚の純朴でナチュラルな歌唱によってスコティッシュ・フォーク風となり、正に原点回帰して生まれ変わっている。これこそがこの曲の完成形として、岡田が求めていたカタチなのかも知れない。 

 岡田徹氏サイン入り
カセットブック月光下騎士団
1984年 / 管理人所有)

 最後に繰り返しになるが、本作は岡田徹氏を敬愛する関係者が多く関わって、愛に溢れる稀有なトリビュート・アルバムに仕上がっているので、筆者のレビュー記事を読んで興味を持った音楽ファンは速やかに入手して聴いて欲しい。いや聴くべきだ。

(テキスト:ウチタカヒデ

2026年4月21日火曜日

青野りえ:『フィナーレを待ちながら』

“青野りえのTokyo Tendaberry”
 
 シンガー・ソングライターの青野りえが、ニューシングル『フィナーレを待ちながら』(aonote / FLY HIGH RECORDS)を5月4日にデジタル配信と自主制作CDでリリースするので紹介したい。


 青野にとって、昨年6月のシングル「恋する惑星」や2023年10月に発表したサード・アルバム『TOKYO magic』以来となるこの新曲は、以上の作品をプロデュースした作編曲家の洞澤徹とのThe Bookmarcs(以降ブクマ)や、昨年3月にファースト・ソロアルバム『Strange Village』をリリースした近藤健太郎が提供した曲に青野自身が作詞している。
 青野の作詞、近藤の作曲というこのソングライティング・チームは、昨年12月5日にリリースされた声優兼シンガーの藍田理緒にシングル曲「青いカケラ」(共同サウンドプロデューサー:高口大輔)を提供したのが初組合せで、本曲では近藤の『Strange Village』同様、彼と及川雅仁によるアレンジ、サウンド・プロデュース作品となっている。同アルバムの世界観に近いこの「フィナーレを待ちながら」だが、これまで鬼才SSWの関美彦やブクマの洞澤が手掛けてきた青野サウンドのカラーとは異なるのが非常に興味深く、曲調やサウンドを含めて、彼女の新境地となったのは言うまでもない。

 そもそもこの曲が誕生したきっかけを知る数少ない中の一人である筆者が解説するが、原曲は近藤が自身のバンドthe Sweet Onions、または『Strange Village』などソロ用にストックしていた、ピアノとスキャット・メロディだけのデモ曲「Circle」である。ポール・マッカートニーの「Maybe I'm Amazed(恋することのもどかしさ)」に通じるその曲は、この段階でも既にブリリアントであったが、そんなダイヤの原石を見抜き、歌詞をつけて歌いたいとオファーした青野の審美眼はさすがである。青野はその原曲にローラ・ニーロやキャロル・キングなど70年代初期~中期の良質なシンガー・ソングライターの楽曲をイメージさせていたという。彼女が書いた歌詞もそんな曲調から共鳴されたピュアでナチュラルな心情を描いたラブソングに仕上げており、巧みな歌声で豊かに歌い上げている。 
 アレンジ的にはシンガー・ソングライター系サウンドということで、必要最低限の楽器配置をした引き算の美学を心掛けていて、適所で光るプレイをしている。近藤がアコースティックピアノとオルガンにコーラス、及川は本職のベース以外にエレキギターとドラムのプログラミング、コーラスを担当して、この曲を演出している。特に間奏の及川の「Maybe I'm Amazed」に通じるギター・ソロやブレイク後に入る近藤のゴスペル風ハモンドオルガンの響きなど聴きものだ。

 
青野りえ ニューシングル 
「フィナーレを待ちながら」Teaser

 なおこの 「フィナーレを待ちながら」の自主制作CDは、4月29日東京・渋谷gee-geにて開催されるThe Bookmarcs『BLOOM』のレコ発ライブ・イベント「FLY HIGH RECORDS PRESENTS THE BOOKMARCS “BLOOM” RELEASE PARTY」の会場でいち早く販売するので、筆者のレビューを読んで興味をもった音楽ファンは是非会場にも足を運んで手にしてほしい。
◎「フィナーレを待ちながら」配信リンク:こちらをクリック


The Bookmarcs
4thアルバム『BLOOM』
レコ発ライブ4/29(水・祝)
12時〜渋谷gee-ge. にて開催決定

FLY HIGH RECORDS PRESENTS
THE BOOKMARCS
 “BLOOM”RELEASE PARTY

2026年4月29日(水・祝)
会場 : 渋谷gee-ge @shibuyageege
時間 : OPEN 12:00 START 12:30
料金 : 前売り4000円(税込)+1d(700円)
           当日 4500円(税込)+1d(700円)

GUEST MUSICIANS :
KARIMA(Opening Act)
美音子Fujishima
青野りえ
藍田理緒

The Bookmarcs BAND MEMBER :
Drums : 足立浩
Bass : 北村規夫
Key : 佐藤真也

※前売り予約特典として未発表音源CD-Rプレゼント

チケット予約 :


【未発表音源入り限定CD-Rを先行販売】
ニュー・シングル「フィナーレを待ちながら」リリースを記念して、
未発表音源入り限定CD-Rを販売します。
ライブ会場と青野りえの通販サイトのみの限定販売です。

発売日:2026年4月29日
収録曲:「フィナーレを待ちながら」+未発表音源3曲入り(CD-R)
価格:1,000円(税込)
通販:【青野りえのサインCD屋さん】https://aonorie.booth.pm/
東京・渋谷gee-geにて開催される「FLY HIGH RECORDS PRESENTS THE BOOKMARCS “BLOOM” RELEASE PARTY」の会場にて
先行販売します。
青野りえはゲスト出演いたします。


【関 連 記 事】 






◎『TOKYO magic』リリース・インタビュー







◎『Live in Tokyo 2022』レビュー





◎『Rain or Shine』リリース・インタビュー






【青野りえ★プロフィール】
都会的なメロウ感と、無垢な透明感を併せ持つ歌声のシンガー。富山県出身。
1996年、亀渕友香率いるゴスペル・グループ“VOJA”のメンバーとしてデビュー。沖井礼二(TWEEDEES/ex.Cymbals)のソロ・プロジェクト“FROG”にゲスト・ヴォーカルとして参加。 
またコナミ「pop'n music」「beatmania」等のゲーム音楽での歌唱や、資生堂、ユニクロの CMナレーション等、様々なレコーディング、ライヴ、TV、CM で活動している。
2017年、関美彦プロデュースによる1stアルバム『PASTORAL』(ヴィヴィド・サウンド)をリリース。
2022年、同じく関美彦プロデュースによる2ndアルバム『Rain or Shine』(FLY HIGH RECORDS)をリリースし、ジャパニーズAOR/シティ・ポップ・ファンの間で話題に。
さらに2021年にリリースした配信シングル「Never Can Say Goodbye」(洞澤徹プロデュース)が話題となり、2023年11月、3rdアルバム『TOKYO magic』 をFLY HIGH RECORDSからリリース。
2025年6月6日、洞澤徹プロデュースによるデジタル・シングル「恋する惑星」をリリース。
2025年12月5日、藍田理緒のデジタル・シングル「青いカケラ」(作詞:青野りえ/作曲:近藤健太郎)リリース。
そして新たなアルバムが期待される中、2026年5月4日にデジタル・シングル「フィナーレを待ちながら」リリース。
現在、K-MIX(静岡エフエム)の老舗音楽番組「ようこそ夢街名曲堂へ!」にレギュラー出演中。

青野りえOfficial Web Site: http://aonorie.com
X(旧Twitter): @rie_aono
FLY HIGH RECORDS Official Web Site:https://flyhighrecords.hatenablog.com/

(テキスト:ウチタカヒデ