2026年10月15日木曜日

青野りえ:『TOKYO step』リリース・インタビュー

~WebVANDA推奨・今年聴くべきアルバム~


 女性シンガー・ソングライターの青野りえが、4thアルバム『TOKYO step』(FLY HIGH RECORDS/VSCF-1782 FRCD-086)を10月21日にリリースする。2023 年11 月の3rdアルバム『TOKYO magic』から約3年となる新作で、待ちわびていたファンも多いはずだ。
 本作では1st『PASTORAL』、2nd『Rain or Shine』を手掛けた鬼才シンガー・ソングライターの関美彦と、前作『TOKYO magic』を手掛けたThe Bookmarcsのメンバーで作編曲家の洞澤徹が収録曲のサウンド・プロデュースを分け合って担当するという豪華さである。
 更にThe Bookmarcs近藤健太郎が作曲して先行で配信していたシングル「フィナーレを待ちながら」をボーナス・トラックとして収録している。

 
本作前半の6曲の作編曲を手掛けた関美彦チームのレコーディングには、前々作『Rain or Shine』同様にベースの伊賀航(細野晴臣、星野源等)、ドラムスに北山ゆう子(堀込泰行、RYUSENKEI等)、ギターに山之内俊夫(花澤香菜、ROUND TABLE等)、ピアノには長谷泰宏(ユメトコスメ)といった手練プレイヤー達を迎えている。そして後半5曲の作編曲を手掛けた洞澤徹チームには、前作『TOKYO magic』に参加したベースの北村規夫、ドラムスには足立浩といずれも多くのセッションで知られるミュージシャン達が再び参加し、ギターとプログラミング、ミックスは洞澤徹自身で担当しているのだ。また関の前半曲のミックスと全体のマスタリングはこれまで同様に多くの作品でも知られる、マイクロスターの佐藤清喜に委ねられている。
 さらに洞澤が手掛けた新曲の「空と海のサンバ」では、キーボーディストとして、古くはLampの1stをはじめ多くのセッションに参加し、現在は自身のトリオでの活動が主となっている矢舟テツローが、ゲスト・ボーカリストとして参加しているのも要注目である。
 このように本作『TOKYO step』には、これまでの青野サウンドの集大成的なメンバーが勢ぞろいしており、アルバム・コンセプトである“ネオ・ディスコ”を各メンバー達によって繰り広げている。

 ここでは、筆者による本作『TOKYO step』に収録された全曲の詳細レビューと、青野へのテキスト・インタビュー、そしてソングライティングやレコーディング期間中にイメージ作りで聴いていたプレイリストをお送りするので、聴きながら読んで欲しい。

 
青野りえ ニューアルバム『TOKYO step』
全曲試聴Teaser 

 マスタリング直後音源を入手し聴き込んで早1ヶ月になるが、収録曲の解説をしていこう。
 冒頭の「スカーレット」は、ファーストテンポでスイングする北山のドラミングから始まる関の作編曲のハードエッジなジャズファンクだ。動き回る伊賀のベースライン、多重録音して縦横無尽な山之内のギターカッティング、ピアノでメインコードを奏でる長谷も相当インタープレイを織り込んでいるので、ヘッドアレンジを超えた、白熱した一期一会セッションのサウンドになっており、聴く者を釘付けにしてしまうだろう。
 関はテンションを効かせたブラス系シンセのパッド、リズムの核となっているラテン・フィールのクラベスをプログラミングして全体のトリートメントを施している。この様な完璧なサウンドに、青野の美意識と気品漂う歌詞とボーカルが乗るのだから堪らない。冒頭曲に相応しい完成度に脱帽するばかりだ。
 続く「トワイライト」は、一転してミッドテンポの1980年代の打ち込み系R&Bに通じ、北山の生ドラムに関がプログラミングしたシンセベースやキーボード類が主体となるサウンドだ。間奏では山之内がアーニー・アイズレー風のギターソロを披露し、青野による都会的な歌詞とクールなボーカルに呼応していて、ナイト・ドライヴィング・ミュージックとしても一興である。

ボーイフレンド

 10月14日に先行配信されたばかりの「ボーイフレンド」は、シャッフル・ビートで進行するソフトロック系のプリティなポップスだ。山之内はセンターのアコースティックギターと左チャンネルのモジュレーションを深くセッティングしたエレキギター、この手のサウンドを得意とする長谷は右チャンネルでアコースティックピアノをそれぞれプレイしている。またオブリを奏でるグロッケンやタンバリンなど効果的に配置されており、青野による歌詞は青春ベースボール系で、ユーミンの「まぶしい草野球」(『SURF&SNOW』収録1980年)に通じており、溌溂とした歌声も含めて好感が持てる。
 これまでの青野の歌唱やサウンド・スタイルから本作中最も踏襲しているのが、AOR系の「マーマレイド・タイム」だろう。シンセのリフや青野自身の多重録音によるスキャット、北山と伊賀のリズム隊による跳ねるグルーヴがひたすら気持ちいい。長谷はフェンダーローズ系のエレピとアコピを弾き分けて、山之内はエレキのカッティング、間奏ではアコースティックギターでソロを取るなどアレンジ的にもよく工夫されている。
 続くフランス語タイトルの「マシェリ」は、ワルツや6/8拍子を基本とした軽快なラヴソングで、この手の変拍子リズムでは北山のドラミングが光っている。「ボーイフレンド」同様に尺が2分台なので、もう少し聴いてみたい程、良い演奏と歌唱である。
 関が手掛けた前半(アナログだとA面)最後の「タイニー・ブルー」は、本作のコンセプト“ネオ・ディスコ”を最も体現しているダンス・ナンバーだ。リズムセクションで16ビートを刻むのはアコースティックギターのみで、極力音数を削って隙間を活かしたアレンジとミックスに仕上がっているので、各プレイヤーの巧みでタイトなプレイがより楽しめる。
 またインタビューのプレイリストで青野が触れている、ブルーノ・マーズ(Bruno Mars)のサウンド構築法にも通じるが、原点回帰というか70年代ファンク・ミュージックへの敬意を感じさせる。青野による巧みに韻を踏む歌詞やボーカル・スタイルからもダンス・ナンバーとして完成度が高い。本作からシングルカット(12インチ)するのであれば、間違いなくこの曲だろう。


恋する惑星

 昨年6月に配信リリースされたシングル「恋する惑星」からの後半5曲は、前出の通りThe Bookmarcsの洞澤が手掛けている。この「恋する惑星」はラー・バンド(The RAH Band)の「Clouds Across The Moon」(1985年)のオマージュである。本作『TOKYO step』のコンセプトのきっかけになった、この曲の歌詞は宇宙を舞台にしたラヴソングであるが、歌詞にミラーボールが出てくるのも聴き逃せない。マニアックな読者ならご存知の通り、ラー・バンドはビートルズの「The Long and Winding Road」(『Let It Be』収録/1970年)やポール・マッカートニーのウイングス時代の「マイ・ラヴ」(1973年)をはじめ、ジグソーの「Sky High」(1975年)等のドラマティックなオーケストレーションで知られる、英国人アレンジャーのリチャード・アンソニー・ヒューソンが1977年に妻と結成したプロジェクトである。
 日本において、「Clouds Across The Moon」のカバーやオマージュはこれまでも多々あり、1995年に電気グルーヴ在籍中の砂原良徳がファーストアルバム『CROSSOVER』でクラブ・ミュージック風にアレンジしたカバーが比較的早かった。オマージュ系では2013年に元AKB48の星野みちるがファーストアルバム『星がみちる』に収録した「私はシェディー」(作詞:星野みちる/作曲:はせはじむ)が特に知られるだろう。奇遇にもアレンジとプログラミングは、本作のマスタリングを担当しているマイクロスターの佐藤清喜だった。
 余談が長くなったが、ここでの「恋する惑星」がそれらと異なるのは、生楽器を多く取り入れてヒューマンで有機的なグルーヴにアダプトした点だろう。洞澤は全てのプログラミングに加え、右チャンネルでミュートさせたエレキギターのアルペジオを、ベースは北村がスラーを効かせたエレキベースを手弾きしている。この曲のグルーヴの肝となるシンセベースに頼っていないところが新鮮でユニークなのだ。なお近年のヒューソンのインタビューによると、1985年のオリジナル・ヴァージョンのシンベは、当時としては旧式である日本のRoland製 モノフォニック・アナログシンセSH-5(1975年リリース)を使用していたという。

 続く「ASTER」は一転して、アコースティックギター(ガットギター)をメインにしたボサノヴァ・ソウルで、足立のドラムと北村のエレキベースによる生のリズムセクションが心地良い。コード進行も凝っていて、ヴァースからサビに入る手前でさり気なくテンションを効かせ、コーラスやホーン・アレンジも素晴らしく、リード曲ではないが耳残る隠れた名曲である。
 1980年代初期のブラックコンテンポラリー・サウンドに通じる「sweet escape」も触れずにはいられない。イントロからマーヴィン・ゲイの「Sexual Healing」(1982年)を彷彿とさせる、ウィスパー・コーラスやRoland TR-808系の簡素なドラムマシーンなど音数少ない空間で、北村のファンキーなエレキベースがグルーヴを形成していく。青野による都会的な歌詞と表現力豊かなボーカルと非常にマッチしている。


空と海のサンバ

 そして10月1日に先行配信された「空と海のサンバ」だが、この曲によって本作の終盤をビビッドに飾ってくれている。インタビューのプレイリストでは、ラー・バンドの「Sam the Samba Man」(1983年)をリファレンスにしたとのことだが、同曲で聴ける英国人によるプログラミング主体でサウンド全体をデフォルメ加工した80年代のキッチュな感覚(本曲でもアナログシンセ系SEが大胆にインサートされているが)より、洞澤のセンスでスリーリズムを生楽器の演奏にして、オーセンティックなブラジリアン・サンバ色を濃くしたことで、青野の声質や声域にマッチしたサウンドに仕上がっていると感じた。ここではスルドのパターンをロータムでプレイするなど、巧みなドラミングを披露する足立のプレイも光っている。
 またサビをはじめ、イントロやパート間でリフレインするコーラスでは、スペシャルゲスト・ボーカルの矢舟テツローとデュエットしており、青野のアルト〜メゾソプラノ系の透明感ある歌声に、矢船のバスバリトン・ボイスがブレンドすることで、ボーカル・パートのコントラストが際立ち、聴き手の心を高揚させて多幸感を与えてくれる。この感覚はブラジル伝説のシンガー、エリス・レジーナ(Elis Regina)が、同国の至宝とされたシンガー・ソングライターのシコ・ブアルキ(Chico Buarque)とデュエットで発表した「マスカレードの夜(Noite dos Mascarados)」(1967年)にも通じる感覚である。

 本編ラストの「Spoonful Love(スプーン一杯の愛)」は、そのタイトルから弊サイト読者ならジョン・セバスチャンが60年代に組んでいたフォークロック、ポップス・バンドのラヴィン・スプーンフル(The Lovin' Spoonful)をイメージさせるだろう。だがサウンド的には、嘗て弊誌監修で出版した書籍『ソフトロックAtoZ』で高評価した、ソフトロック~アコースティック・ソウル・デュオのアルゾ&ユーディーン(Alzo & Udine)や、1995年に日本でリイシューされ、渋谷系やギターポップ界隈でリバイバル・ヒットした、ハワイアンAORのテンダー・リーフ(Tender Leaf)に通じる、風の通しの良いヤング・フリーソウルに仕上がっている。青野のプレイリストでもアルゾのソロアルバムと、ハワイアンAORを代表するカラパナ(Kalapana)が挙げられているので、その親和性を感じてくれると思う。
 この曲でのサウンドの要は、洞澤による複数のアコースティックギターとエレキギターのカッティングで構築したギター・トラック、波打つような北村のベースライン、ドラム以外に足立がプレイしているコンガを含めたポリリズムの気持ち良さだろう。青野による清々しさを感じさせる歌詞の世界観やナチュラルな歌声が、それらサウンドに溶け込んで大団円を迎えるのであった。


フィナーレを待ちながら

 ボーナス・トラックには今年5月4日に配信シングルでリリースしていた、「フィナーレを待ちながら」を収録している。弊サイトでは当時レビューを紹介済みだが、青野の作詞と近藤の作曲という初のタッグで制作された1曲で、近藤らしいポール・マッカートニーの「Maybe I'm Amazed(恋することのもどかしさ)」に通じるその曲に、青野が歌詞をつけてローラ・ニーロやキャロル・キングなど70年代初期~中期のシンガー・ソングライター風のサウンドに仕上げられた、ピュアでナチュラルな心情を描いたラヴソングである。


青野りえ★インタビュー
“大貫妙子さんの『Grey Skies』のように、
1枚のアルバムに複数の制作チームが関わるような
スタイルも面白いのではないかと”

●前作『TOKYO magic』から約3年になりますが、この期間にどのような活動をされていたでしょうか?

◎青野:自主企画のワンマンライブをしたり、イベントに呼ばれて歌ったり、2024年からはk-mixのラジオ音楽番組「ようこそ夢街名曲堂」のレギュラーとして出演しています。

●この期間、次回作の歌詞のアイディアやモチーフをストックしたりするタイミングはありましたか?

◎青野:今回はストックなしで、すべて曲を聴いてから作詞に取り掛かりました。

●本作の曲作りとレコーディング期間を教えて下さい。またサウンド・プロデューサーが関美彦さんとThe Bookmarcsの洞澤さんのお二人のプロダクションになったことで、曲作りやレコーディング方法が各自で異なったと思いますが、そのプロセスはいかがだったでしょうか?

前列:青野りえ
後列左から:北村規夫、洞澤徹、足立浩

◎青野:洞澤さんとは昨年の4月に配信シングル「恋する惑星」の制作を始める時に、次のアルバムを見据えてのリリースであることを話しました。ラー・バンドみたいな音像のネオ・ディスコをやりたいというコンセプトはこの時から構想していました。洞澤さんと作るときは、まず洞澤さんがデモを作り、そこに私の歌詞と歌を入れた音源を返し、それを元に洞澤さんがアレンジを固めていくスタイルで、本番の歌入れまではオンラインでのやりとりです。
関さんの場合は、関さんの簡単な弾き語りデモを元に、レコーディングメンバーが全員スタジオに集まって、セッションをしながらアレンジを固めていくスタイルです。

●なるほど昨年リリースされたシングル「恋する惑星」が、本作『TOKYO step』のコンセプトのきっかけになっているということですね。またそれぞれのサウンド・プロデューサーのカラーが曲調にも出ていて興味深いです。洞澤さんが手掛けた同曲は打ち込み主体ながら生演奏も加えたヒューマンさが感じられて、ラー・バンド(The RAH Band)の「Clouds Across The Moon」(1985年)のオマージュが懐かしくも新しかったです。
一方で関さんのスタイルが顕著に出ているのは、冒頭の「スカーレット」だなと。明らかにレコーディング・セッションのヘッドアレンジで構築されたクールなサウンドです。青野さんのファーストアルバム『PASTORAL』(2017年)のタイトル曲にも通じる、スティーリー・ダン的手法がさすがだと思います。 この様にタイプが異なる2名のアレンジャー兼サウンド・プロデューサーを1枚のアルバムに迎えるというアイディアは当初から考えていたでしょうか?

◎青野:4枚目のアルバムはこれまでの3枚とは違うことをしたい、という気持ちは元々ありました。そんな矢先、ベースの伊賀さんと話していて、ラー・バンドみたいな音楽をやるなら関さんの曲も聴いてみたい、と言われたのがきっかけで、例えば大貫妙子さんの『Grey Skies』のように、1枚のアルバムに複数の制作チームが関わるようなスタイルも面白いのではないかと思うようになりました。


“今までのシティ・ポップの路線は一旦忘れて
新しい感覚の音楽をという意識はあった” 

●レコーディング中の特質すべきエピソードをお聞かせ下さい。 サウンド・プロデューサーの関さんと洞澤さん、レコーディング・セッションに参加したミュージシャンの方々はこれまでの作品にも参加されている訳ですが、あらたな発見などはあったでしょうか?

前列左から:長谷泰宏、青野りえ、
一人置いて北山ゆう子、関美彦、山之内俊夫
後列:伊賀航

◎青野:今回は関さんサイドのスケジュールがかなり限られていたので、まだ歌詞もできていない状態でアレンジを固め、楽器のレコーディングも先に完了し、完パケしたオケに合わせて私が歌詞を書いて歌って仕上げることになりました。オケだけでも素晴らしいクオリティだったので作詞のハードルが上がってしまい、かなりプレッシャーの中での制作となりましたが、なんとか納得のいく作品ができてホッとしました。関さんサイドの歌のレコーディングは自宅にて自分で録音したのですが、真夏の酷暑の部屋でエアコンを切ってレコーディングしたのがかなりの苦行でした。

関さんも洞澤さんもメンバーの皆さんも相変わらずのクオリティでした。今までのシティ・ポップの路線は一旦忘れて新しい感覚の音楽をという意識はあったと思います。

●曲先ならまだしも、”オケ先”で作詞していくというのは稀だし作詞家兼ボーカリストとしては大変な作業ですよね。アレンジのアイディア自体、歌詞の世界観をモチーフにしていくケースが多いと思います。関さんには事前に曲のタイトルやイメージのみ伝えていた感じですか? 

◎青野:関さんには私のイメージは伝えていません。関さんと歌詞について話し合ったことはあまりなくて、お互いに信頼していて任せてくれているような感覚があります。タイトルも歌詞ができてから最後にお伝えしました。


後列左から:青野りえ、矢舟テツロー、洞澤徹


●本作のジャケット・デザインも青野さん自ら担当されていますが、デザイン・コンセプトについてお聞かせ下さい。

◎青野:前作の『TOKYO magic』と同じく、「海外から見た東京」のイメージは引き継いで、新旧あらゆるジャンルのものが混在する東京の面白さ、例えばスカイツリーと五重塔の対比やビル群の中に現れる富士山などを散りばめて表現しました。
私の音楽も60年代〜90年代の様々なジャンルのお気に入りの音楽に影響されて形成されているので、時代を超えたノスタルジーとロマンチックな世界観を感じていただけたらと思います。


●ソングライティングやレコーディング期間中、イメージ作りで聴いていた曲を各サウンド・プロデューサーのお二人と挙げて下さい。

『TOKYO step』プレイリスト

●Sam the Samba Man / The Rah Band(『Going Up』1983年)
レトロなシンセとキャッチーなメロディと踊れるグルーヴ。アルバム全体のコンセプト・イメージです。「空と海のサンバ」のリファレンス曲でもあります。

●I Remember Yesterday / Donna Summer(『I Remember Yesterday』1977年)
関さんに今作の「レトロなディスコライクで踊れる曲を」というコンセプトを話した際に1番最初に挙げられた曲。

●I'll Play The Fool / Dr.Buzzard's Original Savannah Band
 (『Dr.Buzzard's Original Savannah Band』1976年)
こちらもアルバム全体のコンセプト。レトロなスウィング・ジャズとラテンとディスコの融合、フランス由来のクレオールならではのシックな雰囲気も大好きです。

●Gettin' Ready for Love / Diana Ross(『Baby It's Me』1977年)
関さんがリファレンスに挙げてくれた曲。「ボーイフレンド」はこの曲にインスパイアされたのではと思います。

●Sunday in New York / Joanie Sommers(『Come Alive!』1965年)
古き良き曲とうた。今作の関さんサイドはこのようなジャズ・テイストの雰囲気をまとっているのではと思います。

●On My Soul / Bruno Mars(『The Romantic』2026年)
テーマがディスコなので新しい音楽からも刺激を受けています。「タイニー・ブルー」の着想はこんなイメージでした。

●The Hurt / Kalapana(『Kalapana』1975年)
ハワイアンAORのナチュラルなグルーヴもアルバム全体のリファレンスでした。「マーマレイド・タイム」「Spoonful Love (スプーン一杯の愛)」のギターに片鱗がみられると思います。

●That's Alright (I Don't Mind It) / Alzo(『Alzo』1972年)
「Spoonful Love (スプーン一杯の愛)」はアコースティックな音色でグルーヴィを目指しました。

●Circle / Swan Dive(『Circle』1998年)
普遍的でキャッチーでグルーヴィなものをというコンセプトのお手本に。

⚫︎I Do My Best To Impress / Linda Lewis(「Not a Little Girl Anymore」1975年)
落ち着いた曲調ながらグルーヴを強く感じるリズムアレンジ、複雑だけどポップに感じるエレピの進行、そこがヒントになりました。

●Clouds Across The Moon / RAH Band(『Mystery』1985年)
言わずもがな、「恋する惑星」はこの曲へのオマージュ。 レトロなシンセの音に耳を持っていかれますが、実はとても美しいメロディで、R&Bテイストのアレンジにしても映える曲です。私がラー・バンドを好きな1番の理由は、リチャード・アンソニー・ヒューソンの上品な曲そのものにあります。




●リリースに合わせたレコ発ライブが確定されていますが、是非詳しくご紹介下さい。 

◎青野:矢舟テツローさんの出演が追加決定しました! 
関さんサイド、洞澤さんサイドを二部構成でお届けします。
このお二人が一度にライブに参加される機会は滅多にないと思います。
新曲はすべて披露する予定なのでどうぞお楽しみに。

 「青野りえ『TOKYO step』リリース・パーティ」

【日時】2026年10月17日(土)
OPEN 12:00/START 12:30(終演予定 14:30)

【会場】渋谷gee-ge
東京都渋谷区宇田川町3-10
いちごフィエスタ渋谷4F
TEL 03-6416-3468

【料金】前売¥3,800 (+1drink)/当日¥4,300 (+1drink) 

【出演】青野りえ(Vo.)/関美彦(G.)/洞澤徹(G.)/伊賀航(B.)/
北山ゆう子(Dr.)/長谷泰宏(Pf.)/矢舟テツロー(ゲストVo.)

【ご予約】こちらから>https://tiget.net/events/520919


●では最後に本作『TOKYO stepのアピールをお願いします。

◎青野:今作は、音楽を聴いて心躍るような、ご機嫌な気分になって欲しい!という想いを込めて作りました。
サウンド・プロデュースには、関美彦さんと洞澤徹さんの両チームを迎え、さらにボーナス・トラックとして、近藤健太郎の作曲による「フィナーレを待ちながら」を収録した盛りだくさんのデラックスな内容です。

そして今回は、矢舟テツローさんをゲスト・ボーカルにお迎えした曲「空と海のサンバ(feat.矢舟テツロー)」も要注目です。
矢舟さんは小西康陽さんのプロデュースでアルバムをリリースされたり、野宮真貴さんのサポートでも近年ご活躍中のピアニスト&シンガー・ソングライターですが、低音で独特の小粋な雰囲気を纏う矢舟さんのボーカルが加わったことで、目指していたサヴァンナ・バンドの雰囲気に近づけたのではないかと思っています。

古き良きシティ・ポップやAORへのオマージュはそのままに、よりグルーヴィに、ノスタルジーと宇宙と、現代の東京を行き来するようなロマンチックな楽曲をお楽しみください!



【青野りえ★プロフィール】
都会的なメロウ感と、無垢な透明感を併せ持つ歌声のシンガー。富山県出身。 1996年、亀渕友香率いるゴスペル・グループ“VOJA”のメンバーとしてデビュー。沖井礼二(TWEEDEES/ex.Cymbals)のソロ・プロジェクト“FROG”にゲスト・ヴォーカルとして参加。
またコナミ「pop'n music」「beatmania」等のゲーム音楽での歌唱や、資生堂、ユニクロの CMナレーション等、様々なレコーディング、ライヴ、TV、CM で活動している。
2017年、関美彦プロデュースによる1stアルバム『PASTORAL』(ヴィヴィド・サウンド)をリリース。
2022年、同じく関美彦プロデュースによる2ndアルバム『Rain or Shine』(FLY HIGH RECORDS)をリリースし、ジャパニーズAOR/シティ・ポップ・ファンの間で話題に。
さらに2021年にリリースした配信シングル「Never Can Say Goodbye」(洞澤徹プロデュース)が話題となり、2023年11月、3rdアルバム『TOKYO magic』 をFLY HIGH RECORDSからリリース。
2025年6月6日、洞澤徹プロデュースによるデジタル・シングル「恋する惑星」をリリース。
2025年12月5日、藍田理緒のデジタル・シングル「青いカケラ」(作詞:青野りえ/作曲:近藤健太郎)リリース。
そして2026年5月4日、デジタル・シングル「フィナーレを待ちながら」リリース。
2026年10月21日、待望の4thアルバム『TOKYO step』リリース。関美彦と洞澤徹がそれぞれプロデュースし、先行シングル「恋する惑星」「フィナーレを待ちながら」を収録した自信作。
現在、K-MIX(静岡エフエム)の音楽番組「ようこそ夢街名曲堂へ!」(土曜21:00〜)にレギュラー出演中。 

青野りえOfficial Web Site: http://aonorie.com
X(旧Twitter): @rie_aono
FLY HIGH RECORDS Official Web Site:https://flyhighrecords.hatenablog.com/

(インタビュー設問作成、本編テキスト:ウチタカヒデ)


2026年10月11日日曜日

青木孝明:『これから』

"拘り派シンガーソングライター・アルバムの鑑"

 シンガーソングライターの青木孝明が、8thソロアルバム『これから』(TOKYO MOR/MOR6961)を10月14日にリリースする。
 青木は弊サイトで2024年6月に紹介した、ムーンライダーズの鈴木博文トリビュート・カバー・アルバム『16 SONGS OF HIROBUMI SUZUKI - DON’T TRUST OVER 70 -』に参加し、ライダーズ・ファミリーのシンガーソングライターとしても知られている。

 まずは彼のプロフィールに触れよう。1992年に自主制作でアルバム『L/C』を発表し、この作品が鈴木博文に評価され、翌1993年には鈴木が主宰するメトロトロンレコードより『MY FRIEND IN THE SKY』で初の流通盤としてソロデビューする。その後30年以上に渡り、7枚のソロアルバム、バンド名義では2枚のアルバムをリリースしており、そのソロ活動以外にもギタリストやベーシスト、ボーカリストとしてThe Suzuki(鈴木慶一&鈴木博文)をはじめ、あがた森魚、ZABADAK(ザバダック)、綿内克幸、青山陽一、若林マリ子などのライブ、レコーディング等に参加している。近年ではギター、ボーカルで参加しているZABADAKでの活動が主となっているようだ。


 青木はマルチプレイヤーとして知られており、本作でもワンマン・レコーディンの収録曲が多いが、これまでの人脈を反映させたミュージシャン達も参加しバックアップしている。共同プロデューサーにロックバンド”THE BRICK'S TONE”の篠原太郎を迎えているのをはじめ、青木が長年サポートしてきたZABADAKを現在主宰する小峰公子が作詞で2曲に参加している。なお青木は、ZABADAKでリーダーだった吉良知彦のソロユニット期の1990年代半ばから準メンバーとして同ユニットに参加し、映像作品『“TRiO”at ON AIR EAST 1997.6.1』でその姿を観ることができる。小峰はKARAK(カラク)としてメジャー・デビュー後の1987年からZABADAKに作詞家として関わり、2011年に正式メンバーとなっている。私生活では吉良の妻で2016年吉良の逝去後は同ユニットを引き継いで活動を継続している。
 その他にも、2017年に杉瀬陽子と堀込泰行が結成したTHE LAKE MATTHEWSに参加していたキーボーディストでトロンボーン奏者の伊藤隆博、蓮沼執太フィルハーモニー・オーケストラのメンバーでトランペット、フリューゲルホルン奏者の三浦千明がそれぞれ参加している。1曲のみコーラスで参加している青木怜の経歴は不明だが、青木の親族かも知れない。
 アルバムのマスタリング・エンジニアは、ゆらゆら帝国やギターウルフ、SCOOBIE DOらの諸作をはじめ、以前弊サイトで紹介したポニーのヒサミツを手掛けていた、中村宗一郎(PEACE MUSIC)が担当している。


 
『これから』 Traillor

 ここからは筆者が気になった収録曲を解説していくが、注釈が無い曲は全てのソングライティングとアレンジは青木によるものである。
 冒頭の「New Song」は、イントロ~バースのアコースティックギターの特徴的なリフから発展させたシンコペーションが効いたパートと、ポール・マッカートニー・イズムなメロディアスなサビのパートのコントラストが際立ったロック・ナンバーだ。全ての演奏とドラムのプログラミングは青木が一人で担当しており、ボーカリストとしての表現力やテクニックも申し分ない。
 続く「真夏の日曜日」は、ZABADAKの小峰が作詞をしており、共同プロデューサーである篠原がコーラスで参加している。この曲では青木によるトワンギング・ギターのリフを聞いて理解すると思うが、カントリーロックがベースになっており、小峰の歌詞もショート・ロードムービー風である。篠原のコーラスが青木のボーカルによくブレンドしてこの歌詞の世界観をビビッドにしている。

 一転してエリック・サティ風のミニマリズムなピアノのコード進行を持つイントロから、トッド・ラングレン初期の名作『Runt The Ballad of Todd Rundgren』(1971年)に通じる曲調とサウンドへと展開するバラードの「叶わなくても」も触れずにはいられない。中盤から伊藤のトロンボーンと三浦のトランペットのホーンセクションが加わり、静かに盛り上げていくアレンジも素晴らしい。
 アコースティックギターとスキャットを中心としたインストの「不条理への情熱」は2分10秒の小曲だが、XTCの「Dying」(『Skylarking』収録/1986年)に通じるミニマリズムなコード進行が耳に残り、本作の中で良いアクセントになっている。

 本作後半に収録され、小峰が作詞したもう1曲の「夕焼けがきれいだから」はスローなラブソングで、詞と曲の完成度が収録曲の中でも極めて高い。亡きパートナーに語り掛けるような慈愛に満ちた歌詞に、8分刻みのピアノとアコースティックギターに導かれて始まるジョージ・ハリスン風の曲調で、ギターソロにもジョージの匂いがして好きにならずにいられない。筆者的にも本作中のベストトラックである。
 終盤の「これから」は、伊藤の巧みなピアノをフューチャーしたファーストテンポのポップスでリズム的にはボサノヴァのフィールも感じさせる。青木自身による歌詞には人生賛歌というべきメッセージ性が込められている。圧巻なのはカホンらしき低音が効いたパーカッションをバックに、青木怜も加わったサビの多重コーラスで、歌詞の世界を拡大させて感動的だ。
 ラストの「The End Of The Day」は前曲からクールダウンさせるスローなインスト曲だ。青木がプレイするアコースティックギターとチェンバロに、伊藤のトロンボーン、三浦のトランペットのホーンセクションで進行していくが、コーダでアナログシンセのソロが加わるのが新鮮である。

 最後に総評として、ソングライターとして多彩な曲を産み出し且つマルチプレイヤーであり、ボーカリストとしても非凡な、青木の才能に裏打ちされたアルバムに仕上がっていると感じた。筆者の詳細解説を読んで興味をもった読者は、リンクするECサイトから予約し入手して是非聴いてほしい。


ニューアルバム『これから』
 リリースツアー(ワンマン)

10/24(土)名古屋 御器所 なんや
open 18:00 start 19:00

10/25(日)大阪 北浜 雲州堂
open 13:00 start 13:30

11/15(日)吉祥寺ブラック&ブルー
open 12:00 start 12:30
with 篠原太郎、大槻敏彦、伊藤隆博(東京)、
西村哲也(名古屋、大阪)

ニューアルバム「これから」リリースライブ
アコースティックセット
2027.1/11(月、祝)中目黒Fj's
open 17:30 start 18:00
with 伊藤隆博

◎予約及び問い合わせ:melody_circle1@yahoo.co.jp 


 (テキスト:ウチタカヒデ)


2026年10月3日土曜日

CREAM 「Wrapping Paper」

 高校生の頃、軽音学部に入ってギターをやっていた。限られた部員の組合せで結成された学生バンドならではの、メンバーの趣味嗜好がごちゃ混ぜになったセットリストはGLAYやSIAM SHADE、JUDY AND MARYと一緒にRainbowが並んでいて、ビートルズマニアの顧問は教室のドアを閉め切って「Revolution 9」を流し、チャールズ・マンソン・ファミリー事件について話している、色んなジャンルの音楽の情報が断片的に耳に入ってくる環境だった。

 ギターの上手い先輩の話を聞きかじってブルースが重要らしいと思っていた私は、2枚組のロバート・ジョンソンを買ってみて違いの分からない41曲を聴き続けたり、エリック・クラプトンが参加したバンドのアルバムを1枚づつ買ってみたりした。CREAMのベスト盤『The Very Best of Cream』は、そのうちの1つ。重厚感と同時にふわふわしていて、良いとか悪いとかいう感想もすぐには出てこない不思議な印象だったけれど、いつのまにか癖になって繰り返し聴いていたので思い出深い。 1曲目の「Wrapping Paper」はどことなく可愛いらしい感じもして、CREAMと聞いて思い浮かべるような楽曲ではないかもしれないけれど、今聴いても良いなと思う。ただジンジャー・ベイカーとエリック・クラプトンはこの曲を嫌っているとか。

『The Very Best of Cream』(Polydor – 523-752-2)


「Wrapping Paper」/ CREAM 

 ラッピングペーパー。包装紙の曲?当時から変わったタイトルだなと思っていたけれど、歌詞をちゃんと読んだことはなかった。昔の恋人が忘れられず、一緒に過ごした海岸近くの家に戻りたいと願っている歌のようだ。作詞者のピート・ブラウンは、もともとはビート・ポエトリーの活動をロンドンで行なっていた詩人。ビート・ポエトリーとはジャズに乗せて詩を朗読するパフォーマンスで、1940年代後半にアメリカで生まれた反物質主義、性の解放、東洋思想への傾倒などを特徴とするビート・ジェネレーションという文学運動が基になっている。イギリスではマイク・ホロヴィッツという詩人が1959年に創刊した芸術・文学雑誌『New Departures』に米英のビート詩人の詩を掲載し拡まっていったそうだ。

Pete Brown 

 1961年に開催されたビート・ポエトリーのショーのバックバンドにはグレアム・ボンドや、サックス奏者のディック・ヘクストール=スミスなどがいて、ピート・ブラウンはディック・ヘクストール=スミスを通じて、CREAMのドラムのジンジャー・ベイカー、ベーシストのジャック・ブルースと知り合い作詞を依頼される。当初はジンジャー・ベイカーとの共作のために声がかかったらしいのだけれど、あまり相性が良くなかったようでジャック・ブルースの共作パートナーとなる。デビュー曲「Wrapping Paper」の他、代表曲「White Room」や「I Feel Free」など、数多くの作詞を手がけている。ピート・ブラウンの歌詞は難解と言われ、簡単にひとつの解釈に辿り着くような詩世界ではないように見える。ビート・ポエトリーと同様にジャズの即興演奏のように書かれているのか、曲によっては本人も、書いた瞬間ではなく何年も経ってから出てきた言葉の意味に気づくことがあるそうだ。


参考・参照サイト

https://petebrown.co.uk/

https://thestrangebrew.co.uk/interviews/pete-brown/

https://faroutmagazine.co.uk/pete-brown-poet-of-the-british-invasion/


執筆者・西岡利恵
60年代中期ウエストコーストロックバンドThe Pen Friend Clubにてベースを担当。


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