2021年1月23日土曜日

DEAF SCHOOL:『PARIGI MY DEAR』(CA VA? RECORDS / HAYABUSA LANDINGS INC. / HYCA-8014)

 
 昨年11月に一色萌(ひいろもえ)のソロデビュー・シングルのカップリング・カバー曲として、43年の歳月を経て「TAXI」をリレコーディングした、リバプール出身のパブロック/パワーポップ・バンド、デフ・スクール(Deaf School)が最新コンピレーション・アルバム『PARIGI MY DEAR』を日本独占で1月27日にリリースする。
 本アルバム・リリースに先行して13日に配信された新曲「WHERE DO WE GO FROM HERE?」をフューチャーし、2010年のシングル曲「SURVIVOR SONG」、現在廃盤となっているミニ・アルバム『Enrico + Bette xx』(2011年)の全5曲と、日本のみでリリースされた『Launderette』(2015年)から6曲の計13曲をメインに、ボーナス・トラックとして「WHERE DO WE GO FROM HERE?」のエクステンデッド・バージョン、冒頭で紹介した一色萌によるカバーでリレコーディングされた「TAXI」(初CD化!)など、合計17曲収録しているお得盤なのだ。
 

 昨年の一色のレビューでも紹介したデフ・スクールは、英国ロック・マニア垂涎と言うべき伝説的存在で、73年イギリスのリバプール・アートカレッジの学生達を中心に結成された。
 70年代のパンク・ムーヴメント前夜のパブロック、モダンなパワーポップ・バンドの先駆者として知られている彼らは、アートカレッジ出身者特有の強烈な個性と才能のあるメンバー達が多く在籍したことで、ワーナー・レコードと契約し76年に『2nd Honeymoon』でデビューする。元アップル・レコード重役のデレク・テイラーがA&Rマンを務めるバックボーンもあり、その後も『Don't Stop the World』(77年)、『English Boys/Working Girls』(78年)と合計3枚のオリジナル・アルバムをリリースするが、大きな成功には至らず78年にバンドは解散してしまう。 

 その後ギタリストでメイン・ソングライターだったクライヴ・ランガーは、エンジニアのアラン・ウィンスタンリーとプロデューサー・チームとして、マッドネスの『One Step Beyond...』(79年)を皮切りにデキシーズ・ミッドナイト・ランナーズの『Too-Rye-Ay』(82年)、エルヴィス・コステロの『Punch The Clock』(83年)等数多くの名作を制作しており、手掛けたアルバムやシングルは400枚を超える。
 ソングライターとしてもコステロの「Shipbuilding」(83年)を共作で手掛けてヒットさせたのはよく知られる。熱心な英国ロック・マニアには知られるが、この曲にいたく感動したティアーズ・フォー・フィアーズ (Tears for Fears)のローランド・オーザバルは「I Believe」を書き、全世界で約1000万枚をセールスした『シャウト(Songs from the Big Chair)』(85年)に収録する。このような経緯からローランドは、クライヴに次作『The Seeds of Love』(89年)のプロデュースを依頼するが、リード曲「Sowing the Seeds of Love」のレコーディング方法を巡って衝突して結局決裂してしまう。アーティスト型のプロデューサーとのワークスにはよくあるパターンといえるが、80年代英国ロック界におけるクライヴの影響力を垣間見られる興味深いエピソードである。

 デフ・スクールのメンバーに話を戻すが、ベースのスティーヴ・リンジーは、79年にニューウェイヴ・バンドThe Planets(ザ・プラネッツ)を結成して、2枚のアルバムをリリースし、レゲエのビートをロック的解釈で取り入れて注目され、日本でもムーンライダーズや一風堂にも大きな影響を与えていえる。その後スティーヴはプロデューサーとして活動し、ビリー・ブラッグやハウスマーティンズ等が所属したインディーズ・レーベルGo! Discsではジェネラル・マネージャーを務めている。

 解散から10年後の88年にはオリジナル・メンバーがほぼ集結しリユニオン・ライヴを開催している。その模様は同年リリースされた『2nd Coming Liverpool '88』で聴くことが出来る。更に2006年の再集結後は現在に至るまで断続的に活動を続けており、『Enrico + Bette xx』(2011年)、『Launderette』(2015年)、『Let's Do This Again Next Week』(2017年)と3枚のアルバムをリリースしているのは頼もしい。
 なおこのリユニオン期間中96年にオリジナル・ドラマーのティム・ウィテカーが死去し、2010年には個性的なヴォーカリストだったエリック・シャークが亡くなっている。
 本作に参加しているオリジナルの現役メンバーは、2名のヴォーカリスト、エンリコ・キャデラック(本名:スティーブ・アレン)と紅一点のベット・ブライトに、ギタリストのクライヴとベーシストのスティーヴ、キーボーディストのマックス・リプル、サックスのイアン・リッチー(セッションマンとしてBB5の『The Beach Boys』(85年)からRウォーターズの『Radio K.A.O.S.』(87年)等々に参加)、そして現在のドラマーのグレッグ・ブレイデンの7名である。


 ここからは本作『PARIGI MY DEAR』の収録曲の中から筆者が気になった主な曲の解説をお送りする。
 冒頭の「WHERE DO WE GO FROM HERE?」はコロナ禍が始まった昨年にリモート・レコーディングされた新曲で、70年代のデヴィッド・ボウイやロキシー・ミュージックに通じるロマンティシズム溢れるロック・ナンバーだ。テンポアップして熱気を帯びていくグルーヴにはとてもリモートとは思えないリズム・セクションの結束力を感じさせる。ソングライティングはエンリコとスティーヴの共作である。

 
WHERE DO WE GO FROM HERE? / DEAF SCHOOL 

 スティーヴのベース・ラインがモータウン(H=D=H)・テイストな「YOU TURN AWAY」は、ノーザン・ソウルを好んでいたらしいクライヴの作曲、エンリコの作詞による疾走感のあるダンスナンバーだ。エンリコとベットのヴォーカルの掛け合いにはデフ・スクールらしさを強く感じる。この曲が収録された『Enrico + Bette xx』のドラマーは、パンクバンドCrackoutの元メンバーだったニコラス・ミラードが務めている。
 一転して古き良き英国ロックの荘厳さが漂う「LIVERPOOL 8」は、メンバー達の出身地であるリバプールという街のライフスタイルを描いている。プロコル・ハルムの匂いがする瞬間もあるが、リード・ギターのトーンは過剰にエフェクティヴで全体のサウンド的には支離滅裂な部分はある。だがそんな折衷感覚がアートカレッジ出身者ゆえの美学なのだろう。この曲が収録された『Launderette』から現ドラマーのグレッグに交代している。

 この編集盤でセレクトされた楽曲の中でも特に筆者好みなのが、続く「BROKEN DOW ARISTOCRATS」(『Launderette』収録)である。ペーソス溢れるエンリコの歌詞の世界とクライヴの巧みな作曲能力が結晶していて、サザン・ソウルを英国風ポップに解釈したこのサウンドは、コステロやスクイーズ (Squeeze)のファンなら共感してくれるだろう。またこの曲のMVでは当時来日公演で訪れた東京の街角やライヴ会場で撮影されたシーンを中心に構成されている。

 
BROKEN DOW ARISTOCRATS / DEAF SCHOOL 

 本作中最も大作の「GOODBYE TO ALL THAT」(『Enrico + Bette xx』収録)は、エンリコとクライヴにスティーヴの3名がソングライティングした組曲で6分49秒にもおよぶ。ドラマティックなヴァースと大サビはクライヴの作曲で、中間部で転調するパートはスティーヴが手掛けている。このブリッジが始まる転回は10ccを想起させて英国ロック・マニアにはニヤリとする。またマックスの美しいピアノとイアンのソプラノ・サックスがこの曲を格調高く演出しているのも聴き逃せない。
 2010年のシングル「SURVIVOR SONG」は、オリジナル・メンバーでヴォーカリストだったエリックへの追悼ソングで、彼が生前書いた歌詞にクライヴがカントリー調の曲をつけている。ユーモアと哲学が共存する歌詞の世界で、「サバイバルの曲を歌うのは、僕かも知れないし、君かも知れない」というパンチラインをエンリコが歌っているのが心に響く。

 ボーナス・トラックにも触れておこう。「WHERE DO WE GO FROM HERE?」のエクステンデッド・バージョンは、間奏部にイアンのサックス・ソロをフューチャーしてオリジナルより1分ほど長い。
 初期アルバムからのデモ・バージョンは2曲で、ファースト・アルバム『2nd Honeymoon』(76年)を代表する「WHAT A WAY TO END IT ALL」と、サードの『English Boys/Working Girls』(78年)からは「MORNING AFTER」で、いずれも曲の骨格とアレンジの方向性は最終ヴァージョンと同じであり、デモというよりリハ・テイクという内容だ。
 また目玉となる一色萌により日本語カバーされた「TAXI」は、現メンバーでリレコーディングされたバックトラックを使用しているが、サックス・パートのみセッションで多忙だったイアンに代わり、名手の本間将人がダビングしている。
 オリジナルではエリックが担当していたナレーションと今回の日本語訳詞は、伝説のバンド“シネマ”のベーシストで“ジャック達”のリーダーである一色進(いっしき すすむ)氏によるもので、英日のB級(良い意味で)ロック・ファンには嬉しい限りだ。
 往年のデフ・スクールのファンは元より、一色萌を切っ掛けに彼らを知った音楽ファンも本作を直ぐに予約して聴いて欲しいと願うばかりだ。

 (ウチタカヒデ)

 

2021年1月15日金曜日

The BuckaroosのDon Richについて

 普段は【ガレージバンドの探索】というコラムを書いているけれど、ガレージロックしか聴かないというわけでもなく、その時々で好きだと思ったものを聴いていて少し前にカントリー音楽に興味をもった。

 あまりないパターンかもしれないけれど、そのきっかけはガレージだった。【ガレージバンドの探索・第四回】で取り上げたDownliners Sectはガレージ、R&Bとして括られるようなバンドにも関わらず、一枚カントリーのアルバムを出している。そのアルバムはあまり人気が高くなく、私もあまりしっかりと聴いてはいなかったけれど、記事を書く機会に原曲も合わせて聴いてみた。その中でとても気に入った曲がHarlan Perry Howard作曲の「Above & Beyond」だった。この曲を歌っているカントリーシンガーBuck Owensにもとても惹かれた。Buck Owensはカントリー歌手として多くのヒット曲で有名だけれど、よく知られるのはThe Beatlesがカバーした「Act Naturally」かもしれない。「Act Naturally」の原曲はずっとBuck Owens And The Buckaroosだと思っていたのだけれど、もとはカントリーミュージシャンJohnny Russellの曲のようだ。

 Buck Owens And The Buckaroosについて調べてみると、そのサウンドはベイカーズフィールドサウンドと呼ばれる種類のカントリーだそうで、Chet Atkinsなどが開始したナッシュビルサウンドのライバルにあたるらしい。このベイカーズフィールドサウンドのスカッとする陽気さが好きだ。そしてBuck Owens以上に興味をもったのが彼のバックバンドThe BuckaroosのリーダーDon Rich。ギター、フィドル、テナーコーラスなど多くの役割をこなす。快活なテレキャスターのサウンド、朗らかな歌声を聴いていると最高に気分がいい。

(左)Don Rich (右)Buck Owens

 1941年、ワシントン州オリンピアで生まれたDon Richは幼い頃からフィドルやギターを弾いていたそうだ。高校生の頃、Blue Cometsというロックンロールバンドを結成し地元のレストランなどで演奏していた。1958年にタコマのSteve’s Gay ’90sでBuck Owensにフィドル奏者としてスカウトされ、始めは大学進学のために断ったものの1年後大学を中退してバンドに参加することを決断。フィドルを演奏した最初のトラックが「Above & Beyond」だそうだ。


 Don Richがリードギターを担当している1963年リリースの「Act Naturally」以降はギタリストとしても活躍していき、Buck OwensとDon Richは相棒のようなお互いなくてはならない関係を築いていく。しかし人気バンドとして成功するも、1974年Don Richは32歳の若さでバイク事故により他界した。

 2000年にSundazedからリリースされている『Country Pickin': The Don Rich Anthology』(SUNDAZED SC11091)では、Don Richが関わった多くの作品の中でも、彼の歌や演奏がメインとなるものが集められている。



【文:西岡利恵



2021年1月5日火曜日

1970年代アイドルのライヴ・アルバム(岡崎友紀)

 岡崎友紀といえば1970年にスタートしたテレビ・ドラマ『奥さまは18歳』を連想される方が多いはずだ。それもそのはず、最高視聴率33%(平均25%)という大ブレイクで、日本の“ラブ・コメディ”の原点となった番組だった。その主演女優としてトップ・アイドルの座を不動のものにしていたのが彼女だ。このドラマで夫婦となった石立鉄男との「て・つ・や♡」「あ・す・か!」のやりとりが目に焼き付いている同世代も多いことだろう。この番組は絶大な人気を獲得し、映画化されそして「18歳シリーズ」として彼女の主演ドラマ・シリーズ化もされている。そんな彼女は、同時期に放映されていた“スポーツ根性ドラマ”『柔道一直線』のマドンナ役で清純派女優吉沢京子と並び、若手女優2トップとして君臨していた。

 なお彼女は歌手活動にも精力的に取り組んでおり、アイドル時代にはシングル22枚、LPは13枚(1枚はライヴ盤)をリリースしている。ライバルだった吉沢京子がシングル7枚、LP1枚だったことと比較すれば、その本気ぶりが伺えるはずだ。

 最大ヒットは筒美京平=橋本淳コンビの1972年<私は忘れない>(21位;18.1万枚)が挙げられる。このコンビからはテレビ・ドラマの主題歌<なんたって18歳!><ママはライバル>をはじめ人気作を提供されているが、注目は1976年19枚目のシングル<グッド・ラック・アンド・グッバイ>だろう。この曲は
後にユーミンが『14番目の月』に収録するナンバーだった。なおこの歌手活動では『奥さまは18歳』の役名だった「高木飛鳥」のペン・ネームで自身の持ち歌の作詞も手掛けていた。
 

 余談になるが、彼女は熱狂的なスヌーピー・マニアとして有名で、ぬいぐるみとのスナップが数多く紹介されている。
 その後、結婚を機に惜しまれながら引退したが、離婚をへて芸能活動を再開している。そして歌手としての復帰第一作が1980年にYUKI名義で発表した<ドゥー・ユー・リメンバー・ミー>(作:加藤和彦)だった。この脱アイドルを図った再デビュー作は大きな話題となり、彼女の代表作といえるほどヒットとなり、後にキタキマユがカヴァーをするほどの傑作になった。そしてこの勢いで、加藤和彦と清水信之と組んだ『ドゥー・ユー・リメンバー・ミー』を発表。


 さらに翌1981年には、前作に続き<ファースト・ブラッド>、そして新たに<センチメンタル・シティ・ロマンス>の協力を得た『So Many Friends』をリリースしている。このアルバムはシンガーとして十分に満足いく仕上がりだったものの、大きな話題にはいたらず、以降新作は発売されていない。
 多分この時期にもライヴを開催していたはずなのだが、残念ながらこの年には私自身は東京の生活から静岡に戻ってしまったので、聴くことは叶わなかった。  

 その後の彼女は1991年に劇団『NEWS』を結成し、若手俳優の指導育成にあたり、みずから脚本・演出・振り付けを手掛けた定期公演を開催している。同時に彼女自身もタレント・舞台女優として活動し、「岡崎友狸(ゆうり)」の雅号を持つ書道師範としても活躍。更に現在「エルザ自然保護会」副会長、「地球こどもクラブ」理事、「日本パンダ保護協会」評議員などの重役も担い、環境保護活動にも積極的に取り組んでいる。  


『ライヴ!岡崎友紀 マイ・コンサート』 
1975年3月5日 / 東芝 / TP-72032  国内チャート 71位  0.4万枚 

①心もよう(井上陽水:1973)、②恋のささやき(小坂恭子:1974)、③メドレー(白い船で行きたいな~黄色い船~私は忘れない)、④ワンマン・ミュージカル:アンナの旅、⑤悪夢(You Haven’t Done Nohing)(スティーヴィ・ワンダー:1974)、⑥土曜の朝には(Come Saturday Morning)(サンドパイパーズ:1969/1970)、⑦ザッツ・オールド・アメリカン・ドリーム(That Old American Dream)(ヘレン・レディ:1974)、⑧いろは、⑨歌のある限り(Keep On Singing)(ヘレン・レディ:1974)、⑩この世の果てまで(End Of The World)(スキーター・デイヴィス:1963) 

 彼女待望のライヴ・アルバムは1974年12月7日の模様を収録したものだ。アイドルとしての全盛期を過ぎた頃のライヴだが、旬の洋楽カヴァーにチャレンジするなど、シンガーとしての意欲は買える。
 このアルバムでの注目点は、当時、同じ「東芝」所属の気鋭のマルチ・プレーヤー、深町純がアレンジャーとして参加しているところだ。この時期の深町は『Introducing』『六喩(ろくゆ)』といった先進的なインスト・アルバムを発表しており、それゆえおおいに期待したものだが、残念ながらかかわったのは①~③のみだった。とはいえヒット・メドレー③が深町のアレンジで聴けるは価値があると思う。
 なお、洋楽カヴァーの訳詩は彼女自身(高木飛鳥名義)によるものだ。 その肝心の洋楽カヴァーだが、⑤はテンポこそ彼女に合っているが、シャウトするよりも、『奥様は18歳』の飛鳥役のようにどこかすねた感じで表現したほうが、よりフィットしていたように感じる。サントラ・ナンバー⑥は、いかにも女優を自負したような選曲だ。続く⑦⑨はヘレン・レディのレパートリーからで、⑦はファンク調に、⑨は原曲よりもややアップ・テンポに仕上げており、当時21歳の等身大の姿が反映された仕上がりになっている。  

参考1:カヴァー収録曲について 
①心もよう 
 日本初のミリオン・アルバムとなった井上陽水の1973年リリースのサード・アルバム『氷の世界』からのファースト・シングル。陽水自身初のトップ10(7位;42.3万枚)ヒットとなった。

②恋のささやき 
 <想い出まくら>の大ヒットで知られる小坂恭子の1974年5月デビュー曲。この曲は1974年第7回の「ヤマハ・ポピュラー・ソング・コンテスト」グランプリ曲。
 
⑤悪夢 
 原題<You Haven’t Done Nohing>。スティーヴィ・ワンダー1975年の「グラミー賞最優秀アルバム賞」受賞作で初全米1位作『ファースト・フィナーレ(Fulfillingness' First Finale)』からのファースト・シングルで自身4作目の全米1位曲。バック・コーラスを務めたのは当時、同じモータウンに所属していたジャクソン・ファイヴ。
 
⑥土曜の朝には
  原題<Come Saturday Morning>。A&M所属のソフト・コーラス・グループ、サンドパイパーズの<Guantanamera!>と並ぶ代表作。1969年に1度リリースされるも不発に終わるが、1969年秋公開の映画『くちづけ(The Sterile Cuckoo)』(ライザ・ミネリ主演)の挿入歌となり、1970年に全米17位(A.C.5位)を記録した。8作目のアルバム『Come Saturday Morning』(1970)収録。 

⑦ザッツ・オールド・アメリカン・ドリーム
  原題<That Old American Dream>。ヘレン・レディの5作目のアルバム『Love Song For Jeffrey』(1974年:全米11位)収録曲。ヒットメーカーのマイケル・ヘイゼルウッド=アルバート・ハモンドの共作曲。 

⑨歌のある限り  
 原題<Keep On Singing>。ヘレン・レディ第5作『Love Song For Jeffrey』からファースト・シングルで全米15位(A.C.1位)を記録した彼女の代表曲のひとつ。作者はモンキーズのヒット・ソングを数多く手がけたボビー・ハートと、ダニー・ジャンセン。

⑩この世の果てまで 
 原題<End Of The World>。オリジナルは1963年全米2位にランクされた人気カントリー歌手スキーター・デイヴィスの代表曲。この時期のカヴァーは、当時ロングセラーになっていたカーペンターズ『Now & Then』の収録を意識したのかもしれない。

(鈴木英之)

2020年12月29日火曜日

WebVANDA管理人が選ぶ2020年邦楽ベストソング


 恒例となったWebVANDA管理人(筆者)が選ぶ、邦楽の年間ベストソングを今年も発表したい。
 選出楽曲はプレス向け音源としてリリース前に入手した中からレビューで取り上げたアルバム中、最もリピートした収録曲であり、筆者目線ではアルバムを象徴する存在となっている。
 
 今年は未曾有のコロナ禍により、音楽業界に携わる人々はライヴやイベントでの収入源を失い、大変苦しい中での活動やリリースとなった。本サイトで紹介するアルバムは主にインディーズ・ミュージシャンが多いので、特にその影響を受けたのではないだろうか。
 そんなミュージシャン達の作品を多く紹介することで、微力ながら彼等を応援したいと思う。またこの記事で改めて知った各作品を入手して聴くことで、彼等の活動を後押して欲しい。 
選出趣旨からコンピレーション・アルバムと配信のみの単体楽曲は除外とした。昨年同様、順位不同のリリース順で紹介する。

※サブスクに登録されたベストソング・プレイリスト
(未登録曲の内、別Verで登録されているものも含む)


☆Flyaway on Friday / WACK WACK RHYTHM BAND
『THE 'NOW' SOUNDS』収録)  
東京ナンバーワン・ヴァーサタイル・バンドの15年振りのオリジナル・アルバムから。ニューソウル系コード進行とヴォイシングが効いた歌物レアグルーヴで、女性メンバー2人のダブル・ヴォーカルとの相性がとてもいい。


☆On Green Dolphin Street / Saigenji
唯一無二な存在のライヴ・パフォーマーとジャズ系ミュージシャン達の鉄壁な演奏を収めた2枚組ライヴ・アルバムのハイライト。ジャズスタンダードの壮絶なカバーは、マイルスの『Complete Live At Plugged Nickel 1965』クラスに興奮してしまう。


☆ALIVE / RYUTist(『ファルセット』収録) 
アルバム毎に光速で進化し続ける一流ガール・ヴォーカル・グループの最新作のキーデバイスとなった1曲。現代音楽やジャズ・マナーの演奏から構築されるサウンド・ストラクチャーに彼女達の歌声が溶け込み、得も言われぬ世界観を生んでいる。 


☆さよなら麦わら帽子(Live Version) / ウワノソラ
『くらげ』収録)
 自主製作マキシシングル収録にしておくには勿体ないクオリティのライヴ音源。彼等のファースト・アルバムの中でも筆者がファイバリットにしていた、リズムチェンジが激しいラテン・ジャズ風ポップスで、巧みな演奏力はスタジオ盤を超えている。


☆さよならはハート仕掛け, セピア色の九月 / Kaede
Lamp染谷とウワノソラ角谷の共同プロデュースによる、Negiccoメンバーのセカンド・ミニアルバムは、両バンドファンにとっても完成度が高く、1曲に絞って選べない。それはクリッパーのアールグレイとヴェローゾのカイピリーニャのいずれかを選べという愚問にも近い。


☆TAXI / 一色萌 FEAT. Deaf School(7”『Hammer & Bikkle』収録) 
英国ロック・マニア感涙のコラボ&カバーを実現させた7インチから。伝説のパブロック/パワーポップ・バンドに43年の歳月を経てリレコーディングさせてしまった、プログレ~パブロック・アイドルとレーベル代表の情熱に敬服するばかりだ。


☆悲しいくらいダイヤモンド / 流線形/一十三十一
『Talio』収録) 
ネオ・シティポップのアイコン達が集結して製作したドラマ・サウンドトラック・アルバムを期待しない方がおかしい。一十三の艶のあるコケティッシュな歌声とアーバン・メロウなサウンドで、悪夢にうなされたこの年を80年代の煌めきに揺り戻してくれた。


☆Count On Me / Diogenes Club (『Count On Me』収録)  
男性2人組のネオ・アコースティック・ユニットによるファースト・7インチのタイトル曲。ギターポップとソフトロックを融合させたソングライティングとアレンジを誇るクリエイターと、ギタポ・バンドマンにしては美声で巧すぎるヴォーカリストとの邂逅による名曲。


☆公園日和 / 伊藤尚毅 (『伊藤尚毅の世界』収録)  
若きシンガー・ソングライター初の全国流通アルバムの核となる曲。風をあつめた遙か昔の時代から時を止めたような、桃源郷ブルーアイドソウルは彼以外には生み出せないだろう。個性派ブライテストホープとして次作も期待している。


☆Shame On You / Ellie (『NEO BITCHIZM』収録)  
渋谷系のミューズという冠はもはや無用な超一流ヴォーカリストの最新作で最高傑作に、年の瀬を前に出会えたことを心から感謝している。特にこの曲でのエモーショナルで圧倒的な彼女のヴォーカルには平伏すばかり。ミニー・リパートン、リンダ・ルイス、TLCの諸作と同クラスで熱く聴き込んで欲しい名作だ。

(選者:ウチタカヒデ)

 

2020年12月26日土曜日

Paul McCartney:『McCartney III』対談レビュー(Capitol Records / 60243538471)



 現役ビートルの一人として、また世界で最も著名な音楽家であるポール・マッカートニーが、通算18作目で自身の名を冠したソロ・アルバムの3作目となる『マッカートニーIII(McCartney III)』を12月18日にリリースした。 
 1970年の『マッカートニー』から半世紀、1980年の『マッカートニーII』からも40年振りとなり、自身も78歳ながら年齢を感じさせない精力的活動を続け、全世界のファンに感動を与えている。
 ここでは弊誌VANDA30号(2013年発行)にて、『今更ながらポール・マッカートニーの魅力を語る』と題した企画で、筆者と対談をおこなったミュージシャンの近藤健太郎君(the Sweet Onions, The Bookmarcs)と本作の魅力について語ってみた。
 また同企画で【勝手に選ぶ・ポール・マッカートニー・ソング・ベスト10】と題して、2人でビートルズ時代とソロ&ウイングス時代の各10曲を選曲しており、今回その合計40曲をサブスクでプレイリスト化したので、聴きながら読んで欲しい。


●ポール・マッカートニーの魅力を語った対談からもう7年以上経ちますが、その間に『New』(13年)、『Egypt Station』(18年)と今回の『McCartney III』と3枚のオリジナル・アルバムがリリースされています。またOut There! Japan Tourで13年と15年 (急病により中止された14年の代替公演)、One On One Tour 2017、FRESHEN UP JAPAN TOUR 2018(近藤君によるライブレポートはこちら)と、4度の来日公演を実現させています。 近藤君もこの来日公演をいくつか観に行かれていますが、近年のポールの精力的な活動をどう考えています?レジェンド・ミュージシャンとしては破格の活動ペースですよね? 

◎近藤健太郎(以下近藤): この度、VANDA30号『今更ながらポール・マッカートニーの魅力を語る』の対談をあらためて読み返してみたのですが、僕は締めで「ポールの何が一番すごいかって、デビュー以来ほとんど休むことなく常に第一線で活躍してきたことは勿論なんですが、加えてやっぱり彼ってずっとカッコよくていまだに可愛いんですよね(笑)。
そしてそんな彼が作ってきた音楽を聴くといつも幸せな気持ちになれる。気分が高揚する。だから僕はこれからもずっと、ポール・マッカートニーの音楽を聴いて、ニヤニヤわくわくドキドキしていくんだろうなぁ」と語っていました。 
あれから7年、当時と気持ちは全く変わっていませんし、むしろ想像を遥かに超える精力的な活動にただただ圧倒され、アルバムやライブを通して常に楽しませていただいているという事実、本当に感謝しかありません。 

●対談当時のことを思い出しました。6ページに渡ってポールのことを熱く語ってくれた近藤君だけのことはあるなと(笑)。
やはりビートルズ時代から世界のファンのためへのサービス精神が他のミュージシャン達を圧倒しているんでしょうね。またポールのお人柄も大きく関係しているんじゃないかと思いますがどうですか?  

近藤:まさに人柄ですよね。冗談を言ったりおどけてみたりして相手の緊張感を和らげてくれたり。誰かのエピソードを話す時には、その人の物真似をしながらお話したりするから、ついつい引き込まれてしまいます。
堂々としているけど物腰柔らか。ポールが本気で怒鳴ったり何かモノに当たったりとか、考えてみたら想像できないですよね? 
僕、一度だけライブ会場に入るポールの入り待ちをしたことがあるんですよ(笑)。ふと思い立って武道館に足を運んだのですが、勿論すごい人混みで。なんとか前の方を確保できて、いよいよポールが乗った車が目の前を横切りました。周りもみんな悲鳴をあげているんですよ。「ウォー!キャー!ポーールーーー!!」って(笑)。
今は60年代か?って感じですけど、ずーっとポールはこんなファンに囲まれ、嫌な顔ひとつせず笑顔で手を振ってくれる。窓の外にいるファンの方向に合わせて席を移動して応対してくれる。
考えてみたらすごい人だなと思います。ちなみに僕の目の前を横切ったその一瞬は、不思議なものでまさにスローモーションのようでした。

●出待ちの件は初耳だな(笑)、もしかしたら聞いていたかも知れませんが。近藤君は『New』と『Egypt Station』も聴き込んでいたと思いますが、各々のアルバムの感想はどうでしたか? 

 『New』/『Egypt Station』  

◎近藤 :ライブで披露されている曲に特化して感想を述べますと、「New」「Queenie Eye」 (それぞれ『New』収録 /13年)「Who Cares」「Come On To Me」(それぞれ『Egypt Station』収録 /18年)等々、ロックなポールは健在ですし、新たなスタンダードと呼べる曲を生み出してくれていることが嬉しいです。なぜか「Come On To Me」や「Queenie Eye」で泣けるんですよ。

●Out There! Tour Japan 2013は私も2日間行きまして、近藤君とご一緒した日もありましたが、『New』収録では挙げられた曲以外に「Save Us」と「Everybody Out There」もありました。特に後半「Lovely Rita」(『Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band』収録/1967年)と「Eleanor Rigby」(『Revolver』収録 /1965年)の間に演奏された「Everybody Out There」は強烈に記憶にあります。発表された時代を経てもシームレスに繋がっているような感覚。このアルバムには良曲が多かったと思います。 一方『Egypt Station』は当時個人的には何故か印象に残ってなかったんです。改めて聴き返すと冒頭の「I Don't Know」なんて一聴して地味だけど実にポールらしい曲なんですよね。挙げられている「Come On To Me」で泣ける気持ちも分かります。この曲もどこを切ってもポールらしい元気印な曲調で(笑)。  

 Out There! Tour Japan 2013
(2013年11月21日 / 撮影:ウチタカヒデ)  

◎近藤:ウチさんとも一緒に行きましたねぇ。別の日は洞澤さん(The Bookmarcs)とご一緒されていましたっけ? 
ライブ後半に「Everybody Out There」、2曲目に「Save Us」と、新曲とビートルズ時代の曲が並んでも盛り上がってしまうのがポールのすごいところですね。

●そうなんですよ、友人が海外のチケット・サイトで良い席を取ってくれたので、行きたがっていた洞澤君も誘いました。
ライブのレパートリーについて、ポールのすごいところは正しく同感です。時代を超えているんですよね。 
本題に移りますが、本作『McCartney III』のアルバム全体のファースト・インプレッションと、特に気に入った収録曲とその魅力を聞かせて下さい。 

◎近藤:考えも及ばなかった『McCartney III』発表のアナウンス、そして公開されたトレイラーのサウンドにまず心踊りました。 個人的には『McCartney』(1970年)収録の「Oo You」や「That Would Be Something」の雰囲気を感じたのでとにかくワクワクしたんです。実際アルバムを聴いてみると、まずドラムがかっこいい。そしてポールのギタープレイが沢山聴けて嬉しいなって思いました。
やっぱりいわゆる完全なる“ソロ作”なんですよね。本当に自分がただ楽しくて音楽を作っている。きっと誰のためでもない、自由なポールの音作りが堪能できるのが最高ですよね。

気に入った曲はまずオープニングを飾る「Long Tailed Winter Bird」。前述の『McCartney』に収録されていそうなインスト主体のナンバーが、2020年の宅録サウンドで蘇ったかのようです。
2曲目の「Find My Way」は『Chaos And Creation In The Backyard』(2005)収録の「Fine Line」を彷彿とさせながら、よりラウドで生々しいサウンドがグッときます。
「The Kiss Of Venus」は『Ram』(1971)や『Wild Life』(1971)の頃のメロディを思い出させてくれて、時折重なるユニゾンのコーラスがどことなくリンダみたいでウルウル。
「Seize The Day」はジェフ・リンっぽくて好きですねぇ。ラストの「Winter Bird / When Winter Comes」は92年に録音されていた未発表音源がベースの曲のようですが、ポールが14歳の時に初めて書いた曲と言われている「I Lost My Little Girl」や、メリー・ホプキンに提供した「Goodbye」が思い浮かんでとろけてしまいました。

Paul McCartney - McCartney III
 (Official Album Trailer)

●リリースから僅かながら、結構聴き込んでいますね。トレイラーが公開されたのが現地時間10月22日なのですが、今思うとアルバム冒頭の「Long Tailed Winter Bird」だった訳で、イントロのMARTIN(D-28?)のリフからしてわくわくしてきますよね。
『McCartney』から踏襲された一人多重録音ということで、ポール自身が叩く生ドラムを再び聴けるとは本当に思ってもいませんでした。
このように全パートをこなす器用なポールの才能についてはどう思っていますか?

◎近藤:元々はギターを弾いていた彼がベースに転向し、世界有数のベーシストとしても名を馳せる。ドラム、ピアノ、ギターとそれぞれの楽器をプレイしても、ちゃんとポールのフレイバーを感じる、ホントにすごいことですよね。
でもポールの素敵なところは、例えば楽器の初心者にもとっつきやすいというか、ちょっと頑張って弾いてみようかなぁって気にさせてくれるところです。もちろん難解で複雑な曲は沢山ありますし、実際弾いてみると、いわゆるビートルズの「あの音」にはなかなか到達しないんですけど、いい意味で敷居が低い、音楽って楽しいんだって思わせてくれる、そこが何より魅力ですね。  

●「初心者にもとっつきやすい」という点、ポールの良い意味でのアマチュア精神じゃないかと思いますね。マルチ・プレイヤーでギター・テクニックもあるけどひけらかさない。例えば「Blackbird」(『The Beatles』収録/68年)のような一聴して地味目な曲でも高度なツー・フィンガー・ピッキングを披露してしまう。
本作『McCartney III』なんですけど、当初リリース予定されていなかったようなんです。CDの盤面やブックレットに記載されている「MADE IN ROCKDOWN」という文字が気になり調べたら、やはりこのコロナ禍の中で、ロックダウン生活を送りながら一人スタジオにこもっていたということで、この未曾有の全世界的パンデミックが切っ掛けになり、ポールの創作意欲を駆り立て40年振りのワンマン・レコーディングも実現したと考えられますね。
そんな経緯を感じながら本作を聴くと、この2020年を象徴するアルバムになったのではないのかな。
熱心なポール信奉者である近藤君から、本作をこれから聴こうとしている音楽ファンに『McCartney III』の魅力をアピールして下さい。  

”MADE IN ROCKDOWN”

◎近藤:ひけらかさない。まさにそうですね。少し前に、「子供達に音楽を教えるにはどうしたらよいか」という質問にポールが答える動画を観たのですが、ポールはピアノの鍵盤を押さえながら、「ドを弾いてひとつあけたらミ、そしてまたひとつあけたらソ、これで和音になる。また少しずらしたら他の和音になって、3つ4つ覚えたら何億も曲が出来るよ。ほら、こうやっているだけ(バッキング)でなんとなく素敵な感じになるだろう?」って鼻歌まじりに話すのですが、それが実に明快でかっこいいんですよ。なんか僕にも私にも出来そうって思わせてくれるんですよね。

そこで「MADE IN ROCKDOWN」と『McCartney III』に話を戻しますと、コロナ禍において多くの音楽家が家に篭り、リモートでセッションを披露したり、曲を作ってすぐ配信でリリース等々、ネット上で楽しませてくれましたよね。やっぱりポールも録音してたんだぁって、まずびっくり驚き嬉 しくて、届けられた音楽は本当に自由で実験的で、また自身の原点を意識したかのような曲が並んでいました。正直ちょっと退屈な曲もあります。 でもそれが逆によくて、当時ビートルズから解放されたくて作った、元祖宅録とも言われる『McCartney』、ウイングスの成功と様々なトラブルで疲れたポールが、一旦息抜き的に作ったと思われる、ポール流テクノ作の『McCartney II』、そして激動の2020年、家に篭り『McCartney III』ですよ。 ここはもう固い頭で聴くのではなく、ポールのように柔軟な気持ちと自由な発想で、楽しい音のセッションに、僕達もちょっと参加させてもらっているみたいな感覚で楽しんだら、とっても豊かな時間を過ごせるのではないかなぁと思います。 

『McCartney III』国内盤スペシャル・エディション 

●今後のポールの活動に期待することはありますか?  
コロナ禍が落ち着いたらまた来日公演をして欲しいですよね? 

◎近藤:勿論またライブが観たいし、きっとまた日本にも来てくれると信じていますが、まずはいつまでも元気で、長生きしてくれれば何も望まないというのが本音です。
あえて期待というならば、ライブでなかなか演奏してくれない名曲の数々、まだまだ沢山ありますので、いつか聴いてみたいなぁとは思いますが多くは求めません!(笑) 
 
 【近藤健太郎 プロフィール】
The Bookmarcs、the Sweet Onionsというユニットで音楽活動。
philia records主宰。散歩と鉄道好き。火・日曜放送「The Bookmarcs Radio Marine Café」マリンFM(86.1)ナビゲーター 。
the Sweet Onions 新曲「A Place Of Love」配信リンク
(amazonは下記画像からリンク)

 (企画・設問作成・編集 / ウチタカヒデ)

2020年12月20日日曜日

伊藤尚毅:『伊藤尚毅の世界』(なりすコンパクト・ディスク / Hayabusa Landings / HYCA-8010)


 若きシンガー・ソングライター、伊藤尚毅(いとうなおき)が初の全国流通作となるセカンド・アルバム『伊藤尚毅の世界』を12月2日にリリースした。
  2016年の自主制作ファースト音源『Bon Voyage~盆旅行記~』が、坂本龍一によるFMプログラム“RADIO SAKAMOTO”のデモテープ・オーディションにノミネートされたことで、その日本語ロックの原点回帰的サウンドが注目され、某カルチャー雑誌や音楽誌でも取り上げられてブライテストホープとして期待されているシンガー・ソングライターなのだ。 
 1994年生まれという若さながら、70年代日本のフォーク・ミュージックに影響を受けたという彼がクリエイトする楽曲は、はっぴいえんどのファースト・アルバム(通称ゆでめん)やセカンドで永遠の名作『風街ろまん』、細野晴臣の『HOSONO HOUSE』に通じる。


 本作は京都府出身のロックバンド、本日休演(ほんじつきゅうえん)のリーダーでメイン・ソングライター兼ギタリストの岩出拓十郎がプロデュースとエンジニアリング、ミックスまでを担当しており、独特な音像や質感も彼の手腕によるところが大きい。レコーディングは岩出の出身大学である京都大学の軽音学部スタジオで、19年8月の僅か2日間で録音されており、本日休演からはドラマーの樋口拓美も5曲に参加している。 因みに岩出と樋口は、18年に弊サイトで筆者が絶賛したツチヤニボンドの『Mellows』にも参加していた。
 またゆらゆら帝国、SCOOBIE DO等を手掛けている中村宗一郎によるマスタリングも注目したい。

 
『伊藤尚毅の世界』アルバム・トレーラー  

 ここでは筆者が気になった主な収録曲の解説をお送りする。 
 「裏通りの風鈴売り」はフォーク調のイントロ~バースからいきなりブギウギに変貌し、サビの後半では岩出がサックス、樋口がトランペットをフリージャズ・スタイルでプレイする。人を喰ったような展開であるが、冒頭曲のインパクトという点では成功しているだろう。
 伊藤の特徴あるバリトン・ヴォイスはダブル・トラックになっており、全8曲中4曲でこの手法によりたらされる質感は、本作の大きな特徴の一つになっている。この曲で伊藤自身はアコースティック・ギターをプレイし、岩出はベースとキーボード、樋口のドラムによる編成である。 
 続く「いい天気」は一転して静かなるネイチャー・ソングで、伊藤のアコギのアルペジオと樋口のハープシコードのリフが美しく絡み合う。ザ・バンドの「In A Station」(『Music From Big Pink』収録/68年)に通じる甘美なそのメロディは、伊藤と岩出によるコーラスも相まって遙か遠い野山を駆けていくようだ。 

 筆者が最も釘付けになったのが3曲目の「公園日和」である。エレキギターにべースとドラムのスリーリズムを基本とした、ゆるいミッドテンポのブルーアイドソウル風のポップスで、坦々としたメロディなのだが、ウーリッツァーのミニマルなフレーズやメロトロン系のストリング・パッド、リヴァース・エコーとクラップが計算されたかのように配置されて唯一無二の音像を生みだしている。特徴ある伊藤のダブル・トラックのヴォーカルやコーラスも含めたその独創性は、弊誌読者をはじめとするソフトロック・ファンにも大いにアピールする、桃源郷ブルーアイドソウルと呼んでしまいたい。

 
風見鶏 / 伊藤尚毅 
(企画・撮影・編集:おもちプロダクション)

 「風見鶏」は一聴するとフォーク・ロックのようだが、岩出と樋口によるリズム隊のグルーヴは、細野晴臣の「蝶々-San」(『泰安洋行』収録/76年)にも通じるチャンプルー・ミュージック風である。この風通しのよいグルーヴでモラトリアムな青春賛歌と呼ぶべき歌詞が歌われる。特徴あるハモンド・オルガンによるフレーズの響きも懐かしくも新しい。
 本作中最もハード且つサイケデリック・サウンドの「盆」は、岩出が本職のギターで活躍する。メロトロン系のキーボードや木管のファゴット・ソロが入るなど初期トラフィックの匂いもするが、伊藤のヴォーカルや歌詞の世界観はやはり『ゆでめん』(70年)に通じる。荒削りだが味のあるファゴットは、京都在住のインプロ・プレイヤーの佐藤諒の演奏だ。  
 伊藤がピアノのみで歌う「日がな一日」は2分弱の小曲ながら、ローラ・ニーロのソングライティング・センスにも近く、伊藤の今後の可能性を秘めている。 

 本作全体を通して強く感じたのは、伊藤尚毅の唯一無二の個性と若くほとばしる才能に他ならない。
 弊サイトで多く紹介している、技巧的和声感覚と洗練されたサウンドを持つポップスや、ポストパンク・ルーツで洒脱なギターポップのミュージシャン達とは明らかに異なる、言わばガラパゴス的なその独自のスタンスは前出のツチヤニボンド(新作を期待)やGIUROにも近いかも知れないが、筆者はそんな音楽家こそ貴重な存在であるが故に今後も応援していきたいのだ。この解説を読んで興味を持った音楽ファンは是非入手して聴いて欲しい。 
(ウチタカヒデ)


2020年12月16日水曜日

1970 Release / The Beach Boys(未配信)

 本稿執筆時では米国大統領はまだ未確定ではあるものの、共和党現職大統領の2期目 実現は困難な模様である。
 The Beach Boysのキャリア上昇と共和党大統領しかも現職2期 との相性は非常に相関性が強いのだ。50年代のEisenhower2期目(1957-1961年)は冷戦時代に突入した。軍需産業と密接な関係にあるHawthorneの街は活気付き、父Murry の家産を助けた。またその子らのThe Beach Boys結成前夜でもある。

 さらに70年代Nixon2期目(1973-1974年)はWatergate事件で本人が辞任するも1973年リリースのライブ盤『In Consert』はセールスでは『Wild Honey』につぐ歴代トップ40入りとなった(それぞれ1973年 25位 、1968年 24位)。また翌年1974年リリースのベスト盤『Endless Summer』は1位を記録しReprise移籍後最大のヒットとなりキャリア再上昇を揺るぎないものとした。
 また、80年代Reagan時代(1981-1989年)においては本人がHollywoodの芸能界出身にして同地の知事も務めた事から窺われるように、大統領就任以来The Beach Boysに対する厚遇の数々は枚挙にいとまがない(White Houseへの招待、娘PattiとDennisとの交際、Dennis死後の水葬許可などなど)また、シングル盤『Kokomo』(1988年)は『Good Vibrations』(1966年)以来の1位を獲得しキャリアの更なる上昇をもたらした。
 また同年Brianのソロ作『Brian Wilson』リリース、また『Pet Sounds』世界初CD化に始まる過去の作品群の再評価は新たな世代のファンを獲得した。
 Mikeは今回も共和党大統領現職2期目のジンクスに賭けていたのだろうか?おそらく新年にWhite Houseへ招待されTrump氏との熱き抱擁を夢見ていた、そして純真な米国の持っていた家族の団結・友愛の強調をもってAlやBrianの再合流を高らかに宣言し、自身の価値を高めるのが目的であろう。

 本題へ戻ろう、今回リリース音源(全64曲)は毎年恒例の著作権対策として考慮されていたものの12月初頭現在正式リリースは未だ行われていない。 音源の所在は当初米国の音楽アーカイブサイトAllmusicにおけるThe Beach Boys Discographyの中に1970 Releaseとしてアップデートされており、全64曲のダイジェスト版が試聴できるようになっていたのをSNSユーザーが発見したのが発端であった。 恐らく著作権対策の為に配信の実績作りで行ったと思われ、短期間で削除となっている。

【削除前画像】

 ただし、全曲を編集し合体させたものを有志がYoutube動画で配信中である。 著作権者からの許諾も調整されている為、下記動画を参照していただきたい。

 
1970 Release(ダイジェスト編集盤) / The Beach Boys

 ダイジェスト版故に完全版ではないものの、全曲の音像はしっかりと統一されており、試用的なラフミックスの趣はなく、マルチトラック本格導入以降後のThe Beach Boysの立体的音響とその方向性を強く意識させ、当時のレコーダーやアウトボードの持つ歪みも再現した音圧感に溢れる力強いサウンドを聴くことができる。 
 曲目はABC順でまとめたものが以下(動画再生時の順番 タイトル)の通りで、ほぼ既発曲(Capitol後期〜Surf's Up期)であることが分かるがこれらはボックスセット類の再発企画を意識したリリースとなっている。 

 過去の再発例では

1.ステレオリマスター音源
2.バックトラック
3.ボーカル+コーラス部のみ
4.セッションアウトテイク
5.未発表曲

となっており、今回の一群の音源もそれに倣っているものと思われ今後の展開が楽しみだ。

 【動画再生時の順番 タイトル】
52 A Day In The Life Of A Tree [track & backing vocals]
28 Add Some Music To Your Day [2019 a capella]
  6 Add Some Music To Your Day [alternate version]
10 Add Some Music To Your Day [track & backing vocals]
30 All I Wanna Do [a capella]
14 All I Wanna Do [session intro & backing vocals]
18 At My Window [track & backing vocals]
25 Back Home [demo] 
35 Big Sur [alternate version] 
  2 Carnival (Over The Waves) - Sobra Las Olas 
19 Cool, Cool Water [alternate version] 
61 Cotton Fields (The Cotton Song) [a capella] 
11 Deirdre [backing track] 
56 Disney Girls (1957) [backing vocals excerpt] 
48 Disney Girls (1957) [track & backing vocals?] 
42 Don't Go Near The Water [alternate version] 
45 Don't Go Near The Water [track & backing vocals] 
55 Feel Flows [backing vocals excerpt] 
50 Feel Flows [track & backing vocals] 
31 Forever [2019 a capella] 
15 Forever [sessions highlights]
16 Forever [track & backing vocals] 
  1 Good Time [2019 mix] 
44 Good Time [backing vocals section] 
22 Good Time [session intro, track & backing vocals] 
29 Got To Know The Woman [a capella] 
40 H.E.L.P. Is On The Way [2019 mix] 
  4 I Just Got My Pay [2019 mix] 
64 It's About Time [backing vocals excerpt] 
12 It's About Time [track & backing vocals] 
46 Long Promised Road [track & background vocals] 
51 Lookin' At Tomorrow (A Welfare Song)
  [session intro & alternate mix] 
20 Loop De Loop (Flip Flop Flyin' In An Aeroplane) 
  [backing track] 
57 Medley: All Of My Love / Ecology [unreleased song] 
58 Medley: Happy Birthday, Brian / God Only Knows
  [unreleased recording] 
62 My Solution [track & backing vocals] 
39 My Solution [unreleased song] 
  7 Our Sweet Love [string section] 
17 Our Sweet Love [track & backing vocals] 
60 Riot In Cell Block #9 [live 1970 Big Sur Folk Festival concert] 
21 San Miguel [session intro, track & backing vocals with] 
36 Seasons In The Sun [2019 mix] 
36 Slip On Through [alternate 1969 mix with session intro] 
  8 Slip On Through [track & backing vocals] 
37 Sound Of Free [1970 single mix, 2019 master] 
33 Student Demonstration Time [new mix?] 
49 Student Demonstration Time [track & backing vocals] 
32 Sunflower Promo #1 [radio spot] 
63 Sunflower Promo #2 [radio spot] 
54 Surf's Up [Brian's lead vocal 2019 mix] 
43 Surf's Up Promo [radio spot] 
53 Surf's Up, Pt.1 [1971 remake track with 1966 Brian's vocal] 
  3 Susie Cincinnati [2019 mix] 
24 Susie Cincinnati [basic session highlights] 
38 Sweet And Bitter [2019 mix] 
47 Take A Load Off Your Feet [alternate vocals]
13 Tears In The Morning [track & backing vocals] 
  5 This Whole World [alternate ending]
27 This Whole World [backing vocals section] 
  9 This Whole World [long version & backing vocals] 
34 Til I Die [new mix?] 59 Til I Die [piano demo] 
23 When Girls Get Together [backing track] 
41 You Never Give Me Your Money 
  [unreleased cover of the Beatles song

(text by MaskedFlopper / 編集:ウチタカヒデ)