2021年12月26日日曜日

WebVANDA管理人が選ぶ2021年邦楽ベストソング


 今年もWebVANDA管理人が選ぶ、邦楽の年間ベストソングを発表したい。 選出楽曲は今年リリースされ弊サイトで取り上げた作品を中心にアルバム(シングル)中最もリピートした収録曲で、アルバムを象徴する曲である。以前からだが、いかに個性的なアプローチをしたかが重要なリファレンス・ポイントになっている。
 昨年からのコロナ禍の影響はこの年末まで続いているが、徐々に回復してきているのも確かだ。本サイトで主に紹介するインディーズ・ミュージシャン達の作品を紹介することで、微力ながら彼らを応援し続けていきたいと思う。またこの記事で改めて知った各作品は、これからでも彼等の活動を後押しすることが出来るので是非入手して聴いて欲しい。選出趣旨からコンピレーション、カバー作品、配信のみの単体楽曲は除外とした。
 昨年同様、順位不同のリリース順で紹介する。


※サブスクに登録されたベストソング・プレイリスト


☆おこもりさん / シンリズム(7”『おこもりさん』収録) 
 流線形の『Talio』でオーケストレーションを担い、現在KIRINJI のツアー・メンバーでもある若きマエストロの最新7インチより。配信リリースは昨年で表向きは8分刻みの変哲のないポップスだが、アレンジの引き出し量の豊富さやアッパーストラクチャーのセンス、70年代ジャズロック風ギター・ソロのスケール感覚に至るまで、23歳の若者が一人多重録音で作ったとは思えない完成度だ。今後のソロアルバムも期待大である。


☆小さな手のひら / 吉田哲人(7”『光の惑星』収録) 
 作編曲家としてアイドル系楽曲で活躍している吉田が、シンガーソングライターとして発表したセカンド・7インチのカップリング曲。元々イベント・スペース存続のドネーション・コンピへの提供曲で、無垢なメロディラインと慈愛に満ちた詞の世界に一聴して虜になってしまった。バロック風アレンジの和製ソフトロックとして素晴らしい仕上がりだ。


☆City Nights / 前川サチコとグッドルッキングガイ 
『My Romance』収録)
 関西で活動する女性シンガーソングライターを中心とするバンドのサード・アルバムより。メンバーでArgyleのリーダーでもある甲斐鉄郎によるソングライティングで、多くのソウル・ミュージックの影響下にある良質なシティポップである。前川と甲斐のデュエットで歌われる本曲は、令和時代の「DOWN TOWN」(シュガー・ベイブ)と言えるだろう。 


☆反撥 / Francis (『Bolero』収録) 
 90年代東京を代表するバンドを渡り歩いたベーシストが、欧州ロマンティシズムのソロ・ユニットで唯一無二の才能を開花させた。今月7インチでシングルカットされたばかりのこの曲は、有機的に絡み合ったヒプノティックなグルーヴをバックにダンディな歌声を聴かせている。7インチのジャケはブライアン・フェリーの『In Your Mind』をミリターアート手法で処理したようでインパクト大だ


☆君の気配 / The Bookmarcs 
『BOOKMARC SEASON』収録) 
 2年前に配信されていた和製AOR~シティポップで今年リリースされたサードに収録された。作詞を手掛けた近藤健太郎の高域で響く甘くソフティな歌声に、ゲスト・ボーカルの青野りえによるレンジが広くテクニカルな声質が絶妙にブレンドされている。作編曲の洞澤徹によるデイヴィッド・T風ギター・プレイも聴きどころが多く、スタッカートで跳ねるサビのメロディを引き立てている。 


 ☆デジャヴ / bjons(『CIRCLES』収録)  
 数多のネオ・シティポップ・バンドとは一線を画し独自路線でポップスを追求するバンドのセカンドより。ドラマティックなギターリフのイントロから不安定で緊張感のあるヴァース~ブリッジを経て、開放感あるサビに繋がる構成は見事である。哲学的な歌詞も含め、彼らでないと作れないサウンドをクリエイトしており、引き算的アレンジによって手練なメンバー達のプレイが際立った。 


☆散歩娘 / ポニーのヒサミツ(『Portable Exotica』収録)
 アメリカン・ルーツミュージック系シンガーソングライター、前田卓朗のソロ・ユニットのフォース・アルバムの1曲。名ドラマー増村和彦によるセカンドライン・ファンクと沖縄民謡を融合させた独特なドラミングが肝となっている。前田の素朴で個性的なボーカルは環太平洋のエッセンスが加わっても健在であり、この牧歌的日常こそが美しいのだとしみじみ感じさせてくれる。


☆冬をとめて / RISA COOPER(『RISA LAND』収録)
 元D.W.ニコルズのメンバーでセッション・ドラマーとして活躍している岡田梨沙のソロ・ユニットのファーストより。交流の広さから様々なミュージシャンが参加しており、捨て曲無しのアルバムから一曲選ぶのは困難であるが、特徴的なイントロのギターリフ、リズム隊とコンガのコンビネーション、詩情溢れる歌詞からこのエバーグリーンな曲を選んだ。


☆Another world / Three Berry Icecream 
 元BRIDGEのキーボーディスト、イケミズマユミのソロ・プロジェクトのファーストより。典型的ソフトロックの美しいフォルムを持ったサウンドで、イントロ~ヴァースのボッサのリズムから三声コーラスがリフレインするブリッジを経て甘美なサビで解決する。複数パートと転調を経ても聴き飽きないメロディとアレンジは高評価したい。


☆ただの風邪 / KIRINJI (『crepuscular』
 堀込高樹のソロ・プロジェクトとなって初のアルバムより。弟の泰行との兄弟ユニットからスタートしバンド編成活動を経ても、高樹のソングライティングセンスはぶれることはない。2005年のソロ作『Home Ground』を愛聴していた筆者は、この冒頭曲にもシンパシーを強く感じてしまった。研ぎ澄まされたサウンドにはただため息が出てしまう。 

(選者:WebVANDA管理人 ウチタカヒデ

2021年12月22日水曜日

1974年 WAR 初来日公演(静岡駿府会館)

 今回は今年結成50周年を迎えたファンク・バンドWARの初来日公演体験を紹介する。そ1974年は初ライヴ・アルバム『War Live !』をリリースした翌年だった。当時は全米を制覇(R&B.も1位)した『The World Is Getto』(1972年)、全米6位(R&B.1位)を記録の『Deliver The Word』(1973年)で頂点を極めており、ソウル界代表する存在として全米のトップ・グループに君臨していた。


 この来日公演はそんな彼らのまさに全盛ともいえる黄金期で、絶好のタイミングだったといえる。とはいえ、この時期彼らの人気は(今もそうだが)日本で絶大だとは言い難かたった。その理由は抜群の演奏力を持った本格的なバンドではあったが、初期のEric Burdonのようなグループの顔となるようなメンバーが不在で印象が薄かったからかもしれない。それゆえ当時日本で彼らを支持していた有名人は、元モップスのヴォーカリスト鈴木ヒロミツ(注1)氏程度だった。 

 その初来日公演は、東京・大阪等の大都市に交じって静岡の駿府会館(注2)でも開催されている。ただ昔から静岡で開催される公演は客の入りが悪く、業界では「鬼門」(注3)とされていた。それゆえチケットは入手したが、実際に開催されるかは、当日まで不安交じりだった。 そんな思いで会場に向かったが、今回は開場されており、胸をなでおろした。
 ただ会場の入りは半分程度で、近隣の席にいた熱狂ファンは、「あのWarが静岡まで来てくれているのに、なんだよこの集まり具合は!」と愚痴っていた。とはいえ無事コンサートは開催されたのだからメデタシ・メデタシという思いだった。

  開演時間をわずかに過ぎると、リラックスした雰囲気でメンバーが登場。ステージ上から「Hello」「KONBANWA」とコメントしながら、楽器のチェックが始まった。 
 そして、唐突にB.B.Dickersonのどっしりとしたベースが鳴り響き、そこにLee Oskerのハーモニカが絡み、ずっしりと地響きがするようなHarold Brownのドラムが刻まれ、バンド全体がマグマの噴火を感じさせるように<The World Is Getto>のパフォーマンスがスタートした。オープニングにしては単調なテンポではあったが、その重厚感のあるゴスペル的なサウンドには圧倒された。 
 続いてのナンバーはイントロからPaPa Dee Allenのアクレッシヴなパーッカッションが炸裂する大ヒット<The Cisco Kids>。ここでは、リズム隊以上にCharles MillerのサックスとLee Oskerのハーモニカが見事なアンサンブルで、最高のノリを体感させてくれた。 
 3曲目も大ヒットアルバム『The World Is Getto』から<City, Country, City>。ゆったりとしたリズムの間奏で聴かれるOskerのハーモニカ・ソロはまた格別なものだった。

 そして、4曲目からは彼らの最新スタジオ作『Deliver The Word』からの楽曲が演奏された。まずはリズム隊が大活躍のファンク・ナンバー<Me and Baby Brother>。そこではトップ・グループたる躍動感にあふれていた。 続くは<The Cisco Kids>のメロディー・ラインがフューチャーされた南部風のメキシカンな雰囲気が漂う<Southern Part Of Texas>。この手のチカーノ・サウンドは、後にLos Lobos等メキシコ系バンドに脈々と引き継がれているように感じる。

 6曲目はお持ちかねの大ヒット<Gypsy Man>。アルバムのイントロに挿入されていた風S.E.は、アフリカン・ルーツ・サウンドに通じたリズム隊のどっしりとしたプレイに置き換わってスタートした。この曲の肝は、PaPa DeeのパーカッションとBrownのドラムが刻むリズム隊の踏ん張りだが、間奏以降で聴かせる味わい深いOskerのハーモニカも見事なもので、10分を超す演奏ながら飽きさせる隙を与えなかった。

 そんな迫力満点のファンク・サウンドに続いてはゆったりとした<Four Cornred Room>に移り、ここで一息つく。そしてBrownのドラムをBGにRonnie Jordanからメンバー紹介。そのラストにコールされたOskerは『Deliver The Word』のラストに収録されていた<Blisters>で見事なハーモニカ・ソロを堪能させてくれた。 
 その演奏が終わると同時に、いよいよオーラスといわんばかりに定番の<Sleepin’ into Darkness>の演奏がはじまった。アフリカン・ビートとチカーノ・サウンドが融合したようなお馴染みの彼らの代表曲だ。間奏パートではBob Marley & The Wailersの<Get Up, Stand Upのフレーズも挟み込まれ、ラストはPaPa DeeのパーカッションとBrownのドラム・ソロよる怒涛の応酬合戦で締めくくられた。 

 メンバーが袖にはけると同時に、総立ちの会場来場客による「War~woou~ Ou~ Oooh」という合唱と、割れんばかりの拍手によるアンコール要請が自然発生。しばらくして再登場したメンバーは客席の大合唱を伴奏するように合わせてリズムを刻み、会場内をより一体感を増した。 そして一段落して「Honkey Now !」とコールされ、アンコールに応えた。Warらしいファンク・ナンバーだったが、この曲は未だに不明だ。そして、アンコールのラストは<Get Down>だと記憶しているが、残念ながらこちらも正確には思い出せない。 
 個人的には<All Day Music>が聴けなかったのが残念だったが、絶頂期のバンドの演奏のすさまじさは感動ものだった。そんな高揚する気持ちで、会場内で販売されていた『The World Is Getto』を購入して帰途に就いた。
 補足になるが、それ以降の来日公演で印象に残っているものといえば、1977年に東京で開催された「ミラージュ・ボウル」(注4)のオープニング・セレモニーへのスペシャル・ゲストだった。そこではGodiegoを前座(注5)に迎え、試合会場の後楽園球場に設営された特設ステージで、迫力のパフォーマンスを繰り広げている。この公演はテレビ中継されていたので、ご覧になった方も多いかと思う。 

 ここでは、コール&レスポンスで盛り上がる定番ソング<Why Can't We Be Friends?>
も披露されている。「I Know you're workin' for the」⇒「CIA~♪」 、「They wouldn't have you in the」「MAFAIE~♪」は、今もお馴染みの返しだ。

 なお現在もWarはオリジナル・メンバーでキーボード奏者のRonnie Jordan率いる7人編成で活動を継続しており、2017年に来日公演もおこなっている。また今年10月30日にはカルフォルニア州ベニス・ビーチで、結成50周年のホームタウン・ライヴを敢行し、動画配信もされている。その動画をご覧いただければ、今も本国では根強い人気に支えられている姿が確認できるはずだ。 
 そんな彼らにはオフィシャルでのライヴ・アルバムが3作リリースされている。1作目は文頭でも紹介した全盛期1973年のライヴ、2作目はMCAに移籍後の1980年の『The Music Band Live』、3作目はRonnie Jordanが率いている2007年の『Greatest Hits Live』だ。この中で個人的にお薦めしたいのは、1980年の2作目だ。人気が低迷していた時期のリリースで、セールス的には振るわなかったが、全盛期のラインナップで代表曲が全て聴ける唯一のライヴ作として必聴作だ。 

 (注1)元AnimalsのEric Burdonを崇拝していた彼は、BurdonをメインにしてデビューしたWarの熱心な信奉者だった。当時、自身がホストを務めていた東京12チャンネル(現:テレビ東京)で放送していた「In Concert」(ロック系ライヴ映像番組)でも熱く語っていた。 

 (注2)1964年に完成された東京オリンピック国立屋内競技場(代々木体育館)の設計で名高い丹下健三氏が、1957年に静岡駿府公園(現:静岡駿府城公園内に建造した旧静岡市を代表した多目的ホール。1978年11月に開館した静岡市民文化会館の完成により、老朽化を理由に閉館。

 (注3)1974年春に開催された全盛期Carpenters公演は東京ではプラチナ・チケットだったが、静岡公演は当日券が販売されていた。また夏に開催予定だったCommodors公演は、販売不振で当日中止という憂き目にあっている。 

 (注4)1977~1985年まで三菱自動車がスポンサーとなって東京で開催されていたNCAAカレッジ・フットボール公式戦。 

 (注5)Godiegoの前座公演はこの催しのテーマ・ソング担当していたことからだった。この年は『西遊記』で大ブレイクを遂げる前年だった。

 (文・構成:鈴木英之)

2021年12月18日土曜日

Francis:『反撥 / 可愛い玩具』(Unchantable Records / UCT-042)


 9月にリリースされたセカンド・アルバム『Bolero』が好評中のFrancis(フランシス)が、同アルバムから「反撥(はんぱつ)」を7インチで12月22日にシングル・カットする。約27年振りというアルバムの勢いもあり、このリリースは嬉しいニュースだ。
 
 FrancisはThe Red Curtain時代からのオリジナル・ラブの最初期メンバーで、90年の脱退後翌年から2014年までザ・コレクターズのベーシストだった小里誠(おり まこと)のソロユニットだ。94年にはファースト・ミニアルバム『Burning Bear!』をリリースしている。
 65年生まれの小里はThe Red Curtainと平行して、テクノユニット“Picky Picnic(ピッキー・ピクニック)”を結成し、85年にはドイツのAta Takよりファースト・アルバム『Ha! Ha! Tarachine』をリリースした。後に『シニカル・ヒステリー・アワー』の作者で女性漫画家の玖保キリコもメンバーとなり、当時のサブカル・シーンでは話題になっていた。
 このように幅広い音楽スタイルの趣向と、小里の柔軟なスタンスが、Francisの活動にも大きく影響していると考えられる。

『Bolero』 【Trailer】Francis New Album "Bolero

 『Bolero』にもドイツのポスト・パンクやニューウェイヴ・シーンを牽引したD.A.Fに通じるサウンドをはじめ、ユニット名のインスピレーション元と思われるフレンチポップ、チープでニッチなライブラリー系のモンド・ミュージックなど欧州ロマンティシズムを漂わせた数多のヴァリエーションを誇った曲が収録されており、一筋縄ではいかない強烈な個性を放っているので、アルバムの方も是非チェックして欲しい。 

 ここからはこの7インチ・シングルの収録曲を解説する。
 A面タイトル曲の「反撥」は『Bolero』のリード曲で、D.A.Fに通じるアタックの強いシンセ・リフと分厚く肉感的でファンキーなシンセ・ベース、プログラミングされたチープなドラムトラックが有機的に絡み合い、ヒプノティックなグルーヴを形成している。そこに小里のダンディな歌詞とボーカルが乗るという独自性が非常に新鮮で、9月初頭に送られてきたアルバム音源を一聴して虜になってしまった。
 間奏のエキセントリック且つ奔放なギターソロは、セッションマンとしてYUKIからカーネーションなどをサポートする名手の松江潤のプレイで、このサウンドの中でいいコントラストを醸し出している。因みに彼は、弊サイト企画でもお馴染みのドラマー西浦謙助(元相対性理論集団行動)と、“誰でもエスパー”というユニークなバンドも組んでいるのでチェックして欲しい。
 とにかく令和3年度の問題作と言える『Bolero』を象徴するこの曲を、7インチでシングル・カットしようと提案した、Unchantable Records主宰のグルーヴあんちゃんのセンスにも脱帽してしまった。またジャケット・デザインはアルバム同様に小田島等で、2年前に弊サイトで紹介した鈴木恵TRIOの『come here my dear』でもそのセンスを発揮しており、ここではミリタリーアートの手法でダンディな小里の姿をとらえている。

 
     【MV】Francis “反撥 Repulsion” 

 一方B面の「可愛い玩具」は、セルジュ・ゲンスブールに通じる退廃的でキッチュな歌詞を持ち、ファーストテンポの2ビートで演奏したフレンチ・ロカビリーと言えばいいだろうか。この曲ではGREAT3のメンバーで多くのセッションでも高名な白根賢一が巧みなドラム・プレイを聴かせている。
 小里の非凡なソングライティング・センスには注目で、軽快なヴァースとサビのノベルティ感から間奏を経て、甘美な大サビへと導く流れはポップスを知り尽くした故になせる技である。4分44秒の中で繰り広げられるドラマティックな展開は聴く者を決して聴き飽きさせないだろう。



 Francis=小里誠の唯一無二の魅力を7インチに凝縮したこの作品は、自分へのクリスマス・プレゼントとしても最良かも知れないので、多くの拘り派音楽ファンは是非入手して欲しい。
(テキスト:ウチタカヒデ

2021年12月11日土曜日

Three Berry Icecream:『Three Berry Icecream』(miobell records / PCMR0019)


 BRIDGE(ブリッジ)のメンバーだったイケミズマユミのソロプロジェクトThree Berry Icecream(スリー・ベリー・アイスクリーム)が、初のフルアルバムを11月27日に12インチLPでリリースした。
  2019年2月にオールタイム・ベスト・アルバム『SUNSHINE ON MY MIND 1998-2018』(18年10月リリース)を弊サイトでも紹介したが、本作はアルバム用の書き下ろし曲を収録したオリジナルのフルアルバムとして、ファンにとっても待望の作品になったのではないだろうか。

 まず彼女がプロ・ミュージシャンとしてキャリアをスタートさせたBRIDGEから紹介するが、渋谷系バンドとして知られる彼らは92年にデビューし、小山田圭吾が主宰するトラットリア・レーベル(ポリスター傘下)から2枚のオリジナル・アルバムをリリースした。
 95年に惜しくも解散後したが、メンバーだったカジヒデキがソロ・アーティストとして成功したので、後追いによりBRIDGEも注目されるようになる。2017年には22年ぶりにオリジナル・メンバーでリユニオン・ライヴをするなど、近年も旧メンバー間の交流は続いているという。 
 BRIDGE 解散から4年後の99年に音楽誌「米国音楽」の付録CDに楽曲提供したのがきっかけとなり、イケミズはThree Berry Icecreamとしての活動を始めるのだが、BRIDGE時代からメロディー・メーカーだった彼女らしいコンポーズに英歌詞を載せたギターポップ、ソフトロック系の楽曲は、多くのギターポップ・ファンを中心に評判になった。


 
このプロジェクトでは、イケミズはソングライティングとリードボーカルは勿論のこと、各種キーボード、アコーディオンとグロッケンなどを担当している。サブ・メンバーはアコースティック・ギターにレーベルメイトでSwinging PopsicleやThe Carawayを率いるシマダオサムをはじめ、ドラムとパーカッションにorangenoise shortcutの杉本清隆、ベースにSloppy Joeの岩渕尚史、エレキ・ギターにはCorniche Camomileの桜井康史とh-shallowsの廣瀬美紀が参加し、曲毎に多彩なゲストをむかえている。 

 レコーディングは様々な名作を生んできたスタジオ・ハピネスでおこなわれ、筆者も旧知の平野栄二がエンジニアリングを務めており、ミックスには多くのメジャー作品の他、ムーンライダーズ事務所と共同設立したhammer(ハンマー)、渋谷系のクルーエル・レコードやエスカレーター・レコードでその手腕を発揮していたシンセサイザー・プログラマー兼エンジニアの森達彦が務めている。森氏については昨年弊サイトの筒美京平追悼特集のインタビューに参加頂いたので記憶に新しいと思う。
 マスタリングは、2008年の『microstar album』が和製ソフトロック・アルバムとして筆者も高評価している、マイクロスターの佐藤清喜が担当しており、それぞれで音の職人達が関わっており、サウンド・クオリティーも折り紙付きと言えるのだ。

 ここからは本作の主な収録曲を解説していく。 
 A面冒頭の「Rainbow mountain road」は、イントロから左チャンネルのシマダによるアルゾ&ユーディーンの「Hey Hey Hey, She's O.K.」よろしく小気味よいアコギのカッティングと、右チャンの廣瀬によるジョニー・マー直系のハイライフ風アルペジオのコントラストが素晴らしく、このアルバムのスタートに相応しい。
 
Rainbow mountain road Music Video 

 続く「That summer we were free」は、スペインのバンドCapitán SunriseのSanti Diegoが作詞を担当しコーラスでも参加している。イケミズは彼女のトレードマークでもあるアコーディオンをプレイしており、夏の高揚感を印象付けている。
 イントロのスローなピアノからシャッフルにリズム・チェンジして始まるソフトロックの「Gentle sunset」では杉本がピアノを担当し、コーラスはイケミズにシマダと廣瀬が加わっている。またゲストとして間奏の弦パートでバイオリンにVasallo Crab 75の河辺靖仁、ヴィオラにチドリカルテットの田中景子が参加し、導入部ではこの2名による口笛の二重奏も披露されていてアレンジの構成力が極めて高い。
 「Milky pop. Song」は、弊誌でも過去に紹介しているシンガー・ソングライターの小林しのが作詞を担当した小曲で、ヴィオラの田中がピッツィカート奏法も駆使して表現豊かにイケミズの歌に寄り添って、小林が描く世界観を演出している。

 B面は10月15日に先行配信された「Another world」から始まるが、この典型的ソフトロックの美しいフォルムを持ったサウンドには一聴して虜になった。イントロ~ヴァースのボッサのリズムからセカンドヴァースで跳躍し、イケミズ、シマダ、廣瀬のコーラスがリフレインするブリッジを経て甘美なサビで解決するという、複数のパートと転調を経ても聴き飽きないメロディとアレンジはさすがであり、リズム・セクションの確かな演奏力があってのサウンドである。弦パートはバイオリンの河辺、ヴィオラの田中が参加している。 
 筆者としてもこの曲を本作中最もお勧めするが、ジミー・ウェッブがクリエイトしたリバティ・レコード時代のフィフス・ディメンションロジャー・ニコルスの名を後世のソフトロック・ファンに知らしめた金字塔アルバム『Roger Nichols & The Small Circle Of Friends』をこよなく愛するフォロワー・ミュージシャンによる楽曲として高い評価に値する。
 
Another world / Three Berry Icecream 

 ギルバート・オサリバン風のプリティなピアノのイントロから始まる「One spring day」は、英歌詞含めイケミズが1人でソングライティングしたミディアム・シャッフル曲で、フェイザーをかました桜井のギター・リフやイケミズによりリコーダーとグロッケン、2コーラス目から入る弦パートの展開など聴きどころが多い。この曲ではその弦パートの河辺と田中の2人がコーラスを取っている点も興味深い。
 ラストの「Jour bleu pâle」は6/8拍子でプレイされるフランス語の歌詞が印象的で、杉本の巧みなドラミングと桜井のギターソロに注目したい。イケミズの歌詞を仏語訳したのはパトリック・ベニーで、後ろ髪を引かれるメロディにマッチした言葉の響きがアルバムの終幕に相応しい。
 
 アルバム全体を通して感じたのは、ブリル・ビルディングの系譜からUKのネオアコースティック期のソングライターに通じるイケミズの巧みで色褪せないソングライティングに尽きる。興味をもった弊サイト読者は、リリース元レーベルの直販サイトでの購入をお勧めする。

(テキスト:ウチタカヒデ


2021年12月4日土曜日

HACK TO MONO (part3 Capitol 45rpm 編)


 前回同様に以下の条件でこれからシングル盤を聴いてみよう。

以下紹介する音源はオリジナル盤から取り込んだものであり、

ノイズ除去処理は一切行っていない。

また、盤の選定についてはRIAA制定及びステレオ音源の普及を考慮し

1964年までのリリースを対象とした

以下私見ではあるがきんさん、ぎんさんそれぞれの特性があることが分かった

モノラルと侮るなかれ、この音像の深さには感嘆するものがあった。


「Surfin’ Safari」(Capitol 4777) 1962


まずはきんさんから聴いてみよう

エコー感が溢れ、西海岸の陽気の様な感じが伝わるサウンドだ。

昔の米軍放送のオールディーズ番組の音を思い出させる懐かしさがあり、ねちっこく残るエコー成分が余計にその雰囲気を強調している。


それではぎんさんを聴いてみよう

きんさんに比べて前回同様に演奏全体がグイッと前に出る印象。

前作Surfin’ ではThe Kingston Trio然としていた演奏に比して、南California産であることが明らかなsurf music風のバッキングは、前作から続くミュートしたパーカッシブなギターサウンドの効果を引き立たせている。


「409」(Capitol 4777) 1962

きんさんの特性?がもたらすエコー感が心地いい陽気な感じが溢れている。


冒頭のSEはこれまで聴いた409の中でもっとも爆音だ、全体にみなぎる力強さが感じられる。Mikeのバスもよく出ており、ぎんさんのもたらす熱量が最高。

「Ten Little Indians」(Capitol 4880) 1962


きんさんの特性がだんだんわかってきた、全体にそつなくまとめる感じと中低域のナチュラルさと一体感が気持ちいい。


ぎんさんの力強さがここでも出ているが、きんさんより曲のディテールがくっきり出ているような感じがする。


「Country Fair」(Capitol 4880) 1962


こちらもきんさんが手堅く全体をまとめ、コーラスの響きが心地いい。

  


ぎんさんのもたらす効果でコーラスはきんさんに比して前面にくっきり聴こえている。

スネアの音もバシバシ聴こえてとにかく力強い。


「Surfin’ U.S.A」(Capitol 4932) 1963


イントロのギターのエコーが小気味いい!さすがきんさん。

キックの音も曲中終始鳴っていることがよく表現されている。

通常コーラスのinside out side U.S.Aあたりからバックの演奏とともにキックも埋もれてしまうが、うまくトレースしているところがきんさんらしい。



ぎんさん効果でキックの音もさらに強調され、デビュー以来ダンスミュージックとしてThe Beach Boysは扱われてきたのだ、と改めて気がつかされる。

ぎんさんの方がコーラス部がモノラルだがBrianのファルセットが加わると立体的に聴こえてくる。


「Shut Down」(Capitol 4932) 1963

    


きんさん特有のエコー感がここでも活かされている。ミュートしたギターのサウンド
太く鳴りsurf musicさが色濃く出ている。
間奏の素っ頓狂なMikeのサックスもここでは太く倍音が感じられる。

ぎんさんの得意とする力強さが遺憾無く発揮されている、スネアはバシバシしっかり
鳴っており、コーラスも聴かせる所でしっかり聴かせてくれる。

「Surfer Girl」(Capitol 5009) 1963


この曲が今のところ、きんさん感満載の印象だ。

コーラスの一体感エコー感すべてが満足の一曲。



きんさん感満載と述べたが、こちらの方がきんさん感プラスぎんさんの情熱的な感じがよく出ている。

Mikeのバスも楽器に埋もれることなく聴こえるし、色彩感や立体感が遺憾無く発揮されている。デビュー以来ダンスミュージックやノベルティばかりさせられてきたBrianの鬱憤を晴らす名曲故か?


「Little Deuce Coupe」(Capitol 5009) 1963


きんさん、というよりぎんさん感が出ている、ベースはうなりピアノは曲中ガンガン鳴り続けバッキングのサウンドはとても太く再生されている。
ぎんさんではどうだろうか?

期待に違わず力強い演奏だ。歌無しで聴けばハードなBoogieであって、
Canned Heatあたりが演奏してもおかしくない出来だ。コーラスも
終始Brianのトップノートをトレースしており力強い。

「Be True To Your School」(Capitol 5069) 1963

この盤ではきんさんらしさが出ておらず全体にモコモコした感じであった。


きんさんの出来から危惧されたが、冒頭のドラムロールから終始鳴り響くフロアタムの音はしっかり鳴り、それに絡むスネアやブラス、フルートもしっかり聴かせ、体育祭の応援合戦の最中であるかの如く臨場感がある。

「In My Room」(Capitol 5069) 1963



イントロから聴かれるベース部のトレモロを太くかつMikeのバスと干渉せず、しっかり鳴らしている。全体のまとまりも優れており心地いい。


Surfer Girl同様に厚く情熱的なハーモニーが聞ける。トレモロの鳴りが
力強い。

「Little Saint Nick」(Capitol 5096) 1963

きんさんらしさが活きている、楽器のバランスとコーラスおよびヴォーカルをしっかり再生し、立体的に聴かせてくれる。


ぎんさんらしく、終始鳴っているピアノはガンガン聴こえドラムもしっかり。
夏はLittle Deuce Coupe冬はLittle Saint Nickといった風情である。

「The Lord's Prayer」(Capitol 5096) 1963
曲の中盤から顕著になっていくエコー効果が心地よい、きんさんならではの出来。
コーラス全体の放つエネルギーが感じられ神々しいものとなっている。
エコー感もぎんさん超えを実現している。
本稿もちょうど年末であり、一年の終わりとあわせて聴くと感慨深い。
Brianは1964年の元旦からレコーディングを精力的に開始する。
そこから生まれる名曲の数々をきんさん、ぎんさんはどう奏でるか?
乞うご期待!

(次号へ続く)

2021年11月23日火曜日

追悼 ーBilly Hinsche(1951-2021)ー



 2021年11月20日肺癌による死去の報があった。

 Wilson一族とその仲間が作るハーモニーの一角を担う彼の損失は大きい。

 キャリアのスタートはDino,Desi& BillyというバンドであってBruce JohnstonやTerry Melcherの様な地元の実業家や芸能人二世のパーティー仲間から派生したバンド活動であったが、Dinoの父がDean MartinでありFrank Sinatra閥であることからSinatra傘下のRepriseから業界の大きなバックアップを受けることができた。

 The Beach Boysとの関わりは『The Beach Boys Party!』の「Mountain of Love」でハーモニカを演奏したところから始まる。Dino,Desi& Billyの中でもっともミュージシャン志向があったのはBillyで以後The Beach Boysへのセッションへの関与を深め、同時期に姉がCarlと結婚したため、Wilson一族とも姻族となったことで結びつきはさらに深まる。


1966年リリースの『Memories Are Made Of This』

では「Girl Don’t Tell  Me」をカバー


1967年Smileセッション「Tones」でのセッションシート William Hinsche名で参加

なんと!セッションリーダーとして登記されていた


 Dino Desi&Billyの活動も並行して行われており、音楽的成長を伺わせる作品が増えてくる。自身のプロデュースで1968年発表の「Tell Someone You Love Them」は『Wild Honey』以降のデッドな音像の影響下にあるハーモニー・ポップの秀作だ。
 つづく1969年発表の「Thru Spray Colored Glasses」は弊誌でもお馴染みのDavid Gatesのペンによるドリーミー・ポップ。
また翌年解散時発表の「Lady Love」はBrianとBillyの共作となっており、Brian Wilsonワークスのコレクターズアイテムとなっている。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    
                                                                                                ソロシングル「Music is Freedom」は『Sunflower』〜『Surf’s Up』の
大きな影響下にあるギターサウンドとハーモニーが織りなす逸品だ。


当時Carlの義兄でありここまでのキャリアがあるので、一時正式メンバー加入のオファーという厚遇を受けるも、本人は学業専念のため辞退している。
 学業の傍らBrianやBruce不在時はコーラスからギター、ベースまでこなす器用さで巧みにサポートをレコーディングからライブまで続けてきた。
 在籍した1972年以降、ライブアクトとしてリスナーや市場から高評価を得られた。この急成長はWilson一族の成熟とBillyによるサポートがあったが故である。
 晩年はBrianやAlのプロジェクトへの参加及びツアー参加など精力的に行い、コロナ禍にあっても、Facebook Liveを通じたLIVE FROM BILLY’S PLACEという配信コンテンツを提供し、気さくに語る数々のエピソードは好評であった。
 偉大なサポートメンバーとして、時代はかの人の才能を求めた。
 改めて哀悼の意を表する。
                      

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  (text by Akihiko Matsumoto-a.k.a MaskedFlopper)

2021年11月17日水曜日

【ガレージバンドの探索・第十二回】V/A -Teenage Shutdown! Vol.15 "She's A Pest!"

 【Teenage Shutdown!】という、ガレージファンには有名なコンピレーションシリーズがある。1983年にTim Warrenによって設立されたCrypt Recordsからリリースされている計15枚のシリーズで、それぞれ、収録曲の中から選ばれた1曲の曲名がサブタイトルになっている。

 ライナーノーツを書いているのは『TEENBEAT MAYHEM!』の著者として知られるMike Markesich(通称:Mop Top Mike)で、この『TEENBEAT MAYHEM!』というガイドブックは、10代の無名バンドのシングル情報が16,000曲以上掲載されているそうだ。無名のバンドのレコードを収集し、それほどの膨大な記録を残すというのは本当に並大抵の労力ではなかっただろうと思う。後のガレージコンピへも大きな影響を与えたようだけれど、彼自身はそのコレクションに含まれるようなTEENBEATのバンドを「ガレージ」という用語でまとめられることは好まなかったようだ。

 今では世界中のレコードコレクターがYouTubeにレアな音源をアップしてくれているので、入手することが難しい音源も比較的手軽に聴くことができたり、コンピも数多く出ていて、ガレージを聴きたい人には恵まれた環境がある。【Teenage Shutdown!】シリーズ15作目 "She's A Pest!" を購入したのは、このコンピに収録されているThe Playgueの 「I Gotta Be Goin’」 という曲をYouTubeで聴いたのがきっかけだった。誰だかわからないし、「バンド」としてのイメージも持ちにくい、ただ、その見つけた1曲が凄くいい、というような感動が味わえるのもガレージならではの独特な楽しみ方かもしれない。

The Playgue / I Gotta Be Goin’

 ガレージと一口に言ってもファズガレージだったりサイケガレージだったり、その種類も様々だけれど、こういうPlaygueのようなガレージを聴くと特に、なかなか真似できそうにない60年代特有のガレージバンドの空気を感じる。いつもながらバンドのことを調べても多くの情報は出てこないけれど、1965年のルイジアナ州バトン・ルージュのバンドで、もともとThe Banditsという名前で活動した後、Bill BenedettoとNick Benedettoという兄弟によるプロデュースでThe Playgueという名前に変更され、The Rolling StonesのカバーやR&Bスタイルの曲などを演奏していたらしい。

 【Teenage Shutdown! 】は、どうやらサブタイトルになっているメインの曲に合わせた選曲がされているようで、アルバム通して統一感が感じられる内容になっている。Vo.15ではメインのThe Insects 「She's A Pest!」 をはじめクールさもありながらノリのいい、いかにも当時のガレージという雰囲気の曲が集められている印象。

She's a Pest! / The Insects


【文:西岡利恵


【Teenage Shutdown! 】シリーズ

Vol.1 ”Jump, Jive & Harmonize” (LP-TS 6601, 1998) (CD-TS6601, 1995)

Vol.2 You Treated Me Bad!  (LP-TS 6602, 1998) (CD-TS 6602, 1995)

Vol.3 Things Been Bad” (LP-6603, 1998) (CD-TS 6603, 1998)

Vol.4 I'm A No-Count” (LP-TS-6604, 1998) (CD-6604, 1998)

Vol.5 Nobody To Love”  (LP-TS 6605, 1995) (CD-TS 6605, 1998)

Vol.6 I'm Down Today” (LP-TS-6606, 1998) (CD-TS-6606, 1998)

Vol.7 Get A Move On!” (LP-TS-6607, 1998) (CD-TS-6607)

Vol.8 She'll Hurt You In The End” (LP-TS-6608, 1995) (CD-TS-6608, 1998)

Vol.9 Teen Jangler Blowout! ” (LP-TS-6609, 1998) (CD-TS-6609, 1998)

Vol.10 The World Ain't Round, It's Square! ” (LP-TS-6610, 1998) (CD-TS-6610, 1998)

Vol.11 Move It! ” (LP-TS-6611, 2000) (CD-TS-6611, 2000)

Vol.12 No Tease” (LP-TS-6612, 2000) (CD-TS-6612, 2000)

Vol.13 I'm Gonna Stay” (LP-TS-6613, 2000) (CD-TS-6613, 2000)

Vol.14 Howlin' For My Darlin'! ” (LP-TS-6614, 2000) (CD-TS-6614, 2000)

Vol.15 She's A Pest! ” (LP-TS-6615, 2000) (CD-TS-6615, 2000)

※ジャケットにボリューム番号の記載はなし。


参考・参照サイト:https://www.nhregister.com/entertainment/article/RANDALL-BEACH-Mike-s-passion-for-the-teen-beat-11398269.php 


2021年11月10日水曜日

鈴木祥子:『My Eternal Songs〜BEARFOREST COVER BOOK vol.1』(BEARFOREST RECORDS/BELP-001)


 シンガーソングライター・鈴木祥子が11月11日にアルバム『My Eternal Songs〜BEARFOREST COVER BOOK vol.1』をリリースする。
 1965年東京生まれの鈴木は自身名義でのデビュー以前からキーボード・パーカッション等で様々なミュージシャンの活動に参加し、1988年にEPICソニーからのデビュー後は自身の作品と並行し松田聖子、PUFFY、坂本真綾など数多くのミュージシャンへ楽曲提供も精力的に行い、1993年小泉今日子へ提供した楽曲『優しい雨』(シングル)は累計出荷枚数143万枚のミリオンヒットを記録するなど、日本のポップス史において欠かすことのできないソングライターであることは言うまでもない。 
 また、今年3月にリリースした『助けて!神様。〜So help Me,GOD!』は約10年振りとなる新曲であり、サウンドプロデュースにアイドル・シンガーソングライターの加納エミリを迎えるなどで大きな話題を呼んだ。


 今回リリースされる『My Eternal Songs〜BEARFOREST COVER BOOK vol.1』は全編ピアノ弾き語りによるカヴァーアルバムとなっており、7月リリースの最新シングル『GOD Can Crush Me.』において共同プロデューサーを務め、サザンオールスターズ、木村カエラなどを手掛けたVICTOR STUDIOのエンジニア・中山佳敬が参加している。

 
Syoko Suzuki 『My Eternal Songs〜
BEARFOREST Cover Book vol.1』Trailer

 導入部はモーツァルトのピアノ・ソナタが演奏される。
 鈴木自身が語る、1971年から1981年の10年間に受けた影響、憧れや好奇心。クラシックピアノを習っていたという彼女が当時感銘を受け、今もなお聴かれ歌い継がれる不朽の楽曲たち−"My Eternal Songs”を自身が歌い継ぐ本作において、この導入はこれ以上ない演出だと思う。
 間もなく、原曲同様の静謐なイントロで「HONESTY」(原曲:Billy Joel)が始まる。弾き語りならではのタイム感と、原曲キーで歌う彼女の歌唱が相まってよりシックな印象となっているのが魅力的だ。
 弾き語りならでは、といえば次曲「Alone Again」(原曲:Gilbert O’Sullivan)における表現力は息を呑むものがあり、詳しくは本作を聴いてもらえればと思うが、リタルダンドやブレスに寄り添うようなタイム感の生々しさによって原曲の繊細な世界観がより深く沁みるような仕上がりとなっている。

 続く「Love of My Life」(原曲:QUEEN)はクラシカルな進行がピアノによってより際立ち、QUEENのお家芸ともいえる重厚なコーラスは鈴木の声によって一層煌びやかに演出され、召されるような多幸感に包みこまれる。打って変わって次曲「I Only Want to Be With You」(原曲:Bay City Rollers)は軽快に踊れるナンバー。気持ち良いタイミングで入ってくる裏打ちのタンバリンやキュートかつパワフルに歌い上げる歌声に体を揺らしながらA面は幕を閉じる。


 B面の導入で演奏されるのはバッハの「主よ、人の望みの喜びよ」。 
 アルバムの幕間としてはさることながら、盤を返して針を落としてから腰を据え切るまでの流れを整えてくれるようなギミックとも取れる。清麗な音色に耳を傾けながら、やはり今自分は鈴木祥子の青春の一片を共有しているのではないかという邪推も捗る。
 B面1曲目「Open Arms」(原曲:Journey)は本作において個人的に最も推薦したいナンバーである。ここで完全な私感を述べることを読者の皆様にはご容赦いただきたいのだが、多種多様なカヴァー作品が存在しそれらを享受する際、メロディや歌詞だけでなく編曲やエンジニアリング、時代性にともなう技法等々といった”録音物”そのものをどこまで踏襲するかといった要素も興味深い観点の一つだと思っている。特筆して本曲はその観点+ピアノ弾き語りというシンプルなアプローチが見事なまでにマッチし、紛うことなき名カヴァーといえる仕上がりとなっている。これは是非実際に針を落として確かめてみてほしい。

 続く「Yesterday Once More」(原曲:Carpenters)は我々にとって恐らく最も馴染み深い楽曲ではないだろうか。原曲さながらストレートに歌い上げる彼女の歌声の端正さには安心感を覚えるだろう。
 モーツァルトのピアノ・コンチェルトの一節が奏でられた後、流れるように始まる「Different Drum」(原曲:The Stone Poneys)はA面3曲目と並びクラシカルなアプローチが活きる編曲が施されており、イントロのリフレインとの相性は特に抜群である。徐々に抑揚付いていく歌唱表現の素晴らしさに胸を打たれながら、ラストは楽典的な終止をもって本作は幕を閉じる。


 今日までの華々しいキャリア、その原点となった不朽の名曲たち。
 鈴木祥子は自身のルーツであるピアノ一本の弾き語りで歌い継いだ。

 鈴木自身が言う、
 「ひとつの歌にも言語が、文化が、時代があり、ひとりひとりの想いがあり、 青春がある。人生がある。それを記憶の箱のなかから取り出して懐かしむことは、 また今日を、明日を生きてゆく力、活力にもなり得る。。。音楽だけに出来ることが、今も在る。」 

 まるで彼女の人生を垣間見えている気分になるような、アルバム全体の見事な構成も含めて非常に聴き応えのある作品となっているので、是非入手して聴いてみてほしい。 


 galabox 直販サイト:https://www.galabox.jp/product/557 

【文:桶田知道/編集:ウチタカヒデ

●桶田知道(おけた・ともみち)プロフィール
1991年4月27日生 奈良県出身・在住 音楽家
2012年、大学在学中にバンド「ウワノソラ」結成に参加
活動の傍ら、2017年6月に自身ソロ名義で1stアルバム【丁酉目録】をリリース。
同年8月よりソロ活動へ転身、自主レーベル「考槃堂」を設立。
2018年5月に2ndアルバム【秉燭譚】をリリース。
2019年12月【NOTO】プロデュース・リリース。