一早く9月23日に先行配信されたリードトラックの「金木犀」は、本作中最もキャッチャーなサビのリフレインを持った、長谷川の代表曲となる曲だ。King Harvestの「Dancing in the Moonlight」(1970年)を彷彿とさせるローファイで空間狭い16節のイントロ部から劇的に転回していく楽曲とアレンジ、不毛の恋愛を綴った歌詞などポップスとして完成度が高く、筆者もファースト・インプレッションでベストトラックに挙げた。セッションに参加したミュージシャンは本作中最も多く、長谷川はこの曲でもべースとヴィオラをプレイし、アレンジとプログラミングはjoe daisque、ギターは前出のチバソウタ、キーボードはSSWの? Meytél(メーテル)、ドラムにはヒトリエのゆーまお、コーラスにはSSWの星野菜名子が参加している。キュートなコーラスが特徴的な星野は本作5曲目「あなたはきっと」ではコーラス以外にキーボードもプレイしている。
それというのもこの間にブクマで作編曲とミュージシャンのアサインなどサウンド・プロデュースを担当する洞澤は、女性シンガー・ソングライター(以下SSW)青野りえのシングル「Never Can Say Goodbye(2021年10月)とサード・アルバム『TOKYO magic』(2023年11月)の作編曲とプロデュース、それと同様に男性SSWのKARIMAのファースト・アルバム『Nostalgic hour』(2022年10月)の半数の曲とその後複数の配信シングルのサウンド・プロデュースを手掛けていた。更にYouTube でリラクゼーション・ミュージック・チャンネル「natural sonic」(登録者数9 万以上)を主宰して、アコースティックギターやウクレレの演奏を発表し多忙していた。
続く「Follow The Rainbow」は今年8月に配信リリースされた最新の先行シングルで、山下達郎の某曲にも通じるサマー・アンセム感漂うシティポップだ。近藤の爽やかなボーカルに洞澤のエレキギターのリフが絡むなど聴き応えがある。コーラスのトップではAloha Ichimuraが特徴的な声を聴かせるのも嬉しい。
同じく「Looking For The Light」は2023 年3 月、「街のレヴュー」は2022 年12 月に先行配信されており、前者のヴァースは古くはビートルズでジョンが主に書いた「No Reply」(『Beatles for Sale』収録1964年)やSteely Danの「Only a Fool Would Say That」(『Can't Buy a Thrill』収録1972年)に通じるメロディが印象的で、洞澤による各種ギターとプログラミングされた音数少ないバックトラックが、近藤のジェントルなボーカルを引き立てる。
後者はイントロから筆者の好みで、ブラジリアン・フュージョン・バンドAzymuthの「Fly over the Horizon」(『Light As A Feather』収録Ver 1979年)に通じるアープ・オデッセイ系アナログ・シンセのポルタメントが効いたフレーズから引き込まれてしまう。歌詞のディテールから横浜関内にあるレンガ作りのカフェ”馬車道十番館”を舞台にしたと思しきラブソングで、近辺のロケーションが織り込まれており完成度も高い。サウンド的には前出のアナログ・シンセや北村のエレキベースのアクセント、シンセタムのフィルによって、横浜のナイト・シーンが目に浮かぶ演出で脱帽してしまう。