2023年11月18日土曜日

吉田哲人:『The Summing Up』『The World Won’t Listen』リリース・インタビュー前編

『The Summing Up』

『The World Won’t Listen』

 作編曲家でシンガー・ソングライターの吉田哲人(よしだ てつと)が、待望のファースト・アルバム『The Summing Up』(なりすコンパクト・ディスク, HAYABUSA LANDINGS / HYCA-8060 )と、アシッド/テクノ・サウンドの2枚組作品集『The World Won’t Listen』(HYCA-8061)を11月22日に同時リリースする。
 今年7月にリリースした8cm(短冊)CDシングル『ムーンライト・Tokyo』(NRSD-3115)が記憶に新しいが、これまでに7インチで発表していた『ひとめぐり/光の中へ』(NRSP-772/2019年)、『光の惑星/小さな手のひら』(NRSP-796/2021年)などシンガー・ソングライターとして活動を開始した初期の集大成として13曲収録したのが前者だ。
 また小西康陽氏主宰のReadymade Entertainmentのマニピュレーターを辞めた2008年末、それまで封印していたアシッド/テクノ系楽曲の制作を開始し2012年のクリスマス・イヴまで作り続けたという楽曲と、大阪芸術大学在学中のアマチュア時代に制作していたレアな楽曲からなる合計16曲を2枚組で収録したのが後者である。

 多彩な顔を持つ吉田の経歴を改めて紹介しよう。彼は大阪芸術大学卒業後の98年にThe Orangersとしてデビュー後、様々なコンピレーションへの楽曲提供やリミキサーとして参加し、2001年には小西康陽氏が主宰するReadymade Entertainment所属のマニピュレーターとしてよりメジャーなプロダクションに関わっていく。その後も鈴木亜美やきゃりーぱみゅぱみゅといった一般に知られるメジャー・アイドルから、竹達彩奈やNegicco、チームしゃちほこ、私立恵比寿中学、WHY@DOLL(ホワイドール)など新鋭の若手アイドルの楽曲に関わり、彼女達の熱心なファンの間では知らぬ者なしの存在なのだ。


 ここでは筆者により本作の解説と、9月から幣サイトで連載コラムを投稿している吉田におこなった、この2タイプのアルバムの曲作りやレコーディングについてのテキスト・インタビューを前後編で分けて、またVANDA誌読者だった時代に愛聴していたソフトロックを中心にセレクトしたプレイリストをお送りするので、ダイジェスト動画トレーラーと合わせて聴きながら読んで欲しい。

 『The Summing Up』、『The World Won’t Listen』共にほぼ吉田一人による演奏とプログラミングによりレコーディングでされており、『The Summing Up』では3曲にユメトコスメの長谷泰宏が共同アレンジとキーボードで参加し、『The World・・・』には当時ユニットを組んでいた北脇歩が2曲にプログラミングで参加している。
 ミックスは吉田自身でおこない、マスタリングはマイクロスター佐藤清喜が担当し、これまでのシングル同様の布陣である。

 
The Summing Up』トレーラー

 ではシンガー・ソングライター・サイドの『The Summing Up』から解説しよう。
 冒頭の「光の惑星」は、2021年に7インチ・シングルで発表しており、バーチャルなシティポップ・アイドル・ユニットSputrip(スプートリップ)の提供曲のセルフ・カバーで、吉田が自らプレイするリッケンバッカーの12弦ギターや長谷のストリングス・アレンジが効いた80年代UKサウンドに通じるポップスだ。
 続く「ムーンライト・Tokyo」は、元THERE THERE THERESのカイのファースト・シングルのセルフ・カバーとして、今年7月に短冊CDシングルとしてリリースしたばかりで、80年代中期のユーロ系テクノ歌謡に通じるサウンドと“Tokyo”の夜を舞台にした不毛の恋愛を綴ったラヴソングである。
 幣サイトに吉田が投稿するコラムの初回テーマであるオフコースを意識した、2019年のファースト・シングル「ひとめぐり」の収録も嬉しい。WHY@DOLLの青木千春と浦谷はるなによる純愛な歌詞と、オフコースの「Yes-No」(『We Are』収録/80年)に通じるサウンドが懐かしくも新しい。ひと際印象的なギターソロとバッキングのエレキギターは、惜しくも2021年12月に解散してしまったbjonsの渡瀬賢吾がプレイしている。

 インタビューでも触れている「キーファー・サザーランドみたいな奴」は、嘗ての弊誌愛読者には馴染み深い、太田幸雄とハミングバーズの「スティーヴ・マックイーンみたいな奴」(1970年)に通じる和製ソフトロックだ。吉田哲人 & ラブ・サウンズ名義で、2004年に中田ヤスタカプロのデュースによるコンピレーション・アルバム『contemode V.A.2』に収録されたクールなスキャット・ジャズである。 
 本作中異色かも知れないインストの「昔も今も」は、ショーン・オヘイガン(The High Llamas)に通じるアンビエントな小曲で、制作意図につては、インタビュー後編(11月24日公開予定)で触れているので読んで欲しい。
 「ふたりで生きてゆければ」は、2019年6月にWHY@DOLL が「ラブ・ストーリーは週末に」とカップリングで7インチ・リリースした提供曲のセルフ・カバーで、両曲ともWHY@DOLLの青木と浦谷による作詞だ。前者はオリジナルと異なるイントロでスタートする溌剌とした青春のエイトビート・ポップで、エレキギターでnyacastle(ニャーキャッスル)が参加している。本作収録順では10曲目になるが、後者はオリジナルでは竹内まりやの「プラスティック・ラブ」(『VARIETY』収録/84年)を現代風にアダプトしたアレンジだった。ここでも長谷のストリングス・アレンジが効いていて、オリジナルではサックス・ソロだった間奏も弦の旋律に変わっていて新鮮に聴ける。 


 『光の惑星/小さな手のひら』

 2021年に筆者が年間ベストソングに選んだ「小さな手のひら」は、「光の惑星」のカップリング曲で、元々は2020年の“神保町試聴室”ドネーションコンピ『STAY OPEN ~ 潰れないで 不滅の試聴 室に捧ぐ名曲集~』に提供された曲だ。元WHY@DOLLの浦谷はるなによる慈愛に満ちた詞の世界観と、吉田によるバロック風のアレンジが効果的であり、和製ソフトロックとして極めて完成度が高いので幣サイト読者には最も推しの名曲である。
 「Mccarthy」と「光非光」は共にインスト曲で、前者はマジカルなサウンドが中期ビートルズに通じていて、セカンド・ヴァースから入るコーラス・パターンは『Smiley Smile』や『Wild Honey』(共に1967年)期のビーチ・ボーイズを彷彿とさせる。ステレオ・マルチタップ・ディレイがかまされたシンセ・ソロなどプログラミングの他、エレキギターとエレキベースも吉田の一人多重録音でレコーディングされている。後者は一転してアコースティック・ピアノ1台で演奏される、フランス印象派の流を汲む美しいバラードで、その余韻に後ろ髪を引かれる隠れた名曲と言えよう。

 11曲目の「Don't Ask Me Why」は、WHY@DOLL提供曲のセルフ・カバーの1曲で、短冊CDシングル・ヴァージョンと異なり、イントロからヴァースへのギター・アルペジオがなく、リバーブを深くして吉田のヴォーカルをより強調したミックスが新鮮である。不毛の恋愛を綴ったこの歌詞も青木と浦谷によるもので、四つ打ちキックが効いたエレクトロ・ダンス・サウンドとのコントラスが世界観を広げている。やはり間奏の一人多重コーラスは圧巻で、完成度は高い曲そのものの価値を何倍も高めている。 
 本編のラストでWHY@DOLLへの最終提供曲となった「album」のセルフ・カバーは、吉田からメンバー2人への卒業証書というべき曲かも知れない。青木と浦谷による歌詞からは卒業アルバムを1ページ、1ページめくり思い出をフラッシュバックさせる彼女達をイメージさせ、アコースティック・ピアノとストリングスからなる美しいバラード・サウンドには、吉田の愛が溢れている。本作でセルフ・カバーとして取り上げるのは、照れがあったかも知れないが、静まり返った音楽室で一人ピアノを弾きながら歌う彼の姿が目に浮かぶのだ。
 ボーナス・トラックの「ひとめぐり」は、2021年3月4日の神保町試聴室でのライブ・ヴァージョンで、吉田がプログラミングしたオケに、アコースティック・ピアノの生演奏で長谷が参加している。スタジオ・ヴァージョンと異なり、裏拍でオルガンとバリトン・サックスが追加され、バックビートを強調したスカ風のアレンジが施されているのが興味を惹くが、長谷の繊細なピアノ演奏とのコントラスが面白く、貴重なライブ・セッションの記録としてレア音源である。


 
The World Won’t Listen』トレーラー

 続いてアシッド/テクノ・サイドの『The World Won’t Listen』に移る。幣サイト及び筆者としては門外漢なので、その手の信頼できる専門家の批評を読んで頂きたいのだが、ディスク1冒頭の「The Girl Who Leapt Through Time」(時をかける少女)から80年代末期から90年代初頭のアシッドハウスをルーツとしており、使用機材(或いはシュミレート・ソフト)にも拘ったハード・エッジなサウンドである。
 少しだけリアルタイムで808 STATEを愛聴していた時期がある筆者は、「Blue Impulse」から「The Sound Of Feeling」への流れは本作のハイライトではないかと推してしまう。そしてアンビエントな「Spring Dawn」から、『TECHNODON』(1993年)の頃のYMOサウンドに通じる「Love, Love, Love... & Love」でディスク1を閉める、吉田のセンスの良さには感心する。
 ディスク2はよりディープで実験色の濃いサウンドになっており、冒頭の「Morning Glow」は究極のチルアウトで、テクノロジーの現世に迷い込んだフランス印象派という風情で、坂本龍一信者は好きになってしまうだろう。
 その流れは4曲目の「rosée」から「Cosmic Soul」、そしてラストの「Largo」で決定的なものになり、80年代前半の教授(坂本龍一)のサウンドを愛していたファンに強くお薦めしたい。


ー リリース・インタビュー前編 ー

短冊CDの日にリリースする、曲を『ムーンライト・Tokyo』にする、 
アルバム(『The Summing Up』)からの先行リリースとすることを
その場で決め、このシングルからアルバム制作へ入りました。 

●まずはシンガー・ソングライター・サイドのアルバム『The Summing Up』についてからはじめます。作編曲家として多くのアイドルやグループに楽曲を提供していた裏方から、自らシンガー・ソングライターとしての活動を開始したきっかけを聞かせて下さい。 

◎吉田:そもそものきっかけはWHY@DOLLの活動終了でした。時を経た今だから正確な話が出来るんですけれども、ほわどる(WHY@DOLLの愛称)の活動終了の報告を一般に公表される約1ヶ月半前に関係者として聞いたときに、もう今後のリリースは(ベスト盤などの活動終了に伴う記念盤的なリリースは全て)ほぼほぼないという話も聞いたのですが、個人的に最後にもうひとつ何か作りたいと思い、そのとき咄嗟にほわどるのふたりに作詞のオファーをし、完成させたのが「ひとめぐり」でした。ですので、前々から歌うことを考えていたとかでは無いです。実際、今でもレコーディングに使っているヴォーカル・マイクは歌詞のオファーをしたあとに買いました。 
ほわどるはその後、ラスト・アルバム『@LBUM 〜Selection 2014-2019〜』が発売されましたので「ひとめぐり」がほわどるにとっての最後の作品ということでは無くなりましたが、関係者の一人として「せめてベスト盤くらいのリリースはあっても良いんじゃないか?」と伝えていたので、ちゃんとほわどるとの最後の作品を作れたのはとてもハッピーでした。その最後の作品というのは、『The Summing Up』にも収録されている「album」という曲です。

●なるほど、コンスタントに楽曲提供をされていたWHY@DOLLの解散が、ソロ活動の起点になったとも言えますね。インタビューの主旨と少しずれますが、それだけ思い入れがあった彼女達の魅力は何だったでしょうか? 

◎吉田:最初は歌と声ですね。彼女らのライブを観に行くようになってからはキャラクターやダンス、佇まいなども好きになっていきました。あくまで僕の中だけでなのですが、彼女たちの声はマーゴ・ガーヤン的な系譜にあると思っています。似ている訳ではないのですが、そういう印象です。
青木千春さんはアイドルらしい可愛らしい声ですが、キャラを作っている訳でなく、ごく自然にあの歌声でした。浦谷はるなさんは彼女独特の歌声が大好きだったので、現在Hau.として活動されているのを非常に嬉しく思っています。二人はソロで歌うとそれぞれ全く違うキャラクターの声なのですが、ユニゾンになると(提供楽曲の場合)ミックスを担当している僕でも、2mixの状態になるとどっちがどっちの声なのか判別つきづらいくらい溶け合っていて、それがまた素晴らしかった。それと、歌ウマ系の歌い上げる歌唱法でないので伝わりにくいのかもしれないのですが、彼女らは歌が上手いしピッチも安定していました。例えばほわどるの「album」は、ふたりのタイミングを合わせるよう少し修正しましたがピッチ修正はしてないので、聴いてもらえたら僕が言っていることがわかってもらえるかと思います。

●そのWHY@DOLLをはじめアイドルさん達への楽曲提供のオファーを受けた際、先方からのリクエスト要素と、ご自分のオリジナリティとが占める割合はどうなっているでしょうか? 

 
『ふたりで生きてゆければ/ラブ・ストーリーは週末に』
WHY@DOLL 

◎吉田:楽曲提供のオファーを受けた際、二曲ほど作って出来がいい方を送るようにしているので、本当にケース・バイ・ケースなのですが、思い返してみると楽曲提供作品のこの部分がオファーのこの箇所にあると自己分析出来るのですが、素直に参考曲が僕の曲に反映されていない事もあるので、ディレクターさんによっては自由に作ってくる人、と思われているかもしれません。 
例えば『The Summing Up』にも収録されている「ラブ・ストーリーは週末に」となる楽曲のオファー内容は「メロウ・ディスコ」というテーマで、参考音源としてBPM=125くらいのフィリピンのディスコものが送られてきたのですが、そのオファー以前に、僕はほわどるへ「菫アイオライト」というディスコ(ファンク)・テイスト曲を提供していた事もあり、また、ほわどるの過去楽曲にも他の作家さんの手によって「メロウ・ディスコ」的なものが存在していたので、今までにないテイストで、かつ、オファーに近いものはどのような方向性があるのかと悩んだのですが、とりあえず一旦はリクエストの方向で作りつつ、その曲を自分的に没にする可能性も考え、オファーにある「メロウ」だけ残した楽曲も並行して制作、僕の判断で出来の良かった「メロウ」だけ残した楽曲を送って採用された、という流れでした。
因みに「菫アイオライト」のときのオファーのテーマは「イタロ・ディスコ」でした。「菫アイオライト」をイタロととるかどうかはあなた次第です、といったところでしょうか。


●『The Summing Up』収録曲はセルフ・カバーの楽曲が多いと思われますが、収録用にリアレンジとレコーディングを開始した時期と期間を教えて下さい。

◎吉田:「ふたりで生きてゆければ」は「ひとめぐり」リリース・イベント(2019年11月15日)ですでに披露しているので、その時点でアルバム制作は既に始めていたといえばそう(この時期の未発表曲デモが5曲ほどある。)なのですが、デビュー後、たった3〜4ヶ月で全世界がコロナ禍になってしまい、気分的に今じゃないと判断し制作を一時中断しました。コロナ禍以前は作編曲家としての活動が活発だったことから、ある程度、世間的に認知をしてもらえていた、下駄を履かせてもらっていた状況だったのですが、ソロ活動のデビュー直後にコロナ禍となってしまい、自分のソロ活動の全てが振り出しどころか、むしろ下駄がなくなった分マイナスになってしまった…と思ったのを覚えています。

そうこうしているうちに四年が経ち、平澤さん(平澤直孝/なりすレコード代表)に当初、自主制作で出そうとしていた『The World Won’t Listen』の相談をしていたときに僕が「東京少年の『ゆびきりげんまん』みたいな感じでThe World Won’t Listenに8cmCDをおまけで付けたいんだけど…」と話すと「実は短冊CDの日というのがありまして…」と平澤さんが話し始めその流れで、短冊CDの日にリリースする、曲を『ムーンライト・Tokyo』にする、アルバム(『The Summing Up』)からの先行リリースとすることをその場で決め、このシングルからアルバム制作へ入りました。平澤さんとのLINEのやり取りを見返すと、2023年4月7日にその打ち合わせがあったので、仕切り直し後の制作スタートはその時期ということになります。最後にミックスダウンした曲が「album」で2023年9月8日です。

●コロナ禍もあったけど、今年の春に短冊CD企画の『ムーンライト・Tokyo』のリリースが発端となり、ホールドしていたファースト・ソロ・アルバムの制作プランが再浮上して、一気に進んだ感じですね?

ムーンライト・Tokyo』

◎吉田:そうですね。もっといえば、実はあのシングルのカップリングは別のアーティスト楽曲のカバーを予定していたのですが、カバー申請したところ、CDのデータ納品日までにYESもNOも返事が返ってこなかったんですよ。
まあカバーする際に申請などでトラブルが色々起こることは経験上知っていたので、そういう事もあっていいようにそのカバーを制作しつつ、トラブルがあった場合は、その時点である程度完成していた「ふたりで生きてゆければ」に差し替えるという案も最初の打ち合わせで決めていたのですが、僕の気が変わって急遽「Don’t Ask Me Why」に変更したことで、急にアルバムをどのようなものにしたらいいかが見えてきたので一気に進んだ、という流れでした。

●いずれもWHY@DOLLへの提供曲で、私個人は「ふたりで生きてゆければ」は悪い曲ではないと思いますが、よりドラマティックな「Don’t Ask Me Why」の方が好みだったので、先行の短冊CDでカップリング収録されたのは嬉しかったです。しかしそんな急遽な変更だったんですね。どういった心境だったんでしょうか?

◎吉田:「Don’t Ask Me Why」は歌詞が女性視点の歌詞であることが主な理由で、そもそもアルバムに入れるつもりもなかった曲だったんですよ。「ムーンライト・Tokyo」ができた後、「ふたりで生きてゆければ」のヴォーカルを録音して完成させ、納品日間近にCDの収録順に並べて聴いてみたところ、「あれ?なんか思っているシングルの完成形のイメージと違う…」と違和感を覚えました。
先も話したとおりカバー曲も完成させていたけど収録はダメ、こっちも流れとしてダメ、となったときに、残り時間が一週間もない状況でしたが、単にアナログにしか入ってない曲のCD化みたいなものを2曲目に入れる事もしたくなかったし、女性視点の歌詞なのが理由で収録しないのもバカらしいと思い「Don’t Ask Me Why」を選びました。5月3日に南こうせつさんの『31th グリーンパラダイス』を日比谷野外音楽堂に観に行って「夢一夜って女性視点の歌詞だよな。女性視点の詞を男が歌うのもいいなあ。」と改めて思ったのも影響しています。

●曲作りやリアレンジ、レコーディング中の特筆すべきエピソードを聞かせて下さい。

◎吉田:まず、セルフ・カバーが多い理由から説明しますと、先に話したとおり、世界はコロナ禍に入ってしまい、ソロ活動はスタートしてすぐお釈迦になり、楽曲提供したアイドルも引退したりと、僕にも当然のように時代の重い空気が忍び寄ってきました。更にオリンピックをめぐるあれこれやロシアによるウクライナ侵攻、更にまさかの四十肩も発症してしまい、作業もろくに出来なくなっていた事もあり、コロナ禍は生死や年齢やこれからの人生、過去に好きだったものへの疑念が生じたり、逆に再発見があったりと、結果的に自分自身の音楽に対しての向かい方を見直す期間になっていました。
その後、コロナ禍も多少の落ち着きが見られるようになり、そろそろ活動を一からやり直そうと、きっかけとして2000年くらいからコロナ禍直前までの過去の自身の楽曲を見返したところ、あまりにも(結果的にですが)打ち捨てられた曲が多いことに愕然としたと同時に、(年齢的な事もありますが)無理矢理ゼロから新しい事をやって再デビュー的なアルバムを作るよりも、ここらで一度自分を俯瞰で見られる、人に見せられる総括的なアルバムを作った方が良いだろうと判断しセルフ・カバー中心としました。
また別の角度から見れば、深刻なアイドル楽曲歌い継ぎ問題への一つの回答、ともいえるかもしれません。自分の曲は自分で守るしかないというか。 
たまたま2019年の時点で製作していたアルバムの仮タイトルが、サマセット・モーム(イギリスの小説家、劇作家/1874年~1965年)から引用した『The Summing Up(要約すると)』だった(第一弾シングル『ひとめぐり』というタイトルもモームの戯曲からの引用)事もあり、結果的に内容にも合致したタイトルになったので、パズルがはまった感がありました。

セルフ・カバーが多いとはいえ、シングル曲も含め全ての曲のデータを音色差し替えや弾き直し、リアレンジや再ミックスがなされていたりと、当初考えていたよりもずっと濃密な約5ヶ月の制作期間となりました。
レコーディング前の話になりますが、2022年末にNORD GRAND(NORD社の88鍵ステージピアノ)を購入したので今回、ピアノはそれのみを使用と制限したことで作業に弾みと統一感が出たように思います。
ほわどるへの提供楽曲の、メロディー・パートは男性キーなので1オクターブ下となりますが、コーラスやハモ・パートは彼女たちのキーで歌っております。なんとかファルセットが出せて記録として残せて良かった。
他にも、アルバム制作中にX(旧twitter)でエゴ・サーチをしていたところ”『キーファー・サザーランドみたいな奴』(2004年/吉田哲人 & ラブ・サウンズ名義)をようやく手に入れた”という内容のポストを見つけて「そういえばこの曲、MIDIデータも残っているなぁ。この曲を収録したらより回顧録的アルバムになる。」と考え、当時のデータを活かしつつ音源が違うことによる、ほんの少しのリアレンジを施し、2004年の僕との共演を果たしました。
また、完成が近づいてきたときにアルバムの全体像をみたところ、もう少しアレンジのバリエーションが欲しいなと思い『ラブ・ストーリーは週末に』を一度ラヴァーズ・ロック風にしたのですが、世間一般的なイメージどおりのラヴァーズ・アレンジ・カバーになってしまい、あまり面白味がなかったので、素直にいいと思って提供した元のアレンジに近い雰囲気に戻しました。ただ、今は原曲にあるシティなテイストはちょっとなあと感じたので、オリジナルにあったテイストは抑えめにして仕上げました。
アルバム全体の話になりますが、本当はもう少しゲスト・ミュージシャンを入れようかと思っていたのですが、せっかくのファースト・アルバムなので殆どを一人でやってみようと思い直し、必要最小限の人数に留めたので、吉田哲人の個が見えやすく仕上がっていると自負しております。

『The Summing Up 
William Somerset Maugham

●国内外の社会情勢や自身の健康問題など自分を見つめ直す期間が創作に影響したようですね。お答えの中で、ウィリアム・サマセット・モームや過去曲でキーファー・サザーランド(カナダ人俳優/1966年~)という固有名詞が非常に気になりましたが、学生時代からモームの小説を愛読したり、キーファーが出演した映画を観ていたことが創作のインスピレーションになっていましたか? 
ところで「キーファー・サザーランドみたいな奴」は、太田幸雄とハミングバーズの「スティーヴ・マックイーンみたいな奴」(1970年)を意識していますよね?(笑) 

◎吉田:マッカーシーとかもありますしね(笑)。モームの作品は、僕よりも上の世代は試験に出るくらい馴染みがある作家だった様ですが、僕らの頃にはそういうことは無くなっていました。モームに触れたのはここ10年くらいの話で『サミング・アップ』が最初でした。
キーファー・サザーランドはこの曲を作ったとき『24』をDVD購入するくらい好きだったのもありますし、おっしゃるとおり曲自体は『スティーヴ・マックイーンみたいな奴』を意識していますので、現代のスティーヴって誰かなと考えたときに、すぐキーファーだと思ったんです。『contemode V.A.2』収録の吉田哲人 & ラブ・サウンズ名義の方は、より太田幸雄とハミングバーズを意識した感じになっています。


●VANDA誌の読者時代に愛聴していたソフトロック曲を10曲ほど挙げて下さい。

 
吉田哲人 プレイリスト
◎吉田:楽曲を選ぶときはいつもコンピレーションを作る感覚、もしくは、DJ時の選曲の感覚があり流れも重視しているので、結果的にサブスクの方は50曲(最初は100曲近くあったのをなんとか絞って)選んでいるのですが、こちらはその中でも特に思い入れのある曲やDJでよく使っていた曲、10曲を選びました。
順不同。
■Adventure monsters / Instant Cytron 
(『CHEERFUL MONSTERS』/ 1997年)
■LOVE HIM / 赤い鳥 (『WHAT A BEUATIFUL WORLD』/ 1971年)
■It Doesn’t Matter Anymore / The Cyrkle (『Neon』/ 1967年)
■That’s All I Really Need / Springfield Rifle
 (『Springfield Rifle』/ 1968年)
■Turn-Down Day / The Cyrkle (『Red Rubber Ball』/ 1966年)
■Hope / The Carnival(『The Carnival』/ 1969年)
■Frenesi / The Alan Copeland Conspiracy
 (『A Bubble Of You』/ 1967年)
■Sempre Existe Alguem / Trio Ternura (『Trio Ternura』/ 1971年
■I’ve Never Seen Love Like This / Orpheus (『Orpheus』/ 1968年)
■Up, Up and Away / Sammy Davis Jr. (『Lonly Is The Name』/ 1968年)



【吉田哲人ライブ情報】

リリース直後の11/23に、浅草KAMINARIにて『MUSIC IS ENOUGH vol.15 〜テット博士のリリース・パーティ〜』があります。

 『MUSIC IS ENOUGH vol.15 ~テット博士のリリース・パーティ~』
浅草KAMINARI
2023.11.23(祝日) 
OPEN 17:00 / CLOSE 22:00
料金1,000円

DJ: 
吉田哲人
長谷泰宏(ユメトコスメ)、臼山田洋オーケストラ
浅草KAMINARI (@ASKS_KAMINARI


11/26に、中野heavysick ZEROにて
『ROMANTIC TECHNOLOGY 96 ~10th Anniversary Party~』。
こちらはテクノのライブ・イベントです。

ROMANTIC TECHNOLOGY 96 
10th Anniversary Party 
2023.11.26(日) 
中野heavysick ZERO
OPEN&START 16:0
ご予約¥3500(1ドリンク別) 
当日券¥3800(1ドリンク別) 

-LIVE- 
おわりからはじまり
吉田哲人
Sigh Society、Cherryboy Function、アシッド田宮三四郎
Mitaka Sound、サトウトモミ、inko、CrazyRomantic

 -DJ- 
サカエ コーヘイ、FQTQ、本間本願寺、
Kamaida Negami、Cyte、mukuro-jima

−VJ−
PORTASOUNDS、4DK

-FOOD-
ラブエイジア四ツ谷



そしてリリース・ライブ・イベントが12/3に、神保町試聴室にて 
『吉田哲人”The Summing Up”発売記念ライブ』です。
ゲストにインスタント・シトロンの長瀬五郎さん、カノサレ、Hau.、
ユメトコスメという豪華キャストをお招きして開催いたします。

吉田哲人「The Summing Up」発売記念ライブ
2023.12.3(日) 
神保町試聴室
 OPEN 16:00 / START 16:30 
予約 3500円 / 当日 4000円
(1ドリンク, スナック込)

出演:
吉田哲人
カノサレ、長瀬五郎(INSTANT CYTRON)、
Hau.、ユメトコスメ



12/8にはファロ大學 芸術学部 講座『ラフからフィニッシュまで』
というイベント講座で、「曲、そしてアルバムづくり編」と題し、
アルバムのあれこれをトーク致します。

ファロ大學 芸術学部 講座『ラフからフィニッシュまで』
「曲、そしてアルバムづくり編」
珈琲 FALO
2023.12.8(日) START 19:00
聴講料:2,500円

講師:吉田哲人/作編曲家





(インタビュー設問作成、本編テキスト:ウチタカヒデ








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