2009年9月24日木曜日

☆Beatles:『The Beatles In Mono』(EMI Music Japan/TOCP71043-53)☆Beatles:『The Beatles Box』(EMI Music Japan/TOCP71021-36)

 999日、遂にその待望の日はやってきた。我らがビートルズの最新リマスター盤でステレオ16枚のボックス(CDはバラ売りもあり。DVD付。ただしDVDの内容はイマイチ)と、待望のモノラル13枚のボックス(初回限定。ボックスのみ)、この二つが一気にリリースされたのだ。定価では75600円と高額だが、今回のリイシューは買わないと一生後悔する。特に初CD化の初回限定モノラルボックスは何としても入手すべき。
1980年代にもLPで限定リイシューされたことがあったが、それもすぐにプレミア盤となっており、モノラル盤は昔から人気があった。モノラル盤が作られたのは『The Beatles』(正確にはにせモノの『Yellow Submarine』まで)だが、当時はステレオとモノラルが別々にミキシングされていたので細かい違いが多く、全世界のビートルズ・ファンは血眼になって捜してきた。それがこの金額で揃ってしまうのだから、高いというなかれ。アナログで揃えようとすればモノの『The Beatles』は、その1枚だけでボックスの値段に行ってしまうだろう。
 ビートルズの凄さを改めて思ったのは、NHKの定時ニュースでこのリイシューを取り上げたことだ。それも実際に旧版と聴き比べたり、たっぷりと時間をとって紹介していた。(私がいつもビーチボーイズのリイシューでお世話になっているEMIの阿佐美さんが出ていたのにはビックリ)なんとももう100万枚出荷しているという。解散後40年も経って、リイシューが100万枚なんてそんなミュージシャンが今後、現れるだろうか。間違いなく否であり、ビートルズがワン&オンリーであることを改めて思い知った。
 今回のリマスターは音が素晴らしい。クリアーで、リズム隊もよく表に出ている。今までのイメージを覆してしまうようなリマスターもあるが、そのようにしないで、イメージを崩さずにクリアー度を上げているのがいい。やはり『Yellow Submarine Songtrack』までいじられると素晴らしいけど同じものなのかちょっと戸惑ってしまうので。さて、皆さんはこのリマスター以前のCDは持っていると仮定して話をしたい。音楽ファンの常識だからね。すると『Please Please Me』から『Beatles For Sale』までの4枚はモノラル、『Help』以降のオリジナル・アルバム9枚はステレオとアルバム未収録音源集『Past Masters Vol.1』『Past Masters Vol.2』は原則ステレオとなる。その『Past Masters』シリーズでは「Love Me Do(Original Single Version)」と「She Loves You」「I'll Get You」「You Know My Name」の4曲はステレオが存在しないのでモノラルのみ、モノ用ミックスが存在しない「The Ballad Of John And Yoko」「Old Brown Shoe」「Let It Be」(「Let It Be」のシングルはただステレオをモノにしただけなので除外)の3曲はステレオのみ、ということでこれからのレビューをお読みいただきたい。これらの音源の本当に詳細な違いは、間違いなく次のレココレに出るだろうからそれをもって決定版とするとして、このレビューで紹介するのはどんなリスナーでも簡単に違いが分かるヴァージョンのみである。
Please Please Me...モノラルはお持ちなので検討課題はステレオ音源である。「Please Please Me」はモノとステレオが別テイク。パッと聴いた印象は変わらないが、モノではジョンが歌詞を間違えている。3番でポールとジョージが「I know you ...」と歌っているところをジョンは「Why know I...」と歌ってしまい、その後の「Come on」を笑いながら歌っている。
With The Beatles...I Wanna Be Your Man」のステレオはフェイドアウトが少し長いので、3回目の「I wanna be you man」の「ホッホッ」がよく聴こえ4回目まで突入している。「Money」のステレオは2つのミックスを左右において組み合わせているのでサウンドに厚みがあり迫力がある。イントロにモノではよく聴こえないギターが入っていた。
A Hard Day's Night...A Hard Day's Night」のステレオのエンディングは長く、12弦ギターのリフがモノでは4回でファイドアウトするところ6回まではっきりと聴こえる。「I Should Have Known Better」のステレオのオープニングのハーモニカは4小節目でいったん途切れる。「If I Fell」のステレオでは2回目のサビの「was in vain」でポールの声がかすれてしまっていた。(ハーモニーの手本のようなこの名曲、みなさんもハモッたことがあるでしょうが、ポールのこの部分は高いから、この感じ、よく分かりますよね)「Tell Me Why」のステレオはジョンのリード・ヴォーカルがダブルトラックだ。なお、既にCD化されている『The Capitol Albums Vol.1』で聴くことができるが、『Something New』のモノは「And I Love Her」のポールのリード・ヴォーカルがシングル・トラック、「I'll Cry Instead」が3番の後に1番をもう1回歌うので大幅にロング・ヴァージョン、「Any Time At All」の間奏の最初の部分にピアノが入っていない、「When I Get Home」のサビの「till I walk...」の歌い方が違うなど、米国盤モノは他とは大幅に違っているので要注意だ。
Beatles For Sale...Mr. Moonlight」のステレオはフェイドアウトが長く、3回目の「mr. moonlight」が上昇していくところがはっきり聴こえ、バックのオルガンも聴こえる。「Kansas City/Hey,Hey,Hey,Hey」のステレオはエンディングが長く、モノでは「so long...」でフェイドアウトしてしまうところ、次の「bye bye...」まで聴こえる。逆に「Words Of Love」のステレオはエンディグのコーラスがモノの6回に比べ4回しかなく数秒短い。「Every Little Thing」のステレオはエンディングが少し長く3回目の「every little thing」まで入っているので「little」でポールが高く歌うところがかすかに聴こえる。「I Don't Want Spoil The Party」のステレオは、モノではミックスでよく聴こえないイントロのリードギターがはっきりと聴こえる。
Help...さて、ここからが貴重なモノラルである。まずは「Help」だが、このステレオ-モノの違いは超有名なので詳しくは書かない。最も分かりやすいのは一番の「changed my mind」、ステレオではつめたように「チェモマイン」と歌うが、モノでは普通に「チェンママイン」と歌っている。「The Night Before」のモノはポールのリード・ヴォーカルにエコーがかかっていない。「Ticket To Ride」のモノはフェイドアウトが短く「my baby don't care」がステレオの6回に比べ5回に入ったところで消える。「Yesterday」のモノは最初のサビの「something wrong new I long for yesterday」に突然、エコーがかかる。あと、モノのオマケに入っている1965年時(つまりアナログ)のステレオの「Dizzy Miss Lizzy」はジョンのリード・ヴォーカルにエコーがかかっていない。モノにもエコーは入らず、このエコーはCD化の時にプラスされたことが分かる。
Rubber Soul...モノの「Drive My Car」「You Won't See Me」「Run For Your Life」のフェイドアウトは少し長くそれぞれ「ビービービービーイエー」「ウーラーララ」「ノノーノー」が1回ずつ多く聴こえる。モノの「Norwegian Wood」では1回目のサビの「...sit anywhere」の後に誰かの咳払いが入る(「Wendy」みたい...)モノの「Michelle」のフェイドアウトは数秒短い。モノの「What Goes On」はエンディングのジョージのリードギターが入っていない。モノの「I'm Looking Through You」はエンディングが3秒長いので、ポールのアドリブ・ヴォーカルが聴ける。ちなみに『The Capitol Albums Vol.2』で聴くことができる米国盤の『Rubber Soul』のステレオでは「I'm Looking Through You」のイントロのギターを2回間違えているところがそのまま入ってしまっているし、「The Word」はジョンのヴォーカルがずっとダブルトラックでエンディングも長い。さらに米国盤モノの「Michelle」は逆にステレオよりもフェイドアウトが僅かに長いなど、英米のステレオ、モノでそれぞれ違いがある。なお、今回のモノのオマケに入っている1965年時(アナログのこと)のステレオはヴォーカルの位置が偏っているものが多く、例えば「Nowhere Man」のアカペラは右だけから出ていてその後の演奏は左だけから入るというように極端だった。だからCD化の時に今回のステレオ・リマスターで分かるように修正しているのだが。それは当然のことだろう。
Revolver...Taxman」のモノのカウベルは、2番の「...appear too small」の後からとステレオに比べ早く入っている。問題は「I'm Only Sleeping」で、逆回転ギターがステレオとは違い「...at such a speed」から「...there's no need」の間に入り、「taking my time,lying there」の後からも入ってくる。この位置は米国盤の『Yesterday And Today』のモノとステレオ(ステレオはAppleになってからで2ndプレス以降のもの。『The Beatles Box』にも入っているのでそれが確実)でも位置が異なるので、都合4パターンある。「Love You To」のモノはエンディングが数秒長いが、ただしシタールの演奏部。「Yellow Submarine」のモノはオープニングのギターが入るタイミングがステレオより早く、さらに4番の復唱のコーラスは「life of ease」からとこれも早い。「Got To Get You Into My Life」のモノはエンディングが長い上に最後のアドリブ・ヴォーカルの歌い方が違う。「every single day of my life」とつなげて歌っているのでまったく違う録音だ。「Tomorrow Never Knows」はSEの入る位置がモノとステレオとは細かくかなり違っている。詳しく書くと長くなるので実際に聴いてほしい。ちなみに今回も収録されなかったが、英国盤モノの「マトリックスXEX606-1」のテイクはさらにSEの位置が異なるだけでなく、フェイドアウトが3秒程度長いので、最後のアドリブのピアノの聴いたことのないメロディを聴くことができる。(Radio VANDAで以前、かけたので覚えている方もいるのでは)

Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band...Lucy In The Sky With Diamonds」のモノはジョンのヴォーカルにやや強くフェイザーがかけられている。ピッチはステレオに比べて遅いがエンディングのコーラスは1回少ない。最後のコーラスの「アー」というところがエフェクトで「アーワウワウワウ」と聴こえる。「Getting Better」のモノは「me used to be angry man」からのピアノが聴こえない。「Fixing A Hole」のモノはフェイドアウトが僅かに長く、ポールのアドリブ・ヴォーカルで聴いたことがないメロディを聴くことができる。「She's Leaving Home」のモノはピッチが早く10秒早く終わってしまう。「Being For The Benefit Of Mr. Kite」は間奏とエンディングのSEの位置が違うが、元々ずっと鳴り続けるSEなので違いは分かりづらい。「Good Morning Good Morning」のモノのエンディングは使われている動物の鳴き声の順番は同じだが、リフレインの回数が少なく時間は数秒短い。華は「Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band(Reprise)」のモノで、エンディングのポールのシャウト・ヴォーカルがくっきりと聴こえるため迫力満点だ。細かい所では「With A Little Help From My Friends」の前のつなぎの部分で、観客の盛り上がる場所が違っていた。
Magical Mystery Tour...Flying」のモノは最後のメロトロンの入る位置が早い。フライング。「Blue Jay Way」のモノはステレオに入る逆回転のコーラスが入らない。「I Am The Walrus」のモノはイントロのリフが4回(ステレオは6回)。ただし、米国盤シングルの「yellow matter custard」の前の1小節の間奏はどちらでも聴くことはできない。「Hello Goodbye」のモノはエンディングが数秒短い。だから最後の2回目の「ッチャッチャ」が聴こえない。「Baby You're A Richman」のモノはエンディングが数秒長いので、アドリブ・ヴォーカルが一部多く聴けるが、「オー」程度。
The Beatles...Back In The USSR」のモノはヴォーカルがオンで非常にカッコいい。間奏のジェット機のSEの位置などが違うし、ステレオに入っている間奏の掛け声を「カモン」以外全面カットしていてタイトな感じだ。「Ob-La-Di,Ob-La-Da」のモノはイントロの手拍子が入っていないし、ポールのリード・ヴォーカルがシングルトラック。「While My Guitar Gentry Weeps」のモノは数秒長いので、エリック・クラプトンのリード・ギターを多く楽しめる。「Blackbird」のモノは間奏の鳥の鳴き声のSEの位置が違い、曲が終わってもしばらくさえずっている。「Piggies」のモノは豚の鳴き声SEがステレオに比べ少ない。「Don't Pass Me By」のモノはピッチが早く、エンディングのフィドルが別演奏で、メロディがまったく違う。「Why Don't We Do It In The Road」のモノはイントロの手拍子がない。「I Will」のモノは1番の終わりまで「口ベース」が入らないので、何か新鮮な印象がある。「Yer Blues」のモノはエンディングが10秒以上長く演奏を長く聴くことができる。歌が小さくミックスされていなかったら良かったのに。「Helter Skelter」のモノはポールのヴォーカルやバックコーラスがオンなので、「チャッチャッチャッチャー」というコーラスがはっきり聴こえ、ステレオほど喧しくない。エンディングはまったく違い、ステレオはフェイドアウトの後、またフェイドインフェイドアウトでリンゴのセリフで終わるが、モノは突然フェイドアウトドラムのロールフェイドインフェイドアウトで50秒近く短い。エンディングはまったく別物だ。「Honey Pie」のモノは、間奏にステレオには入っていないギターのフレーズが聴こえて新鮮。「Good Night」のモノは、イントロのオーケストラが大きく入ってくるので得をした感じ。
Mono Masters...I Call Your Name」のモノはイントロのギターリフのメロディが違う。カウベルもイントロから入っている。「Matchbox」のモノの間奏のギターソロはステレオに比べ後半が違い、貧弱。「I Feel Fine」のモノは4秒長いので、エンディングの「ホッホッ」という掛け声まで入っている。「I'm Down」のモノは4秒長いのでポールの「ダウンダウンダウンダウン」のアドリブ・ヴォーカルの後の「ウーアイムダウン ウー」というアドリブ部まで聴くことができる。「Day Tripper」のモノはほんの少し長いので次のリフレインの頭まで入っている。「Paperback Writer」のモノはエンディング前の「paperback writer」のコーラスに深いエコーがかかり変。エンディングも8秒長くコーラスのリフレインが1回半多い。「Hey Jude」のモノはステレオより7秒長く、リンゴのバスドラが早くなるところまで入っている。ちなみにシングル用ステレオ・ヴァージョンはさらに2秒長いが今回の『Past Masters』には入っていない。あと、アルバム『Yellow Submarine』はモノラル盤があったもののステレオをただモノにしただけで正式なモノ・ミックスが存在していなかったため、本盤では未モノ化の「Only A Northern Song」「All Together Now」「Hey Bulldog」「It's All Too Much」の4曲のモノラル・ミックスが収録された。この中で「Hey Bulldog」はステレオより2秒長く、最後のジョンとポールの「ヘーイブールドック」のハモリが1回多く楽しめる。
Past Masters...こちらはステレオ集。「From Me To You」のステレオは、イントロにハーモニカが入らない。「Thank You Girl」のステレオは、サビの「way that you do」と「good to be true」の2ヶ所の繰り返しでハーモニカが追加され、エンディングにも追加された。「The Ballad Of John And Yoko」はきちんとドラムが終わるテイクに戻された。(佐野)






Radio VANDA 第114回放送リスト(2009/10/1)

Radio VANDA は、VANDA で紹介している素敵なポップ・ミュージックを実際にオンエアーするラジオ番組です。

Radio VANDA は、Sky PerfecTV! (スカパー) STAR digio の総合放送400ch.でオンエアーしています。

日時ですが 木曜夜 22:00-23:00 1時間が本放送。
再放送は その後の日曜朝 10:00-11:00 (変更・特番で休止の可能性あり) です。

佐野が DJ をしながら、毎回他では聴けない貴重なレア音源を交えてお届けします。



特集:Frankie Valli



1.Can't Take My Eyes Off You

2.The Proud One

3.Make The Music Play

4.I Make A Fool Of Myself

5.The Girl I'll Never Know

6.He Sure Blessed You

7.My Eyes Adored You

8.You Can Bet(I Ain't Goin' Nowhere)

9.Easily

10.We're All Alone

11.With You

12.Fallen Angel

13.Swearin' To God

Hollies:『The Nash Years』(Main Street)DVD

イギリスのamazonで買ったこのDVD、ピンボケのジャケ、レーベル、そして番号が書かれていないなど、限りなくブートに近い気がするが、内容は最高である。グラハム・ナッシュが在籍した時代のホリーズの映像全35曲、初めて見るものも多く、この当時の映像集としてはブートレベルと比較しれば画質と音質も文句をつけようがない。これは絶対に「買い」である。
中古扱いだが送料込みでこの時の換算レートで1510円と安い。最初はどこかの映画に出演していた時の初期のホリーズ(1964年だろう)の「Now's The Time」、続いてイギリスのTV番組で「Baby That's All」「Here I Go Again」を歌う。ナッシュとトニー・ヒックスのセットされた髪型が時代を感じさせる。1964年のシングルのAB面だが、みな嬉しいカラー。『Top Of The Pops』の「Just One Look」は画質がイマイチだが、音はいい。続いてNMEでのライブ「Rockin' Robin」「Just One Look」で、リアル・ライブなのが嬉しい。ヒックスのギターとベースのからみがいい感じ。続いて本DVDの目玉、ドイツの番組でのリアル・スタジオ・ライブ(1965年)だ。「Look Through Any Window」「Very Last Day」「I Can't Let Go」(この曲のみジャケからクレジット漏れ)の3曲を歌うが、ハーモニーは完璧、演奏はタイトだし、ホリーズっていいバンドだったと痛感させられる。個人的にヒックスのギターが好き。ヒックスは曲中にリフを入れながら間奏も巧みにこなし、典型的な60年代のギターながらセンスがいい。コードしか弾かないナッシュは演奏的には貢献していないため、演奏面はヒックスが引っ張っているといえる。そしてベースとドラムのリズム隊がいい。逆にコーラス面を引っ張っているのが、ナッシュである。あのファルセットではない高音域のハーモニーがホリーズの生命線である。ちょっと画質のよくない「I'm Alive」をはさみ、タイトな演奏が堪能できる『Shindig』での「Too Much Monkey Business」がまた目玉だ。アラン・クラーク、ヒックス、ナッシュが順にヴォーカルを取るが、ナッシュは途中ビートルズの「I Feel Fine」の出だしをわざと歌って、みんなにブーイングされる。これはリアル・ライブならではの楽しい演出だ。その後は『Hulabaloo』の「I'm Alive」「Look Through Any Window」のリアル・ライブで、歌はもちろんながら、ベース・ランニングがとてもよく、実に締まった演奏になっていて、聴きこんでしまった。続く『Shindig』ではライアン・オニールの呼び出しでメンバーがアメリカン・フットボールのバーの下を走りながら順にくぐってくるという珍しいシーンがあった。こうしてみるとナッシュ、ヒックスの二人はルックスがいい。(二人はジョージとポールにそっくり!)クラークはどうしても峰岸徹に見えてしまうのは私だけだろうか...。口パクながら「Yes I Will」は珍しい。その後のどこかのTVショーの「Just One Look」はリアル・ライブ。ここからはプロモ・フィルムが多く、主に野外で「Jennifer Eccles」(2ヴァージョン)「Carrie Anne」「Stop Stop Stop」「I Can't Let Go」「Mickey's Monkey」(注目!)「Very Last Day」「Dear Eloise」「Wings」を歌う。髭を生やしたナッシュはカッコ良さが増すね。やはりジョージと同じだ。以前、このコーナーで紹介したドイツの番組『Beat Beat Beat』での「On A Carousel」「Bus Stop」「Stop Stop Stop」という内容的に最高のリアル・ライブが登場するが、これは完全版(ラストの「Insutrumental」のみ未収録)をそのDVD『Beat Beat Beat』で買うこと。内容はこのHPのhttp://www.webvanda.com/2008/11/post_04171821.htmlまで。『The Smothers Brothers Show』はカラーで「Carrie Anne」「Dear Eloise」を披露するが、口パク。クラークのチャンチャンコのような衣装が気になる...。珍しい『The Hollywood Palace』でのカラーの「Jennifer Eccles」。メンバーの衣装が女物っぽくなっている所が1968年というこの時代らしい。司会のタバコを手に持った中年のオヤジが、どうにも音楽番組にはそぐわない。後は例のつまらないカメラワークの『Beat Club』の「Listen To Me」「Do The Best You Can」と「Sorry Suzanne」。「Sorry Suzanne」は我らがトニー・マコウレイの作品だが、おや?ナッシュがいない。テリー・シルベスターじゃないかな。(ソロのテリー・シルベスターは大好き!どこかでソロの映像を見たい!)最後はナッシュ脱退のきっかけとも言われる「Blowin' In The Wind」の変なカバー。これじゃあ嫌になってしまうのが分かる。なおNTSCでオール・リージョン、日本で見られます。(佐野)
The Hollies - The Nash Years [DVD]

Small Faces:『All Or Nothing 1965-1968』(Reelin' In The Years Productions/37115320039)

これは凄い!凄すぎる!スモール・フェイセスの知られているもののうちおそらくほぼ全映像に近い17曲が一挙に収録され、おまけに現在のケニー・ジョーンズ、ジミー・ウィンストン、イアン・マクレガンのインタビュー(老けたな...)、生前のスティーブ・マリオット、ロニー・レーンのコメントが曲間に挟まり、我々ファンにとっては狂喜乱舞のDVDだ。
リアル・ライブで超カッコいい『Beat Beat Beat』の映像は「Whatcha Gonna Do About It」「Sha la la la lee」「Hey Girl」で、これに関しては既にこのHPで紹介した。まだ髪が短く、逆に今風に見える若々しいデッカ時代のスモール・フェイセスはカッコ良すぎる!あんなかわいい顔なのにマリオットのヴォーカルは黒くて最高だし、ロニー・レーンの掛け合いのヴォーカルも素晴らしい、4人の演奏は迫力満点でこれも文句なし。「All Or Nothing」だけは別の映像にしたのはこのDVDに遠慮してのことだろう。You Tubeなどで見られた映画『Dateline Diamonds』(1965年)に出演した時の「I've Got Mine」は、まだ髪が非常に短くルックスのかわいさも際立っているのに、マリオットとレーンの歌は黒人そのものでソウルフル、そのギャップが魅力的でクラクラしてしまった。1966年3月22日のマーキークラブでのライブを一部ずつ集めたのが「Plum Nelie」「You Need Loving」「Baby Please Don't Go」、もう見ていてため息しか出てこない。ああマリオット、史上最強のヴォーカリストは君だな。ケニー・ジョーンズのドラムはフーには合わなかったけど、スモール・フェイセスでのドラムは最高だ。こんな貴重な音源があるなんて驚きの一語、是非CDで収録して欲しい!「All Or Nothing」と「I Can't Make It」は1967年のTVでのもの(「All Or Nothing」は野外でのプロモではない)で、真っ黒なヴォーカルを堪能させてくれる。デッカ時代のスモール・フェイセスは、歌はR&Bで最高だし、そしてファッションもカッコ良くて服装を見ているだけでも楽しめるし、パーフェクトだ。ジャケットにクレジットはないが1966年の「Tell Me (Have You Ever Seen Me)」のIBCスタジオでのレコーディング風景も嬉しい贈り物だ。嬉しいのは1968年の「My Way Of Giving」の映像だ。どこかのTVだが、この隠れた名曲のライブが見られるなんて夢のよう。室内でのプロモ・フィルムが1967年の「Talk To You」。マリオットの髪がまだ短いが、耳が見えていたこちらの方が全然カッコいい(これ、ばっかり。でもファンだから見ているだけで幸せなのだ)。「Here Come The Nice」「Green Circles」「Lazy Sunday」はお馴染み『Beat Club』より。もう髪が長くなったTVショーのライブが、コックニーなまり全開で歌う「Itchycoo Park」(ビューチフルが印象的)、そのB面だった「I'm Only Dreaming」はまだ髪を伸ばし始めた頃の映像で半年以上、前の収録のようだ。この曲の映像があったなんて驚き。「Tin Soldier」はどこかのTVのものと思われるが、迫力がありいい映像だ。この頃はロニー・レーンが素敵だ。スティーブ・マリオットの魂のヴォーカルに、ロニーの黒いコーラスが組み合わさると最強のコラボになる。見た目は、デッカ時代はマリオット、イミディエイト時代はレーンだな。カラーの「Ogden's Nut Gone Flake」はTVでのスタジオ・ライブ(音はレコード)だが、イアン・マクレガンの姿が見られず、代わりにマリオットがキーボードを弾いている貴重な映像だ。そして遂にDVD化されたのが1968年6月21日にBBCで放送された『Colour Me Pop』の映像で「Song Of A Baker」「Happiness Stan」「Rollin' Over」「The Hungry Intruder」「The Journey」「Mad John」「HappyDaysToyTown」の全てが収められた。カラーでこの怒涛の7曲、涙なしには見られない...。最後は犬と庭でメンバーが戯れるプロモの「The Universal」、曲とピッタリだ。今までのフラストレーションを吹き飛ばしてくれるこの素晴らしいDVD、ひとつだけケチを付けさせてもらいとすれば、曲の終わりにナレーションを被せること。いつでも完全版を聴きたい、見たいのがファンなので、こういう演出は常にやめて欲しいと願っている。演出家はファンじゃないな、と常々思ってしまう。(佐野)
All Or Nothing

2009年9月20日日曜日

the Sweet Onions近藤君とPREFAB SPROUTの新作を聴く

PREFAB SPROUT:『LET'S CHANGE THE WORLD WITH MUSIC』 (KITCHENWARE/04IA19469)
 
 PREFAB SPROUT(プリファブ・スプラウト)が前作『The Gunman & Other Stories』から8年振りのオリジナル・アルバムをリリースした。 ここでは筆者と交流があり、プリファブ・スプラウト=パディ・マクアルーンを敬愛して止まない、the Sweet Onions(スウィートオニオンズ)の近藤健太郎氏と本作の魅力について語ってみた。 
 元々は5thアルバム『Jordan The Comeback』(90年)の次作として、長年彼らのプロデューサーであったトーマス・ドルビーと共同で進められる予定だったが、92年にレコーディングされたデモ音源を残したのみで未完成のままであった。その後17年の月日を経て、パディ・マクアルーンの完全ソロ・レコーディングによって完成された曰く付きのアルバムなのだ。 プログラミングを中心としたサウンドは少々チープな面も感じられるが、現代の吟遊詩人と称すべきパディの一級のソングライティグに陰りは見当たらない。エンジニアには、『Andromeda Heights』(97年)以来となるカラム・マルコム(THE BLUE NILEの仕事で知られる)が迎えられている。 またタイムリーなことに、『Swoon』(84年)から『Andromeda Heights』までの旧譜6作品が8月と10月の2回に分け、デジタル・リマスターの紙ジャケ仕様リイシューされる。

ウチタカヒデ(以下U):先ずはパディを敬愛して止まない近藤君なのですが、ファンの間では知られていた幻のアルバムがリリースされた感想はどうですか?



近藤健太郎(以下K):『Andromeda Heights』が出た頃読んだパディのインタビュー記事を 思い出しまして、本来は93年に発表する予定だった今作は、彼曰くとても野心的な作品で、曲はすべて完成したけれど、編曲等なかなか納得がいかずうんざりしてお蔵入りしてしまったと。
 しかもあの大名盤『Jordan The Comeback』の直後に作られた楽曲群じゃないですか。一体どんなアルバムなんだ?って、ファンとしては気にならない訳はないですよね。 だから素直に、「パディ、諦めないでちゃんとリリースしてくれてありがとうございます!」というのが率直な感想です。

U:純粋にファンとしては、勇気を持ってリリースにこぎ着けたパディの英断に拍手を送りたくなりますよね。
 では今作の印象について。1曲目「Let There Be Music」のラップでいきなり驚いたと思いますが、これまでと異なるサウンド・アプローチなどを含めたファースト・インプレッションは?  


K:いつだって好きなアーティストのアルバム1曲目を聴く時ってドキドキしますよね。確かに出だしのラップは驚きました。あれ?プリファブ?・・みたいな(笑)。でも前作『The Gunman and Other Stories』(01年)の1曲目のカントリー風味なサウンドもかなり新鮮でしたし、なんというかプリファブはやっぱり、アルバムごとに新たな喜びや発見を提供してくれますね。
 今回のいかにも打ち込み主体のサウンドは、そういった意味で新たな発見でした。 いわゆる目新しさや刺激はないのかもしれないけれど、シンプルでとても落ち着いた趣の、パディの流れるようなメロディーを際立たせるのにはふさわしい打ち込みサウンドだと思いました。あとボーカルがやっぱりぐっときます。それぞれの曲がいつの頃にレコーディングされたかちょっと明確ではないですが、今作でもパディ節は健在で嬉しくなりましたね。

U:ヴォーカルトラックだけは当時のテイクで、バッキングは今回差し替えたという情報もありますが、シンセの音色など音像的には、『From Langley Park To Memphis』(88年)や『Jordan The Comeback』に近い部分は感じますね。「I Love Music」なんて『From Langley Park To Memphis』に収録されていても違和感がないし。
 では同じシンガーソングライターとして、アルバムを聴き込む内にパディらしいソングライティグ・センスをひしひしと感じてくると思うのですが、近藤君としてはいかがでしょうか?

K:『From Langley Park To Memphis』と似た質感って納得です。なんか普通にあー、懐かしいなって感じもしたし、先ほど全体的な趣としては落ち着いていると言いましたが、冒頭の3曲なんかとても若々しいですもんね。 ソングライティングについては、今回もやはり捨て曲なし、クオリティの高い楽曲ばかりでため息がでますね。曲が作られた時期を想像すると、ちょうど『From Langley Park To Memphis』~『Jordan The Comeback』の才気溢れた絶頂期から、円熟味を増した『Andromeda Heights』に繋がる架け橋的楽曲といいますか、聴いていて、成る程、成る程という感想を持ちます。
 まぁそんな想像をわざわざしなくても、ただただ美しいメロディーにうっとりしてしまいます。 

U:では選ぶのは非常に難しいと思いますが、今作中最も好きになった曲はどの曲でしょうか? またその理由は? 

K:とても悩む質問です。今回のアルバム、僕は中盤がとくに好きなんですが、5曲目から9曲目なんかとても順位つけられないので、今の気分で答えますと8曲目の「Falling In Love」をあげますね。この曲は『Andromeda Heights』の「The Mystery of Love」「Life's a Miracle」あたりと雰囲気が似ていますね。派手さはないけどとっても優しくてほろ苦く、せつない感情や美しい情景が浮かんでくるロマンティックな曲だと思います。ブルースハープのソロもとてもいい感じ。 

U:成る程ロマンティックな近藤君らしいお答えですね。この曲の泣きのブルースハープはパディ自身ですけど、洒落たアレンジの中で非常に効果的な使い方です。「Nightingales」(『From Langley Park To Memphis』収録)でのスティーヴィの様な強烈な表現力には及ばないけど、パディらしい味というか。
 では今作をトータル的に聴いてみた総評としては?

K:今回はパディの完全ソロアルバム。つまり編曲・打ち込み・演奏に至るまでほとんど一人で作りあげたということで、期待と不安が入り混じった、正直少し複雑な思いで聴き始めた訳なんですが、いざ蓋を開けてみるとやっぱりパディ節は健在で、曲タイトルや歌詞の世界観はますます仙人の域に達しているというか(笑)、あらためて彼の音楽をこれからも大事に聴き続けていきたいと思いましたね。
 なんせアルバムタイトルは『LET'S CHANGE THE WORLD WITH MUSIC』ですからね。今どきこんな言葉を使って、うん!そうだよ!って、納得させてくれるアーティストはなかなかいませんよ。「Earth : The Story So far」という曲が世界の歴史について扱ったとても野心的な作品で、この曲をもとにアルバムを作り上げていったという今作は、いわばコンセプチュアルアート的なアルバムで、僕はこれからもその彼の概念やメッセージをこのアルバムから感じとっていきたいですし、聴くたびに惹き込まれていく作品だと思います。

 U:92年のデモ音源を基にしているとはいえ、過去の作品という時間軸を全くといって感じさせない、パディのソングライティングの普遍性を感じますよね。だから少々サウンドがチープな打ち込みでも許せる。
 ロジャー・ニコルズ&ザ・スモール・サークル・オブ・フレンズの40年振りの新作『フル・サークル』(07年)で、シンセのプリセット音そのままでも許せるみたいな感覚に近い(笑)。 
 さてプリファブの今後について気になるのは、アルバム・ライナーノーツの最後にある、" For robust and unsentimental reasons..."の文なんだけど、どう感じましたか? 感傷的ではないにせよ、あらたまった追憶文の様で、深読みすると引退を仄めかしているようで非常に心配なんだけど。 

K:実は彼の健康状態が思った以上に芳しくないというのは周知の事実のようで、最近のアーティスト写真も杖を持って写っていたりと、ちょっと心配ですよね。そんな中でかつての盟友に向けてあらたまったメッセージ? と気に病んだり詮索してしまいがちですが、いずれにせよ彼の作品を心待ちにしているファンは世界中にいて、これからも新作を聴きたいと思っているのは皆同じですから、何年越しでも構わないのでリリースを続けていって欲しいですね。
 彼の言葉を借りると、「空港の上で着陸の順番待ちで旋回している飛行機(楽曲群)がたくさんあって、みんな無事に降りてきてほしいからこそ、時間をかけて一機ずつ着陸させるんだ」という、とても嬉しいこの言葉を信じて僕も年を重ねていきたいですね。 

U:次のリリースが何年越しでも構わないというのは同感です。さっきのザ・スモール・サークル・オブ・フレンズ程大袈裟じゃないにせよ、10年でも待ちますみたいなね。 そもそも近藤君がプリファブのサウンドに出会ったきっかけは? 

K:高校生の頃、ある雑誌で遊佐未森さんが愛聴盤を紹介していて、その中でプリファブの『From Langley Park To Memphis』を目にしたのが始めだったと思います。同じ頃偶然に、近所の音楽に詳しい大学生のお兄さんから、こういうのも聴いてみなって貸してくれたアルバムが『STEVE McQUEEN』(85年)だったんです。Prefab Sproutというグループ名になんとなく惹かれていてよく名前を記憶していたので、勝手に運命を感じて飛びついて聴きまくりましたね。
 当時の自分が今まで聴いたことのない毛色というか感触だったので、一気にはまって他のイギリスのバンドにも興味を持つようになりました。余談ですが、遊佐未森さんが雑誌で紹介していた他の愛聴盤には、The Lilac TimeやTHE DREAM ACADEMY、変わったところではTHE UKULELE ORCHESTRA OF GREAT BRITAIN等々、素敵な音楽を彼女から教わりましたね。

U:ミュージシャンズ・ミュージシャンというか、遊佐未森さん以外にも高野寛さんなど拘り派のアーティストからの支持が多いバンドですよね。そういう同業者からのリライアビリティって、選ぶ側のリスナーにとっても重要なファクターですから。 ではこれまでプリファブを聴き続けてきて、最も好きなアルバム、曲を選ぶとしたら? 

K:これまたものすごく悩む質問ですが、アルバムは『Andromeda Heights』かなぁ。あの頃の自分の状況と重ね合わせた上でこのアルバムを選びますね。当時、仕事も忙しく なってきて音楽から遠ざかっていた頃、たまたま車で移動中にラジオから聴こえてきた 曲が「A Prisoner of the Past」だったんです。ラジオのDJはGreat3の片寄明人さんで、 彼も少し興奮気味に、久しぶりのプリファブの新作です!って紹介していたと記憶しています。まさに忘れていた頃に届いた思いがけないプレゼントで、大げさではなくなぜか当時の僕の心は揺さぶられて、思わず車を路肩に停めて聴き入って涙がこぼれたんです。 泣いてしまうなんて、たぶんその頃の自分はちょっと別の理由で弱っていたのかもしれませんが(笑)、あー、音楽っていいなって素直に思えたんですね。
 それでまた自分もバンドがやりたくなって、昔のメンバーに電話をして「バンドやるぞ!」って訴えかけたんです(笑)。 一番好きな曲は、最初に聴いた衝撃で「Goodbye Lucille no.1(Johnny Johnny)」(『STEVE McQUEEN』収録)です。血気盛んな青臭い高校性の自分にとっては、見事にクールで洗練されたカウンターパンチにくらくらきましたね。

U:『Andromeda Heights』を選ぶのって、アルバムとしてのトータル感なんだろうね。「Goodbye Lucille no.1(Johnny Johnny)」は凄く渋い選曲だ。「Bonny」~「Appetite」~「When Love Breaks Down」と立て続けに高揚した後に落ち着ける曲じゃないか!
 僕の場合日本で最初にプリファブが『STEVE McQUEEN』で紹介された時、高校生でリアルタイム世代なんだけど、その時の初期衝動を引きずって聴き続けているから、もうマックイーンを選ぶしかないのね(笑)。
 曲だと「Bonny」か「Cruel」(『Swoon』収録)かな。ベスト3なら「Wild Horses」(『Jordan The Comeback』収録)を入れるけど、古くからのプリファブ・ファンほどベスト1を選べないと思うよ。本当に酷な質問だったね、ゴメン(笑)。 
 最後になりますが、近藤君がパディから受けた最も影響されたポイントとは?また目標としたいポイントはなんですか? 

K:プリファブと言えば、デビュー当初はひねりの効いた作風が特徴的で、ときに皮肉屋、いわゆる高度で難解な曲を作るアーティストというイメージがあって、若い頃の自分はそんな彼の作風や雰囲気に惹かれていました。でも90年代以降の彼の旋律や言葉はどんどんシンプルでストレートに変化していき、むしろ僕はその彼の率直な表現にますます心を奪われていきました。 
 また、星や宇宙といったイメージが好きなんだという、彼のロマンティシズム溢れる感覚も素敵です。でもただの夢想家ではなく、星を見上げて思いを馳せることによって、自分がどれだけちっぽけな存在か、それでもなおどれだけ重要なのかがわかると語った、彼の考え深さや謙虚な人柄に魅力を感じますね。「Andromeda Heights」の歌詞にある「僕らは愛と尊敬の土台の上にわが家を築くんだ」というフレーズもとても印象的ですよね。そういった、彼のバランス感に富んだ人間性が加味された音楽や言葉に、僕は大きな影響や共感を覚えてきたのだと思います。 彼を目標にというとあまりにおこがましいので具体的に思いつかないんですが、彼の作る優しさと気品に満ちた、静謐かつ刺激のある音楽が僕はとても好きなんで、自分もそんな音楽に少しでも近づく作品を残せたらいいなと、星に願いを託してみようかなぁ・・・。  

U:作風の変化は正しくそうだよね。『Swoon』から『STEVE McQUEEN』を挟んで『Protest Songs』(リリースは89年だが86年録音)までは、どこかスティーリー・ダン(ドナルド・フェイゲン)・シンドロームというべき作風で、意図的に難解なコード進行と転調を多用していて、それが耳に残るエレメントの一つだったんだけど、『From Langley Park To Memphis』の一部の作品以降は、メロディとハーモニーを自然調和させて、成熟したポップスをクリエイトするように変わっていったという。誤解を恐れずに感覚的にいうと、自分の作る音楽へのアプローチの仕方が、ドナルド・フェイゲンからジミー・ウエッブ(パディのカントリー・フィールは明らかにウエッブからのDNAを感じる)的にシフトしていったんじゃないかな。 
 ともあれ、パディのソングライティングを目標とした、近藤君の真摯なアティテュードが今後の曲作りに結晶することを心より願っております。

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2009年9月7日月曜日

★第5回 宮古諸島ツアー2009

Journey To Miyako Islands 2009






佐野邦彦




ここのところ恒例の離島旅行は八重山→宮古→八重山と交互になり、今年はもちろん宮古の順番、5回目の宮古諸島になった。なんといっても今回の主眼は水納島である。沖縄本島の近くの同名の「クロワッサン・アイランド」ではない。宮古と石垣のちょうど中間にあってどちらからも遠いため観光客がほとんど行かない多良間島の、さらに沖にある人口2人だけの島である。究極の離島である。

かつては何百人も住んでいた時もあったそうだが、どんどん人口が減り、今は宮国さんという一家だけが住み、牧場を営んでいるそうだ。少し前までの人口は5人だったと思うが、今年はさらに減ってご兄弟2人だけになっている。

ここの海の美しさは格別だそうで、かつて宮古の新城海岸で私が地元の方たちとオトーリをやっていた時に私が「今まで行った中で最も美しい海は多良間島のウカバ」と言ったら、「確かに多良間はきれいだけど、もっと美しいのは水納さー」と返され、それ以来水納はずっと憧れの地だった。

その後、離島フリークの島田紳助が自書の中で「沖縄で一番きれいな海は水納」と書いていたのを読み、竹中直人が自分でやりたい事ができるという企画番組「トシガイ」で選んだのが水納と、その憧れは深まるばかりだった。ようやく回ってきた宮古ツアー、今回は宮国さんに頼んでチャーター船を出してもらい水納で一泊というのが、私の個人的な目的のほとんどだった。チャーター船というのは宮国さんが通常やっておられることであり、島に宿泊施設(空き家)もあって調理設備や電子レンジまでもあるその施設も貸してくれる(食材のみ自分で持ち込み)ため、決してロビンソン・クルーソーのような無人島生活を送るわけではないので、ある意味で安心なところだ。
行けば聴こえるのは波の音や風のさざめきだけで人工の音は一切無く、原初の地球とはこのようなものだったのではという思いを味わえるそうなので、期待は大きく膨らんでいた。夜はきっと水平線から満天の星空が見えるんだろうと思うと、夜まで楽しみになる。
ただし行くことができる日程の月齢は悪く、満月近くなので、海は干潮で干上がるし、夜はその明るさが災いするなと思ったが、選択肢は他になかった。

 使う旅行会社は昨年からJALツアーズである。かつてはJTB、そしてオリオンが安い時代があったが、今は比較して文句なしにJAL。
旅行会社間の競争によってJALも自らパックツアーを始めたようだが、飛行機の値段が最もウェイトを占めるので、当然、最も安い値段が出せる。安いだけでなくマイルも付くのだ。通常の半分のマイルだが、なにしろ宮古までは2000キロ近くあるので半分でも大きい。そして家族全員がカードを持っているので4人分のマイルが溜まる。昨年の7月に加入して以来、全ての公共料金や携帯の引き落としをJALカードに変え、現金を持っていても出来る限り買い物はカードを使うようにしたら、9月現在、つまり14ヶ月で8万マイル貯まった。JALカードは家族合算ができる。それも年会費の高いゴールドカードではなく、通常カードでこのくらい貯まるのだ。一ヶ月に4人家族が公共料金や食費などで使うお金はけっこうあり、最低でも10数万、例えば16万としたらそれで1600マイルになる。1年で2万マイルになり、それに大きな買い物代、修理代、旅行費用、その他の大きなもの、例えば教習所代などイレギュラーな出費を加えると、すぐその額は倍になる。年に1回、そのカード会社の飛行機を使うマイルが付くツアーを使えば、年ごとのボーナスマイルや旅行で使ったマイルが加算され、JALカードは家族全員のマイルを合算できるので、8万マイルを貯めるのには何の苦労もいらなかった。
石垣・宮古は往復で2万マイル、沖縄本島は1万5千マイルなので、家族4人、タダで往復できる算段だ。何しろ、往復の通常チケットは一人10万弱もかかるので、何もしないでタダ券がもらえるなんて夢のよう。ただし、割り当てが少ないので、人気の沖縄の、さらに夏休みのハイシーズンに希望の日時を取るのは至難の技だそうだが、職場の知人は同じように貯めたマイルで、年に何回も気軽に沖縄に行っていた。この割り当て分は、出発日の近くになっていきなり枠が復活することがしばしばある(売れ残りをあてがうのだろう)そうで、なにしろタダだから、ちょっと週末行ってくるか、という感じで、一泊2日で帰ってくるなんてぜいたくなことをやっている。
まだマイルを使っていないが、来年あたり、ちょっと週末に沖縄へ行ってくるか、いや、長崎に行って軍艦島を見てくるか、なんていう事が出来るなと思うと、なんだかリッチな気持ちになれる。みなさんもマイレージのカードに入って、タダで沖縄へ行きましょう。もう持ってるか...

 前置きが長くなったが、やっと旅行の報告へ入ることにする。事前の準備は他に宮古-多良間の往復の飛行機の予約と、宮国さんへの連絡だ。宮国さんは手馴れた様子で、あとは初日の夜に確認の電話を入れる約束となった。宮古の天気はずっと晴れが続いている。軽く2週間以上は晴れなので、そろそろしっぺ返しが怖いところ。
でも直前になっても晴れ予想が続くので、これはラッキーと安心した。反面、日本列島、特に西日本は豪雨につぐ豪雨で、災害のニュースばかり入ってくる。沖縄が晴れの分、そこを覆う高気圧から、湿った空気を西日本にポンプのように送り込んでいるそうだ。ほくそ笑んだのもつかぬま、やっぱり落とし穴が待っていた...。

2009年8月1日(土)

いつものように羽田7時20分発の直行便に乗る。宮古着は10時20分、着いたらまずレンタカーでどこへ行こうかなと思い巡らしている内に着いてしまった。窓から外をみるとあれ?晴れのはずなのに日差しが弱いな、雲が多いなとすぐに気づく。機外へ出ると雲が切れて強烈な太陽が向かえてくれたが、けっこう風があるのが気になった。風があると外海は波が高くなるのだ。
空港では第1回から第3回までの宮古ツアーで利用したフジレンカターの方が待っていた。3泊4日で1万4千円だから安い。前回はレンタカー付のプランだったため、旅行会社であるオリオンが指定したスカイレンタカーを使うしかなかったのだが、そこは事務所まで行って手続きをしなければならず返却も空港返しはダメ、さらに3泊4日の車両保険代6千円を追加で強制的に徴収され、二度と使う気がなかった。
反面、フジレンタカーは空港のその場で借り、空港返し(鍵を付けたまま、放置しておく)もOKで、やはりここはいい。何かあった時の車両保険は2千円ですがどうします?と聞かれたので、それも快く支払った。その3倍も保険料を取ってサービスも悪いスカイレンタカーとの差は大きい。

 宮古の道は本当に快適だ。石垣は島内にあまりいいスポットがないので離島へ渡るのが日課となり島内を走ることがないのだが、宮古は逆に島内がスポットだらけなのでレンタカーがフル回転となる。もう5回目ともあると道は旧知のものとなり、走るだけでやっとここへ「戻ってきた」という喜びが満ち溢れてくる。
まずは必ず毎回行く平良のA&Wでルートビア(ここで飲むとなぜか美味しい。要はドクターペッパー、チェリーコーラの味)を飲んでから、今回、初めて利用するホテル・サザンコーストへ向かう。今まで宮古で利用したホテルは2ヶ所なのだが、ホテル・アトールエメラルドは、食事をする西里(イリザト)まで歩いて15分くらいかかるし、ホテルの従業員の態度がどこか暗く、いい印象がなかった。次に利用した宮古セントラルホテルは、場所は西里の真っ只中で最高なのだが、ビジネスホテル風なので狭いし、何と言っても朝食のバイキングのメニューが良くない。
宮古では石垣のホテル・ミヤヒラのような好印象のホテルに出会わなかったので、今回はどうかなと思っていたら、パイナガマ・ビーチが目の前で広々しているし、何よりも隣がコンビニだ!沖縄では最もメジャーなココストア(昔はホットスパーと呼ばれていた)で、これはいい。まずは荷物を預けるが、作りが明るいし、従業員の感じもいい。ホテルの外には洗い場があるので、持ってきたシュノーケリングセット(フィンも入っている)とマリンシューズをここで洗えるし、ここは良さそうだ。
そしてまずは前浜へ向かう。ここへ行けばまずは来間大橋を渡らないと気がすまない。一気に渡るが、陽がかげり気味なので海の色はいまいち、翡翠色に輝かない。それでも十分きれいなので来間島へ入り、いつもの展望台(竜宮城展望台ではない、手前の方)で海を眺めることにする。すると対岸の宮古島に遠く1本の風力発電を発見した。風力発電は島の反対側にある西平安名崎がお決まりの場所だったので、変化しつつある島の一端を感じた。

来間島は島内の道路が完備されていないので集落へ入る前まで少しだけ車を進めると、ちょっとオシャレなカフェ風の店がいくつもある。初めてここへ来た6年前には何もなかった場所だ。
島は確かに、おそらく島外の人によって、変化している。石垣のような急速なペースでないにしろ、宮古も着実に観光化が進んでいた。昨年の入域観光者数は八重山の782,749人に比べ宮古は375,440人とダブルスコアで負けているしここ5年の観光客数は伸び悩んでいる。宮古の中心、平良のメインストリートである西里は年々、寂れてきている感がある。
でも来間や池間といったいわば「郊外」には移住者によるこじゃれた店がどんどん出来ていて、移住者は石垣に比べまだ手付かずともいえる宮古の未来に賭けているようだ。


橋を戻り、宮古島東急リゾートへ入る。ここは本当にきれいだし、設備が整っている。ずっと滞在して動かない人も多いそうだが、宿泊料は当然ながらその分高い。私は宿泊料分、他のアクティビティにお金を使いたいので、基本的にそのパンフで最安もしくはその近辺のところを狙う。安い金額で印象がいいところに出会えればこれ以上のことはない。
ホテルの外の受付でビジターと名乗ってバナナボートを申し込み、子供は海へと向かう。浜辺でそれを眺めていると、ちょうど雲が切れ、白砂の浜からの照り返しで眩しくて目をすぼめないといられなくなったので、空いているパラソルの値段はいくらと聞いたら2500円でチェアは別料金だという。まったく宮古島でこの法外な料金、宮古島東急リゾートの印象が一気に悪くなった。風があるのでパラセーリングは中止だというので、こんなところに長いは無用と、すぐに撤収して吉野海岸へと向かう。
500円也の駐車料金を払って海岸まで送迎してもらうのだが、なにしろ吉野海岸は信じられないほどの急坂と僅かな駐車スペースしかなかったので、下に自由に止められた時は大混乱した苦い思い出があり、500円で送迎してもらえるほうがずっと便利だ。浜辺ではパラソルの下に机とチェアが4つセットされていて、レンタル代はたったの1000円である。景観は確かに俗化したが、吉野海岸はウカバのような他の人に知ってほしくないような場所とは違い有名なスポットであり、人は常にけっこう来ているので、日差しを遮るものがなかった以前より今の方が便利である。
海へ入ると色とりどりの熱帯魚が迎えてくれる。ここは本当に魚が多い。海岸でこれだけの魚が見られる場所は、宮古だけでなく八重山を含めても他にどこにもない。おそらく日本一だろう。それも浜辺から10数メートルのところにこれだけ珊瑚が群落しているからだ。残念ながら大半は死んでいるが、アオサンゴがけっこう復活してきている。ただし人が多いので、その大事な大事なアオサンゴが折れているところも見かけ心が痛む。干潮になると頭を出す珊瑚の上を歩いて渡るバカな奴らがいるが、海辺の業者の人たちは、是非、こういう連中を注意してもらいたいものだ。




 吉野海岸を堪能し、ホテルへ戻る。西里へはアトール・エメラルドよりもさらに遠いので、元々タクシーを使う予定だった。タクシーはホテルの前に待っているのですぐに乗れる。沖縄のタクシーは初乗りが430円と安いので、西里へ着いてもたったの490円!歩かなくていいので逆に便利だ。下の子のお気に入りの「なみ吉」で食べ、目の前のサーティーワンでアイスを食べて帰るのだが、その間に近くのホテルニュー丸勝というところの洗濯機と乾燥機(ここは台数があるので一杯で使えないということがない)を使って洗濯を終わらせてしまうのが宮古でずっと続く「定番」。ところがここで大失態、携帯をスボンのポケットから出さずに洗濯して携帯は一瞬でパー、実はその前の吉野海岸では何故か腕時計を外さず泳いでしまって腕時計もダメにしていた。どちらも大損害である。何かついていない、その予感はどんどん現実のものになっていく。
夜に宮国さんに電話すると、フィリピン沖で熱帯低気圧が発生したので海の送迎が難しいという。もう一度、明日の朝に電話をください、その時にもう一度判断しますとの事だったが、嫌な予感が的中してしまった。ホテルへ戻ってから、窓から何度も外の景色を眺めたが、木々はゆらめいていて、風は吹いたまま。星空で天気はいいのに、と残念さがつのる。後は一縷の望みをかけて明日の吉報を待つのみ。


2009年8月2日(日)


 明るくなった窓から空を眺めると青空が広がり今日は昨日より天気が良さそうだ。でも風は相変わらず強い。ただ、この風がなければ、蒸し暑さですぐにばててしまうだろう。そんな異常な湿気が宮古をずっと覆っていた。
この宮古旅行を通して宮古の湿気はおそらく100%近くあり、その猛烈な湿気で車の乗り降り、コンビニやホテルの出入りの際にはほぼ確実にメガネが真っ白に曇ってしまうのだ。こんなことは初めてだ。この熱く湿った空気が西日本にどんどん流れ込んでいるのだから、西日本は災難である。
ホテルの朝食はバイキングだが、メニューはかなり豊富で内容は十分。バイキングの内容にうるさい二男も満足していた。ロビーには誰でも使えるインターネットパソコンが2台あるので、随時、天気情報がつかめる。このホテル・サザンコーストは、一気に宮古島で最も気に入ったホテルにランクアップしていた。
朝食後は緊張の宮国さんへの電話だ。そして宮国さんから「やはりダメですねー。海がうねっているので船が出せません。残念ですが。」と最後通告を受ける。ジ・エンド。昨年の八重山ツアーが終わってから1年間、ずっと楽しみにしていた企画が直前にダメになってしまった。子供は二人とも大学生で上は3年、来年は八重山の番なので就職したらもう一緒に宮古へは行けないかもしれない。いつまでも続くわけのない家族旅行、それは当然分かっているのだが、水納というこの究極の離島体験は共有したかった。フィナーレを飾るにはふさわしかったのに...と、後悔が頭を巡る。そして水納へ行けば、宮古諸島、八重山諸島の有人離島18島を全制覇できた。でも仕方ない。これが現実である。
さっそく頭を切りかえ、まずは今日、多良間へ渡るはずだったので電話でそのチケットを変更し、翌日に変えてもらった。この自在な変更が、定額で買うチケットの強みだ。多良間からの帰りのチケットはそのまま、これで明日はいつものように多良間の日帰りとなったのである。
子供たちが行きたいところはシュノーケリング三昧ができる吉野海岸なのだが、さすがに丸一日は退屈するので、まずは池間島へと向かった。天気がいいので池間大橋から見える海がきれいだ。360度が翡翠色に輝き、この景色は神様からの贈り物というよりない。どんな絵描きが想像したとしてもこんな美しい海は描けないだろう。池間島は道路が整っているのでとりあえず一周するが見所はなにもなく、池間島のたもとのパーキングに車を止めた。
まずは海へ降りてみるが、暑いばかりで早々に切り上げ、いつもの休憩所へ入った。そこでソーキソバなどの昼食とサザエなどを注文し、2階のテラスで昼食をとる。2階は屋根があるので日差しは無いし、海からは心地よい風が常に吹きつけてくる。池間大橋を見下ろしながらその先に目をやると、西平安名崎の風力発電が3基戻っているではないか!かつては4基あったこの風力発電、6年前の台風で3基が倒壊、1基も羽が折れ、無残な状態をかつて目にしていた私にとってこれは嬉しい発見だった。さらにその先、宮古島の島影が切れるその先には、伊良部島まで延びる大プロジェクト、伊良部大橋の橋梁が途中まで伸びているのがうっすらと見えた。完成する2012年にはどんな景色が見られるのだろう。そして逆の方向に目をやると、一昨年に訪れた、大神島の美しいフォルムが心を揺さぶる。高さはないが、富士山のようなきれいな稜線を持つ島なので、何度見ても飽きることがない。





今回は店のその上の屋上部分まで上がってみたが、高さが増す分、さらに遠くまで見渡すことができた。しまったと一度撮った写真をさらに撮りなおし、その後、吉野海岸へと向かった。
その道すがら、面白いものを発見する。衆院選が公示されているので選挙ポスターが至る所にあるのだが、その中に「チョービン」というカタカナの名前の人が小沢一郎と並んで写っている。民主党の候補者のようだが、それにしてもチョービンとはどんな人?沖縄にはヤマト(本土)から見ると変わった名字が多い(例えばDA PAMPのissaの名字は「ヘントナ」)のだが、「チョービン」というのは聞いたことがない。民主圧勝の選挙結果だったのでこの「チョービン」さんもめでたく当選、そこで本名が書かれていたのだが「瑞慶覧長敏(ズケランチョウビン)」さんというお名前なのだそうだ。チョービンは名前なのでイチローと同じか、ズケランに馴染みがないからチョービンにしたのかな、でもどっちをとっても凄い名前である。それにしてもチョービンさん、おめでとうございます。


そうこうしているうちに吉野海岸に到着、もっとも干潮である正午を避け、2時頃着くようにしたのは正解だ。泳ぎが下手な私でも、シュノーケルがあれば呼吸が確保できるし、フィンがあれば推進力があるし、かなり自由に泳いでいける。これは楽しい。様々な熱帯魚に囲まれながら、ここは海水魚や珊瑚を家で飼育するまでになった我々にとっては楽園だなと、実感した。ただひとつ大問題が発生、メガネを砂の中にポトッと落としただけなのにレンズに傷が付いてしまったのだ。メガネの汚れが嫌いな私にとってこれは致命傷、腕時計、携帯に続きメガネまで作らなければいけないことになってしまった。本当に大出費...。


2009年8月3日(月)

 今日は多良間である。いつもの39人乗りの小さなプロペラ機で20分程度のフライトなのだが、やはりレシプロ機だと、離陸の時のプロペラ音が高回転になるところが心地よく、短いフライトでも楽しみがある。






多良間は今回で4回連続になるのだが、過去3回は島内の有償バス(ワゴン車)を運転する羽地さんという人にレンタカーを頼んでいた。自分の車を貸してくれていたようだが、一昨年は予約をすっかり忘れられていた上に、自分のバスに我々を乗せ、別のレンタカー会社まで島民を降ろしながらゆっくりと連れて行かれて、さらに降り際に家族4人分のバス代まで取るという許しがたい態度だったので、二度と羽地さんには頼まないと決めていた。
前日に西筋レンタカーという会社(といっても他の会社も含め個人経営で車は1台か2台)に電話を入れていたため、すぐに借りることができた。行きは会社まで行ったが、帰りは空港返しでOKだという
。干潮が近いのですぐにウカバへ足を運ぶ。ここは何の標識もないのだが、私の弟がウカバをこのHPで紹介した時に書いた「沖縄電力の風力発電を過ぎてすぐの自動販売機が目印」の文章がまさに正解で、一発でたどり着いた。あいにく大きな雲が頭上にきてパラパラと雨を降らしていったが、すぐに雲は通り過ぎ、陽光が注ぎだす。ただし今日の多良間は曇りに近く、滞在した6時間のうち5時間は陽が射さなかった。ほどなく干潮になったのでウカバは巨大な浅瀬になり、そうなると下地が見えてしまうので景観は悪くなってしまい残念だったが、こうなればどんどん沖まで行ってみようと、ひたすら沖へと歩き出した。海岸に残った妻の姿は見えないようになり、後ろの大きな風力発電さえもよく見えないほど小さくなった所に海水が残っていた。といっても深さは1mくらいだが、そこには魚がいる。海岸からは600mは離れているだろう。しかしさらにリーフ際までは200mくらいあり、ウカバのリーフの広さを痛感させられる。



浜辺に戻って、空港で買った大好物の伊良部の「うずまきパン」(うず上のパンの間にたっぷりのザラメの砂糖が入ったバタークリームがはさまったパン。伊良部島のものはクリームもザラメも多く入っていて、食べるとジャリジャリ言う。これはハマる。超美味しい)をほおばりながら、水平線を眺めるとその先には水納島の島影が。こんなに近いのに...と思うが、リーフ外は荒れているのだろう。
観光客がほとんど来ない多良間では、聞こえてくるのは自然の音だけになるのだが、今日は「ゴー」という遠い潮騒がずっと聞こえていた。これはリーフに波が当たった時の音なのだが、リーフが遠いので「ザー」という音にならないのだ。よく聞こえるということは波が荒いという証拠、やはり熱帯低気圧は近づいているようだ。それにしてもこの音、どこかで聞いたことがあると考えていたが、そうだ、ボラボラ島で滞在中、ずっと聞いていたあの音だということを思い出した。新婚旅行で行ったのでもう23年も前のことだが、ボラボラの海はリーフがこのウカバのように遠く水平線の方にあったため、浜辺から見ると見渡す限り翡翠色の海となり、だからあんなに美しかったのだ。そう分かるとこの音はなんだかとても懐かしく、つかぬまのタイムトリップに誘ってくれた。


2009年8月4日(火)


熱帯低気圧は台風8号になり、2日後には宮古島へ到達するという。まだ晴れが続き、フライトにも影響がなかったということは、逆に運が良かったのかもしれない。事実、この台風は大暴れをして宮古のあとは石垣へ向かって長時間の停電を引き起こし、そして台湾に上陸して大災害を与えたことを覚えていらっしゃる方も多いと思う。なにしろ宮古のこの異常な湿度、台風はどんどん水分を吸収して巨大化し、雨台風となって豪雨を降らせた。台湾では山ひとつがなくなって土石流で村を消し去ってしまったほどのパワーになってしまった。2日あとなら島から脱出できなかったのでラッキーだった。水納へ行けないどころじゃない。
まずは正午近辺の干潮を避けるため、朝一で吉野海岸へ向かう。3回目の吉野だが、ここの魚影の濃さは訪れた人を飽きさせない。この美しい翡翠色の海と碧い空、濃い緑と鮮やかな花、そして吹きつける心地いい風を焼き付けておくように心に感じながら、次回も無事来られますようにと、小さな願いを海の底に置いていった。浜辺へ戻る際、足がチクリと痛い。するとビリビリ痺れてくる。「やばい!何かにやられた!」と足をひきずるように浜辺へ戻り、他に聞く人がいないので売店のお兄さんに何かに刺された足を見せると「あー珊瑚負けですね。これ、かけとけば大丈夫ですよ」と何やらスプレーに入ったものをシュッとひとかけ。足には二つ並んだ刺したあとがある。ヒョウモンダコとか悪いものじゃなさそうでほっとするがそれにしても痛い。
実はこの日から一ヶ月以上経った、この文章を書いている今でもまだ少し痛いのだ。なにやら毒素は十分にあったみたい。干潮の昼は、2日目に行った池間大橋を渡ったところの2階の展望台で昼食だ。そこから見ると、宮古島に大きな雨雲がかかっていて、奥の方は確実に雨が降っていることが分かる。池間の方は快晴で、こっちへ来て正解だった。そして、風力発電の立つ西平安名崎へ行ってみる。すると以前はなかった展望台が出来ていて、そこから見る池間大橋の全景と、目の前に並ぶ3本の風力発電の景観は最高!今回の旅行の絵的なハイライトだった。


あまりの素晴らしさにその展望台に20分ほどいてデジカメ、ビデオ、そして携帯の写真と順番に撮りまくってしまったが、その間に誰もやってこない。このプライベート感も堪らない。観光地として有名な東平安名先と違い、こちらはガイドに書かれていないから知られていないのだが、このままナイショにして知る人ぞ知るの隠れスポットとしておこう。


西平安名崎で池間大橋をバックに1枚

池間大橋を戻って、宮古島に入って右に曲がって3分ほどで着いてしまうから行くのは簡単だ。まだ行ったことのない人は是非。ラストはもう一度、前浜に戻ってバナナボートに乗るが(子供たちのみ)、前浜の上にも大きな雲が横切っていき、台風が近いことをうかがわせた。


西平安名崎に何故か「世田谷まで1900km」の看板が


帰りはいつもの19時20分発の羽田行きの直行便だ。夕食は子供たちがお気に入りの西里にあるレオンという喫茶店のステーキ定食を食べる。実はこの滞在期間、2回目である。ステーキ、ライス、スープとサラダで1200円、味がいいし、これはお得である。ただし以前は1000円だった。2年前は1100円だったかな。少しずつ値上げしているようだ。

宮古空港では、空港でしか売っていない伊良部島のうずまきパンを数個、おみやげにプラスしておく。銀座のわしたショップに入ってこないので、2年に一度しか食べられない。以前、わしたショップでは、宮古島の違う会社のうずまきパンを売っていたが、クリームと砂糖が控えめで、ジャリジャリいわないのでこんなものはうずまきパンじゃない!と却下だった。それ以来、わしたにうずまきパンを置いていないが、うずまきパンのファンは伊良部でないと満足できないのだ。そこがわしたの人間には分かっていない。ジーマミー豆腐だって美味しいのはタレが甘い八重山タイプのものなのに、沖縄本島からのしょっぱめのタレが付いたものばかり売っている。だから私は黒蜜で割って八重山風に変えている。この涙ぐましい努力がわしたの人間には分からないかな。

余談になるがただしあまりジーマミー豆腐は食べないという宮古だが、今回、ホテルの隣のココストアでは100円(安い!わしたじゃ3倍近くする)でジーマミー豆腐が売っていたが、これは八重山風でとても美味しかった。これもオススメである。

 晴れが続いたこと、台風を避けられたことはラッキー、目標の水納に行けなかったこと、腕時計・携帯・メガネを買い換えるハメになったことはアンラッキーで、何やら複雑な気分の宮古ツアーだった。でもこうやってみんな無事で、満足もしてくれたようだから、それだけで十分か。
1年に一度の宮古・八重山は我が家(私?)の最大イベントであり、1年かけて費用を貯め、日程を細かく決め、事前の調査と手配も完璧でまさにツアーデスクなのである。だから終わるとほっとしてしまう。いかん、いかん、これだとリフレッシュと言えなくなってしまう。水納島が残ったことは、また目標が出来たので、やる気が俄然増してきた。いかんなー、ちっとも自然体になれないなー。性分だから仕方がないか。(ちなみにO型です)