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2025年10月4日土曜日

Shel Naylor 「One Fine Day」

 前回の記事で触れた、『キンクト!~キンクス・ソング&セッションズ 1964~1971(PCD17745)』に、シェル・ネイラーの「One Fine Day」という、キンクスのギタリストのデイヴ・デイヴィスが提供した曲が収録されている。ザ・ベンチャーズの「Walk Don't Run」の影響を受けて作られた曲だそうだ。フリークビートのコンピレーション『The Freakbeat Scene』(Decca-772 467-6)(Deram-844 879-2)にも収録されているので、そこから知られることの方が多いのかもしれない。

One Fine Day / Shel Naylor

 この「One Fine Day」を歌うシェル・ネイラーというのはどういう人物なのか気になって調べてみると、70年代に人気のあったノベルティ・バンド、ルーテナント・ピジョンの中心人物として知られているロブ・ウッドワードが60年代初期に使用していた別名義だそうだ。

Mouldy Old Dough / Lieutenant Pigeon

 英国中部コヴェントリー出身のロブ・ウッドワードは17歳の時、キンクスやトロッグスのマネージャーとして知られるラリーペイジが開催していた、オーキッドボールルームでの新人発掘コンテストに参加。グランプリを受賞し、この時の賞品だったデッカレコードとのレコーディング契約が決まったそうだ。当時ラリー・ペイジは、リバプール・サウンドに匹敵する "コヴェントリー・サウンド" なるものを生み出そうと、地元の才能ある人材を集めていたらしい。プロデューサーとして、シェル・タルミー、マイク・ストーンを説得して参加させていた。"シェル・ネイラー" というのはラリー・ペイジが名付けたそうで、シェル・タルミーへのトリビュートの意味合いがあるよう。

 シェル・ネイラー名義では2枚のシングルがリリースされている。初のシングルはアーヴィング・バーリンのポピュラーソング「How Deep Is The Ocean」(Decca F.11776)。B面は「La Bamba」。「One Fine Day」は翌年の1964年にリリースされたものだ。この演奏には、後にレッドツェッぺリンとなるジミーペイジとジョン・ポール・ジョーンズが参加している。ドラムはおそらく、キンクスの「You Really Got Me」などの演奏でも知られるセッションドラマーのボビー・グラハムではないかと言われている。冒頭に書いた通り、作曲はデイヴ・デイヴィスだけれど、シングル盤にクレジットされたスペルには誤りがあり、"Davies"ではなく"Davis"になっている。B面は「It's Gonna Happen Soon」という曲で、エジソンライトハウス「恋のほのお」などで有名なセッションシンガーのトニー・バロウズ、英国の著名なソングライター、ロジャー・グリーナウェイ、J. Brooksの3人が作曲者にクレジットされている。J. Brooksについては詳しい情報が見あたらなかった。

 「One Fine Day」には、1965年にラリー・ペイジが結成したラリー・ペイジ・オーケストラによるバージョンも存在する。こちらが収録された『Kinky Music』(Decca LK4692)は、キンクスのヒット曲をインストゥルメンタルアレンジしたアルバムで、キンクスに無断で制作したことで裁判沙汰になったそう。このラリー・ペイジ・オーケストラでもジミー・ペイジとジョン・ポール・ジョーンズが参加している。

One Fine Day / The Larry Page Orchestra



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■ベストアルバム第二弾『Best Of The Pen Friend Club 2018-2024』
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8thアルバム『The Pen Friend Club』
(試聴トレーラー)


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2025年7月12日土曜日

Ray Davies作「Nobody's Fool」

  昔YouTubeを観ていたら、キンクスのレイ・デイヴィスが弾き語る「Nobody's Fool」のデモ音源が流れてきた。すごく惹かれて何度も聴いていたのだけれど、キンクスのオリジナルアルバムの曲でもなさそうだったので、この曲はなんだろうと思っていた。(現在は2013年再発盤のキンクス『マスウェル・ヒルビリー +13 デラックス・エディション Sanctuary UICY75872-73』のボーナストラックなどで収録されている)

Nobody's Fool / Ray Davies (Demo)

 他にコールドターキーというグループのバージョンも存在することは分かったものの、このコールドターキーが何者なのか疑問に思いつつもそのままにしていたので、今回もう少し詳しく調べてみた。

 「Nobody's Fool」は70年代初頭に放映されたアダムフェイス主演、英ITVのテレビドラマ『バッジー』第2シリーズのテーマ曲だそうだ。レイ・デイヴィス作曲、ジミー・ホロウィッツプロデュースで、1972年にパイ・レコードから、コールドターキーのクレジットでシングルリリースされた。B面は、子供向け合唱団ザ・ストリート・キッズが歌う別のテレビシリーズ『セサミストリート』のテーマ曲で、プロデュースは同じくジミー・ホロウィッツ。もともとこちらがA面になる予定だったそうだけれど、「Nobody's Fool」がヒットした為曲順を変更したらしい。イントロはキンクスの「アニマルファーム」(1968年『ヴィレッジ・グリーン・プリザヴェイション・ソサエティ』Pye Records NPL18233 収録曲)に似せた作りになっている。

Nobody's Fool / Cold Turkey

 コールドターキーというグループはこの音源のみでその後何もリリースしておらず、彼らが誰だったかは議論の的になっている。キンクスの別名義の可能性が高いとも言われているけれど、スウェーデンのRock’n’Roll Magazineのインタビューでレイ・デイヴィスが答えた通りなら、コールドターキーはキンクスに似せたサウンドを作ろうとしていたけれど、キンクスではないとされる。別の推測では、アンディ・ボーン(ベース)、バリー・デ・スーザ(ドラム)、ボブ・コーエン(ギター)、クリス・スペディング(ギター)、ジミー・ホロウィッツがピアノを弾いているという話、ボーカルはストーリーテラーというグループに所属していたロジャー・ムーンではないかという説などがあるよう。コールドターキーの「Nobody's Fool」は、『キンクト!~キンクス・ソング&セッションズ 1964~1971(Ace/CDCHD1463)』などで聴くことができる。この編集アルバムにはレイ・デイヴィス作の楽曲を他アーティストがカバーしたものなどが収録されていて、一部キンクスが演奏に参加しているものや、弟のデイヴ・デイヴィス作の楽曲も含まれる。

 コールドターキーのリリースより前、1971年にマンフレッドマンのメンバーで、作曲家のマイク・ヴィッカーズも「Nobody's Fool」を録音していたようなのだけれど、リリースされているのかどうか、その音源は見あたらなかった。

 2019年には、カルト映画やテレビ番組のテーマ曲を集めたコンピレーション 『Cult Themes Forever(Future Legend Records – FLEG.37CD)』に、グレンダ・コリンズによるカバーが収録された。また、同じ年、BBCラジオ4でポール・ウェラーとサッグス(グラハム・マクファーソン)もデュエットでカバーしている。

Nobody's Fool / Suggs & Paul Weller

おそらくこれとは別バージョンだろうか、今月25日にリリースされるポール・ウェラー のカバーアルバム『ファインド・エル・ドラド(Parlophone 2173.274893)』にも、「Nobody's Fool」が収録されるようだ。

 キンクスやキンクスの関連曲には、当初未発表だったり、あまり知られていない中にも本当にいい曲が多いなと思う。


参考・参照サイト:

https://popdiggers.com/kinda-ray-davies/

https://onlyrockandroll.london/2021/04/09/the-great-lost-kinks-single/


執筆者・西岡利恵
60年代中期ウエストコーストロックバンドThe Pen Friend Clubにてベースを担当。


【NEWS】
2025年7月30日(水)まで 
クラウドファンディング実施中
2枚組NEWアルバム [Songularity - ソンギュラリティ]​
(プロジェクトページ)

【LIVE】
2025年8月30日(土) 東高円寺UFO CLUB【Color Me Pop】
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リリース
■ベストアルバム第二弾『Best Of The Pen Friend Club 2018-2024』
■カバーアルバム『Back In The Pen Friend Club』
CD、配信にて発売中

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2025年6月4日水曜日

Candy Opera:『The Patron Saint of Heartache』『45 Revolutions Per Minute & Rarities』

『The Patron Saint of Heartache』

 『45 Revolutions Per Minute & Rarities』 

 オブスキュアなネオアコースティック・バンドとして知られるイギリスの Candy Opera(キャンディ・オペラ)が、2020年のリユニオン後のファースト・アルバム『The Patron Saint of Heartache』(Ca Va? Records/Hayabusa Landings / HYCA-8089)と、2018年にリリースされた2作品の発掘音源集『45 Revolutions Per Minute & Rarities』(HYCA-8090)に日本独自のボーナス・トラックを追加して5月28日に新装リイシューしたので紹介する。また今年3月に『Strange Village』をリリースしたばかりのシンガーソングライター、近藤健太郎氏からのコメントも特別に掲載する。 

 まずキャンディ・オペラのプロフィールに触れておく。彼らは1982年にリヴァプールのケンジントンで、メイン・ソングライターのPaul Malone(ポール・マローン/以降マローン)を中心に結成されたネオアコ・バンドだ。同時期に同じリヴァプールで活動し日本でもよく知られたThe Pale Fountains(ペイル・ファウンテンズ)やスコットランド出身のAztec Camera(アズテック・カメラ)、またニューカッスル出身のPrefab Sprout(プリファブ・スプラウト)に通じるサウンドをはじめ、マローンのボーカルもプリファブのパディ・マクアルーンの声質を彷彿とさせていた。
 当時人気だったThe Pogues(ポーグス)やThe Go-Betweens(ゴー・ビトウィーンズ)といったバンド達のライブでオープリング・アクトにも抜擢され、イギリス国内の音楽誌でも取り上げられるようになる。そのようなジャーナリストからの評価によりEMIやGO DISCS!といったメジャー・レコード会社から契約オファーもあったが、メンバー脱退などの事情もありそれを固辞し、デモ音源のみ残して1993年に解散した。
 それから25年後の2018年、ドイツ・ベルリンの”Firestation Records”が彼らのデモ音源を気に入り、18曲収録したコンピレーション『45 Revolutions Per Minute』(FST 154)、続いて同じ年には未発表の11曲収録の『Rarities』(FST 162)をそれぞれリリースしている。このコンピの評判により、キャンディ・オペラはバンドとしてリユニオンすることになり、全て新曲を収録した事実上のファースト・オリジナル・アルバム『The Patron Saint of Heartache』(TURN73D)をドイツ・ユッヘンのレーベル”A Turntable Friend”からリリースして、完全復活するというミラクルをやってのけたのだ。このような奇跡的復活を果たせたのも、彼らの才能を眠らせておかなかったFirestation RecordsやA Turntable FriendのA&Rマンの手腕と言えるだろう。

現バンド・メンバー

 今回日本での新装リイシュー盤では、『The Patron Saint of Heartache』に3曲のボーナス・トラックを追加した全17曲、『45 Revolutions Per Minute』と『Rarities』を2枚組としてカップリングし、『Rarities』のディスクにボーナス・トラック1曲を追加し、これまでオブスキュア=世に埋もれ、詳細不明だった彼らのプロフィールについても解説されたブックレットが、それぞれ付属されているのでファンにとってはありがたい。

  ここでは各アルバムで筆者が気になった主要曲の解説をしていく。
 リユニオン後のファースト・アルバム『The Patron Saint of Heartache』は、ボーカル兼ギターのマローンを中心に、ギターのKen Moss(ケン・モス/元Shack)とBrian Chin Smithers(ブライアン・チン・スミザーズ)、ベースのFrank Mahon(フランク・マホン)、ドラムのAlan Currie(アラン・カリー)、キーボードとパーカッションのGary O'Donnell(ゲイリー・オドネル)の6名編成でレコーディングされており、プロデュースはバンド名義になっている。エンジニアリングとミックスは主にTom Roach(トム・ローチ)で、2曲のみAbbey Road StudiosでビートルズをはじめParlophone やApple Recordsのリイシュー・アルバムのリマスタリングを多く手掛けたGuy Massey(ガイ・マッセイ)がミックスを担当している。

  収録曲はそのマッセイがミックスした冒頭の「These Days Are Ours」から完成度が高く、躍動的ビートを繰り出すリズム隊にアルペジオとカッティングを複数ダビングしたギター・トラック、シルキーなシンセ・パッドが空間を埋めたサウンドは結成当時からスタイルを引き継いでいる。また実体験と言える人生賛歌的歌詞を書いたマローンの歌声も、繊細ながらエモーショナルで25年のブランクを感じさせる衰えはなく、今でもバンドの顔になっている。
 この曲ではキャンディ・オペラと同郷で、ジュリアン・コープが率いたThe Teardrop Explodes(1978~1982年)のキーボーディストだったポール・シンプソンがバッキング・ボーカルで参加しており、マローンのボーカルを支えている。 

 
These Days Are Ours / Candy Opera

  続く「Tell Me When The Lights Turn Green」もマッセイのミックスで、イントロから両チャンネルで聴こえるギター・アルペジオが美しいバラードで、メロディにはシカゴ・ソウルの匂いもする。この曲でアディショナル・キーボードとタンバリンもプレイしているドラマーのカリーは、第一期Candy Opera解散時メンバーだが、その後90年代にはFishmonkeymanというインディーズ・ギターポップ・バンドに所属しアルバム2枚とシングル6枚をリリースしている。
 リアルタイムでプリファブ・スプラウトを愛聴していた筆者が最も反応したのが、「Start All Over Again」だ。プリファブの『Jordan: The Comeback』(1990年)収録曲に通じるポジティブなメロディと不毛の愛を綴った歌詞、よくミキシングされたギターやシンセサイザーの配置と空間系エフェクターの処理が効いたサウンドは、一聴して好きになれずにいられない。

 
Start All Over Again / Candy Opera

 
 全編アコースティック・セットの演奏による「Five Senses Four Seasons」は英国トラッド系フォークに通じ、無垢な歌詞とよく溶け合い、コーダではアカペラになるという構成で美しい曲だ。コーラス4名の内クレジットされている女性のAmy Mahonは、ベーシストのマホンの妻か姉妹かも知れないが、そんなアットホームな雰囲気もこの曲の良さである。 
 「Real Life」も『Steve McQueen』(1985年/米国盤タイトル『Two Wheels Good』)の頃のプリファブに通じる曲調とサウンドを持ち、アルバム中盤にこんな良曲が収録されているのが嬉しい。シャウト系の高域になるとパディ・マクアルーンに酷似するマローンの声質も好きになってしまう。 
 一転してホーン・セクションとコンガ、女性コーラス2名が加わったファンク・サウンドの「Rise」は、『The Cost of Loving』(1987年)時代のThe Style Council(スタイル・カウンシル)に通じていて、このバンドの多様性を垣間見れる。作曲クレジットがメンバー全員の名義になっているので、こういったブラック・ミュージック趣向を持つメンバーが主導しているのだろう。

Paul Malone 

 本編ラストの「Crazy」は、リラックスしたビートとは裏腹に、都市開発により変わり果てていく風景を狂気じみていると嘆く歌詞のコントラストが興味深い。ここでは「These Days Are Ours」同様、元The Teardrop Explodesメンバーでマローンの友人らしきポール・シンプソンが再びバッキング・ボーカルで参加しており、ヴァースではほぼデュエットしている。マリアッチなトランペットを加えたサウンドや、コーダでハチロクのロッカバラード風になる構成もよく練られている。
  なおボーナス・トラックはオリジナルのドイツ盤収録の「Gimme One Last Try」「There Is No Love」に加えて、日本新装リイシュー盤では、「These Days Are Ours -Piano Version」「Wide Open Spaces」「She Won’t Let You Down」の3曲が追加収録されている。特に本作リードトラックの「These Days Are Ours」の ピアノ・ヴァージョンは、同曲のデモに近いヴァージョンと推測されるのでファンは必聴だろう。 


89~93年頃のバンド・メンバー

 続いてキャンディ・オペラの第一期(1982~1993年)のデモ音源を発掘したコンピレーションと、未発表曲集を日本独自に2枚組で新装リイシューした『45 Revolutions Per Minute & Rarities』について解説する。 バンド結成時キャンディ・オペラのメンバーは、マローンとモス以外にベースのMike Wiggins(マイク・ウィギンズ)、ドラムのIan Haskell(イアン・ハスケル)だった。このラインナップのデモは本作DISC1『45 Revolutions Per Minute』に4曲収録されている。 
 ポーグスやゴー・ビトウィーンズとのライブ共演でイギリス国内の評価が高くなっていった1985年には、マローンとハスケル以外のメンバーが脱退し、その後も幾度かのメンバー・チェンジを経て、89年にはマローンの他、ギター、キーボード等マルチプレイヤーのブライアン・チン・スミザーズ、ベースのフランク・マホン、ドラムのアラン・カリーという新体制でバンドを継続した。この頃は前説明の通り、EMIやGO DISCS!といったメジャー・レコード会社からのオファーもあったが契約に至らず、1993年に解散したという。このあたりの経緯はブックレットの解説に詳細が記載されているので、興味を持った音楽ファンは入手して読んでみて欲しい。 
 本作中1988~89年にレコーディングされた楽曲は録音状態が良く、デモとは思えない完成度なのでその中から中心に解説したい。
 DISC1冒頭の「What A Way To Travel」はシャッフル・ビートの軽快なギターポップで、デジタル・シンセサイザーのエレピやパッドの音色からローバジェットで製作された感はあるが、それが味となってプリファブの『Swoon』(1984年)や『Protest Songs』(1989年/レコーディング:1985年)に通じる。とにかく曲の良さとマローンの歌声が光っている。

 
What A Way To Travel / Candy Opera


 続く「The Good Book And The Green」も前曲と同メンバーによる爽やかなギターポップで、マホンとカリーのリズム隊による安定した演奏と、チン・スミザーズによるギターとキーボードの的確なプレイが、マローンのボーカルをサポートしている。
 4曲目の「Fever Pitch」は「What A Way To Travel」と同時期にレコーディングされた曲で、曲調やアレンジ共に初期プリファブ度が高く、サウンドの構築方法も参考にしていたのではないかと思える。
 「Time」では一転してロックンロール・サウンドで、チン・スミザーズによる荒削りなギター・ソロが聴ける。ローバジェットなデモ音源のコンピレーションのため、レコーディング・スタジオとエンジニアの違いで、この手のサウンドは他の曲とドラムの鳴りが大きく異なる筈であるが、マスタリングでよく補正されている。 
 結成時メンバーのレコーディング曲の中で最も可能性を感じたのは「Diane」で、ボサノヴァのリズムを持ったギターポップだ。1985年当時この様な曲を書いていた英国ミュージシャンは、スタイル・カウンシル全盛期のポール・ウェラーか、アズテック・カメラのロディ・フレイム、そしてプリファブのパディ・マクアルーンしかいなかったのではないだろうか。マローンの歌声にも若さを感じる。

 DISC2の『Rarities』は、『45 Revolutions Per Minute』や『The Patron Saint of Heartache』未収録のレアトラック集で、「What A Way To Travel」や「Rise」のデモ・ヴァージョン、「Nine Times Out Of Ten」「Fever Pitch」のライブ・ヴァージョンなどレアな音源が聴ける。
 未発表で秀逸な曲は「I Can See For Miles」で、初期スティーリー・ダンにも通じた不可思議で洗練さを感じさせるコード進行とメロディは一聴して虜になった。この曲はマローンのソングライティングにカリーが作曲で手助けし、プロデュースとエンジニアリングもカリーが担当している。演奏もマローンによるギター以外の全ての楽器をカリーがプレイしてるので、この時代からカリーはマローンにとっては不可欠な音楽的パートナーだったと推測する。

I Can See For Miles / Candy Opera


 スティーリー・ダン繋がりでは、冒頭曲の「Las Americanos」のイントロのギターリフは「Don't Take Me Alive」でヴァースは「Green Earrings」(共に『The Royal Scam』収録/1976年)だったり、「Between A Rock And A Hard Place」では全体的に「Do It Again」(『Can't Buy A Thrill』収録/1972年)を意識しているのが感じられる。これは1980年代中頃から90年代初期に掛けておこった”スティーリー・ダン症候群(Steely Dan Syndrome)”と捉えていいだろう。スティーリーのウォルター・ベッカー自身がプロデュースしたChina Crisis(チャイナ・クライシス)やノルウェー出身のFra Lippo Lippi(フラ・リッポ・リッピ)の直系から、ソングライティングやサウンドに影響が垣間見えるプリファブのパディ・マクアルーンやDanny Wilson(ダニー・ウィルソン)など。またサウンドはその影響下ではないが、スティーリーの代表曲をバンド名にしたDeacon Blue(ディーコン・ブルー)などこの時期にイギリスを中心に多く出現していたので、マローンとカリーも同胞だったと考えられる。
 これらの未発表曲はセンスや音楽性こそ高いのだが、キャンディ・オペラ本体とはスタイルが異なるので、あくまでマローンとカリーの趣味ユニットの音源と捉えていいかも知れない。いずれにしても、埋もれてしまうには惜しい才能であることは間違いないので、今回日本で新装リイシューされたことは非常に意義があるのだ。



【ミュージシャンズミュージシャン・推薦コメント】

 高校時代、季節はいつだったか忘れてしまったが、ある雑誌で遊佐未森さんが紹介していたPrefab Sproutの『From Langley Park To Memphis』のジャケットを目にした。同じ頃偶然に、近所の音楽に詳しい大学生のお兄さんから、こういうのも聴いてみなよと貸してくれたアルバム『STEVE McQUEEN』のカセットテープ。なんだか運命を感じて、ガチャガチャっと慌ただしくデッキの再生ボタンを押した。当時の自分が今まで聴いたことのない毛色、なんとも甘味な音楽がスピーカーから部屋全体に広がり、僕はすっかり魅了されてしまった。

 Candy Operaを聴いた瞬間、あの頃のトキメキ、高揚感、そして心がヒリヒリする感覚を思い出した。ネオアコというジャンルを知って、当時は意味もなく優越感に浸っていたものだ。なんとなく素敵な自分(笑)、妄想は全開だ。青く儚い世界。捻くれているくせに美しいものを求めていた。

 Candy Operaはリヴァプールのバンド。80年代に活躍していたにも関わらず、メジャーからの誘いを固辞していたそうだ。バンド名や活動スタイル、そして繊細な音楽から、美意識と一筋縄ではいかない瑞々しいオーラが満載だ。時代を超えて届いた奇跡の作品。今、出会えてよかった。
近藤健太郎(The Bookmarcs / the Sweet Onions)

◎近藤健太郎プロフィール:The Bookmarcs、the Sweet Onions、Snow Sheep、ソロで活動中。
それぞれボーカル、ギター、ピアノ、作詞、作曲等を担当。 
ラジオ番組『The Bookmarcs Radio Marine Café』(マリンFM)のナビゲー ター。『ようこそ夢街名曲堂へ!』(K-mix)準レギュラーとして出演中。
自主レーベルphilia recordsを主宰。CDリリース、イベント企画、また他アーティ ストへの楽曲提供やサウンドプロデュースも手掛けている(小林しの、藍田理緒 etc)。
2025年3月5日、ソロとして初のフル・アルバム『Strange Village』をリリース。



 最後にプリファブ・スプラウトとスティーリー・ダンを偏愛する筆者による詳細解説と、近藤健太郎氏のコメントを読んで、興味を持った弊サイト読者や音楽ファンは是非入手して聴いて欲しい。

(テキスト:ウチタカヒデ
















2025年4月23日水曜日

伝承民謡 スカボロー・フェア

  最近、少し興味があった英国伝承童謡のマザーグースについて調べていたら、サイモン&ガーファンクルのヒット曲「スカボロー・フェア」の情報に辿り着いた。有名曲なので存在は知っていたけれど、マザーグースにも含まれるのは今になって知った。

Scarborough Fair / Simon & Garfunkel

 サイモン&ガーファンクルの直接的なカバー元になっているのは、60年代英国のフォークリバイバル運動の中心人物だったマーティン・カーシーの弾き語りだそう。ポール・サイモンとアート・ガーファンクルは、まだ学生だった1957年にトム&ジェリーとして、母国アメリカでデビューしたものの思ったようには売れず、その後ポール・サイモンはイギリスに渡った。その際に、フォーククラブなどでトラッドを弾き語っていたマーティン・カーシーの「スカボロー・フェア」を聴いたそうだ。当時この弾き語りに影響を受けたのはポール・サイモンだけではなく、ボブ・ディランも同曲からインスピレーションを得て「北国の少女」を制作している。もとは古くからの伝承民謡のため多くのバリエーションが存在する曲で、マーティン・カーシーはイワン・マッコール&ペギー・シーガーによる歌集のバージョンを元にしていると言われている。

Scarborough Fair / Ewan MacColl

 "スカボロー・フェア"というのは13〜18世紀頃、約500年もの間、イギリス北東部ヨークシャー州の海辺の街、スカボローで毎年夏に開催されていたマーケットのことだそう。サイモン&ガーファンクルの「スカボロー・フェア」の歌詞は、ある者がスカボローに住むかつての恋人への伝言を、その地へ向かう者に依頼する内容になっている。伝言には、

縫い目を残さず針も使わずにキャンブリックのシャツを作ってほしい

海と波打ち際の間に1エーカーの土地を見つけてほしい

といった、不可能な課題が提示される。そして、その伝言に対しての言葉なのか、繰り返し歌われる

パセリ・セージ・ローズマリー・アンド・タイム

という言葉。謎かけ歌として解釈が様々存在するけれど、ここで出てくるハーブは古くは魔法的な意味を持ち、災いから身を守るためのお守りとしても考えられていたことが、植物学者や民俗学者にはよく知られていることらしい。問いかけに応じると魂を奪われてしまうため、まじないとしてハーブの名前を唱えているというのがひとつの解釈だ。

 また、サイモン&ガーファンクルのバージョンでは、前述の恋人への伝言に、さらに1965年にリリースされたポール・サイモンのソロアルバム『ポール・サイモン・ソングブック』収録の反戦歌「ザ・サイド・オブ・ア・ヒル」の歌詞の内容が組み合わされているので、ここでの伝言は戦死した騎士の生前の恋人へのものかもしれないし、スカボローの恋人の方がこの世に存在していない、と解釈されることもある。

 「スカボロー・フェア」の歴史を辿れるところまで辿ると、19世紀後半にアメリカの文献学者フランシス・ジェイムズ・チャイルドが、イングランドやスコットランドの民間伝承バラッドを収集してまとめた、『チャイルド・バラッド』の整理番号Child #2にあたる「エルフィンナイト」に行き着くとされる。ここでは、妖精の騎士へ結婚を望む乙女に対して騎士が不可能な課題を提示し、乙女も同様に困難な課題を考案する。

 1993年にリリースされたフォーク・ドキュメンタリー番組のサウンドトラック『アコースティック・ルーツ』にはマーティン・カーシーとペンタングルのメンバーとしても知られるフォーク・ミュージシャンのバート・ヤンシュが共演したバージョンが収録されていて、ここでのタイトルは「エルフィンナイト」とされている。

The Elfin Knight / Martin Carthy · Bert Jansch

 「エルフィンナイト」から続く「スカボロー・フェア」の根幹は "不可能な課題" だと思うけれど、これがバージョンによって様々な効果を生んでいて面白い。有名な男女デュエットのものでは、お互いが不可能な課題を与え合い、達成できればあなたは恋人だと歌う。16〜17世紀から存在するとされている民謡が伝承の過程で変化しつつも、消滅することなく歌い継がれてきたと思うと、途方もなく壮大でわくわくしてくる。


参考・参照サイト



執筆者・西岡利恵

60年代中期ウエストコーストロックバンドThe Pen Friend Clubにてベースを担当。



■NEWアルバム『Back In The Pen Friend Club』をCD、配信にて発売中。

試聴トレーラー:

■ライブ
5/18(日) ​横田基地『日米友好祭2025』

詳細・ご予約

■クラウドファンディング
2枚組NEWアルバム『Songularity - ソンギュラリティ』
制作&レコ発ツアー応援プロジェクト

プロジェクトページ








































2025年4月6日日曜日

Various Artists:『Paul Weller Presents That Sweet Sweet Music』


 70年代後半にイギリスの音楽界にデビュー後、オルタナティブ・ロックや後のブリット・ポップ界でリスペクトされているポール・ウェラーが、自ら選曲したソウル・ミュージックのコンピレーション・アルバム『Paul Weller Presents That Sweet Sweet Music』(CDTOP 1655)をACE RECORDSからCDとアナログLPでリリースした。
 ポール・ウェラーはその音楽性だけに留まらず、ファッションやジャケット・アートなど、自身が影響を受けた60年代のムーブメント” Mods(モッズ)”を源流としたセンスにより、世代を超えて多大な影響力に与えており、”モッド・ファーザー”と称されている。日本の音楽業界でもWACK WACK RHYTHM BAND(ワック・ワック・リズム・バンド)の山下洋や、元Cymbalsで現TWEEDEES(トゥイーディーズ)沖井礼二など、筆者とインタビューで交流のある、拘り派ミュージシャンの間でも信奉者が多く、その影響力は母国イギリスを超えて世界に広がっている。

収 録 曲
1 God Made Me Funky - The Headhunters
2 Spanish Twist - The I. B. Special
3 Breakaway – The Valentines
4 Top of the Stairs - Collins & Collins
5 Don't Let the Green Grass Fool You - The Spinners
6 Black Balloons - Syl Johnson
7 Soulshake - Peggy Scott & Jo Jo Benson
8 I Can't Make It Anymore - Richie Havens
9 You Got to Have Money - The Exits
10 Pull My String (Turn Me on) - The Joneses
11 Run for Cover - The Dells
12 On Easy Street - O.C. Smith
13 It Ain't No Big Thing - The Radiants
14 Summertime - Billy Stewart
15 In the Bottle - Brother to Brother
16 Hard Times - Baby Huey
17 Maggie - Johnny Williams
18 When - Joe Simon
19 Pouring Water on a Drowning Man - James Carr
20 That's Enough - Roscoe Robinson
21 Blackrock "Yeah, Yeah" - Blackrock
22 Golden Ring - American Gypsy
23 Search for the Inner Self - Jon Lucien
24 Life Walked Out - The Mist
25 In the Meantime - Betty Davis
26 Beautiful Feeling - Darrell Banks



 弊サイト読者には説明不要であろうが、そんなウェラーのプロフィールに触れておく。1958年5月25日にイギリスのサリー州Wokingで生まれたウェラーは、十代前半にリード・ギタリストのスティーブ・ブルックスらスクール・メイト達とバンドを組んで、ベーシストとして音楽活動を開始する。メンバー・チェンジの末にセカンド・ギタリストのブルース・フォクストンとドラマーのリック・バックラーが参加するも、76年にブルックスが脱退したことで、ウェラーはフォクストンにベースにコンバートすることを勧め、自らボーカル兼ギタリストとしてフロントに立ち、The Jam(1976-1982)を結成させた。
イギリス国内では18曲ものトップ40シングルをリリースし、その内「Going Underground」(1980年)や「Town Called Malice」(1982年)など4曲はナンバーワン・ヒットに輝いたが、新たな音楽的可能性を望んだウェラーの脱退宣言を機に、バンドは1982年12月のフェアウェル・コンサートをもって解散した。

 直ちにウェラーはThe Jam末期から音楽的交流があり共通のセンスを持つ、キーボーディストのミック・タルボット(元デキシーズ・ミッドナイト・ランナーズ、ザ・マートン・パーカーズ)と共にThe Style Council (スタイル・カウンシル/1983–1989)を結成し、1983年9月にミニアルバム『Introducing the Style Council』でデビューする。翌84年3月のファースト・フルアルバム『Café Bleu』ではジャズ、ソウル、ファンクからボサノヴァまでと様々なジャンルの楽曲を収録しており、音楽ジャーナリスト達の間では賛否両論になったが、セールス的にはまずまずの成果を出した。続くセカンド『Our Favourite Shop』(1985年6月)では全英アルバム・チャートでナンバーワンとなり、アメリカを除く欧米と日本でも好セールスとなり、彼ら最大のヒット・アルバムになっている。
 その後『The Cost of Loving』(1987年2月)では、彼らが敬愛したシカゴのニューソウルを代表するカーティス・メイフィールド、ルーサー・ヴァンドロスの『Never Too Much』(1981年)などで知られる名エンジニアのカール・ビーティ、また同時代のアメリカン・ソウル兄弟デュオのThe Valentine Brothersにミックスダウンを曲ごとにオファーするなど、ブラック・ミュージックに最接近する。続く『Confessions of a Pop Group』(1988年6月)ではクラシカルな組曲や60年代中後期のビーチボーイにおけるブライアン・ウィルソンからの影響を感じさせ、ポップ・ミュージックとしては振り切り過ぎたサウンドが、当時の平均的な音楽リスナーにとってトゥーマッチだったのか、チャート的には芳しくなく、失速してしまった。
 1989年のシングル「Promised Land」(ジョー・スムースのカバー)ではガレージ・ハウスにチャレンジして、このサウンドでアルバム製作もおこなったのだが、所属レコード会社ポリドールからリリースを拒否され、惜しくも解散してしまった。この幻のラスト・アルバム『Modernism: A New Decade』が陽の目を見たのは、10年後の1998年10月だった。
 
 スタイル・カウンシル解散直後のウェラーは、ソロアーティスとしてレコード契約も出来ないままでいたが、1991年5月シングル「Into Tomorrow」をThe Paul Weller Movement名義としてソロデビューする。翌1992年9月には盟友のビリー・ブラッグが所属するGo! Discsよりファースト・ソロアルバム『Paul Weller』を皮切りに、『Wild Wood』(93年9月)、『Stanley Road』(95年5月)とコンスタントにリリースし、音楽性や商業的にもそのキャリアを復活させて、2024年の最新作『66』までに17枚のアルバムを発表している。


アナログLPレーベル

 さて本作『Paul Weller Presents That Sweet Sweet Music』であるが、ウェラーの音楽活動の変遷を垣間見れる、良質なソウルやファンク・ミュージック26曲がコンパイルされていて、彼の熱心なファン向けだけとしてではなく、このコンピを切っ掛けにしてレアな曲をディグしていくのも一興ではないだろうか。
 ここからは筆者が気になった収録曲を解説していこう。冒頭の「God Made Me Funky」は、数多のレアグルーヴ・ナンバーの中でも聖典と呼ばれる、The Headhuntersの『Survival of the Fittest』(1975年)収録曲で、グループ名義のファースト・アルバムを代表する曲である。ベーシストのポール・ジャクソンのボーカルにゲストのポインター・シスターズのコーラスが掛け合うシンプルなコード進行で、ジャクソンとドラマーのマイク・クラークによる巧みなグルーヴに、当時20歳前後の若きギタリストのブラックバード・マックナイト(筆者はP-FUNKオールスターズの来日公演で彼のプレイを生で観ている)のファンキーなカッティング、マイルスの『Bitches Brew』(1969年)でも活躍したリーダーのベニー・モウピンによるフリーキーなテナーサックス・ソロが絡んでいく9分40秒の長尺ファンクだ。
 そもそもThe Headhuntersは、ジャズ界の帝王マイルス・デイヴィスの弟子筋では最も才能を有して成功した、ピアニストのハービー・ハンコックの12thソロアルバム『Head Hunters』(1973年)を切っ掛けとして、参加ミュージシャンにより結成されたフュージョン・ファンク・バンドだった。因みにウェラーはスタイル・カウンシルのデビュー・シングルを「Speak Like A Child」というタイトルにしており、曲調やサウンド共に全く異なるのだが、ハンコックの6thソロアルバム『Speak Like a Child』(1968年)のタイトル曲からインスパイアしていたのではないだろうか。この様に異ジャンルからの飽くなき吸収力やセンスにウェラーらしさを感じさせる。
Herbie HancockとThe Style Council の
各『Speak Like a Child』

 Collins & Collinsの「Top of the Stairs」は、フィラデルフィア出身で父親もミュージシャンだったビル・コリンズが妹トニー・コリンズを誘って組んだ兄妹デュオのシングル曲だ。モータウン黄金期を支えたソングライター・チームで、夫婦デュオとしても活動したニコラス・アシュフォードとヴァレリー・シンプソンから提供され、唯一のアルバム『Collins And Collins』(1980年)にも収録されている。70年代ギャンブル&ハフの元でアレンジャーとして、Soul SurvivorsやThe Three Degrees等のセッションに参加していたジョン・デイヴィスが本曲のプロデュースとアレンジを手掛け、フィリーソウルの本極地であるSigma Sound Studiosでレコーディングされているので、この曲にもフィリーの名残がありつつ、ディスコ・ムーブメントで希釈された70年代ソウルからブラック・コンテンポラリーへのミッシングリンクになるであろうモダン・ソウルが展開されている。とにかくアシュフォード&シンプソンによるソングライティングとデイヴィスによるアレンジが素晴らしく、このコンピレーションの中でも人気曲になるだろう。この兄妹デュオはシングル3枚とアルバム1枚で活動を終えた。

 ここからはマイナーながら良曲にも触れたい。イギリスのレアなノーザン・ソウルとしてディグされているのが、The Exits の「You Got to Have Money」だ。彼らはロサンゼルス出身の4人組ボーカル・グループで、60年代後半に4枚のシングルのみリリースして、リードシンガーのジミー・コンウェルは解散後はソロシンガーとなり活動を続けた。この曲は1967年にGemini Recordsからリリースされたデビュー・シングル「Under The Street Lamp」のカップリング曲で、クレジットによるとメンバーの連名によるオリジナル曲だが、TEDDY RANDAZZO(テディ・ランダッツォ)に通じる作風が耳に残って離れない。アレンジ的には2台のギターにベースとドラムの基本的なリズムセクションにコンガを加えているのが注目点で、恐らくH=D=Hが手掛けていた頃のフォートップスを意識していたのだろう。
 Brother to Brotherによるギル・スコット・ヘロンの「In the Bottle」(1974年)のカバーは、ノーザン・ソウル・ブームの時期に散々語られてきたので軽く触れるに留めるが、オリジナルのThe Midnight Bandの演奏に比べて、このヴァージョンの方がタイトで巧いのは間違いない。ベーシストのシンコペーションとドラマーの正確なキックを聴けば理解出来るが、彼らはシルヴィア・ロビンソンが設立したTurbo Recordsに所属しており、本作のレコーディングでは、The Momentsのアル・グッドマンとハリー・レイが共同プロデューサーとして仕切っていたので、手練なミュージシャン達が参加していたのだろう。

 Baby Huey(ベイビー・ヒューイ)の「Hard Times」もノーザン・ソウル・ナンバーとしてポピュラーで、シカゴのCurtom Recordsから1971年にリリースされた『The Baby Huey Story: The Living Legend』に収録され、同レーベルを設立したカーティス・メイフィールドがソングライティングとプロデュースを手掛けている。当時のカーティス・サウンドに通じるサイケなワウワウをかましたギターをフューチャーした、ブルース進行のファンキーなシカゴ・ソウルである。この曲はThe Headhuntersの「God Made Me Funky」と同様に、多くのヒップホップ・アーティストにサンプリングされているが、サビのホーンのリフ・パターンは、ピーター・ガブリエルが1986年に全米チャートナンバーワンを果たし大ヒットさせた「Sledgehammer」(『So』収録)にもオマージュされている。
 残念なことにヒューイは、本作レコーディング期間の70年10月に薬物使用の心臓発作により26歳の若さで急死したため、カーティスが残りのレコーディングを完成させたという。それによりヒューイのバックバンドThe Babysittersの演奏ではなく、Curtomの手練なセッション・ミュージシャン達が差し替えている可能性があり、この曲でも明らかにヘンリー・ギブソンらしきコンガのプレイが左チャンネルから聴ける。

Life Walked Out / THE MIST 

 The Mistの「Life Walked Out」もマイナーながら良曲だ。ノーザン・ソウルとして注目されていたことで、2018年に日本でアナログ7インチとしてリイシューされたのが記憶に新しい。謎の多いグループなのだが、彼らはカンザス出身の4人組ボーカル・グループで後にThe Visitorsとなる。地元カンザスでThe Chi-litesとのライブ共演により、同グループのユージン・レコードの知己を得てBrunswick RecordsのサブレーベルのDakar Recordsからシングルを4枚リリースしている。このThe Mist時代のシングルはグループには無許可でTwinight Recordsから1971年にリリースされたもので、そのような複雑な契約になった経緯はあるにしろ、この「Life Walked Out」のクオリティには目を見張るものがある。
 ソングライティング・クレジットはBilly Durham、Leamon Coxとプロデュースも手掛けたMark Davis(マーク・デイヴィス)の名義になっているが、キーマンのマークに注目したい。若干14歳から名門のChessやVee Jay Recordsでセッション・ピアニストや写譜スタッフを務めキャリアをスタートさせ、弊誌ではお馴染みのソフトサイケ・バンドのRotary Connectionや同メンバーだったミニー・リパートンの初期ソロ作で裏方を務め、その後Motown Recordsでマーヴィン・ゲイやダイアナ・ロス、The Jackson 5といった大物アーティストのレコーディングに関わるようになる。この曲の陰影に満ちたコンポーズの素晴らしさはそんなマークの才能に寄るところが大きい。バッキングは恐らくThe Chi-litesでも演奏しているシカゴ・ソウル系のスタジオ・ミュージシャン達ではないだろうか。

 ラストのDarrell Banks(ダレル・バンクス)の「Beautiful Feeling」は、オハイオ州マンスフィールド出身のソウルシンガーのセカンドアルバム『Here to Stay』(1969年)からシングルカットされたミドルテンポの感動的なバラードだ。1937年7月生まれのバンクスはデトロイトに出て、66年にRevilot Recordsと最初の契約をし、その後名門アトランティック系のATCO Recordsや名門のStax系のVoltと契約して生涯で2枚のアルバムと7枚のシングルをリリースした。オーティス・レディング系譜のシンガーとして才能に恵まれなら、悲運にも1970年に警官に射殺され32歳の若さで亡くなっている。
 この曲はデトロイトをベースに活動するThe Brothers Of SoulのBobby EatonとFred Bridges、Knight BrothersのRichard Knightの3名のソングライティングで書かれており、名匠Don Davisがプロデュースを手掛けている。豊かなオーボエのオブリガード、それとストリングスはヨハン・パッヘルベルの「カノン」中盤のフレーズを模して奏でるなど、アレンジ的にも凝っていて素晴らしく、このコンピを締め括るに相応しい名曲だ。
 
 最後に総評として、ウェラーの類まれなソングライティング・センスを育んだ、ノーザン・ソウルを主としたソウル・ミュージックの懐の深さを詰め込んだ、良質なコンピレーション・アルバムであると確信した。この解説を読んで興味を持ったポール・ウェラーの熱心なファンや弊サイト読者は是非入手して聴いて欲しい。

(テキスト:ウチタカヒデ














2025年1月19日日曜日

DAVID PATON:『Communication』


 英国ポップロック最高峰と称されるパイロット(Pilot)のフロントマンでベーシスト、デヴィッド・ペイトン(DAVID PATON)が、約2年振りとなるオリジナル・ニューアルバム『Communication』を1月22日にリリースする。
 2022年5月の日本のポップ・ユニット”SHEEP”とのコラボレーション・アルバム『メロディ・アンド・エコーズ』が記憶に新しいが、ソロ名義のオリジナル・アルバムとしては、2020年11月に個人レーベル“David Paton Songs”からリリースした『2020』以来、約4年振りとなる8作目となった。

 本作では『メロディ・アンド・エコーズ』に続き、SHEEPの堀尾忠司、田中久義との共作の4曲をはじめ、パイロット時代からファンには知られる作風通り、ポール・マッカートニー直系の英国ポップロック然とした本編11曲に、日本独自のボーナストラック2曲の全13曲を収録している。


 改めてデヴィッドのプロフィールに触れるが、1949年10月スコットランドのエジンバラ生まれの彼は、The Beachcombersのメンバーとして1968年にCBSレコードと契約し、同年バンド名をThe Bootsに変え、シングル「The Animal In Me」と「Keep Your Lovelight Burning」をリリースするも70年には解散してしまう。その後初期Bay City Rollersに代理メンバーとして加わるが短期間で脱退し、翌年同様に脱退したビリー・ライオール(キーボーディスト)、更にスチュアート・トッシュ(ドラマー)を加えて73年にパイロットを結成する。 
 彼らはEMIレコードと契約し74年にアラン・パーソンズのプロデュースで、ファースト・アルバム『From the Album of the Same Name』(同年10月)をレコーディングし、2曲目の先行シングル「マジック(Magic)」(同年9月)が全英11位、全米5位を記録し、カナダではゴールドディスクに認定されヒットした。ファーストのレコーディング後サポート・ギタリストのイアン・ベアンソンを正式メンバーに加えて4人組となり、翌75年の『Second Flight』の先行シングルで、デヴィッドが単独でソングライティングした「January」(同年1月)は全英1位となり国内最大のヒットとなった。
 その後オリジナル・メンバーのビリーが76年に脱退したため、サードの『Morin Heights』(76年)では残った3人にサポート・キーボーディストを加え、クイーンの諸作で知られていたロイ・トーマス・ベイカーのプロデュースの元でレコーディングしている。翌77年にはスチュアートも脱退し、デヴィッドとイアンの2人体勢のパイロットは、再びアランのプロデュースで『Two's a Crowd』(77年)をリリースするが同作がラスト・アルバムとなった。デヴィッド、イアン、スチュアートの3名は、アランが75年に結成したアラン・パーソンズ・プロジェクトの準メンバーとして、76年のファースト・アルバムから全盛期の80年前半まで参加し、そちらの活動の方がメインとなったことでパイロットは自然消滅した。

 この様に70年代から80年代を通して、英国ロック界でデヴィッドは大きく貢献してきた。パイロットとしては2002年と2007年にデヴィッドとイアンを中心にリユニオンしており、5thアルバム『Blue Yonder』(2002年)と、企画アルバム『A Pilot Project:A Return to The Alan Parsons Project』(2014年)をリリースしている。2017年以降はデヴィッドのソロ・プロジェクトとして現在も活動を継続している。
 一方イアン・ベアンソンは、長い認知症闘病の末、2023年4月7日に惜しくも69歳で亡くなっている。彼のギター・プレイは、パイロットやアラン・パーソンズ・プロジェクト以外のセッションでも知られており、日本でも有名なケイト・ブッシュの「Wuthering Heights(嵐が丘)」(1978年)のギターソロは、利き腕の右手首を骨折してギブスを付けたままプレイしたという。そんな彼のプレイは、この先も音楽ファンに長く聴き継がれていくだろう。 
 
 左上から時計回りに1stから4thアルバム

 本作『Communication』は既出通り、デヴィッドのソロ名義のオリジナル・アルバムとして、『2020』(2020年11月)以来、約4年振りとなる8作目となった。本国の英国では昨年10月20日にリリースして11曲を収録していたが、今回の邦盤では2曲のボーナストラックを追加して全13曲を収録しているのが嬉しい。
 デヴィッド単独名義のソングライティングは6曲で、SHEEPの田中久義との共作は3曲、同じく堀尾忠司との共作は1曲、また本作に参加したサポート・ドラマーのマーティン・ワイクス(Martin Wykes)、キーボーディストのジョン・ターナー(Jon Turner=John Turner)と各1曲ずつ曲作している。因みにターナーはエンジニアとして、プリファブ・スプラウトのファースト・アルバム『Swoon』(1984年)を手掛けていた。残りの1曲はデヴィッドと同郷のバンドザ・プロクレイマーズ(The Proclaimers)の1988年作「I'm Gonna Be (500 Miles)」のカバーで、選曲的によく練られた構成となっている。
 マルチプレイヤーであるデヴィッドの以外の参加ミュージシャンについては曲ごとに触れていくが、やはり共作者が演奏にも参加するスタイルが多い。ジャケットにも触れるが、セピア色のジャケット両面のショットは、デヴィッドの妻であるメアリー・ペイトンが撮影しているのが微笑ましい。ブックレットにはそんな夫妻の姿も写っている。

'Communication', the new album from David Paton. 
 Available now from pilot-magic.com 

 ここからは収録曲中筆者が気になった主要曲を解説していこう。 
 冒頭に相応しい「Yeah! Yeah! Yeah! Yeah!」は田中久義との共作曲で、原曲は田中がSHEEPの前に結成し、デヴィッドもリードボーカル他で参加した、BEAGLE HATのメジャーデビュー・アルバム『MAGICAL HAT』(2006年)レコーディングの際、デヴィッドが提供した「ON MY WAY」である。アレンジの基本構造は同じだが、ややテンポが早くなって、曲としての完成度も高くなっている。マーティンによるドラムと一部キーボード以外の全楽器をデヴィッドが一人多重録音でプレイしている。年齢を感じさせないデヴィッドのボーカルも健在で、パイロット・ファンも楽しめる。
 続く「All I Need」はデヴィッド単独のソングライティングで、ポール・マッカートニー直系のビートリーな良曲だ。レコーディングにはドラムのマーティンの他、“David Paton Songs”に所属するケニー・ハーバート&ラブ・ホワットの2人が、エレキギターとコーラスで、プロデューサーのデイヴィー・ヴァレンタインがオルガンで参加しており、スコットランドのハートビート・スタジオで撮影された同曲のMVで、参加メンバー達の楽し気な姿を目にすることが出来る。

 
All I Need. david@pilot-magic.com 

「Raindrops」は『メロディ・アンド・エコーズ』から引き続き再収録された堀尾忠司との共作で、尺が僅かに短くなっているが基本アレンジは同じで、ポールの『Ram』(1971年)をこよなく愛するファンは好きになるだろう。デヴィッドはウクレレとベース、キーボードとドラム・プログラミング、堀尾は特徴的なリフを弾くエレキギターとシロフォンの他コーラスも担当している。 
 一転してシリアスな「No Words」はソングライティングとアレンジ、全ての楽器をディッドが一人多重録音すており、コーラスには愛娘のサディが参加している。サウンドのポイントになっているフレットレス・や間奏のギターソロまで巧みにこなす、デヴィッドの器用さには脱帽するばかりだ。
 
 マーティンと共作した「Before I Let Go」は、やはりドラマーということでポリリズムのビートが基調になっていて、サウンド自体もデヴィッドが持つポップス感覚とは異なり、ピーター・ガブリエルなどを彷彿とさせて興味深い。こういった要素をアルバムの中でスパイスにさせているのだろう。
 タイトル曲「Communication」はデヴィッド単独のソングライティングで、所謂英国的なシリアスな曲調で、マーティンのドラム以外はデヴィッドの一人多重録音だ。「Before I Let Go」同様にこういった、80年代を意識したサウンドは、当時聴き込んでいたであろうマーティンがアレンジのアイディアを出しているようだ。
 本編ラストの「I Will Be King」はジョン・ターナーとの共作で、アレンジとキーボード、ドラム・プログラミングはジョンが担当し、デヴィッドは全てのギター、ベースをそれぞれ担当している。シンプルなドラム・トラックのビートと必要最低限の音数で構成されたサウンドをバックにデヴィッドのボーカルが感動的なバラードである。

 日本独自のボーナストラックに触れておこう。 「How can this love survive?」はデヴィッド単独作で、フェイザーが効いたテンポ感のある打ち込み主体サウンドが、本編のカラーが異なるのでオミットされたのかも知れないが、曲としては悪くない。プリファブ・スプラウトの『From Langley Park to Memphis』(1988年)でトーマス・ドルビーがプロデュースした楽曲に通じていて、好きにならずにいられない。 
 続く「I'm gonna be (500 miles)」はThe Proclaimersの1988年作のカバーで、オリジナルはリリースの5年後にジョニー・デップ主演の米映画『ベニー&ジューン(Benny & Joon)』(1993年)で使用されたことで英国外でもリバイバル・ヒットした。 
 ここではデヴィッドの愛娘サディが味わい深いリードボーカルを取り、テンポをかなり落とし、ブルージーなアレンジにモディファイされていて別曲の様な仕上がりになった。ボーナストラックゆえにパーソナル・クレジットがないのだが、ハーモニカのプレイも光っていて素晴らしい。

SADIE PATON

 英国が誇る伝説のロック・ミュージシャンであるデヴィッド・ペイトンの最新作を、パイロットの全盛期から半世紀過ぎた現在もこうして聴けるのは幸運である。筆者のレビューを読んで興味を持った音楽ファンは、是非入手して聴いて欲しい。 



(テキスト:ウチタカヒデ













2024年12月6日金曜日

ザ・コーギス、3年ぶりのニューアルバム

 


Beginnings」に始まり、「Beginnings」に終わる収録曲の並び。そして、『UNUnited Nations BLUE』と『UNUnited Nations RED』という意味深なアルバムタイトル(以下、『BLUE』、『RED』と略して表記)。2作を並べると、地球のあちこちが線でつながっている。ザ・コーギスが3年ぶりにリリースするニューアルバムの全体のテーマとして、彼らは、「世界のつながり」とそれに相反する「分断」、そして「音楽の世界旅行」を考えた。どんなアルバムなのか、アルバムのライナーに収録された彼らの言葉を中心に、その想いをさぐってみたい。

  

抒情的なメロディと美しいストリングスが印象的なイギリスのポップグループ


……と、アルバムの話に行く前に、ザ・コーギスの説明を簡単に。

ザ・コーギス(THE KORGIS、以下コーギス)は、元スタックリッジのメンバー、ジェームス・ウォーレンとアンディ・デイヴィスの2人を中心に結成された伝説のポップ・ユニット。デビューシングルのリリースは1979年。

スタックリッジは「パストラル・ミュージックのビートルズ」(田園的なのどかな音楽のビートルズといった意味合い)と称され、その後継バンドであるコーギスもビートルズの影響を受けていることをメンバーが公言している。

2枚目のシングル「とどかぬ想い(If I HadYou)」(1979)と、3枚目の「永遠の想い(Everybody’s Got to Learn Sometime)」(1980)が英米で大ヒット。抒情的なメロディ、美しいストリングスやコーラスの音の重なりが印象的で、日本でも、洋楽ファンの心をぎゅっととらえたが、アンディ・デイヴィスの脱退などもあり、1982年、解散。その後、再結成、再解散、レコードの再発、ベスト盤のリリース、ライブなど、つかず離れずといった感じでの活動が続いてきた。

 

                  The Korgis「Everybody’s Got to Learn Sometime」(1980)

 

新型コロナウイルス感染症のロックダウン中にレコーディングされた前作

 

そして202111月、約30年ぶりとなる新作のアルバムKartoon Worldをリリース。2020年の新型コロナウイルス感染症によるロックダウン中に、レコーディングを開始したそうだ。このときのメンバーの言葉を紹介しよう。

 「コーギスのニュー・アルバムは、途切れなく50年間にわたる壮大な音楽です。それは1980年に始まり、目も眩むような成就と共に2030年に終わります。世界はとてつもない没落へと向かっており、テクノロジーではなく、愛の力だけが唯一の明白な答えなのです。過去から未来へ、我々と旅をしましょう。そして我々が知っている人類の滅亡から、我々がどのように辛うじて逃れるのかを見ようではありませんか! Kartoon Worldは誓いと共にリリースされます。その誓いは愛に始まり、愛に終わり、それこそが今の世界に必要なことなのです」

 今、世界に向けて歌わなければ、いつ歌うのか、という強い意志を感じる。そしてこのときの想いが、今回のアルバムUNUnited Nations BLUE』と『UNUnited Nations REDにもつながっていると感じる。


現在のコーギスのメンバーは、コーギス結成時からのオリジナルメンバーであるジェームス・ウォーレン(Ba./Vo./Gt.)と、1982年の最初の解散前には既にコーギスの一員になっていたジョン・ベイカー(Vo./Gt./Key.)、ジェームスの古くからの音楽仲間で2000年代に入ってからメンバーとなったアル・スティール(Vo./Gt./Key.)の3人がフロントを担い、ポール・スミス(Dr./Perc.)、ダニエル・ニコルス(Vo./Gt./Perc.)も含めた5人。

 

愚かさと優しさ、人間の内面を見つめる『BLUE

 

「漠然としたアイデアではあるが、このアルバムは国や都市といった場所をテーマにできそうだと思った。『Nations』という言葉を使った何かがふさわしいように思えたが、その後、ロシアがウクライナに侵攻したことで、UNUnited Nationsに変更することにした」(BLUEブックレットより)

 『BLUE』はオーケストラによるイントロが印象的な小曲Beginnings(作:アル・スティール)で始まり、Mud Huts(泥の小屋の意)」(ジェームス・ウォーレン/アル・スティール)という曲に続く。美しい地球の森を切りひらき、自然を容赦なく切ってきた人間社会を批判する内容だ。


BLUEには他に、Good Old Days Of The Cold War(アル・スティール/ジェームス・ウォーレン)という曲もある。古き良き冷戦時代とは、なんと皮肉な内容だろう。ピアノの低音域のベースラインと右手のコードが8ビートを刻むアレンジが特徴的。どこか陽気で、古い映画音楽のような雰囲気の楽曲なので、タイトルや歌詞を見なければ、社会的な歌だとはわからない、そのギャップがおもしろい。制作を始めた頃の仮タイトルは、なんと、「プーチンとトランプ:ミュージカル編」だったらしい。その後、ロシアによるウクライナ侵攻が始まったため、歌詞の内容が現実とはズレてしまったが、「時が経てば(この歌詞もまた)歴史に沿ったものになると予測している」とブックレットに解説されている。

 

 もちろん、コーギスらしいポップスも健在。ポンポンポン……というかわいらしい音のカウントから、風が吹き抜けるような爽やかなアコースティックギターで始まるSomeday, Charlie, Someday(イアン・クーパー/アル・スティール/ジェームス・ウォーレン)は、私がこの『BLUE』で一番好きな曲。ブックレットに収められたインタビューでは、それぞれのアルバムで「自分たちが好きな曲、おすすめの曲」を聞いているが、アルとジェームスが、この曲をあげている。

明るい旋律ながら、時折、切ない音が入る。コーラスの音の重なりも、コーギスらしい清々しさ。ブックレットの曲紹介によれば、「トーキー映画が生まれた時期のハリウッドにタイムスリップし、チャーリー・チャップリンを批判する(彼には何の罪もない)」とのことだが、歌詞をみる限り、批判しているようには見えないけれど……。


       The Korgis「Someday, Charlie, Someday」(2024)

  

 次の曲Letter To Geelong(ジョー・マテラ/アル・スティール)もアコースティックギターと明るくおだやかな旋律が印象的な曲。故郷に残してきた人びとと手紙のやりとりをするストーリーは、優しさに満ちている。女性ボーカルの声はダニエル・ニコルズ。コーギスに女性ボーカルが加入したことで、歌の表現も、コーラスのニュアンスの幅も広がっているのだとわかる。


  そのあとも、Prison Break(クリス・ホプキンス/アル・スティール/ジェームス・ウォーレン)Another Perfect Day in St.Thopez(ジョン・ベイカー/アル・スティール)と、ポップでコーギスらしい曲が続く。

Prison Breakは後半の間奏にプログレアレンジが入ってくるところで、思わず、ニヤリ。そこまでのアレンジが、イギリスのポップグループらしい、どこかキュートでピュアな雰囲気のメロディとアレンジなので(歌詞は、脱獄しようっていう内容だけどね……())、一瞬、お?と思うが、そこからまたポップなメロディに戻っていくアレンジ、歌詞とのギャップも含めてすべて、ウイットに富んでいて、これもコーギスの魅力のひとつである。

 Another Perfect Day in St.Thopezは、〈君は今どこにいるの〉の歌詞で始まる。終わった恋を思い出し、昔の恋人に心の中で話しかけている。ちょっと切ないけれど、かわいらしいラブソング。この曲を作ったジョン・ベイカーの18歳の頃の経験がもとになっているそうだ。歌詞に、The Beach BoysThe Beatlesも出てくる。遠い日の思い出は、とてもやさしい眼差し。年齢を重ねた今だからこそ書ける、ということだろう。

ジョン・ベイカーの年齢は不明だが、ジェームス・ウォーレンと同世代だとすれば、60代後半~70代前半、か(Wikipediaによると、ジェームスは1951年8月10日生まれ。御年73歳!)。 70代になって、恋の歌をこんなに瑞々しくうたい、演奏するのはとても素敵なことだと思う。


  BLUEも終わりに近づき、最後から2曲目の曲Matala Moon(マーリー・デヴィッドソン/アル・スティール/ジェームス・ウォーレン)は、美しいピアノの音色で始まる。バカラック・スタイルのフルオーケストラの演奏、メインボーカルをつとめたゲストミュージシャンのマーリー・デヴィッドソンとジェームス・ウォーレンのコーラスワークが息をのむほど美しい1曲。マーリーはこの曲でグランドピアノも弾いている。普通のコーラスに加え、ジェームスが対旋律をとる部分もあり、彼の高音域の声が楽曲に清らかさを添える。この「Matala Moon」も、アルとジェームスが「好きな曲」にあげている曲だ。

 


 

悲観の先に希望を見つける『RED

 

 コーギスのコア・メンバーであるジェームス・ウォーレン、ジョン・ベイカー、アル・スティールの3人が唯一そろって「自分が好きな曲、おすすめの曲」としてあげたのが、End Of An Era Feeling(クリス・ホプキンス/ジェームス・ウォーレン/アル・スティール/イアン・クーパー)。重厚で美しいオーケストラサウンドで始まるこの曲は、歌の部分にもすべてコーラスワークが入っており、音の重なりのやわらかさ、優しさが感じられる。

全体でみると、〈Aahit’s that end of an era feeling〉という1行、曲のタイトルでもあるこの部分が鍵となって、それぞれテーマを持ったいくつかの曲パートをつなぎ、構成される「組曲」のような楽曲にしあがっている。

ブックレットに収められた3人のインタビューによると、この曲は1960年代終わりのリバプールが舞台。ビートルズは解散し、ラブ&ピースは終わり、サイケがグラムロックにとって代わろうとしていた時代を表現しているという。歌詞にも1960年代の出来事が綴られており、それは、いっけんポップなサウンドやアレンジとは真逆の、悲観的なもので、現代の私たちが生きる世界にも同じことが言えるのではないかと、どこか不安にかられるような内容でもある。


一転して、ソウルフルなアレンジのCoffee In New York(アル・スティール/ジョン・ベイカー)に続く。ブルックリンのカフェで、まだ見ぬ君へ、そして去っていった人への想いを歌うラブソングのようでいて、同時に、時を超えて継がれていく「何か」にも思いを馳せる。

コーギスの歌詞は(特に、今回の新作BLUE』『REDでは)文字となった単語の裏に、あるいは、その言葉を選んだ背景に、違う意味合いを持たせるものが多く、聴く人によっていろいろに解釈できるものが多い。

新作のアルバムを聴く際、まず最初に聴くときには全体のサウンドから入る人が多いと思う。そこから、歌詞や細かいところを聴いていく感じ。今回、私もそうだったが、歌詞の世界も感じていくにつれ、矛盾を感じたり、気づきもあったりした。もしかしたら、今後、数カ月後、数年後に聴いたら、また違う聴き方になるかもしれない。


3曲目のBorn Under A Full Moon(アル・スティール/ジェームス・ウォーレン)もそんな曲のひとつで、アル・スティールの子どもが誕生した日のことがモチーフとなっている。その日、ライブに出演したあと、病院に向かう途中、見上げた空に満月が輝いていたのだそうだ。

命が継がれていくことの希望を感じる一方で、「深い闇」「道化師」「愚か者」といった歌詞も出てくる。ブックレットに収録されたインタビューでアル自身も、この曲について、「悲観的な‘世界の終わり’タイプの曲」と語っているが、楽曲のアレンジはボサノバ調の陽気な響き。これをどう聴くか。

 

次の曲は、OppenheimerStuck In This Moment)」(クリス・ホプキンス/アル・スティール/ジェームス・ウォーレン)で、理論物理学の研究に生涯を捧げたロバート・オッペンハイマー、‘原爆の父’である彼の生涯のパラドックスがテーマ。しかし、アコースティックギターの音で始まり、コーギスらしいコーラスアレンジが施され、重いテーマを歌うわりには、メロディもアレンジも優しい。こうしたバランス感覚もコーギスらしさのひとつなのだろう。


           The Korgis「Oppenheimer」(2024)

 このあとも、ポップなロックテイストの曲が続くが、テーマ、世界観はさまざまだ。たとえば、オーストラリアの熱帯雨林の森林火災にアイデアを得て作られたRed Flag Day(ジョー・マテラ/ジェームス・ウォーレン/アル・スティール)。あるいは、年配の人物が鏡を眺めながら過ぎ去った年月に思いを巡らせるHey Old Friend(ジョン・ベイカー/ジェームス・ウォーレン/アル・スティール)。昔のことを思い出す歌詞にはビートルズのエピソードも。曲の最後はアレンジが一変し、マイナーに変調して、淋しさが漂うエンディングになっているが、最後の歌詞は「Oh yeah…」が続く。ビートルズの「I’ll Get You」からのオマージュだそうだ。

 

 最後から2曲目は、Sticky Note For The End Of The World(アル・スティール/ジェームス・ウォーレン)。人類が地球を支配した後の世界が舞台。熱帯雨林は燃え上がり、天変地異が次々と陸地を海に沈めていく地球上に、わずかに残った人類が生き延びるためにもがく物語だ。

sticky noteとは付箋のこと。歌詞には、「欲しければ与えよ」「誠実な人間になれ」「すべての人種の血は赤い」といった言葉が並び、生き残った人類がこれからなにをすべきか、大事なことを忘れないように付箋に書いていると意味合いだろうと思う。豊かに広がる印象のオーケストラアレンジ、落ち着いたメロディライン、コーギスらしい瑞々しいコーラスアレンジに、大事なことを成し遂げるための決意のようなものさえ感じる。まさに、名曲。

 

 そして、REDラストの曲は、BeginningsBLUEの1曲目Beginningsと2曲目Mud Hutsを受ける内容であり、初心に戻り、泥小屋を建て直そうと歌う。

ブックレットに収録されたインタビューで、ジェームス・ウォーレンは、「BLUEがあえて全曲シングルにできそうな、わかりやすいアルバムにしたのに対し、REDはやや実験的で、歌詞も終焉に向かうものが多いなど、それぞれのアルバムの性格に違いがあるわけだが、Beginningsが両者の架け橋となり、UN-United Nationsの世界観をひとつにしてくれる」と語っている。


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Beginnings」で始まり「Beginnings」で終わる今回の新作2枚のアルバムは、環境問題や社会情勢、政治、戦争など多くのメッセージを放っていた。一方で、昔の恋人や離れて住む家族や友人を想ってうたうあたたかな楽曲もあった。思うに、ザ・コーギスにとって、地球を想ってうたう歌も、人を想ってうたう歌も、等しく、ラブソングなのだろうなぁ。前作『Kartoon World』から続く、愛の歌。いまを生きる私たちみんな、コーギスからのラブソングを、どう受け取るか……。

 

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 UN-United Nations BLUE』『UN-United Nations RED』は、2枚に連なる一大コンセプト作。あえて2枚組にしないで、2作でひとつの作品にしあげたのは、ジャケットデザインを見ればわかると思う。ぜひ、2作セットでお聴きください。

タワーレコードオンラインUN-United Nations BLUE

タワーレコードオンラインUN-United Nations RED


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大泉洋子プロフィール

フリーのライター・編集者。OLを経て1991年からフリーランス。下北沢や世田谷区のタウン誌、雑誌『アニメージュ』のライター、『特命リサーチ200X』『知ってるつもり?!』などテレビ番組のリサーチャーとして活動後、いったん休業し、2014年からライター・編集。ライター業では『よくわかる多肉植物』『美しすぎるネコ科図鑑』『樹木図鑑』など図鑑系を中心に執筆。主な編書に『「昭和」のかたりべ 日本再建に励んだ「ものづくり」産業史』『今日、不可能でも 明日可能になる。』など。編著書に『音楽ライター下村誠アンソロジー永遠の無垢』がある。