2026年9月19日土曜日

ツチヤニボンド:『Irie/坂道』

"高野山発★無国籍レゲエ"

 土屋貴雅のソロ・プロジェクト、ツチヤニボンドが10月末(当初の9月初旬から延期)に、7インチ・シングル『Irie/坂道』(JET SET/JS7S514)をリリースする。「Irie」と「坂道」はいずれも2025年に発表されていた配信シングルで、カップリグの「坂道」はシンガーソングライター折坂悠太作のカバーである。 

ツチヤニボンド(土屋貴雅

 この2曲を含め、昨年7月より定期的(当初は月間)に新曲配信しており、これまでに「ユグドラシルのフールたち」(2025年7月)、「Loco Mundo」(同年8月)、「Irie」(同年9月)、「ブランコ1」(同年10月)、「坂道 (Cover)」(同年11月)、「Bet&Draw」(2026年1月)、「ブランコ2」(同年2月)、「Nothing is not」(同年3月)の8曲を発表していた。そしてこの曲群の中から今回7インチ用として選ばれたのが、「Irie」と「坂道」で、フィジカル作品としては、2021年7月の『にっぽん昔ばなし / Fall In Love』以来実に5年振りとなる。
 高野山在住の鬼才音楽家で治療家の土屋貴雅によるツチヤニボンドは、2007年のデビュー時「はっぴいえんど×トロピカリズモ」と称され、オルタナティブという言葉だけでは括れない幅広い音楽性を持っており、本作でも唯一無二のサウンドを展開している。レコーディングのエンジニアリングとミックス、マスタリングは、折坂悠太など多くのアーティストを手掛けて信頼を得ている中村公輔が担当している。


 
Irie / ツチヤニボンド

 ここでは本作の解説をする。タイトルの「Irie」は土屋の作曲と、ソロユニットPADOKやツチヤニボンドにも参加した渡部牧人の作詞による新曲で、一聴するとレゲエ・ナンバーだが、主旋律や歌唱スタイルには琉球民謡からの影響がして、左チャンネルのエレキギターのリズム・パターンはサンバと一筋縄ではいかない。パーソナルは最近の彼らのバンド形態と同様に、土屋がボーカルとベースを担当し、ドラムには波照間将、パーカッションには弊サイトでのベストプレイ企画でお馴染みの増村和彦、ギターには本日休演の岩出拓十郎が参加している。
 プレス資料によるとコロナ禍に一発レコーディングに近い形で制作されたということなので、前7インチ・シングルのカップリグ「Fall In Love」と同時期のセッションなのかも知れない。渡部による歌詞は、タイトルの「Irie(アイリー)」というパトワ語(ジャマイカン・クレオール語)のポジティブさに、古典文学的ワードの響きがビートに共鳴して実に心地良いのだ。


 
坂道 / ツチヤニボンド

 カップリグの「坂道」は前文の通り、シンガーソングライター折坂悠太作のカバーである。オリジナル(『平成』収録/2018年)は70年代ロックマニアなら一聴して分かると思うが、ハース・マルティネスの「Altogether Alone」(『Hirth From Earth』収録/1975年)における変則ボサノヴァのリズムとサウンド(間奏のアコースティックギター・ソロやドラム・フィルなどアレンジの細部まで)をオマージュしている。またその主旋律の導入部は、小学校で音楽の教材にもなっていた「切手のないおくりもの」(作詞作曲:財津和夫/1977年)を合唱していた昭和世代なら懐かしさを覚えただろう。それから約半世紀を経た令和の現代で音楽活動をしている、この曲を折坂のオリジナルとして筆者は高く評価している。唱歌の伝承にも似た、エバーグリーンな楽曲にはこのような愛溢れるオマージュが必要だと考えるのだ。
 ここでのカバーは、演奏やプログラミングの全てを土屋が一人多重のワンマン・レコーディングしており、ウォータードラムのサンプリング音やアナログ系トーンのシンセサイザーを中心とした音数が少ないバックトラックに、エレクトリックギターのアルペジオを響かせた、全く異なるアレンジとサウンドで仕上げている。リバーブを効かせてダブルトラックにした土屋のボーカルもこの深い音像にマッチして、ツチヤニボンド音響派に強く支持されるだろう。

 15年前「夜になるまでまって」との衝撃的出会い以来、筆者は土屋貴雅とその仲間達が作るツチヤニボンド・サウンドに魅了され続けているので、今回の5年振りのフィジカルでのリリースは非常に嬉しい。
 本作もプレス数が限られているので、筆者の解説を読んで興味をもった音楽ファンは、リンク先のネットショップで早期に予約して入手しよう。

JETSET:予約はこちらをクリック 

(テキスト:ウチタカヒデ

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2026年9月12日土曜日

THE BIG CITY(平川雄一、西岡利恵参加)出演【HAVING A RAVE UP!】


 The Pen Friend Club(ザ・ペンフレンドクラブ、以下ペンクラ)のリーダー平川雄一と、弊サイトの連載コラムでも馴染みの西岡利恵を中心に結成されたマージービート・バンド“THE BIG CITY”が、9月20日都内のライヴ・イベント【HAVING A RAVE UP!】に出演する。

 今年3月18日に2枚組全20曲を収録した意欲作『Songularity』をリリースして好評だったが、そのソングライティングの中心になっていた平川と西岡によって結成されたTHE BIG CITYは、1960年代英国ロック・バンドのカバー中心のライヴ・バンドで、この活動がペンクラの次作にフィードバックされるのかは分からないが、是非足を運んで聴いて欲しい。
 そんなペンクラだが、来年2027年に結成15周年を記念したアルバム『15 BIG ONES』をリリースするというアナウンスをしたばかりだ。詳細については、彼らのTwitterアカウントやFacebookで最新情報を要チェック!

 
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★The Pen Friend Club『Songularity』リリース★インタビュー前編>こちら
★The Pen Friend Club『Songularity』リリース★インタビュー後編>こちら



【HAVING A RAVE UP!】

日時:2026年9月20日(日)
開場:18:30/開演:19:00

会場:東高円寺U.F.O.CLUB
MAPはこちら

出演
スマートソウルコネクション

The Big City (20:30~)

Virginie The Silhouettes

DJ:鈴木やすし & more

前売りチケットのご予約
前売:3,000円(+1D)/当日:3,500円(+1D)
・各メンバー窓口まで


THE BIG CITY★プロフィール
The Pen Friend Clubの平川雄一と西岡利恵を中心に、1960年代の音楽を愛するメンバーが集まり結成された新バンド、The Big City。
The Hollies、The Searchers、The Zombiesなど、マージービートを中心とした60’sサウンドを演奏する。
平川雄一(Gt.Vo)、神野敦史(Ba.Vo)、西岡利恵(Gt.Vo)、zuma(Dr)


【The Pen Friend Club★ソーシャル】


(テキスト:ウチタカヒデ

2026年9月5日土曜日

emily hashimoto:『楓-kaede-/だいすき』

"おしゃれフリークによる秋色ソング"

 今月後半に野宮真貴や川本真琴らビッグゲストを招いた「おしゃれフリーク・フェス2026」を開催するシンガー・ソングライター(以降SSW)のemily hashimotoが、2023年に配信していたシングル「楓-kaede-」を7インチ・アナログ盤(unchantable recoerds / UCT067)で9月9日にリリースする。
 
 カップリングには1986年末にレコード・デビューし、瞬く間にカリスマSSWとなった岡村靖幸の代表曲「だいすき」(1988年)のカバーを収録している。2024年の『愛の雨粒/流れ星ビバップ』に続き、今回のリリースもArgyleFrancis、最近ではTOYONOの7インチを手掛けたグルーヴあんちゃんが主催するunchantable recoerdsからである。
 本作も両曲共にプロデュースとアレンジはカンバスの小川タカシが担当しており、ギターとプログラミングなど全てのバックトラックも一人でレコーディングされている。また前作同様に配信シングルからジャケットデザインは、Special Favorite Musicの『World’s Magic』(2017年)のジャケットの他、多くの書籍装丁で知られるイラストレーターの高橋由季とデザイナーのカヤヒロヤのデザインユニット”コニコ”が手掛けて、emilyのリリース作品をデザイン面で支えてる。


 emilyのプロフィールにも触れるが、神奈川県小田原市出身で渋谷系音楽や60ʻsファッションをこよなく愛すシンガーソングライターで、作詞家・作曲家・コラムニストとしても活動している。YAMAHAのダウンロードサイトで1位を獲得したことをきっかけに注目を浴び、2007年にYAMAHAからメジャー・デビューする。
 現在は企業CMやアイドルへの楽曲提供もおこなっており、自身がパーソナリティを務めるラジオ番組「EmiLyのおしゃれフリーク」が全国36局のコミュニティFMで放送中だ。
 なお9月21日(月・祝)には、同番組の放送200回を記念した音楽フェス「おしゃれフリーク・フェス2026」を、出身地小田原市の小田原三の丸ホールにて開催する。ゲストには1982年ポータブル・ロックでデビューし、1990年にはピチカート・ファイヴに加入して元祖“渋谷系の女王”として一躍スタートとなった野宮真貴、1996年に岡村靖幸のプロデュースによるシングル『愛の才能』でメジャー・デビューした川本真琴などビッグなアーティスト達が参加する注目フェスとなっているので、興味を持った読者は是非参加して欲しい。
※詳細は記事文末を参照。


 
楓 - kaede - / emily Hashimoto

 ここでは筆者による収録曲の詳細解説をしていく。 タイトル曲「楓-kaede-」は、emilyのソングライティングによる、恋人との別れと旅立ちをテーマにしたロスト・ラヴソングで、タイトルになっている落葉樹の楓(かえで)の葉のように秋に色づき、移ろう季節の情景と心情をシンクロさせて描いている。
 アレンジ的にはパターンの異なるエレキギターとアコースティックギターのカッティングを左右のチャンネルに分け、プログラミングされたエレキベースとドラムのしなやかなリズム・トラックに、シンセサイザーのパッドやエレピのオブリガードが乗るというシンプルながら洗練されたサウンドである。前文の通り、全ての演奏とプログラミングは小川タカシが一人多重録音でレコーディングしており、職人的なセミアコ系トーンのギターソロ、コーラスまでマルチにこなして、主役のemilyのボーカルを引き立てている。
 そしてemilyのソングライティングの素晴らしさは前作「愛の雨粒」から感じていたが、ヴァースのAメロからBメロを経てサビへと向かうフックが巧みで、さすが名門YAMAHA主宰のコンテストでトップを獲得した逸材だと納得してしまう。特徴のあるスウィートな声質も強い武器であり、この声質を活かして計算されたソングライティングをしているのはさすがである。筆者は彼女のオリジナル・ソングをもっと聴きたいので、来るべきアルバム・リリースには注目している。 
 
だいすき / emily Hashimoto

 カップリグは前文の通り、岡村靖幸の1988年11月に発表された8thシングル「だいすき」(1988年)のカバーである。ピュアなラヴソングの歌詞を持ち、オリジナルのシングル・ヴァージョンは、独特なシンコペーションが効いた16ビート・シャッフルと呼べるファンキーなポップスで、リリース当時は岡村が敬愛していたプリンスの「Raspberry Beret」(『Around The World In A Day』収録Prince And The Revolution名義/1985年)のオマージュという批評があったと記憶する。
 コード進行など似ている雰囲気はあるが、グルーヴ感はむしろザ・ドゥービー・ブラザーズの「What a Fool Believes」(1978年)、そのオマージュ元となっているニール・セダカの「Love Will Keep Us Together」(1973年)や同曲をカバーし全米1位にしたキャプテン&テニールのヴァージョンに近い。 ドゥービーの「What a Fool Believes」の作者でメンバーのマイケル・マクドナルドと共作者でシンガーソングライターのケニー・ロギンスが曲作りの時点で意識していたかは不明だが、この曲のレコーディング時プロデューサーのテッド・テンプルマン(元Harpers Bizarre)はシンコペーションにかなり拘り、リズムセクションのセッションにかなり時間を費やしたという。ハーパスの前進バンドThe Tikis時代はドラマーだったテッド自身もドラムをプレイし、メンバーのキース・ヌードセンとのダブル・ドラムで編み出した完成形で「Love Will Keep Us Together」のグルーヴをオマージュしたのではないかと考える。西海岸の荒っぽいバイカー上がりのバンドが、東海岸のブリル・ビルディングを源流とする洗練されたポップスからアイディアを得るというコペルニクス的転回は、ワーナー・レコード社長でバーバンク・サウンドを作り上げたレニー・ワロンカーの下で修業したテッドらしいエピソードである。この「What a Fool Believes」の魔力については、そのルーツと影響力を筆者が選曲したプレイリストのサブスクをつけるので聴いていただきたい。

 考察が長くなったが、ここでのカバー・ヴァージョンは岡本のオリジナルのグルーヴを踏襲しつつ、小川による引き算のアレンジでプリティなガールポップスとして生まれ変わっている。例のシンコペーションが効いたメインのキーボードの刻みにシンセサイザーのパッドを重ねて絶妙なサウンドを構築し、左チャンネルでは彼が敬愛するデイヴィッド・T・ウォーカーばりのギター・フレーズを織り込み、曲に温かみを与えているのが新鮮だ。
 emilyのボーカルは岡村のオリジナルへの愛が溢れているのが伺えるほどで、シンコペーションしたメジャーキーのAメロから、”ねえ 三週間~”のディミニッシュ・コードでうっちゃるブリッジを経て、甘いサビへの向かうという感情の起伏を巧みに表現している。ビブラートのつけ方も決して暑くなく、ヤングソウル的な爽快さとプリティさで“ガールズビブラート”と名付けよう。とにかく名カバーであることは間違いない。

WebVANDA管理人選★
”What a fool believes”的グルーヴプレイリスト


本作も数量限定の7インチ・シングルなので、本詳細レビューを読んで興味を持った弊社読者や音楽ファンは、直ぐにリンク先のレコード・ショップで予約して確実に入手しよう。

◎ディスクユニオン予約:こちらをクリック





 「おしゃれフリーク・フェス2026」

●日程:2026年9月21日(月・祝)
●時間:13:50 開場/14:00 DJスタート/14:30 開演

●会場:小田原三の丸ホール小ホール
(神奈川県小田原市本町1丁目7-50)

●チケット:<WEBと三の丸ホール窓口で販売>
S席(前3列指定)10,000円(お土産付き)/
A席(自由席)6,500円WEB(24時間受付)
窓口(10:00~20:00/第1・3月曜休※祝日の場合翌平日休)

●出演:野宮真貴/川本真琴/YMCK/
emily hashimoto

(DJ)グルーヴあんちゃん/
(オープニングアクト)Nico・HALu・JUNON

emily hashimotoオフィシャル:こちらをクリック

(テキスト:ウチタカヒデ