2026年10月11日日曜日

青木孝明:『これから』

"拘り派シンガーソングライター・アルバムの鑑"

 シンガーソングライターの青木孝明が、8thソロアルバム『これから』(TOKYO MOR/MOR6961)を10月14日にリリースする。
 青木は弊サイトで2024年6月に紹介した、ムーンライダーズの鈴木博文トリビュート・カバー・アルバム『16 SONGS OF HIROBUMI SUZUKI - DON’T TRUST OVER 70 -』に参加し、ライダーズ・ファミリーのシンガーソングライターとしても知られている。

 まずは彼のプロフィールに触れよう。1992年に自主制作でアルバム『L/C』を発表し、この作品が鈴木博文に評価され、翌1993年には鈴木が主宰するメトロトロンレコードより『MY FRIEND IN THE SKY』で初の流通盤としてソロデビューする。その後30年以上に渡り、7枚のソロアルバム、バンド名義では2枚のアルバムをリリースしており、そのソロ活動以外にもギタリストやベーシスト、ボーカリストとしてThe Suzuki(鈴木慶一&鈴木博文)をはじめ、あがた森魚、ZABADAK(ザバダック)、綿内克幸、青山陽一、若林マリ子などのライブ、レコーディング等に参加している。近年ではギター、ボーカルで参加しているZABADAKでの活動が主となっているようだ。


 青木はマルチプレイヤーとして知られており、本作でもワンマン・レコーディンの収録曲が多いが、これまでの人脈を反映させたミュージシャン達も参加しバックアップしている。共同プロデューサーにロックバンド”THE BRICK'S TONE”の篠原太郎を迎えているのをはじめ、青木が長年サポートしてきたZABADAKを現在主宰する小峰公子が作詞で2曲に参加している。なお青木は、ZABADAKでリーダーだった吉良知彦のソロユニット期の1990年代半ばから準メンバーとして同ユニットに参加し、映像作品『“TRiO”at ON AIR EAST 1997.6.1』でその姿を観ることができる。小峰はKARAK(カラク)としてメジャー・デビュー後の1987年からZABADAKに作詞家として関わり、2011年に正式メンバーとなっている。私生活では吉良の妻で2016年吉良の逝去後は同ユニットを引き継いで活動を継続している。
 その他にも、2017年に杉瀬陽子と堀込泰行が結成したTHE LAKE MATTHEWSに参加していたキーボーディストでトロンボーン奏者の伊藤隆博、蓮沼執太フィルハーモニー・オーケストラのメンバーでトランペット、フリューゲルホルン奏者の三浦千明がそれぞれ参加している。1曲のみコーラスで参加している青木怜の経歴は不明だが、青木の親族かも知れない。
 アルバムのマスタリング・エンジニアは、ゆらゆら帝国やギターウルフ、SCOOBIE DOらの諸作をはじめ、以前弊サイトで紹介したポニーのヒサミツを手掛けていた、中村宗一郎(PEACE MUSIC)が担当している。


 
『これから』 Traillor

 ここからは筆者が気になった収録曲を解説していくが、注釈が無い曲は全てのソングライティングとアレンジは青木によるものである。
 冒頭の「New Song」は、イントロ~バースのアコースティックギターの特徴的なリフから発展させたシンコペーションが効いたパートと、ポール・マッカートニー・イズムなメロディアスなサビのパートのコントラストが際立ったロック・ナンバーだ。全ての演奏とドラムのプログラミングは青木が一人で担当しており、ボーカリストとしての表現力やテクニックも申し分ない。
 続く「真夏の日曜日」は、ZABADAKの小峰が作詞をしており、共同プロデューサーである篠原がコーラスで参加している。この曲では青木によるトワンギング・ギターのリフを聞いて理解すると思うが、カントリーロックがベースになっており、小峰の歌詞もショート・ロードムービー風である。篠原のコーラスが青木のボーカルによくブレンドしてこの歌詞の世界観をビビッドにしている。

 一転してエリック・サティ風のミニマリズムなピアノのコード進行を持つイントロから、トッド・ラングレン初期の名作『Runt The Ballad of Todd Rundgren』(1971年)に通じる曲調とサウンドへと展開するバラードの「叶わなくても」も触れずにはいられない。中盤から伊藤のトロンボーンと三浦のトランペットのホーンセクションが加わり、静かに盛り上げていくアレンジも素晴らしい。
 アコースティックギターとスキャットを中心としたインストの「不条理への情熱」は2分10秒の小曲だが、XTCの「Dying」(『Skylarking』収録/1986年)に通じるミニマリズムなコード進行が耳に残り、本作の中で良いアクセントになっている。

 本作後半に収録され、小峰が作詞したもう1曲の「夕焼けがきれいだから」はスローなラブソングで、詞と曲の完成度が収録曲の中でも極めて高い。亡きパートナーに語り掛けるような慈愛に満ちた歌詞に、8分刻みのピアノとアコースティックギターに導かれて始まるジョージ・ハリスン風の曲調で、ギターソロにもジョージの匂いがして好きにならずにいられない。筆者的にも本作中のベストトラックである。
 終盤の「これから」は、伊藤の巧みなピアノをフューチャーしたファーストテンポのポップスでリズム的にはボサノヴァのフィールも感じさせる。青木自身による歌詞には人生賛歌というべきメッセージ性が込められている。圧巻なのはカホンらしき低音が効いたパーカッションをバックに、青木怜も加わったサビの多重コーラスで、歌詞の世界を拡大させて感動的だ。
 ラストの「The End Of The Day」は前曲からクールダウンさせるスローなインスト曲だ。青木がプレイするアコースティックギターとチェンバロに、伊藤のトロンボーン、三浦のトランペットのホーンセクションで進行していくが、コーダでアナログシンセのソロが加わるのが新鮮である。

 最後に総評として、ソングライターとして多彩な曲を産み出し且つマルチプレイヤーであり、ボーカリストとしても非凡な、青木の才能に裏打ちされたアルバムに仕上がっていると感じた。筆者の詳細解説を読んで興味をもった読者は、リンクするECサイトから予約し入手して是非聴いてほしい。


ニューアルバム『これから』
 リリースツアー(ワンマン)

10/24(土)名古屋 御器所 なんや
open 18:00 start 19:00

10/25(日)大阪 北浜 雲州堂
open 13:00 start 13:30

11/15(日)吉祥寺ブラック&ブルー
open 12:00 start 12:30
with 篠原太郎、大槻敏彦、伊藤隆博(東京)、
西村哲也(名古屋、大阪)

ニューアルバム「これから」リリースライブ
アコースティックセット
2027.1/11(月、祝)中目黒Fj's
open 17:30 start 18:00
with 伊藤隆博

◎予約及び問い合わせ:melody_circle1@yahoo.co.jp 


 (テキスト:ウチタカヒデ)


2026年10月3日土曜日

CREAM 「Wrapping Paper」

 高校生の頃、軽音学部に入ってギターをやっていた。限られた部員の組合せで結成された学生バンドならではの、メンバーの趣味嗜好がごちゃ混ぜになったセットリストはGLAYやSIAM SHADE、JUDY AND MARYと一緒にRainbowが並んでいて、ビートルズマニアの顧問は教室のドアを閉め切って「Revolution 9」を流し、チャールズ・マンソン・ファミリー事件について話している、色んなジャンルの音楽の情報が断片的に耳に入ってくる環境だった。

 ギターの上手い先輩の話を聞きかじってブルースが重要らしいと思っていた私は、2枚組のロバート・ジョンソンを買ってみて違いの分からない41曲を聴き続けたり、エリック・クラプトンが参加したバンドのアルバムを1枚づつ買ってみたりした。CREAMのベスト盤『The Very Best of Cream』は、そのうちの1つ。重厚感と同時にふわふわしていて、良いとか悪いとかいう感想もすぐには出てこない不思議な印象だったけれど、いつのまにか癖になって繰り返し聴いていたので思い出深い。 1曲目の「Wrapping Paper」はどことなく可愛いらしい感じもして、CREAMと聞いて思い浮かべるような楽曲ではないかもしれないけれど、今聴いても良いなと思う。ただジンジャー・ベイカーとエリック・クラプトンはこの曲を嫌っているとか。

『The Very Best of Cream』(Polydor – 523-752-2)


「Wrapping Paper」/ CREAM 

 ラッピングペーパー。包装紙の曲?当時から変わったタイトルだなと思っていたけれど、歌詞をちゃんと読んだことはなかった。昔の恋人が忘れられず、一緒に過ごした海岸近くの家に戻りたいと願っている歌のようだ。作詞者のピート・ブラウンは、もともとはビート・ポエトリーの活動をロンドンで行なっていた詩人。ビート・ポエトリーとはジャズに乗せて詩を朗読するパフォーマンスで、1940年代後半にアメリカで生まれた反物質主義、性の解放、東洋思想への傾倒などを特徴とするビート・ジェネレーションという文学運動が基になっている。イギリスではマイク・ホロヴィッツという詩人が1959年に創刊した芸術・文学雑誌『New Departures』に米英のビート詩人の詩を掲載し拡まっていったそうだ。

Pete Brown 

 1961年に開催されたビート・ポエトリーのショーのバックバンドにはグレアム・ボンドや、サックス奏者のディック・ヘクストール=スミスなどがいて、ピート・ブラウンはディック・ヘクストール=スミスを通じて、CREAMのドラムのジンジャー・ベイカー、ベーシストのジャック・ブルースと知り合い作詞を依頼される。当初はジンジャー・ベイカーとの共作のために声がかかったらしいのだけれど、あまり相性が良くなかったようでジャック・ブルースの共作パートナーとなる。デビュー曲「Wrapping Paper」の他、代表曲「White Room」や「I Feel Free」など、数多くの作詞を手がけている。ピート・ブラウンの歌詞は難解と言われ、簡単にひとつの解釈に辿り着くような詩世界ではないように見える。ビート・ポエトリーと同様にジャズの即興演奏のように書かれているのか、曲によっては本人も、書いた瞬間ではなく何年も経ってから出てきた言葉の意味に気づくことがあるそうだ。


参考・参照サイト

https://petebrown.co.uk/

https://thestrangebrew.co.uk/interviews/pete-brown/

https://faroutmagazine.co.uk/pete-brown-poet-of-the-british-invasion/


執筆者・西岡利恵
60年代中期ウエストコーストロックバンドThe Pen Friend Clubにてベースを担当。


【NEWS】
■クラウドファンディング実施中
15周年記念盤『15 Big Ones』The Pen Friend Club 



【LIVE】
■2026年11月7日(日昼)
水道橋Words
【Add Some Music To Your Day】

チケット予約

【リリース】
■ 2枚組 NEWアルバム
『Songularity - ソンギュラリティ』発売中

   【全曲試聴トレーラー】
       




2026年9月23日水曜日

コンピレーション:『Circle Arts Compilation Vol.1』

”新しい出会いが生まれるコンピレーション”

 音楽家の木村円(キムラ・マドカ)が主宰するCircle Arts Recordsからレーベル初となるコンピレーションアルバム『Circle Arts CompilationVol.1』(Circle Arts Records/CAR-0001)が9月25日にCDのフィジカルと各サブスクで配信でリリースする。
 このコンピレーションアルバムには、日本国内にとどまらず、海外を含めた多彩なアーティストが参加しており、ジャンルや国境、そして世代を超えて音楽を通じた新たな出会いとつながりを生み出した内容になっている。弊サイトでデビュー時より高く評価しているSaigenjiをはじめ、以前紹介したdahliaが楽曲を提供しているので紹介したい。

収録曲 / 参加アーティスト
白昼夢 Hakuchumu / Saigenji
Love is gone / kokodsten
I'm allowed to feel / Perfect Circle Project
Golden Harvest / Long Island
Mellow Lofi Morning / Energy Flow
コバルトブルーの夢 / dahlia
remember (2026 Remaster) / ophill
Bubble / Li Li Radio
I already know / Richard John
Endless Talking / Think Different

 本作全体のプロデューサーである木村は全曲のマスタリングを手掛け、ソロユニットとしてPerfect Circle Project、Energy Flow、Think Differentの3形態と、ボーカリストAKIKO K.とのプロジェクトLi Li Radioで参加の他、3組で作曲とアレンジ、演奏にも関わっており、実に7割の収録曲のプロダクションに深く関わっている。そのため”木村円ワークス集”としての側面も持っており、ジャンレスで多彩な彼の音楽家としての才能を堪能できる。

 ここでは弊サイトのカラーも考慮し、筆者が特に気になった歌物の収録曲を解説する。
 冒頭の「白昼夢 Hakuchumu」はSaigenjiのソングライティングによる書き下ろしのボサノヴァで、昨年11月の「NOVA ERA」以来に正式発表された新曲である。Saigenjiのギターの弾き語りと木村のLess is moreイズムなアコースティックピアノの少数編成でそれだけで申し分ないのだが、さらに木村のアレンジによるプログラミングされたストリングスが加わることで、豊かな色彩のサウンドが生まれている。まるでクリード・テイラーが設立したCTIレコード作品における、クラウス・オガーマンのストリングス・アレンジに通じて、正に美しい白昼夢を見ているようである。なおSaigenjiは現在新しいソロアルバムのプリプロに入ったようなのでそちらも期待している。

Saigenji

 続くkokodsten(ココディーエステン)の「Love is gone」は、ソングライティングとボーカル兼ギターのYuzi KobayashiとベースのKazumasa Oguriのユニットによる提供曲で、その編成や音像からスコットランドのブルー・ナイル(The Blue Nile)を彷彿とさせていて、筆者も好みのサウンドである。イントロからアナログ・シンセサイザーの名器プロフェット5で作ったようなキック(バスドラム)の音がしているのだが、驚くべきことに彼らは、ギターやベースなどの生楽器以外は、Nintendo DS専用音楽ソフトKORG DS-10のみを使用して曲作りをしているらしい。このようにローバジェットながら楽曲として優れているのは、エンジニアリングを含めて、細部までオリジナリティなサウンドを追求しているからだろう。

 木村のソロユニットPerfect Circle Projectは、かつてPerfect Circle名義で活動し、ソフトロックやボサノヴァの楽曲を発表していた。本作では「I'm allowed to feel」を提供しており、作詞とボーカルにはLi Li Radio名義で本作に参加するAKIKO K.が担当している。クロディーヌ・ロンジェに通じるスローバラードのソフトロック調で、サビの着地点にはロジャー・ニコルス作曲の「Let Me Be The One」(ポール・ウィリアムス、カーペンターズ他)に通じる。木村はアコースティックピアノとストリングス・アレンジを施しており、AKIKO K.のアンニュイなボーカルを引き立ている。ストリングスの配置やヴォイシングをよく工夫されていて完成度は高い。
 アート系アーティストやセラピストとしても活動し、韓国にもファンを多く持つシンガーソングライターKaoriのソロユニット” dahlia”は、9月11日に配信リリースしたばかりのシングル「コバルトブルーの夢」を本作に提供している。Kaoriの作詞に木村が作編曲したボサノヴァで、ギターにはkokodstenのYuzi Kobayashiが参加している。木村はここではエレピとシンセサイザー、ストリングス・アレンジを担当し、Kaoriのアンニュイなウィスパーボイスをフューチャーしてサウンドをよく演出している。
Dahlia

 前出のLi Li Radio名義では「Bubble」を提供しており、AKIKO K.の作詞とボーカル、木村の作編曲及び演奏と分担している。Perfect Circle Projectとのサウンドの違いは、よりスウィートなメロディーラインをはじめ、中国語の歌詞とスペーシーなシンセサイザーを多用したサウンドの構築だろう。AKIKO K.が歌う中国の歌詞とこのサウンドが妙にマッチしていて、よく計算されていると感じた。
 英国のシンガーソングライター、Richard Johnは自身のソングライティングによる「I already know」を提供し、ストリングス含めアレンジは木村が担当している。Richardの声質はジェームス・テイラーに通じるバリトンボイスで、曲調やサウンドからもAORの匂いがして本作の中では異色かもしれないが、筆者は非常に好みである。
 とにかく特徴あるRichardのボーカルは耳に残り、そのソングライティング・センスはアメリカのシンガーソングライターからの影響を強く受けているが、自身が弾くエレクトリックギター・ソロの音色にはデヴィッド(デイヴ)・ギルモアの匂いもして、英国人としての感覚も残しているようだ。この曲でも木村はアコースティックピアノやアナログ系のモノシンセなどキーボード類の他、ドラム・トラックとストリングスのプログラミングまで担当して活躍している。

木村 円

 最後に本作の総評として、自らも音楽性の高いミュージシャンであるプロデューサー、木村円のセンスにより、各曲の細部にまで拘りを感じされるコンピレーションアルバムに仕上がっていると感じた。筆者の解説を読んで興味をもった読者は、下記の公式サイトから是非予約し入手して聴いてほしい。

◎CD版:12曲 / 300枚限定・シリアル番号入り
 CD限定:Saigenji「白昼夢 Hakuchumu(Alt ver.)」、
       dahlia「コバルトブルーの夢(Alt ver.)」 
◎CDはコンピレーションの購入は公式サイトのこちらから


(テキスト:ウチタカヒデ)