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2026年10月15日木曜日

青野りえ:『TOKYO step』リリース・インタビュー

~WebVANDA推奨・今年聴くべきアルバム~


 女性シンガー・ソングライターの青野りえが、4thアルバム『TOKYO step』(FLY HIGH RECORDS/VSCF-1782 FRCD-086)を10月21日にリリースする。2023 年11 月の3rdアルバム『TOKYO magic』から約3年となる新作で、待ちわびていたファンも多いはずだ。
 本作では1st『PASTORAL』、2nd『Rain or Shine』を手掛けた鬼才シンガー・ソングライターの関美彦と、前作『TOKYO magic』を手掛けたThe Bookmarcsのメンバーで作編曲家の洞澤徹が収録曲のサウンド・プロデュースを分け合って担当するという豪華さである。
 更にThe Bookmarcs近藤健太郎が作曲して先行で配信していたシングル「フィナーレを待ちながら」をボーナス・トラックとして収録している。

 
本作前半の6曲の作編曲を手掛けた関美彦チームのレコーディングには、前々作『Rain or Shine』同様にベースの伊賀航(細野晴臣、星野源等)、ドラムスに北山ゆう子(堀込泰行、RYUSENKEI等)、ギターに山之内俊夫(花澤香菜、ROUND TABLE等)、ピアノには長谷泰宏(ユメトコスメ)といった手練プレイヤー達を迎えている。そして後半5曲の作編曲を手掛けた洞澤徹チームには、前作『TOKYO magic』に参加したベースの北村規夫、ドラムスには足立浩といずれも多くのセッションで知られるミュージシャン達が再び参加し、ギターとプログラミング、ミックスは洞澤徹自身で担当しているのだ。また関の前半曲のミックスと全体のマスタリングはこれまで同様に多くの作品でも知られる、マイクロスターの佐藤清喜に委ねられている。
 さらに洞澤が手掛けた新曲の「空と海のサンバ」では、キーボーディストとして、古くはLampの1stをはじめ多くのセッションに参加し、現在は自身のトリオでの活動が主となっている矢舟テツローが、ゲスト・ボーカリストとして参加しているのも要注目である。
 このように本作『TOKYO step』には、これまでの青野サウンドの集大成的なメンバーが勢ぞろいしており、アルバム・コンセプトである“ネオ・ディスコ”を各メンバー達によって繰り広げている。

 ここでは、筆者による本作『TOKYO step』に収録された全曲の詳細レビューと、青野へのテキスト・インタビュー、そしてソングライティングやレコーディング期間中にイメージ作りで聴いていたプレイリストをお送りするので、聴きながら読んで欲しい。

 
青野りえ ニューアルバム『TOKYO step』
全曲試聴Teaser 

 マスタリング直後音源を入手し聴き込んで早1ヶ月になるが、収録曲の解説をしていこう。
 冒頭の「スカーレット」は、ファーストテンポでスイングする北山のドラミングから始まる関の作編曲のハードエッジなジャズファンクだ。動き回る伊賀のベースライン、多重録音して縦横無尽な山之内のギターカッティング、ピアノでメインコードを奏でる長谷も相当インタープレイを織り込んでいるので、ヘッドアレンジを超えた、白熱した一期一会セッションのサウンドになっており、聴く者を釘付けにしてしまうだろう。
 関はテンションを効かせたブラス系シンセのパッド、リズムの核となっているラテン・フィールのクラベスをプログラミングして全体のトリートメントを施している。この様な完璧なサウンドに、青野の美意識と気品漂う歌詞とボーカルが乗るのだから堪らない。冒頭曲に相応しい完成度に脱帽するばかりだ。
 続く「トワイライト」は、一転してミッドテンポの1980年代の打ち込み系R&Bに通じ、北山の生ドラムに関がプログラミングしたシンセベースやキーボード類が主体となるサウンドだ。間奏では山之内がアーニー・アイズレー風のギターソロを披露し、青野による都会的な歌詞とクールなボーカルに呼応していて、ナイト・ドライヴィング・ミュージックとしても一興である。

ボーイフレンド

 10月14日に先行配信されたばかりの「ボーイフレンド」は、シャッフル・ビートで進行するソフトロック系のプリティなポップスだ。山之内はセンターのアコースティックギターと左チャンネルのモジュレーションを深くセッティングしたエレキギター、この手のサウンドを得意とする長谷は右チャンネルでアコースティックピアノをそれぞれプレイしている。またオブリを奏でるグロッケンやタンバリンなど効果的に配置されており、青野による歌詞は青春ベースボール系で、ユーミンの「まぶしい草野球」(『SURF&SNOW』収録1980年)に通じており、溌溂とした歌声も含めて好感が持てる。
 これまでの青野の歌唱やサウンド・スタイルから本作中最も踏襲しているのが、AOR系の「マーマレイド・タイム」だろう。シンセのリフや青野自身の多重録音によるスキャット、北山と伊賀のリズム隊による跳ねるグルーヴがひたすら気持ちいい。長谷はフェンダーローズ系のエレピとアコピを弾き分けて、山之内はエレキのカッティング、間奏ではアコースティックギターでソロを取るなどアレンジ的にもよく工夫されている。
 続くフランス語タイトルの「マシェリ」は、ワルツや6/8拍子を基本とした軽快なラヴソングで、この手の変拍子リズムでは北山のドラミングが光っている。「ボーイフレンド」同様に尺が2分台なので、もう少し聴いてみたい程、良い演奏と歌唱である。
 関が手掛けた前半(アナログだとA面)最後の「タイニー・ブルー」は、本作のコンセプト“ネオ・ディスコ”を最も体現しているダンス・ナンバーだ。リズムセクションで16ビートを刻むのはアコースティックギターのみで、極力音数を削って隙間を活かしたアレンジとミックスに仕上がっているので、各プレイヤーの巧みでタイトなプレイがより楽しめる。
 またインタビューのプレイリストで青野が触れている、ブルーノ・マーズ(Bruno Mars)のサウンド構築法にも通じるが、原点回帰というか70年代ファンク・ミュージックへの敬意を感じさせる。青野による巧みに韻を踏む歌詞やボーカル・スタイルからもダンス・ナンバーとして完成度が高い。本作からシングルカット(12インチ)するのであれば、間違いなくこの曲だろう。


恋する惑星

 昨年6月に配信リリースされたシングル「恋する惑星」からの後半5曲は、前出の通りThe Bookmarcsの洞澤が手掛けている。この「恋する惑星」はラー・バンド(The RAH Band)の「Clouds Across The Moon」(1985年)のオマージュである。本作『TOKYO step』のコンセプトのきっかけになった、この曲の歌詞は宇宙を舞台にしたラヴソングであるが、歌詞にミラーボールが出てくるのも聴き逃せない。マニアックな読者ならご存知の通り、ラー・バンドはビートルズの「The Long and Winding Road」(『Let It Be』収録/1970年)やポール・マッカートニーのウイングス時代の「マイ・ラヴ」(1973年)をはじめ、ジグソーの「Sky High」(1975年)等のドラマティックなオーケストレーションで知られる、英国人アレンジャーのリチャード・アンソニー・ヒューソンが1977年に妻と結成したプロジェクトである。
 日本において、「Clouds Across The Moon」のカバーやオマージュはこれまでも多々あり、1995年に電気グルーヴ在籍中の砂原良徳がファーストアルバム『CROSSOVER』でクラブ・ミュージック風にアレンジしたカバーが比較的早かった。オマージュ系では2013年に元AKB48の星野みちるがファーストアルバム『星がみちる』に収録した「私はシェディー」(作詞:星野みちる/作曲:はせはじむ)が特に知られるだろう。奇遇にもアレンジとプログラミングは、本作のマスタリングを担当しているマイクロスターの佐藤清喜だった。
 余談が長くなったが、本作収録ヴァージョンの「恋する惑星」がそれらと異なるのは、生楽器を多く取り入れてヒューマンで有機的なグルーヴにアダプトした点だろう。洞澤は全てのプログラミングに加え、右チャンネルでミュートさせたエレキギターのアルペジオを、ベースは北村がスラーを効かせたエレキベースを手弾きしている。この曲のグルーヴの肝となるシンセベース(※シングル・ヴァージョンはシンベ)だけに頼っていないところが新鮮でユニークなのだ。なお近年のヒューソンのインタビューによると、1985年のオリジナル・ヴァージョンのシンベは、当時としては旧式である日本のRoland製 モノフォニック・アナログシンセSH-5(1975年リリース)を使用していたという。

 続く「ASTER」は一転して、アコースティックギター(ガットギター)をメインにしたボサノヴァ・ソウルで、足立のドラムと北村のエレキベースによる生のリズムセクションが心地良い。コード進行も凝っていて、ヴァースからサビに入る手前でさり気なくテンションを効かせ、コーラスやホーン・アレンジも素晴らしく、リード曲ではないが耳残る隠れた名曲である。
 1980年代初期のブラックコンテンポラリー・サウンドに通じる「sweet escape」も触れずにはいられない。イントロからマーヴィン・ゲイの「Sexual Healing」(1982年)を彷彿とさせる、ウィスパー・コーラスやRoland TR-808系の簡素なドラムマシーンなど音数少ない空間で、北村のファンキーなエレキベースがグルーヴを形成していく。青野による都会的な歌詞と表現力豊かなボーカルと非常にマッチしている。


空と海のサンバ

 そして10月1日に先行配信された「空と海のサンバ」だが、この曲によって本作の終盤をビビッドに飾ってくれている。インタビューのプレイリストでは、ラー・バンドの「Sam the Samba Man」(1983年)をリファレンスにしたとのことだが、同曲で聴ける英国人によるプログラミング主体でサウンド全体をデフォルメ加工した80年代のキッチュな感覚(本曲でもアナログシンセ系SEが大胆にインサートされているが)より、洞澤のセンスでスリーリズムを生楽器の演奏にして、オーセンティックなブラジリアン・サンバ色を濃くしたことで、青野の声質や声域にマッチしたサウンドに仕上がっていると感じた。ここではスルドのパターンをロータムでプレイするなど、巧みなドラミングを披露する足立のプレイも光っている。
 またサビをはじめ、イントロやパート間でリフレインするコーラスでは、スペシャルゲスト・ボーカルの矢舟テツローとデュエットしており、青野のアルト〜メゾソプラノ系の透明感ある歌声に、矢船のバスバリトン・ボイスがブレンドすることで、ボーカル・パートのコントラストが際立ち、聴き手の心を高揚させて多幸感を与えてくれる。この感覚はブラジル伝説のシンガー、エリス・レジーナ(Elis Regina)が、同国の至宝とされたシンガー・ソングライターのシコ・ブアルキ(Chico Buarque)とデュエットで発表した「マスカレードの夜(Noite dos Mascarados)」(1967年)にも通じる感覚である。

 本編ラストの「Spoonful Love(スプーン一杯の愛)」は、そのタイトルから弊サイト読者ならジョン・セバスチャンが60年代に組んでいたフォークロック、ポップス・バンドのラヴィン・スプーンフル(The Lovin' Spoonful)をイメージさせるだろう。だがサウンド的には、嘗て弊誌監修で出版した書籍『ソフトロックAtoZ』で高評価した、ソフトロック~アコースティック・ソウル・デュオのアルゾ&ユーディーン(Alzo & Udine)や、1995年に日本でリイシューされ、渋谷系やギターポップ界隈でリバイバル・ヒットした、ハワイアンAORのテンダー・リーフ(Tender Leaf)に通じる、風の通しの良いヤング・フリーソウルに仕上がっている。青野のプレイリストでもアルゾのソロアルバムと、ハワイアンAORを代表するカラパナ(Kalapana)が挙げられているので、その親和性を感じてくれると思う。
 この曲でのサウンドの要は、洞澤による複数のアコースティックギターとエレキギターのカッティングで構築したギター・トラック、波打つような北村のベースライン、ドラム以外に足立がプレイしているコンガを含めたポリリズムの気持ち良さだろう。青野による清々しさを感じさせる歌詞の世界観やナチュラルな歌声が、それらサウンドに溶け込んで大団円を迎えるのであった。


フィナーレを待ちながら

 ボーナス・トラックには今年5月4日に配信シングルでリリースしていた、「フィナーレを待ちながら」を収録している。弊サイトでは当時レビューを紹介済みだが、青野の作詞と近藤の作曲という初のタッグで制作された1曲で、近藤らしいポール・マッカートニーの「Maybe I'm Amazed(恋することのもどかしさ)」に通じるその曲に、青野が歌詞をつけてローラ・ニーロやキャロル・キングなど70年代初期~中期のシンガー・ソングライター風のサウンドに仕上げられた、ピュアでナチュラルな心情を描いたラヴソングである。


青野りえ★インタビュー
“大貫妙子さんの『Grey Skies』のように、
1枚のアルバムに複数の制作チームが関わるような
スタイルも面白いのではないかと”

●前作『TOKYO magic』から約3年になりますが、この期間にどのような活動をされていたでしょうか?

◎青野:自主企画のワンマンライブをしたり、イベントに呼ばれて歌ったり、2024年からはk-mixのラジオ音楽番組「ようこそ夢街名曲堂」のレギュラーとして出演しています。

●この期間、次回作の歌詞のアイディアやモチーフをストックしたりするタイミングはありましたか?

◎青野:今回はストックなしで、すべて曲を聴いてから作詞に取り掛かりました。

●本作の曲作りとレコーディング期間を教えて下さい。またサウンド・プロデューサーが関美彦さんとThe Bookmarcsの洞澤さんのお二人のプロダクションになったことで、曲作りやレコーディング方法が各自で異なったと思いますが、そのプロセスはいかがだったでしょうか?

前列:青野りえ
後列左から:北村規夫、洞澤徹、足立浩

◎青野:洞澤さんとは昨年の4月に配信シングル「恋する惑星」の制作を始める時に、次のアルバムを見据えてのリリースであることを話しました。ラー・バンドみたいな音像のネオ・ディスコをやりたいというコンセプトはこの時から構想していました。洞澤さんと作るときは、まず洞澤さんがデモを作り、そこに私の歌詞と歌を入れた音源を返し、それを元に洞澤さんがアレンジを固めていくスタイルで、本番の歌入れまではオンラインでのやりとりです。
関さんの場合は、関さんの簡単な弾き語りデモを元に、レコーディングメンバーが全員スタジオに集まって、セッションをしながらアレンジを固めていくスタイルです。

●なるほど昨年リリースされたシングル「恋する惑星」が、本作『TOKYO step』のコンセプトのきっかけになっているということですね。またそれぞれのサウンド・プロデューサーのカラーが曲調にも出ていて興味深いです。洞澤さんが手掛けた同曲は打ち込み主体ながら生演奏も加えたヒューマンさが感じられて、ラー・バンド(The RAH Band)の「Clouds Across The Moon」(1985年)のオマージュが懐かしくも新しかったです。
一方で関さんのスタイルが顕著に出ているのは、冒頭の「スカーレット」だなと。明らかにレコーディング・セッションのヘッドアレンジで構築されたクールなサウンドです。青野さんのファーストアルバム『PASTORAL』(2017年)のタイトル曲にも通じる、スティーリー・ダン的手法がさすがだと思います。 この様にタイプが異なる2名のアレンジャー兼サウンド・プロデューサーを1枚のアルバムに迎えるというアイディアは当初から考えていたでしょうか?

◎青野:4枚目のアルバムはこれまでの3枚とは違うことをしたい、という気持ちは元々ありました。そんな矢先、ベースの伊賀さんと話していて、ラー・バンドみたいな音楽をやるなら関さんの曲も聴いてみたい、と言われたのがきっかけで、例えば大貫妙子さんの『Grey Skies』のように、1枚のアルバムに複数の制作チームが関わるようなスタイルも面白いのではないかと思うようになりました。


“今までのシティ・ポップの路線は一旦忘れて
新しい感覚の音楽をという意識はあった” 

●レコーディング中の特質すべきエピソードをお聞かせ下さい。 サウンド・プロデューサーの関さんと洞澤さん、レコーディング・セッションに参加したミュージシャンの方々はこれまでの作品にも参加されている訳ですが、あらたな発見などはあったでしょうか?

前列左から:長谷泰宏、青野りえ、
一人置いて北山ゆう子、関美彦、山之内俊夫
後列:伊賀航

◎青野:今回は関さんサイドのスケジュールがかなり限られていたので、まだ歌詞もできていない状態でアレンジを固め、楽器のレコーディングも先に完了し、完パケしたオケに合わせて私が歌詞を書いて歌って仕上げることになりました。オケだけでも素晴らしいクオリティだったので作詞のハードルが上がってしまい、かなりプレッシャーの中での制作となりましたが、なんとか納得のいく作品ができてホッとしました。関さんサイドの歌のレコーディングは自宅にて自分で録音したのですが、真夏の酷暑の部屋でエアコンを切ってレコーディングしたのがかなりの苦行でした。

関さんも洞澤さんもメンバーの皆さんも相変わらずのクオリティでした。今までのシティ・ポップの路線は一旦忘れて新しい感覚の音楽をという意識はあったと思います。

●曲先ならまだしも、”オケ先”で作詞していくというのは稀だし作詞家兼ボーカリストとしては大変な作業ですよね。アレンジのアイディア自体、歌詞の世界観をモチーフにしていくケースが多いと思います。関さんには事前に曲のタイトルやイメージのみ伝えていた感じですか? 

◎青野:関さんには私のイメージは伝えていません。関さんと歌詞について話し合ったことはあまりなくて、お互いに信頼していて任せてくれているような感覚があります。タイトルも歌詞ができてから最後にお伝えしました。


後列左から:青野りえ、矢舟テツロー、洞澤徹


●本作のジャケット・デザインも青野さん自ら担当されていますが、デザイン・コンセプトについてお聞かせ下さい。

◎青野:前作の『TOKYO magic』と同じく、「海外から見た東京」のイメージは引き継いで、新旧あらゆるジャンルのものが混在する東京の面白さ、例えばスカイツリーと五重塔の対比やビル群の中に現れる富士山などを散りばめて表現しました。
私の音楽も60年代〜90年代の様々なジャンルのお気に入りの音楽に影響されて形成されているので、時代を超えたノスタルジーとロマンチックな世界観を感じていただけたらと思います。


●ソングライティングやレコーディング期間中、イメージ作りで聴いていた曲を各サウンド・プロデューサーのお二人と挙げて下さい。

『TOKYO step』プレイリスト

●Sam the Samba Man / The Rah Band(『Going Up』1983年)
レトロなシンセとキャッチーなメロディと踊れるグルーヴ。アルバム全体のコンセプト・イメージです。「空と海のサンバ」のリファレンス曲でもあります。

●I Remember Yesterday / Donna Summer(『I Remember Yesterday』1977年)
関さんに今作の「レトロなディスコライクで踊れる曲を」というコンセプトを話した際に1番最初に挙げられた曲。

●I'll Play The Fool / Dr.Buzzard's Original Savannah Band
 (『Dr.Buzzard's Original Savannah Band』1976年)
こちらもアルバム全体のコンセプト。レトロなスウィング・ジャズとラテンとディスコの融合、フランス由来のクレオールならではのシックな雰囲気も大好きです。

●Gettin' Ready for Love / Diana Ross(『Baby It's Me』1977年)
関さんがリファレンスに挙げてくれた曲。「ボーイフレンド」はこの曲にインスパイアされたのではと思います。

●Sunday in New York / Joanie Sommers(『Come Alive!』1965年)
古き良き曲とうた。今作の関さんサイドはこのようなジャズ・テイストの雰囲気をまとっているのではと思います。

●On My Soul / Bruno Mars(『The Romantic』2026年)
テーマがディスコなので新しい音楽からも刺激を受けています。「タイニー・ブルー」の着想はこんなイメージでした。

●The Hurt / Kalapana(『Kalapana』1975年)
ハワイアンAORのナチュラルなグルーヴもアルバム全体のリファレンスでした。「マーマレイド・タイム」「Spoonful Love (スプーン一杯の愛)」のギターに片鱗がみられると思います。

●That's Alright (I Don't Mind It) / Alzo(『Alzo』1972年)
「Spoonful Love (スプーン一杯の愛)」はアコースティックな音色でグルーヴィを目指しました。

●Circle / Swan Dive(『Circle』1998年)
普遍的でキャッチーでグルーヴィなものをというコンセプトのお手本に。

⚫︎I Do My Best To Impress / Linda Lewis(「Not a Little Girl Anymore」1975年)
落ち着いた曲調ながらグルーヴを強く感じるリズムアレンジ、複雑だけどポップに感じるエレピの進行、そこがヒントになりました。

●Clouds Across The Moon / RAH Band(『Mystery』1985年)
言わずもがな、「恋する惑星」はこの曲へのオマージュ。 レトロなシンセの音に耳を持っていかれますが、実はとても美しいメロディで、R&Bテイストのアレンジにしても映える曲です。私がラー・バンドを好きな1番の理由は、リチャード・アンソニー・ヒューソンの上品な曲そのものにあります。




●リリースに合わせたレコ発ライブが確定されていますが、是非詳しくご紹介下さい。 

◎青野:矢舟テツローさんの出演が追加決定しました! 
関さんサイド、洞澤さんサイドを二部構成でお届けします。
このお二人が一度にライブに参加される機会は滅多にないと思います。
新曲はすべて披露する予定なのでどうぞお楽しみに。

 「青野りえ『TOKYO step』リリース・パーティ」

【日時】2026年10月17日(土)
OPEN 12:00/START 12:30(終演予定 14:30)

【会場】渋谷gee-ge
東京都渋谷区宇田川町3-10
いちごフィエスタ渋谷4F
TEL 03-6416-3468

【料金】前売¥3,800 (+1drink)/当日¥4,300 (+1drink) 

【出演】青野りえ(Vo.)/関美彦(G.)/洞澤徹(G.)/伊賀航(B.)/
北山ゆう子(Dr.)/長谷泰宏(Pf.)/矢舟テツロー(ゲストVo.)

【ご予約】こちらから>https://tiget.net/events/520919


●では最後に本作『TOKYO stepのアピールをお願いします。

◎青野:今作は、音楽を聴いて心躍るような、ご機嫌な気分になって欲しい!という想いを込めて作りました。
サウンド・プロデュースには、関美彦さんと洞澤徹さんの両チームを迎え、さらにボーナス・トラックとして、近藤健太郎の作曲による「フィナーレを待ちながら」を収録した盛りだくさんのデラックスな内容です。

そして今回は、矢舟テツローさんをゲスト・ボーカルにお迎えした曲「空と海のサンバ(feat.矢舟テツロー)」も要注目です。
矢舟さんは小西康陽さんのプロデュースでアルバムをリリースされたり、野宮真貴さんのサポートでも近年ご活躍中のピアニスト&シンガー・ソングライターですが、低音で独特の小粋な雰囲気を纏う矢舟さんのボーカルが加わったことで、目指していたサヴァンナ・バンドの雰囲気に近づけたのではないかと思っています。

古き良きシティ・ポップやAORへのオマージュはそのままに、よりグルーヴィに、ノスタルジーと宇宙と、現代の東京を行き来するようなロマンチックな楽曲をお楽しみください!

※通販【青野りえのサインCD屋さん】>こちらをクリック





【青野りえ★プロフィール】
都会的なメロウ感と、無垢な透明感を併せ持つ歌声のシンガー。富山県出身。 1996年、亀渕友香率いるゴスペル・グループ“VOJA”のメンバーとしてデビュー。沖井礼二(TWEEDEES/ex.Cymbals)のソロ・プロジェクト“FROG”にゲスト・ヴォーカルとして参加。
またコナミ「pop'n music」「beatmania」等のゲーム音楽での歌唱や、資生堂、ユニクロの CMナレーション等、様々なレコーディング、ライヴ、TV、CM で活動している。
2017年、関美彦プロデュースによる1stアルバム『PASTORAL』(ヴィヴィド・サウンド)をリリース。
2022年、同じく関美彦プロデュースによる2ndアルバム『Rain or Shine』(FLY HIGH RECORDS)をリリースし、ジャパニーズAOR/シティ・ポップ・ファンの間で話題に。
さらに2021年にリリースした配信シングル「Never Can Say Goodbye」(洞澤徹プロデュース)が話題となり、2023年11月、3rdアルバム『TOKYO magic』 をFLY HIGH RECORDSからリリース。
2025年6月6日、洞澤徹プロデュースによるデジタル・シングル「恋する惑星」をリリース。
2025年12月5日、藍田理緒のデジタル・シングル「青いカケラ」(作詞:青野りえ/作曲:近藤健太郎)リリース。
そして2026年5月4日、デジタル・シングル「フィナーレを待ちながら」リリース。
2026年10月21日、待望の4thアルバム『TOKYO step』リリース。関美彦と洞澤徹がそれぞれプロデュースし、先行シングル「恋する惑星」「フィナーレを待ちながら」を収録した自信作。
現在、K-MIX(静岡エフエム)の音楽番組「ようこそ夢街名曲堂へ!」(土曜21:00〜)にレギュラー出演中。 

青野りえOfficial Web Site: http://aonorie.com
X(旧Twitter): @rie_aono
FLY HIGH RECORDS Official Web Site:https://flyhighrecords.hatenablog.com/

(インタビュー設問作成、本編テキスト:ウチタカヒデ)


2026年9月5日土曜日

emily hashimoto:『楓-kaede-/だいすき』

"おしゃれフリークによる秋色ソング"

 今月後半に野宮真貴や川本真琴らビッグゲストを招いた「おしゃれフリーク・フェス2026」を開催するシンガー・ソングライター(以降SSW)のemily hashimotoが、2023年に配信していたシングル「楓-kaede-」を7インチ・アナログ盤(unchantable recoerds / UCT067)で9月9日にリリースする。
 
 カップリングには1986年末にレコード・デビューし、瞬く間にカリスマSSWとなった岡村靖幸の代表曲「だいすき」(1988年)のカバーを収録している。2024年の『愛の雨粒/流れ星ビバップ』に続き、今回のリリースもArgyleやFrancis、最近ではTOYONOの7インチを手掛けたグルーヴあんちゃんが主催するunchantable recoerdsからである。
 本作も両曲共にプロデュースとアレンジはカンバスの小川タカシが担当しており、ギターとプログラミングなど全てのバックトラックも一人でレコーディングされている。また前作同様に配信シングルからジャケットデザインは、Special Favorite Musicの『World’s Magic』(2017年)のジャケットの他、多くの書籍装丁で知られるイラストレーターの高橋由季とデザイナーのカヤヒロヤのデザインユニット”コニコ”が手掛けて、emilyのリリース作品をデザイン面で支えてる。


 emilyのプロフィールにも触れるが、神奈川県小田原市出身で渋谷系音楽や60ʻsファッションをこよなく愛すシンガーソングライターで、作詞家・作曲家・コラムニストとしても活動している。YAMAHAのダウンロードサイトで1位を獲得したことをきっかけに注目を浴び、2007年にYAMAHAからメジャー・デビューする。
 現在は企業CMやアイドルへの楽曲提供もおこなっており、自身がパーソナリティを務めるラジオ番組「EmiLyのおしゃれフリーク」が全国36局のコミュニティFMで放送中だ。
 なお9月21日(月・祝)には、同番組の放送200回を記念した音楽フェス「おしゃれフリーク・フェス2026」を、出身地小田原市の小田原三の丸ホールにて開催する。ゲストには1982年ポータブル・ロックでデビューし、1990年にはピチカート・ファイヴに加入して元祖“渋谷系の女王”として一躍スタートとなった野宮真貴、1996年に岡村靖幸のプロデュースによるシングル『愛の才能』でメジャー・デビューした川本真琴などビッグなアーティスト達が参加する注目フェスとなっているので、興味を持った読者は是非参加して欲しい。
※詳細は記事文末を参照。


 
楓 - kaede - / emily Hashimoto

 ここでは筆者による収録曲の詳細解説をしていく。 タイトル曲「楓-kaede-」は、emilyのソングライティングによる、恋人との別れと旅立ちをテーマにしたロスト・ラヴソングで、タイトルになっている落葉樹の楓(かえで)の葉のように秋に色づき、移ろう季節の情景と心情をシンクロさせて描いている。
 アレンジ的にはパターンの異なるエレキギターとアコースティックギターのカッティングを左右のチャンネルに分け、プログラミングされたエレキベースとドラムのしなやかなリズム・トラックに、シンセサイザーのパッドやエレピのオブリガードが乗るというシンプルながら洗練されたサウンドである。前文の通り、全ての演奏とプログラミングは小川タカシが一人多重録音でレコーディングしており、職人的なセミアコ系トーンのギターソロ、コーラスまでマルチにこなして、主役のemilyのボーカルを引き立てている。
 そしてemilyのソングライティングの素晴らしさは前作「愛の雨粒」から感じていたが、ヴァースのAメロからBメロを経てサビへと向かうフックが巧みで、さすが名門YAMAHA主宰のコンテストでトップを獲得した逸材だと納得してしまう。特徴のあるスウィートな声質も強い武器であり、この声質を活かして計算されたソングライティングをしているのはさすがである。筆者は彼女のオリジナル・ソングをもっと聴きたいので、来るべきアルバム・リリースには注目している。 
 
だいすき / emily Hashimoto

 カップリグは前文の通り、岡村靖幸の1988年11月に発表された8thシングル「だいすき」(1988年)のカバーである。ピュアなラヴソングの歌詞を持ち、オリジナルのシングル・ヴァージョンは、独特なシンコペーションが効いた16ビート・シャッフルと呼べるファンキーなポップスで、リリース当時は岡村が敬愛していたプリンスの「Raspberry Beret」(『Around The World In A Day』収録Prince And The Revolution名義/1985年)のオマージュという批評があったと記憶する。
 コード進行など似ている雰囲気はあるが、グルーヴ感はむしろザ・ドゥービー・ブラザーズの「What a Fool Believes」(1978年)、そのオマージュ元となっているニール・セダカの「Love Will Keep Us Together」(1973年)や同曲をカバーし全米1位にしたキャプテン&テニールのヴァージョンに近い。 ドゥービーの「What a Fool Believes」の作者でメンバーのマイケル・マクドナルドと共作者でシンガーソングライターのケニー・ロギンスが曲作りの時点で意識していたかは不明だが、この曲のレコーディング時プロデューサーのテッド・テンプルマン(元Harpers Bizarre)はシンコペーションにかなり拘り、リズムセクションのセッションにかなり時間を費やしたという。ハーパスの前進バンドThe Tikis時代はドラマーだったテッド自身もドラムをプレイし、メンバーのキース・ヌードセンとのダブル・ドラムで編み出した完成形で「Love Will Keep Us Together」のグルーヴをオマージュしたのではないかと考える。西海岸の荒っぽいバイカー上がりのバンドが、東海岸のブリル・ビルディングを源流とする洗練されたポップスからアイディアを得るというコペルニクス的転回は、ワーナー・レコード社長でバーバンク・サウンドを作り上げたレニー・ワロンカーの下で修業したテッドらしいエピソードである。この「What a Fool Believes」の魔力については、そのルーツと影響力を筆者が選曲したプレイリストのサブスクをつけるので聴いていただきたい。

 考察が長くなったが、ここでのカバー・ヴァージョンは岡本のオリジナルのグルーヴを踏襲しつつ、小川による引き算のアレンジでプリティなガールポップスとして生まれ変わっている。例のシンコペーションが効いたメインのキーボードの刻みにシンセサイザーのパッドを重ねて絶妙なサウンドを構築し、左チャンネルでは彼が敬愛するデイヴィッド・T・ウォーカーばりのギター・フレーズを織り込み、曲に温かみを与えているのが新鮮だ。
 emilyのボーカルは岡村のオリジナルへの愛が溢れているのが伺えるほどで、シンコペーションしたメジャーキーのAメロから、”ねえ 三週間~”のディミニッシュ・コードでうっちゃるブリッジを経て、甘いサビへの向かうという感情の起伏を巧みに表現している。ビブラートのつけ方も決して暑くなく、ヤングソウル的な爽快さとプリティさで“ガールズビブラート”と名付けよう。とにかく名カバーであることは間違いない。

WebVANDA管理人選★
”What a fool believes”的グルーヴプレイリスト


本作も数量限定の7インチ・シングルなので、本詳細レビューを読んで興味を持った弊社読者や音楽ファンは、直ぐにリンク先のレコード・ショップで予約して確実に入手しよう。

◎ディスクユニオン予約:こちらをクリック





 「おしゃれフリーク・フェス2026」

●日程:2026年9月21日(月・祝)
●時間:13:50 開場/14:00 DJスタート/14:30 開演

●会場:小田原三の丸ホール小ホール
(神奈川県小田原市本町1丁目7-50)

●チケット:<WEBと三の丸ホール窓口で販売>
S席(前3列指定)10,000円(お土産付き)/
A席(自由席)6,500円WEB(24時間受付)
窓口(10:00~20:00/第1・3月曜休※祝日の場合翌平日休)

●出演:野宮真貴/川本真琴/YMCK/
emily hashimoto

(DJ)グルーヴあんちゃん/
(オープニングアクト)Nico・HALu・JUNON

emily hashimotoオフィシャル:こちらをクリック

(テキスト:ウチタカヒデ)

2026年7月1日水曜日

イエスハッピー!/吉田哲人『I Saw The Light』吉田哲人インタビュー

”アイドル業界屈指の名士作のエールソング”

 2人組アイドルグループのイエスハッピー!が、デビュー15周年となるアニバーサリー・イヤーの第一弾として、作編曲家でシンガー・ソングライターの吉田哲人の書き下ろしの新曲を短冊CDとして7月7日にリリース(NARISU RECORDS/NRSD-3171)する。

 本作はイエスハッピー!と吉田哲人の連名で両A面でのリリースとなり、それぞれのボーカル・ヴァージョンが収録されている。
 吉田の作編曲にイエスハッピー!の2名が作詞したこの友愛に満ちた曲は、イントロのソフトロック風コーラスから高揚感のあるポップスで、各パートの随所に吉田らしいエッセンスがちりばめられていて完成度が高く聴き飽きない。吉田は全体のプログラミングに各種キーボード、ベース(リッケン4003s)を生演奏している他、ブラス・アレンジも担当している。ゲストとしてアコースティック・ピアノの演奏と多彩なストリングス・アレンジは、吉田の盟友であるユメトコスメの長谷泰宏が参加している。
 また坂村健次によるジャケットの両面のデザインは、嘗て小沢健二とスチャダラパーのコラボレーションでヒットした『今夜はブギー・バック』(1994年)のそれをオマージュしていて、マニア心をくすぐった。


イエスハッピー!
(左からこころ、さやか)

 イエスハッピー!のプロフィールに触れるが、彼女達はさやかとこころの女性2名で結成されたアイドルグループである。共に島根県松江市出身で、中学、高校の同級生だったが、ハロー!プロジェクト・ファンという共通の趣味を知ってから親しくなったという。高校卒業後アイドルを目指していたこころは、数々のオーディションを受け、関西最大都市の大阪にも足を運んでおり、大学進学で同地に移住していたさやかの住まいに通って最終的に同居するようになる。2008年頃にはイエスハッピー!の前進となるユニットを2人で組み、ショッピングモールや地域のイベントスペースなどフリーステージを中心に、アイドルソングやアニソンをカバーしてパフォーマンス活動をしていた。
 その後さやかの就活がきっかけで、芸能事務所アップフロント関西支社と接点を得て、同社が経営するハロー!プロジェクトのオフィシャル・ショップ大阪心斎橋店に揃って勤務し、2011年にはイエスハッピー!として同事務所に所属して正式にグループ活動を開始した。
 2016年には同事務所を退社し、フリーを経て独立事務所 ”ミケネコカンパニー” を設立し現在に至る。彼女達はこれまでに4枚のアルバムと2枚のミニアルバム、シングルは6枚リリースしており、関西を拠点に日本全国で精力的にライブ活動を繰り広げてファン達を魅了している。


吉田哲人

 続いて吉田哲人だが、98年にThe Orangersとしてデビュー後、様々なコンピレーションへの楽曲提供やリミキサーとして参加し、2001年には小西康陽氏が主宰するReadymade Entertainment所属のマニピュレーターとして多くのプロダクションに関わっていく。鈴木亜美やきゃりーぱみゅぱみゅといったメジャー・アイドルから、竹達彩奈やNegicco、チームしゃちほこ、私立恵比寿中学、WHY@DOLL(ホワイドール)など新鋭の若手アイドルの楽曲に関わり、彼女達の熱心なファンの間でもよく知られた存在なのだ。2023年11月22日には、シンガー・ソングライターとして記念すべきファースト・ソロアルバム『The Summing Up』と『The World Won’t Listen』をリリースして高い評価を得ていた。翌2024年7月7日には芸大時代の先輩で、サウンドクリエイターとして知られる田中友直とのエレクトロニック・デュオ”BABY JOHNSONZ”として、『BABY JOHNSONZ e.p.』を短冊CDでリリースしてテクノ・ファンに注目されていた。
 弊サイトでは、なりすレコード代表の平澤直孝氏(ムーンライダーズ関係コンピレーションアルバムのコーディネートでも知られる)の紹介により、2023年9月から1年に渡り『わたくしのオフコース』と題した連載コラムを寄稿して読者にも好評だった。

関連記事
★吉田哲人:『The Summing Up』『The World Won’t Listen』リリース・インタビュー前編>記事はこちら
★吉田哲人:『The Summing Up』『The World Won’t Listen』リリース・インタビュー後編>記事はこちら
★わたくしのオフコース -1->記事はこちら

 ここからはそんな吉田へのインタビューと、本作『I Saw The Light』の曲作りやレコーディング中のイメージ作りで聴いていたプレイリストをお送りする。


特別インタビュー★ゲスト~吉田哲人 
”人生いろいろありますが、
それでも前を向いて生きてゆくのだという
決意の曲(歌詞)になっている”

●今回は久しぶりのリリースでおめでとうございます。
  まずはこれまで2年程の期間の活動状況を聞かせて下さい。
   2023年11月のソロアルバム『The Summing Up』と『The World Won’t Listen』の2枚同時リリースから、翌年7月の田中友直氏とのユニット”BABY JOHNSONZ”のシングル・リリースと多忙な時期を経て、実に2年振りとなりますよね? 


吉田哲人(以下吉田):ありがとうございます。
実は、いくつかを除いて仕事を断っていた状況でした。

BABY JOHNSONZのシングル発売後もアルバム制作を進めていたのですが、その年の暮れ、田中友直さんにしばらく楽曲制作が出来なさそうであることを伝えて以来、作業が止まっている状況です。

『BABY JOHNSONZ e.p.』

というのも、ウチさんや僕のXをフォローしてくださっている方はご存知かもしれませんが、数年前に音楽出版契約のトラブルに見舞われまして、相手の不誠実な対応に我慢の限界に達してしまって半ば引退したような状態になってしまいました。あとで情報は正しく修正されたものの、ショックのあまり、楽曲提供を決めた僕が悪いのか?とまで思い詰めてしまい、その頃のXの投稿はネガティヴになりがちでした。まあ、色々と自分自身のリリースが続いたことで燃え尽き症候群のようになっていたのかもしれませんが、とにかくいろいろと重なってしまって、もう音楽制作はウンザリだ!と。

そうは言っても音楽を捨てることはできずに、アウトプットできないならインプットするいい機会かなと、楽理の勉強を始めたり、新たにベースを買ってみたりと、悲嘆に暮れて過ごすよりもできるだけ前向きにと努力していた日々でした。そんな中、唯一聴いて(聴けて)いたのは幼少期から聞いていたThe Beatles(及びソロ)でした。 


 ●なるほど、本作に至るまで紆余曲折あったのですね。
今回2人組女性アイドルグループ、イエスハッピー!(以降イエハピ)さんとコラボレーションすることになったのは、どういう経緯だったんでしょうか? 
彼女達は今年デビュー15周年ということで、これまでにも楽曲提供など交流などはあったのでしょうか? 


吉田:今回の楽曲は先ほどの「いくつか」にあたるのですが、以前から依頼を受けていたので、自分のメンタルはどうあれ、引き受けていたからには約束をきちんと果たさなければと。ただ、実際作ってみたら楽しくて、いい曲が出来たことで自信も回復したので、イエハピさんには感謝しかないですね。

僕が初めてイエハピを見たのは、2019年に大阪の味園ユニバースで開催された「Mezzo Forte in 味園」だったかな、2回目は横須賀の短冊CDフェス。そこで楽曲依頼をされました。その後も東京でのイエハピのイベントに行ったり、僕のリリース・イベントにも出演してもらったりと交流が続き、今回、デビュー15周年という記念すべきタイミングで改めて声をかけてもらったという流れです。

イエスハッピー!
(左からさやか、こころ)

●イエハピさんからの熱心なオファーによって、吉田さんの音楽活動再開にも繋がったということで安心しました。
では本作『I Saw The Light』のテーマ、コンセプトを教えて下さい。


吉田:イエハピさんからは「友情。辞めていった仲間にエールを送るような。」というテーマと聞きました。歌詞については何度かやり取りしながら、ほんの少しだけ僕も手伝い、タイトルも僕が決めました。 

僕へのリファレンスとして、WHY@DOLL(ほわどる)に提供した「ケ・セラ・セラ」「ふたりで生きてゆければ」を挙げてくれました。不思議なもので、上記の2曲は発売当時、正直ほわどるファンの方からの反応がちょっと薄いように感じていましたが、その後、別のアイドルの方から上記の2曲が好きだと言っていただけたことも裏付けとなり、それらのエッセンスを含みつつ、イエハピさんやそのファンの方、また、イエハピさんのアイドル仲間の方にも気に入ってもらえるような曲を目指しました。 


●本作のソングライティングやアレンジのアイディア、レコーディング時のエピソードなどはありますか? 


吉田:自身を見つめ直していた時期の依頼だったため、それまでの僕の楽曲制作とは違う考え方で、歌謡曲のフォーマットは守りつつも自分のアイディアに忠実に、転調してもそのまま走り切り(今までは部分転調くらいにとどめ、歌いやすい/作詞し易い曲になるようにしていた)、勢いのまま曲を完成させました。あと、今までは頭の中にある音(アイディア)を全部一曲に入れて音色の多い作品になりがちでしたが、今回はデモからボーカル・レコーディングまで諸事情で9ヶ月ほど空いたことで距離をとって楽曲を見つめ直し、不必要なものを削ぎ落として、必要最低限の音数で仕上げられました。 

今回の僕のヴォーカルは、デモ用のガイド・ヴォーカルそのまま使っています。歌い直した方がいいと思う箇所やタイミングを修正した方がいいと思う箇所もないわけではないのですが、歌詞が完成してすぐ録音した勢いが真空パックされていて、そこがとても気に入ったのでそのまま採用しました。仮に、もう一回歌い直してきっちり完成させればピッチやタイミングの精度は上がるかもしれませんが、結果、平坦な表現になりそうなので避けたのもありますね。 

レコーディング時のエピソードと言えば、4月下旬に行ったボーカル・レコーディングのときに、「この曲、めっちゃ気に入っているからいつか僕もセルフ・カヴァー出していい?」と話したら、「いつでも大丈夫です!何なら先に出していただいても大丈夫です!」と言われたので「いやいや、先に出すのはさすがに仁義に反するよ。どんなに僕が早く出すとしても、その場合は同時リリースだよ。」と話したこともあり、レコーディング終了後、どういうアプローチがあるかをぼんやり考えていたところに短冊CDの日のことを思い出し、イエハピさんとなりすレコードに連絡を取って急いで諸々作業し完成させました。

それと、先ほど話したウンザリしていた時期にRickenbacker 4003s(ベース)を買ったが、今回は音数少ないアレンジに仕上げるため、普段なら入れていたであろうギターを入れない代わりにそのベースを弾きました。ベースのレコーディングは短冊CDを出すと決めてから録音し、それで完成となりました。


●本作のソングライティングやアレンジのイメージ作りで聴いていた楽曲のプレイリストをお願いします。

『I Saw The Light』吉田哲人プレイリスト 

吉田:今回のプレイリストはビートルズ関連が大半な上、明確に影響を受けた/参考にしたという曲が見当たらないのですけれども、これらを昇華して今回の曲ができたのだとざっくり捉えてもらえれば、というリストになってます。別の言い方をすれば、僕は4歳(ジョン・レノンが亡くなる年の夏休み)からビートルズを聴いており、それらが血肉となっているので、今回の曲を自己分析してみたら、この辺りの影響が出ているのだろうと思われる曲が中心のリスト、とも言えます。

オリジナル・ミックスよりも、ここ近年のリ・ミックスの方がアレンジが聴きやすいのでそちらを積極的に選んでいます。下記の発売年はオリジナル発売(シングル曲はオリジナル・シングル発売時)年に準じています。 加えて、ビートルズを解説するなんて大胆なことはさすがにできないので、とりとめのない話を少々。

1.Hello, Goodbye - 2015 Mix / The Beatles 
 (『The Beatles 1967 - 1970』/ 1967年)
ポールの手ぐせみたいなコード進行の曲。音楽的な基礎ができる前の幼少期にビートルズをインストールしてしまったので、自分がつくるコード進行に影響がない訳がない。

2.What Is Life / George Harrison(『All Things Must Pass』/ 1970年)
曲もアレンジもいいし、あと歌詞も。

3.Instant Karma! (We All Shine On) - Ultimate Mix / John Lennon
 (『Gimme Some Truth』/ 1970年(2020年))
レコーディングから発売までの過程/コンセプトを考えるとミスタッチを直す時間はなかったと思うがそれも含めて全てカッコいい。どれを良しとするかの、美意識の問題。

4.Jet / Paul McCartney & Wings(『Band On The Run』/ 1973年)
Rickenbacker 4003sを買って最初に練習した曲。

5.Helter Skelter - 2018 Mix / The Beatles(『The Beatles』/ 1968年)
ジョンのベースってカッコいいですよね。確か使っているのはFender Bass VIなのでちょっとニュアンスは違うけど、僕もこの曲くらいの勢いでリッケンバッカーを弾いてみた。

6.Happiness Is A Warm Gun - 2018 Mix / The Beatles
 (『The Beatles』/ 1968年)
コード(楽曲)デザインというものは結局、作った本人が良しとすればそれで良しな訳で。戻らずに展開しっぱなしのこの曲の構造は素晴らしすぎる、と改めて。

7.One Love In My Lifetime - Single Version / Diana Ross
 (『Diana Ross』/ 1976年)
DJする時によくかける曲。ユメトコスメ長谷くんにストリングス・アレンジをお願いする際に頭の中で鳴ってる(=参考にして欲しい)曲として伝えました。

8.Remember - Ultimate Mix / John Lennon(『Plastic Ono Band 』/ 1970年)
ジョンのピアノってカッコいいですよね(既視感)。アレンジで必要な事は何かを教えてくれる曲。

9.I Am The Walrus - 2023 Mix / The Beatles 
 (『The Beatles 1967 - 1970』/ 1967年)
大人になるまで他人がいう変わったコード進行(この曲のみならずビートルズは多いのですが)の曲と気がつかなかった。

10.Baby You're A Rich Man / The Beatles 
 (『Yellow Submarine Songtrack』/ 1967年(1990年))
今回プレイリストを作って思ったのですが、普段ギターを中心にして聴いていない様子ですね…。

11.Sexy Sadie - 2018 Mix / The Beatles(『The Beatles』/ 1968年)
ポールのピアノってカッコいいですよね(既視感)。遠くで聞こえるオルガンは僕もよくやる手法で今回も当然。

12.Penny Lane - Stereo Mix 2017 / The Beatles
 (『The Beatles 1967 - 1970』/ 1967年)
展開してもしれっと元のキーに戻してみたり、新たに旅立ってみたり。
展開しても何とかキーを戻すのは作曲の醍醐味。

13.For No One - 2022 Mix / The Beatles(『Revolver』/ 1966年)
アレンジをする際、割とハープシコードを使うのですがそれはビートルズの影響が大きいと思います。

14.Gimme Some Truth - Ultimate Mix / John Lennon
 (『Imagine』/ 1971年)
この曲、歌詞も重要であるが、ハープシコード、もしくはクラビネットのようなキーボードがうっすら使われており、それがめっちゃ効果的。”真実が欲しい”ですね本当に。

15.I Saw The Light / Todd Rundgren(『Something / Anything?』/ 1972年)
イエハピさんから届いた歌詞を読んだ際、世界観の象徴と思ったものが二つあるのですが、それを表すのにぴったりのタイトルでした。

(収録曲が同一アルバムのジャケットは共通で1枚のみ掲載)


●では最後に本作『I Saw The Light』のピーアールをお願いします。


吉田:イエスハッピー!さんの15周年を記念する楽曲が作れたことを光栄に思っております。人のために曲を作るのは天職であるなと改めて感じることができました。
ストリングス・アレンジをしてくれたユメトコスメ長谷くん曰く「一連の、吉田さんが一筆書きで書いたような曲」であるようですし、イエハピさんからのオファーにあったのもありますが、僕が、僕の曲をリファレンスに今作るとどうなるか、どんな癖があるのか、成長しているのか、否か。それらがよく表れた曲になっていると思います。僕にも金太郎飴ができたのだとすれば、それは喜ばしいことですし、それを分かってもらえるくらい聴いてくれる方がいれば、それは本当に嬉しいことです。

人生いろいろありますが、それでも前を向いて生きてゆくのだという決意の曲(歌詞)になっていると思います。奇しくも、僕は実生活でその決意が必要だったタイミングでこの曲を作りましたので思い入れはひとしおですし、(いつ出るのかは未定ですが)自身の次のアルバムで試してみたかったアイディアのデュエット・ヴァージョン制作もこのCDで実現しています。気に入っていただけたら幸いです。みんなでイエスハッピー!さんの15周年をお祝いしましょうよ! 聴いてね。


イエスハッピー! / 吉田哲人『I Saw The Light』
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吉田哲人プロフィール
作編曲家/SSW。 48歳にして初のアルバム『The Summing Up』アーカイブ集『The World Won’t Listen』を同時発売した遅咲きボーイ。BABY JOHNSONZのメンバーとしても活動。1999年にP-Vineより発売されたコンピ『テクノ歌謡』選曲家チーム8-bitsの1号でもある。作家としての代表作『チームしゃちほこ / いいくらし』『WHY@DOLL / 菫アイオライト』『Sputrip / 光の惑星』『WAY WAVE / SUMMER BREEZE』 等。
INSTAGRAM : @tetsutoyoshida

イエスハッピー!オフィシャルHP:https://yeshappy.jp/
イエスハッピー!X:https://x.com/UFK_YesHappy


(設問作成、本編テキスト:ウチタカヒデ)
















2026年3月15日日曜日

The Pen Friend Club:『Songularity』リリース★インタビュー後編

The Pen Friend Club『Songularity』

リリース★インタビュー後編
(インタビュー前編はこちら)

前列左よりリカ(A,Gt,Cho)、そい(Key,Cho)、西岡利恵(Ba,Cho)
後列左より平川雄一(Gt,Cho)、祥雲貴行(Dr)、中川ユミ(Glo)、Niina(Vo)
大谷英紗子(Sax)は現在海外在住で休団中

“「自分一人では辿り着けない場所に行ける」
という面白さのほうが大きいです。“

●本作『Songularity』の曲作りとレコーディング期間を教えて下さい。また各ソングライターの方を含めて、その期間のエピソードをお聞きしたいです。

◎平川:曲作り自体は2023年頃から断続的に始まっていて、本格的に「アルバムとしてまとめよう」と動き出したのは2024年の後半でした。
ソングライターそれぞれが持ち寄った曲を、何度もアレンジし直し、歌詞を書き換えながら、レコーディングも含めてかなり長い期間じっくり向き合うことになりました。
多くの楽曲では、前々作に続いてミュージシャンのYouth Yamadaに作詞を担当してもらっています。一方で、Niinaの単独曲や彼女がメインで手がけた楽曲は彼女自身が作詞し、リカの曲でも作詞で共作しました。そして前述したように今回、そいも初めてペンクラに楽曲を提供しています。
結果的に、合計5名のソングライターを擁するバンドになりました。『Songularity』の制作を始めてからは、まるで曲が溢れるように次々と生まれていった感覚があります。
あるライブの打ち上げで「曲が増えすぎてどうしようもない」と悲鳴を上げていたところ、音楽家のカンケさんから「じゃあ二枚組にしてしまえばいい」と言われて(笑)。あの一言も、今振り返ると印象深い、この作品の転機となった出来事だと思います。
個人的に特筆すべき点としては、僕と西岡利恵との作曲共作が増えたことです。
 「コード進行とAメロ、サビまではあるけど、Bメロだけ思いつかない」といった場面で西岡利恵に助けを求め、そこから一緒に曲を完成させてもらうことが何度もありました。

◎西岡利恵:『Songularity』 の制作がどんな風に始まったのか記憶があいまいになるくらい長かった気がしてますが、作り始めて曲が増えていく中で20曲2枚組にしようって話になって、いいねー!て盛り上がったものの録り始めるとやっぱり多くて、なかなか進まなくて焦りつつもなんとか録り終えたという感じでした。
曲作りに関しては、今回自作曲の他に平川と4曲、Niinaと2曲共作もさせてもらってます。曲の一部だけを作ったり、もともとあるコード進行に合わせて一部メロディを考えたりとかが多いんですが、自分には思いつけないものがまず基準にあって作っていくというパターンだからこそ思いつくものがあって、これが楽しいんです。

●業界では大先輩のカンケさんからのアドバイスは大きいですね。また作曲面で平川さんは西岡さんとの共作曲が増えたとのことで、初期のレノン=マッカートニーのようですが、パート毎に繋げて1曲に仕上げていくコツはどういったことでしょうか?各々にソングライティングのスタイルがあるので、自然に1曲として仕上げていくのは大変だと思いますね。

◎平川雄一:レノン=マッカートニーのように、というのは光栄ですが(笑)、実際はもっと実務的です。
僕の場合はコードや構造の骨組みを先に作ることが多いのですが、展開部分で行き詰まることがある。そういう時に西岡に渡すと、自分では選ばないメロディの跳躍やリズムの処理が返ってくる。それで一気に曲が立体的に跳ねるんです。
大変さよりも、「自分一人では辿り着けない場所に行ける」という面白さのほうが大きいです。
最終的には、どちらがどこを書いたかよりも、“The Pen Friend Clubの曲として自然かどうか”が基準です。そこさえ揃っていれば、スタイルの違いもむしろ「良さ」になると思っています。

◎西岡利恵:平川との共作の場合、平川が作ったコード進行がまずあることが多いんです。そのコードの雰囲気である程度方向性が示されるのと、たぶんもともと聴いてきた音楽のジャンルや年代に重なる部分もあるので、世界観が大きくズレたりは起こりにくかった気がしてます。


後列左より4人目がリカ(A,Gt,Cho)

◎リカ:今回のアルバムの製作期間の中で私が1番心に残っているのが、前作のレコーディングの為にメンバーのお家に集まった時にNiinaとリーダーがセッションしながら曲を作ったことです。(のちに「Grow」になる曲です。)
残念ながらその場に全員が集まっていたわけではないのですが、メンバーの家族も一緒に呑んだり食べたりしながら温かいカジュアルな空気の中で音楽を作る場に居られたことが、自分の中で知らずに抱いていた憧れや夢見ていたことが思いがけず現実となって目の前に現れたような感覚でとても幸せな時間でした。これまでのバンド活動の中でも、自分の人生の中でも忘れられない時間だと思います。
その日の夜にお風呂の中で"Lily's Smile"というサビのフレーズが頭の中に流れ出して、次の日には私も曲作りを始めていたのがボイスメモに残っていました。その日に感じた気持ちや感覚が消えないように、すぐにでも曲に落とし込みたかったのをよく覚えています。


 
Lily’s Smile (Official MV)

●楽しいレコーディング風景が目に浮かびます。またそんな出来事が自身のソングライティングにも影響されたということですね。リカさんはペンクラに加入されたことがきっかけで、シンガー・ソングライターとして成長できたことは何でしょうか?

◎リカ:自身で曲を作ることも、自分の声や演奏が録音され作品として残ることも、ステージに立つことも、このバンドに加入してから初めて経験する事ばかりなので、自分自身がシンガー・ソングライターという自覚はあまり無いんですが全てにおいて成長させてもらっているのではないかなと思います。
ペンフレンドクラブは私にとっての音楽活動のスタート地点であり、今もなお大切な場所です。

Niina(Vo)

◎Niina:一年以上前のある日、何人かで集まって曲の最初のコードを作り始めた時から、こんなにも早く時間が過ぎたなんて、いまだに信じられません。
あの週末、あの集まりこそが、今こうして胸を張って「完成した」と言える、唯一無二のペンクラ・アルバムへと向かう旅の始まりでした。そしてそれは、私たちバンドメンバー一人ひとりが前へ進むための、確かな原動力でもありました。

もちろん、その道のりは決して平坦ではありませんでした。意見がぶつかり、苛立ち、言い合いになったこともあります。確か、何人かは泣いたはずです。(私もその一人です!)

それでも、そんな混沌の中には、いつもたくさんの笑いがありました。頭の中でクリエイティブな火花が散り、互いのアイデアがぶつかり合うことで、次々と新しい発想が生まれていく。解決策を見つけ、笑える瞬間を見つけ、前に進むためのモチベーションを見つけながら、バンドとしての絆を保ち続ける——それは本当に多くの章からなる旅で、私はそのすべてを心から楽しんでいました。

ひとつ、当時とても辛かった出来事をシェアさせてください。

私は自分で掲げた目標と、それを達成することへのメンバーからの期待に、強いプレッシャーを感じていました。気持ちが追い込まれ、ストレスからやる気を失い、作業を先延ばしにしてしまっていた時期がありました。締め切りが迫る中、スケジュールを守ることで精一杯だったバンドリーダーの平川さんを、限界まで追い込んでしまったと思います。彼も、きっと私と同じか、それ以上に大きなストレスを抱えていたはずです。

私は彼を怒らせてしまい、私自身も感情的になってしまいました。それは、メンバーとの間で経験した中で、最も大きな衝突でした。

それでも私は、その日のうちに立ち直ることができました。
メンバーに囲まれ、支えられていたからこそ、その日、私は自分の役割を最後までやり遂げることができたのです。あの瞬間はとても緊張感があり、繊細でしたが、同時にバンドやメンバー、そしてこの音楽を聴いてくれる人たちへの愛を、強く実感しました。
多くのことを学び、そしてあの出来事があったからこそ、私たちは以前よりもさらに強く結ばれたのだと、今ははっきりと感じています。

●Niinaさんは日本に帰国して6年、ペンクラに加入されてから3年になりますが、幼い頃から15年の長い期間イギリスで生活されていたので、日本に生まれ育って暮らしてきた他のメンバー達とは考え方や感覚的なズレはある筈です。お話を聞いて、そんなカルチャーの違いや期待に対するプレッシャーから立ち直ることができたのも、音楽を通して平川さんをはじめメンバー達と理解し合えたからだと考えだと思います。
本作のレコーディングやこれまでのライブ活動を経て、これからもこのバンドで長く活動していける自信がついたのではないですか?

◎Niina:そうですね、正直、バンド活動以外のところからくるストレスで、続けられるのかと不安になった時期は一時的にありました。でも、そこで一度状況や自分の気持ちを落ち着かせてみると、こんな仲間は一生見つからないなと思ったんです。
ただの音楽好き同士が、たまに集まってバンドをやるという関係ではなくて、これはもしかしたら私だけがそう思っているのかもしれませんが、死ぬまでの友達だと思っている人たちです。
これまで頑張ってきたアルバムや、積み重ねてきたライブの経験も含めて、今のところ、私が東京に住んでいる限りは、みんなと楽しく音楽を演奏して、歌って、作り続けていきたいという気持ちが強いです。

前列左がそい(Key,Cho)

◎そい:今回は1曲、「Merry-Go-Around」を作曲させていただきました。実は大元のメロディ自体はかなり前にできていて、数年前に「The Pen Friend Clubにこんな曲があったらいいな」とイメージして作ったものなんです。平川さんにも一度聴いてもらったのですが、当時制作していたアルバムの方向性とは少し合わず、いったんお蔵入りになっていました。
そこから時間を経て、メンバーの意見も取り入れながら構成を再構築し、今回あらためて形にすることができました。平川さんのアレンジによって世界観がより立体的になり、Niinaの歌が入ったことで、想像以上にドラマティックな楽曲になったと感じています。

●そいさんが作曲された「Merry-Go-Around」が、アレンジによってペンクラ・サウンドに生まれ変わったようですね。以前からご自身はソロのシンガー・ソングライターとして活動されていますが、ペンクラに加入して7年近くになります。ソロ作品にフィードバックされて得られたものはなんでしょうか?

◎そい:ペンクラに加入してから、コーラスワークの魅力を強く感じるようになり、自分のソロ楽曲にも積極的に取り入れるようになりました。
そして、これまでしっとりとした楽曲が中心だったソロ活動にも、ペンクラから学んだノリよく盛り上がれる曲など新しい方向性が加わり、表現の幅が広がったと感じています。



“『Songularity』は、
今のThe Pen Friend Clubがどこに立っていて、
どこへ行こうとしているのかを、
そのまま音にしたアルバム”

●では各メンバーの方からお聞きしたエピソードの中で、完成してから振り返って、本作にとって重要だったと感じたものを教えて下さい。

◎平川:『Songularity』は、今のThe Pen Friend Clubがどこに立っていて、どこへ行こうとしているのかを、そのまま音にしたアルバムです。
全20曲、頭から最後まで通して聴いてもらいたいです。今の時代とは逆行してるとは思いますが、それでもアルバムという形を信じたいと思っています。


◎西岡利恵:曲数が多いことそのものも『Songularity』の重要な色になってる気がしてるんですが、さらに今回5人のメンバーが作曲していることもあって、たくさんの曲の中でも色んな世界観に切り替わっていく感じがおもしろいなと思っています。


◎リカ:じっくりと製作に時間をかけたこと、そして今まで以上に楽曲に対する自分たちの考えや意見をみんなで伝え合えたような気がするので、そのことは作品全体の仕上がりにとても大きく影響しているのではないかなと思います。
時間をかける事に私はメリットもデメリットも感じましたが、少しずつ濃さを重ねながら、時間に余白も生まれ、その間に新しい視点やアイデアも多く生まれたような気もします。


◎Niina:アルバム制作の過程で私たち全員が経験した、あの"感情ジェットコースター"のような日々が、いくつかの曲を完成させるまでの道のりを形作っていったのだと、私は強く感じています。

個人的には、「無理に強がらなくてもいい」ということに気づきました。
できるだけ多くの曲を一人で、誰の力も借りずに作り上げたいという自分のプライドよりも、グループとして一つになり、それぞれの強みやアイデアを持ち寄って素晴らしい曲を生み出すことの方が絶対大切だと気づきました。
お互いのベストを引き出すためのチームワーク、つながり、そして支え合い。
それこそが、私にとってこのアルバム制作において欠かせない、とても大切な要素でした。


◎そい:これまでは、どちらかというと平川さんの色が強いバンドという印象があったかもしれません。でも今回は、メンバーそれぞれの個性を活かしながら楽曲を制作し、意見を交わし合ってアルバムを完成させることができました。それはバンドにとって大きな変化だったと思います。
私は作詞には関わっていませんが、メンバーそれぞれが“自分たちが歌う言葉”に真剣に向き合っていたのも印象的でした。時間をかけて丁寧に作ったからこそ、聴くほどに味わいが深まる作品になったのではないかと感じています。


左より平川雄一(Gt,Cho)、祥雲貴行(Dr)、西岡利恵(Ba,Cho)、
リカ(A,Gt,Cho)、大谷英紗子(Sax)、Niina(Vo)、中川ユミ(Glo)

●本作の曲作りやアレンジ、レコーディングのイメージ作りで聴いていた楽曲を
メンバー全員で合計20曲程を選曲下さい。

『Songularity』着想曲プレイリスト

Back In The U.S.S.R./The Beatles(『The Beatles』1968年)

Now And Then/The Beatles(『Now And Then - Single』2023年)

A Day In The Life/The Beatles
(『Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band』1967年)

Surf’s Up/The Beach Boys(『Surf’s Up』1971年)

That Same Song/The Beach Boys(『15 Big Ones』1976年)

Summer Means New Love/The Beach Boys
(『Summer Days (And Summer Nights!!)』1965年)

Isn’t She Lovely/Stevie Wonder
(『Songs in the Key of Life』1976年)

You Are the Sunshine of My Life - Single Version With Horns
/ Stevie Wonder (『Original Musiquarium』 1982年)

Eden Rock/The Fifth Avenue Band
(『The Fifth Avenue Band』1969年)

Eyes Of The World/Grateful Dead(『Wake of the Flood』1973年)

Paradise/Norah Jones (『Visions』 2024年)

Underdressed at the Symphony
/Faye Webster(『Underdressed at the Symphony』2024年)

Feeling Sad Tonight/Carole King (『Rhymes & Reasons』 1972年)

A Summer Song/Chad & Jeremy(『Yesterday’s Gone』1964年)

Let No Man Steal Your Thyme/Pentangle(『Pentangle』1968年)

Grand Hotel/Procol Harum(『Grand Hotel』1973年)

Lost Stars/Keira Knightley
(『Begin Again (Music From and Inspired
By the Original Motion Picture)』2014年)

SANDY/Ronny & The Daytonas(『SANDY』1964年)

Band On The Run/Paul McCartney & Wings
(『Band On The Run』1973年)

Do It Again/The Beach Boys(『20/20』1969年)



●リリースに合わせたライブの予定が判明していればお知らせ下さい。

◎平川:リリース後は、4月から6月にかけてレコ発ツアーを予定しています。

・4月25日(土)
  東京・渋谷LOFT HEAVEN
・5月2日(土)
  大阪・天満橋RAW TRACKS
・6月20日(土)
  名古屋・鶴舞KDハポン

【詳細・予約】
アルバムの楽曲を中心に、今のバンドの形をそのままライブで伝えられたらと思っています。


●最後にメンバー皆さんから本作『Songularity』のアピールをお願いします。

◎平川:現メンバーのうち5名が作曲を担当しており、演奏面でも以前とは違う一面も覗かせる、メンバーそれぞれの個性がはっきりと表れた、非常にバラエティに富んだ曲が揃っています。初めてThe Pen Friend Clubを聴く方にも、今のバンドの幅や奥行きを自然に感じてもらえる作品だと思います。


◎西岡利恵:メンバーそれぞれの持ち味とか、バンドとしての変化がこれまで以上に感じられるアルバムなってると思います。最後まで聴いてみてもらえたら嬉しいです。


◎リカ:ボリュームたっぷりなので聴き終わると満足感もたっぷりですが、不思議とまた最初からリピートしてみようかなとも思える中毒性もあるアルバムだな、なんて思います。
聴いていると色々な国や星々を旅しているような気持ちに私はなります。
みなさんにも「Songularity」の世界をゆったりと何度でも楽しんでもらえたらいいなと思います。


◎Niina:今までのペンクラとはまったく違う、作曲したメンバーそれぞれの個性がはっきりと表れた、最高にクセになるアルバムだと思います!
一聴して「この曲めっちゃいい!」という曲もあり、何度も聴いて、しっかり聴いて、、気づいたらすごく好きになっている曲もある。
そのどちらも、このアルバムならではの楽しみ方だと思っています!


◎そい:個人的な話になりますが、アルバム制作期間中に第一子を授かりました。お腹に命が芽生えたなかでの制作でしたが、メンバーに支えられながら無事にレコーディングを終えることができました。そんな背景もあって、私にとっては特別な思い入れのある作品になっています。ぜひたくさん聴いて、それぞれの楽しみ方で味わっていただけたら嬉しいです。


◎祥雲貴行:
2枚組のアルバムというと、自分が高校生くらいのときには今よりも聴くことが多かった記憶があります。
まず曲がたくさん入っててうれしい~という無邪気な感想があって、キャッチーな1枚目と渋めな2枚目というのがありがちで、最初は1枚目の方が好きだけど聴き込んでいくと2枚目の方が好きになっていくパターン。
「Songularity」への印象もそれに似ていて、MDプレーヤーでJ-POPをヘビロテしてた当時の、今思うと自分の原点のような気持ちを思い出しました。

「Songularity」はそれぞれの曲に作曲者の個性がよく出ていながら自然な全体の調和もあるので、通しで聴くとより深い満足感があると思います。
メンバーたちの少しずつ異なる好みや生い立ちが互いにインスピレーションを与えていて、そういうところから生まれる意外性がアルバム全体の奥行きにつながっているのかなと思いました。
またそんな意外性から、ドラムのアレンジを考えレコーディングを進める過程では予想外に苦労したり楽しめたりする瞬間が多く得られました。

ときどき思わぬ角度から不意打ちをくらうような新鮮さ、バンドの中心部にある古典へのリスペクト、意欲、未来への期待。
アルバムを聴く時間を通じてそういったもの(あるいはまったく別のもの)を感じてもらえたら幸いです。


◎中川ユミ:今回の新しいアルバムは2枚組で20曲あります。毎回再生する度に(ちょっと多いな…)と思うのですが、いつの間にか2週目3週目といつまでも聴いていたりします。本当に飽きがこないので、ぜひいろいろな方に手に取ってもらいたいと思います。


◎大谷英紗子:メンバーの想いが今まで以上に詰まったアルバムになっているのではと思います。全曲オリジナル、本当にすごいアルバムです。私はレコーディングしながら、いちファンとして楽しんだ感覚でした。是非お気に入りの曲を見つけて色んな場面で聴いていただけたら嬉しいです。


(設問作成編集、本編テキスト:ウチタカヒデ)