本作はイエスハッピー!と吉田哲人の連名で両A面でのリリースとなり、それぞれのボーカル・ヴァージョンが収録されている。
吉田の作編曲にイエスハッピー!の2名が作詞したこの友愛に満ちた曲は、イントロのソフトロック風コーラスから高揚感のあるポップスで、各パートの随所に吉田らしいエッセンスがちりばめられていて完成度が高く聴き飽きない。吉田は全体のプログラミングに各種キーボード、ベース(リッケン4003s)を生演奏している他、ブラス・アレンジも担当している。ゲストとしてアコースティック・ピアノの演奏と多彩なストリングス・アレンジは、吉田の盟友であるユメトコスメの長谷泰宏が参加している。
また坂村健次によるジャケットの両面のデザインは、嘗て小沢健二とスチャダラパーのコラボレーションでヒットした『今夜はブギー・バック』(1994年)のそれをオマージュしていて、マニア心をくすぐった。
(左からこころ、さやか)
イエスハッピー!のプロフィールに触れるが、彼女達はさやかとこころの女性2名で結成されたアイドルグループである。共に島根県松江市出身で、中学、高校の同級生だったが、ハロー!プロジェクト・ファンという共通の趣味を知ってから親しくなったという。高校卒業後アイドルを目指していたこころは、数々のオーディションを受け、関西最大都市の大阪にも足を運んでおり、大学進学で同地に移住していたさやかの住まいに通って最終的に同居するようになる。2008年頃にはイエスハッピー!の前進となるユニットを2人で組み、ショッピングモールや地域のイベントスペースなどフリーステージを中心に、アイドルソングやアニソンをカバーしてパフォーマンス活動をしていた。
その後さやかの就活がきっかけで、芸能事務所アップフロント関西支社と接点を得て、同社が経営するハロー!プロジェクトのオフィシャル・ショップ大阪心斎橋店に揃って勤務し、2011年にはイエスハッピー!として同事務所に所属して正式にグループ活動を開始した。
2016年には同事務所を退社し、フリーを経て独立事務所 ”ミケネコカンパニー” を設立し現在に至る。彼女達はこれまでに4枚のアルバムと2枚のミニアルバム、シングルは6枚リリースしており、関西を拠点に日本全国で精力的にライブ活動を繰り広げてファン達を魅了している。
続いて吉田哲人だが、98年にThe Orangersとしてデビュー後、様々なコンピレーションへの楽曲提供やリミキサーとして参加し、2001年には小西康陽氏が主宰するReadymade Entertainment所属のマニピュレーターとして多くのプロダクションに関わっていく。鈴木亜美やきゃりーぱみゅぱみゅといったメジャー・アイドルから、竹達彩奈やNegicco、チームしゃちほこ、私立恵比寿中学、WHY@DOLL(ホワイドール)など新鋭の若手アイドルの楽曲に関わり、彼女達の熱心なファンの間でもよく知られた存在なのだ。2023年11月22日には、シンガー・ソングライターとして記念すべきファースト・ソロアルバム『The Summing Up』と『The World Won’t Listen』をリリースして高い評価を得ていた。翌2024年7月7日には芸大時代の先輩で、サウンドクリエイターとして知られる田中友直とのエレクトロニック・デュオ”BABY JOHNSONZ”として、『BABY JOHNSONZ e.p.』を短冊CDでリリースしてテクノ・ファンに注目されていた。
弊サイトでは、なりすレコード代表の平澤直孝氏(ムーンライダーズ関係コンピレーションアルバムのコーディネートでも知られる)の紹介により、2023年9月から1年に渡り『わたくしのオフコース』と題した連載コラムを寄稿して読者にも好評だった。
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★吉田哲人:『The Summing Up』『The World Won’t Listen』リリース・インタビュー前編>記事はこちら
★吉田哲人:『The Summing Up』『The World Won’t Listen』リリース・インタビュー後編>記事はこちら
★わたくしのオフコース -1->記事はこちら
ここからはそんな吉田へのインタビューと、本作『I Saw The Light』の曲作りやレコーディング中のイメージ作りで聴いていたプレイリストをお送りする。
特別インタビュー★ゲスト~吉田哲人
”人生いろいろありますが、
それでも前を向いて生きてゆくのだという
決意の曲(歌詞)になっている”
●今回は久しぶりのリリースでおめでとうございます。
まずはこれまで2年程の期間の活動状況を聞かせて下さい。
2023年11月のソロアルバム『The Summing Up』と『The World Won’t Listen』の2枚同時リリースから、翌年7月の田中友直氏とのユニット”BABY JOHNSONZ”のシングル・リリースと多忙な時期を経て、実に2年振りとなりますよね?
吉田哲人(以下吉田):ありがとうございます。
実は、いくつかを除いて仕事を断っていた状況でした。
BABY JOHNSONZのシングル発売後もアルバム制作を進めていたのですが、その年の暮れ、田中友直さんにしばらく楽曲制作が出来なさそうであることを伝えて以来、作業が止まっている状況です。
『BABY JOHNSONZ e.p.』
というのも、ウチさんや僕のXをフォローしてくださっている方はご存知かもしれませんが、数年前に音楽出版契約のトラブルに見舞われまして、相手の不誠実な対応に我慢の限界に達してしまって半ば引退したような状態になってしまいました。あとで情報は正しく修正されたものの、ショックのあまり、楽曲提供を決めた僕が悪いのか?とまで思い詰めてしまい、その頃のXの投稿はネガティヴになりがちでした。まあ、色々と自分自身のリリースが続いたことで燃え尽き症候群のようになっていたのかもしれませんが、とにかくいろいろと重なってしまって、もう音楽制作はウンザリだ!と。
そうは言っても音楽を捨てることはできずに、アウトプットできないならインプットするいい機会かなと、楽理の勉強を始めたり、新たにベースを買ってみたりと、悲嘆に暮れて過ごすよりもできるだけ前向きにと努力していた日々でした。そんな中、唯一聴いて(聴けて)いたのは幼少期から聞いていたThe Beatles(及びソロ)でした。
●なるほど、本作に至るまで紆余曲折あったのですね。
今回2人組女性アイドルグループ、イエスハッピー!(以降イエハピ)さんとコラボレーションすることになったのは、どういう経緯だったんでしょうか?
彼女達は今年デビュー15周年ということで、これまでにも楽曲提供など交流などはあったのでしょうか?
吉田:今回の楽曲は先ほどの「いくつか」にあたるのですが、以前から依頼を受けていたので、自分のメンタルはどうあれ、引き受けていたからには約束をきちんと果たさなければと。ただ、実際作ってみたら楽しくて、いい曲が出来たことで自信も回復したので、イエハピさんには感謝しかないですね。
僕が初めてイエハピを見たのは、2019年に大阪の味園ユニバースで開催された「Mezzo Forte in 味園」だったかな、2回目は横須賀の短冊CDフェス。そこで楽曲依頼をされました。その後も東京でのイエハピのイベントに行ったり、僕のリリース・イベントにも出演してもらったりと交流が続き、今回、デビュー15周年という記念すべきタイミングで改めて声をかけてもらったという流れです。
イエスハッピー!
(左からさやか、こころ)
●イエハピさんからの熱心なオファーによって、吉田さんの音楽活動再開にも繋がったということで安心しました。
では本作『I Saw The Light』のテーマ、コンセプトを教えて下さい。
吉田:イエハピさんからは「友情。辞めていった仲間にエールを送るような。」というテーマと聞きました。歌詞については何度かやり取りしながら、ほんの少しだけ僕も手伝い、タイトルも僕が決めました。
僕へのリファレンスとして、WHY@DOLL(ほわどる)に提供した「ケ・セラ・セラ」「ふたりで生きてゆければ」を挙げてくれました。不思議なもので、上記の2曲は発売当時、正直ほわどるファンの方からの反応がちょっと薄いように感じていましたが、その後、別のアイドルの方から上記の2曲が好きだと言っていただけたことも裏付けとなり、それらのエッセンスを含みつつ、イエハピさんやそのファンの方、また、イエハピさんのアイドル仲間の方にも気に入ってもらえるような曲を目指しました。
●本作のソングライティングやアレンジのアイディア、レコーディング時のエピソードなどはありますか?
吉田:自身を見つめ直していた時期の依頼だったため、それまでの僕の楽曲制作とは違う考え方で、歌謡曲のフォーマットは守りつつも自分のアイディアに忠実に、転調してもそのまま走り切り(今までは部分転調くらいにとどめ、歌いやすい/作詞し易い曲になるようにしていた)、勢いのまま曲を完成させました。あと、今までは頭の中にある音(アイディア)を全部一曲に入れて音色の多い作品になりがちでしたが、今回はデモからボーカル・レコーディングまで諸事情で9ヶ月ほど空いたことで距離をとって楽曲を見つめ直し、不必要なものを削ぎ落として、必要最低限の音数で仕上げられました。
今回の僕のヴォーカルは、デモ用のガイド・ヴォーカルそのまま使っています。歌い直した方がいいと思う箇所やタイミングを修正した方がいいと思う箇所もないわけではないのですが、歌詞が完成してすぐ録音した勢いが真空パックされていて、そこがとても気に入ったのでそのまま採用しました。仮に、もう一回歌い直してきっちり完成させればピッチやタイミングの精度は上がるかもしれませんが、結果、平坦な表現になりそうなので避けたのもありますね。
レコーディング時のエピソードと言えば、4月下旬に行ったボーカル・レコーディングのときに、「この曲、めっちゃ気に入っているからいつか僕もセルフ・カヴァー出していい?」と話したら、「いつでも大丈夫です!何なら先に出していただいても大丈夫です!」と言われたので「いやいや、先に出すのはさすがに仁義に反するよ。どんなに僕が早く出すとしても、その場合は同時リリースだよ。」と話したこともあり、レコーディング終了後、どういうアプローチがあるかをぼんやり考えていたところに短冊CDの日のことを思い出し、イエハピさんとなりすレコードに連絡を取って急いで諸々作業し完成させました。
それと、先ほど話したウンザリしていた時期にRickenbacker 4003s(ベース)を買ったが、今回は音数少ないアレンジに仕上げるため、普段なら入れていたであろうギターを入れない代わりにそのベースを弾きました。ベースのレコーディングは短冊CDを出すと決めてから録音し、それで完成となりました。
●本作のソングライティングやアレンジのイメージ作りで聴いていた楽曲のプレイリストをお願いします。
『I Saw The Light』吉田哲人プレイリスト
吉田:今回のプレイリストはビートルズ関連が大半な上、明確に影響を受けた/参考にしたという曲が見当たらないのですけれども、これらを昇華して今回の曲ができたのだとざっくり捉えてもらえれば、というリストになってます。別の言い方をすれば、僕は4歳(ジョン・レノンが亡くなる年の夏休み)からビートルズを聴いており、それらが血肉となっているので、今回の曲を自己分析してみたら、この辺りの影響が出ているのだろうと思われる曲が中心のリスト、とも言えます。
オリジナル・ミックスよりも、ここ近年のリ・ミックスの方がアレンジが聴きやすいのでそちらを積極的に選んでいます。下記の発売年はオリジナル発売(シングル曲はオリジナル・シングル発売時)年に準じています。
加えて、ビートルズを解説するなんて大胆なことはさすがにできないので、とりとめのない話を少々。
1.Hello, Goodbye - 2015 Mix / The Beatles
(『The Beatles 1967 - 1970』/ 1967年)
ポールの手ぐせみたいなコード進行の曲。音楽的な基礎ができる前の幼少期にビートルズをインストールしてしまったので、自分がつくるコード進行に影響がない訳がない。
2.What Is Life / George Harrison(『All Things Must Pass』/ 1970年)
曲もアレンジもいいし、あと歌詞も。
3.Instant Karma! (We All Shine On) - Ultimate Mix / John Lennon
(『Gimme Some Truth』/ 1970年(2020年))
レコーディングから発売までの過程/コンセプトを考えるとミスタッチを直す時間はなかったと思うがそれも含めて全てカッコいい。どれを良しとするかの、美意識の問題。
4.Jet / Paul McCartney & Wings(『Band On The Run』/ 1973年)
Rickenbacker 4003sを買って最初に練習した曲。
5.Helter Skelter - 2018 Mix / The Beatles(『The Beatles』/ 1968年)
ジョンのベースってカッコいいですよね。確か使っているのはFender Bass VIなのでちょっとニュアンスは違うけど、僕もこの曲くらいの勢いでリッケンバッカーを弾いてみた。
6.Happiness Is A Warm Gun - 2018 Mix / The Beatles
(『The Beatles』/ 1968年)
コード(楽曲)デザインというものは結局、作った本人が良しとすればそれで良しな訳で。戻らずに展開しっぱなしのこの曲の構造は素晴らしすぎる、と改めて。
7.One Love In My Lifetime - Single Version / Diana Ross
(『Diana Ross』/ 1976年)
DJする時によくかける曲。ユメトコスメ長谷くんにストリングス・アレンジをお願いする際に頭の中で鳴ってる(=参考にして欲しい)曲として伝えました。
8.Remember - Ultimate Mix / John Lennon(『Plastic Ono Band 』/ 1970年)
ジョンのピアノってカッコいいですよね(既視感)。アレンジで必要な事は何かを教えてくれる曲。
9.I Am The Walrus - 2023 Mix / The Beatles
(『The Beatles 1967 - 1970』/ 1967年)
大人になるまで他人がいう変わったコード進行(この曲のみならずビートルズは多いのですが)の曲と気がつかなかった。
10.Baby You're A Rich Man / The Beatles
(『Yellow Submarine Songtrack』/ 1967年(1990年))
今回プレイリストを作って思ったのですが、普段ギターを中心にして聴いていない様子ですね…。
11.Sexy Sadie - 2018 Mix / The Beatles(『The Beatles』/ 1968年)
ポールのピアノってカッコいいですよね(既視感)。遠くで聞こえるオルガンは僕もよくやる手法で今回も当然。
12.Penny Lane - Stereo Mix 2017 / The Beatles
(『The Beatles 1967 - 1970』/ 1967年)
展開してもしれっと元のキーに戻してみたり、新たに旅立ってみたり。
展開しても何とかキーを戻すのは作曲の醍醐味。
13.For No One - 2022 Mix / The Beatles(『Revolver』/ 1966年)
アレンジをする際、割とハープシコードを使うのですがそれはビートルズの影響が大きいと思います。
14.Gimme Some Truth - Ultimate Mix / John Lennon
(『Imagine』/ 1971年)
この曲、歌詞も重要であるが、ハープシコード、もしくはクラビネットのようなキーボードがうっすら使われており、それがめっちゃ効果的。”真実が欲しい”ですね本当に。
15.I Saw The Light / Todd Rundgren(『Something / Anything?』/ 1972年)
イエハピさんから届いた歌詞を読んだ際、世界観の象徴と思ったものが二つあるのですが、それを表すのにぴったりのタイトルでした。
(収録曲が同一アルバムのジャケットは共通で1枚のみ掲載)
●では最後に本作『I Saw The Light』のピーアールをお願いします。
吉田:イエスハッピー!さんの15周年を記念する楽曲が作れたことを光栄に思っております。人のために曲を作るのは天職であるなと改めて感じることができました。
ストリングス・アレンジをしてくれたユメトコスメ長谷くん曰く「一連の、吉田さんが一筆書きで書いたような曲」であるようですし、イエハピさんからのオファーにあったのもありますが、僕が、僕の曲をリファレンスに今作るとどうなるか、どんな癖があるのか、成長しているのか、否か。それらがよく表れた曲になっていると思います。僕にも金太郎飴ができたのだとすれば、それは喜ばしいことですし、それを分かってもらえるくらい聴いてくれる方がいれば、それは本当に嬉しいことです。
人生いろいろありますが、それでも前を向いて生きてゆくのだという決意の曲(歌詞)になっていると思います。奇しくも、僕は実生活でその決意が必要だったタイミングでこの曲を作りましたので思い入れはひとしおですし、(いつ出るのかは未定ですが)自身の次のアルバムで試してみたかったアイディアのデュエット・ヴァージョン制作もこのCDで実現しています。気に入っていただけたら幸いです。みんなでイエスハッピー!さんの15周年をお祝いしましょうよ!
聴いてね。
イエスハッピー! / 吉田哲人『I Saw The Light』
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吉田哲人プロフィール
作編曲家/SSW。 48歳にして初のアルバム『The Summing Up』アーカイブ集『The World Won’t Listen』を同時発売した遅咲きボーイ。BABY JOHNSONZのメンバーとしても活動。1999年にP-Vineより発売されたコンピ『テクノ歌謡』選曲家チーム8-bitsの1号でもある。作家としての代表作『チームしゃちほこ / いいくらし』『WHY@DOLL / 菫アイオライト』『Sputrip / 光の惑星』『WAY WAVE / SUMMER BREEZE』 等。
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