2023年6月1日木曜日

Saigenji :『COVERS & INSTRUMENTALS』 (Happiness Records/HRBR-027)


 2020年の2 枚組ライヴ・アルバム『Live “Compass for the Future”』(HRBR-017)や18年の9thアルバム『Compass』(HRBR-013)など幣サイトのレビューでもお馴染みの、シンガー・ソングライター兼ギタリストのSaigenji(以降サイゲンジ)が、MPB(ブラジリアン・ポピュラー・ミュージック)やスペイン・ポップス、R&B、沖縄民謡などを独自アレンジしたカバーと、オリジナル・インスト曲をコンパイルした『COVERS & INSTRUMENTALS』を6月7日にリリースする。

 レコーディングは2012年の『One Voice, One Guitar』(XQJT-1005)と同様にほぼ完全ソロでおこなわれており、ジョアン・ジルベルトの『João Voz E Violão』(プロデュース:カエターノ・ヴェローゾ/2000年)にも通じる、一人のパフォーマーとしての表現力を際立たせており、昨今のPro Tools(プロ・ツールス)による無制限マルチ・トラック・レコーディングに逆らった、そのミュージシャン・シップには敬服するばかりだ。
 本作には全18曲が収録され、絶妙な選曲によるカバー8曲とオリジナル・インスト曲10曲をよく計算された曲順で配置されており、筆者の様にジャンルに拘りなくリスニングしている音楽ファンをも唸らせる内容になっている。
 シンガー・ソングライター兼ギタリスト、パフォーマーとして唯一無二の存在であるサイゲンジのプロフィールについては説明不要と思われるが、詳しくは『ACALANTO』(05年)の10周年記念リマスター盤のリイシュー時に再掲載した、筆者のインタビュー記事(https://www.webvanda.com/2015/11/saigenji-acalanto10th-anniversary.html)を参照して欲しい。 


 ここでは本作中で筆者が気になった主な収録曲を解説していく。
 冒頭の「Open your ocean -prologue-」はオリジナル・インストで、スキャットによるテーマの旋律は嘗ての「La Puerta」(同名アルバム収録/2003年)に通じ、ミナス・サウンドからの影響を強く感じさせる。
 続く「Samurai」は、70年代後半からブラジルを代表するシンガー・ソングライターとなった、ジャヴァン(Djavan Caetano Viana)の82年作シングルのカバーで、本作のリード・トラックとして5月1日より先行配信されており、既に耳にしているファンも多いと思う。
 そもそもこの曲を収録したジャヴァンの『Luz』は、米国CBSソニーと契約しロスアンゼルスで初レコーディングして世界展開した記念碑的アルバムで、彼の最大のヒット作となった。筆者を含めこの曲やアルバムでジャヴァンの存在を知った音楽ファンは多いと思うが、ロニー・フォスターのプロデュースでハーヴィー・メイソンやエイブラハム・ラボリエルなど名うてのミュージシャン達が参加し、スティービー・ワンダーのハーモニカをフィーチャーした、Ⅱ-Ⅴ進行のコード転回を持つこの曲の虜になったのは言うまでもない。
 このような十全十美な曲であるが、サイゲンジはここで「Music Junkie」(『Music Eater』収録/2005年)よろしくヴォイス・パーカッションを多用した一人多重録音で解釈しているから痛快で堪らない。何よりジャヴァンに通じるヴォーカルの存在感と表現力の巧みさは大きい。
   
Samurai / Saigenji

 本作の「静」の側面を担うオリジナル・インストで、サブスクにて37万回以上の再生を誇るのは「Ajisai」だ。タイトルからイメージ出来る通り、雨の中で佇む紫陽花の刹那性を表現した美しいワルツで、世界中の音楽リスナーから好まれるのも頷ける。
 MPBやボサノヴァのブラジル人作曲家として筆頭に挙がるであろう、アントニオ・カルロス・ジョビンの曲は「Desafinado」と「Luiza」の2曲を取り上げており、前者はオリジナル・キーから1音落としたことでより深みのある和声感覚になり、サイゲンジのカラーに仕上げている。ジョビン屈指のロマンチックなバラードとして知られる後者は、以前からライヴ・レパートリーとしてプレイされてきたので、この初音源化はファンにとって嬉しいことだろう。
 「Samurai」同様に先行配信された「Amapola」は、山下達郎氏も『On The Street Corner 2』(86年)でアカペラ・カバーしているスタンダード曲で、スペインの作曲家ホセ・ラカジェが1924年に発表した歴史あるポップスである。ここではオリジナルよりややスロー・テンポの弾き語りにより表現力豊かに演奏されている。

 後半には本作のハイライトとして、「椰子の実」(昭和の唱歌/作詞:島崎藤村、作曲:大中寅二)、「Ponta de areia」(ミルトン・ナシメント)、「てぃんさぐぬ花」(沖縄民謡)の3曲が連なって収録されているのは注目に値する。これら曲の歌詞のテーマ、心象風景の繊細な描写など、その素晴らしさは多くを語りたくないほど美しいので聴いてほしい、いや聴くべきだ。
 カバー曲中最も異色なのがビル・ウィザーズの「Ain't no sunshine」(71年)だろう。ジャンルレスに音楽をリスニングしている、リアルなMusic Junkieとしてのサイゲンジのセンスが滲み出た選曲である。ヴォイス・パーカッションを多用した一人多重録音で、抒情的なストリングス・アレンジを配したオリジナルとは対極にある、ドープなサウンド・スタイルには脱帽である。


 ファースト・アルバムのリリース前から彼のライヴの常連だった筆者なので、些か贔屓目になってしまうが、カバー曲も自分のカラーに染めてしまうのがサイゲンジの魅力であり、実力含め高評価出来る数少ないミュージシャンなのである。
 興味を持った音楽ファンは是非本作を入手して聴いてほしい。 

(テキスト:ウチタカヒデ

2023年5月25日木曜日

FMおおつ/音楽の館~Music Note 2023年4月号昭和アニソン特集詳細

 2023年4月のFMおおつ「音楽の館~Music Note」は、今や日本を代表する音楽ジャンルとなったアニメ・ソング。今回は先日ご逝去された巨匠松本零士先生の追悼も兼ね、我々シニア世代からご要望いただいたアニソンをメインにした「昭和アニソン特集」を放送。

 まず最初に松本零士先生のプロフィールから、昭和13年福岡県久留米市生まれで本名松本あきら、昭和29年高1でプロ・デビュー、昭和35年頃からSF漫画で“松本零士”のペン・ネームで活動開始

 1971年に少年マガジンに連載の貧困四畳半ギャグ漫画「男おいどん」でブレイク、1974年から制作にかかわった『宇宙戦艦ヤマト』で本領を発揮。1977年の劇場版アニメで社会現象を巻き起こす大ヒットを記録し、以降『銀河鉄道999』『宇宙海賊キャプテンハーロック』で不動の地位を確立。

 この特集のトップは1979年劇場版アニメ『銀河鉄道999』のメインテーマGodiego<銀河鉄道999~Galaxy Express 999>

 第1パートBGは1978年放映開始のテレビ・アニメ『銀河鉄道999>』主題歌。
 
 本編トップはアニメ・ファンのSFマスターピー宇宙戦艦ヤマト』。そして1978年公開劇場版アニメ『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』のジュリー歌唱主題歌<ヤマトより愛をこめて>

 第2パートのBGは『エイトマン』の
インスト
 このパートでは懐かしのヒーロー・アニメから、まず『ロボコップ』の原点『エイトマン』、未来から流星号で活躍するタイム・パトロール『スーパージェッター』、”人呼んで遊星仮面”で登場する『遊星仮面』、蝙に導かれけたたましい笑い声で登場する黄金のどくろ仮面『黄金バット』、リスのチャッピーとともに活躍する『宇宙少年ソラン』

 第3パートBGは『鉄腕アトム』のインスト。このパートでは手塚治虫先生の作品からピック・アップ。まず1965年虫プロ第2作アニメ『ジャングル大帝』。サンヨー電機がカラー・テレビ販促用としてスポンサーに。主人公レオは今やプロ野球西武ライオンズのマスコット。
このアニメの音楽担当はシンセの巨匠冨田勲。なおディズニーはこの作品をオマージュしたアニメ『ライオン・キング』を発表
 そして虫プロ第3作アニメ、地球調査の3人組宇宙パトロール隊『W3(ワンダースリー)』。続いては1967年東京ムービー制作『ビッグX』。続いて虫プロ初のギャグ・アニメで“孫悟空”ベースの『悟空の大冒険』、ラストは1971年虫プロ制作初少女アニメ『ふしぎなメルモ』の主題歌。

 第4パートBGは<ドラえもんのうた>。
 このパートでは藤子不二雄先生のマスターピースより、まず事実上コンビ最後の合作『オバケのQ太郎』、アニメは「スタジオ・ゼロ」制作で1965年より不二家の提供で放送開始。お馴染みの主題歌はもとより、1960年代には<オバQ音頭>が盆踊りの定番。
 続いてF先生作1967年東京ムービー制作のズッコケ・ヒーロー『パーマン』。
 Ⓐ先生原作1968年東京ムービー制作『怪物くん』。子分はドラキュラ、フランケン、狼男、こちらも2010年に嵐の大野君主演で実写テレビ・ドラマ化。
第5パートBGは『天才バカボンインストこのパートではギャグ・アニメ・ソング。

 ギャグ・漫画の大家赤塚不二夫先生、まずイヤミの“シェー!”が一世風靡した1966年放送開始の『おそ松くん』”ニャロメ&ケムンパス”が大人気の1969年放送開始『もーれつア太郎』。そして、バカボン・パパの「これでいいのだ!」が決めセリフ『天才バカボン』。

 続いては後にオカルト漫画の巨匠となるつのだじろう先生の忍者ギャグ・アニメ『花のピュンピュン丸』。主題歌は“ピアノ売ってチョーだい”の財津一郎。
 ラストは『巨人の星』の川崎のぼる先生のギャグ・アニメ『いなかっぺ大将』。主題歌は演歌の巨星、天童よしみ!

 第6パートBGはアコギの名手押尾コータローの<リボンの騎士>。この演奏は2001年インディーズのセカンド・アルバムから

 このパートでは少女向けアニメからで、まず1966年12月にスタートした初少女向けアニメ「魔法使いサリー」の主題歌とエンディング・テーマ<魔法のマンボ><パパパのチョイナのうた>それによしこちゃんの”おやつあげないわよ!”の<いたずらのうた>。

 2番目は赤塚不二夫先生の『ひみつのアッコちゃん』、このアニメでは主題歌以上にエンディングテーマ<すきすきソング>が大ブレイク。2012年には綾瀬はるか主演で実写化。

 そしてBGでも流れた『リボンの騎士』。主題歌は“僕”と“私”の2パターン、エンディングテーマ<リボンのマーチ>まで音楽担当は『ジャングル大帝』同様に巨匠冨田勲
 

第7パートBGはMade inU.S.A.アニメ『トムとジェリー』。

 このパートでは多種多様の人気アニメを取り上げます。まずは1963年に東映動画が「鉄腕アトム」に対抗して制作した初テレビ・アニメ『狼少年ケン』。
 2曲目は1967年タツノコプロ制作のレース・アニメ『マッハ・ゴー・ゴー・ゴー』。この作品は『Speed Racer』のタイトルで全米放映され大人気を博し、2008年には実写版もアメリカで制作されるほどの人気作。
 3曲目はVANDAの生みの親佐野邦彦さんが大ファンだった『冒険ガボテン島』。彼はそこに憧れるあまり、新婚旅行にその島に似たタヒチの「ボラボラ島」に行かれています
 

4曲目は
天才石森章太郎先生の代表作SFマスターピース『サイボーグ009』。この作品は1966年にテレビに先駆け劇場版アニメが公開され、1968年にテレビのアニメ化。
 5曲目も1968年にテレビ・アニメ化された水木しげる先生の貸本時代に発表の代表作『ゲゲゲの鬼太郎』。この作品では赤塚先生をしのぐほど名キャラクターが続出。
 続いて恵まれない子供たちのために「虎の穴」が送り込む刺客と戦う『タイガーマスク』。1983年には実在レスラーが登場し一大プロレス・ブームに、そして2010年にはこのドラマに触発された恵まれない子供たちへの寄付行為が、「タイガーマスク運動」として慈善活動が日本中に発生。
 ラスト前はタツノコ・ギャグ・アニメの超有名キャラクターくしゃみでツボから飛び出す『ハクション大魔王』。
 最後はスポコン・アニメの金字塔『巨人の星』。ここに登場するに「うさぎ跳び」「鉄拳制裁」は今では全てアウト。また一徹考案の「大リーグボール養成ギブス」は、今なら間違いなく“児童虐待”で逮捕される行為

 次の第8パートBGは<Merry Christmas Mr. Lawrence(戦場のメリークリスマス)>、ここでは松本零士先生同様に“巨星逝く”と惜しまれた“教授”坂本龍一氏を偲ぶ追悼パート。
 個人的に思いれの強い山下達郎の初期ライヴで衝撃的なキーボードを披露していた<ラブスペース>、それにYMOの『浮気な僕ら(インスト・アルバム)』から<音楽>。

ラス前第9パートBGはアニメではありませんが<サインはV !>

 ここでは女子スポコン・アニメから。まずは<サインはV !>と並ぶ二大バレーボール作品1969からアニメ放送開始の『アタックNo.1』。
 そして1973年のアニメ化で、テニスの大ブームを起こしたスポコン・アニメ『エースをねらえ!』。この作品は私が地上波テレビ初出演した番組『シュシュ』でのお題の一つで、当時一押しのアニメと評価されていた佐野邦彦さんに参考資料として劇場版アニメを送っていただいた。ここでのキモは主人公・岡ひろみのライバル華麗なる上級生“お蝶夫人”(“夫人”といえど「独身高校生」)こと竜崎麗香の存在
 これら主題歌は、1970年代に「アニソン四天王」のひとりとして大活躍した大杉久美子。


 最後のパートBGは「カルピス漫画劇場」第6作『アルプスの少女ハイジ』主題歌<おしえて>。この作品は佐野邦彦さんがアニメ本発行時に飛び込み取材を敢行した“アニメ界の重鎮”宮崎駿氏が初めて大きな成功を収めた作品だ。
 1曲目は1973年に放映の永井豪先生作”ハニー・フラッシュ”の『キューティーハニー』。このハニーは、“ルパン三世の峰不二子”“うる星やつらのラム”とともに“アニメ・セクシー・キャラ”として一世風靡。そんなハニーも2004年に実写化。
 2曲目は単行本累計発行数1,200万、1976年に東映動画でアニメ化されキャラクター人形年間売上80億円を記録した『キャンディ・キャンディ』。
 3曲目は佐野邦彦氏が同人誌を制作していた初期より注目していた高橋留美子先生の代表作のひとつとなる1981年にアニメ化された『うる星やつら』。ラムちゃんのセクシー・コスチュームとダーリンこと諸星わたるのとの噛み合わない関係が刺激的と大評判だった。


 そしてオーラスは”神様”手塚治虫先生のDNAを継ぐ池野恋先生の代表作で、単行本累計発行数3,000万超えの『ときめきトゥナイト』。このアニメのみ平成年間の作品で、主題歌の編曲を手掛けたのは才人大村雅朗

 さて5月号は5年前の5月16日に63歳で亡くなられた昭和を代表する不世出のヴォーカリトスト西城秀樹。今回世界中から頂いたヒデキへのリクエストにお応えした「ヒデキ・リクエスト特集」です。5月も第4土曜日16時からの「音楽の館~Music Note」お楽しみください。

2023.5.27.(土)16:00~ 
(再放送)
2023.5.28.(日)8:00~
    5.30.(火)~ 6.2.(金)2:00~

※FMおおつ  周波数 79.1MHz でお楽しみください。
※FMプラプラ (https://fmplapla.com/fmotsu/)なら全国(全世界)でお楽しみいただけます。


「昭和アニソン特集+1 セット・リスト>

1. 銀河鉄道999~Galaxy Express 999/ Godiego

BG: 銀河鉄道999/ささきいさお

2. 宇宙戦艦ヤマト / ささきいさお
3. ヤマトより愛をこめて / 沢田研二

BG: エイトマン(インスト)

4. エイトマンのうた / 美樹克彦
5. スーパージェッター上高田少年合唱団
6. 遊星仮面/ デュークエイセス&藤田淑子
7. 黄金バットボーカルショップ
8.宇宙少年ソラン上高田少年合唱団

BG: 鉄腕アトム(インスト)

9. ジャングル大帝主題歌 / 平野忠彦 
10. ジャングル大帝進めレオ!デュークエイセス 
11. レオのうた / 弘田三枝子
12. W3主題歌/ボーカルショップ
13. ビッグX主題歌/ 上高田少年合唱団
14. 悟空の大冒険のマーチ/ ヤングフレッシュ
15. 悟空が好き好き / ヤングフレッシュ
16. ふしぎなメルモ / 出原千花子、ヤング・フレッシュ

BG: ドラえもんのうた/山野さと子、ドラえもん

17. オバケのQ太郎 / 石川進
18. オバQ 音頭/ 曾我町子&石川進
19. ぼくらのパーマン/ 三輪勝恵&石川進
20. 怪物くん / 怪物くん、ドラキュラ、フランケン、狼男
21. ユカイツーカイ怪物くん / 野沢雅子

BG: 天才バカボン(インスト)

22. おそ松くん / 六つ子、イヤミ、チビ太
23. もーれつア太郎 / 桂京子
24. 天才バカボン / アイドルフォー
25. ピュンピュン丸の歌/ 財津一郎
26. いなかっぺ大将/ 天童よしみ

BG: リボンの騎士/ 押尾コータロー

27. 魔法使いサリー/ スリーグレイセス&園田憲一とデキシーキングス
28. 魔法のマンボ/ デュークエイセス 
29. パパパのチョイナのうた/ 水垣洋子、フォーメイツ
30. すきすきソング/ 水森亜土
31. リボンの騎士(王子編) 前川陽子、(コーラス)ルナ・アルモニコ
32. リボンの騎士(後半テーマ)/ 
33. リボンのマーチ/ 前川陽子、(コーラス)ヤング・フレッシュ

BG: トムとジェリー/ 田中真弓

34. オオカミ少年ケン / 西六郷少年合唱団
35. マッハ・ゴー・ゴー・ゴー/ ボーカルショップ
36. 冒険ガボテン島 / ボーカルショップ
37. サイボーグ009 / 新納隆志、東京マイスタージンガー
38. ゲゲゲの鬼太郎 / 熊倉一雄
39. 行け!タイガーマスク/ 新田洋、スクールメイツ
40. ハクション大魔王のうた / 嶋崎由理
41. アクビ娘 上堀江美都子、ザ・モンジュ  
42. ゆけゆけ飛雄馬 / アンサンブル・ボッカ

BG: Merry Christmas Mr.Lawrence(戦場のメリークリスマス)/坂本龍一

43. Love Space(Live) / 山下達郎
44. 音楽(インスト)YMO

BG: サインはV / 麻里圭子、横田年昭とリオアルマー

45. アタックNo.1のうた / 大杉久美子
46.エースをねらえ! /  〃

BG: おしえて / 伊集加代子& Nelly Schwarz 

47. キューティーハニー前川陽子
48. キャンディ・キャンディ / 堀江美都子
49. ラムのラブソング / 松谷裕子
50. ときめきトゥナイト加茂晴美


2023年5月20日土曜日

Brewer & Shipleyについて

 心地いいメロディやコーラスが耳に入ってきて、興味をひかれた「One Toke Over The Line」という曲。陽気さと同時に安息を与えてくれるような癒しを感じたけれど、マリファナのことを歌った曲とも言われている。

One Toke Over The Line / Brewer & Shipley

 
アメリカの俗語で ”Toke” にマリファナを吸うという意味がある為、ニクソン政権の副大統領Spiro Agnewはアメリカの若者への破壊的行為だと、この曲を放送禁止にしたそうだ。ところが、ビッグバンドのリーダーLawrence Welkのテレビ番組では同時期にゴスペルソングと紹介していて、物議を醸すことになる。これはおそらく歌詞に "sweet Jesus" と出てくるためだったよう。作者自身からすると歌詞に深い意味はなく、ジョークで作ったような曲だったそうだけれど、この騒動で思いがけないほどの宣伝効果があったようだ。

 この「One Toke Over The Line(邦題:人生の道)」は日本でもヒットしたらしい。と言っても当時ラジオなどで流れていたのを聴いたことがあっても誰の曲かは知らない人も多かったのかもしれない。この曲はBrewer & Shipleyというデュオのシングル曲で、1970年にリリースされたもの。アメリカ中西部出身で、ソロのフォークアーティストとして活動していたMichael BrewerとTom Shipleyがオハイオ州ケントのコーヒーハウスで初めて出会ったのが1964年。その後しばらくはお互いに別のミュージシャンとコラボレーションするなどしていて、彼らがデュオとして活動開始するのはここから3年後だった。

 西海岸の音楽シーンが台頭してきた1965年、Michael Brewerはロサンゼルスに移住し、最初はTom MastinというミュージシャンとMastin & Breewerというデュオでコロンビアレコードと契約を結ぶ。The Byrdsの南カリフォルニアツアーのオープニングアクトとしてBuffalo Springfieldと共に同行するなど、多忙な活動だったようだ。そしてロサンゼルスのクラブでヘッドライナーを務め、レコーディングを開始するもTom Mastinがプレッシャーに耐えられなくなり、レコードの完成前にデュオは解散。数年後にTom Mastinは自殺してしまう。

 解散後、彼らを担当していたコロンビアレコードのスタッフがA&Mレコードの設立を手伝うために退職し、Michael BrewerもA&Mの出版部Good Sam Musicのスタッフソングライターとして仕事をすることになった。そしてこの頃、Tom Shipleyもロサンゼルスに移り、Michael Brewerの近所に家を借りて一緒に曲を書き始めたそうだ。そして1967年に、Tom ShipleyもA&Mのスタッフ・ライターとなり、2人はスタッフソングライティングのパートナーになる。初期の彼らの曲はThe Nitty Gritty Dirt Bandや、The Poor (Poco、Eaglesのメンバーで知られるRandy Meisnerが在籍)、Bobby Rydell などにより録音されたそうだ。

 スタッフ・ライターだった2人だけれど、そのデモ録音は独自のスタイルを持つ優れたものだった為、A&Mレコードは彼らに自分たちのレコーディングをするよう提案し、デビューアルバム『Down In L.A.』 (A&M Records-SP 4154)が制作される。バックバンドにはThe Wrecking CrewのLeon Russell、Hal BlaineJim Gordonなどが集められた。プロデュースはJerry Riopelle。

 Brewer & Shipleyとしてのアルバムを制作し、西海岸でThe Byrds、Buffalo SpringfieldThe Associationなどとの交流を深めていた彼らだけれど、ロサンゼルスでの生活は合わなかったらしく、中西部に戻ることを決める。1968年『Down In L.A.』がリリースされる頃には、二人はミズーリ州カンザスシティに定住し、友人数名とGood Karma Productionsという自分たちのプロダクションを始めた。

 彼らのプロダクションの経営陣は東海岸でレーベルを探していた。その時期ブッダレコードの経営陣の1人で、バブルガムミュージックの立役者として知られていたNeil Bogartがそのイメージを打破する為のアーティストを探していたことで、ブッダレコードとBrewer & Shipleyは契約することになったそうだ。こうして1969年、2ndアルバム『Weeds』(Kama Sutra KSBS 2016)がブッダ/カーマ・スートラ・レーベルからリリースされる。プロディーサーはNick Gravenites。参加ミュージシャンはMike Bloomfield、Mark Naftalin、Nicky Hopkinsなど。

 そして次の1970年にリリースした、「One Toke Over The Line」が収録された3rdアルバム『Tarkio』(Kama Sutra KSBS 2024)は、彼らの代表作となった。ニクソン大統領を退陣に追い込むことを嘆願した曲だという「Oh Mommy」では、Jerry Garciaがスチールギターを弾いている。続けて翌年の1971年に『Shake Off The Demon』(Kama Sutra KSBS 2039)、1972年に『Rural Space』(Kama Sutra KSBS 2058)をリリースした後、キャピトル・レコードに移籍した。

 移籍後の6thアルバム『ST11261』(Capitol Records ST11261)は1974年にリリースされた。変わったタイトルだと思ったら、キャピトル・レコードの品番がアルバムタイトルになっているらしい。プロデュースはJohn Boylan。Michael Brewer は学生の頃ドラムボーカルで、Jesse Ed Davisとバンドを組んでいたそうなのだけれど、このアルバムでは「Fair Play」「Eco-Catastrophe Blues」の2曲でJesse Ed Davisが参加している。Stephen StillsのバンドManassasへの提供曲「Bound To Fall」のセルフカバーも収録。

Bound To Fall  / Brewer & Shipley

 その後『Welcome To Riddle Bridge(Capitol Records – 8XT-11402)』を1975年にリリースしてからは活動していなかったようだけれど、1987 年に再結成。1989年にライブを行いしばらくして再び作曲を開始、One Toke Productions レーベルを設立し、再結成後も2枚のアルバム、1993年 『Shanghai』、1997年『Heartland』 をリリースしている。

 2011年には、ミズーリ州ターキオのメインストリートでアルバム『Tarkio』 40周年を記念して演奏したそうだ。彼らのドキュメンタリー『Still smokin’』 も2021年にvimeoオンデマンドでリリースされている。

 音楽と異なる活動やそれぞれの生活を送りながらも、現在も解散することなくデュオとしての活動を継続しているようだ。

【文:西岡利恵

http://www.brewerandshipley.com/

https://web.archive.org/web/20100122091201/http://www.brewerandshipley.com/Misc/OneToke_Quotes.htm


執筆者・西岡利恵
60年代中期ウエストコーストロックバンドThe Pen Friend Clubにてベースを担当。

【リリース】
8thアルバム『The Pen Friend Club』をCD、アナログLP、配信にて発売中。

■ザ・ペンフレンドクラブ10周年企画『2023 Mix』随時配信リリース

【ライブ】
現在、Niinaボーカリストとして迎えた新体制にてライブ活動開始。

■6月3日(土) ​下北沢・モナレコード
Mellow Fellow presents『I Gotta! Feelin' Vol.20』"Brandnew Tokyo Rhythm & Blues Style"
■6月25日(日) ​西永福JAM『SHE'S GOT RHYTHM!』
■10月7日(土) ​大阪・雲州堂『The Pen Friend Club Live In Osaka 2023』