2021年10月30日土曜日

ポニーのヒサミツ:『Portable Exotica』(TETRA RECORDS / TETRA-1038)


 昨年4月のサード・アルバム『Pのミューザック』から約1年半、シンガーソングライター前田卓朗のソロユニット“ポニーのヒサミツ"が、11月3日にフォース・アルバム『Portable Exotica』をリリースする。
 前作でも紹介したが、ポニーのヒサミツはシャムキャッツのボーカルである夏目のバンド、“夏目知幸とポテトたち”のメンバーだった前田のソロユニットで2008年から活動をスタートしている。これまでに3枚のフルアルバムをリリースしており、昨年12月にはEテレの番組でおやすみソングとして流れる「冬毛の歌」を、妻である中川理沙(ザ・なつやすみバンド)と歌唱して話題になり、また同年の年末には、グレンスミスや図書館などのユニットで活動する宮崎貴士と2人で、ポール・マッカートニー流の実践ユニット“Frozen Japs”を結成し、ファーストシングルとして「Social Distance」を配信リリースしており、その活動は多岐に渡っている。
 ポニーのヒサミツの魅力は、前田の素朴で個性的な声質とアメリカン・ルーツミュージックをベースとしたサウンドであったが、本作では環太平洋のエッセンスを加味しており、新たな世界を探求しているのが高い評価に値するのだ。

(写真:柳宙見 / 提供:前田卓朗)

 本作『Portable Exotica』にはゲスト・ミュージシャンとして、前作から引き続き、前田も加わるSpoonful of Lovinʼのメンバーが主に参加しており、先月セカンドアルバム『CIRCLES』をリリースしたばかりのbjonsのギタリスト渡瀬堅吾が2曲で、同作でサポート・メンバーながら大きく貢献していた、元“森は生きている”のキーボーディストの谷口雄、サボテン楽団こと服部成也がバンジョーで主要曲に参加している。 
 また谷口とは元バンド同僚で、弊サイトのベストプレイ企画でもお馴染みの増村和彦はドラムと各種パーカッションで全面的に参加し、元シャムキャッツのベーシスト大塚智之と本作のボトムを支えている。他にも中川が3曲でコーラス、トランペット奏者兼アレンジャーとして寺尾紗穂や折坂悠太などの作品で知られる高橋三太が2曲に参加しているのも注目だ。
 ジャケットデザインにも触れておこう。ミヤザキノブエとトモエの姉妹によるイラストレーター・ブランド、STOMACHACHE.(ストマックエイク)が手掛けており、本作のサウンドとマッチしたアルカイック且つ無国籍なムードが非常に親しみやすい。

 
ポニーのヒサミツ 4th ALBUM『Portable Exotica』 TRAILER #2

 さてここでは筆者が気になった本作の主要な収録曲の解説をしていこう。 冒頭メジャーキーのカントリー・ブルース「ごあんない」は、前田の一人多重でレコーディングされており、ガットギターを中心にリズム・セクションとマリンバを彼が一人でプレイしている。多重録音の独特な空気感ながら本作全体の雰囲気を早くも示唆しているのが面白い。 
 続く「散歩娘」は5連符変形シャッフルというべきリズムが特徴で、ニューオリンズのセカンドライン・ファンクと沖縄民謡を融合させたビートが肝である。ハイハット抜きでこのリズムパターンをキープして叩けるのには鍛錬が必要であり、増村のドラミングありきの曲といえるだろう。また前田のハンドクラップと右チャンネルのエレキの刻み、左チェンネルの服部のバンジョーのパターンも加わり有機的なポリリズムが独特の世界感を生んでいる。ドクター・ジョンの『Dr. John's Gumbo』(72年)などの影響下にある、細野晴臣の『泰安洋行』(76年)をこよなく愛する音楽マニアには特にお勧めだろう。 

ポニーのヒサミツ - 散歩娘 (Official Music Video)

 ハイテンポなカントリー&ウエスタン調の「ハネムーン・ラグ」でも増村とベースの大塚のリズム隊が活躍し、ここでは渡瀬のジェームズ・バートンばりのギターソロが聴きものである。
 10月12日に先行配信された「カウボーイ気取り」と「雨が癒すものは?」は、ゆるいスワンプ・リズムに谷口のラグタイム・ピアノや前田のマリンバがアクセントになっている前者と、カルメン・ミランダの「Chattanooga Choo Choo」(42年)よろしくトラディショナルなサンバのリズムを持つ後者は心が弾む。この曲では前田と中川に谷口が加わったコーラスが特に印象的だ。 
 「君は逃げ水」は主にニューオリンズのセカンドライン・ファンクのビートで演奏されるが、4ビートのパートをブリッジを挟んだ構成で新鮮である。谷口のテクニカルで軽快なピアノと高橋のミュートトランペット・ソロなど聴きどころも多い。 

(写真:柳宙見 / 提供:前田卓朗) 

 ラストの「タイフーン・マンボ」は9月28日に配信されたシングルとは異なるアルバム・ヴァージョンで13秒程長い。ヴァースのメロディを一聴して気付く上級ナイアガラーも居ると思うが騙されてはいけない。全体的なリズムやサウンドは細野晴臣の「Yellow Magic Carnival」(Tin Pan Alley名義『キャラメル・ママ』収録/75年)や「Exotica Lullaby」(『泰安洋行』収録 / 76年)への愛溢れるオマージュであり、コーダの持続音までとは恐れ入ってしまった。「散歩娘」の「蝶々-San」(『泰安洋行』収録 / 76年)からこの曲まで一貫して手垢の付いた研究熱心なオマージュは大歓迎であり、当の細野氏も喜んでいるのではないだろうか。

 
ポニーのヒサミツ - タイフーン・マンボ 

 アルバム全体的にリズム・セクションの演奏力に支えられているので聴き飽きないのは勿論であり、70年代の細野晴臣や大滝詠一のアルバムが今でも手放せない熱心なファンはもとより、弊サイトの読者であるポップス・マニアは入手して聴くことを強くお勧めする。 
テキスト:ウチタカヒデ


2021年10月23日土曜日

HACK TO MONO(part2 スタート編)

 前回モノ音源探求の大志を抱きながらも、ヘッドシェルの装着に苦しむといういきなり企画倒れか?という展開となった。

しかしながらここで終わらせてはいけない。

 穴がない!ならば開ければいいのだ。と、意気込みはあるもののDIYを嗜むほどの技量もなく、DIYショップ等でどうにかなるさ!と調べるとどの店舗も購入した材料の穴あけ加工なら対応可のものばかりで振り出しに戻ってしまった。

 最後の手段しかない、近隣の金属加工可能ないわゆる町工場へ持ち込んで加工を依頼してみよう。拙い日本語で何とか悩みを聞いてくれた所があり対応してくれることとなった。

 この度は株式会社佐藤製作所(目黒区鷹番3-20-7)のご一同様非常にお世話になりました。

加工後のヘッドシェルを受け取りさっそく装着してみよう。

 ここでもトラブルが連発する。まずこのカートリッジの推奨針圧が6グラム以上なのだ、ステレオ時代以降のターンテーブルは通常3グラム程度でこのようなヘビーな仕様にはなっていない。

当方の愛機も1970年代初頭と雖も3グラムまでが精一杯。

 思案のしどころである、穴がないなら開けてやろう!で穴を開けたならば軽いなら重くしよう!

 加工したヘッドシェル自体DJ仕様で穴を開けた場所にはウエイトが付けられるようになっていたので、今回は前方にも穴を開けてもらった。

そこに4グラムのウエイトを装着して全体に圧をかけることとした。

 ゼロバランス調整後にウエイトを装着することで4グラムの針圧からスタートして最大7グラムまでを可能にした。

 針圧に対応するぶん、ヘッドシェルの自重は20グラムをオーバーしてしまった、愛機のトーンアームはなんとか対応できるようだ。

 念の為インサイドフォースも対応せねばならない、対応する錘がない為、ナットとクリップを両面テープでくっつけて調整。

これで舞台はととのった、あとは再生だけだ。

針をレコード盤に載せてみる、音は出るようだ。

だが、何だかおかしい。やけにビリビリする変な音がするのだ。

しかもトーンアームもガクンガクンと揺さぶられている。

Good VibrationsどころかBad Vibrationsである。

カートリッジ自体が要介護状態ならもうあきらめるか?

 再度ブログなどで情報収集すると針の一部がカートリッジのパーツに触れていると起きる現象のようだ。

針は一応交換できるようになっているのだが、これがなかなかの曲者。

現代の交換針からすれば驚きのいい加減さで曲がっていたりする。


しかもパーツの振動対策にはゴム二切れが接着してあるだけだ。

当方の針を確認するとやや右に曲がってパーツと完全に干渉していた。

さらにこのゴム片も60年以上経過し耐久性は怪しいものである。

懸念はあるものの、再度調整後針を載せてみる。

見事!歪みのない音が再生できた。

今度こそGood Vibrations!

 ヘッドシェルに開けた小さな穴が60年以上前の技術をつなぐタイムトンネルとなってくれたのだ。

目黒の佐藤製作所の皆さんへ再度の多謝!!!

今後安定的にレコード再生するには例の怪しいゴム片が気になる。

いったん除去後新しいものを装着してみたい。

 サイズ的に合うのは輪ゴムの断片だが、経年劣化で溶けることもあり、他の代替物を模索していたが、答えはゴム製品以外にあった。

地震対策グッズで自宅にあった防振シートジェルだ。

正解かどうかわからないが、スライスしてゴム片を除去した場所に装着。

レコードを再生しても音に問題なかった。


すったもんだの末何とか安定的に再生できる環境は整ってきた。

ここでカートリッジを繋ぐリード線を交換する。

材質及びハンダも50年代製で統一した。

 最後は音質の調整を行う、というのは歪みやビリビリする現象は解消できたが、どうもキンキンしがちな音が気になる。

 再度ブログなどで確認するとカートリッジ側の抵抗値などとマッチしない場合が結構あるようだ。

 素直に従えば盤によってトランスや抵抗をリード線の間に挟まねばならない。

手作業で行うのは煩雑だし非現実的だ。

 現代的な感覚からいけばこのカートリッジは限りなくMM型に近いがMC型の性格も併せ持っているということになる。

 もともと使っていた機材にこの環境にうってつけの物があったのでターンテーブルから直接接続する。

フォノイコライザーへ接続し最後の出口のアンプをどうするか?

 レコード音源をなるべくダイレクトにパソコンへ取り込むこともあり一旦Universal Audio社のIOへ取り込むこととした。

 同機材の優れたところは本体自体良質なアンプ性能もある一方で、パソコン内で取り込んだ音声をヴィンテージ機器の回路を再現したソフトで再生してくれるのだ。

そこで再生にあたってはおなじみのUniversal Audio社の610モジュール。(詳細は弊サイト2021年2月19日掲載記事参照)

 でアンプ兼コンソール効果を付加し、さらに追加で当時の西海岸でも広く使われたPULTEC社のEQP-1A(ただしパラメーターはhigh low0)を加えた。




最後にカートリッジの最終選定をおこなおう。

 上図の中央はGE社を市場から駆逐したにっくきShure社のM7D初期型ステレオカートリッジである。

しかしこの選定作業もあっさり終わってしまった。

 ステレオカートリッジは針が左右上下に動く為、音声のみならず、ノイズを拾ってしまうのだ。GE社の場合モノラル専用の為、左右しか動かないうえに7グラム以上の針圧で小さな傷でも重戦車の用にズンズン乗り越えノイズはほとんどない。

よって上図左右のカートリッジで聴き比べすることとした。

機器の長寿を願って

右を「きんさん」

右を「ぎんさん」

と名付けた。

以下紹介する音源はオリジナル盤から取り込んだものであり

ソフトウェアによるノイズ除去処理は一切行っていない。

レコード盤はオリジナル盤から選び、Capitol盤は西海岸盤とし

RIAA制定及びステレオ音源の普及を考慮し1964年までのリリース

を対象とした


「Surfin’」(Candix331) 1963


まずはきんさんから聴いてみよう。

リマスターされているキンキンした音に対して太くやわらかい音だ。

特にリマスター音源では薄めのエコー成分が見事に出ている。

 Carlのミュート気味かつChuck Berry風のカッティングも中低音が出てセッション全体の空気を感じることができる。



それではぎんさんで聴いてみよう。

きんさんに比べて全体がグイッと前に出る印象

 キックやベースの低音がドンドンと鳴っており、

 (Alの持ち込んだアップライトベースが巨大すぎてスタジオの大半を占めた)それに負けじと全員が必死にヴォーカルマイク周辺に声を張り上げる必死さが伝わってくる。

 ぎんさんの方がガツン、と聴きどころを訴えかけてくる点が印象的だ、放送局仕様と言っても遜色ない特性である。


  
 ぎんさんやきんさんの様な存在感のある音で再生するにはRIAAでは物足りず、フォノイコライザーの曲線を変更した、試行錯誤の末ハイを上げてローを少し下げる形で落ち着いた。続くCapitol盤でもeqカーブは影響あるのだろうか?
 次回ご紹介するCapitol盤ではもっと楽しめそうだ。


(次回Capitol編へ続く)
(text by Akihiko Matsumoto-a.k.a MaskedFlopper)

2021年10月16日土曜日

1973年 Jackson 5 初来日公演(5月2日・日本武道館)


  ”King Of Pop”ことMicheal Jacksonの初来日公演といえば、大半の方は1987年の『Bad World Tour』での後楽園球場をはじめとするスタジアムでのライヴを思い浮かべる方がほとんどかと思う。
  しかし彼の初来日公演は、The Jackson 5(以下、J-5)時代の1973年4月だった。ただこの時期は本国での爆発的な人気にも陰りを帯び始めていた頃で、またマイケルの変声期にも重なり、印象が薄いのは否めない。なおこの公演は日本独自にライヴ・アルバム『In Japan』(注1)がリリースされている。
 

  そんな彼らの来日を知ったのは、音楽雑誌「音楽専科」の広告ページだった。そこにはJ-5が4月27日(金)帝国劇場で開催される「第2回東京音楽祭」の特別招待ゲストとあり、追加で一般公演の日程(注2)も紹介されていた。その東京日本武道館公演が熱烈な「J-5ファン」だった弟の誕生日だったこともあり、彼への誕生日プレゼントにちょうど良いと思った。この時期の私は、東京で浪人生活を送っていたので、静岡から弟を呼んで行くことにした。
 
  とはいえこの1970年代初頭の日本では、海外の兄弟グループといえばオズモンズが断トツ人気で、J-5は<abc>(注3)が知られる程度で人気は華々しいものではなかった。ただ、1972年にマイケル初の全米1位を記録した<Ben(ベンのテーマ)>(注4)は、曲の良さに加え抜群の歌唱力が多くを魅了し、ソウルファンだけでなく一般のポップス・ファンにも注目されていた。
  そんなJ-5を静岡という地方在住だった私が知ったのは、彼等の4枚目のシングル<Mama’s Pearl(ママの真珠)>が、アイドル歌手のデビュー曲(注5)によく似ていたことがきっかけだった。そして、曲として気に入ったのは5枚目の<Never Can Say Goodbye(さよならは言わないで)>だった。弟がJ-5のファンになったのは、<Ben(ベンのテーマ)>(注6)がラジオから流れていた1972年の秋口だった。

  当時、日本ではJ-5のベスト・アルバムが何種類か発売されていたが、その中で『Both Sides』というA面「アップテンポ」、B面か「バラード」で構成したLPを購入している。そこでこのアルバムの「バラード」サイドに収録された<La-La (Means I Love You)(ララは愛の言葉)>(注7)でその恐るべし歌唱力に惹かれるようになった。 そんな私よりも熱中したのが弟で、擦り切れるほど聴きまくり熱狂的なJ-5になっている。そして、このLPを購入した頃リアル・タイムでヒットしていた<Lookin’ Through the Window(窓辺のデイト)>のカッコよさに、ファン熱は高まるばかりだった。

  と前置きが長くなってしまったが、肝心のJ-5初来日公演の話を進めることにする。この初来日公演だが正確には「Jackson 5+1」となっており、The Jacksonsになってから正式加入する9男Randyがコンガで参加していた。そんなこの日の公演は大雨の悪天候で、アリーナでも外の雷鳴が響くほどだった。とはいえ、席はメンバーの顔が肉眼でもしっかり確認できるくらいの良席だった。
  なおこの公演には前座がおり、この日は「オレンジ・ペコ」(注7)というロック・バンドだった。余談になるが、この前座には後に“和製ジャクソン5”と呼ばれたフィンガー5が切望していたという話がある。彼等は1970年6月に“ベイビー・ブラザース”としてデビュー後、1972年8月にフィンガー5と改名し、この時期には“関東ローカル番組”「銀座Now!!」(注8)等で地道にライヴ活動をしていた。皮肉にもこの公演の数か月後8月25日にリリースした<個人授業>で大ブレイクを果たしている。あと少し人気に灯がつくのが早かったら、「和製Vs.真打」という夢の共演を見れたかもしれなかった。
 捕捉になるが、フィンガー5も人気絶頂だった1974年に武道館公演を開催している。その公演は<Heartbeat - It's a Lovebeat(恋のハートビート)>のヒットを持つ、カナダの出身の兄弟グループThe DeFranco Familyとジョイント・コンサートだった。

 そんな前座のステージが終了すると、再び司会者がステージに登壇し「これまでの経験から彼らは雨の日に来てくれたお客さんのために、今日はそれに応えるように気持ちいっぱいに頑張ると言っている!」とコメント、それに反応した会場内は一気にヒートアップした。
 そしてイントロダクションの演奏がスタートし、いよいよお待ちかねのJ-5が登場した。 オープニング曲は日本では来日記念シングルとなっていた<Halleujah Day>。この「ベトナム戦争解放」を祝うゴスペルタッチのポップ・ソングからスタートしたライヴは、続く<Lookin' Through The Windows(窓辺のディト)>で、会場内は一体化した。 
 次に披露されたナンバーはJamaineのファーストに収録されたMarvin Gayeのカヴァー<Ain't That Peculiar>。この演奏が終わると、Michealから「Mina-Sama Konbanwa」と切り出す。この日の公演が最終日だけあって慣れた日本語だった。 

 そんなスピーチの後はMichealのソロ・デビュー曲<Got To Be There>。この美しいバラードは変声期の彼には少々辛そうで、出だしはやっと発声している風だった。サビ以降に聴かれるはずの伸びやかな高音もおさえて歌っているようだったが、バックを務める兄弟たちのコーラスで無難に乗り切っていた。 続いては既に恒例となっていたデビュー曲からの全米1位メドレーが登場。<I Want You Back(帰ってほしいの)><ABC>に続き、<The Love You Save(小さな経験)>に入る直前にMichealがニヤリとした笑みがのぞくところを確認。「この曲好きなんだ。」と彼の表情から察することができた。
 

  そんなJ-5に余裕が戻ったところで、次はJamaineのソロ・コーナーに入る。まずは彼のヒット・ナンバー<Daddy's Home(パパの家)>、近くにいたJamaineのファンのグループから大きな拍手、続いても彼のファーストからミディアムの<Live It UP>。続いてはStevie Wonderのカヴァー・ソング<Superstition(迷信)>がスタート、ここでの見せ場はコンガを演奏していたRandyが、Michealから「Come On,Randy!」の呼びかけで、サビの一部でヴォーカルを披露。

 そんな見せ場が終わるとリラックスした静寂の時間が経過する。 そこでMichealから「My Favorite Song…」のメッセージに盛大な拍手が起こる、そう来場者お待ちかねの<Ben(ベンのテーマ)>だ。この日一番のハイライトの瞬間と思えるほど盛大な拍手が沸き起こった。続いてもMichealのソロで、最新シングルの<With A Child's Heart(大人は知らない)>、地味な曲ながら彼の囁くヴォーカルがしみた。
 

 Michalの「Arigato !」メッセージに続いてサイレンが鳴り響き、後半戦のスタートはTemptationsのグラミー・ナンバー<Papa Was A Rollin' Stone>、そしてJamaineのソロ・デビュー曲<That's How Love Goes(恋の約束)>、名曲<Never Can Say Goodbye(さよならは言わないで)>が続く。ここでもMichaelの負担を軽減するかのように、メンバーのコーラスを大きくフューチャーしながら<Walk On>に流れ込む構成になっていた。 

 ラストはMichealのソロでのサード・シングル<I Wanna Be Where You Are(キミはボクのマスコット)>。多少喉をセーブ気味だったMichealも、めいっぱいシャウトしながらステージを所狭しと動き回り「A・Ri・Ga・To」を連発! そんなノリノリで会場内も手拍子で大きな声援を送るも、フェイド・アウトでステージから去っていった
 

 なお2010年にはこの公演の前年1972年の全米ツアーのライヴがCD化されている。以下にこの時期のセット・リストと来日公演を紹介しておく。これを比べれば、マイケルの不調をいかにジャーメインのソロや、メンバーのコーラスでサポートしていたのかがよくわかるはずだ。 

 <Budokan Hall Tokyo Jpn. May 1, 1973 > 
01. Introduction~We're Gonna Have A Good Time 02. Halleujah Day(⋆) 
03. Lookin' Through The Windows(窓辺のディト) 04. Ain't That Peculiar 05. Got To Be There 06. Medley:I Want You Back / ABC / The Love You Save(小さな経験) 
07. Daddy's Home(パパの家) 08. Live It UP(⋆) 09. Superstition(迷信) 
10. Ben(ベンのテーマ) 11. With A Child's Heart(大人は知らない) (⋆)
12. Papa Was A Rollin' Stone 13. That's How Love Goes(恋の約束) 
14. Never Can Say Goodbye(さよならは言わないで)~ Walk On 
15. I Wanna Be Where You Are(キミはボクのマスコット) 

(⋆)は『In Japan』未収録曲

 <Los Angeles Forum U.S.A. August 26, 1972 > 
01. Brand New Song 02. Medley:I Want You Back / ABC / Mama’s Pearl(ママの真珠) 
03. Suger Daddy 04. I’ll Be There 05. Goin’ Back To Indiana / Brand New Song / Goin’ Back To Indiana 
06. Bridge Over Troubled Water 07. I Found A Girl 08. I’m So Happy 
09. Lookin' Through The Windows(窓辺のディト) 10. Ben(ベンのテーマ) 
11. Rockin’ Robin 12. Got To Be There 13. You’ve Got A Friend 14. Ain’t No Sunshine 
15. I Wanna Be Where You Are(キミはボクのマスコット) 
16. That's How Love Goes(恋の約束) 17. Never Can Say Goodbye(さよならは言わないで)~ Walk On 18. The Love You Save(小さな経験) 
19. I Wanna Be Where You Are(キミはボクのマスコット) 

 そんなマイケルたちではあったが、変声期を乗り越えたこの年の秋には快作『G.I.T.:Get It Together』をリリースしている。このアルバムはダンスに特化したコンセプト・アルバムで、音楽雑誌「Rolling Stone」で絶賛された。セールス的には100位と惨敗ではあったが、セカンド・シングル<Dancing Machine>が全米2位の大ヒットとなり健在を印象付けた。

注1)当時のMotown系アーティストの来日公演は、日本独自でライヴ盤がリリースされていた。その皮切りになったのがThe Supreams、続いてThe Temptations、そしてこのThe Jackson 5だった。 

 (注2)4/28広島郵便貯金会館、4/30大阪厚生年金会館、5/1大阪フェスティヴァル・ホール、5/2東京日本武道館。 

 (注3)1970年5月にリリースされた日本では40位3.8万枚。当時のMotownにおける最大ヒットで、後にMariah Careyも大ヒットさせるスタンダード・ナンバー<I’ll be There>でも99位0.2万枚だった。

 (注4)日本でのリリースは1972年11月、52位2.6万枚。 

 (注5)西城秀樹や郷ひろみの同期デビュー・アイドル歌手伊丹幸雄の<青い麦>。

 (注6)スウィート・ソウル・グループThe Delfonicsの代表曲。1968年リリースのサード・シングルで全米4位R&B2位を記録。J-5カヴァーは、1970年5月リリースの『abc』に収録。

 (注7)詳しい素性は不明だが、私の知る限りではKingからデビューした「チューリップ・フォロワー」のはず。 

 (注8)1972年10月から放送開始したTBS系の関東ローカル「情報・バラエティ番組」。この当時の放送時間は平日17時~17時30分でフィンガー5は月曜日のレギュラー。ちなみに木曜のレギュラーには矢沢永吉率いるCarolがいた。

 (文・構成:鈴木英之)

2021年10月9日土曜日

bjons:『CIRCLES』(NARISU COMPACT DISC / HAYABUSA LANDINGS / HYCA-8024)リリース・インタビュー


 bjons(ビョーンズ)が、2018年5月の『SILLY POPS』から約3年半振りとなる最新作でセカンド・アルバムの『CIRCLES』を10月13日にリリースする。
 昨年10月に彼らの7インチ・シングル『抱きしめられたい』を弊サイトでも紹介しているので記憶に新しいと思うが、2017年にソングライターでヴォーカル兼ギターの今泉雄貴、ギターの渡瀬賢吾とベースの橋本大輔の3人で結成されたポップスバンドだ。レコーディングやライブでは、サポートメンバーとしてドラムの岡田梨沙(元D.W.ニコルズ)とキーボードの谷口雄(元森は生きている、現1983)が加わり準メンバーとして活動している。 

 筆者はファーストアルバム『SILLY POPS』からシングルカットされた『ハンバーガー / そろりっそわ』(18年7月)のジャケット写真が、The Parade(Jerry Riopelle、Murray MacLeod、Allen "Smokey" Roberdsによる短命のソフトロック・グループ)の日本編集盤のそれをオマージュしていたことで気になりチェックして、今泉の巧みなソングライティングと個性的なヴォーカル、渡瀬と橋本の手練なプレイを高く評価するようになった。因みにギタリストの渡瀬は昨年紹介したポニーのヒサミツの『Pのミューザック』(20年4月)や一色萌の『Hammer & Bikkle』(20年11月)をはじめ、加納エミリの『朝になれ』(20年11月)などジャンルを超えて様々なセッションで活躍している。

 本作『CIRCLES』では前作以上にソングライティングに磨きが掛かった楽曲が揃っており、サポートの岡田と谷口を含めたフォーリズムのコンビネーションも素晴らしく、長い年数聴ける良作になったと高評価している。なお主要曲の解説と聴きどころについては、インタビュー記事中で筆者が触れているので要チェックだ。
 さてここではメンバー3人におこなった、この最新アルバムの曲作りやレコーディングについてのテキスト・インタビューと、ソングライティングやレコーディング期間中にイメージ作りで聴いていたプレイリスト(サブスクで聴取可能)をお送りするので聴きながら読んでみて欲しい。

 
左から時計回りに渡瀬、岡田、今泉、橋本、谷口


 ~必要性のある音以外は極力鳴らさず、 
曲のエグみやザラついた質感を活かすアレンジで統一~ 

 ●ファーストアルバム『SILLY POPS』の後、昨年のシングル『抱きしめられたい』を経て、本作『CIRCLES』のコンセプトとして考えていた世界観を聞かせて下さい。 

◎今泉:制作が長期に渡ったこともあり、曲単位で一貫したコンセプトはありません。曲が出揃ったときに「抱きしめられたい」の延長線上とも言えそうな、必要性のある音以外は極力鳴らさず、曲のエグみやザラついた質感を活かすアレンジで統一しようとバンド内で話し合いました。 

●音数を削ぎ落とす引き算的アレンジは成功しているのではないかと思います。bjonsのサウンドを構築していく上で心掛けているポイントを教えて下さい。

◎今泉:プレーヤーとして素晴らしいメンバーが集まっていると思うので、それぞれの持ち味を活かせるような曲を書きたいな、とは常々考えています。 


CIRCLES』トレーラー


●収録曲のソングライティングの着想やアレンジのアイディアを可能な限り聞かせて下さい。

「皮肉屋」~ 
◎今泉:書いたのはちょうどコロナ禍に突入した2020年初頭です。Whitneyみたいな少し牧歌的で大きめなメロディーに、当時自分の中でぐつぐつと沸いていた憤りやもどかしさを言葉にして乗せました。 

◎渡瀬:歌詞の世界観にあわせて特にイントロとアウトロは不穏な感じを演出しつつ、歌のバックのスライド・ギターやギターソロは明るい音選びで少しだけ希望のようなものを表現したつもりです。着想としては、WilcoやWhitneyなど近年のUSインディーのイメージがありました。

◎橋本:最初の緊急事態宣言の時に送られてきた曲ですね。シンプルな演奏ですが緊張感をだしたいなと思い、アップライトにしました。 

●サウンド面ではプレイリストでも挙げているWhitneyからの影響というのは興味深いです。Whitney は2019年の『Forever Turned Around』を星野源氏などが年間ベスト・アルバムに選んでいて、ミュージシャンズ・ミュージシャンズという存在ですが、コロナ禍に入った当時の社会情勢が作詞面におよぼした影響というのはどの辺りに出ていますか?
冒頭から「きみは嘘つき とても好きになれない」やサビの「顔に引っ付いて 消えなくなった  そこに潜んでいたのかアイロニー」などサウンドとは対照的な辛辣なラインがありますが。 

◎今泉:仰る通り、「皮肉屋」「スロウリー」では大きく影響が表れていると思います。作詞においては、暫くの間は影響を受けてしまうだろうと思います。 


「デジャヴ」~ 
◎今泉:もう少し緩やかな曲として産まれました。上京した頃暮らしていた石神井公園〜大泉学園あたりの深夜から明け方を舞台に歌詞を付けています。アレンジは、どこか暗くて重苦しい負の硬質なAORみたいになったかなと。たぶん、あまりいい思い出ではないんでしょうね。

◎渡瀬:なかなかギターはアレンジが決まらず苦労しました。ソロはSteely Dan期のラリー・カールトンを少しだけ意識しましたが、うまくいったのかどうかはわかりません。

◎橋本:デモの時点で今泉君がベースラインいれていて。音数も多かったので、そこから削ぎおとしつつ整えていきました。特にBメロなんかは、ここに行き着くまでけっこう苦労したんです(笑)。

●この曲、マスタリング前のラフミックス音源を聴かせてもらった段階から一聴して虜になった曲なんですよ。イントロの渡瀬さんのギターリフから、橋本さんのベースと岡田梨沙さんのドラムのコンビネーションなどブルーアイドソウル~AORのテイストが濃くて好きにならずにいられないという(笑)。 
また橋本さんのコメントにもありますが、不安定なヴァース(Aメロ)からこのブリッジ(Bメロ)があることで、開放感あるサビに美しく繋がったと思います。「お互い死に際に会えたなら それでいいだろう」と最期のラインは感動的で、入口は重苦しい世界観で複雑な構成なんだけど、最期にヒューマニズムが滲み出ているマインドを感じられたという。 

◎今泉: 今作の制作の中では初期の楽曲で、僕個人としてはこういうトーンで纏まったアルバムになるかなとイメージしていました。結果ならなかったのですが。

 

「抱きしめられたい」~ 
◎今泉:弾き語りのデモはもっとフォーキーで、記憶は曖昧ですが田島貴男さんをイメージして書いた曲だったと思います。アレンジは、当時メンバー内で盛り上がっていた「Running Away」(Vulfpeck)の影響を受けています。

◎渡瀬:レコーディング時期にVulfpeckの「Running Away」をメンバー間でよく聴いていたこともあり、全体のアレンジはその曲に引っ張られているところが大きいと思います。ただDavid Tのように弾くことは僕にはできないので、結局アウトロのソロは自分らしいブルージーな感じになりました。

●Vulfpeckの「Running Away」にはデイヴィッドTとジェームス・ギャドソンが参加していて、そのデイヴィッドは昨年弊サイトのベストプレイ企画をした際渡瀬さんにも参加頂きました。原点回帰的ソウル・ミュージックのサウンドに、松本隆的な映像が浮かぶ詩世界が融合していて完成度が非常に高いです。「無言の街に 誰かのバイブレーション 響いて聞こえる」の後の谷口さんのアナログシンセの無限音階も実に効果的ですしね。
デモの段階で田島さんの作風をイメージしていたという点が気になりますが、オリジナルラヴを愛聴されていたんですね? 『風の歌を聴け』(94年)や『RAINBOW RACE』(95年)はリアルタイムで聴き込んでいましたが、90年代日本のポップスの完成形だと思っています。

◎今泉:そうですね、大好きです。田島さんに限らず、フェイバリットミュージシャンが歌っている姿を想像して作曲することはしばしばありますね。


「かっこわらい」~
◎今泉:シーズンソングを書いてみよう、という軽薄なきっかけで書いた曲です。いろんなアレンジを試しましたが、メロディーが強くて拒絶反応を起こす面白い曲でした。最終的にはPerfume Geniusをイメージした、機械っぽい生のリズムアレンジになりました。

●等身大の詞の世界に好感が持てます。Perfume Geniusを聴き込んでいないのでその影響が掴めないのですが、シャッフルのリズムやメロトロン系キーボードを入れるアレンジは今泉さんのアイディアですか? 

◎今泉:シャッフルのリズムは書いた時からですが、それ以外はサポートメンバーの谷口雄君によるアイディアです。特にこの楽曲に関してはアレンジの大半が彼によるものです。



 
「ハードレイン」~ 
◎橋本:イントロとアウトロの谷ピョンのオルガンに私の願いが詰め込まれています。 

●元森は生きているのメンバーで、多くのセッションに参加しプロデューサーとしても活躍している谷口さんへのシンパシーを感じました。シンコペーションが効いたオルガンもそうですが、ウーリッツァーのプレイも素晴らしいです。
この曲ではドラムの岡田さんがコーラスも担当していますが、今泉さんの声とのコントラストがいいので、今後も依頼してはどうでしょうか。

◎橋本:STAXのコーラスグループ「Mad Lads」の曲に元ネタがあって。これははまるんじゃないかと谷ピョンにリクエストした次第です。りっちゃん(Risa Cooper)は昨年ソロデビュー(下記画像参照 / 2020年11月)もしていますし、どんどん歌って頂きたいです。話声は大きくて賑やかだけど、歌声はとても繊細で素敵です(笑) 。

(1stシングル / タイトル曲~作詞作曲:今泉雄貴)


「フォロー・ユー」~ 
◎今泉:ライブのMCでも何度か話していますが、津川雅彦さんのことを考えて作りました。バンド・アレンジとしては最初から現在のリズムパターンでアレンジを開始しましたが、元々はスローな3連で作った曲です。 

◎渡瀬:短い曲なので起承転結を付けるのが大変でしたが、ファズとディレイを使ったロングトーン中心に、歌詞の寂しさとか余韻とかを裏付けられるようにアレンジしました。

◎橋本:フレットレスの音色が、曲の世界観に合うかなと。演奏がシンプルなだけに音色で少し味付け、程度ですが。 

●昨年『抱きしめられたい』のカップリングで聴いた時から好きな曲でした。谷口さんのウーリッツァーのコード・ワークとリズム・セクションのコンビネーション、そこに絡む渡瀬さんのギターリフという必要最低限の音数で、今泉さんの鼻腔から響く独特の声質をよく引き立ています。 
ところで俳優の津川雅彦氏のことを考えという着想が非常に気になりますが(笑)、津川氏が生前に出演されていた映画やドラマのストーリーに歌詞を影響されているとか? 

◎今泉:いえ、俳優としての出演作品からではなく、彼が亡くなったときに感じたことをきっかけに作詞をしました。



~スタジオでせーのでヘッドアレンジする際より、
 みんなの音をより意識しながら進めたので、
ほんとに必要な音しか鳴っていない~
 
 ~bjonsは3人ともあんまり喋らないから、
 サポート二人の無駄話のおかげで終始リラックス~ 

●レコーディング中の特筆すべきエピソードをお聞かせ下さい。

◎渡瀬:コロナ禍のためスタジオに集まれず宅録でのアレンジをはじめたことによって、逆にみんなの向き合い方が変わり、無駄な音がなくなったような気がします。またレコーディングが大きく2回に分かれて、さらにその間1年空いたことで、モチベーションとかどうなるかな?と思ったのですが、エンジニアの原さんが大変面白い人で、現場は毎回楽しかったです。

●コロナ禍によりバンドとして新たなレコーディング手法を取ることになり、その効果がサウンドに影響したことは興味深いです。その影響が最も現れているのはどの曲でしょうか?
またエンジニアの原真人さんは、細野晴臣氏をはじめWorld Standardやカーネーションなど拘り派ミュージシャンのレコーディングに携わっていることで知られますが、ギタリストとして外部のセッションにも参加している渡瀬さんとして、勉強になった点は何かありますか? 

◎渡瀬:アルバムに先駆けて、宅録で作った「皮肉屋」「頼りない魂」「スロウリー」の3曲のデモ音源をbandcampにて販売したのですが、特に「皮肉屋」と「頼りない魂」は、順番にそれぞれが音を足してデータ上でやり取りする、という方法による効果が如実に出ている気がします。
スタジオでせーのでヘッドアレンジする際より、みんなの音をより意識しながら進めたので、ほんとに必要な音しか鳴っていない、って感じになっていると思います。
レコーディング中に自分がヘッドホンで聴いている音と、コントロールルームに戻ってスピーカーでプレイバックした音が全然違ってがっかりすることってよくあるんですが、原さんは、録っている時も気持ちいいし、プレイバックでも「もうこのままで最高!」と思える音で録ってくれます。大体いつもふざけていますが(笑)、リラックスさせてくれますし、人間としての魅力が仕事にも出ているんだろうな~と思います。

●デモ音源を先行でネット販売というのは新しい試みで、ファンにとっては曲が完成に近付く過程が分かるので面白いと思いますが、リリース前にデモの段階で発表することの抵抗はなかったですか? 
挙げられた曲について、データのやり取りで音を重ねていった効果というのがサウンドを形成していったのが理解出来ました。
また原さんのプロフェッショナルな仕事振りと共に、人間性も伺えて非常に興味深いです。エンジニアに原さんを推薦されたのは渡瀬さんですか? 

◎渡瀬:bandcampで発表する際はアルバム・リリースの段階ではなく、純粋に新曲を公開する場として捉えていたので、特に抵抗はなかったですね。 原さんにお願いしようと言い出したのは僕ではなく、恐らく今泉か谷ぴょんだったと思います。

●なるほど新曲公開という趣旨だったんですね。原さんへのオファーの経緯も理解しました。
では他のメンバーの方でエピソードはないでしょうか? 

◎橋本:こんな状況ですし、ほとんど音を合わせることもなくレコーディングに入りましたが、わりとトントン拍子に録れました。渡瀬君も言っていますが、原さんは本当に気持ち良い音で録らせてくれるなあと。bjonsは3人ともあんまり喋らないから、サポート二人の無駄話のおかげで終始リラックスできました(笑) 

●サポートの谷口さんと岡田さんによって和やかにレコーディングが進んだようですが、本作収録で橋本さんが特にお二人のプレイでお気に入りの曲とその個所を挙げて下さい。

◎橋本:お二人とも全曲素晴らしいプレイなので全てお気に入りです。特別選ぶとなると難しいですが…。 
「頼りない魂」は宅録していく過程で、リズムがきて、そこにベース重ねて。で上物がどうくるのか楽しみに待っているわけですけど。頭のシンセ聴いて興奮しました。そしてサビ、ピアノの8分の刻みは非常に印象的で、曲をグッと引き締めています。心地よいですよね。
「鈍行アウェイ」は、確かスタジオで合わせてさらっと出来上がった曲だったような。淡々としているようですが、様々な感情がリズムに込められているように思います。穏やかであたたかいリズム。アルバムの中でも一番優しい曲ですよね。 



●ソングライティングやレコーディング期間中、イメージ作りで聴いていた曲を挙げて下さい。 

◎今泉:
◎若い頃は苦手だったこの手のサウンドですが今では大好物です。デジャヴで影響を受けています。

◎Whitneyのレコードは音が悪いイメージでしたが、このカバーアルバムは丸いのにガッツがあって好きな音です。皮肉屋で影響を受けています。
 
◎Randy Newmanを愛しています。スロウリーで影響を受けています。 

◎ちょっとストレンジなサザン・ソウル風味のカントリー?ハードレインで影響を受けています。


◎渡瀬:
◎前述の「皮肉屋」のイメージはこのアルバムかなと思いますが、今聴いてみたらエレキギターの印象はだいぶ薄かったです。全体のイメージということで。

◎「頼りない魂」は本アルバムの中でも特にスカスカなアレンジですが、その中でトム・ミッシュのボイシングやディレイの使い方は、この曲に限らずわりと参考にしました。

◎「ハードレイン」はHiサウンドでいこう、となったときに真っ先に思いついたのがこの辺の曲でした。アル・グリーンはこのアルバムが一番好きです。

◎特に今回のレコーディング中に聴いていたというわけではないのですが、西川さんのギターの影響は自分にとって非常に大きく、「フォロー・ユー」のアレンジなどに自然に出てしまっていると思います。


◎橋本:
◎「かっこわらい」をアレンジするにあたり、変わったものにしたいと思って。各楽器のリズムの絡み具合が面白い曲です。

◎マラコの演奏は、良い意味で可もなく不可もなくというか。録音中もよく聞いていました。その中でもお気に入りの曲です。

◎なにかとヒントをくれるのがジョージジャクソン。この度も大変お世話になりました。

◎「頼りない魂」のイメージに合いそうな、この類いの曲を色々聞いていたのですが、改めて最高の曲だなと(笑) 。 



●リリースに合わせたライブ(配信含む)があればお知らせ下さい。

◎今泉:12/11(土)のお昼に、下北沢440にてリリース記念ライブを予定しています。 今後の状況は不透明ではありますが、僕たちは楽しく演奏したいと思っています。 
詳細が決まりましたらTwitter(@bjons_info)にてお知らせしますので、チェックしてください。

●では最後にこのセカンド・アルバムのピーアールをお願いします。

◎今泉:長い時間がかかりましたが、前作よりもパーソナルな、思い入れのある曲ばかりが揃いました。ぜひ聴いてみてください。

◎渡瀬:派手な楽曲は入っていませんが、今の過酷な世の中の状況を反映しながらも、どこかしら希望を感じさせるようなアルバムになっていると思います。何回も繰り返し聴けると思いますので、ぜひ。

◎橋本:良い作品ができたと思います。聴いてみて下さい。音楽はよいものです。 

(インタビュー設問作成、本編テキスト:ウチタカヒデ