2022年8月27日土曜日

Don Crawford について

 

『Don Crawford』(FTS-3002)

 最近知ったDon Crawfordという人。こういう音楽はフォーキージャズというのだろうか。ブルージーでもあるけれど、これまでに聴いたブルースとも違うタイトさがあって、新鮮だった。

 もともとはLigutnin' Hopkinsの作品でハーモニカを吹いていたそうなのだけれど、66年にVerve Folkwayレーベルからシンガーソングライターとしてのアルバム『Don Crawford』(FTS-3002)をリリースし、71年までに4枚のアルバムを残している。ギターやパーカッション、俳優までこなす多彩な人物だったようだ。

When I Was A Young Man / Don Crawford
(『Don Crawford』)

 1作目は西海岸で録音されたもので、Hal Blaineも参加している。

 その後はRouletteレーベルに移り、NYやカナダで活動していたそうだ。70年リリースの2作目『Roots & Branches』(Roulette SR-4204)はNY録音でRon Carter、Chuck RaineyCornell Dupree、Eric Galeなど豪華なセッションメンバーが多く参加している。

 続けて71年に『Another Shade of Black』(Roulette SR 3005)をリリース。もう1枚の『Would You Understand My Nakedness?』(Roulette SR-42055)も同年にリリースされていて、おそらくこちらがラスト作かと思われる。

Would You Understand My Nakedness?
(Roulette SR-42055)

 このアルバムでは、伴奏はCrawford自身のアコースティックギター、パーカッションとRon Carterのベース、Robert Freedmanのオルガン、パーカッションが入るくらいのシンプルな編成。静かな迫力が漂う。

A Lady Like You / Don Crawford
(『Would You Understand My Nakedness?』)

【文:西岡利恵


 最後に、本記事の内容とは関連しないのだけれど、私の所属するバンドThe Pen Friend Clubのリリース予定について少し紹介させてください。

 来月9/7に8thアルバム『The Pen Friend Club』をリリースします。収録曲のうち2曲「The Sun Is Up」「Beyond The Railroad」が現在サブスクリプションにて先行配信中なので聴いてみていただけたら嬉しいです。MVも公開中です。



The Sun Is Up / The Pen Friend Club
(Official Music Video)


Beyond The Railroad / The Pen Friend Club
(Official Music Video)



2022年8月21日日曜日

Mott よみがえれ!昭和40年代 (昭和42年(1967年))

~大人げない大人たちのつぶやき~ 
昭和42年(1967年)

 <登場人物>(再掲載)  
スーさん(♂):昭和29年(1954)生。静岡県出身。小中学時代は漫画家志望のミニカー・コレクター、高校でビートルズに感化され音楽マニアに豹変。 
マサ(♂):昭和31年(1956)生。大阪出身。プレーヤー視点の評論に定評のある人気音楽評論家。ジェフ・ベックを崇拝するギタリストの顔も持つ。 
やっちゃん(♂):昭和32年(1957)生。静岡県出身。テニスを愛するスポーツマン。若さを維持するサプリメントが欠かせない鉄道マン。 
とっち(♂):昭和31年(1956)生。東京都出身。宮崎駿監督と富田勲をこよなく愛するアニメ&音楽マニア。ビーチ・ボーイズ研究の世界的権威。 
ジュン(♀):昭和32年(1956)生。滋賀県出身。筋金入り美容エステシャンの傍ら、藤原竜也と孫をこよなく愛するグランマ。 


3-1. NHK紅白歌合戦に出演できた唯一のGSグループといえば? 
 A.ジャッキー吉川とブルーコメッツ
 B.ザ・スパイダース
 C. ヴィレッジ・シンガーズ 

とっち:よ、ひさしぶり!
スーさん:本当に。
とっち:「コロナ」以来、出歩くことなくなったもんな。
スーさん:このあいだ久々にカラオケ行ったよ。
とっち:いつものGS歌えてすっきりしたかな?
スーさん:うん「森(とんかつ)、泉(人参)、囲まれ(てんぷら)、静か(人参)、眠(ルンペン)、ボロボロシャツぅ~」♪ 
とっち:お、「ブルー・シャトー」の「語尾しりとり輪唱」。
スーさん:まともの歌おうと思っても、どうしてもこっちにいっちゃうんだよな(-_-;)
とっち:レコード大賞受賞曲でここまでいじられた曲もめずらしいよね。
スーさん:でもブルコメは解散直前に出演したテレビ(番組)で、この輪唱を自演して大うけだったぜ!
とっち:なんと、本人たちも公認してたんだ!ブルコメってNHK紅白歌合戦出場できた唯一GSだったよね。当時のNHKはGSを目の敵にしてたのによく選ばれたね? 
スーさん:ブルコメはショートカットでスーツ・スタイルのGSだったからね。
とっち:だから一番人気のザ・タイガースが選ばれなかったのは当然なんだけど、ショートカットの「貴公子」ヴィレッジ・シンガーズは何でだめだったのかな?
スーさん: 多分ブルコメと同じ「コロムビア」だったから、同じ古参の「ビクター」に気を使ったんじゃないかな?
とっち:「ビクター」の系列(注1)には、スパイダースがいたのにね。
スーさん:スパイダースはマチャアキがマッシュルーム・カットだったから、無視されたのかも?

正解 C


3-2.ザ・フォーク・クルセダースの「帰ってきたヨッパライ」のエンディングには、ヒット曲を引用したお経がはさみこまれていますが、誰の曲でしょうか? 
 A.サイモン&ガーファンクル
 B.ザ・ビートルズ
 C.ザ・ローリング・ストーンズ

スーさん:俺の初レコはジャニーズの「太陽のあいつ」だって話したっけ? 
マサ:うん、洋楽は「モンキーズのテーマ」だった事も聞いたぜ。
スーさん:じゃ、必死に探したレコードの話は?
マサ:それは初耳だな、いったい何を探しまくったんだい?
スーさん:フォークルの「帰ってきたヨッパライ」!
マサ:あれって俺が生まれた関西の深夜放送で話題になって、冗談みたいに売れまくったってやつだね。
スーさん:どこにも売ってなくて諦めていたら、たまたまおふくろが立ち寄ったデパートのレコード売り場に1枚だけあって買ってきてくれたんだ。
マサ:あれは早回しのテープとユニークな歌詞で「アングラ・ソング」って言われてたね
スーさん:あの当時は中学だったんで、単なるコミック・ソングくらいにしか思っていなかった。なにせ「ケメ子の唄」(注2)と並列で扱われていたもん。
マサ:そういえばラストには「エリーゼのために」が流れてビートルズの「ヤァ!ヤァ!ヤァ!」のフレーズが入ったお経が読まれているよね、「えてなはーどでいずないと」って!
スーさん:でも当時は音楽に興味なくて、ビートルズ自体知らなくて気がつかなかった(汗)
マサ:ビートルズが「愛こそすべて」のエンディング近くで、「し、ろっちゅう、ヤァ~イェ~イェ~イェ」って入れてるのを意識したのかな。
スーさん:そういえば、スリー・ドッグ・ナイトも「喜びの世界」(Joy To The World)のエンディングに「Mama Told Me~」って入れてる。
スーさん:最後まで聴くと、みんないろんなことやってのがわかるね。

正解 B


3-3. スーパー・ヒーロー「高速エスパー」をマスコットに採用していた電機メーカーは? 
 A. ナショナル(現:Panasonic)
 B.東芝
 C.ビクター 

やっちゃん:この間、実家の屋根裏倉庫を整理してたら陶器の犬の置物が出てきた! 
スーさん:それって大昔ビクターのテレビ買ったときにもらった景品じゃないかな?オークションに出したらいい値段つくかも?
やっちゃん:いや、もう塗装もだいぶ剥げていて耳もかけててほぼゴミ・レベル(-_-)
スーさん:昔はビクターの電化製品売ってる店の前に大物も飾ってあったよね。
やっちゃん:俺たちが小学生の頃って、電気屋さんが扱ってるメーカーは入口前に飾ってあったマスコットで分かったよね!
スーさん:そうそう、ナショナルの前には「ナショナル坊や」とか。
やっちゃん:そういえば家の電化製品は、ほぼ「東芝」だったよね。
スーさん:東芝は「高速エスパー」だった。確かあのマスコットは特撮番組にもなっていたね。
やっちゃん:「E・S・PER(イー・エス・パー)、エスパー!」って叫んで変身するやつだったね!
スーさん:エスパーの役は三ツ木清隆。
やっちゃん:三ツ木っていえば、そのあと「ウルトラマンタロウ」に出てくる「地球防衛隊ZAT(ザット)」の隊員にもなっていたよ。「タロウ」はそれまでの「ウルトラマン」や「父」「母」まで出てくるんで、結構はまったけなぁ~。
スーさん:でも、「タロウ」に変身する隊員じゃなかった。「エスパー」は「少年」(注3)に連載されてた漫画で、そのあと特撮ヒーロー番組になったんだ。だから漫画とテレビのコラボになってた。
やっちゃん:東芝っていえば、今じゃ「サザエさん」のイメージが強いんだけど?
スーさん:アニメの「サザエさん」が始まったのは昭和44年、大阪万博の年から「東芝」のイメージ・キャラクターになったんだ。
やっちゃん:今は違うけど、「サザエさん」のオープニングアニメのエンディングには「TOSHIBA」のロゴが出てきて、サザエさんが「この番組は東芝がお送りします」ってしっかり宣伝してたもんね! 
正解 B


3-4. イタリア生まれの人気マペット・マウス、その名前は○○○・ジージョ? 
 A.トップ
 B.ポッポ
 C.トッポ 

スーさん:俺、小学校のころはプラモデル作りにはまってた。なんてったって、静岡は「プラモデル」のメッカで、メーカーがひしめきあってた。
ジュン:私は着せ替えやぬいぐるみよ。女の子だから。
スーさん:お、ジュンコセンセーも「乙女時代」はメルヘンですねぇ~。
ジュン:何言ってるの、私は学校でも評判の「美少女」で、私が持ったぬいぐるみはみんな真似していたくらいなのよ!
スーさん:それ自分で言う(笑)ところで、その当時はどんなぬいぐるみが流行ってたのかな?まさか「だっこちゃん」?
ジュン:失礼ね、そんな昔じゃないわよ!私が小学生のころはイタリアからきたマペット「トッポ・ジージョ」よ。
スーさん:確かテレビ番組にもなってたよね。「トッポ・ジィージョとおっともだちぃ~♪」なんてテーマ・ソング覚えてる! 最初は「モーニングショー」(注4)で紹介されて、そこから人気が出たみたいだったよね。
ジュン:その頃の私は、トッポ・ジージョの番組(注5)を楽しみにしていたわ。でも放送の時間帯はお父さんがいてNHKを見る時間だったんだけど、放送日だけは「お願い!」って譲ってもらってたわ。 
スーさん:そうそう昔はテレビのチャンネル権は父親にあったもんね。でもうちの親父は仕事熱心で夜は一緒にご飯食べたこと無かったから夜のチャンネル権には苦労したこと無かった。といっても静岡には民放1局(注6)しかなかったけど...
ジュン:うらやましい。うちは公務員だったから、毎晩家族でNHKを見るのがお決まり。
スーさん:そういえばザ・タイガースの加橋かつみのニック・ネームが「トッポ」だったね。
ジュン:それ「ジージョに似ているからそう呼ばれるようになった」って明星のメンバー紹介に出ていたわ。
正解 C


3-5.別名“1967年のザ・ビートルズ”と呼ばれるザ・モンキーズの愛用車モンキー・モービルはどんな車の改造車?
 A.キャディラック
 B.ポンティアック
 C.リンカーン

スーさん:俺、小中学時代は音楽には全く興味がなくて、プラモデルとミニカー集めにはまってた。
とっち:俺はもっぱらアニメ!
スーさん:でも、モンキーズだけは別で「ザ・モンキーズ・ショー」放送の火曜日(注7)はクラブ活動よくさぼって、次の日先輩にしごかれてた(-_-;) 
とっち:あの番組、最新ヒット曲は流れていたけど、基本はコメディだったから、「奥さまは魔女」(注8)を見ているみたいな感覚で見てたよね!
スーさん:そうそう、アメリカのコメディ番組にありがちな、ドラマの途中で“笑い声”が飛び出してた。
とっち:吹き替え放送の声優はミッキーが鈴木やすし、デイビーには水戸黄門の「うっかり八兵衛役」高橋元太郎だった。
スーさん:まさにお笑い系の配役!
とっち:でも“The Monkees”ロゴのついたメンバーの専用の真っ赤なコンバーチブルかっこよかった!
スーさん:あの当時アメ車と言ったら「キャディラック」や「リンカーン」くらいしか知らなかったので、GMの「ポンティアックGTO(注9)って言われてもピンとこなかった。
とっち:確かに日本じゃ「ポンティアック」と言われても、「えっ?」ってほどの知名度だったからね。
スーさん:でもあれってプラモデルもミニカーも売ってたよ。プラモは500円くらいで、ミニカーは1,000円くらいだったかなぁ?
とっち:そうなんだ、知らなかった。で、両方買ったのかい?
スーさん:この頃の小遣いは1,000円で、どっちにしようか真剣に悩んだ。
とっち:で、どっち買ったんだよ?
スーさん:ミニカーはメンバーが乗っているだけで、「イエローサブマリン」みたいにメンバーが飛び出すみたいな仕掛けが何もなかったんだ。けど、プラモはモーターで動くもんだからプラモにしたんだ。
とっち:やっぱり子供感覚が勝っちゃたんだ!
正解 B


3-6.昭和42年に放送が始まった特撮忍者ヒーロー・ドラマ「仮面の忍者赤影」。この主人公はどこの里の忍者だったか?
 A.伊賀
 B.甲賀
 C.飛騨

スーさん:俺、小さい頃は忍者ごっこが定番の遊びだった。
とっち:みんなそうだよ。
スーさん:昭和40年代って忍者漫画いっぱいあったからね!忍者の必需品「手裏剣」を自家製で作ってた!
とっち:でも一番は横山光輝先生の「伊賀の影丸」かな。
スーさん:そうだね、影丸の「木の葉隠れ」真似しようとして、近くのお寺に行って彼は集めてはばら撒いてた!
とっち:それで隠れるわけないじゃん!
スーさん:でも逃げる技が「必殺技」って、あんまり強そうじゃないよね。
とっち:影丸の伊賀が正義で敵が甲賀になってたから、ずっと甲賀忍者はみんな悪者だって思ってた。 
スーさん:でもあんなに人気があったのに、アニメにも実写化もされてなかったよね。
とっち:横山先生はテレビ化するために影丸を終わらせて。仮面をつけた正体不明の忍者漫画「飛騨の赤影」の連載を始めたらしいよ。
スーさん:テレビになった時には「仮面の忍者赤影」になってた。
とっち:そう見た目通りのタイトルで、テレビ放映が始まったら漫画のタイトルもテレビに合わせてた。
スーさん:時代は影丸よりもはるか昔のドラマで織田信長が生きてる時代、敵は「金目教」って謎の宗教集団や、謎の忍者集団「卍党」だった。
とっち:特撮だけに、巨大な「目玉」「ガマガエル」「神像」「昆虫」の化け物との対決シーンが毎回見れたから夢中になっちゃった。
スーさん:赤影は大凧に乗って「赤影参上!」と登場して、「大砲」「拳銃」から「レーザー光線」なんて、あらゆる武器を出して化け物と戦ってた!
とっち:もはや時代劇を超えるスペタクルな番組だったね。
 正解 C 

(注1)日本ビクターのフィリップス・レコード
(注2)ザ・ダーツとザ・ジャイアンツの競作シングルとして発売された大ヒット曲。曲の出だしにNeil Sedaka<Next Door to an Angel>のスキャットが使用されている。
(注3)光文社から発行(昭和21年11月創刊~43年3月号で休刊)されていた月間少年雑誌。
(注4)首都圏毎週火曜日18:00~18:30「トッポ・ジージョ」昭和42年3月7日TBS系開始)、首都圏毎週金曜日19:00~19:30「チャオ!トッポ・ジージョ」昭和42年10月6日TBS系放送開始)。トッポ・ジージョは2011年に日伊親善大使には就任している。
(注5)TBS系で放映されていた「おはようにっぽん」。
(注6) TBSのキー局の静岡放送(SBS)。
(注7) 首都圏毎週金曜日19:00~19:30(昭和42年10月6日TBS系放送開始)放映されていたが、静岡では火曜日18:00~18:30
(注8)昭和41年から日本語吹き替え版が放映(TBS系)されていたアメリカ制作のコメディ番組。
(注9)1926年にGM傘下として設立された乗用車ブランドが、1960年代中盤に発売した高性能モデル。日本では3代目「日産グロリア」がこのモデルのデザインに影響を受けている。

追記)次回私の投稿は、FMおおつ「音楽の館」8月号~西城秀樹特集Part-3(ライヴ音源特集)~のセット・リスト解説です。
2022.8.27.(土) 16:00~ (再放送)2022.8.28.(日) 8:00~ 
 ※FMおおつ 周波数79.1MHz 
 ※FMプラプラ(https://fmplapla.com/fmotsu/)なら全国でお楽しみいただけます。

 (鈴木英之

2022年8月6日土曜日

流線形:『インコンプリート』(Happiness Records/ HRBR-025)


 現在のシティポップ・シーンのパイオニアとして知られ、クニモンド瀧口のソロ・プロジェクトである流線形(リュウセンケイ)が、単独名義としては『TOKYO SNIPER』(HRAD-00019/2006年)から実に16 年振りとなる、ミニアルバム『インコンプリート』を8月17日にリリースする。 
 本作では先行で収録の5曲中4曲が配信済みで、既にサブスク等で聴いている音楽ファンがいるかも知れないが、ジャケットのアートワークを含めた美的センスが流線形=クニモンド瀧口の魅力なので、是非フィジカルでも入手して欲しい。


 本作ではキリンジからソロに転向し、シンガー・ソングライター(以下SSW)の杉瀬陽子らとのTHE LAKE MATTHEWS(ザ・レイク・マシューズ)でも活動した、堀込泰行をヴォーカリストに迎えている。堀込とのコラボレーションは、2020年11月にSSWの一十三十一(ヒトミトイ)とのドラマ・オリジナル・サウンドトラック『Talio(タリオ)』(VICL-65441)を紹介しているので記憶に新しいと思う。
 全曲のソングライティングとリズム・アレンジを手掛ける瀧口は、レコーディングではソリーナ(アープ製ストリングス・シンセサイザー)とProphet-5のアナログ・シンセサイザー、コーラスを担当している。バンドメンバーは北山ゆう子(ドラム)、山之内俊夫(ギター)、平野栄二(パーカッション)、平畑徹也(キーボード)、松木俊郎(ベース)で、Talioのセッションから加わった若手SSWのシンリズムはストリングスとホーン・アレンジをここでも担っている。
 また瀧口が今年2月から始動したCMT Production(City Music Tokyo Production)のレーベル、"CMT Records"から7月6日にソロ・アルバム『サン・キスド・レディー』(CMTR5)をリリースしたばかりの女性シンガー、ナツ・サマーもコーラスで参加している。同作は本作プロデューサーの瀧口をはじめレコーディング・メンバーが全員参加しており、兄妹アルバムとして位置付けされるので流線形ファンは是非チェックして欲しい。筆者は先行7インチでリリースされた、メロウなラヴァーズ・レゲエの「トワイライト・シャドウ」(CMTR4)が特にお気に入りだ。

『サン・キスド・レディー』 / ナツ・サマー 

 参加メンバーについては説明不要かも知れないが、saigenjiEllieなどの多くのアルバムでエンジニアとしても著名な平野をはじめ、北山と山之内は青野りえの『Rain or Shine』(VSCF-1776/FRCD-071)、松木はRISA COOPERの『RISA LAND』(HYCA-8027)に参加するなど最近の話題作にも参加している手練ミュージシャン達なのが流線形の強みでもある。
 制作スケジュールとしては、主要曲のリズムセクションのベーシックトラック・レコーディングと歌入れは2016年に終了していたが、瀧口の更なる拘りもあり月日が流れた。その後未完成曲を含め試行錯誤した結果、今回5 曲をミニアルバムという形にまとめてリリースすることを決めたということだ。 
 流線形としては、2009年に沖縄県出身のシンガー・ソングライター比屋定篤子とのコラボレーションアルバム『NATURAL WOMAN』(HRAD-00041)のリリース後、プロデューサーや選曲家として多忙になった瀧口にニューアルバムを待望していたファンも多かったので、ここでこうして形になって嬉しい限りである。 

 ここでは筆者による本作の全曲レビューに加えて、サブ企画として流線形のバンドメンバーで、音楽通として知られ弊サイトにも協力している松木俊郎が、ベーシストとして敬愛するスコット・エドワーズ(Scott Edwards)氏の追悼企画として、氏のベストプレイを挙げプレイリスト化したのでサブスクを含めて紹介したい。

 
「3号線(feat. 堀込泰行)」 

 アルバム冒頭の「3号線(feat. 堀込泰行)」は、オリジナルはファースト・アルバム『シティ・ミュージック』(ALCM2004/2003年)収録曲で、サノトモミの歌唱で洗練されたブルーアイド・ソウルをルーツにしたものだった。リアレンジしたここではBPMをやや下げて、堀込の落ち着いたヴォーカルをフューチャーし、シンリズムによる緻密なクラウス・オガーマンに通じるオーケストレーションを施したことで、ナイト・ドライヴィングに合う和製AORに仕上げられている。イントロなど他パートで聴ける印象的なフルートは映画やアニメなど多くのスタジオ・セッションで活躍する坂本圭だ。
 アレンジの基本モチーフとしては、名曲「Feel Like Making Love」(ジーン・マクダニエルズ作)のボブ・ジェームス(『One』収録)のカバー・ヴァージョンをイメージさせるのは容易だが、リズムの肝となる特徴的な松木のベースラインが、マイケル・ヘンダーソンの「In The Night Time」(同名アルバム収録)やクルセイダーズの「Keep That Same Old Feeling」(『Those Southern Knights』収録)のそれを彷彿とさせて非常にクールである。オリジナルと全く異なるアプローチで曲をリメイクさせる手法は、『NATURAL WOMAN』で比屋定篤子のソロ作「まわれ まわれ」(『ささやかれた夢の話』収録)でもトライしていて、一級の音楽マニアの瀧口ならではのセンスだろう。

 続く「ふたりのシルエット(feat. 堀込泰行)」は、2013年9月の比屋定篤子とのコンサート(めぐろパーシモンホール)で初披露された「誘惑(仮)」がオリジナルだという。筆者も当日この会場にいて(ももクロ等に楽曲提供する平山大介が同行していた)演奏を聴いていたので、このようにリアレンジされたヴァージョンを聴けるのは感慨深い。
 それから約2年半後にレコーディングされたのが今回のテイクらしい。 ここでも名手達のプレイとシンリズムのストリングス・アレンジが堀込のヴォーカルを引き立てている。イントロの北山による繊細なハイハット・ワークはスティーリー・ダンの「Deacon Blues」(『Aja』収録)のそれを思わせ、曲全体的に山之内のギターはデイヴィッド・Tに通じるプレイをしており、平畑のフェンダー・ローズもそれに呼応している。またナツ・サマーのシルキーなコーラスもこの曲の雰囲気に不可欠なエレメントだと感じた。マニアックなことに触れると、そのサビ後半のコーラスが入る前のストリングス・フレーズがドラマティックスの「In The Rain」(『Whatcha See Is Whatcha Get』収録)に通じていて思わず唸ってしまった。

 本作中間部に収録された「インコンプリート」は、唯一先行配信していないインスト曲で、ナツ・サマーと瀧口がスキャットを担当したブラジリアン・フュージョンである。
 Talioセッションのインスト群とは明らかに異なり、本作用に多数制作された中の一部がこの曲とのことで、全編が今後発表される可能性があるかも知れない。アース・ウィンド・アンド・ファイアーの「Love's Holiday」からメドレーになっている「Brazilian Rhyme (Beijo)」(『All 'N All(太陽神)』収録)のテイストに近い。

 
「メロディ(feat. 堀込泰行)」 

 「メロディ(feat. 堀込泰行)」は瀧口が自らホーン・アレンジも担当したアップテンポのサマー・アンセムだ。手練なバンドメンバー達だけに16ビートに対するアプローチは見事で、北山と松木のリズム隊に山之内のカッティング、平畑のローズのフレーズとクラヴィネットの刻みが有機的に絡んでいく。スタッカートが効いたイントロのトランペットは名手の島裕介のプレイで、間奏とアウトロでの山之内のギターソロなど聴きどころは多い。堀込の声質も加味してセカンド・ヴァースにはネッド・ドヒニーの「Each Time You Pray」(『Hard Candy』収録)に通じていて甘酸っぱい想いがする。 

 ラストの「潮騒(feat. 堀込泰行)」は、一十三十一の『CITY DIVE』(HBRJ-1004)収録の「人魚になりたい」の歌詞違いヴァージョンで、こちらがオリジナル歌詞とのことだ。「人魚になりたい」では打ち込み主体で、佐藤博の「I Can't Wait」(『Awakening』収録)に通じるサウンドが印象的だったが、本作ではバンドの生演奏でしなやかなメロウ・グルーヴを展開している。
 サビでは本作収録曲中随一ともいえる堀込の名唱が聴けるのでチェックして欲しい。間奏のサックス・ソロは副田整歩(ソエダナオム)で、土岐英史氏に師事したという表情豊かなプレイを披露している。ストリングス・アレンジは瀧口が担当して、生のリズムセクションに対しソリーナでプレイしており、このコントラストが初期AORの匂いをさせてたまらない。

 以上本作は5曲収録のミニアルバム形式であるが、曲毎の聴き応えがあるのでトータル・タイムを感じさせない濃い内容となっているので、この夏に入手して繰り返し聴いて欲しい。


【スコット・エドワーズ(Scott Edwards)追悼企画】
スコット・エドワーズのベストプレイ


 確か『Talio』のレコーディング時、クニモンド瀧口氏に「一番好きなベーシストって誰?」と急に訊かれました。あらためて考えてみて、思い浮かんだのがスコット・エドワーズです。ジェームス・ジェマーソンのマナーを完璧に受け継ぎ、リー・スクラー的なメロディアスさがあり、後のAOR時代のアレンジにばっちり適応したプレイは、これからもずっと私の教科書です。
 今作のリズム録音は何年も前なのであまり意識はしていなかったものの、やはり影響はあると思います。やはりクニモンド瀧口制作の瀧川ありさ『Warmth』あたりはモロだと思うので是非聴いて下さい。
 松木俊郎

 松木俊郎(流線形)選曲 
■Can't Get You Out Of My Life / Eric Andersen 
(『Be True To You』/ 1975年)
■Let Me Live In Your Life / The Originals 
(『California Sunset』 / 1975年)
■Groovin' On A Natural High / Lamont Dozier 
(『Right There』/ 1976年)
■Whachersign / Michael Omartian (『Adam Again』/ 1977年)
■Whatcha Gonna Tell Your Man / Boz Scaggs
 (『Down Two Then Left』/ 1977年)
■If There's A Way / The Waters (『Waters』/ 1977年)
■Love In The Afternoon / Dionne Warwick 
(『Love At First Sight』/ 1977年)
■Delayed Reaction / Lonette McKee
(『Words And Music』/ 1978年) 
■Lovin' Fever / High Inergy(『Steppin' Out』/ 1978年)
■Special Kinda Lady / Arthur Adams
 (『I Love, Love, Love, Love, Love, Love, Love My Lady』
/ 1979年)
※サブスクには登録された8曲のみ収録

ウチタカヒデ(WebVANDA管理人)選曲
 ■The Well Is Dry / The Four Tops
(『Meeting Of The Minds』 / 1974年)
■Don't Leave Me / Lamont Dozier 
(『The New Lamont Dozier Album - Love And Beauty』/ 1974年)
■Love Machine / The Miracles(『City Of Angels』/ 1975年)
■Whachersign / Pratt & McClain
(『Pratt & McClain Featuring "Happy Days"』/ 1976年)
■Caricatures / Donald Byrd(『Caricatures』/ 1976年)
■Love Hurts (Love Heals) / Daryl Hall & John Oates
(『Beauty On A Back Street』/ 1977年)
■I'm A Fool For You, Girl / T. Rex
(『Dandy In The Underworld』/ 1977年)
■Reunited / Peaches & Herb(『2 Hot!』/ 1978年)
■Closet Man / Dusty Springfield
(『Living Without Your Love』/ 1978年)
■Baby You Still Got It / Captain And Tennille
(『Make Your Move』/ 1979年) 


(企画・テキスト:ウチタカヒデ


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