2021年5月2日日曜日

【ガレージバンドの探索・第十一回】The Squires

 Pebbles Vol.1 や Psychedelic Unknowns などのコンピレーションにも収録され、ガレージクラシックスとして知られるThe Squiresの「Going All The Way」。ガレージサウンドの荒々しさに美しさも兼ね備えた名曲だと思う。気が遠くなるようなオルガンも魅力的。Farfisaのオルガンの音らしい。

Going All The Way / The Squires

 The Squiresは60年代に結成されたコネチカット州ブリストルの高校生バンドで、結成当初はThe Roguesという名前のバンドだった。このThe Roguesで65年にシングルを一枚、地元のPeytonレーベルからリリース。(PEYTON – P-1001) その後66年にニューヨークのスタジオで録音した音源のうち、「Going All The Way」(B面: Go Ahead) がAtco Recordsからリリースされている。(ATCO Records – 45-6442)この時Atco Records の案によりバンド名が変更されたそうだ。The Squiresとしてのリリースも当時はこのシングル一枚のみ。

 ティーンガレージはあまりバンド単独のアルバムで聴くには適さないジャンルに思えるしThe Squiresに関しても「Going All The Way」だけで聴かれることが多いかもしれない。と言ってもアルバムが存在していれば他の曲も聴いてみたくなる。1986年にCRYPT RECORDSから出ていたアルバム、The Squiresのシングル曲の他、TheRogues名義でリリースした音源と、未発表のデモ音源、スタジオ音源から構成された『GOING ALL THE WAY WITH THE SQUIRES! 』 (CRYPT LP-008) を購入してみた。

 「Going All The Way」のB面曲、The Byrdsに影響を受けたとされる 「Go Ahead」や、その他の未発表曲の多くも随所にセンスのいいメロディックさが感じられたり、と思えばThemの「Gloria」のカバーや、未発表デモのThe Originalなど、威勢のいい楽曲も含まれバンドの多様さを楽しめる。

Go Ahead / The Squires

 2015年にはさらに未発表のデモやライブ音源が追加され、The Rogues期の「Going All The Way」「Go Ahead」のボーナス7インチが付いたLPもリリースされている。デモ音源などをまとめているので、本来商品化されるような状態の音源でないようなものもあるのだけれど、そんな生々しさが愛おしく感じられるのもティーンガレージの魅力のひとつに思える。


【文:西岡利恵

参考・参照サイト

http://ontheflip-side.blogspot.com/2011/07/song-of-week-going-all-way-squires.html?m=1

2021年4月25日日曜日

【追悼 フィル・スペクター特集】To Know Him Was To Love Him ~ Phil Spector (1939-2021) 第3回

<1964年〜編 実践から創造へ> 


  多忙を極めるBrianがとった、Wall Of Soundを念頭においた1964年時の制作手 法とは 

Plan A:Wrecking Crewをそのまま使って、
    ヴォーカル・コーラスに専念する

 Plan B:自分達の演奏+ゲストでなんとかやってみる

の二者であった。果たして両者のうちどちらに軍配が上がったか? 
結果はPlan B

「Fun,Fun,Fun」 (全米5位)
「I Get Around」 (全米1位)
「Dance,Dance,Dance」(全米8位)

一方 Plan Aに基づく作品では 
Why Do Fools Fall In Love」(全米120位)
「He' a Doll-The Honeys」    (チャート圏外) 
「She Rides with Me-Paul Petersen」(チャート圏外)
「Endless Sleep-Larry Denton」(未発表)

 マーケットが評価したのはPlan Bであった、その後のサウンドの変遷を考慮すれ ば両者に優劣があるわけではなく、共通するのは音数の多い事と最終ミックスが モノであることだ。師匠筋のSpector譲りのお約束はしっかり守られている。
 ツアーなどでリハーサル時間の少なさから採用したPlan Bではあるが、3トラッ クのうち、空きトラックの活用は単なるダビングの域を超えて現在でも行われて いるマルチトラックの手法の萌芽となっている
 United Western Studio及びGold Star Studioは、Brianの根城となった。このことは所属レコード会社Capitolの従属から離れ、社内スタジオや録音スタッフから独立したプロデューサーとして活動する契機となったのだ。

 1964年においてすっかり日陰者になったPlan A手法だが、Larry Dentonの「Endless Sleep」はBrianの独創性の芽生えが見られる非常に貴重な作品だ。

1964年2月18日Gold Star Studioでのセッション・シート

参加ミュージシャンは、
Steve Douglas, Hal Blaine, Frank Capp, Bill Pitman, Tommy Tedesco,
Leon Russell, Al Delory, James Bond, Ray Pohlman 

 本作は弊サイト2014年12月13日の記事でも紹介されているが、単なるカバーにとどまらず、インスト部だけ一聴すればSMILE時代のアウトテイクと言われても分からない出来となっている。この土着的なモチーフは、本稿第一回でも紹介した「Back Home」にも共通するものである。Brianの曲想の根底にあるものは、戦前のboogie-woogieやミュージカル、western swing 等々、実父Murryの影響あれど米国の日々の営みに基づく音楽であり、 Mikeや時代ごとのパートナーによりコンテンポラリーなものへと昇華されていく。 
 Brian自身は語っていないが、おそらく本作のイメージを元に一年後Help Me Rhondaの制作に繋がったものと思われる。
 さて、Larry Dentonとは何者だったか?
 長らく不明とされていたが、長年の研究により意外な事実が判明する。
前稿の終わりで述べたAustralia,New Zealandツアーでは、Roy Orbison,  The Surfaris, Paul & Paulaらが同道した。その中のPaul & PaulaのPaulこと Ray Hildebrandは本ツアー参加前に学業専念を理由に辞退し、急遽白羽の矢が立ったのが『Paul』の代役Larry Dentonだった。 

 (左)オーストラリアのTV番組に『Paul』として、
ちゃっかり出演したLarry Denton
 (右)の画像と比べれば別人であることが一目瞭然 

 ツアー中Larryとは親交を深め、米国帰国後はその勢いでBrianとのレコーディングの約束をしていたようだ。上のセッション・シートの画像をご覧いただきたい。右上の部分が空白となっていることが分かる。通常ここにはレコード会社の名前が入る(=出資者である)が、中央の欄にはBrianの名前があるので、Brian独自の制作した原盤であることを意味する。Larryのその後音楽業界での足取りは途絶え本作のマスター・テープも世に出ぬままendless sleepを続けている。


 1964年のPlanA方式で生み出された作品の中で、まだご紹介していなかった作品がある。至宝とも言ってもいいだろう、Glen Campbellの「Guess I' Dumb」は同年の作品群の中でも異色の出来であり、翌年1965年以降のサウンド志向を決定づけたマイルストーン となっている。

1964年10月14日に行われた「Guess I'm Dumb」
レコーディングのセッション・シート
   右上にはCAPITOL RECORDSとあるのでCapitol提出用の
マスター音源であることがわかる。
当初の構想としてはThe Beach Boysが歌うことが
最優先であったと思われる。

 セッション記録から同曲セッションの直近のセッションは「Dance  Dance Dance」である(10月9日)、明らかに曲調はアップテンポの陽気な曲であって、この ムーディかつ洗練とややスレた感じ、そして唐突に採用されたオーケストレーショ ンを用いた同曲とは相反する。
 本作レコーディングの契機とは何だったか?
 またPlan A方式なら自慢のGold Starでのエコーをふんだんに使うところだが、スタジオはUnited Westernでのエコーチェンバーを利用しているがエコー感が異なる。多くの評伝類はGlen Campbellへの労いの印として本作を提供した云々との経緯が語られているが、セッション当時はまだバックトラックのみでヴォーカル録音は行 われておらず、この時点での制作意図は不明である。
 手がかりとなるのは、唯一1964年10月という日付だ。ここでも師匠Spectorのプロジェクトが大きな影響を与えていると思われるのだ。
 
 Spectorは地元で活躍するblue eyed soulグループThe Righteous Brothersのポテン シャルは自らのレーベルPhilles向きだと確信する、当時の彼らの所属レーベル MoonglowからPhillesへの引き抜きを画策し、1964年10月1日に両レーベル間で契約締結となり晴れてPhillesからのリリースが実現する。そこから生み出された「You've Lost That Lovin' Feelin'」(11月リリース)はPhilles最大のヒットとなる。
 ここで分かる事実とは、契約締結からリリースまで一ヶ月しかないことである。
 おそらく同月前半のGold Starはほぼ同曲のセッションがらみでぶっ通してブッキ ングされていたのではないのだろうか?(バックトラックだけでもテイクは40近く費やし、さらにヴォーカル+ストリングス+コーラスのテイクも長時間に及んだ)
 Brian自身も同月後半はツアーとTAMI SHOWへの出演の予定があり、何とかWrecking Crewを調達できてもスタジオは根城のUnited Westernとなってしまったのだろう。
 「You've Lost That Lovin' Feelin'」の作者はBarry MannとCynthia Weil 当時のヒット曲の多くを手がけた売れっ子であって、いわゆるBrill Building Soundの中心人物の一人でもある。彼らが当時在籍していた音楽出版社Screen Gemsには若き日のCarole Kingとその夫Gerry Goffinも在籍していた、Jan and DeanのJan Berryもそのひとりであり、Jan and DeanのマネージャーLou Adlerは同出版社の西海岸オフィス代表であった。
 前年BrianはJan and Deanへの楽曲提供が縁でScreen Gemsの作家として契約していた。「You've Lost That Lovin' Feelin'」の噂は当然このScreen Gemsファミリーの中では公然の秘密であったはずだ。実際小心者のSpectorは何度も関係者に「You've Lost That Lovin' Feelin'」のデモを聞かせ意見を求めている、Brian自身はその中にいたかどうかは不明である が「Guess I'm Dumb」制作の契機の一つであることは間違いない。

 もう一つ疑問は残る、西海岸のライフスタイルの代弁者から一転して、至極パー ソナルな「何も言えねー」と心情を吐露するに至る曲想はいかに形成されたのか? 鍵となるのが共作者のRuss Titlemanだ。本人の在籍していた高校は本人曰く ”Rockn' Roll HIgh School” Fairfax HighにはMo Ostin, Lou Adler, Phil Spector, Herb Alpert, Steve Barriがいた。また本人の姉と付き合っていたのはMarshall Leib後にPhilが結成し大ヒットを記録したTeddy Bearsのメンバーだ。
 そのツテもあってかRussはPhilからギターの手ほどきを受けつつ、その裏方や Phil自身のグループのメンバーに加わるなどPhilの舎弟格として行動してきた。また、作曲家としてもPhillesのパートナーだったLester Sill経由でScreen Gemsファミリーとなっていたのだ。
 年下とはいえBrianにとってRussはmini Spectorであった。Specto同様西海岸と東海岸を行き来するRussの存在はPhillesの源流であるBrill Buildingのもつ東海岸 的センスに触れるチャンスであったのだ。当時Brianは時間があれば、Lou Adler のオフィスに立ち寄ることが多かったそうで、Russもよく来ていたそうだ。この縁で曲作りに参加するようになったようである。 
 実際RussはThe Beach Boysのセッションにも参加している。
 8月に行われた「She Knows Me Too Well」で曲中聴くことができる ”キーン キーン”鳴る音はRussがマイクスタンドをドライバーで叩いている音だ。Russ繋がりで考えれば、確かにGoffin-King作を研究したと思しき、若者の持つ繊細さと感情の陰影をコードチェンジで表現した内容となっている。
 また後に同曲はアルバム『Today!』に収録されたのも「Guess I'm Dumb」の流れ で考えれば合点がいく。
 同年のRussの作品のいくつかを事前にBrianも聴いていただろう。 
 
 DimensionからリリースされたThe Cookiesの「I Never Dreamed」 や多くの共演で知られる「What Am I Do With You?」は「Guess I'm Dumb」に繋がる内省的な響きとなっている。


Calore KingによるScreen Gemsで制作されたデモ用アセテート



 Russ自身は10月以降はテレビの新番組『Shindig』におけるハウスバンドのメンバー加入により多忙となっているので8月から9月に「Guess I'm Dumb」の作曲が行われたものと思われる。
 「Guess I'm Dumb」制作の伏線としてあげられるのは、ここでも同様Screen GemsファミリーであるJan Berryの存在がある。
 Janは既にアレンジとコンダクターとしての技量を持っていた。その力量を持って将来自身の曲を、オーケストラアレンジで制作することを企図 していた。その構想は翌年’65年にアルバム『Jan & Dean's Pop Symphony No.1 』で実現する。


 また、Jan and Deanのレコーディングセッションへの参加は’64年になっても続 き、3月10日に行われた「Easy As 1,2,3」のセッションはBrianも参加した。
3月10日のJan and Deanのセッション・シート 
Brianもピアノで参加している。


 「Easy As 1,2,3」はJanの当時のガールフレンドJill Gibsonが作曲しJanとJillとのデュエット曲である。いわゆるnorthern soul風の趣がありJan and Deanの他の曲とは異彩を放っている。特にホーン部にはフリューゲルホーンが用いられている点はBrianにとって参考になったであろう。
 また、そこから二ヶ月遡ること6月中旬は『Christmas Album』の制作期間であり、その中のスタンダード曲のアレンジャーはDick Reynoldsだ。
 DickはBrianの幼少時からの憧れであるThe Four Freshmenの楽曲でのアレンジャーであるので、Dickの仕事に触れる機会は今後のオーケストレーション導入の伏線と なった。実際翌年'65年にはDickを招聘し3曲セッションを行なっている。
 また、SpectorがらみのストリングスアレンジではJack Nietzcheが多くを手がけたが、その初期(Paris Sisters, The Crystals)にあってはHank Levineが関わった。
 1961年リリースのHank Levine and Orchestraの「Image-Part I」は地元ラジオ局 KFWBのテーマ曲で地元でも親しまれヒットした。どことなく 「Guess I'm Dumb」を思わせるが真偽は如何に。
(あくまでシャレなのでご愛嬌!)



 レコーディングは3トラックのレコーダーで行われた。 Plan A方式なので師匠のSpector譲りのスタジオでのライブ録音 一発録りであるが、Brianの独自性がここで発揮されているのだ。 
 従来のSpectorの手法では
1トラック ドラム+ギター+ベース+ホーン
2トラック ヴォーカル+コーラス(後から録音)
3トラック ストリングス+効果音(後から録音)
そして1トラックモノマスター作成=完成
 
 となるが 、本作以降のBrianの場合 
1トラック ドラム+ベース+ギター (ライブ録音)
2トラック ピアノ+周囲の残響音+ストリングス(ライブ録音)
3トラック ホーンセクション (ライブ録音)

 上記を1トラックにまとめ新たな3トラックレコーダーへダビング (残り2トラックはヴォーカル+コーラス) と、最終的には師匠Spectorと同じモノマスターとなるわけではあるが バックトラック部分の録音手法は完全にマルチトラックを前提として 意識的に運用していることがわかる。
 以後4トラックレコーダーが導入されるようになると、ドラム+ベース を1トラック目に録音し、2トラック目にギターを録音するようになる。
 本作で処理されているギターとホーンの音色は明らかにエコー感の薄い 原音に近い音で録音されている。ホーンについてはデビュー以来のこだわり? か常にドライな音像となっている。
 ギターについてもドライな音が本作以降 増えてくるようになる。通常ギターの録音はアンプの前にマイクを設置して、その音を拾ってコンソールでミックスするのだが、本作ではアンプっぽい音がしないのは何故か?

The Beatlesの録音風景かのThe Beatlesといえど
録音方法はオーソドックスなものだ。

 答えは意外なところにあった、Motown! 
 Motownではアンプのノイズ対策としてギターやベースからの信号を直接コンソールへマイクを通さず送る手法を開発していた、現在でもdirect input(また はD.I)と呼ばれる手法だ。Motownの楽曲のうち、James Jamersonのベースサ ウンドを好んで聴いていたPaul McCartneyは当初このdirect inputのマジックの原理を知らず、このサウンドの再現のため試行錯誤していた。特にユニークな エピソードとしては、「Paperback Writer」の録音の際どうしてもMotownと同じ音が欲しいため、ラウド・スピーカーを出力ではなく入力機器として、なんと マイク代わりに使ったことがある。

 再びCaliforniaへ戻ろう、United Westernでもいつの頃からかこのdirect inputの手法が使われるようになったのだ。おそらくこれはMotownの西海岸オフィス開設と関係があるのだろうか?
 オフィスの開設目的がA&Rやセッション、 音楽出版事業となっており、デモの制作で地元Los Angelsのスタジオを使った可能性は否定できない為、Motwonのセッションでdirect inputの原理を教わり、プリアンプ的な回路をカスタマイズして信号をブーストすればいいので、技術の伝搬は容易であっただろう。United WesternやGold Starでは機器の関係上direct inputによる演奏はスタジオ内でなくコンソールの近くで 行われた。

 
映画『ラブ&マーシー 終わらないメロディー』で
再現された「Wouldn't It Be Nice」レコーディング風景
同動画の20秒目になんとdirect input を再現している

MotownのスタジオでのRobert White とJoe Messina
direct inputの機器が使われていることが見える

 この手法はアルバム『Today!』以降の曲においてあちこちで使われており、 ギターストロークにユニゾンを求めたSpectorとは違いBrianの場合はポリリズムのギターアンサンブルを構築している。そして存在感のあるホーンが絡みストリングスやヴィブラホンなどが加わり、Gold Starのエコーが全てを包み込んで、Brian独自の管弦楽法が完成していく.....。 
 以後Brianはツアーからの脱退によりスタジオワークに没頭し、レコーダーのマルチトラック化に助けられライブでは再現不可能な作品を作り続ける。
 Brian同様The Beatlesはマルチトラックやテープ編集の活用で、ロックの歴史を書き換えた。技術の進化が個々の感覚を開花させた、しかしそれが契機となり、皮肉にも両グループともメンバー間の不和を早めることとなった。
<完>

1965年3月18日付けで登記された「Guess I'm Dumb」 
ヴォーカル録音は翌月4月でシングルリリースは6月だ。
この時点ではBrianが作詞、作曲となっている 。

シングルリリース直前に『Shindig』出演した映像(1965年5月19日)
作曲者のRuss Titlemanは当時同番組のハウスバンドの
メンバーであり、Glenも時々ギターで参加していた。

(text by MaskedFlopper / 編集:ウチタカヒデ)

2021年4月21日水曜日

近藤健太郎:『Begin』(*blue-very label* / blvd-016)リリース・インタビュー

 
 ポップス・バンドthe Sweet Onions(スウィート・オニオンズ)のリーダーで、シティポップ・ユニットThe Bookmarcs(ブックマークス)の活動でも知られる、近藤健太郎が初のソロ・シングルを7インチ・アナログ盤で5月1日にリリースする。 
 2組の作品で聴かれるサウンドとはまた異なる、歌そのものを大切にしたこのソロ・プロジェクトを大いに歓迎したい。今回の共同プロデューサーにはthe Sweet Onionsのサポート・ミュージシャンなどを務めていた及川雅仁氏を迎えており、マスタリングは弊サイトでも評価しているマイクロスターの佐藤清喜氏が務めている。
 ここでは昨年12月の『マッカートニーIII(McCartney III)』の対談レビューも記憶に新しい近藤に、この初のソロ・シングルについて聞いてみた。筆者による各曲の印象についても触れて語り合っているので、このインタビューと共に近藤に選曲してもらったプレイリストを聴きながら読んで欲しい。



~「近藤さんのソロ、うちでリリースしませんか?」と
  メッセージが届きびっくり~ 

●まずはソロ活動に至った動機を聞かせて下さい。

◎近藤健太郎(以下 近藤):以前から作り溜めていた曲が沢山ありまして、自分の責任で自由に表現した作品を一度作ってみたいと、ずっとぼんやり考えていました。そんな中、blue-very labelの中村さんが曲を聴いてみたいと言ってくれて、無邪気に何曲も送りつけてしまいました。
ある日LINEで、「近藤さんのソロ、うちでリリースしませんか?」とメッセージが届きびっくり。本当に嬉しかったです。

●blue-very labelの中村さんからのお誘いが切っ掛けなんですね。そもそも自分でもインディーズ・レーベルphilia records(フィリア・レコーズ)を主宰しているから、自社レーベルのリリースを増やして盛り上げたいと考えるのが普通だと思うんです。敢えて外部のレーベルからリリースするというのは、中村さんの熱心なアプローチに応えたということですか?(笑)
またこのソロ活動について、the Sweet Onionsのパートナーで同じくレーベル運営をしている高口(大輔)君からはどのような意見が出たでしょうか? 

◎近藤:そんなそんな、応えたなんて恐縮です。本当にありがたいお話です。送った曲に対して、いつも心のこもった感想をくれてとても励みになっていたので、こちらこそよろしくお願いしますと、中村さんに委ねました。 高口君にはソロをやることになった経緯や、自分の気持ちや思いを長い文章にして送りました(笑)。最初びっくりした様子でしたが、「近藤さんのソロ聴いてみたい!応援するよ」と言ってくれて嬉しかったです。


 
近藤健太郎 (kentaro kondo) Begin Music Video

 ~「Begin」は曲が出来た瞬間からフレンチホルンが
  頭の中で鳴っていたんです~

●今回収録した3曲ですが、各曲をソングライティングした時期とモチーフなどがあれば教えて下さい。

◎近藤:「Begin」は13年前くらいに作った曲です。The Beatlesの「For No One」で聴けるフレンチホルンや、「Mother Nature’s Son」の印象的なフレーズ、英国的なメロディに影響を受けつつ、ロックな要素も取り入れてみました。歌詞はリリースが決まり、いよいよ書かねばと、悩みに悩んで完成しました。
「American Pie」は、4年前にnote(コンテンツ配信用のプラットフォーム)にデモをアップ。曲と歌詞、ほぼ同時に出来上がりました。ストレートなロック、もしくはマージービート的アプローチと言いますか、この曲はそれを意識した曲調に仕上がったかと思います。
「Heaven」は8年前くらいにピアノで作った曲です。出来た時はちょっと暗いなぁ、でもJohn Lennonの「Oh My Love」みたいで良いかもと思いつつも、ずっと封印していたのですが、今回レコーディングするにあたり、出だしのメロディをガラッと作り変えてみました。まるで別の曲に生まれ変わったかのようで、この曲と新鮮に向き合うことが出来ました。歌詞は「Begin」同様、今年になってまとめ上げました。 

●タイトル曲の「Begin」のポールっぽさは、歌に寄り添うアコギやホルンのオブリガートに滲み出ていると思います。イントロからヴァースのアコギの基本コード進行にもそれは言えているけど、ファースト・インプレッションではトレイシー・チャップマンの「Baby Can I Hold You」(『Tracy Chapman』収録/1988年)を彷彿させて、直ぐに鷲掴みにされたのね。さり気なく心に忍び込んでくる、ジェントリーな健太郎サウンドというか。(笑)13年も前の曲なんですね。 
同じポール色でも「American Pie」は正しくマージービートにフォーク・ロックの匂いがするバンド・サウンドになっているのが面白いですね。及川(雅仁)さんの12弦ギターのアルペジオがサウンドの要になっていますが、アレンジ面でもリクエストしましたか?
「Heaven」は一転してピアノを中心にしたバラードですね。ヴァースのメロディをモディファイした成果が出ているんだと思いますが、この曲同様のパターンで完成させてリリースした曲というのはこれまでにあったでしょうか? それと「Begin」もですが、曲先で歌詞を捻り出すコツはなんでしょうか? 

◎近藤:「Baby Can I Hold You」は知らなかったので聴いてみました。なるほど!じわじわと心に染み入る、本当に素敵な曲ですね。嬉しいです。「Begin」は曲が出来た瞬間からフレンチホルンが頭の中で鳴っていたんです。今回生で録音することが出来て幸せです。
「American Pie」はまさに及川君と一緒に制作する切っ掛けとなった曲なんですよ。
noteにあげたデモはベースレスだったのですが、ある日突然及川君から「noteにアップしていた曲がとてもよかったので、勝手にベースを入れてみちゃいました。よかったら聴いてみてください」と、音源付きのメールが届きました。聴いてみたらもう最高で、すぐに及川君に返信。ベース入りの音源をnoteに再アップしました(笑)。
軸となるギターのフレーズは、当初のデモの段階からあったので、そこはまず忠実に再現しつつ、12弦のアイデアも含めて及川君がさらに発展させてくれました。ロック色を強めたかったので、歪みのエレキギターを僕が弾いて、全体のグルーブも力強くミックスしてもらいました。
ちなみに「American Pie」の1st Demoは、初回特典のCD-R『Demo Tracks Vol.1』に収録したので、是非聴き比べて欲しいです。 
今回の「Heaven」のようなパターン、実はわりとあります。しばらく寝かせて、いや、何年も寝かせて(笑)、今の気分に合ったメロディや歌い方に到達することは多々ありますね。アレンジに関しては、特にどこか幻想的なドラムの音色やパターンが、まさに今の自分の感覚にぴったり寄り添ってくれた感じがして、先程も述べたように、新しい歌に生まれ変わった気がしてとても満足しています。 歌詞に関しては、基本いつも曲先なんで、あらためてコツというとすぐに思い浮かばないのですが、歌にいかにフィットするか、誰にでもわかりやすい印象的な単語を必ず入れてみる、そんなことを気にかけながら書いています。あとは先にタイトルを決めてしまい、そこからイメージを膨らませて作っています。

●改めて「American Pie」のデモを聴きましたが、ギター・リフ自体はデモの時点からあったんですね。それを12弦で発展させるという案は正解ですね。余談ですが、この特徴的なリフを聴くとビートルズの「Ticket To Ride」や「If I Needed Someone」、ザ・バースだったら「Mr. Tambourine Man」や「All I Really Want To Do」などフォーク・ロックの文脈の印象が強く、後のギター・ポップへの影響力を感じさせますよ。僕はリアルタイムで12弦というとXTCの「Senses Working Overtime」や「Funk Pop A Roll」でしたけど(笑)。 
また寝かしてモディファイさせた「Heaven」の話も興味深いです。デモ集に収録されたピアノだけのバージョンでその世界観は完成されていると思います。 
曲先での歌詞作りの点ですが、以前The Bookmarcs(ブックマークス)のインタビューでその工程は聞いていたのですが、一人でソングライティングする際も基本同じだったんですね。人それぞれだと思いますが、よくシンガーソングライターは歌詞と曲が同時に湧き出てくるというミラクルなパターンもあるそうで、そんな体験はなかったですか? 

◎近藤:フォーク・ロックの文脈からギター・ポップへ。まさにそうですよね。あげていただいた曲、どれも大好きです。あと「American Pie」は、トム・ハンクス主演の映画「すべてをあなたに」の主題歌「That Thing You Do!」の世界観にも影響を受けています。楽曲のみならず、楽しげでちょっぴりレトロな雰囲気の歌詞にしてみました。ちなみに曲の出だしは一瞬あれです(笑)。The Beatlesの「Sgt.Pepper’s Lonely Hearts Club Band - Reprise」。ポールのライブでこの曲を何度となく体感していまして、あの高揚感を自分なりに再現したいと思いました。
そしてこの曲は先程も述べたように、歌詞と曲が同時に湧き出た作品です。自分にとってはミラクルですね。他はどうだろう、同時に出来ることはあまりないのですが、曲と一緒に最初に思い浮かんだフレーズが核となり、そのまま形になることはよくあります。



 ~僕のやりたいことを汲み取って、理解してくれるところ
                からスタートしました~

●今回共同プロデューサーの及川雅仁さんについてですが、どういった活動歴がある方でしょうか?また近藤君との関係性も聞かせ下さい。

◎近藤:及川くんはリカロープさんのプロデューサーとして知られていて、常盤ゆうさんへの楽曲提供とプロデュース等もしています。また沢山のバンドでサポート奏者としても活躍しています。ここ数年はThe Carawayのライブサポートをされていて、ギターやキーボードを弾いています。 
及川君とは出会って10年以上経ちますが、僕のバンド、the Sweet Onionsではベース・サポートでお世話になっています。また僕と高口君(the Sweet Onionsのメンバー)でサウンドプロデュースしたシンガー、藍田理緒さんのアルバムのレコーディングにも参加してくれました。穏やかで控えめな性格でありながら、芯が通っていて、人の良いところをさりげなく引き出してくれる、優しく才能溢れる人です。

●成る程、豊かな人間性と才能を持ち合わせた方なのですね。これまでにthe Sweet Onionsの高口君やThe Bookmarcsの洞澤徹君といった方々と楽曲やアルバム作りをしてきた訳ですが、お二人とは異なるカラーで特筆すべきポイントはなんでしょうか? 

◎近藤:今まではバンド、またはユニットのメンバー同士という関係性、今回は共同のプロデューサーという間柄なので、作り方や関わり方が根本的に違いますよね。なので、異なるカラーで特筆すべきポイントという問いにはちょっとお答えしかねます(笑)。
バンドのメンバーだと、ある意味エゴをぶつけ合ったり、それぞれの意見を尊重しながら、お互いのカラーが混ざり合って作品が生まれていきます。それは本当に素敵な関係だと思います。ソロにおいては、まず僕が描いていた明確なイメージがあって、及川君がその僕のやりたいことを汲み取って、理解してくれるところからスタートしました。
音楽的な趣味も本当に近いので、お互いが理想とするゴールに向かって、楽しく制作することが出来たのは大変ありがたいことだなと思っています。

●レコーディングの時期はいつ頃だったでしょうか? またその際のエピソードを聞かせて下さい。

◎近藤:正式なレコーディングは2020年の12月から今年の2月中旬まで。それまでは及川君とデモのやり取りをしてイメージを固めていきました。ボーカルや楽器を録音する際には、及川君の的確なマイキングと、録り音に対しての適切なジャッジがとても助けになりました。
ピアノのレコーディングも楽しかったです。生のピアノで録音するのは初めてだったのですが、及川君はとても褒め上手なので、上手くなったと錯覚してしまい、気持ちよく弾くことが出来ました(笑)。 
生のフレンチホルンとフルートの録音もまた格別でした。レーベルの中村さんにも立ち会ってもらって、演奏を依頼したお二人(まりんさん、まあやさん)が奏でる美しい音色に、すっかり魅了されてしまいました。
またボーカル録音は、自分なりに細かいところまで拘ったつもりです。一度完成したものの、1曲どうしても気になってしまう箇所があり、もう一度スタジオに入りたいと及川君に連絡したこともあります。ありがたいことに快く応じてくれて、おかげさまで納得いくものが作れました。 

●レコーディング期間はコロナ禍でもあったので苦労されたと思いますが、及川さんのアーティストの視線に合わせたきめ細かいプロデュース・ワークに助けられたようですね。
ゲスト・ミュージシャンは近藤君の知り合いの方でしょうか?
また完成後(マスタリング前のファイナル・ミックス後?)のやり直しというのは、ジャッジしている状況で変わりますから仕方ないという気がします。

◎近藤:ゲストのお二人はレーベルの中村さんのご紹介で知り合いました。長く吹奏楽団に所属されていて、本当に楽器を演奏するのが楽しそうなので、こちらも思わずウキウキしてしまいました。録音が予定より早く終わった日、お二人がディズニーの「Beauty and the Beast」をオーボエとフレンチホルンで奏でてくれたのは、楽しい思い出です。


~「Heaven」を作るときにあらためて聴き直し、
  その素晴らしさに感涙~

●ソングライティングやレコーディング期間中、イメージ作りで聴いていた曲10曲を挙げて、各曲についてその理由も聞かせて下さい。

■For No One / Paul McCartney
 (『Give My Regards To Broad Street』/ 1984年)
◎「Begin」はポールが84年に再演したこちらのバージョンに影響を受けています。

■From Prying Plans Into The Fire / Tamas Wells
(『A Plea En Vendredi』/ 2006年)
◎シンプルで暖かなアコースティックサウンドと優しいハーモニー。この曲を聴いていると、ついギターを手にしてハミング、曲を作りたくなってしまいます。そして10年以上前に、この曲を教えてくれた友を思い出します。

■Probabilmente / Fitness Forever(『Personal Train』/ 2018年)
◎Elefant Recordsからリリースしているイタリアのバンド。空に広がる爽やかなメロディとハーモニー。ギターポップテイストでソフトロック。やはりどうしても惹かれてしまいます。こちらも曲作りの参考にと、いつもお世話になっている方が教えてくれた曲です。

■Parachute / Sean Lennon(『Friendly Fire』/ 2006年)
◎ナイーブで内省的な世界観。実はソロを作るにあたり、無意識に最も影響を受けていたのはショーン・レノンだったりします。

■Cast No Shadow / Duncan Browne(『Duncan Browne』/ 1973年)
◎美しくて繊細で優しくて。こんな風に唄い奏でることが出来たらなぁと。

■She’s Got a Way / Billy Joel(『Cold Spring Harbor』/ 1971年)
◎どうしても『Piano Man』が注目されがちですが、『Cold Spring Harbor』はやはりビリーの原点。「Heaven」を作るときにあらためて聴き直し、その素晴らしさに感涙。

■Live It Up / Wouter Hamel (『BOYSTOWN』/ 2019年)
◎こんな風に歌えたら・・・と、現在活動している中で一番憧れるシンガーはこの方。叶わぬ夢ですが。最新アルバムの中からピアノバラード曲。よく聴いています。

■Mexican Wine / Fountains Of Wayne
(『Welcome Interstate Managers』/ 2003年)
◎美メロなロック、パワーポップも大好物です。ソロアルバムではこんなテイストの曲もいくつか披露できたらなと。

■Where Does the World Go to Hide / Utopia
(『Deface The Music』/ 1980年)
◎誰もがビートルズに憧れている。だって、仕方ないじゃないか。

■Hibi / うつくしい日々 / Eriko Uegaki(『Unclouded』/ 2020年)
◎メモを取ったり、日記を書いたりするような感覚で、日々曲をスケッチしてみたい。誰に聴かせるわけでもなく。家での時間が増えてから、より音楽に向き合うことが出来ました。このアルバムは、そんな毎日にそっと寄り添ってくれた作品です。



●年内にはファースト・ソロアルバムのリリースも予定しているとか。 今後のソロ活動への抱負と、本作『Begin』のアピールをお願いします。

◎近藤:引き続き焦らず、じっくり音源作りに励んでいきたいと思います。自分が素直に好きだ、ずっと聴きたいと思える作品を残していきたいです。
『Begin』はレコードに収録の3曲は勿論、先に触れましたが、初回特典のCD-Rや、ミニソングブック(詩集)も含めて、トータルで楽しんでもらえたら嬉しいです。 ジャケット、写真、MV等、デザイナーのFumika Arasawaさんのアートワークのおかげで、音や歌詞の世界観がより鮮明になりました。是非手に取ってみてください。

●ソロアルバムのリリースは期待しています。初回特典CD-R『Demo Tracks Vol.1』の中で個人的には、小林しのさんに提供した「Large Gate」(『SPLIT EP SERIES VOL.3』収録 / 2020年)のセルフカバーが特に素晴らしかったです。初回特典ということで、直ぐに予約しないといけませんね。
ジャケットやインナー・スリーヴなどアートワークもこれまでのthe Sweet OnionsやThe Bookmarcsとは異なるアプローチで、新たな近藤健太郎の魅力がアピール出来たと思いますよ。

初回特典CD-R『Demo Tracks Vol.1』

◎近藤: そう言っていただけると本当に嬉しいです。少し気が早いですが、ソロアルバムに収録する曲の選別を及川君とすでに進めております。
初回特典のDemo Tracksは何と8曲入り。この中からアルバムで正式に披露する曲もあるかもです。
演奏、ミックスも初めて1人で全部手掛けたので(一部を除いて)そこも暖かい耳で聴いていただけたら(笑)。
ミニソングブックは特典に収録されている曲の歌詞が散りばめられております。重ねてになりますが、僕の初のソロ作品「Begin」をよろしくお願い致します。


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 (設問作成・編集・文:ウチタカヒデ)