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2025年1月19日日曜日

DAVID PATON:『Communication』


 英国ポップロック最高峰と称されるパイロット(Pilot)のフロントマンでベーシスト、デヴィッド・ペイトン(DAVID PATON)が、約2年振りとなるオリジナル・ニューアルバム『Communication』を1月22日にリリースする。
 2022年5月の日本のポップ・ユニット”SHEEP”とのコラボレーション・アルバム『メロディ・アンド・エコーズ』が記憶に新しいが、ソロ名義のオリジナル・アルバムとしては、2020年11月に個人レーベル“David Paton Songs”からリリースした『2020』以来、約4年振りとなる8作目となった。

 本作では『メロディ・アンド・エコーズ』に続き、SHEEPの堀尾忠司、田中久義との共作の4曲をはじめ、パイロット時代からファンには知られる作風通り、ポール・マッカートニー直系の英国ポップロック然とした本編11曲に、日本独自のボーナストラック2曲の全13曲を収録している。


 改めてデヴィッドのプロフィールに触れるが、1949年10月スコットランドのエジンバラ生まれの彼は、The Beachcombersのメンバーとして1968年にCBSレコードと契約し、同年バンド名をThe Bootsに変え、シングル「The Animal In Me」と「Keep Your Lovelight Burning」をリリースするも70年には解散してしまう。その後初期Bay City Rollersに代理メンバーとして加わるが短期間で脱退し、翌年同様に脱退したビリー・ライオール(キーボーディスト)、更にスチュアート・トッシュ(ドラマー)を加えて73年にパイロットを結成する。 
 彼らはEMIレコードと契約し74年にアラン・パーソンズのプロデュースで、ファースト・アルバム『From the Album of the Same Name』(同年10月)をレコーディングし、2曲目の先行シングル「マジック(Magic)」(同年9月)が全英11位、全米5位を記録し、カナダではゴールドディスクに認定されヒットした。ファーストのレコーディング後サポート・ギタリストのイアン・ベアンソンを正式メンバーに加えて4人組となり、翌75年の『Second Flight』の先行シングルで、デヴィッドが単独でソングライティングした「January」(同年1月)は全英1位となり国内最大のヒットとなった。
 その後オリジナル・メンバーのビリーが76年に脱退したため、サードの『Morin Heights』(76年)では残った3人にサポート・キーボーディストを加え、クイーンの諸作で知られていたロイ・トーマス・ベイカーのプロデュースの元でレコーディングしている。翌77年にはスチュアートも脱退し、デヴィッドとイアンの2人体勢のパイロットは、再びアランのプロデュースで『Two's a Crowd』(77年)をリリースするが同作がラスト・アルバムとなった。デヴィッド、イアン、スチュアートの3名は、アランが75年に結成したアラン・パーソンズ・プロジェクトの準メンバーとして、76年のファースト・アルバムから全盛期の80年前半まで参加し、そちらの活動の方がメインとなったことでパイロットは自然消滅した。

 この様に70年代から80年代を通して、英国ロック界でデヴィッドは大きく貢献してきた。パイロットとしては2002年と2007年にデヴィッドとイアンを中心にリユニオンしており、5thアルバム『Blue Yonder』(2002年)と、企画アルバム『A Pilot Project:A Return to The Alan Parsons Project』(2014年)をリリースしている。2017年以降はデヴィッドのソロ・プロジェクトとして現在も活動を継続している。
 一方イアン・ベアンソンは、長い認知症闘病の末、2023年4月7日に惜しくも69歳で亡くなっている。彼のギター・プレイは、パイロットやアラン・パーソンズ・プロジェクト以外のセッションでも知られており、日本でも有名なケイト・ブッシュの「Wuthering Heights(嵐が丘)」(1978年)のギターソロは、利き腕の右手首を骨折してギブスを付けたままプレイしたという。そんな彼のプレイは、この先も音楽ファンに長く聴き継がれていくだろう。 
 
 左上から時計回りに1stから4thアルバム

 本作『Communication』は既出通り、デヴィッドのソロ名義のオリジナル・アルバムとして、『2020』(2020年11月)以来、約4年振りとなる8作目となった。本国の英国では昨年10月20日にリリースして11曲を収録していたが、今回の邦盤では2曲のボーナストラックを追加して全13曲を収録しているのが嬉しい。
 デヴィッド単独名義のソングライティングは6曲で、SHEEPの田中久義との共作は3曲、同じく堀尾忠司との共作は1曲、また本作に参加したサポート・ドラマーのマーティン・ワイクス(Martin Wykes)、キーボーディストのジョン・ターナー(Jon Turner=John Turner)と各1曲ずつ曲作している。因みにターナーはエンジニアとして、プリファブ・スプラウトのファースト・アルバム『Swoon』(1984年)を手掛けていた。残りの1曲はデヴィッドと同郷のバンドザ・プロクレイマーズ(The Proclaimers)の1988年作「I'm Gonna Be (500 Miles)」のカバーで、選曲的によく練られた構成となっている。
 マルチプレイヤーであるデヴィッドの以外の参加ミュージシャンについては曲ごとに触れていくが、やはり共作者が演奏にも参加するスタイルが多い。ジャケットにも触れるが、セピア色のジャケット両面のショットは、デヴィッドの妻であるメアリー・ペイトンが撮影しているのが微笑ましい。ブックレットにはそんな夫妻の姿も写っている。

'Communication', the new album from David Paton. 
 Available now from pilot-magic.com 

 ここからは収録曲中筆者が気になった主要曲を解説していこう。 
 冒頭に相応しい「Yeah! Yeah! Yeah! Yeah!」は田中久義との共作曲で、原曲は田中がSHEEPの前に結成し、デヴィッドもリードボーカル他で参加した、BEAGLE HATのメジャーデビュー・アルバム『MAGICAL HAT』(2006年)レコーディングの際、デヴィッドが提供した「ON MY WAY」である。アレンジの基本構造は同じだが、ややテンポが早くなって、曲としての完成度も高くなっている。マーティンによるドラムと一部キーボード以外の全楽器をデヴィッドが一人多重録音でプレイしている。年齢を感じさせないデヴィッドのボーカルも健在で、パイロット・ファンも楽しめる。
 続く「All I Need」はデヴィッド単独のソングライティングで、ポール・マッカートニー直系のビートリーな良曲だ。レコーディングにはドラムのマーティンの他、“David Paton Songs”に所属するケニー・ハーバート&ラブ・ホワットの2人が、エレキギターとコーラスで、プロデューサーのデイヴィー・ヴァレンタインがオルガンで参加しており、スコットランドのハートビート・スタジオで撮影された同曲のMVで、参加メンバー達の楽し気な姿を目にすることが出来る。

 
All I Need. david@pilot-magic.com 

「Raindrops」は『メロディ・アンド・エコーズ』から引き続き再収録された堀尾忠司との共作で、尺が僅かに短くなっているが基本アレンジは同じで、ポールの『Ram』(1971年)をこよなく愛するファンは好きになるだろう。デヴィッドはウクレレとベース、キーボードとドラム・プログラミング、堀尾は特徴的なリフを弾くエレキギターとシロフォンの他コーラスも担当している。 
 一転してシリアスな「No Words」はソングライティングとアレンジ、全ての楽器をディッドが一人多重録音すており、コーラスには愛娘のサディが参加している。サウンドのポイントになっているフレットレス・や間奏のギターソロまで巧みにこなす、デヴィッドの器用さには脱帽するばかりだ。
 
 マーティンと共作した「Before I Let Go」は、やはりドラマーということでポリリズムのビートが基調になっていて、サウンド自体もデヴィッドが持つポップス感覚とは異なり、ピーター・ガブリエルなどを彷彿とさせて興味深い。こういった要素をアルバムの中でスパイスにさせているのだろう。
 タイトル曲「Communication」はデヴィッド単独のソングライティングで、所謂英国的なシリアスな曲調で、マーティンのドラム以外はデヴィッドの一人多重録音だ。「Before I Let Go」同様にこういった、80年代を意識したサウンドは、当時聴き込んでいたであろうマーティンがアレンジのアイディアを出しているようだ。
 本編ラストの「I Will Be King」はジョン・ターナーとの共作で、アレンジとキーボード、ドラム・プログラミングはジョンが担当し、デヴィッドは全てのギター、ベースをそれぞれ担当している。シンプルなドラム・トラックのビートと必要最低限の音数で構成されたサウンドをバックにデヴィッドのボーカルが感動的なバラードである。

 日本独自のボーナストラックに触れておこう。 「How can this love survive?」はデヴィッド単独作で、フェイザーが効いたテンポ感のある打ち込み主体サウンドが、本編のカラーが異なるのでオミットされたのかも知れないが、曲としては悪くない。プリファブ・スプラウトの『From Langley Park to Memphis』(1988年)でトーマス・ドルビーがプロデュースした楽曲に通じていて、好きにならずにいられない。 
 続く「I'm gonna be (500 miles)」はThe Proclaimersの1988年作のカバーで、オリジナルはリリースの5年後にジョニー・デップ主演の米映画『ベニー&ジューン(Benny & Joon)』(1993年)で使用されたことで英国外でもリバイバル・ヒットした。 
 ここではデヴィッドの愛娘サディが味わい深いリードボーカルを取り、テンポをかなり落とし、ブルージーなアレンジにモディファイされていて別曲の様な仕上がりになった。ボーナストラックゆえにパーソナル・クレジットがないのだが、ハーモニカのプレイも光っていて素晴らしい。

SADIE PATON

 英国が誇る伝説のロック・ミュージシャンであるデヴィッド・ペイトンの最新作を、パイロットの全盛期から半世紀過ぎた現在もこうして聴けるのは幸運である。筆者のレビューを読んで興味を持った音楽ファンは、是非入手して聴いて欲しい。 



(テキスト:ウチタカヒデ













2022年11月5日土曜日

Don Cooperについて

 近頃フォーキーな音楽が耳に留まることが多くて、前回はDon Crawfordについて書いたけれど、もう1人気になっていたのが70年代前半頃に活動していたカンザス州出身のDon Cooperというシンガーソングライター。フォーク、ジャズ、ソウル、ブルース、ソフトロックなど様々な要素が入り混じりながらも、それらが不自然なく楽曲に心地よく溶けこんでいて、とても味わい深く感じる。


Mad George / Don Cooper
(『Bless The Children』)

 彼は幼い頃にウクレレを弾き始め、そのうちにカントリー音楽に興味をもつようになる。高校生の頃は、James Brown、Buddy Holly、The Beach Boysなどをカントリースタイルで演奏していたらしい。その後、Bob Dylanの1963年のアルバム『The Freewheelin' Bob Dylan』から人生の転機になるほど大きな影響を受けたそうだ。


 4枚のアルバムがニューヨークのRouletteレーベルからリリースされている。

1969年 『Don Cooper』(Roulette – SR-42025)

1970年 『Bless The Children』(Roulette – SR-42046)

1971年 『The Ballad of C.P. Jones』(Roulette – SR-42056)

1973年 『What You Feel Is How You Grow』(Roulette – SR-3009)


 Don Cooperの音楽はRouletteレーベルでのリリースは適切ではなかったとも言われていて、当時商業的にはそれほど成功しなかったそうだ。

 有名ではなかったものの、代表作の2ndアルバム『Bless The Children』は90年代のフリーソウルのシーンで人気が高まった作品らしい。オリジナル曲の他、James Taylorのカバー「Something In The Way She Moves」などが含まれる。タイトル曲の「Bless The Children」は、哀愁に満ちたアルバムの中でグルーヴィさが際立つ曲。


Bless The Children / Don Cooper
(『Bless The Children』)
 

『Bless The Children』のクレジット

Don Cooper(Vocal、Guitar)
Elliott Randall(Guitar)
Terry Plumeri(Bass)
Bobby Notkoff(Fiddle)

 70年代半ばからはRouletteレーベルを離れ、子供向けの音楽やテレビ、映画の音楽を制作するなどの活動をしていて、現在でも継続しているようだ。

【文:西岡利恵

参考・参照サイト


 最後に、私の所属するバンドThe Pen Friend Clubのリリース情報について紹介させてください。結成10年目の8thアルバム『The Pen Friend Club』が、9月7日にCD、サブスクリプションでリリースされました。

 収録曲のうち2曲、「The Sun Is Up」「Beyound The Railroad」のMV、全曲視聴トレーラーも公開中です。
チェックしてみていただけたら嬉しいです。

『The Pen Friend Club』全曲試聴トレーラー

The Sun Is Up / The Pen Friend Club
(Official Music Video)

Beyond The Railroad / The Pen Friend Club
(Official Music Video)



2022年9月30日金曜日

The Courettes:『DAYDREAM / デイドリーム』(なりすレコード/TARGET EARTH RECORDS / NRSP-7103)


 デンマークの男女ロックンロール・ユニット、ザ・コーレッツ(The Courettes)が初来日公演に合わせ、記念した7インチ・シングル『DAYDREAM / デイドリーム(日本語ヴァージョン)』を10月5日にリリースする。


 彼らザ・コーレッツは、2015年にファースト・アルバム『Here We Are The Courettes』でデビューした2人組で、ヴォーカルとギター、ピアノを担当するブラジル出身のフラヴィア(Flávia Couri)と、ドラムとパーカッション類をプレイするデンマーク出身のマーティン(Martin Couri)のクーリ夫妻によるユニットである。
 ファースト以降現在までに『Alive From Tambourine Studios』(2017年)、『We Are The Courettes』(2018年)、『Back In Mono』(2021年)、『Back In Mono (B-Sides & Outtakes)』(2022年5月)と4枚のフルアリバムとミニアルバム1枚をリリースしている。
 日本では今年2月に『Back In Mono』がデビュー盤として発売され、洋楽としては異例のロングセラーになっているという。弊サイト読者なら一目瞭然だと思うが、同アルバムのジャケット・デザインやロゴのカラーリングがThe Ronettesの『...Presenting The Fabulous Ronettes Featuring Veronica』(1964年)のそれを想起させてマニア心をくすぐるのだ。


 同アルバムのサウンドは、それまでのハードなガレージ・ロック路線から、ポップな曲調でリヴァーブを効かせたウォール・オブ・サウンドにモディファイした曲を主体にしたことで、日本のオールディーズや60'sポップス・ファンの心を掴んだだろう。この転換期にキーマンとなったのは、同アルバムの先行シングル「Want You! Like A Cigarette」(2020年)から彼らの共同プロデューサーとなったセーレン・クリステンセン(Soren Oakes Christensen)の存在で、彼はデンマークのブルース・ロックバンド“The Blue Van”のキーボーディストとして2003年から活動していた。セーレンがソングライター兼プレイヤーとして加わったことで、現在のコーレッツ・サウンドが形成されたのは間違いない。
 またアルバムのタイトル通りモノ・ミックスに拘り、なんと日本で作業がおこなわれ、マイクロスターの佐藤清喜が担当しているのだが、これはコーレッツのメンバーが、佐藤がミックス他を手掛けたSOLEILのアルバムを聴いてオファーしてきたのだとのことだ。
 そしてこの『Back In Mono』のヒットを受けて、彼らはこの10月に来日し各地の会場でツアーを敢行するという。

 
The Courettes "Daydream" 

 ここではその初来日公演を記念した7インチ・シングル『DAYDREAM / デイドリーム(日本語ヴァージョン)』を紹介しよう。
 この「DAYDREAM」は『Back In Mono』のアウトテイクで、同日に国内リリースのミニアルバム『Back In Mono (B-Sides & Outtakes)』(HYCA-8041)にも収録されるが、カップリングは同曲の日本語ヴァージョン!という、日本だけのスペシャル仕様となっている。
 タイトル曲はフィレス・サウンドの他、同サウンドを敬愛したジョン・レノンがフィル・スペクターと共に制作した『Rock 'N' Roll』(1975年)にも通じる、マルチトラックでウォール・オブ・サウンドを再現したスケール感のあるバラードで、メロディ・センスやコーラスのリフレインはヨーロッパ~北欧らしさを感じさせる。また特徴あるフラヴィアのヴォーカルはこの壮大なバックトラックに負けない存在感を放っており感動的だ。
 日本語ヴァージョン「デイドリーム」の日本語詞は、デンマーク在住の日系人ヒロ・モンステラ氏が担当し、元々の歌詞を意訳しているのだが、言葉のチョイスが非常にユニークである。このヴァージョンでもやはりフラヴィアのインパクトのある声質により耳に残る。

『Back In Mono (B-Sides & Outtakes)』
 このスペシャル仕様の7インチ・シングルと合わせて『Back In Mono (B-Sides & Outtakes)』もチェックしよう。
 彼らの来日公演ツアーのスケジュールも紹介しておくので、興味を持った音楽ファンは是非足を運んで欲しい。


■The Courettes JAPAN TOUR 2022 スケジュール  
          

★10/4渋谷タワーレコード
インストアイベント ミニライブ&サイン会

★10/5新宿ロフト
出演:The Courettes / The 5.6.7.8’s Opening Act:ザ・ハイマーツ  https://eplus.jp/sf/detail/3697610001-P0030001P021001?P1=1221 

★10/6京都ミューズ
出演:The Courettes / リンダ&マーヤ  https://eplus.jp/sf/detail/3700280001-P0030001P021001?P1=1221 

★10/7難波メレ
出演:The Courettes / KING BROTHERS / KiNGONS
/ 忘れてモーテルズ

★10/8島根ジェットフェス 島根県松江市 古墳の丘古曽志公園
出演:ギターウルフ/ The Courettes/ T字路s / 曾我部恵一 他 

★10/9島根ジェットフェス後夜祭 松江 ライブハウス B1
出演:The Courettes / ザ・ハイマーツ
/ ウルフ★セブンティーン 他


◎『DAYDREAM / デイドリーム(日本語ヴァージョン)』
 予約サイト ●ディスクユニオン: 

ウォール・オブ・サウンド関連・弊サイト選
プレイリスト・サブスク

(テキスト:ウチタカヒデ

2019年7月21日日曜日

名手達のベストプレイ第4回~チャック・レイニー


 70年代を中心にジャンルを超えて、その巧みなベース・プレイでミュージシャンズ・ミュージシャンとして知られるチャック・レイニー。 
 チャックは40年6月17日オハイオ州のクリーブランドで生まれた。クラシックのヴァイオリン、ピアノ、トランぺットの教育を受けたが、バリトンホーン奏者としてテネシー州のレイン大学に奨学生として入学する。
 軍事兵役時代にはギターをマスターし、大学卒業と兵役終了後にはクリーブランドに戻り、地元のバンドでギタリストとしてミュージシャンとしての活動をスタートしたが、後にベーシストへと転向した。
 このように様々な楽器奏者として経験が、彼特有のベース・プレイにフィードバックされていったのではないだろうか。

 その後ニューヨークでセッション・ベーシストとして活動を始め、キング・カーティス、アレサ・フランクリンなどアトランティック・レコードの主要レコーディングを皮切りに、クインシー・ジョーンズ、サム・クック、エタ・ジェイムズなどの著名ジャズ・クリエイター、ソウル・シンガーのレコーディングに参加する。
 評判になったそのベース・プレイはジャンルを超え、アル・クーパー、ローラ・ニーロなど黒人音楽に影響されたシンガーソングライターのレコーディングでもオファーされ、72年のロサンゼルス移住後には、スティーリー・ダンの多くのレコーディング・セッションで重要な役割を果たしたのは読者にはご存じの通りだ。
 これまでにチャックが参加したアルバムは数百以上と言われており、81年にはその功績が認められ、オハイオ州芸術評議会から、厳選された数少ないミュージック・サイドマンとして認可を受けている。

 ここではそんなチャック・レイニー氏を心より敬愛するミュージシャン達と、彼のベストプレイを挙げてその偉業を振り返ってみたい。
因みに今回の参加者8組中6名がベーシストなので、その選曲も玄人好みになったといえるだろう。
 サブスクリプションの試聴プレイリストを聴きながら読んで欲しい。



【チャック・レイニーのベストプレイ5】
●曲目 / ミュージシャン名
(収録アルバムまたはシングル / リリース年度)
◎選出曲についてのコメント 

【invisible manners(平山大介、福山整)】 
平山大介、福山整からなる音楽作家ユニット。 黒人音楽をベースにしながらも独自のアレンジやメロディメイクで様々なアーティストへの楽曲提供を手掛ける。https://invisiblemanners.tumblr.com/


●Get on top / Tim Buckley 
(『Greetings from L.A.』/ 72年)
◎Tim Bucklyがソウルに歩み寄ったアルバム。60’sのロックバンドの残り香も強く感じさせる質感に加えられた独自のファンクネスはDr.Feelgood同様にパンクの出現を予言している感じもするが、Chuck Raineyまでもがそれに応じたフィーリングに溶け込んでいる。
Get on topの遺伝子はGang of fourなどによって受け継がれ現代まで生き続ける。

●Street Walking Woman / Marlena Shaw
(『Who Is This Bitch, Anyway?』/ 74年) 
◎『Who Is This Bitch, Anyway?』を初めて聴く方へ。 冒頭よく分からない会話が続いて曲をスキップしたくなると思うが、3分だけ待とう。
唐突な曲入り、高速ファンクからスウィングビートへのリズム変化、随所に施されたギミックの数々に圧倒される筈。プログレッシブなだけでなくプレイヤーの個性が溢れ出ていて有機的なサウンドに仕上がっているのもこの楽曲の魅力。

●He is the One / Peggy Lee 
(『Let's Love』/ 74年)
◎当時のシンガーソングライター的な叙情性冴える70’sらしいゴスペル曲。 アルバムタイトル曲はThe歌心ベーシスト・ポールマッカートニーだが今回は控え目。代わりとばかりにこの曲でチャックが低音からハイフレットまでベースという楽器を知り尽くした滑らかな歌心を聴かせてくれる。

●PEG / Steely Dan
(『Aja』/ 77年) 
◎スクウェアなボーカルに対し主役級におしゃべりなベース。小節前半のギターとキーボードのユニゾンバッキングに呼応するように小節後半を台詞で埋める。Rick Marottaの裏打ちアクセントハイハット等、隙間なく敷き詰められたリズムの骨子の中で軽快に喋り歌うことが出来るのは正に匠の技。

●I Don't Know / Syreeta
(『One To One』/ 77年)
◎後半に行くにつれボルテージがブチ上がる演奏陣の妙技を堪能出来る楽曲。本アルバムではSyreetaの2番目の夫でベーシストのCurtis Robertson Jr.もベーシストとしてクレジットされているので正確なプレイヤーは定かではないが、Leon WareとSyreeta共作のこの楽曲のソウルマナーはチャックの手によるものと推測。 


I Don't Know / Syreeta 


https://groove-unchant.jimdo.com/


●Woman's Blues / Laura Nyro
(『Eli and the Thirteenth Confessio』/ 68年) 
◎Laura Nyroの高い音楽性を表現するのにChuck Raineyも必要だったと改めて 認識させられた曲。

●A Ray of Hope / The Rascals 
(『Freedom Suite』/ 69年)
◎ベースのグルーヴがこの曲のブルーアイドソウル感を出す一翼を担ってますよね。

●Lansana's Priestess / Donald Byrd
(『Street Lady』/ 73年)
◎Sky High Productionでもいい仕事しています。 ループでず~っと聴いていても飽きません。

●Green Earrings / Steely Dan 
(『The Royal Scam』 / 76年) 
◎Steely Danの曲の中で個人的にベスト5に入る曲。派手な動きは特にないけど、一番影響受けたベースラインかも。

●It's So Obvious That I Love You / Sergio Mendes & Brasil '77
(『Home Cooking』 / 76年)
◎ポップスの中でもChuck Raineyのベースは生き生きしていて、最高のグルーヴを聴かせてくれます。 

It's So Obvious That I Love You / Sergio Mendes & Brasil '77 


小園兼一郎(small garden)
サックス吹きでもありベーシストでもあります。 https://twitter.com/sgs_kozonohttps://smallgardenstudio.jimdo.com/ 



●You've Got a Friend / Roberta Flack 
(『Roberta Flack & Donny Hathaway』 / 72年) 
◎音数の少ないレイドバック気味の前半から後半の16分アプローチの変化が とても自然で心地良く、盛り上げ過ぎない好演です。
チャック参加の全ての曲に言えますが音価の調節に関して右に出るものは いないと思います。

●The Fez / Steely Dan
(『The Royal Scam』 / 76年) 
◎ほぼ固定フレーズの繰り返しであるが「レイドバッカー」としてのチャックの ジャストの演奏が聴けるのはSteely Danだけ(でも絶対に前には出ない)。曲は前半と後半でドラム、ベースの位置がなぜか違うという変わったミックスです。

●Shine Like You Should / Melissa Manchester
(『Don't Cry Out Loud』 / 78年)
◎ジャストビートとシャッフルの中間、絶妙なハネ具合のオブリが満載。 バスドラと合わせる基本形の演奏ながら玄人好みのビート。 チャックのミュート術。

●Green Flower Street / Donald Fagen
(『The Nightfly』/ 82年) 
◎チャックである必要があるのかというビートの曲だが天然のもたり具合を 最大限にソリッドに持っていった曲として有りだと思っています。 オブリやハンマリングは健在なのですがドラムが打ち込みのせいもあって 冷たい印象のチャックということでそれも有りです。

●君がいない / SMAP 
(『SMAP 007 ~ Gold Singer』 / 95年) 
◎バーナード・パーディとJ-popへのアプローチ。音の歯切れ具合は最高です。 要所のフレーズを聴く限り、かなり自由に演奏していると思われるので チャックの魅力が生かされた名演に入れて良いと思います。


Shine Like You Should / Melissa Manchester


【TOMMY (VIVIAN BOYS)】 
オフィシャルサイト: https://twitter.com/VIVIAN_BOYS 



 ●Spanish Twist / The Isley Brothers
 (7”『Twist And Shout』B面/ 62年)
◎Phil Spectorによる「Twist And Shout」初出版を嫌った作者版、のオケ流用。スペクターのスパニッシュ嗜好との因果な曲名。演奏は、後年メロウグルーヴを多産するKing Curtis組やTrade Martinら。

●God Only Knows / Gary McFarland & Co. 
(『Does The Sun Really Shine On The Moon?』/ 68年) 
◎早逝の作・編曲家/ヴィブラフォン奏者のリーダー作、冒頭のThe Beach Boysの屈指曲。自身のSkye Recordsより。収録のチャック作「Three Years Ago」にも注目。

●Most Of All / The Arbors 
(『Featuring: I Can't Quit Her - The Letter』/ 69年) 
◎「Mas Que Nada」で人気だが、チャック参加の本作にもハーモニー・ソフト・サイケの名曲が。1分43秒〜のベースが導く怒涛の昇天ハーモニー。Moonglowsのドゥーワップ曲(55年)が、新たな美しさで再誕。

●Little Girl / Donny Hathaway 
(『Donny Hathaway』/ 71年) 
◎拍最後尾を狙う打点、悠久の白玉、曲想を担うダブルストップ。ダニー絡みならPhil Upchurch『Darkness,Darkness』(Tommy LiPuma、Nick De Caro参加)の「What We Call The Blues」も名演。

●Eloise(First Love)/ The Chuck Rainey Coalition 
(『The Chuck Rainey Coalition』/ 72年) 
◎上述Skye Recordsでのリーダー作より。チャック作曲。69年録音、ニューソウルを遥かに先取る。P-Vine版CDには自ら歌うSteely Dan「Josie」のカヴァー(82年録音)も。 


Most Of All / The Arbors 




【hajimepop】
https://www.hajimepop.com/ 


●Away Away / The Rascals 
(『See』/ 69年)
◎チャックのワン・フィンガー奏法での細かいフレーズは、ラスカルズの作品でも随所で堪能できる。他のセッションより硬質でロック的な音(しかもこの曲はサイケ!)が実に新鮮。

●Until You Come Back to Me /Aretha Franklin
(『Let Me In Your Life』/ 74年)
◎作曲者のスティーヴィー・ワンダー版も素晴らしいけれど、個人的には胸キュンなアレサ版の方が好き。チャックの"語るベース" の不在が大きいのだ。

●I Got Love for You, Ruby / Frankie Valli 
(『Closeup』/ 75年)
◎最近ではあまり聞かれない、美しいメロディをどこまでも展開していくポップスの名曲。歌ものベースのお手本のような素晴らしい演奏だ。

●Wouldn't Matter Where You Are / Minnie Riperton
(『Stay In Love』/ 77年)
◎国内外で盛り上がりを見せる、シティポップの雛形のようなサウンド。チャックをはじめ、各々のパートの圧倒的な演奏で、音楽の魔法が真空パックされたようなトラックだ。

●Bad Weather / Melissa Manchester 
(『Don't Cry Out Loud』78年)
◎大部分のベースをチャックが弾いている、メリサの大傑作から。これはスティーヴィー節全開のシュープリームスのカヴァーだが、管楽器やコーラスなど、本作の特徴であるゴージャスな編曲が堪らない。


Wouldn't Matter Where You Are / Minnie Riperton 


洞澤徹(The Bookmarcs)
https://silentvillage.wixsite.com/horasawa 



●Where is the Love / Roberta Flac & Donny Hathaway 
(『Roberta Flack & Donny Hathaway』 / 72年)
◎軽やかなのに重心がある感じ。2人のソフトな歌い方に寄り添うようなベースのフレー ジングと音色。

●Summer in the City / Quincy Jones
(『You've Got It Bad Girl』 / 73 年)
◎柔らかな音色で朗々と歌い上げるベース。完全に楽曲の中で主役。

●Stick Together / Minnie Riperton
(『Stay in Love』/ 77年)
◎Chuck Rainey の中ではゴリゴリ感が強い。らしい独特なラインがクセになるダンスナ ンバー。

●Dream On / Bill LaBounty
(『Bill LaBounty』/ 82年)
◎このテンポ、切ないコード感とマッチして数あるAORの良曲の中でもすこぶる気持ち良 いタイム感。Jeff PorcaroとChuck Raineyのコンビネーションが、何を上にのっけても 気持ちよくなるくらいに素晴らしいからだろう。

●I Want You / Chuck Rainey/David T. Walker Band
(『Chuck Rainey / David T. Walker Band』/ 94年)
◎Chuck Raineyのベースに呼応するかのようなDavid.Tのギターのオブリガードがいちい ちグッとくる。このベースがなかったら生まれないであろうフレーズの数々。 


Dream On / Bill LaBounty


【松木MAKKIN俊郎(Makkin & the new music stuff / 流線形 etc)】
http://blog.livedoor.jp/soulbass77/


● Think About It / Len Novy  
(『No Explanations』/1969年) 
◎まず自分内ルールでソウル/ジャズ系を選外としたことをお断りしておきます。これは一発目のボン!という重たい響きから、全体をコード弾きで彩った浮遊感ある演奏へ。 60年代フォークシンガーの作品とは思えない先進性に舌を巻く。

Djinji / Hirth Martinez 
(『Hirth From Earth』/1975年) 
◎ミュートの効いた音色にワンフィンガーピッキングのニュアンス。3度へのアプローチや繊細なヴィブラート。ソウルベースの何たるかを語り尽くす。

 You Make Me Feel Like Dancing / Leo Sayer
(『Endless Flight』/1976年) 
◎ここにチャックを連れてきた人選の妙。シンプルだが、まさに踊るかのような演奏。楽曲を表現した演奏というより、まるでチャック・レイニー讃歌のようにも聴こえる。堂々の全米No.1ヒット。

Yes I Do / Laura Allan 
 (『 Laura Allan 』/1978年) 
◎シンプルな楽曲と編成だからこそ、メロディやビートに対するチャックのアプローチの基本形がしっかりと残されているという、実は貴重なテイク。教科書のように完璧なラインだが、そのサウンドは決して真似できない。

Marina Del Rey / Marc Jordan 
(『Mannequin』/1978年) 
◎ツボを心得た演奏…と言うとありきたり過ぎるが、まさにツボと言うツボをひたすら押してくるような演奏。歌うようなラインに、音の切り方、ゴーストノート。スチールパンの音色と相俟って夢心地に誘う。


Marc Jordan / Marina Del Rey 


ウチタカヒデ(WebVANDA管理人)】 

●See / The Rascals 
(『See』/ 69年)
◎ヤング・ラスカルズ時代からセッションマンとしてレコーディングに参加していたが、この曲はフェリックス・キャヴァリエのワンマン・バンド化した末期アルバムのサイケデリック・ソウルな先行シングルだ。手数が多いながらもハーモニーを邪魔しないチャックらしいプレイが聴ける。

●Now Is The Time / The Free Design
(『Heaven/Earth』/ 69年)
◎高度で複雑なコーラス・ワークでソフトロック・ファンには特別な存在である、クリス率いるデドリック兄弟のグループのサード・アルバムを代表する1曲。東海岸の技巧派ジャズ・プレイヤーが多く参加した中で、チャックの有機的なベース・プレイはサウンドの中で素晴らしく機能している。

●Kid Charlemagne / Steely Dan
(『The Royal Scam』/ 76年)
◎チャックの名を上げた説明不要な名演中の一曲。グルーヴのトリガーはバーナード・パーディのラテンファンク・スタイルのドラミングだが、トニック~5度~トニックを繰り返すチャックのベースラインが、えも言えぬ快感を生んでいる。このアルバムでのパーディとのリズム隊はいずれも国宝級の名演だ。

●Sweet Sadie The Savior / Patti Austin
(『End Of A Rainbow』/ 76年)
◎スティーヴ・ガッド、エリック・ゲイル、リチャード・ティーというスタッフのメンバー達にチャックが加わったリズム・セクションの名演。特に3分08秒からの所謂スタッフ・スイングするパートからは、ゴードン・エドワーズには出せない緻密なグルーヴの核となっている。

●Some People Can Do What They Like / Robert Palmer
(『Some People Can Do What They Like』/ 76年)
◎ミーターズやリトル・フィートにバッキングをオファーし独自のファンク・サウンドを追求した英国ブルーアイドソウル・シンガーの3作目のタイトル曲。ハイハット・ワークからジェフ・ポーカロだろうか?それに呼応し激しくシンコペートするチャックのプレイがとにかく白眉である。


Sweet Sadie The Savior / Patti Austin



(企画 / 編集:ウチタカヒデ

2017年1月29日日曜日

☆実川俊晴:『TOSHIHARU JITSUKAWA POP SONGS 1979-2016』(クリンク/CRCD5137-38)


実川俊晴と言うミュージシャンの名前を知らなくても誰でも『キテレツ大百科』の「はじめてのチュウ」は知っている。ただ「あんしんパパ」のクレジットで「帰ってきたヨッパライ」のような処理の声なので、彼は日本でもトップクラスのハイトーンの美しいヴォーカルを持ち、ファルセットは日本でもまさにトップといってもいい声を持つ凄いヴォーカリストであること、そしてポップセンスに溢れる曲を作詞・作曲できる、日本のブルース・ジョンストンのような存在であることをほとんど知らない。彼の少ないソロでのリリース曲は全て未CD化のまま、これは日本のポップ・ミュージックを知るうえで大きな損失だ。本CDは実川俊名義で1979年にSMSレコードでリリースしたアルバムと、1982年にTOSHIHARU名義でバウハウス(キング)からリリースした4枚のシングルを全て網羅しており、全曲が実川の作詞・作曲で、その類まれなポップセンスと美しいヴォーカルに驚かされるだろう。ディスク2はデモ集でこれも大半が初登場だ。実川の音楽歴は長く、1969年にマミローズ、1970年にハローハピーのドラム&ヴォーカルでデビュー、19721975年にはマギー・メイを結成、リーダー兼ヴォーカリストとして2枚のアルバムなど発表し、これらの音源はみな同じクリンクレコードからマギー・メイ『12時のむこうに アンソロジー1969-1975』としてリリースされた。本CDは実川俊晴のその後のソロとしての活動を集めたCDだ。先のCDではバンドとしてフロントに立っていたが、本CDでソロ活動を始めてからは、ほとんどのテレビ主演を断り、ジャケットでも顔を伏せ、ライブも行わず、レコーディング・アーティストとしての姿勢を徹底した。そのため本CDこそ、幻の、しかし実川俊晴のエッセンスが凝縮された作品と言えるだろう。

ではまずはソロとしてリリースされた音源を集めたディスク1から。最初はSMS1979年のアルバム『ふりむけば50億』から。実川がビートルズと同じくらいパイロットが好きだったという事を実証してくれるのが「愛してスーパー・スター」で、冒頭のアルペジオのエレキなんてまさに「Call Me Round」、メリハリの効いたポップなメロディとハーモニー、ハンドクラップ、文句なしでアルバムのベストソングだ。「博士の浮気」も三連符のピアノに載せたアップテンポのポップなメロディがパイロット風で、途中のア・カペラ・パートが光る。ただ最後がどんどんテンポアップして終わるのはもったいない。「アンニュイ」の歌いだしはタイトルのように歌もサンドもアンニュイだが、サビでは転調しながらミシェル・ポルナレフばりの素晴らしいファルセットで酔わせてくれる。こんなきれいなファルセットは大滝詠一、山下達郎も真似ができないレベル。本当に凄い。タイトルはふざけた曲のように見える「お殿様感傷旅行」はミディアムの素晴らしいバラードで、この曲もサビに見事なハーモニーがあり、リードは一部、電気処理している。オールドタイミーなバラードも得意で「とび始めた天使(エンジェル)」はリード・ヴォーカルとバック・コーラスのからみが最高で、アコースティックなサウンドが曲を生かしている。さらにアコースティックなサンドのバラードが「三時のホットケーキ」で、メロディの良さもあって実川のリード・ヴォーカルがいかに素晴らしい声質なのか実感させられる。ブリッジ以降はやはり素晴らしいハーモニーが登場、最後にはフランキー・ヴァリのようなハーモニーが聴ける。オールド・タイミーな「刑事(デカ)とホステス」ではコーラスの回転数を変えていて、この遊び心が後の「はじめてのチュウ」へつながるのでは。ディスコ・サウンド以降のビー・ジーズのようなハーモニーが楽しめるのは「遅刻の気分」だ。日本的なメロディとラテンビートが融合した「暗殺研究所」だが、実川らしいハーモニーのセンスが感じられる。シングルカットされた「鬼にかえろう」は日本的なエッセンスの入ったロックで、メロディもマイナー調、いい曲なのだが、日本の市場に寄り添ったか。B面の「プリティ・ボス」もマイナー調のロック・チューンで、この曲も曲の展開やハーモニーに聴くべきものがあるが、もっとポップな曲で勝負した方が良かった。

3年後の1982年にTOSHIHARUの名前で再度ソロで勝負するがシングル4枚でアルバムは出なかった。ファースト・シングルは「ラストソングはI Love You」はやはりマイナー調の日本的なポップ・ソングであまり光るものがない。B面のアコースティック・ギターだけのバッキングの「この夏には…」は中間にサイモン&ガーファンクルの「Bookend」のようなサビがあってこちらの方が魅力的。セカンド・シングル「クイーン・オブ・アイランド」はやっと実川のセンスを表に出してくれた傑作で、実川の美しいヴォーカルから始まりすぐにファルセットの見事なハーモニーで彩られる見事なポップ・チューン。B面の「ヤシの木陰にて」はウクレレだけのバッキングのバラード。リード・ヴォーカルを少し電気処理するのは実川らしい。幾重にもハーモニーが重なるのでウクレレだけの事を忘れる美しい佳曲だ。サード・シングル「た・け・し」はタイトルからは想像もできないフランキー・ヴァリも驚くほどの素晴らしいファルセットを挟み込んだ美しいバラード。B面の「うたかたの恋」はオールド・タイミーな雰囲気のロッカバラード風の曲で、相変わらずハーモニーも見事で、こちらがA面でも問題の無いクオリティ。最後のシングル「Angel~夢は1999~」はモータウンのようなベースで導かれて始まるポップ・チューンで、このサウンドも心地いい。B面の「あの娘にカナシバリ」はホンキートンクのピアノから始まるオールドタイミーな曲で、サウンドとハーモニーなど、実川のソロの最後にふさわしい曲だった。

ディスク2は作曲家に転身した実川のデモ集だ。まずは1980年のTV『のってシーベンチャー』ED曲用デモ4曲でまず明るくポップな「The Bubblegum Dancing Team」、同じ路線でややテンポが遅い「異次元の私」、レゲエ・タッチの「最後の楽園」、そして実川が好きと言うビー・ジーズの影響を感じる「そっとテレポーテーション」は、頭が「Melody Fair」そっくりで、この曲のみ私たちの好きな時代のビー・ジーズの影響だ。1985年の「愛は陽炎」はソウル風の曲だなと思って聴いていたら、ライナーを読むとデルフォニックスを意識したそうでやっぱり。1986年の松尾久美子に提供した「かすみ草 」は、歌謡タッチ全開のすぎやまこういちあたりが書きそうな曲。1987年の藤田淑子が歌ったTV『キテレツ大百科』ED用デモは、オールディーズ調。1989年に中学2年の女子3人のグループで実川がフォー・シーズンズの曲から名前を付けたRagdollというグループのデモ「恋のチャプター4」は、フォーシーズンズ・サウンドではないが60sのガールグループ風でいいアプローチだったが未発表で終わる。1991年のマキという女性ユニットMaJishのデモ「December in the Rain」はディスク2の曲の中で歌の上手さ、メロディの美しさで最も出来がいい傑作だがこれも未発表。同年の「放課後のサブリナ」は実川がのちに「あんしんパパ」名義で『安心パパストーリー』で発表した曲のデモ。ディスク1のTOSHIHARUの曲を彷彿とさせるミディアムの心地よいポップナンバー。1992年に嶋田トオルのシングル「I Love You」に提供した「WINTER ROSE」のデモは、心地いい曲だが、A面と言うクオリティではない。同年のOrika名義のデモ「おフロに入ろう」はポップで軽快なチューンだったが、未発表。1993年に今はあの人は誰?のクイズ問題に出てきそうなあのぜんじろうに書いたデモ「影の4番打者」はアルバム収録曲だったのでそのレベル。ちょっと戻るが実川の代表曲で1990年の『キテレツ大百科』のTVサイズの「はじめてのチュウ」はこれが初CD化。先の『あんしんパパストーリー』に収録されていたものの出来に納得できず2006年に再録音したオールドタイミーな「Wedding Bellはシャッフルで」と、20152016年に録音した3曲も収録された。なお冒頭の2010年録音の「はじめてのチュウ」のアコギ弾き語りヴァージョンは、作曲した時に極めて近いものだとか。最後のビートルズのカバーで知られる「Baby It’s You」は、実川がマギー・メイでデビューする前の1971年のライブという貴重音源である。なおこの実川俊晴のワークスや、先日のガロのマークこと堀内護のソロをリイシューしてくれているのは高木龍太氏で、その素晴らしい仕事に改めて感謝したい。(佐野邦彦)


*実川俊晴の情報はこちらまで(現状、販売元直営の芽瑠璃堂、あとはタワー、HMV、ディスクユニオンは確実に通販可能)



2016年12月4日日曜日

Diane Renay:『Navy Blue』 (Universal Music / UICY-15577)


 フォー・シーズンズの黄金期を支えた名プロデューサー、ボブ・クルーが手掛けた女性歌手で最も成功を収めたダイアン・リネイ。彼女の唯一のオリジナル・アルバムとされる『Navy Blue』(64年)が国内初CDリイシューされた。
 嬉しいことに今回のリマスター盤は本年度最新で、全収録12曲のステレオとモノ・ミックスに3曲のボーナス・トラックが付き、しかもSHM-CDの高音質仕様ということで文句なしのリイシューである。
 因みにこのアルバム『Navy Blue』は、98年に米Collectables RecordsからCD化されていたが、現在は中古市場で高騰しているのでやや入手困難であり、昨年自主レーベルのオールデイズ・レコードから紙ジャケでリイシューされたので既に手にしたコレクターもいると思うが、高音質やミックス違いに拘りたいポップス・マニアには本盤をお勧めしたい。

 ダイアン・リネイのプロフィールについては付属の解説に詳しいので少し省略するが、45年ペンシルバニア州南フィラデルフィア生まれ。62年にアトコ・レコード(アトランティック・レコード系列)のプロデューサー兼ソングライターのピート・デ・アンジェリスに認められ、シングル「Little White Lies」でデビューするがチャート的には振るわなかった。翌63年セカンド・シングル「Tender」をボブ・クルーが手掛けたことが転機となり、同年20世紀フォックスへ移籍する。
 そして再びクルーの元、シンガーソングライターのエディ・ランボーにバド・レハークを加えた3名の共作とチャーリー・カレロのアレンジで制作されたのが、本アルバムのタイトル曲となるシングル「Navy Blue」なのである。
 この曲は64年の全米チャートで6位の大ヒットとなり、続く「Kiss Me, Sailor」も同29位のスマッシュ・ヒットを記録する。このダブル・ヒットの経緯から本アルバムが誕生するわけだ。

 かの大滝詠一氏もフェイバリット・アルバムの1枚に挙げていただけに、多くのフォロワーやポップス・マニアは聴かない訳にはいかないと思う。
 おりしも05年の初演後ロングラン・ヒットしたミュージカル『ジャージー・ボーイズ』は、14年に名匠クリント・イーストウッド監督の手で映画化され、一気にフォー・シーズンズが再注目される。 またその年の初頭には御大フランキー・ヴァリが初来日公演を果たす。蛇足だが筆者は日比谷公会堂で湯川れい子先生や亀昭信氏のほぼ後列という良席で素晴らしいステージを堪能した。
 思えば日本においてフォー・シーズンズ・サウンドは、大滝氏や山下達郎氏の楽曲やラジオ・プログラムを通じて、多くのポップス・ファンの心に植え付けられたと感じる。

 『Navy Blue』はそんなポップス・ファンにとって打って付けのアルバムなのだ。 このような名盤ゆえ、僭越ではあるが筆者なりに主な収録曲を解説していきたい。
 冒頭の「Kiss Me, Sailor」は前出の通り、64年に全米29位となったエディ・ランボウとバド・リハックのソングライティングによる作品だ。ノンクレジットながらボブ・クルー・プロダクションではお馴染みのミュージシャンが参加していると思われるが、バディー・サルツマンのプレイらしきスネアからタムを連打するフィルのアクセントが印象的だ。
 また熱心なナイアガラーにはよく知られているが、イントロから繋がるサビ(この曲はヴァースより先にサビから始まる)のパートは、松田聖子の「風立ちぬ」(81年・作詞:松本隆/作曲:大瀧詠一)でオマージュされているのがよく分かる。
 当然ながらモノ・ミックスは定位の関係で、ヴォーカルに対してホーンとコーラスの音量レベルを高く感じるが、リネイのパンチの効いた歌声の醍醐味はモノに軍配が上がる。


   
 続く「Soft - Spoken Guy」、こういうセンシティヴなマナーを持った曲がヒット・ソングの次に控えていることにこのアルバムの価値を見出せる。フィメール・コーラスのスタイルなど後のダスティ・スプリングフィールドにも通じるブルーアイドソウル感が堪らない。クルーとエディ・ランボウにリハックの共作によるこの曲、導入部の印象的なヴィブラフォン(エレピ?)はデイヴ・カレイのプレイだろうか。
 ハンドクラップとシェイカーが8分で刻まれる「Please Forget Me」は、典型的なフォー・シーズンズ・サウンドであるが、サビからの展開がベン・E・キングの「Stand By Me」(61年)にも通じる普遍性を感じさせる。ステレオ・ミックスの左チャンネルでイントロから聴ける印象的なエレキ・ギターはヴィニー・ベルだろう。
 唯一カレロがアレンジにタッチしていない「Hello Heartaches」は、クルーとシド・ベースの共作でベースがアレンジも手掛けている典型的なハチロクのガール・ポップである。

 そしてタイトル曲で全米6位の先行シングル曲「Navy Blue」だが、この曲もフォー・シーズンズ・サウンドの流れを感じさせる。余談だが歌詞には海軍の水兵である彼氏から東京消印の手紙とお土産が届いたと出てくる。そのお土産はしゃべるチャイナドールということで、中華街を経由して東京へアクセスすることが可能な横須賀基地に勤務という設定なのかも知れない。
 オブリガートや間奏で聴けるクラヴィオライン(後にビートルズの「Baby, You're A Rich Man」(67年)でも聞ける初期アナログ・シンセ)は、フォー・シーズンズの「Little Angel」(65年)でも似たトーンを耳にすることが出来るが、ボブ・クルー・プロダクション・セッションの常連キーボーディストで後にHot Butterにも参加するスタン・フリーのプレイだろうか。
 日本ではダニー飯田とパラダイス・キング(フューチャリング九重佑三子)や伊東ゆかり、浅田美代子までがカバーしており、パラキンと浅田ヴァージョンの訳詞は漣健児、伊東ヴァージョンは安井かずみがそれぞれ担当している。

     

 アルバム後半には、ザ・シュレルズが61年にリリースして翌62年に全米1位となった「Soldier Boy」のカバーをしている。原曲はカントリー風味のスローなドゥーワップだが、ここでのアレンジは「Dawn (Go Away)」(64年)を思わせるドラマティックな展開で原曲より魅力あるサウンドに仕上げている。さすがチャーリー・カレロのいい仕事というしかない。リネイの表現力も素晴らしいの一言に尽きる。
 その「Dawn (Go Away)」や「Let's Hang On!」等多くのフォー・シーズンズ・ナンバーを手掛け、デニー・ランデルとのコンビで知られるサンディー・リンザーとクルーの共作による「He Promised Me Forevermore」はアレンジ的にも面白い。
 古いディズニー映画のサントラを思わせる仕掛けがちりばめられていて飽きさせず、カレロの音楽的引き出しを垣間見られて興味深い。

 ボーナス・トラックは『Navy Blue』後にリリースされたシングル「Growin' Up Too Fast」(64年)、「Waitin' For Joey」(64年、「Growin' Up Too Fast」のB面)、「It's In Your Hands」(64年)の3曲を収録している。 「Growin' Up Too Fast」はフォー・シーズンズの音楽的リーダーであるボブ・ゴーディオとクルーの共作で、アレンジ的にもチューブラーベルでメンデルスゾーンの「結婚行進曲」を引用してカレロのセンスを感じさせるがヒットに結びつかなかった。
 続く「It's In Your Hands」もマーケットを意識したカントリー風味のロッカバラードだがヒットせず、リネイのよさも引き出されていないようで残念だ。
 ともあれアルバム『Navy Blue』が、半世紀以上過ぎた今でも聴き継がれるべきガール・ポップのクラシックであることを心より信じている。興味を持ったWebVANDA読者やポップス・ファンは是非入手して聴いて欲しいと願うばかりだ。

(テキスト:ウチタカヒデ

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2016年11月29日火曜日

☆『冨田勲 手塚治虫作品 音楽選集』(日本コロムビア/COCX39821-5)5CD ☆『冨田勲映画音楽の世界』(松竹レコード/SOST3025)


CD5枚組の『冨田勲 手塚治虫作品 音楽選集』はおススメだ。作品や曲のセレクションに少しクエスチョンマークはあるが、90点あげてもいい。というのも私は昔から「シンセサイザー時代より前の子供番組の曲を作っていた冨田勲」の熱烈なファンだからだ。宮崎駿らのアニメーションが好きな自分は、マンガと180度逆でアニメの手塚治虫にはまったく興味がないのだが、冨田は手塚アニメの音楽を多く担当しているので、自分の冨田コレクションに手塚作品は多い。こうして音だけあればいいのでDVDは不要で大変助かる。この時代の冨田作品は今のなお、他を寄せ付けないハイセンスで優美、荘厳、そして高揚感のある曲が作れる第一人者だった。山下毅雄、宇野誠一郎という日本のトップ3の作曲家の中でこの時代の冨田はずば抜けている。私はこの時代の冨田の音楽は全てコレクションしているので、本ボックスの素晴らしい点と惜しい点がよく分かるのでそこを紹介しよう。もちろん素晴らしい点の方が遥かに多い事は保障する。CD5枚組。ディスク1は『ジャングル大帝』。冒頭はあの平野忠彦(シングルは三浦弘名義)による壮大なオープニングテーマ。放送は1965年、日本最初のカラーTVアニメで、家に届いた、まだ珍しい(1968年でも普及率4.4%。ただし1971年には85.8%と急増)到着したカラーテレビで、「ジャングル大帝」のオープニングを見た時の感激は覚えている。この頃のカラーテレビは相当な高額だったが、それだけのお金を払ってもカラーでTVを見たい!という気持ちを大きく助長したのがこの『ジャングル大帝』だったという。知らない方に話しておきたいのはこの『ジャングル大帝』と『リボンの騎士』は、マンガで超売れっ子だった手塚治虫が、自分のマンガの儲けをアニメーション作りに回して、その潤沢な資金で、TVシリーズなのにフィルムを先にアップしてそれを見ながら冨田勲がその都度曲を作って録音するという贅沢な方法で作られたことだ。クラシック好きの手塚は、壮大なスケール感のある冨田を高くかっていて多くのアニメの音楽を冨田に依頼した。手塚の虫プロダクションが満を持して制作したカラーTVシリーズの第1弾第2弾はこうして冨田にまかされ、その期待をはるかに超える音楽を作った。

ディスク1のジャングル大帝の音楽は、その当時LPが出て後にCD化された、リレコされた『ジャングル大帝ヒットパレード』というアルバムがあったがTVシリーズの音楽とは雰囲気が大きく違ってこれを除外したのは正解だ。ようやく当時の曲を集めたのが1998年の『懐かしのミュージッククリップ35ジャングル大帝』(東芝EMI)で、歌の入った部分の曲が22曲(「ジャングル大帝進めレオ」のタイトル曲含む)収められた。そして2007年にCD4枚組の『ジャングル大帝』(Emotion)では先のミュージッククリップの内容を含みつつ(2曲少ないが、別の2曲が入った。歌は21曲)遂に当時のBGM88曲を中心に109曲が収録されたが、冨田勲がこの頃の音質が満足いくものではないということで回収騒ぎとなり一部にしか出回らなかった。それで今度のディスク1は60曲、内歌が入っているものは既発表の12曲でBGMが中心、ようやく万人に『ジャングル大帝』のBGMの素晴らしさを誰でも味わってもらうことができた。この48曲のBGMは、先のCD4枚組のBGM88曲とダブりがたった2曲!特に「きちがい雲」3曲、「さすらいの死神」7曲は本作のみで、美しいバイオリン中心のストリングスで彩られる曲や、冨田の真骨頂の金管楽器が響く曲など、素晴らしい曲ばかりを堪能できた。おしむらくは、この『ジャングル大帝』と『リボンの騎士』のテーマソングは、TVサントラとは別ヴァージョンのフルコーラスだが、演奏の緻密さはこのレコード・ヴァージョンが群を抜いていいので、他のCDで聴けるとはいえ収録してほしかった。またミュージッククリップ収録の挿入歌で落ちた弘田三枝子が歌う「たまごの赤ちゃん」は美しいメロディと優しい歌声の名作なのでこれは落とすべきではなかった。続けて放送された「ジャングル大帝進めレオ」のBGMは初収録で貴重でありここに記すことにする。「大草原の対決」6曲のうち進めレオのフレーズも一部入れた荘厳なM-13M-14、「月光石の秘密」1曲のあとは「密猟者の森」2曲で勇壮なM-1,M-4が光る。「石のとりで」2曲のうちM-7は心惹かれるパートがあり。6曲の「王城に陽は昇る」はM-14が金管のメロディが光っていていい出来だった。ただこの主題歌は三木鶏郎が担当したが壮大なオープニングは冨田のアレンジで、ミュージッククリップには2ヴァージョン入っていたがここには収録されず。

ディスク2は嬉しい1967年『リボンの騎士』のほぼ初といってもいいBGM集。昔1997年に『懐かしのミュージッククリップ28リボンの騎士』で31曲収録、歌が入ったものが12曲で残りはBGM、しかしセリフが入っているものもあった。今回はディスク2全部とディスク56曲で計72曲収録、主題歌「リボンの騎士」のインスト版と歌入り王女編、「リボンのマーチ」のTVサイズはダブったが、王女編インストルメンタルは初収録、「リボンのマーチ」もTVサイズの別ヴァージョンが加わった。BGMでコーラス付3曲があったが、ミュージッククリップの挿入歌の「囚人のうた」「チンクのうた」「使用人たちのうた」「うれしいたいかん式」「王子入場」「サファイヤのうた」「リボンの騎士はチャンピオン」とTVで使われたセリフ入りの王子編歌入り「リボンの騎士」とTVサイズより30秒長い(しかしレコードよりは1分短い)「リボンのマーチ」の9曲は落ちた。特にスティールギターを使った愛らしい「チンクのうた」は傑作だったので惜しい。さてBGM68曲もあり壮大な「王子と天使M-4‘’」と美しいワルツを使った「踊れフランツM-4」、そして本作のハイライトBGMであるサファイヤとフランツがカーニバルで踊るときのバイオリンによるあまりに甘く美しいワルツの「サファイヤのカーニバルM-7」、王宮の宮廷音楽のように華麗な「サファイヤのカーニバルM-10」はBGMのレベルをはるかに超え、まさにクラシック。楽しいカーニバル音楽「サファイヤのカーニバルM-13M-13‘」、あのワルツをさらにゆったりと演奏した「サファイヤのカーニバルM-15」も後半が素晴らしい。牧歌的でストリングスが美しい「七匹の仔やぎM-15」、BGMの中に華麗さがちらつく「王様バンザイ!!M-6」と荘厳な「王様バンザイ!!M-21」、前述のワルツをアレンジした美しい「燃えるシルバーランドM-14」、後半の新しいワルツが魅力的な「シルバーランド幸せにM-2’」、バイオリンの高音の旋律に心を奪われる「シルバーランド幸せにM-2’’」、後半が荘厳でかつワルツのメロディも使った「シルバーランド幸せにM-10」、まるで「キエフの大門」かのような荘厳な「シルバーランド幸せにM-11’」と名曲BGMがズラリ。ディスク5ではアコーディオンがフランスをイメージさせる美しい「ふしぎなカガミ」、壮大なイメージの「おちゃめなテッピーM-18」が光る。ここで手塚作品での冨田は頂点を迎えた。

ディスク3は初登場の手塚アニメの快作1969年「どろろ」のBGM集なんと68曲。コアな手塚ファン、そして映画音楽まで好きなコアな冨田ファンにはここは一番待ち望んだディスクだろう。マンガは手妻作品の中でもベスト5に入れる大好きな作品だ。これをアニメで表現するとビワの音と低い男性コーラスのハミングで、応仁の乱で乱れた世の中、妖怪と戦って妖怪に奪われた自分の体を取り戻していく百鬼丸を描こうとすればこういう重く陰鬱なサウンドのBGMになるのは当然の帰結であり、こういう曲は冨田が映画音楽で得意とするサウンドである。しかし私は残念ながらこの手の曲はあまり好きではない。コミカルながら歌の裏のコーラスがその異様な世界に誘ってくれる主題歌の「どろろ」は大好きだが。その中、美しいメロディを持つ「みおの章2M-78」、「ばんもんの章2M-79」、哀愁漂う「どろろの歌ヴァリエーション3M-28T2」、浮き浮き感もある「二人旅の章3M-5T5」、日本的な哀調を帯びたメロディが美しい「妖怪かじりんこんの章 3M-1」、どろろの主題歌をスローなインストにした「妖馬みどろの章 3M-30 T2」が個人的には気に入っている。メインテーマは「メインテーマ2 (百鬼丸のテーマ) (1M-1 T2)」の方が重々しさがあって雰囲気が出ているが、この作りはまさに後述の時代劇の映画音楽の冨田そのもの。ディスク5にもパイロット版用BGM6曲と葵交彦が歌う「百鬼丸の歌(別ヴァージョン)」があり後者はどこが違うか聴き比べたがイントロでレコード版は13秒過ぎにコーラスが入って21秒から始まるのに対してこの別ヴァージョンは13秒から歌が始まっていた。

ディスク4は映画1969年の『千夜一夜物語』のサントラだ。当時、この映画はサントラ盤LPが出ていたが、12曲中A2曲目の「アルディンのテーマ」のオリジナル・ヴァージョンではなく別ヴァージョンが収録されたが、もう1曲を除いて他は全曲収録された。入れなかった理由はレコード用のマスターが見つからなかったというが、盤おこしをすればいいだけで、本ディスクではマスターでも盤おこし以下の音質のものもあり、こういう変なこだわりは迷惑だけという事が分かっていない。14曲がヘルプフル・ソウル、1曲はヘルプフル・ソウル+フール・サンズ、フール・サンズは24曲で39曲の構成だ。ヘルプフル・ソウルはあのチャーリイ・コーセイ(宮崎駿・大塚康生・高畑勲の名作『旧ルパン三世』のオープニング・エンディングを歌ったヴォーカリスト)がいた伝説のブルース・ロック・バンドで、冨田に気に入られ本アルバムは8曲とアルバムのメイン、そしてオリジナル・アルバム1枚をリリースしてたった2年で解散した。冨田色が出るのはフール・サンズ(オーケストラ)が担当した曲で、アラビアン・ナイトの世界を彷彿とさせるエキゾチックで荘厳な「メイン・タイトル」「エンド・タイトル」、用いられたのは濡れ場のシーンだが、美しいバイオリンによる「魅惑の夜」とコーラスが入った「いとしのミリアム」がアルバム曲ではいい。ただし今回マスターで収録された映画用の「ミリアムのテーマ」の方が、後半がストリングスで出来は上。ミリアムの娘のジャリスの曲は3曲あるが、対位法のコーラスが耳障りなので初音盤化の短いシンプルな「ジャリスの竪琴」がベスト。ヘルプフル・ソウルの曲は「アルディンのテーマ」のようなベースのリフガカッコいい曲が多いがアルバム曲の「モーレツ男」は歌の入ったVocal Mix Versionに変えられているのでこれも注意。余談だが、この映画は1969年でこの年にヘルプフル・ソウルは解散したが、翌1970年に大阪万博の東芝IHI館のための曲で、非売品EPで作られた12分の大作「東芝IHI館グローバル・ビジョンのためのマルチプル・サウンズ」には壮大なフール・サウンズ・オーケストラの演奏の後、六文銭の演奏、そして中盤からチャーリー・コーセイ(当時はチェイ光星と名乗っていた)の歌が入ったバンド演奏で、この大作がCD化されないのはあまりに惜しい。

ディスク5はまず1962年東映動画長編アニメーションの『アラビアン・ナイト シンドバッドの冒険』から4曲入っているが、これは1996年リリースの『東映動画長編アニメ音楽大全集』に23曲入っていてそこからのセレクション。エキゾチックで転調が見事な「サミール姫のうた」がないのは納得いかない。この10枚組の『東映動画長編アニメ音楽大全集』には、まず宮崎駿・高畑勲・大塚康生の3人が初めて中心になって作った1968年の日本アニメーション史上に輝く最高傑作『太陽の王子ホルスの大冒険』、この作品のヒルダを描いた森康二の奇跡のアニメーションが見どころで間宮芳生の一世一代の音楽の美しい音楽のもほぼ全体が収録されていた。さらに宮崎駿がアイデアの中心の担い森康二が作画監督を担当した傑作1969年の『長靴をはいた猫』と1971年の『どうぶつ宝島』、さらに森康二が中心となり大塚康生、月岡貞夫が持てる力を発揮、音楽が伊福部昭という1962年の『わんぱく王子の大蛇退治』という東映動画長編アニメーション4大作品を含む全ての音楽が収録された最重要CDボックスだったが、長く廃盤なのがあまりに惜しい。本ボックスには冨田が音楽を担当した1965年の『ガリバーの宇宙旅行』のBGMも入っていてこちらの方が魅力的な曲を書いていたが、坂本九が主人公で歌を歌っていたからか一切歌が入っていないセレクトだった。ほとんどの作品はTVサイズ&劇場サイズの方が耳に馴染んでいるし出来もいいのだが、冨田の場合タイトル曲はシングルになるので気合が違うというか、レコード用のヴァージョンの方がステレオで広がりがあって出来がずっと良かった。『ジャングル大帝』『リボンの騎士』がそうであったように、この主題歌の「ガリバー号マーチ」もレコード・ヴァージョンの方がはるかに上(ただし気合が入っているのはA面のみ。必ずTV・劇場と同じ歌い手を使うのがポイント)で、1991年の『オリジナルアニメ原盤によるアニメ主題歌メモリアル1』にはその金管の広がりが素晴らしく高揚感に溢れたレコード・ヴァージョンと、カップリングの劇場版とは違う本間千代子&高橋元太郎が歌う「遊園地のうた」が収録されていた。でも実は1998年の『東映動画アンソロジー劇場編1958-1971』(日本クラウン)では劇場版サイズの「ガリバー号マーチ」と「遊園地のうた」をコロムビアのレコードのクレジットを付けて入れたのは確信犯?というのも後者の歌はサントラなので歌は坂本九…。まあどちらにしてもDVDでは坂本九の歌は全て聴けるがCDは全て廃盤だ。本ボックスになぜ『シンドバッド…』だけ入れて『ガリバー…』を入れなかったのは全く納得できない。次いでこれも嬉しい1964年の『ビッグX』、かつて1997年にリリースされた『懐かしのミュージッククリップ22ビッグX』(東芝EMI)からの抜粋でオープニングとエンディングの歌とBGMを細かく分けて14曲にしていれた。M-7M-9のような西部劇調のBGMが魅力的だがBGMは全部で14分ちょっと。それに比べミュージッククリップは40分もあり、ここを手抜きにしたのはもったいない。ミュージッククリップにはあの胸の高鳴るテーマ曲の色々なアレンジを集めたインストルメンタル集やBMG集2の金管を生かした勇壮なマーチもあったのに収録せず惜しいことばかり。ここでも出来のいい主題歌のレコード・ヴァージョンを落としていた。初収録は手塚のデビュー作を劇場作にした1965年『新宝島』から「タイトル~出航」。曲ではなくBGMで特に胸躍るものではない。同じく劇場作の1966年『展覧会の絵』から「プロムナード」と「キエフの大門」。もちろんムソルグスキーの傑作で、後者の方が、出来がいい。その後の『ジャングル大帝進めレオ』『リボンの騎士』の補遺、『どろろ』の補遺は前述のとおりで、最後は『千夜一夜物語』に次ぐアニメラマ、1970年『クレオパトラ』より主題歌の由紀さおりが歌うエキゾチックな「クレオパトラの涙」が収録されていた。かつて1991年の『ぼくらのテレビ探偵団Vol.4』だけに入っていた曲なので未入手の方には貴重だ。

続いて『冨田勲映画音楽の世界』(松竹レコード/SOST3025)を紹介しよう。まず重厚で重々しい1965年の『飢餓海峡』より2曲、1968年の美輪(丸山)明宏主演の『黒蜥蜴』からはサスペンス風の2曲、1970年「座頭市あばれ火祭り」1971年「新座頭市・破れ!唐人剣」は1曲づつでこれぞ『どろろ』のBGM(この2作品は『座頭市音楽旅其之参』(キング)に8曲、7曲収録)1972年の『びっくり武士道』はコミカルな作品に合わせてシンセサイザーを使ったコミカルなものを2曲、1973年の『しなの川』は作品世界に合わせて哀調溢れる2曲、これが入ったおかげで『しなの川』のDVDを処分できた。『同棲時代』との2枚組、どちらも由美かおるのヌードが売りのDVDセットだったが、病気で既に女性への煩悩が消滅した自分にはまったく興味がなくなり瞬時に処分、まあ楽で良いともいえる。1974年の怪作『ノストラダムスの大予言』はシンセサイザーも使った大袈裟な感じの曲だった。残りはもうどっぷりシンセサイザー時代以降の1990年以降なので『学校』4作、『たそがれ清兵衛』『隠し剣鬼の爪』『武士の一分』『母べえ』『おとうと』『おかえり、はやぶさ』などあるが調査担当外なのでこれまで(佐野邦彦)