2016年5月29日日曜日

Negicco: 『ティー・フォー・スリー』(T-Palette Records/ TPRC-0159)


 WebVANDAで現役アイドルのニュー・アルバムを紹介するのはいささか抵抗があるが、5月24日にリリースされたばかりのNegicco の『ティー・フォー・スリー』は、先入観抜きで聴いて欲しいアルバムなのだ。
 それもその筈で、楽曲提供やアレンジャーとして以前本枠で紹介しているミュージシャン達が参加しているからである。

 ご存じない読者もいると思うので紹介しておくが、Negicco は2003年に結成された新潟在住の所謂ローカル発信のアイドル・ユニットである。現在のメンバーはNao☆、Megu 、Kaedeの3名で、これまでに20枚のシングル、『Melody Palette』、『Rice&Snow』と2枚のオリジナル・アルバムをリリースしている。
 地方をベースに十代前半でデビューして下積み時代が長かった点ではPerfumeをイメージさせるが、彼女達は独自のスタンスでこの時期を乗り切り現在に至っている。
 なにより本作『ティー・フォー・スリー』は巷に数多存在するアイドル・アルバムとは一線を画す、音楽性とクオリティーを誇っており、ソフトロックやポップス・ファンを満足させる内容となっているのだ。 

 ニノ・テンポ&エイプリル・スティーヴンスが取り上げたことでポップス・ファンにも知られたスタンダード・ナンバーの「Tea For Two(二人でお茶を)」をもじったらしいアルバム・タイトル、ECMレコード作品を思わせるジャケット・デザインなど、その拘りを感じ取ったのは筆者だけでは無い筈だろう。
 また過去には小西康陽、ORIGINAL LOVEの田島貴男、NONA REEVESの西寺郷太といったポップスを知り尽くしたマエストロ達が楽曲提供をしているが、本作でもレキシの池田貴史、著名な作詞家の岩里祐穂(今井美樹の諸作で特に知られる)、シンガー・ソングライターの堂島孝平や土岐麻子から声優の坂本真綾等々に加え、ユメトコスメの長谷泰宏ウワノソラ及びウワノソラ'67の角谷博栄が参加しているのである。
 人選については、彼女たちのプロデューサーであるconnie氏(新潟で現役サラーマンを兼務しながらNegicco のサポートを続けているが、その真摯な姿勢には頭が下がるばかりだ)の審美眼から選ばれたクリエイター達ばかりなのだろう。
 では肝心のアルバム収録曲から筆者が気になった曲を解説していこう。


    

 冒頭の「ねぇバーディア」は昨年8月に先行リリースされたシングルで、池田貴史のソングライティングによる70年代ファンク・ミュージックへのオマージュというべきナンバーである。Earth, Wind & Fireの「September」(78年)からと思しきリフや歌詞が引用されていて楽しめる。
 続く「RELISH」(作詞:岩里祐穂、作曲:connie)と「マジックみたいなミュージック」(作詞作曲:connie)も70年代のブラック・ミュージックからの影響が強く、前者はフィラデルフィア・ソウルから70年代後期のメリサ・マンチェスターを彷彿させ、リチャード・ティー風のピアノ・オブリが入ってご機嫌なのだが、サウンドは80年代的センスで構築されている。
 後者はデヴィッド・ペイチ(TOTOの実質的リーダー)とデヴィッド・フォスターが手掛けたシェリル・リンの「Got To Be Real」等ブルーアイドソウル~AORサウンドへのエッセンスが感じられる。
 本作はこの3曲の躍動感で引っ張られているが、ソングライティング的にVANDA読者を唸らせるのはこれから紹介する曲になるだろう。

 まず長谷泰宏が作編曲した「カナールの窓辺」(作詞:connie)は、ジミー・ウェッブが手掛けたThe Fifth Dimensionの「Up-Up And Away」(67年)へのオマージュというべき現代のソフトロックである。全トラック生演奏によるものだが、ホーンのフレージングやコーラスのヴォイシングからハル・ブレインのドラム・フィルなどをよく研究されている。
 今年3月にシングル・リリースされた「矛盾、はじめました。」(作詞:土岐麻子、作曲:さかいゆう)は、ミシェル・フーガン&ビッグ・バザールの「Une belle histoire」(72年・日本では78年にサーカスが「Mr.サマータイム」のタイトルでカバーした)を彷彿させるボサノヴァ・フレイバー漂う大人のフレンチ・ポップで彼女たちの新境地になったのではないだろうか。

 「土曜の夜は」はウワノソラの角谷博栄のソングライティングによるシティ・ポップで、今月14日に数量限定で7インチ・リリースされたばかりだ。若きヘヴィー・リスナーである角谷らしい様々なエッセンスが鏤められているが、特にSUGAR BABE経由のGary Lewis & the Playboys(つまりスナッフ・ギャレット)風のサウンドは好きにならずにいられない。バッキングもウワノソラとサポート・メンバーによるものだろう。アルバムの終盤近くにこの曲を配置するセンスにも懐の深さを感じさせる。
 そして「おやすみ」(作詞:MEG、作曲:connie)は前出の「「ねぇバーディア」のシングル・リリース時にカップリングされた同曲のアルバム・ヴァージョンで、長谷の弦アレンジが際立っている。シングルではオーガニックなスロー・ジャム風だったが、ここではピアノと弦カルテットにグロッケンによるデリケートなサウンドで、曲そのものを引き立てるA&M~Odeのシンガー・ソングライター風のバラードに仕上がっている。
 続くラストの「私へ」(作詞:坂本真綾、作曲:connie)は前曲からの残り香というべき、同系列のバラードで「So Far Away」(キャロル・キング)、「We've Only Just Begun」(ロジャー・ニコルズ&ポール・ウィリアムス)、「Arthur's Theme (Best That You Can Do)」(クリストファー・クロス)等の名曲群を聴き込んだ者にしか作れない美しい曲である。
 この2曲を初め半数の曲作りをしながらトータル・プロデュースも手掛けているconnie氏はかなりのポップス・マニアと察する。
本作『ティー・フォー・スリー』はそんな有能なプロデューサーと多くのクリエイターがバックアップした良質なアイドル、もとい2016年を代表するポップス・アルバムと言えるのだ。
 興味を持ったソフトロック、ポップス・ファンは是非入手して聴いて欲しい。
 
(テキスト:ウチタカヒデ





2016年5月25日水曜日

日本の島でどこが僻地なのか比較検討してみた。東西南北を詳しく調べたがやはりトカラ列島がナンバー1


日本の中で、ちゃんと宿泊施設のある島でどこがもっとも僻地なのか考えてみた。まず私が住んでいる東京を起点にさせていただく。距離で言えば日本の最西端の与那国島で、東京から2112㎞も離れている。那覇からも509㎞。ただ交通のアクセスはよく650分羽田発石垣行きで石垣空港955分着。間に合うと思うが石垣1025分発与那国11時着があるので午前中にも到着。乗り継ぎが心配なら石垣1230分で与那国135分着がある。(自分は後者を選んだ)人口は1479人、レンタカーもあればホテル(ビジネスホテルクラス。だからちょうどいい)もある。なお与那国島のみ昔からアルコール度数60度という泡盛が花酒として作られていたので、酒税法の例外として与那国島のみ3社の60度の花酒を売っている。

では有人最南端の波照間島は、石垣港から1日4往復の高速船に乗って60分で着く。羽田から朝一の石垣島行きなら1150分の船で1250分に到着。人口は539人、レンタカーもあるし、全室個室のペンションもある。これらの離島には私が好きではない星野リゾートが侵食していないので、金持ち向け施設がないところもいい。ここには島民にしか売らない「泡波」という泡盛があり、観光客にはミニボトルのみ売ってくれるが、大きな瓶が入ればネットオークションで数千円に跳ね上がる大人気の酒が有名。

では北といえば日本最北端の稚内からフェリーで行く利尻島・礼文島になる。羽田から稚内へは直通で1時間50分。そこから利尻へはフェリーで2時間。東京と利尻島の距離は1045kmと、実は与那国島の半分しかない。北海道と沖縄はよく比較されるが、北海道の方が圧倒的に近い。空港へ降りてからの大地の広さは比較にならないほど北海道は広い。どのくらい広いかといえば九州と四国と中国地方を足してやっと同じ広さというのだから開いた口が塞がらない。沖縄は直線距離、北海道は面積なのでどちらも互角である。話は戻るが利尻島と礼文島はフェリーで40分、そして礼文島と稚内も2時間なので、自分もそうだったがどこかで1泊して両島を回ることになる。島にはレンタカーもホテルもある。

ここで忘れていけないのが同じ東京都ながら大海原に点在する小笠原と伊豆七島だ。まずは行って帰って一週間以上なのが小笠原。1000㎞離れているが船便しかなく6日に1回の大型定期船、おがさわら丸で25時間30分の航海となる。往復の時間は小笠原がトップになるが、ここは時間に余裕のある旅行者の定番であり、ひなびた観光のイメージはまったくない。多くの人の憧れの観光地として有名だ。それよりも伊豆七島の方が、はるかにひなびた島がある。東京からだと大型船のさるびあ丸で、大島-利島―新島-式根島―神津島ルートと、三宅島―御蔵島-八丈島ルートの2つに分かれる。この中で一番遠い八丈島は船だと10時間20分かかるが、飛行機が飛んでいて50分。そして八丈島の先には、日本一小さい人口166人の青ヶ島村の島、青ヶ島があり、その断崖絶壁で囲まれた姿はインパクト十分、活火山の二重カルデラの中に住むという得意な環境も魅力十分で、行きたい離島の中でベスト1に選ばれたこともあるくらい。





断崖絶壁で人口の桟橋しかなく、八丈島からの小さな定期船は海が荒れる冬などは1か月に数えるほどしか到着できないという不便さだが、ここには定員9人ながら八丈島から365日飛んでいるヘリコプターがある。船では2時間半のところたったの20分で到着し。この青ヶ島は多くテレビで取り上げられるのもこのヘリがあるからだ。ジェットとヘリを乗り継げば午前中に着いてしまうのでアクセスは良い。こんな小さい島なのに居酒屋が2軒あるのもそのマニアックな人気によるものだろう。この島には戦後しばらくまであまりに不便な島なので行政が黙認していた青酎という焼酎があり、その後、酒税法の範疇に入って販売することになったが、この狭い島に10人の杜氏がいて3種のレーベルを使って「青酎」が流通している。今ではAmazonや楽天でも通販で買える人気酒で、特に芋焼酎は非常に美味しい。この最も不便だった青ヶ島が脚光を浴びるのに比べ、椿油の島である人口341人の利島には観光客は非常に少なく昼食を食べられる食堂がないので、民宿で食べるしかない。集落は島の片側だけに集まっているので集落なら5分で一周できてしまうという、何にもない島として有名だ。港湾施設が整っていないので就航率が悪く、大島からヘリが出ている。もうひとつ御蔵島は奇しくも人口341人。ここも防波堤がなく欠航率が高いが、八丈島からヘリが出ていた。売店は4件と利島より多い。ここは野生のミナミバンドウイルカと100%一緒に泳げるため、今はイルカファンの聖地として人気がある。なお両島ともレンタサイクルすらなく徒歩のみである。

一度は行ってみたい離島の第3位に選ばれたのが沖縄の南大東島。この島は奄美大島、沖縄、宮古、八重山が連なる琉球弧の島々の中になくポツンと沖縄本島の東の洋上400㎞にあり、明治になってから八丈島の出身者がサトウキビのプランテーションの島として開発した個人所有の島という不思議な経緯があった。その後沖縄からの移住者も増え、戦後は米軍による農地解放で行政が入り「普通の島」になった訳だが、八丈島と沖縄の文化が混ざった独自の文化圏といえよう。島自体は数千年前にニューギニアにあった海底火山が少しずつ移動して日本の近くまで来たので、生物相も違うし、この島は断崖に囲まれ沖縄の島ながら砂浜がない。那覇から週1~2便の船で13時間、到着すると乗客はカゴにのせられクレーンで釣り上げられ上陸する。この模様のインパクトが凄いので、テレビでも多くこのシーンが取り上げられている。しかし私もそうだが那覇から飛行機で、60分で着いてしまうのでこちらの方が圧倒的に楽。観光客の多くは飛行機だ。島には宿泊施設は3つしかないがひとつはビジネスホテルでなかなか快適だ。レンタカーもあるし、島はくぼ地の中にあるので走っていても海は見えず、島の端へ行くと、島の外は4000mという深い海溝に囲まれているため「大東ブルー」という真っ青な太平洋を目にすることができ、秘境感は十分ある。ただ飛行機の乗り継ぎがいいので東京から午前中に到着できる。なおこの島はサトウキビを使ったCORCORというラム酒を作っていてここもまた沖縄では異質だ。

お勧めなのが宮古諸島の水納島だ。ここへ行くにはまず宮古島と石垣島の中間にある多良間島へ行かないといけない。多良間島には素晴らしいビーチがあるのだが、宮古から11便、2時間の船か、宮古から12便の飛行機、こちらは25分で着くが、宮古から多良間島へ行く観光客はほとんどいない。その多良間島の沖に水納島がある。今は住んでいるのは宮国さん一家の3人だけで全島が牧場になっていて、島へ行くのは宮国さんに電話をして船での多良間島への往復をお願いする。船は宮国さんの個人の船で、30分で到着する、そして島には1軒、台所、冷蔵庫、電子レンジ、お風呂、トイレと清潔で設備が整った一軒家があり、そこを貸してくれるので実に快適。自炊なので多良間島のスーパーに寄って米やら缶詰、レトルト、ジュースなど買い込んでいったが、冷蔵庫には前に泊まった人が残していった調味料やらマヨネーズやら色々揃っていた。そしてテレビは地デジなので東京とまったく同じの高画質、そのギャップに驚かされる。しかし島は広大な白浜と珊瑚礁に覆われ,人工の音は何も聴こえない。これほどの贅沢はないだろう。石垣島より海が美しい宮古島に住んでいる人が、一番海がきれいなのは水納島と断言していたので、最も僻地でかつ行った甲斐がある場所は宮古の水納島かもしれない。

 詳しい人ならこういう素泊まりなら、八重山のパナリ(新城島の上地島)のパナリ観光ゲストハウスがあるじゃないかという人もいるだろうが、ここは一玄さんを受けつけない。島中に入ってはいけない神聖な場所があるパナリだから、一度ツアーで来て、その心得を知っている信頼のおける人のみ許可が出る。パナリにいったのでその理由はよくわかる。パナリはツアーに入れば上地島も下地島も容易に渡れるが、神事が行われる上地島の方は、島内観光は案内付きで厳しい制限が付く。言われたのはアカマタ・クロマタが行われる御嶽の鳥居の中へは住人の案内付きだから入れるけど先に見えるアカマタ・クロマタが現れる白地に赤の太陽と月のマークがある鳥居は遠くから見るのみ。もちろん撮影禁止。あと琉球王府に献上するジュゴンの骨を祀った人魚神社は鳥居の中に入ってはいけないという二つ。素泊まりなので食べ物と飲み物は石垣島などから買ってくる必要があり、夜は住人であるパナリ島観光の人がいるのでお酒を付き合う必要があるのだとか。

 さて、いよいよ本命のトカラ列島を紹介しよう。鹿児島の近くに種子島、屋久島があるが日本列島の小さな地図では奄美大島までは空白のように見える。しかし実は小さな島が点々と連なっているのだ。まず屋久島の上に3つの島があり、が竹島、硫黄島(あの米軍との激戦があった島とは違う島)、黒島(八重山の島とは違う)は三島村に属し、この3つの島を巡るフェリーも就航している。トカラ列島はそれより先に12の島が点々としてあり、現在は7島が有人島で、鹿児島港と奄美大島の名瀬港の間にフェリーとしまが週2回就航している。空路はない。島名の後ろに鹿児島港からの所要時間を書いておいたのでどれだけ遠いかこれだけでも伝わってくるだろう。口之島(6時間10分)、中之島(7時間5分)、平島(8時間25分)、諏訪之瀬島(9時間20分)、悪石島(10時間15分)、小宝島(11時間35分)、宝島(12時間15分)、そして名瀬港は15時間30分だ。驚くべきは島の人口。順に116人、139人、77人、50人、73人、52人、117人で合わせて624人しかいない!各島にあるのは民宿のみで、売店も最低限のものが置いてあるのみ。島の中はどこも徒歩だけだ。この島の中でも平島と小宝島は港湾設備が整っていないので、海が荒れると飛ばされることがあるそうで、暮らしの大変さは想像を絶するものがある。この7島の中で最も知られたのが悪石島だろう。

2009年の皆既日食で、悪石島が625秒という他に類を見ない最長の長さで皆既日食が見られると大騒ぎになり、マスコミ、研究者、観光客が殺到したが、人口73人の島に希望者全員を受け入れるキャパなどなく、43万円という高額料金で臨時の施設を作ってそれでも400人が集まったのに当日は暴風雨で何も見えず…という悲劇があった。私も奄美大島まで行って、同じ目にあったので(雨はなかったが…)苦い思い出だ。この時の突然の悪石島フィーバーでこの島独自の風習である仮面神ボゼが紹介され、日本由来とはとても思えないこの奇怪な仮面の草装神は、宮古島のパーントゥと並ぶ公開された異形の神の最高峰だった。八重山のアカマタ・クロマタは一切が非公開。これが入れば日本の仮面神のトップで間違いないが、写真や映像は一切紹介できない。このタブーは広く共有されていて、今調べたがYou Tubeは全く無し、ネット上では一人、「実話ナックルズ」の掲載写真を転載した不埒ものを見つけたが、そのHPはきっと何かがおこる。ちなみに「実話ナックルズ」の写真はすべて昔の他の本のパクリ。単純な行き帰りの時間なら小笠原が一番なのかも知らないが、設備が整っていて、観光を売りにしている小笠原は、僻地感が乏しい。やはり鹿児島からさらに長時間のフェリーに乗り、各島とも100人程度の人口しかないトカラ列島が、日本の僻地チャンピオンである。ただ時折、鹿児島から「トカラ列島七島めぐり紀行」というパッケージツアーが行われていて、5日間で七島を回って奄美大島で下してくれる。天気が悪いと七島は回れず運しだいだとか。最後にひとつ。テレビで見たが、トカラ列島の人もネットで、Amazonで注文していた。Amazon恐るべし。(佐野邦彦)
 

 
 



2016年5月22日日曜日

☆Rolling Stones:『Totally Stripped』(Ward Records/GOXS90118-4)4Blu-ray+2CD


ローリング・ストーンズの1995年のアン・プラグド・アルバム『Stripped』。このアルバムは、34日・5日の東京の東芝EMI3スタジオと7月23日~26日のリスボンのスタジオでの録音に、ストーンズにしては小さな会場、スモール・ギグとして行われた526日のアムステルダム、73日のパリ、719日ロンドンでのライブから抜粋して作られたアルバムだった。リスボンでのスタジオ録音を除いた東京と3か所のライブはカメラに収録されていて、そのハイライトを抜粋したものは95年の年末にMTVで『Stripped TV Special』のタイトルで放送された。本ボックスでは、放送版より長く編集したBlu-rayTotally Stripped』になり、なんと3回のライブは完全版で3枚のBlu-rayに収録された。そして『Totally Stripped』のタイトルでアムステルダム7曲、パリ4曲、ロンドン3曲から抜粋されたCDがプラス、さらに日本版のみ各会場から1曲ずつ計3曲を収録したボーナスCDがプラスされた。この2枚のCDだが、音源は『Stripped』とダブったのは1曲で、「Street Fighting Man」だが、『Stripped』は短縮版だったのでこちらは嬉しい完全版。あと「Gimme Shelter」はシングル「Wild Horses」のカップリングで収録されたものと同じ。(ミキシングは異なる。)曲目としても初めて登場したのは「Honky Tonk Women」「Far Away Eyes」「I Go Wild」「Miss You」「Brown Sugar」「Midnight Rambler」「Jumpin’ Jack Flash」「Rip This Joint」の8曲。(この時期の録音では東芝EMIスタジオで録音した「Honest I Do」が98年のサントラ『Hope Floats』のみ収録)このCD3公演からのセレクトなので、この3枚のBlu-rayが極めて重要なものになる。まずアムステルダムはパラディソという定員1500人のクラブで526日と27日に行われ、Blu-rayには26日の模様が収められた。全20曲だが、他の会場と選曲がかなり違う印象だ。なんといっても最も小さな会場なのでメンバーと観客の距離感が違う。冒頭からメンバーは手を伸ばす観客とハイタッチをしていて、キースは満面の笑顔だしこれから始まるスモール・ギグを楽しみにしていることが伝わってくる。出だしの「Not Fade Away」からロンはアコギでガシガシとコードを弾いて曲が盛り上がる。続く「It’s All Over Now」と「Live With Me」はエレキ。前者はアレンジを変えていて新鮮だ。後者はボビー・キーズのサックス・ソロがマイクなどいらないような生々しい迫力で迫る。「Let It Bleed」からアコースティック・セットになりミックもアコギを弾き、ロンはアコギを寝かせてボトルネックを弾く。そして渋いブルース・ナンバー「The Spider And The Fly」でミックはハーモニカを入れる。「Beast Of Burden」もアコースティック・セットなので間奏のアコギがきれい。そして「Angie」「Wild Horses」と定番へ。「Sweet Virginia」からキースのソロ3曲連続の最後の「The Worst」まではキースはずっとアコギで、ロンは時々エレキを持つが、アコースティック・セットが12曲続くのは素晴らしい。「Gimme Shelter」でエレクトリック・セットになり、リサ・フィッシャーとのエロティックなからみの演出もある。その後「Respectable」「Rip This Joint」ではキースはセミアコ、最後の「Street Fighting Man」ではキースとロンはアコギなので、レコードと同じパワフルなコードが再現されて最高だ。73日のパリのオランピア劇場も2000人という小ささで手の届きそうな範囲に観客がいる。エレクトリック・セットの「Honky Tonk Women」「Tumbling Dice」から始まり「Beast Of Burden」まで7曲エレクトリック・セットが続く。そして「Let It Bleed」からはアムステルダムと同じアコースティック・セットへ。「Angie」ではキースはアコギだが「Wild Horses」ではエレキを弾く。もちろんサウンドはアコースティックだが。「Down In The Bottom」ではミックはアコギ、キースとロンはアコギのボトルネックでこのブルース・ナンバーを決める。5曲のアコギの後、「Like A Rolling Stone」からはエレクトリック・セットへ。「Miss You」はリサ・フィッシャーがミックとからむ演出があり、ミックへの乳首舐めが凄い。エンディングはコードが跳ね上がるタイプの「Brown Sugar」のあと、レコードに忠実な「Jumpin’ Jack Flash」が最高。コーラス部分がちゃんとしているのでレコードと同じに聴こえる。キースのコードもミックの歌い方も崩さないところがいい。719日のロンドンはブリクストン・アカデミー、5000人という規模で他に比べて倍以上大きいが、これでも「スモール・ギグ」と言ってしまうところがストーンズの凄いところ。このフィルムのみ他と違ってバックステージから映っていて、会場も観客の手などが見えないので大きな会場ということが伝わってくる。最初の3曲はパリと同じ選曲、6曲目の「Dead Flowers」からアコースティック・セットに変わる。今までロンがアコギを寝かせてボトルネックで弾いていた曲がスティール・ギターを使うなど大きな会場用なのか使い方が違っていた。ただ「Down In The Bottom」のようなブルース・ナンバーではロンがアコギを寝かせてミックと合わせて3本のアコギの曲もある。ただしロンがエレキの場合も多い。そして「Like A Rolling Stone」ではもともとディランがエレキを持って出てきた曲ということもあるのか、この会場のみエレクトリック・セットになった。以降はエレクトリック・セットだが、「Monkey Man」で盛り上がる。そしてリサ・フィッシャーとのからみはこの会場ではこの曲で、リサの「You’re the monkey」の熱唱が光る。後のキースの2曲もエレクトリック、以降もアコギに持ち帰ることはなく最後の「Jumpin’  Jack Flash」へ。キースは上半身裸でミックも裸に上着をひっかけているだけというお馴染みの姿に。ここでもコーラスなどレコードと同じでパリと同じ演奏でいい。そしてBlu-rayの『Totally Stripped』は東芝EMIスタジオでの4曲が目玉。メンバー4人とサポートメンバーが集まって録音されたが4人がお互いの顔が見える円形で囲んで一斉に演奏する様は感動的。キースの「滅多にやらない曲との縁が戻って嬉しいよ」という言葉と現実派のミックの「古い「クモとハエ」とか大変。違う時代に引き戻されるようでそういうのは苦手。入り込みにくい。でも絶賛してもらえたからいいかな」の感覚の違いが面白い。Blu-rayでは「Love In Vain」が完全版。「The Spider And The Fly」は途中でミックのインタビューがインサートされて再び演奏に戻って完奏する。「Wild Horse」はピアノにコーラス隊も入っての一発録りで完全版、キースは「みんな揃って演奏できたのが感動的だ。小細工はきかないし、みんなが揃って一発録りし、音が溶け合っていた」と大満足。チャーリーも同様だった。最後は「Let It Bleed」で、ここではメンバーのスタジオ内のショットが映像で、曲も短く編集され終わる。4曲だけの収録だが、ここでしか見られない映像で超貴重。実際には16曲を演奏し、5曲+1曲がCD化された。映像の中の「Love In Vain」「The Spider And The Fly」「Wild Horses」は『Stripped』に収録されている。MTVでは89年からUnpluggedが始まり、ポール・マッカートニーは91年に『Official Bootleg』を出すなど。95年のストーンズのこのアルバムは企画としては遅い。しかしキースは自宅や、ツアー時でのロンとのセッションは常にアコギで、アンプラグドは昔からの自然なこと、そういったいきさつからはじまって東芝EMIスタジオのセッションとその後の日本での9公演でのアコースティック・セットの導入、3公演の詳細、『Stripped TV Special』とBlu-rayTotally Stripped』の違いなど、ストーンズの伝道師、寺田正典氏が5万字を超える圧倒的なライナーで紹介してくれる。これで他のものは一切読む必要がない素晴らしいライナーだ。ただ、この日本版はTシャツが同梱されてしまうのでこれのみ困る。昔日本盤の『Time Of The Zombies』もそうだったが箱だけ大きくなり、着てしまえば箱が無駄になってしまうので結局着ないで取ってあるので部屋が狭くなるのみ。LPと合わせてTシャツも同梱じゃないものも選べるようにしてほしい。なにしろ部屋が狭いので…(佐野邦彦)