2023年11月24日金曜日

吉田哲人:『The Summing Up』『The World Won’t Listen』リリース・インタビュー後編


ー リリース・インタビュー後編 ー 
(インタビュー前編はこちら

『The World Won’t Listen』収録曲の大半を俯瞰で見た(聞いた)とき、
どこかで結局、自分は(楽曲構造上は)ポップスの人なんだなあと 

●コラムでも触れられていましたが、VANDA誌との出会いを詳しく聞かせて下さい。また当時影響を受けて聴き込んでいた楽曲を挙げて、その魅力を語って下さいますか。

◎吉田:1995年頃に大学時代の友人から『VANDA 18号 Soft Rock AtoZ大辞典』を借りたのが出会いでした。それ以来、手に入るバックナンバーは全て買い揃え(その年に、地元である徳島に帰省した際、今は無き「アダムと島書房」で18号を手に入れる事ができた)読み耽り、若い頃に多大な影響を受けました。
その頃は、ソフトロックばかりでなく、モンド/イージー・リスニングも、新譜の12inchをよく買っていたテクノ/ハウスやD’n’Bやビッグ・ビーツやガバも、当時はダサいとされていてほとんど見向きもされていなかったテクノポップ/テクノ歌謡も、和洋問わず60’sも70’sもソウルも、クラシックも現代音楽も、当時のUKロックもと、当然限度はありますが、訳隔たりなく聴いていた(J-POPは好んでいなかった)様に思っていて、当時の聴いていたものの記憶といえば音楽それ自体よりも、それぞれのジャンル毎に話せる友達はいても、全てに話が通じる友達がいないという悩みを抱えていた事がパッと頭をよぎります。

脱線してしまいましたがVANDAの話に戻すとやはり、「赤い鳥 / LOVE HIM」「INSTANT CYTRON / Adventure monsters」になります。
「赤い鳥 / LOVE HIM」はVANDAの出会いとほぼ同時に出会っていまして、僕のコラムでも紹介したテープに入っているのですが、LOVE HIM含むアルバム『赤い鳥 / WHAT A BEAUTIFUL WORLD』は「え?こんな内容が良くて音も良いレコードが評価されずに500円コーナーで売られているの?」と本当にショックを受けて、何度も聞いたし何度も買ってプレゼントしたものです。音楽的な面以外にもレコードの買い方に多大な影響を受けたと思います。
「INSTANT CYTRON / Adventure monsters」は本当に大好きで未だにDJでも使うし、自分がDJでかけた中でも1番使っている曲です。真似するという意味ではなくですが、こんな曲を一生に一度でも書いてみたい、と思っている曲で、端的にいえば聴いた人は全員が好きになる曲だと僕は信じて疑わないので言葉にならないです。言葉はいらない、というか。選曲したプレイリストを聴いて貰えばわかりやすいと思うのですが、音はちゃんと(当時の)新譜の音なのに旧譜と混ぜても違和感がない、でもやっぱり新譜の音という。曲やアレンジの素晴らしさもさることながら、僕が理想とするミックス(音像)を当時から既にやられているという、全方向に魅力のある曲です。この辺りは僕が作編曲家での仕事の際、指針にしているくらい、多大な影響を受けています。
インスタント・シトロンといえば名曲「STILL BE SHINE」がありますが、現在カノサレ(旧ユニット名・彼女のサーブ&レシーブ)が歌い継いでいます。そして、カノサレといえば名曲「Cheerio!」はDJで僕は必ずと言っていいほど使いますし、シトロン結成初期に制作されていた楽曲です。
こういう音楽の世界観を持ったアイドルもいるので、WebVANDA読者さんでアイドル聞かず嫌いな方がいらっしゃいましたら、それは勿体無いので、よかったらアイドル楽曲にも触れてみて下さい。

『VANDA 18号Soft Rock AtoZ大辞典』 吉田哲人 プレイリスト

●熱心なVANDA誌の読者だったようですね。現在の音楽活動に少なからず影響を与えていれば、弊誌創刊者の佐野邦彦氏や当時の関係者も喜んでいると思います。
それで赤い鳥ですが、確かにその高い音楽性とは裏腹に過小評価されていますね。シングル『竹田の子守唄/翼をください』(1971年)はミリオン・ヒットとなり、「翼をください」は後世に残る名曲になった訳ですが、同曲作曲者でプロデューサーの村井邦彦氏は、彼らを和製フィフス・ディメンションにしたかったんでしょう。それが70年初頭の日本では広く受け入れられる土壌がなく、早過ぎたと言えます。 
様々な考え方があると思うけど、所謂ソフトロックというのは、60年代中頃から70年代前半の当時の欧米産ポップスの一つのモードなんですね。複雑なコーラスと豊かなオーケストレーションを施したサウンドは、先進国で社会経済状態が高く、文化的水準も成熟しないと受け入れられない。だから当時日本では一部でしか認知されなかった。高度成長期からオイルショックを挟んで社会の経済状態が平均化していった70年後半になってやっと、赤い鳥解散後に5名の内3名で結成されたHi-Fi Setや、村井氏のアルファレコード絡みではサーカスといった、洗練されたサウンドを持つコーラス・グループがヒットしていくんです。
その後80年代後半から90年代初頭の音楽フィジカルの変革期、アナログからCDに移行した時期に多くの過去アーカイブが再発見されます。
再評価された中に赤い鳥の『WHAT A BEAUTIFUL WORLD』も含まれていたんだろうと思います。推されている「Love Him」は、ほぼ無名の英国人シンガー・ソングライターのピーター・ランサムのソングライティングですが、バカラックの「Do You Know the Way to San Jose」に通じるボサノヴァのリズムを基調とするジョン・フィディによるアレンジが効いていると思います。主にロンドンのエア・スタジオでレコーディングされたこのアルバムは、村井氏と知己のあるプロデューサーのジャック・ウィンズレーのコネクションでしょうね。

INSTANT CYTRONのメンバーは、世代的に音楽フィジカルの変革期に青春時代を送って、かなりのマニアになった方々ですよね。渋谷系のメインストリームには属していませんが、ソフトロック・リバイバルに貢献したと思います。推されている「Adventure monsters」(『CHEERFUL MONSTERS』収録/1997年)は、曲の骨格は東海岸と西海岸ポップスがよくブレンドされていて、The Brady Bunchなどチルドレン・ソフトロック系コーラスが被さっている隠れた名曲です。
初期メンバーの松尾宗能氏と片岡知子さんがカノサレに提供した「Cheerio!」は私も好きで、以前SNSでも指摘しましたがローラ・ニーロのソングライティングの影響下にある名曲ですね。

プレイリストの洋楽では2曲挙げたサークルやカーニバルから、フルーティストでマルチプレイヤーのJeff Afdemが率いたSpringfield Rifleやアラン・コープランド・コンスピレイシーというマニックなグループの曲まで選んでいますね。またブラジリアン・コーラス・グループのトリオ・テルヌーラも気になります。これらの曲への思い入れも語って下さい。

◎吉田:サークルの2曲は僕が影響を受けている曲です。「Turn-Down Day」はサビのベースライン、特に「デレレレデレレレ(DFAFDFAF)」というフレーズは僕のテンポが早い曲によく登場します。
「It Doesn’t Matter Anymore」は、Capsule中田君から『contemode V.A.2』への参加を打診されたときに、どんな曲作ろうかと考えながらプリプロ・スタジオにあったアップライト・ピアノで何となくこの曲のコードを弾いていたらメロディが浮かんできて、それが「キーファー・サザーランドみたいな奴」となりました。コード進行とピアノの左手の方に影響が残っています。『On The Frip Side』が初出ですが、やはりサークルの方が最初に聴いた(手に入りやすかった)のもありますし、影響大です。
「Hope / The Carnival」はイントロから心掴まれますが、サビのオルガンのグリッサンドが特に最高!DJの時はエア・オルガンしているくらいです。皆さんもエア・オルガンをやる際はグリッサンドしている箇所としてない箇所をきちんと覚えてやってみて下さいね(笑)。アルバムには「Love So Fine」も収録されていて、割とみんなはそっちを選ぶけれども、僕は断然Hope!
「That’s All I Really Need / Springfield Rifle」はソフトロックが好きになったあと東京に遊びに行ったときに、当時、ファイヤー通りに面した建物の2階にあったHi-Fi Record Storeに初めて行った時に教えてもらって買ったレコードの内の一枚です。その時はソフトロックの他にもAORを教えてもらって、それまで聞かず嫌いだったAORはこんなにも魅力ある(ビジュアル除く)ジャンルだったのか!と視野が広がりました。この曲は配った僕のミックスCDにも入れた記憶があります。
「Frenesi / The Alan Copeland Conspiracy」も、よくDJでかけました。この曲は僕がアルバイトで働いたことがある、かつて大阪心斎橋アメリカ村にあり、現在はネット店舗になっている中古レコード屋Siesta Recordで買いました。Siesta Recordは大好きなお店でして、通い始めた頃は雑居ビルのワンフロアをいくつかに区切った(他の店は中古レコード店ではない)中にあって、小さいながらに良いレコードだらけという夢のようなお店でした。
この曲が収録されているアルバムはHi-Fi Record Store監修の『フィンガー・スナッピン・ミュージック』シリーズで世界初CD化されました。そのCDの解説を僕が書いているとかいないとか…(小声)。

『SOFT ROCK The Ultimate!』

僕とVANDAといえば、そう、トリオ・テヌルーラだね。って事情を知らない人からしたら何のこっちゃ分からないと思いますが、2000年頃にキップソーンの中塚武君が、『SOFT ROCK The Ultimate!』(Soft Rock A to Zシリーズ/2002年)でのウチさんのインタビューに答えて紹介していた、『Trio Ternura / same』は、僕がDJでかけていたのを中塚君が聴いて気に入ったようで、見かけたら買っておいてとその場で頼まれました。その後、僕はもう一枚を見つけ、彼に譲ったものが紹介された、という逸話があるレコードです。インタビュー中に僕の名前も出ていましたね。「Sempre Exite Alguem」がそのときにDJでかけていた曲です


●幣サイトのカラーとは異なりますが、アシッド/テクノ系サイドのアルバム『The World Won’t Listen』についてお聞かせください。 
レディメイド時代も含めポップスをマニアックに聴かれていたと思いますが、その対極になるミニマルなテクノ・ミュージックを好むようになって、自ら制作された理由はなんでしょうか? 


『The World Won’t Listen』
 
The World Won’t Listen』トレーラー

◎吉田:高校2年生の頃に曲を作り始めたのですが、その頃は電気グルーヴの影響もあり、作るものはテクノ志向でした。ですので、どちらかといえば原点回帰の方向性がテクノ、といえます。また、マニピュレーター時代はサンプリングを使用することも多かったのですが、その制作法は今後通用しなくなるだろうと当時から常々感じていたので、辞めた後はコードなり楽器の演奏なりを一から自分で構築する制作スタイルにするために最も馴染みのあるテクノで、となりました。あと、マニピュ仕事やアレンジ仕事などの派手な、いわゆる業界仕事に嫌気がさしていたのでポップスから離れ、独りで完結させるストイックなアーティストになりたかったのも当時ありました。

●こちらのアルバムの曲作りやアレンジ、レコーディング中の特筆すべきエピソードを聞かせて下さい。

◎吉田:このアルバムの楽曲の1番新しい曲でも10年以上経っている曲なので、ぼんやりとしている部分もあるのですが、マニピュ時代はレコードに頼っていたところがあり、どこか罪悪感というか、自分は借り物だ、偽物だという思いが消えず、現状をなんとか打破せねばと思っていたのですが、マニピュをやっている限りは時間も取れず、そういった中で派手にコード展開や装飾が施されるポップスの世界での挫折感もあったため、最後の方はすっかり自信がなくなっていました。辞めた後は、まずは基礎からやり直しと思い、1小節だけをきちんと作っていき少ない素材でいかに展開していくかを再学習し、それが2小節になり4になりと、曲の世界を広げていければポップスもまた作れる様になる。最低限、16小節良いのが出来ればCM仕事にも繋がるだろう、と思っていたのを覚えています。まあその考えが、後に一度引退を決める2012年のクリスマス・イヴを招いてしまう訳ですが。
『The Summing Up』収録の「昔も今も」(これもサマセット・モームのタイトルより引用)、実は『The World Won’t Listen』収録楽曲が作られていた頃の曲ですが、アンビエントな元のデータを活かしつつリアレンジした曲で、CD収録バージョンは人によって、The High Llamasぽく感じたりTanzmuzikっぽく感じたりするかもしれないのですが、思い返してみると当時、真剣にテクノな曲を作ってはいたものの『The World Won’t Listen』収録曲の大半を俯瞰で見た(聞いた)とき、どこかで結局、自分は(楽曲構造上は)ポップスの人なんだなあと、テクノを作っているつもりでもここはイントロ、ここはAみたいな構成を意識してしまっている自分に気がつき、半諦めの様なものを抱えながら「昔も今も」を作ったように記憶しています。
また、アルバム全体的に見ると声が入っている楽曲が割りと多く、そのことからも割と最初から心の底では意外とポップスを作りたかったのかな、と、今となっては思います。 『The World Won’t Listen』は元々仮タイトル『Deep Purple』としたアルバム収録曲を中心に構成されている(詳しくはCDのライナーノーツ参照のこと)のですが、そのアルバムは発売中止(放棄)を二度も喰らいました。発売中止は当然心に傷を受けてしまうのですが、制作中にポップスの人だと意識したことで自分が出来ることと出来ないことは少し見えたので、その点だけは経験として良かったように思います。
そして、ポップスの人だと気づいたとき、テクノ・テイストのアルバムを出した後に所謂テクノポップな作風という訳でなく、レディメイド時代のような古いレコードが好きな人が作るポップスのアルバムも作り、その両方の作風が作れるアーティスト路線という考えも芽生えましたが、2000年代はジャンルの壁がまだ高かったのか、ポップスとテクノを融合させずに別々に、同時にその両方をやる人、また、それをする事を理解してくれる人(レーベル)は周りにはいませんでした。別々のジャンルを別々のまま同一人物がやるのではなく、それらを融合させようとするのがアーティストの姿勢として当然だ、みたいな時代の空気があったんでしょうか…。今の若い人はいろんなジャンルをやる事も普通ですが、当時、僕のように両方をやろうとするのは、ストイックになれずに、どちらも選べない中途半端な人のように思われていた節があります。時代と合ってなかったんですね。駄目な僕、I Just Wasn’t Made For These Timesって感じ。。。

現在、僕の作品がリリースされる時によく使われる「アシッドからソフトロックまで」というフレーズは、僕が楽曲提供した「竹達彩奈/マシュマロ」「チームしゃちほこ/いいくらし」(発売時期は違うが制作開始はほぼ同時期)を並べて称してくれた、ある友人の言葉から頂いているのですが、僕自身が自己の作品では2012年末に完全に諦めた(この辺りもCDのライナー参照のこと)構想的なものを、翌年(2013年)にアイドルに楽曲提供という形で実現できた事は嬉しくもあり、また、色々な意味で運命的なものを感じたりもしました。
あまりDisc2について話をしておりませんが、自分にはこれらの曲があるから商業音楽の世界を目指せた、と思っているくらい思い入れがあります。特に「Cosmic Soul」という曲は作った19歳のときに「これを超える曲は出来ないや。」とある種の到達点と感じた曲です。そこから違う音楽性を求めて現在に至ったんだな、と。
そういえばDisc2収録楽曲の制作時は相方がいた時期があったのですが、ある日、僕が「こういうのを作りたいんだよ。」と言って『The Beach Boys / Smile』の海賊盤を聴かせたところ「全然わからない。これの何を指して、何を言いたいのかやりたいのかもわからない。」って言われてガッカリしたのを思い出しました…。

●かなり本音を語られていますが、業界仕事としてポップスに深くかかわったことに嫌気がさして、そこから離れてテクノ系楽曲を制作している過程で、“ポップスの人”だと気づいてしまったという下りが、吉田さんの音楽職人としての人生を象徴していて、実にドラマティックでした。極端に表現すると『猿の惑星』(1968年)のエンディングで、核戦争で朽ち果てた自由の女神像を目にして愕然とするテイラー大佐というか(笑)。避けていた人類の愚かさにより荒廃した故郷に、図らずも回帰していたという。 まあ音楽クリエイターをしていて、大いに悩んだ時期があったというのは、ブライアン・ウィルソン・シンドロームなのかも知れませんね?


◎吉田:本音を話す機会、特に僕のプロフィールにみられる制作物の空白期間(2008〜2012年)の話をする機会は今までなかったのでガンガン話しちゃっていますね(笑)。確かにブライアン・ウィルソン・シンドロームと言えると思いますし、また僕の場合、一般的な作曲家の方の半生と少し違っていて、音楽業界でのキャリアは、選曲解説を担当したコンピ・テクノ歌謡シリーズ(P-Vine / 1999年)が最初で、その後マニピュレーター、編曲家、 CM/TVのBGM的な作曲家を経て、2013年からようやく一般的な作編曲家として名乗っていい成果が出始めるので、該当するブライアン・ウィルソン・シンドローム期は、人生で初めて自身のアーティスト性とはどういうものなのか、と突き詰めていた時期だったゆえ、だったのかなと感じています。

●では最後に本作『The Summing Up』と『The World Won’t Listen』のアピールをお願いします。

◎吉田:書き散らかした楽曲を集めて自ら歌った『The Summing Up』で自分がどういう人間なのか、歌声もふくめ初めて俯瞰で見られた気がします。ただ、ポップス面だけがクローズ・アップされるとそれはそれで、なんか違う!と悩んでいたのですが、それは『The World Won’t Listen』収録曲を作っているときも同様で「これでテクノ・アーティストとしてだけ見られてしまったら、これからの人生、果たしていいのだろうか…?」と感じていました。この2枚(同時購入特典の『Another of The World Won’t Listen』を含めると3枚)を同時に発売することで、自分はこういう人間だ、と初めて対外的に見てもらえるようになりました。
また、僕がやっていることはNEO NEW MUSICなのだ、と他の人が言われて「ひとめぐり」「光の惑星」「ムーンライト・Tokyo」が並んでいるのをみたとき、それらのシングルはパロディジャケットというのもあり、ニュー・ミュージックの現代版がやりたいのかな?シティ・ポップの言い換えかな?みたいに思われていたかも知れないですが、今回のアルバム(特典CD含む)3枚で、NEO NEW MUSICとはなんぞや、というのをビジュアル面と音楽面で伝えられる作品になっていると自負しております。単にニュー・ミュージックの焼き直しではない、という。その為に3種類同時に出す意味がありました。48歳とずいぶん遅咲きですが、この歳まで粘って良かったと思います。成熟と初々しさが同居する不思議なアルバムとなっていますので、出来ればどちらも購入して頂きたいのですが、各々の音楽的嗜好があると思いますから、どちらかでも構いませんので良かったら手に取って頂けると嬉しいです。
どちらのアルバムもサブスク配信はしばらくございませんので。


【吉田哲人ライブ情報】

11/26に、中野heavysick ZEROにて
『ROMANTIC TECHNOLOGY 96 ~10th Anniversary Party~』。
こちらはテクノのライブ・イベントです。

ROMANTIC TECHNOLOGY 96 
10th Anniversary Party 
2023.11.26(日) 
中野heavysick ZERO
OPEN&START 16:0
ご予約¥3500(1ドリンク別) 
当日券¥3800(1ドリンク別) 

-LIVE- 
おわりからはじまり
吉田哲人
Sigh Society、Cherryboy Function、アシッド田宮三四郎
Mitaka Sound、サトウトモミ、inko、CrazyRomantic

 -DJ- 
サカエ コーヘイ、FQTQ、本間本願寺、
Kamaida Negami、Cyte、mukuro-jima

−VJ−
PORTASOUNDS、4DK

-FOOD-
ラブエイジア四ツ谷



そしてリリース・ライブ・イベントが12/3に、神保町試聴室にて 
『吉田哲人”The Summing Up”発売記念ライブ』です。
ゲストにインスタント・シトロンの長瀬五郎さん、カノサレ、Hau.、
ユメトコスメという豪華キャストをお招きして開催いたします。

吉田哲人「The Summing Up」発売記念ライブ
2023.12.3(日) 
神保町試聴室
 OPEN 16:00 / START 16:30 
予約 3500円 / 当日 4000円
(1ドリンク, スナック込)

出演:
吉田哲人
カノサレ、長瀬五郎(INSTANT CYTRON)、
Hau.、ユメトコスメ



12/8にはファロ大學 芸術学部 講座『ラフからフィニッシュまで』
というイベント講座で、「曲、そしてアルバムづくり編」と題し、
アルバムのあれこれをトーク致します。

ファロ大學 芸術学部 講座『ラフからフィニッシュまで』
「曲、そしてアルバムづくり編」
珈琲 FALO
2023.12.8(日) START 19:00
聴講料:2,500円

講師:吉田哲人/作編曲家



(インタビュー設問作成、本編テキスト:ウチタカヒデ








2023年11月18日土曜日

吉田哲人:『The Summing Up』『The World Won’t Listen』リリース・インタビュー前編

『The Summing Up』

『The World Won’t Listen』

 作編曲家でシンガー・ソングライターの吉田哲人(よしだ てつと)が、待望のファースト・アルバム『The Summing Up』(なりすコンパクト・ディスク, HAYABUSA LANDINGS / HYCA-8060 )と、アシッド/テクノ・サウンドの2枚組作品集『The World Won’t Listen』(HYCA-8061)を11月22日に同時リリースする。
 今年7月にリリースした8cm(短冊)CDシングル『ムーンライト・Tokyo』(NRSD-3115)が記憶に新しいが、これまでに7インチで発表していた『ひとめぐり/光の中へ』(NRSP-772/2019年)、『光の惑星/小さな手のひら』(NRSP-796/2021年)などシンガー・ソングライターとして活動を開始した初期の集大成として13曲収録したのが前者だ。
 また小西康陽氏主宰のReadymade Entertainmentのマニピュレーターを辞めた2008年末、それまで封印していたアシッド/テクノ系楽曲の制作を開始し2012年のクリスマス・イヴまで作り続けたという楽曲と、大阪芸術大学在学中のアマチュア時代に制作していたレアな楽曲からなる合計16曲を2枚組で収録したのが後者である。

 多彩な顔を持つ吉田の経歴を改めて紹介しよう。彼は大阪芸術大学卒業後の98年にThe Orangersとしてデビュー後、様々なコンピレーションへの楽曲提供やリミキサーとして参加し、2001年には小西康陽氏が主宰するReadymade Entertainment所属のマニピュレーターとしてよりメジャーなプロダクションに関わっていく。その後も鈴木亜美やきゃりーぱみゅぱみゅといった一般に知られるメジャー・アイドルから、竹達彩奈やNegicco、チームしゃちほこ、私立恵比寿中学、WHY@DOLL(ホワイドール)など新鋭の若手アイドルの楽曲に関わり、彼女達の熱心なファンの間では知らぬ者なしの存在なのだ。


 ここでは筆者により本作の解説と、9月から幣サイトで連載コラムを投稿している吉田におこなった、この2タイプのアルバムの曲作りやレコーディングについてのテキスト・インタビューを前後編で分けて、またVANDA誌読者だった時代に愛聴していたソフトロックを中心にセレクトしたプレイリストをお送りするので、ダイジェスト動画トレーラーと合わせて聴きながら読んで欲しい。

 『The Summing Up』、『The World Won’t Listen』共にほぼ吉田一人による演奏とプログラミングによりレコーディングでされており、『The Summing Up』では3曲にユメトコスメの長谷泰宏が共同アレンジとキーボードで参加し、『The World・・・』には当時ユニットを組んでいた北脇歩が2曲にプログラミングで参加している。
 ミックスは吉田自身でおこない、マスタリングはマイクロスター佐藤清喜が担当し、これまでのシングル同様の布陣である。

 
The Summing Up』トレーラー

 ではシンガー・ソングライター・サイドの『The Summing Up』から解説しよう。
 冒頭の「光の惑星」は、2021年に7インチ・シングルで発表しており、バーチャルなシティポップ・アイドル・ユニットSputrip(スプートリップ)の提供曲のセルフ・カバーで、吉田が自らプレイするリッケンバッカーの12弦ギターや長谷のストリングス・アレンジが効いた80年代UKサウンドに通じるポップスだ。
 続く「ムーンライト・Tokyo」は、元THERE THERE THERESのカイのファースト・シングルのセルフ・カバーとして、今年7月に短冊CDシングルとしてリリースしたばかりで、80年代中期のユーロ系テクノ歌謡に通じるサウンドと“Tokyo”の夜を舞台にした不毛の恋愛を綴ったラヴソングである。
 幣サイトに吉田が投稿するコラムの初回テーマであるオフコースを意識した、2019年のファースト・シングル「ひとめぐり」の収録も嬉しい。WHY@DOLLの青木千春と浦谷はるなによる純愛な歌詞と、オフコースの「Yes-No」(『We Are』収録/80年)に通じるサウンドが懐かしくも新しい。ひと際印象的なギターソロとバッキングのエレキギターは、惜しくも2021年12月に解散してしまったbjonsの渡瀬賢吾がプレイしている。

 インタビューでも触れている「キーファー・サザーランドみたいな奴」は、嘗ての弊誌愛読者には馴染み深い、太田幸雄とハミングバーズの「スティーヴ・マックイーンみたいな奴」(1970年)に通じる和製ソフトロックだ。吉田哲人 & ラブ・サウンズ名義で、2004年に中田ヤスタカプロのデュースによるコンピレーション・アルバム『contemode V.A.2』に収録されたクールなスキャット・ジャズである。 
 本作中異色かも知れないインストの「昔も今も」は、ショーン・オヘイガン(The High Llamas)に通じるアンビエントな小曲で、制作意図につては、インタビュー後編(11月24日公開予定)で触れているので読んで欲しい。
 「ふたりで生きてゆければ」は、2019年6月にWHY@DOLL が「ラブ・ストーリーは週末に」とカップリングで7インチ・リリースした提供曲のセルフ・カバーで、両曲ともWHY@DOLLの青木と浦谷による作詞だ。前者はオリジナルと異なるイントロでスタートする溌剌とした青春のエイトビート・ポップで、エレキギターでnyacastle(ニャーキャッスル)が参加している。本作収録順では10曲目になるが、後者はオリジナルでは竹内まりやの「プラスティック・ラブ」(『VARIETY』収録/84年)を現代風にアダプトしたアレンジだった。ここでも長谷のストリングス・アレンジが効いていて、オリジナルではサックス・ソロだった間奏も弦の旋律に変わっていて新鮮に聴ける。 


 『光の惑星/小さな手のひら』

 2021年に筆者が年間ベストソングに選んだ「小さな手のひら」は、「光の惑星」のカップリング曲で、元々は2020年の“神保町試聴室”ドネーションコンピ『STAY OPEN ~ 潰れないで 不滅の試聴 室に捧ぐ名曲集~』に提供された曲だ。元WHY@DOLLの浦谷はるなによる慈愛に満ちた詞の世界観と、吉田によるバロック風のアレンジが効果的であり、和製ソフトロックとして極めて完成度が高いので幣サイト読者には最も推しの名曲である。
 「Mccarthy」と「光非光」は共にインスト曲で、前者はマジカルなサウンドが中期ビートルズに通じていて、セカンド・ヴァースから入るコーラス・パターンは『Smiley Smile』や『Wild Honey』(共に1967年)期のビーチ・ボーイズを彷彿とさせる。ステレオ・マルチタップ・ディレイがかまされたシンセ・ソロなどプログラミングの他、エレキギターとエレキベースも吉田の一人多重録音でレコーディングされている。後者は一転してアコースティック・ピアノ1台で演奏される、フランス印象派の流を汲む美しいバラードで、その余韻に後ろ髪を引かれる隠れた名曲と言えよう。

 11曲目の「Don't Ask Me Why」は、WHY@DOLL提供曲のセルフ・カバーの1曲で、短冊CDシングル・ヴァージョンと異なり、イントロからヴァースへのギター・アルペジオがなく、リバーブを深くして吉田のヴォーカルをより強調したミックスが新鮮である。不毛の恋愛を綴ったこの歌詞も青木と浦谷によるもので、四つ打ちキックが効いたエレクトロ・ダンス・サウンドとのコントラスが世界観を広げている。やはり間奏の一人多重コーラスは圧巻で、完成度は高い曲そのものの価値を何倍も高めている。 
 本編のラストでWHY@DOLLへの最終提供曲となった「album」のセルフ・カバーは、吉田からメンバー2人への卒業証書というべき曲かも知れない。青木と浦谷による歌詞からは卒業アルバムを1ページ、1ページめくり思い出をフラッシュバックさせる彼女達をイメージさせ、アコースティック・ピアノとストリングスからなる美しいバラード・サウンドには、吉田の愛が溢れている。本作でセルフ・カバーとして取り上げるのは、照れがあったかも知れないが、静まり返った音楽室で一人ピアノを弾きながら歌う彼の姿が目に浮かぶのだ。
 ボーナス・トラックの「ひとめぐり」は、2021年3月4日の神保町試聴室でのライブ・ヴァージョンで、吉田がプログラミングしたオケに、アコースティック・ピアノの生演奏で長谷が参加している。スタジオ・ヴァージョンと異なり、裏拍でオルガンとバリトン・サックスが追加され、バックビートを強調したスカ風のアレンジが施されているのが興味を惹くが、長谷の繊細なピアノ演奏とのコントラスが面白く、貴重なライブ・セッションの記録としてレア音源である。


 
The World Won’t Listen』トレーラー

 続いてアシッド/テクノ・サイドの『The World Won’t Listen』に移る。幣サイト及び筆者としては門外漢なので、その手の信頼できる専門家の批評を読んで頂きたいのだが、ディスク1冒頭の「The Girl Who Leapt Through Time」(時をかける少女)から80年代末期から90年代初頭のアシッドハウスをルーツとしており、使用機材(或いはシュミレート・ソフト)にも拘ったハード・エッジなサウンドである。
 少しだけリアルタイムで808 STATEを愛聴していた時期がある筆者は、「Blue Impulse」から「The Sound Of Feeling」への流れは本作のハイライトではないかと推してしまう。そしてアンビエントな「Spring Dawn」から、『TECHNODON』(1993年)の頃のYMOサウンドに通じる「Love, Love, Love... & Love」でディスク1を閉める、吉田のセンスの良さには感心する。
 ディスク2はよりディープで実験色の濃いサウンドになっており、冒頭の「Morning Glow」は究極のチルアウトで、テクノロジーの現世に迷い込んだフランス印象派という風情で、坂本龍一信者は好きになってしまうだろう。
 その流れは4曲目の「rosée」から「Cosmic Soul」、そしてラストの「Largo」で決定的なものになり、80年代前半の教授(坂本龍一)のサウンドを愛していたファンに強くお薦めしたい。


ー リリース・インタビュー前編 ー

短冊CDの日にリリースする、曲を『ムーンライト・Tokyo』にする、 
アルバム(『The Summing Up』)からの先行リリースとすることを
その場で決め、このシングルからアルバム制作へ入りました。 

●まずはシンガー・ソングライター・サイドのアルバム『The Summing Up』についてからはじめます。作編曲家として多くのアイドルやグループに楽曲を提供していた裏方から、自らシンガー・ソングライターとしての活動を開始したきっかけを聞かせて下さい。 

◎吉田:そもそものきっかけはWHY@DOLLの活動終了でした。時を経た今だから正確な話が出来るんですけれども、ほわどる(WHY@DOLLの愛称)の活動終了の報告を一般に公表される約1ヶ月半前に関係者として聞いたときに、もう今後のリリースは(ベスト盤などの活動終了に伴う記念盤的なリリースは全て)ほぼほぼないという話も聞いたのですが、個人的に最後にもうひとつ何か作りたいと思い、そのとき咄嗟にほわどるのふたりに作詞のオファーをし、完成させたのが「ひとめぐり」でした。ですので、前々から歌うことを考えていたとかでは無いです。実際、今でもレコーディングに使っているヴォーカル・マイクは歌詞のオファーをしたあとに買いました。 
ほわどるはその後、ラスト・アルバム『@LBUM 〜Selection 2014-2019〜』が発売されましたので「ひとめぐり」がほわどるにとっての最後の作品ということでは無くなりましたが、関係者の一人として「せめてベスト盤くらいのリリースはあっても良いんじゃないか?」と伝えていたので、ちゃんとほわどるとの最後の作品を作れたのはとてもハッピーでした。その最後の作品というのは、『The Summing Up』にも収録されている「album」という曲です。

●なるほど、コンスタントに楽曲提供をされていたWHY@DOLLの解散が、ソロ活動の起点になったとも言えますね。インタビューの主旨と少しずれますが、それだけ思い入れがあった彼女達の魅力は何だったでしょうか? 

◎吉田:最初は歌と声ですね。彼女らのライブを観に行くようになってからはキャラクターやダンス、佇まいなども好きになっていきました。あくまで僕の中だけでなのですが、彼女たちの声はマーゴ・ガーヤン的な系譜にあると思っています。似ている訳ではないのですが、そういう印象です。
青木千春さんはアイドルらしい可愛らしい声ですが、キャラを作っている訳でなく、ごく自然にあの歌声でした。浦谷はるなさんは彼女独特の歌声が大好きだったので、現在Hau.として活動されているのを非常に嬉しく思っています。二人はソロで歌うとそれぞれ全く違うキャラクターの声なのですが、ユニゾンになると(提供楽曲の場合)ミックスを担当している僕でも、2mixの状態になるとどっちがどっちの声なのか判別つきづらいくらい溶け合っていて、それがまた素晴らしかった。それと、歌ウマ系の歌い上げる歌唱法でないので伝わりにくいのかもしれないのですが、彼女らは歌が上手いしピッチも安定していました。例えばほわどるの「album」は、ふたりのタイミングを合わせるよう少し修正しましたがピッチ修正はしてないので、聴いてもらえたら僕が言っていることがわかってもらえるかと思います。

●そのWHY@DOLLをはじめアイドルさん達への楽曲提供のオファーを受けた際、先方からのリクエスト要素と、ご自分のオリジナリティとが占める割合はどうなっているでしょうか? 

 
『ふたりで生きてゆければ/ラブ・ストーリーは週末に』
WHY@DOLL 

◎吉田:楽曲提供のオファーを受けた際、二曲ほど作って出来がいい方を送るようにしているので、本当にケース・バイ・ケースなのですが、思い返してみると楽曲提供作品のこの部分がオファーのこの箇所にあると自己分析出来るのですが、素直に参考曲が僕の曲に反映されていない事もあるので、ディレクターさんによっては自由に作ってくる人、と思われているかもしれません。 
例えば『The Summing Up』にも収録されている「ラブ・ストーリーは週末に」となる楽曲のオファー内容は「メロウ・ディスコ」というテーマで、参考音源としてBPM=125くらいのフィリピンのディスコものが送られてきたのですが、そのオファー以前に、僕はほわどるへ「菫アイオライト」というディスコ(ファンク)・テイスト曲を提供していた事もあり、また、ほわどるの過去楽曲にも他の作家さんの手によって「メロウ・ディスコ」的なものが存在していたので、今までにないテイストで、かつ、オファーに近いものはどのような方向性があるのかと悩んだのですが、とりあえず一旦はリクエストの方向で作りつつ、その曲を自分的に没にする可能性も考え、オファーにある「メロウ」だけ残した楽曲も並行して制作、僕の判断で出来の良かった「メロウ」だけ残した楽曲を送って採用された、という流れでした。
因みに「菫アイオライト」のときのオファーのテーマは「イタロ・ディスコ」でした。「菫アイオライト」をイタロととるかどうかはあなた次第です、といったところでしょうか。


●『The Summing Up』収録曲はセルフ・カバーの楽曲が多いと思われますが、収録用にリアレンジとレコーディングを開始した時期と期間を教えて下さい。

◎吉田:「ふたりで生きてゆければ」は「ひとめぐり」リリース・イベント(2019年11月15日)ですでに披露しているので、その時点でアルバム制作は既に始めていたといえばそう(この時期の未発表曲デモが5曲ほどある。)なのですが、デビュー後、たった3〜4ヶ月で全世界がコロナ禍になってしまい、気分的に今じゃないと判断し制作を一時中断しました。コロナ禍以前は作編曲家としての活動が活発だったことから、ある程度、世間的に認知をしてもらえていた、下駄を履かせてもらっていた状況だったのですが、ソロ活動のデビュー直後にコロナ禍となってしまい、自分のソロ活動の全てが振り出しどころか、むしろ下駄がなくなった分マイナスになってしまった…と思ったのを覚えています。

そうこうしているうちに四年が経ち、平澤さん(平澤直孝/なりすレコード代表)に当初、自主制作で出そうとしていた『The World Won’t Listen』の相談をしていたときに僕が「東京少年の『ゆびきりげんまん』みたいな感じでThe World Won’t Listenに8cmCDをおまけで付けたいんだけど…」と話すと「実は短冊CDの日というのがありまして…」と平澤さんが話し始めその流れで、短冊CDの日にリリースする、曲を『ムーンライト・Tokyo』にする、アルバム(『The Summing Up』)からの先行リリースとすることをその場で決め、このシングルからアルバム制作へ入りました。平澤さんとのLINEのやり取りを見返すと、2023年4月7日にその打ち合わせがあったので、仕切り直し後の制作スタートはその時期ということになります。最後にミックスダウンした曲が「album」で2023年9月8日です。

●コロナ禍もあったけど、今年の春に短冊CD企画の『ムーンライト・Tokyo』のリリースが発端となり、ホールドしていたファースト・ソロ・アルバムの制作プランが再浮上して、一気に進んだ感じですね?

ムーンライト・Tokyo』

◎吉田:そうですね。もっといえば、実はあのシングルのカップリングは別のアーティスト楽曲のカバーを予定していたのですが、カバー申請したところ、CDのデータ納品日までにYESもNOも返事が返ってこなかったんですよ。
まあカバーする際に申請などでトラブルが色々起こることは経験上知っていたので、そういう事もあっていいようにそのカバーを制作しつつ、トラブルがあった場合は、その時点である程度完成していた「ふたりで生きてゆければ」に差し替えるという案も最初の打ち合わせで決めていたのですが、僕の気が変わって急遽「Don’t Ask Me Why」に変更したことで、急にアルバムをどのようなものにしたらいいかが見えてきたので一気に進んだ、という流れでした。

●いずれもWHY@DOLLへの提供曲で、私個人は「ふたりで生きてゆければ」は悪い曲ではないと思いますが、よりドラマティックな「Don’t Ask Me Why」の方が好みだったので、先行の短冊CDでカップリング収録されたのは嬉しかったです。しかしそんな急遽な変更だったんですね。どういった心境だったんでしょうか?

◎吉田:「Don’t Ask Me Why」は歌詞が女性視点の歌詞であることが主な理由で、そもそもアルバムに入れるつもりもなかった曲だったんですよ。「ムーンライト・Tokyo」ができた後、「ふたりで生きてゆければ」のヴォーカルを録音して完成させ、納品日間近にCDの収録順に並べて聴いてみたところ、「あれ?なんか思っているシングルの完成形のイメージと違う…」と違和感を覚えました。
先も話したとおりカバー曲も完成させていたけど収録はダメ、こっちも流れとしてダメ、となったときに、残り時間が一週間もない状況でしたが、単にアナログにしか入ってない曲のCD化みたいなものを2曲目に入れる事もしたくなかったし、女性視点の歌詞なのが理由で収録しないのもバカらしいと思い「Don’t Ask Me Why」を選びました。5月3日に南こうせつさんの『31th グリーンパラダイス』を日比谷野外音楽堂に観に行って「夢一夜って女性視点の歌詞だよな。女性視点の詞を男が歌うのもいいなあ。」と改めて思ったのも影響しています。

●曲作りやリアレンジ、レコーディング中の特筆すべきエピソードを聞かせて下さい。

◎吉田:まず、セルフ・カバーが多い理由から説明しますと、先に話したとおり、世界はコロナ禍に入ってしまい、ソロ活動はスタートしてすぐお釈迦になり、楽曲提供したアイドルも引退したりと、僕にも当然のように時代の重い空気が忍び寄ってきました。更にオリンピックをめぐるあれこれやロシアによるウクライナ侵攻、更にまさかの四十肩も発症してしまい、作業もろくに出来なくなっていた事もあり、コロナ禍は生死や年齢やこれからの人生、過去に好きだったものへの疑念が生じたり、逆に再発見があったりと、結果的に自分自身の音楽に対しての向かい方を見直す期間になっていました。
その後、コロナ禍も多少の落ち着きが見られるようになり、そろそろ活動を一からやり直そうと、きっかけとして2000年くらいからコロナ禍直前までの過去の自身の楽曲を見返したところ、あまりにも(結果的にですが)打ち捨てられた曲が多いことに愕然としたと同時に、(年齢的な事もありますが)無理矢理ゼロから新しい事をやって再デビュー的なアルバムを作るよりも、ここらで一度自分を俯瞰で見られる、人に見せられる総括的なアルバムを作った方が良いだろうと判断しセルフ・カバー中心としました。
また別の角度から見れば、深刻なアイドル楽曲歌い継ぎ問題への一つの回答、ともいえるかもしれません。自分の曲は自分で守るしかないというか。 
たまたま2019年の時点で製作していたアルバムの仮タイトルが、サマセット・モーム(イギリスの小説家、劇作家/1874年~1965年)から引用した『The Summing Up(要約すると)』だった(第一弾シングル『ひとめぐり』というタイトルもモームの戯曲からの引用)事もあり、結果的に内容にも合致したタイトルになったので、パズルがはまった感がありました。

セルフ・カバーが多いとはいえ、シングル曲も含め全ての曲のデータを音色差し替えや弾き直し、リアレンジや再ミックスがなされていたりと、当初考えていたよりもずっと濃密な約5ヶ月の制作期間となりました。
レコーディング前の話になりますが、2022年末にNORD GRAND(NORD社の88鍵ステージピアノ)を購入したので今回、ピアノはそれのみを使用と制限したことで作業に弾みと統一感が出たように思います。
ほわどるへの提供楽曲の、メロディー・パートは男性キーなので1オクターブ下となりますが、コーラスやハモ・パートは彼女たちのキーで歌っております。なんとかファルセットが出せて記録として残せて良かった。
他にも、アルバム制作中にX(旧twitter)でエゴ・サーチをしていたところ”『キーファー・サザーランドみたいな奴』(2004年/吉田哲人 & ラブ・サウンズ名義)をようやく手に入れた”という内容のポストを見つけて「そういえばこの曲、MIDIデータも残っているなぁ。この曲を収録したらより回顧録的アルバムになる。」と考え、当時のデータを活かしつつ音源が違うことによる、ほんの少しのリアレンジを施し、2004年の僕との共演を果たしました。
また、完成が近づいてきたときにアルバムの全体像をみたところ、もう少しアレンジのバリエーションが欲しいなと思い『ラブ・ストーリーは週末に』を一度ラヴァーズ・ロック風にしたのですが、世間一般的なイメージどおりのラヴァーズ・アレンジ・カバーになってしまい、あまり面白味がなかったので、素直にいいと思って提供した元のアレンジに近い雰囲気に戻しました。ただ、今は原曲にあるシティなテイストはちょっとなあと感じたので、オリジナルにあったテイストは抑えめにして仕上げました。
アルバム全体の話になりますが、本当はもう少しゲスト・ミュージシャンを入れようかと思っていたのですが、せっかくのファースト・アルバムなので殆どを一人でやってみようと思い直し、必要最小限の人数に留めたので、吉田哲人の個が見えやすく仕上がっていると自負しております。

『The Summing Up 
William Somerset Maugham

●国内外の社会情勢や自身の健康問題など自分を見つめ直す期間が創作に影響したようですね。お答えの中で、ウィリアム・サマセット・モームや過去曲でキーファー・サザーランド(カナダ人俳優/1966年~)という固有名詞が非常に気になりましたが、学生時代からモームの小説を愛読したり、キーファーが出演した映画を観ていたことが創作のインスピレーションになっていましたか? 
ところで「キーファー・サザーランドみたいな奴」は、太田幸雄とハミングバーズの「スティーヴ・マックイーンみたいな奴」(1970年)を意識していますよね?(笑) 

◎吉田:マッカーシーとかもありますしね(笑)。モームの作品は、僕よりも上の世代は試験に出るくらい馴染みがある作家だった様ですが、僕らの頃にはそういうことは無くなっていました。モームに触れたのはここ10年くらいの話で『サミング・アップ』が最初でした。
キーファー・サザーランドはこの曲を作ったとき『24』をDVD購入するくらい好きだったのもありますし、おっしゃるとおり曲自体は『スティーヴ・マックイーンみたいな奴』を意識していますので、現代のスティーヴって誰かなと考えたときに、すぐキーファーだと思ったんです。『contemode V.A.2』収録の吉田哲人 & ラブ・サウンズ名義の方は、より太田幸雄とハミングバーズを意識した感じになっています。


●VANDA誌の読者時代に愛聴していたソフトロック曲を10曲ほど挙げて下さい。

 
吉田哲人 プレイリスト
◎吉田:楽曲を選ぶときはいつもコンピレーションを作る感覚、もしくは、DJ時の選曲の感覚があり流れも重視しているので、結果的にサブスクの方は50曲(最初は100曲近くあったのをなんとか絞って)選んでいるのですが、こちらはその中でも特に思い入れのある曲やDJでよく使っていた曲、10曲を選びました。
順不同。
■Adventure monsters / Instant Cytron 
(『CHEERFUL MONSTERS』/ 1997年)
■LOVE HIM / 赤い鳥 (『WHAT A BEUATIFUL WORLD』/ 1971年)
■It Doesn’t Matter Anymore / The Cyrkle (『Neon』/ 1967年)
■That’s All I Really Need / Springfield Rifle
 (『Springfield Rifle』/ 1968年)
■Turn-Down Day / The Cyrkle (『Red Rubber Ball』/ 1966年)
■Hope / The Carnival(『The Carnival』/ 1969年)
■Frenesi / The Alan Copeland Conspiracy
 (『A Bubble Of You』/ 1967年)
■Sempre Existe Alguem / Trio Ternura (『Trio Ternura』/ 1971年
■I’ve Never Seen Love Like This / Orpheus (『Orpheus』/ 1968年)
■Up, Up and Away / Sammy Davis Jr. (『Lonly Is The Name』/ 1968年)



【吉田哲人ライブ情報】

リリース直後の11/23に、浅草KAMINARIにて『MUSIC IS ENOUGH vol.15 〜テット博士のリリース・パーティ〜』があります。

 『MUSIC IS ENOUGH vol.15 ~テット博士のリリース・パーティ~』
浅草KAMINARI
2023.11.23(祝日) 
OPEN 17:00 / CLOSE 22:00
料金1,000円

DJ: 
吉田哲人
長谷泰宏(ユメトコスメ)、臼山田洋オーケストラ
浅草KAMINARI (@ASKS_KAMINARI


11/26に、中野heavysick ZEROにて
『ROMANTIC TECHNOLOGY 96 ~10th Anniversary Party~』。
こちらはテクノのライブ・イベントです。

ROMANTIC TECHNOLOGY 96 
10th Anniversary Party 
2023.11.26(日) 
中野heavysick ZERO
OPEN&START 16:0
ご予約¥3500(1ドリンク別) 
当日券¥3800(1ドリンク別) 

-LIVE- 
おわりからはじまり
吉田哲人
Sigh Society、Cherryboy Function、アシッド田宮三四郎
Mitaka Sound、サトウトモミ、inko、CrazyRomantic

 -DJ- 
サカエ コーヘイ、FQTQ、本間本願寺、
Kamaida Negami、Cyte、mukuro-jima

−VJ−
PORTASOUNDS、4DK

-FOOD-
ラブエイジア四ツ谷



そしてリリース・ライブ・イベントが12/3に、神保町試聴室にて 
『吉田哲人”The Summing Up”発売記念ライブ』です。
ゲストにインスタント・シトロンの長瀬五郎さん、カノサレ、Hau.、
ユメトコスメという豪華キャストをお招きして開催いたします。

吉田哲人「The Summing Up」発売記念ライブ
2023.12.3(日) 
神保町試聴室
 OPEN 16:00 / START 16:30 
予約 3500円 / 当日 4000円
(1ドリンク, スナック込)

出演:
吉田哲人
カノサレ、長瀬五郎(INSTANT CYTRON)、
Hau.、ユメトコスメ



12/8にはファロ大學 芸術学部 講座『ラフからフィニッシュまで』
というイベント講座で、「曲、そしてアルバムづくり編」と題し、
アルバムのあれこれをトーク致します。

ファロ大學 芸術学部 講座『ラフからフィニッシュまで』
「曲、そしてアルバムづくり編」
珈琲 FALO
2023.12.8(日) START 19:00
聴講料:2,500円

講師:吉田哲人/作編曲家





(インタビュー設問作成、本編テキスト:ウチタカヒデ








2023年11月12日日曜日

Ellie:『90s Baby』(Happiness Records/ HRBR-029)


 ラヴ・タンバリンズ(Love Tambourines)として、1993年にシングル「Cherish Our Love」でデビューして30年。ヴォーカリストのEllie(エリ)がフォース・アルバム『90s Baby』を11月15日にリリースする。
  前作『NEO BITCHIZM(ネオ ビッチズム)』(HRBR-019)から3年、同作プロデューサーの SWING-O を再び迎え、音楽活動30周年となるアルバムをクラウドファンディングによるプロジェクトで制作された本作は、彼女にとって記念碑的作品であり原点回帰とも呼べる内容になった。 

  Ellie 名義では96年のファースト『Bitch In Zion』を皮切りに、2018年『Stay Gold』、前作『NEO BITCHIZM』と寡作であるが、eli名義の『Rita』(2007年)を含めると、本作でソロ・アルバムを5作品発表している。何より彼女をアイドル視しているタレントの千秋など芸能界にまで熱烈なファンがいることでその影響力は計り知れるだろう。
 彼女が所属したラヴ・タンバリンズは1991年に結成され、93年にDJ兼クラブイベント・オーガナイザーの瀧見憲司氏が主宰するCrue-L Recordsからシングル「Cherish Our Love」でデビューした。94年のシングル「Midnight Parade」のヒットで人気に火が付き、翌95年のファースト・アルバム『Alive』が異例の10万枚以上のセールスを記録する。残念なことに同年末にはメンバーの音楽的方向性の違いにより、僅か4年間の活動で解散したことで、その存在は伝説化した。


 本作に話を戻すが、前作同様プロデュースと全てのアレンジはキーボーディストのSWING-Oで、本作では9曲中5曲の作曲をEllieと共作している。現在FLYING KIDS のメンバーだが、これまでにKyoto Jazz Massive、CHARA、KREVA等への楽曲提供やプロデュース、ツアー・キーボーディストとしての実績があり、参加作品は150作を超えた気鋭のキーボーディストなのだ。またレコーディングに参加したサポート・ミュージシャンも前作から継続メンバーが多く、ベーシストのSUNAPANNGこと砂山淳一とドラマーの久保正彦、ギタリストの伊原“anikki"広志、パーカッションの米元美彦。またラヴ・タンバリンズ時代からのサポート・メンバーで、真心ブラザーズ、奥田民生などのセッションにも参加しているトランペッター兼パーカッショニストの西岡ヒデロー、アコースティック・ギタリストでせどこうじが新たに参加している。因みに伊原は1曲、せどは3曲の作曲をEllieと共作し本作に貢献している。
 エンジニアリングとミックス、マスタリングは、初期ラヴ・タンバリンズのパーカッショニストで、流線形のサブメンバーでもある平野栄二が前作同様に担当しており、彼が主宰するスタジオ・ハピネスでレコーディングされている。

 ここでは筆者による全収録曲の詳細な解説をお送りする。
 冒頭の「キミに夢中」は10月18日に先行配信されたシングルで、レゲエのリズムで歌われるピースフルなラヴソングだ。以前よりEllieが支援している南相馬と杉並のトモダチプロジェクトの関係者、クラウドファンディングの応募で集まった一般参加者ら大人数によるコーラスとハンドクラップは壮観である。
 何より共作者であるSWING-Oのオルガンを中心とした、リズム・セクションの大らかなグルーヴの気持ちよさに尽きる。本格的なトーキング・スタイルのEllieによるコーラスも聴き逃せない。

 
Ellie - キミに夢中(Official Music Video) 

  続く「Hey Mr.DJ」は、SWING-Oとの共作による硬質なディスコ・ファンクで、歌詞のテーマも東京のナイトクラビングがベースになっている。やはりこの手のサウンドでは、SUNAPANNGのベースと久保のドラムのプレイが前面に出ており、伊原の16ビートのカッティングも加味して疾走感がたまらない。SWING-Oによるトークボックス、70年代後半のディスコ・ムーブメントで多用されたコーラス・スタイルなどマニア心をくすぐる。
 一転して西岡によるトランペット・ソロのイントロから始まる「Talk 2 Me」は、メッセージ性のあるスケールの大きいソウル・ナンバーで、Ellieのネイティブ・スピーカー並みの英語歌詞のヴォーカルやコーラスの表現力が聴きものだ。作曲にはせどが加わっている。 

Midnight Parade
Love Tambourines

 プレスキット入手後、ファースト・インプレッションで真っ先に惹かれたのが4曲目の「Longtime Woman」だ。前作でリメイクされたラヴ・タンバリンズ時代の傑作「Midnight Parade」を彷彿とさせる、ミッドテンポのブルース・ファンクで、レニー・クラヴィッツの『Are You Gonna Go My Way』(1993年)を愛聴していた筆者には直撃であった。共作者の伊原によるハードなリード・ギターを相手にEllieのシャウトが炸裂し、ホーン・アレンジのヴォイシングのセンスなど含めサウンド全体が一級品であり、ライヴで聴きたい曲の最有力候補ではないだろうか。
 前曲からクールダウンさせる「Get Emotional」と、続く「Feeling Better」は全てのキーボードとプログラミングを共作者のSWING-Oが担当しており、両曲とも90年代初期のスイング・ビートをルーツとするR&Bだ。前者はエレガントなデジタル・シンセのピアノのコード・ワーク、テンションで鳴っているリード・シンセとシンコペートするストリングス・シンセのコントラストが効果的で、後者はよりドープなリズムトラックにラテンなエッセンスをアクセントにしている。いずれも少ない音数のサウンド空間で、Ellieの巧みなヴォーカルとコーラスを引き立てている。

 本作収録曲中やや異色かも知れないが、フィラデルフィア・ソウル風のオールド・スクールなコーラス・ワークから始まる「マスク越しのキス」は愛すべきスウィートなラヴソングである。共作者のSWING-Oによりプログラミングされたヒップホップ・ライクなドラムトラックに、SUNAPANNGによる重低音響くウッドベースのコンビネーションが意外にもマッチしている。コロナ禍の恋愛事情をテーマにした、Ellieによる歌詞のセンスもチャーミングで素晴らしい。
 初期のリンダ・ルイスや『Perfect Angel』(1974年)の頃のミニー・リパートンを彷彿とさせる、フェンダー・ローズ系エレピとアコースティック・ギター、パーカッションだけの編成の「おなかすいた」も埋もれてならない隠れた名曲だ。Ellieとバンド・メンバーによる無垢なコーラスや歌詞に「Try a little tenderness」と、オーティスの名曲の一節が不意に出てきてハッとさせられた。アコギを担当したせどとの共作である。
 ラストの「Very Special Day」は、再びアコギのせどとの共作で、SWING-OのエレピにSUNAPANNGと久保のリズム隊がバックアップした、ラヴ・タンバリンズ時代の「Marry Me Baby」にも通じる風通しの良いフリーソウル系ラヴソングだ。普遍的でナチュラルな歌詞も相まって、若いリスナーにもアピールするだろう。EllieのヴォーカルにSWING-Oがコーラスをつけている。

 総評として全曲のアレンジを手掛けたプロデューサー、SWING-Oの豊富なアイディアと、レコーディングに参加した全てのミュージシャン達の活躍により、前作以上にバラエティーな楽曲構成となり、各時代のEllieファンにアピール出来る全天候型なソロ・アルバムになったと言える。
 レビューを読んで興味を持った音楽ファンは、是非入手して聴いてみてほしい。

(テキスト:ウチタカヒデ


2023年11月5日日曜日

青野りえ:『TOKYO magic』(FLY HIGH RECORDS / VSCF-1778(FRCD-073))リリース・インタビュー


 女性シンガー・ソングライターの青野りえが、サード・アルバム『TOKYO magic』を11月15日にリリースする。 
 昨年3月のセカンド『Rain or Shine』(VSCF-1778)は、ファーストの『PASTORAL』(VSCD-3197/2017年)以上に音楽通のシティポップ・ファンの間で話題となり、今年5月には同アルバムのリリース・ライブの実況録音『Live in Tokyo 2022』を自主制作盤としてリリースしたのも記憶に新しい。 
 前2作のオリジナル・アルバムが鬼才シンガー・ソングライターの関美彦によるプロデュースだったのに対し、本作は幣サイトでもお馴染みのThe Bookmarcsのメンバーで、作編曲家の洞澤徹が手掛けている。2021年10月に配信リリースしたシングル「Never Can Say Goodbye」以来のタッグが、フルアルバムとして結晶したことは非常に喜ばしい。 

  前文の通り本作『TOKYO magic』は、洞澤が作編曲とプロデュース、演奏面でも全てのギターとプログラミングをしていることで、サウンド・プロダクション的にはThe Bookmarcs(以降ブクマ)のそれに通じている。今回のレコーディングに参加したドラムの足立浩とベースの北村規夫をはじめ、サックスの伊勢賢治も2021年の最近作『BOOKMARC SEASON』でプレイしている。またセカンドの『BOOKMARC MELODY』(2018年)に参加したハープ奏者の池田桂子、洞澤がブクマ以前に組んでいた男女ユニットmanamanaやサポートしていたdahlia時代から共演しているフルート奏者の吉田一夫がそれぞれ1曲に参加している。そしてゲスト・コーラスとして、ブクマのヴォーカルである近藤健太郎が1曲参加しているのも注目したい。 
 レコーディングとミックスは洞澤がホーム・スタジオでおこない、マスタリングは多くの作品も手掛け実績のあるマイクロスター佐藤清喜が担当している。ひと際印象に残るアルバム・ジャケットのアート・ディレクションはインタビューでも触れているが、青野自身が手掛けており、ポートレート撮影は星野泰晴によるものだ。

 ここでは筆者による全収録曲の詳細な解説、また本作の曲作りやレコーディングについて青野におこなったテキスト・インタビューと、ソングライティングやレコーディング期間中にイメージ作りで聴いていたプレイリストをお送りするので、聴きながら読んで欲しい。 

青野りえ『TOKYO magic』全曲試聴トレイラー

 では収録曲の解説をしていこう。冒頭の「TOKYO スクランブル」は、9月5日に先行配信リリースされたリード曲で、モジュレーションが変化していくシンセサイザー・パッドが印象的なハッシュ系のダンス・ミュージックだ。足立の生ドラムとシンセ・ベースのコンビネーションが肉感的で、青野としては新たな一面を見せたグルーヴで新鮮に聴けるだろう。またアルバム・コンセプトである“ファンタジックなTOKYO(東京)”をイメージした歌詞の世界観がうまく表現されていて、韻を踏んだサビの歌声のリフレインが耳から離れない。 
 続く「Sync of Stars」は、足立と北村のリズム隊とプログラミングされたパーカッションのポリリズムに洞澤のギター・カッティングが絡んでいく、疾走感のあるシティポップで、松任谷由実のツアー・メンバーを長年務める伊勢の一級のアルトサックス・ソロに魅了される。また全般で青野自身によるシルキーな多重コーラスもクールな歌詞を演出していて完成度が高い。 
 軽快な等身大のラヴソングである「ジンライムの恋人」は、ウォーターフロントのバーでデートする若いカップルの姿を描いている。サウンド的にはフェンダー・ローズ系エレピの散りばめ方、クリシェで下降するヴィブラフォンのオブリガードなどよく練られている。
 一転してカーティス・メイフィールドなどの70年代ニューソウルの匂いがする「Night and Day」は、青野としては新境地だろう。洞澤による複数の巧みなアコースティック・ギターから構築された上層部と、アフロ・ファンクなリズム隊の土台が独特のグルーヴを生んでいる。この様にサウンドが一変しても安定した世界観を作っている青野の表現力はやはりプロフェッショナルと呼ぶしかない。

 前曲のインパクトから振り子が戻されるような、静かなラヴソング「Sailing」はこの普遍さが聴く度に心に染みてくる名曲である。王道のコード進行と言えるが、洞澤のアレンジ・センスで聴き飽きない。『elfin』(1987年)から『retour』(1990年)までの主に佐藤準がアレンジを手掛けた、今井美樹のアルバムを愛聴するファンは聴くべき曲である。
 未発表収録曲の内、筆者がファースト・インプレッションでベストトラックに挙げたのが「ムーンライト・カクテル」だ。シカゴソウル系のリズム・パターンに、ホーン・シンセや青野自身によるコーラスが効果的に被さっていくサウンドが心地良い。ブクマでは「Let Me Love You」(『BOOKMARC MUSIC』収録/2017年)のサウンドに通じるが、よりリズミックになってシンコペーションの輪郭が浮かび上がっている。
 ブリッジの歌詞「摩天楼の先まで 三つ数えて・・・」(これは1コーラス目)での巧みなテンポ感やアクセント、サビの表現力などシンガーとして青野の魅力が堪能できるのだ。
 吉田のフルートが効果的な「Eyes」は、「Night and Day」同様ニューソウル・ルーツのサウンドで、カーティスよろしくワウワウをかました洞澤のギター・カッティングや、池田のハープを含む緊張感のあるストリングス・アレンジなど、この曲も青野としては新境地ではないだろうか。サウンドに呼応するミステリアスな歌詞にも非凡な才能を感じさせる。
 再びライトメロウな「ビタースウィート・アワー」は、ブクマ名義で発表しても不思議ではない曲調とサウンドであり、それもその筈で近藤がコーラスで参加している。詳細はインタビューでも触れているので読んでほしい。洞澤のギターについては、デイヴィッド・T・ウォーカーを意識した多彩なプレイが繰り広げられ、不毛の愛を綴った歌詞の世界を演出している。 

 
青野りえ「Never Can Say Goodbye」MV

 そして本アルバム制作のきっかけとなった、青野と洞澤の2021年の初コラボレーション曲「Never Can Say Goodbye」が、このポジションに収録されているのはよく計算されている。配信リリース当時、事前にプレスキットを聴かせてもらった際、唐突なドラムフィルのイントロから「Never can say goodbye(さよならなんて、言えないわ)」のサビのコーラスという、完璧でドラマチックなスタートに初見でノックアウトしてしまった。
 ヴァースのグルーヴは当時筆者も聴き込んでいたベニー・シングスの「Music」(2021年)に通じていて、Real Thingの「Rainin' Through My Sunshine」(1978年)や山下達郎の「あまく危険な香り」(1985年)を愛する音楽通も許容するであろうクール・サウンドで、悪い訳が無いという感想だった。とにかく理屈抜きに大好きな曲なので7インチ化して欲しい、いやして下さい!
 ラストの「夢のほとり」は、洞澤による複数のアコースティック・ギターのみをバックにした、東京の夜の情景を綴った詩情溢れるバラードだ。音数が少ないバッキングなので、青野の表現力がより聴ける、本作のアンコールとして相応しい曲なのである。

~洞澤さんの曲はとにかくメロディが美しくてキャッチーなので、
これまでより多くのリスナーに聴いてもらえる作品が作れた~ 

●本作は前作『Rain or Shine』からのリリース・ペースが約1年半ということで、『PASTORAL』からのインターバルと比べれば、かなり縮まりましたね。
やはり『Rain or Shine』と同作のリリース・ライブが高評価にされたことで、創作意欲が高まったということでしょうか? 

◎青野:まず『Rain or Shine』の前に「Never Can Say Goodbye」の配信リリースがありました。時期的に、アルバムの先行配信みたいなタイミングだったので、関さんから「Never Can Say Goodbye」も『Rain or Shine』に収録したほうがよいのでは、という話も出たんですけど、私としては、関さんの作品と洞澤さんの作品はきちんと分けてパッケージしたい思いがあったので、敢えて入れませんでした。
そして「Never Can Say Goodbye」を収録するための洞澤さん作品は別で作ります!というのは2022年3月の時点で公言していましたので、あまり時間を空けずに作らなければいけないという使命感みたいなものがあったと思います。

●「Never Can Say Goodbye」は配信リリースのみのシングルながら、当時から注目されて今でも聴き続かれている名曲ですからね。関さんと洞澤さんの作品はきちんと分けてパッケージしたいという、アルバム=トータリティな作品集にしたいという拘りに、青野さんの美意識を感じます。
お二人のソングライティングとサウンド・アプローチの違いをどのように捉えていますか? 

◎青野:関さんの音楽は、世界観みたいなものがはっきり決まっていてブレないので、どんなアプローチをしても最終的にセンスの良い関さんの作品になります。なので音楽に関して私は口を出すことなく、安心して全てお任せしていました。 
洞澤さんは作・編曲家としての幅が広いので、ジャンルや方向性についてはある程度話し合って相談しながら作品をまとめていくような感覚がありました。私の要望にも応えてくださったり、私がこれまで歌ったことのないジャンルを試してくださったりしたことで、シンガーとして幅広い表現ができました。 洞澤さんの曲はとにかくメロディが美しくてキャッチーなので、これまでより多くのリスナーに聴いてもらえる作品が作れたと思います。


●本作の曲作りとレコーディングに入った時期を教えて下さい。またプロデューサーが関美彦さんからThe Bookmarcsの洞澤さんに変わったことで、曲作りやレコーディングの方法や進め方も異なっていると思いますが、直ぐに慣れましたか? 

◎青野:最初に洞澤さんと打ち合わせしたのが2022年10月。最初の曲のデモが届いたのが年末で、そこから少し間が空いて、本格的に制作モードになったのは2023年7月です。
そこから締め切りの8月末まで、2ヶ月くらいの間のラストスパートがなかなかハードでした。この2ヶ月で9曲の歌詞を絞り出すように書きました。
洞澤さんとの制作では、途中のアレンジで曲の印象が変化していくので、最初のデモから完成形を想像するのが初めは難しくて、初期段階で歌詞をうまく書けなくてとても焦りましたね。

●スタートから少しブランクがあってリリースのスケジュール・プランが固まって、スパートをかけるという感じですね。曲先ということで、デモはM1、M2、M3・・・という風に渡されると思いますが、今回短い期間で歌詞作りは大変だったと思います。イメージ作りでインスパイアされたものは何かありましたか?
また『Rain or Shine』リリース時のインタビューで、関さんの場合、弾き語りのボイスメモを基に彼がサジェスチョンしながらセッション・メンバーとヘッドアレンジしてレコーディングしていく方法でしたが、本作での洞澤さんとの場合は具体的にどうでしたか?

◎青野:作詞のお手本は昔から変わらずユーミンと大貫妙子さんです。私はヴォイストレーナーの仕事もしているんですが、生徒さんがレッスンで歌う曲から最近のJ-POPを知る機会が多いので、自然と最近のものからも影響を受けていると思います。
例えば、藤井風さんの歌詞の自由な作風はとても良いなと思います。
今回のアルバムのテーマはTOKYOなので、久しぶりに東京タワーの展望台に上って東京の夜景をじっくり眺めたり、隅田川沿いを散歩したりしました。歌詞のヒントも見つかりましたし、「TOKYO スクランブル」のジャケット用の写真も撮れました。

洞澤さんとの制作は、まず洞澤さんからシンプルなアレンジのデモが送られてきて、それに私が仮詞と仮歌を録音して洞澤さんに返します。洞澤さんはそれを元にさらにアレンジを膨らませてゆき、仕上げていく感じです。 関さんのプロジェクトでは参加メンバーと一緒にアレンジが作られていきますが、洞澤さんは基本的に1人で最後まで仕上げるタイプで、必要な部分だけミュージシャンの方に演奏をお願いされています。


●レコーディング中の特筆すべきエピソードをお聞かせ下さい。
プロデューサーの洞澤さんをはじめ、レコーディング・セッションに参加したミュージシャンの方々の 印象についてもお願いします。

◎青野:今回はスケジュールがタイトだったこともあり、楽器のレコーディングには私はなかなか顔を出せなくて、リズム隊のお二人のレコーディングに1時間ほど立ち会ったのみです。
足立さんと北村さんはThe Bookmarcsのライブでも何度かご一緒していて、洞澤さん含め、皆さん和やかでほっこり安心できるお人柄だと思います。フルートの吉田一夫さんとは昔同じバンドでボッサやショーロを演奏していたこともあるのですが、今回はお会いできませんでした。サックスの伊勢賢治さんもリモート録音でした。
今回はとにかく私の歌詞が書けなくて制作も遅れ気味だったのですが、洞澤さんは穏やかに待っていてくださったので、ほんとうに寛大な方だなあとつくづく、感謝しています。(泣)

●レコーディングのメンバーは、やはりThe Bookmarcsのセッションのレギュラーが多いですね。それと7曲目の「Eyes」で印象的なフルートをプレイしているのは吉田一夫さんでしたか。彼はsaigenjiやチェロ奏者の徳澤青弦らとbastante(バスタンチ)というブラジリアン・フュージョン・バンドを組んでいた2000年に知り合いました。青野さんは吉田さんとバンド組んでいた時期があるんですね!業界は狭いです(笑)。
続く「ビタースウィート・アワー」ではThe Bookmarcsの近藤健太郎君のコーラスが聴こえますが、「君の気配」でデュエットした以来で、彼の参加も嬉しいですね。

◎青野:近藤さんには是非コーラスで参加してもらいましょうね、と打ち合わせの時から洞澤さんと話していました。
近藤さんに歌っていただいた部分は、「ビタースウィート・アワー」の中でも重要な部分です。
一節だけですけど、近藤さんの声は存在感があって、とても素敵に仕上がりました。コーラスは男性の声が入ると低音の厚みが出るので、他の部分も近藤さんに歌ってもらいたかったです。

~どこか幻想のフィルターがかかっていて、実際とは少し違う街。
そんなファンタジックなTOKYOをテーマにアルバムをつくりました~ 


 ●青野さんのアルバムはジャケット・デザインにも定評がありますが、本作のデザイン・コンセプトについてお聞かせ下さい。

◎青野:『TOKYO magic』のテーマは「外側からみた東京」なんですけど、このコンセプトで思い出したのがスティーリー・ダンの『Aja』のジャケットです。
『Aja』は音楽的にも最高ですけれども、ジャケットも大好きで、日本人の山口沙夜子さんがモデルをされていますよね。暗闇に女性の横顔と着物の袖がほんのりと浮かび上がっている、黒と赤と白のコントラストが目を引く作品です。’70年代にこの素敵なジャケットを見て、海外のリスナーはきっと日本について素敵な想像をしたんじゃないかなと思います。
『TOKYO magic』ではこの世界観を現代風にアレンジしてデザインしました。あくまで世界観の、思想的なオマージュなので、パロディではないです。フォントや構図にもかなりこだわって時間をかけて作りました。ジャケットもぜひチェックしていただけると嬉しいです。 

●スティーリー・ダンのアルバムを10代後半から愛聴している私も、『Aja』はジャケット・デザインを含め比類なき完成度だと思います。
このジャケットをオマージュされた青野さんの細部にわたる拘りに敬服します。媒体ごとに発色が異なるとのことで、使用するデータを分けていらっしゃるとか?

◎青野:ジャケット等のデータはWEB用(RGB)と印刷用(CMYK)でカラーモードを使い分けるのが基本なのですが、今回の『TOKYO magic』のジャケットは特に、RGBとCMYKで色の違いが大きく出てしまい、印象がかなり変わってしまうので、各媒体の方には使い分けをお願いしています。


●ソングライティングやレコーディング期間中、イメージ作りで聴いていた曲をプロデューサーの洞澤さんと10曲ほど挙げて下さい。

 
青野りえ
・夏に恋する女たち / 大貫妙子(『SIGNIFIE』1983年)
・Aja / Steely Dan(『Aja』1977年)
・Photograph / Astrud Gilberto(『The Astrud Gilberto Album』1965年)
・Night And Day / Everything But The Girl 
(『Essence & Rare 82-92』1992年) 
・帰ろう / 藤井風(『HELP EVER HURT NEVER』2020年)


洞澤徹
・Infinity girl / Stereolab 
 (『Cobra & Phases Group Play Voltage in Milky Night』1999年)
・When I’m in Your Arms / Creo Sol(『Rose in the Dark』2020年)
・悲しいほどお天気 / 松任谷由美 (『悲しいほどお天気』1979年)
・Pastoral / 青野りえ (『Pastoral』2017年)
・昨日からの会釈 / 伊藤美奈子(『TENDERLY』1982年)


●リリースに合わせたライブの予定が判明していればお知らせ下さい。

◎青野:『TOKYO magic』発売を記念してワンマンライブを行います。
今回のアルバムのプロデューサー洞澤徹さん、極上のリズム隊・伊賀航さんと北山ゆう子さん、The Bookmarcsのサポートでもお馴染みのジャズピアニスト佐藤真也さんという、新鮮なメンバー構成での特別なライブです!

 ▪️2023年11月23日(祝・木)
【青野りえ『TOKYO magic』発売記念ワンマンライブ】
【会場】渋谷7th Floor(セブンスフロア)
東京都渋谷区円山町2-3 O-WESTビル7F
TEL 03-3462-4466 
【時間】OPEN 18:30 / START 19:00
【料金】予約¥3,500 (+1drink)/当日¥4,000 (+1drink)
【ご予約フォーム】https://forms.gle/nAnPRJoKXxDWExRq7 
【出演】
青野りえ(Vo.)
洞澤徹(G.)
伊賀航(B.)
北山ゆう子(Dr.)
佐藤真也(Pf.)


●では最後に本作『TOKYO magic』のアピールをお願いします。

◎青野:ここ数年盛り上がりを見せているシティポップですが、
海外の人達がシティポップを聴きながら想像する東京はどんな街だろう、と、
ふと思うことがあります。
きっとそれは、どこか幻想のフィルターがかかっていて、実際とは少し違う街。そんなファンタジックなTOKYOをテーマにアルバムをつくりました。
洞澤徹さんの美しいメロディと音楽愛がたっぷり詰まったアレンジとともに、TOKYOの魔法をお楽しみください!

【青野りえのサインCD屋さん】https://aonorie.booth.pm/items/5125059
※先行ご予約特典付、サインあり/無しを選べます。

(インタビュー設問作成、本編テキスト:ウチタカヒデ