本作前半の6曲の作編曲を手掛けた関美彦チームのレコーディングには、前々作『Rain or Shine』同様にベースの伊賀航(細野晴臣、星野源等)、ドラムスに北山ゆう子(堀込泰行、RYUSENKEI等)、ギターに山之内俊夫(花澤香菜、ROUND TABLE等)、ピアノには長谷泰宏(ユメトコスメ)といった手練プレイヤー達を迎えている。そして後半5曲の作編曲を手掛けた洞澤徹チームには、前作『TOKYO magic』に参加したベースの北村規夫、ドラムスには足立浩といずれも多くのセッションで知られるミュージシャン達が再び参加し、ギターとプログラミング、ミックスは洞澤徹自身で担当しているのだ。また関の前半曲のミックスと全体のマスタリングはこれまで同様に多くの作品でも知られる、マイクロスターの佐藤清喜に委ねられている。
昨年6月に配信リリースされたシングル「恋する惑星」からの後半5曲は、前出の通りThe Bookmarcsの洞澤が手掛けている。この「恋する惑星」はラー・バンド(The RAH Band)の「Clouds Across The Moon」(1985年)のオマージュである。本作『TOKYO step』のコンセプトのきっかけになった、この曲の歌詞は宇宙を舞台にしたラヴソングであるが、歌詞にミラーボールが出てくるのも聴き逃せない。マニアックな読者ならご存知の通り、ラー・バンドはビートルズの「The Long and Winding Road」(『Let It Be』収録/1970年)やポール・マッカートニーのウイングス時代の「マイ・ラヴ」(1973年)をはじめ、ジグソーの「Sky High」(1975年)等のドラマティックなオーケストレーションで知られる、英国人アレンジャーのリチャード・アンソニー・ヒューソンが1977年に妻と結成したプロジェクトである。
日本において、「Clouds Across The Moon」のカバーやオマージュはこれまでも多々あり、1995年に電気グルーヴ在籍中の砂原良徳がファーストアルバム『CROSSOVER』でクラブ・ミュージック風にアレンジしたカバーが比較的早かった。オマージュ系では2013年に元AKB48の星野みちるがファーストアルバム『星がみちる』に収録した「私はシェディー」(作詞:星野みちる/作曲:はせはじむ)が特に知られるだろう。奇遇にもアレンジとプログラミングは、本作のマスタリングを担当しているマイクロスターの佐藤清喜だった。
そして10月1日に先行配信された「空と海のサンバ」だが、この曲によって本作の終盤をビビッドに飾ってくれている。インタビューのプレイリストでは、ラー・バンドの「Sam the Samba Man」(1983年)をリファレンスにしたとのことだが、同曲で聴ける英国人によるプログラミング主体でサウンド全体をデフォルメ加工した80年代のキッチュな感覚(本曲でもアナログシンセ系SEが大胆にインサートされているが)より、洞澤のセンスでスリーリズムを生楽器の演奏にして、オーセンティックなブラジリアン・サンバ色を濃くしたことで、青野の声質や声域にマッチしたサウンドに仕上がっていると感じた。ここではスルドのパターンをロータムでプレイするなど、巧みなドラミングを披露する足立のプレイも光っている。
またサビをはじめ、イントロやパート間でリフレインするコーラスでは、スペシャルゲスト・ボーカルの矢舟テツローとデュエットしており、青野のアルト〜メゾソプラノ系の透明感ある歌声に、矢船のバスバリトン・ボイスがブレンドすることで、ボーカル・パートのコントラストが際立ち、聴き手の心を高揚させて多幸感を与えてくれる。この感覚はブラジル伝説のシンガー、エリス・レジーナ(Elis Regina)が、同国の至宝とされたシンガー・ソングライターのシコ・ブアルキ(Chico Buarque)とデュエットで発表した「マスカレードの夜(Noite dos Mascarados)」(1967年)にも通じる感覚である。
●なるほど昨年リリースされたシングル「恋する惑星」が、本作『TOKYO step』のコンセプトのきっかけになっているということですね。またそれぞれのサウンド・プロデューサーのカラーが曲調にも出ていて興味深いです。洞澤さんが手掛けた同曲は打ち込み主体ながら生演奏も加えたヒューマンさが感じられて、ラー・バンド(The RAH Band)の「Clouds Across The Moon」(1985年)のオマージュが懐かしくも新しかったです。
まずは彼のプロフィールに触れよう。1992年に自主制作でアルバム『L/C』を発表し、この作品が鈴木博文に評価され、翌1993年には鈴木が主宰するメトロトロンレコードより『MY FRIEND IN THE SKY』で初の流通盤としてソロデビューする。その後30年以上に渡り、7枚のソロアルバム、バンド名義では2枚のアルバムをリリースしており、そのソロ活動以外にもギタリストやベーシスト、ボーカリストとしてThe Suzuki(鈴木慶一&鈴木博文)をはじめ、あがた森魚、ZABADAK(ザバダック)、綿内克幸、青山陽一、若林マリ子などのライブ、レコーディング等に参加している。近年ではギター、ボーカルで参加しているZABADAKでの活動が主となっているようだ。
青木はマルチプレイヤーとして知られており、本作でもワンマン・レコーディンの収録曲が多いが、これまでの人脈を反映させたミュージシャン達も参加しバックアップしている。共同プロデューサーにロックバンド”THE BRICK'S TONE”の篠原太郎を迎えているのをはじめ、青木が長年サポートしてきたZABADAKを現在主宰する小峰公子が作詞で2曲に参加している。なお青木は、ZABADAKでリーダーだった吉良知彦のソロユニット期の1990年代半ばから準メンバーとして同ユニットに参加し、映像作品『“TRiO”at ON AIR EAST 1997.6.1』でその姿を観ることができる。小峰はKARAK(カラク)としてメジャー・デビュー後の1987年からZABADAKに作詞家として関わり、2011年に正式メンバーとなっている。私生活では吉良の妻で2016年吉良の逝去後は同ユニットを引き継いで活動を継続している。
一転してエリック・サティ風のミニマリズムなピアノのコード進行を持つイントロから、トッド・ラングレン初期の名作『Runt The Ballad of Todd Rundgren』(1971年)に通じる曲調とサウンドへと展開するバラードの「叶わなくても」も触れずにはいられない。中盤から伊藤のトロンボーンと三浦のトランペットのホーンセクションが加わり、静かに盛り上げていくアレンジも素晴らしい。
高校生の頃、軽音学部に入ってギターをやっていた。限られた部員の組合せで結成された学生バンドならではの、メンバーの趣味嗜好がごちゃ混ぜになったセットリストはGLAYやSIAM SHADE、JUDY AND MARYと一緒にRainbowが並んでいて、ビートルズマニアの顧問は教室のドアを閉め切って「Revolution 9」を流し、チャールズ・マンソン・ファミリー事件について話している、色んなジャンルの音楽の情報が断片的に耳に入ってくる環境だった。
ギターの上手い先輩の話を聞きかじってブルースが重要らしいと思っていた私は、2枚組のロバート・ジョンソンを買ってみて違いの分からない41曲を聴き続けたり、エリック・クラプトンが参加したバンドのアルバムを1枚づつ買ってみたりした。CREAMのベスト盤『The Very Best of Cream』は、そのうちの1つ。重厚感と同時にふわふわしていて、良いとか悪いとかいう感想もすぐには出てこない不思議な印象だったけれど、いつのまにか癖になって繰り返し聴いていたので思い出深い。 1曲目の「Wrapping Paper」はどことなく可愛いらしい感じもして、CREAMと聞いて思い浮かべるような楽曲ではないかもしれないけれど、今聴いても良いなと思う。ただジンジャー・ベイカーとエリック・クラプトンはこの曲を嫌っているとか。