昨年10月に韓国Beatball盤を原盤として国内リイシューされたのが記憶に新しいペギー・リプトンの『Peggy Lipton』(68年)が、今月米Real Gone Musicによりアルバム未収録のシングル4曲と未発表音源4曲の計8曲を追加し、『Complete Ode Recordings』として新装リイシューされた。
昨年のレビュー時に筆者が熱望していたことが、こうも早くも叶うとは驚くばかり。
特にWebVANDA読者であれば必聴ともいうべき、ビーチ・ボーイズの「I Just Wasn't Made for These Times」(『PET SOUNDS』収録/66年)の未発表カバーを聴き逃してはいけない。
今回はボーナス・トラックを中心に紹介していきたい。
本アルバムの主となる『Peggy Lipton』は、キャロル・キングと当時の夫でベーシストのチャールズ・ラーキーとギタリストのダニー・コーチマーを配したザ・シティの『Now That Everything's Been Said』(69年)の前年にルー・アドラーのプロデュースでリリースされている。
アルバム収録曲はそのキングやローラ・ニーロのカバー曲とリプトン自身のオリジナルの計11曲が収録され、ハル・ブレインがヘッドアレンジを仕切ったレッキング・クルー参加曲と、前出のシティとドラマーのジム・ゴードンが参加した曲に分かれるが、恐らくキング作のカバー曲を後者が演奏していると思われる。
アルバム収録曲については昨年のレビューを参照してもらって、繰り返しになるが本レビューではボーナス・トラックを紹介する。
セカンド・シングルの「Red Clay County Line」と「Just a Little Lovin' (Early in the Morning)」(Ode ZS7 118/69年)は、ジミー・ウェッブ作のA面とバリー・マン&シンシア・ワイルによるB面という強力なソングライティングで構成されており、特にウェッブ自身がアレンジした「Red Clay County Line」は、ラニー・ネクテルらしきタッチのピアノやマイク・デイジーと思われる巧みなギター・プレイなど聴きどころは多い。この曲は同年The Fortunesも取り上げている。
「Lu」(Ode ZS7 124/69年C/W 「Let Me Pass By」)はローラ・ニーロ作で、サビへの転回は彼女の「Save The Country」にも通じる曲調でソウル・ミュージックからの影響が垣間見られる。ここでのアレンジはジーン・ペイジが担当し、演奏陣も当時彼がOdeで手掛けていたメリー・クレイトンの『Gimme Shelter』(70年)に参加したデイヴィッド・T・ウォーカーらしきギターが聴ける。とするとドラムはポール・ハンフリーでピアノはジョー・サンプルだろうか。
「Wear Your Love Like Heaven」(Ode OD-66001・70年C/W 「Honey Won't Let Me」)はリプトンのラスト・シングルで、ドノヴァンの『Wear Your Love Like Heaven』(67年)からタイトル曲をカバーしている。アレンジャーのクレジットが不明だがレッキング・クルーの演奏と思われるので、アルバム本編と同じマーティー・ペイチかも知れない。
未発表曲はアルバム収録からオミットされた曲と思しき4曲であるが、「I Know Where I'm Going」はリプトンのオリジナル、「Wanting Things」はバカラック=デイヴィッド作でミュージカル『Promises, Promises』(68年)よりカバーされており、アストラッド・ジルベルトのヴァージョンでも知られる。さすがに後者は楽曲の素晴らしさとリプトンのアンニュイな歌声がマッチしていい仕上がりだ。印象的なハープシコードはネクテルだろう。
そしてブライアン・ウィルソンとトニー・アッシャー作による「I Just Wasn't Made for These Times」のカバーであるが、オリジナルの幽玄な音像に近付かせようとした努力は聴き取れるが、曲構成が唯一無二なためアレンジのバリエーションも狭められ、二番煎じになってしまったことは否めない。がしかし、無数にカバーされている「God Only Knows」ではなく、この曲を選曲した鋭い審美眼こそが評価に値すべきではないだろうか。オリジナル・ヴァージョン同様にレッキング・クルーによる演奏と、コーラスはブロッサムズだが、複雑なハーモニーなどは悪くはないので、ソフトロック・ファンは聴くことを強くお薦めする。
未発表曲のラストはレーベル・メイトであるシティの「Now That Everything's Been Said」のカバーで、前回のレビューでも紹介したが、当時リプトンが主演していたTVドラマ『モッズ特捜隊』(68~73年)の劇中で、ハル・ブレインとロジャー・ニコルス&スモール・サークル・オブ・フレンズのマレイ・マクレオドらをバックに歌っているシーンがあり、4年程前にYouTubeで発見した貴重映像なので削除される前に是非ご覧になって頂きたい。
今回収録された未発表ヴァージョンではピアノがキング、ベースはラーキーと考えるのが妥当だが、ドラムはゴードンではなくブレインでオルガンはネクテルと思われる。
この『Complete Ode Recordings』によってリプトンのOdeでの音源がコンプリートで発掘されたことは非常に意義があり、ポップス及びソフトロック研究家にとっていい資料になったであろう。
また同時にレアであるという理由だけでアルバム単位のリイシューを安易にしてしまう傾向にも警鐘を鳴らせたのかも知れない。今回のReal Gone Musicの快挙といえる企画や昨年のLight In The Attic RecordsによるHoney Ltd.の『Complete LHI Recordings』等、当時リリースした本国ゆえにレコーディングやリリース・データの細やかな調査と、権利関係の交渉が運び易かったのだろうが、今後日本国内や韓国のリイシュー・レーベルも頑張って欲しいと思った次第だ。
昨年の『Melodies』の30周年記念盤に続いて、今年は『Big Wave』の30周年記念盤がリリースされた。RCA/Air時代のアルバムがボーナス・トラック付でリイシューされているので、ようやくMoon/Warner時代のアルバムもボーナス・トラック付でリマスタリングされたCDが楽しめるようになった。このアルバムと『Melodies』は自分の記憶では山下達郎の最も古いCDで、1984年に3800円でリリースされたものだった。そう、昔はCDは高価なものだったのだ。この頃、ビーチ・ボーイズはアルバムも出せず、犬猿の仲のフォー・シーズンズとのコラボもシングル1枚出しただけで空中分解し、日本ではその前のサントラ参加盤も含め店売りもしていない有様で、海外から取り寄せるしかない悲しい状況だった。その中、我らが山下達郎先生は、素晴らしい爽やかな英語のオリジナル曲にプラスして、ビーチ・ボーイズ関連のマニアックなカバーをたっぷり披露してくれ、我々熱狂的なビーチ・ボーイズファンを大いに喜ばせてくれた。
LPのB面が「Girls On The Beach」「Please Let Me Wonder」「Darlin'」と続き、「Guess I'm Dumb」なのだから参った。今ならなるほどねフンフンという人も多いだろうが、この当時、ビーチ・ボーイズのカバーをやろうなんて人は皆無に等しく、ましてやグレン・キャンベルのために書いた「Guess I'm Dumb」なんてほとんど知る人がなかったのだ。「Darlin'」の中に元歌のシャロン・マリーの「Thinkin' 'Bout You Baby」の歌詞を一瞬入れるとか、マニア泣かせ。フィル・スペクター・プロデュースのMFQの「This Could Be The Night」も知る人ぞ知る佳曲だった。それだけではない。『サウンドストリート』から『サンデーソングブック』でずっと使われているテーマソングとして山下達郎を代表する名曲である「Only With You」の存在も当時は大いに盛り上がった。というのもその頃、私はフォーエヴァー・レコードの藤本さんからブルース&テリーの「Don't Run Away」のシングルを売ってもらい、ブルース・ジョンストンの隠れた名曲をまた見つけたと欣喜雀躍していた時にこの「Only With You」を聴いた。このコード進行、まさに「Don't Run Away」そのものでビックリ。特にサビのメロディはほぼ同じに聴こえる。そういえばこのシングルを売ってもらう時に藤本さんから聞いた「店でこの曲を流していたら山下君が何これ?と聞いてきたんで、ブルース&テリーの「Don't Run Away」のシングルだよって言ったら売ってくれと頼まれたんでその時は断ったんだ。じゃあテープだけでもというんで録音してテープをあげたんだ」というエピソードを思い出し、そうだったのかと納得。山下先生もこの曲は「(その)シングルを入手しそこなった悔しさで作ったオマージュ」とおっしゃっており、オマージュでも見事な名曲に仕上げていた。当時、このアルバムが出た時に、友人のとり・みきさんにこの「Don't Run Away」のテープを渡し、二人で聴いて、「同じだー」と盛り上がり、その模様はとりさんがマンガの中で私と主人公の会話という形でその名も「Don't Run Away」というタイトルで発表した。「だまって俺について来い」(青林堂)という単行本で読めるので、興味のある方は是非。さて、問題はボーナス・トラックだ。「This Could Be The Night」は中間のア・カペラのベース・ヴォイスがない初期ミックス。「I Love You」はア・カペラの120秒と30秒の2ヴァージョンでこれも初。「Please Let Me Wonder」と「Only With You」も初登場のカラオケなので、後者はこれに合わせて「Don't Run Away」を歌ってみよう。「Only With You(Guitar Instrumental)」は『山下達郎CM全集Vol.2』にも入っていた。『Big Wave』の映画の中だけで聴けた「Breakdance」のCD化は初で、当時はこの曲を持っていたくてVHSやDVDを買っていた。次は2年後の『Pocket Music』だが、このCDは1991年に吉田保のリミックスで全面的に出し直されているため、30周年記念盤はどのような形になるのか今から楽しみだ。(佐野邦彦)
何年も前から海外のサイトで出る出ると予告されていて、どんどん延期され、半ば諦めかけていたCSN&Yが再結成してライブ・ツアーのみを行った1974年の伝説のライブが遂にCD3枚+DVD1枚という素晴らしいヴォリュームでリリースされた。先に紹介したSmall Facesの『Here Come The Nice The Immediate Years Box Set 1967-1969』に続いて、ずっと前から告知されていた待望のボックスがこれで出揃ったことになる。バーズのデビッド・クロスビー、ホリーズのグラハム・ナッシュ、バッファロー・スプリングフィールドのステファン・スティルスの3人で始め結成されたCS&Nはアルバム『Crosby Stills & Nash』①が全米6位と大ヒット、3人の絶妙なハーモニーが魅力だったが、スティルスはロックの要素も入れたいと、バッファロー・スプリングフィールド時代の同僚で、ソロで活躍していたニール・ヤングを加えてスーパー・グループCSN&Yが生まれた。
しかしスティルスとヤングのエゴの対立もありスタジオでのアルバムは1970年の『Deja Vu』②1枚だけ。翌年1970年のツアーを収録したライブ・アルバム『4 Way Street』③をリリースしたのみだったが、どちらも全米1位と大成功を収めていた。その後はメンバーはソロで活躍、特にヤングは70年の『After The Gold Rush』④が全米8位だがダブル・プラチナム、72年の『Harvest』⑤は1位でフォース・プラチナムと最も成功を収めた。しかし73年のライブ・アルバム『Time Fades Away』⑥は22位で終わる。スティルスは70年の『Stephen Stills』⑦が3位、71年『Stephen Stills2』⑧が8位、72年の『Manassas』⑨が4位とここまでは順調だったがマナサス名義のセカンド73年の『Down The Road』は26位と低調な成績で終わる。グラハム・ナッシュは71年のソロ『Songs For Beginners』⑩が15位、ナッシュ&クロスビーの72年の『Graham Nash & David Crosby』⑪は4位、73年のソロ『Wild Tales』⑫が34位とそこそこ好調、デビッド・クロスビーは71年のソロ『If I Could Remember Only My Name』が12位、それだけだった。4人がこれだけの成功を収めたのはビートルズ以外なく、まさしくスーパー・グループだったが、73年の時点では成績は下がっていた。それも背景にあっただろう、1974年に再結成ツアーが行われる。しかし7月~9月にアメリカ、カナダ、イギリスで29回行われただけで、スタジオ録音アルバムも実現せず、それぞれまたソロで活動することになる。その後完全に仲たがいしたという訳でもなく、C&N、CS&Nは多く組んでアルバムを作り、Y&Nのシングルがあったり、CN&Yのツアー、はたまたStills-Young Bandという組み合わせのアルバムがあり、1988年にはCSN&Yでスタジオ・アルバムが作られた。ニールは基本がソロだが、他のメンバーは自由で緩やかな共同体、それがCSN&Yの魅力だった。しかし彼らの絶頂期であり、それぞれソロとしても成功し、多くの名曲を持ち込んだ1974年のツアーはライブ・アルバムになることもなく、ライブ盤は『Smile』のように出ないお化けのように出る出ると語られていたが、ついに40年後の今年、こうやって『CSNY1974』として遂にオフィシャル・リリースされた。さて選曲だが、ヤングは既発表曲が②③④⑤⑥から各1曲と5曲しかなく(厳密には「Ohio」はシングルだが)、74年の『On The Beach』に収録される2曲(ツアー直前発売なので新曲扱いとする)、75年の『Tonight The Night』に収められる1曲、76年のスティルスとの合作アルバムの『Long May You Run』に収録される1曲があり、74年に計画されボツになったアルバム『Homegrown』からは「Hawaiian Sunrise」「Love Art Blues」の2曲、同時期の「Traces」と「Pushed It Over The End 」は再結成アルバム用にストックされたまま、加えてライブ用の小品「Goodbye Dick」の5曲はそのまま未発表で終わるというヤングならではの贅沢な使い方。このライブでのヤングの曲は14曲もあるが、9曲が新曲という今に生きるヤングらしい選曲だった。この中では厳密にはイタリアだけのヤングの全LPをボックスにしたセットのみにオマケで付けられたという「Pushed It Over The End 」は厳密には未発表と言えないのかもしれないが、堂々たるロックナンバーで聴きごたえがある。そして「Hawaiian Sunrise」は美しいメロディを持つ佳曲で未発表なのが惜しい。既発のライブでは4人のハーモニーが美しい「Only Love Can Break Your Heart」と、ナッシュとのデュオが素晴らしい「Old Man」がベストの出来。スティルスは①が1曲、⑦⑧が各2曲、⑨が1曲、75年の『Stills』に収録される2曲、そして『Woodstock』で披露されたビートルズの「Blackbird」のカバーの9曲が収録された。乾いた曲が多いスティルスだが流麗な「Change Partners」がベスト。グラハム・ナッシュは①⑪が1曲、②⑩⑫が2曲、75年の『Wind On The Water』に収録される1曲で計9曲。ナッシュはどの曲も魅力的で、ヤングと並んでCDの目玉となる曲が多い。その中でも平和主義者で知られるナッシュの「Military Madness」「Chicago」がハイライトで、選曲を担当したというナッシュが、最後に「Chicago」「Ohio」と持ってきたところに変わらぬ強い信念が感じられて嬉しくなる。アメリカ国籍を取るまでの税関職員の冷たい態度を描いた「Immigration Man」もいい出来だ。そして②の2曲はいつ聴いてもいい。最後にクロスビーだが、①から3曲、②から2曲、③から1曲、75年の『Wind On The Water』に収録される1曲、76年の「Whistling Down The Wire」に収録される1曲の8曲。クロスビーらしからぬポップな「Carry Me」がベスト。ライブDVDは8曲しかなく、Amazonでも売っていたセミ・ブートのようなライブDVD『Live At The Wembley Stadium』の方が32曲とはるかに曲が多いし、このボックスに入っていない曲を6曲も聴くことができる。こんな少ない曲数のライブ映像ではなく、ライブはライブでちゃんとしたDVDを出してもらいたいもの。ただし、画質は前述のもの(74年9月14日収録。イギリス)よりいいし、最初の4曲「Only Love Can Break Your Heart」「Almost Cut My Hair」「Grave Concern」「Old Man」は74年8月20日、アメリカLandoverのCapital Centreの映像でこれは初。Wembleyではニールの2曲のバック・コーラスにジョニー・ミッチェルが入り、邪魔だったのが、こちらはメンバーだけなのでずっといい。ライブDVDを出すときは、Capital Centreの方を期待したい。それにしても本ボックスのDVDはヤング3曲、ナッシュとクロスビーが各2曲なのにスティルスは1曲しかなく、CDの曲数といい控えめなのが少し気になるところ。(佐野邦彦)