DISC-1冒頭の「Harbinger」は平川が全コード進行、ベースの西岡利恵が全メロディという共作になっている。また平川や西岡が手掛けた曲を中心に英語歌詞を多く手掛けるのはニューヨーク在住の日本人音楽家Youth Yamadaだ。この曲は昨年9月にドラムレスのラフミックスを聴かせてもらったヴァージョンからブリリアントな導入部であると感じて、このアルバムは傑作になるだろうと確信した曲である。イントロのギター各種のアルペジオ、複雑に転回しながら心に響くコーラス・パート、ビートリー(ポール・マッカートニー)なギター・ソロ、ドラムの祥雲貴行がプレイする多彩なフィル、そして「Let’s see the beginning of you that's to come・・・」で締める歌詞も非常に良い。
続く「Got To Be Rock And Roll」は先行シングル第二弾で2月27日に配信開始された、平川作曲、Yamada作詞によるシンプルなロックンロールで、コーラス・アレンジはビーチ・ボーイズからの影響が強い。イギリス育ちでネイティブな発声のNiinaのボーカルは、こういったスタイルの曲でも強い説得力があり、堂々とした歌唱で聴き惚れてしまう。
Got To Be Rock And Roll (Official Short MV)
チェンバロ(ハープシコード)の刻みとシャッフル・ビートの「Never Let You Go」は平川=Yamada作のソフトサイケ・ナンバーで、弊サイト読者に強くアピールするだろう。中期ビートルズ風の複雑なコーラス・パートや変拍子とワルツ・パートが挿入されたり、深いリヴァーブを効かせたブレイクがあったりとアレンジも非常に凝っており、カート・ベッチャーがプロデュースしたEternity's Childrenの諸作からヴァン・ダイク・パークスの『Song Cycle』(1967年)まで許容する音楽マニアは聴くべきだ。
インタビュー後編でリカ(アコースティック・ギター&コーラス)が触れる「Lily’s Smile」は先行シングル第4弾で、リカが作曲と歌詞のモチーフを作り、そこからNiinaが娘に捧げた歌詞を書いたラヴソングになっている。ペンクラとしては珍しいヒスパニックなリズムとスイング感を持ったサンシャイン・ポップだ。後半のパートで現在海外在住である大谷英紗子が帰国のタイミングでダビングした複数のサックス・プレイを聴ける。またコーダでは娘Lilyの笑い声もオーバー・ダビングしており、スティーヴィー・ワンダーの「Isn't She Lovely」(『Songs in the Key of Life』収録 1976年)を彷彿とさせて微笑ましい。
このオブリのラインだが、ペンクラの1st『Sound Of The Pen Friend Club』(2014年)に収録されたブルース&テリーの「Don't Run Away」(1966年)をカバーした際に遡る。嘗て同曲をこよなく愛する山下達郎氏が「Only With You」(『BIG WAVE』収録/1984年)としてオマージュした自作曲があり、同じようにグロッケンのオブリガードを入れているのだが、こちらは山下氏のオリジナルである。ペンクラの「Don't Run Away」カバーではこの「Only With You」のオブリのラインを引用するという二重構造のオマージュをしており、当時筆者しか指摘しなかったと平川から聞いたが、非常にマニア心をくすぐった。今回この「Begin Tomorrow」で、再びこのオブリのラインを登場させているのが嬉しい。
渋谷系から入ったソフトロック・ファン読者のために、平川=Yamada作の「The National Bird」にも触れるべきだろう。同曲はRoger Nichols & The Small Circle Of FriendsやThe Carnivalに通じる、疾走感あるボッサのリズムを持つソフトロック・ナンバーで、Niinaの表現力あるボーカルも相まって完成度が高い。アレンジ的にこのタイプの曲では高域にトランペットに配置させてオブリをプレイさせるのが定石だが、ここでは大谷のサックスとゲストのMiyu Ohashiによるフルートのユニゾンにしているのがペンクラらしく独自性を感じる。是非7インチでシングルカットして欲しいナンバーである。
続く「You’re The One 1965」は平川=Yamada作で、歌詞の世界観とややファースト・テンポのシャッフル・ビートから典型的なソフトロックである。優和なヴァースからサビでビターなマイナーに転調する感じなど、Spiral Starecaseの「More Today Than Yesterday」(1968年)、マニアックなところではThe Golden Gateの「Lucky」(『Year One』収録 1969年)あたりに通じて好きにならずにいられない。
「In Your Light」はリカの単独のソングライティングで、英語詞はNiinaと共作している。この曲は70年代初期シンガー・ソングライター系の曲調とアレンジで、恐らく彼女が敬愛しているであろうキャロル・キングの匂いを強く感じさせる。こういった従来のペンクラとは毛色の異なるサウンドを許容している点が新鮮である。
一転して初期ビーチ・ボーイズ風の「Breakin’Up」は平川=西岡=Yamada作で、ほぼ全体を平川が作曲しヴァース1を西岡が修正したようだ。とにかくボーカルのNiinaがシャウトしまくる、ライブで映えする曲である。ペンクラの魅力はこういったタイプの曲に象徴される、一般音楽リスナーが初見で楽しめる親近性を持ちながら、DISC-1に収録された「Never Let You Go」や「Begin Tomorrow」など、筆者のようなコアなマニアック層にもアピールする深い音楽性を内包させている点なのだ。
そして本作の先行シングル第一弾として2月20日にいち早く発表された「California Again」は、DISC-2の後半に収録されており、平川=西岡=Yamada作で、ヴァース1は西岡、ヴァース1の一部とヴァース2の作曲は平川がそれぞれ手掛けている。いきなりビーチ・ボーイズの「Do It Again」(1968年)を意識したアレンジなのはペンクラらしいのだが、こういったノベルティ感覚に近い曲もNiinaのボーカリストとしての力量で聴かせてしまうのはさすがである。
一転して続くタイトル曲「Songularity」は平川作のギター・インスト曲で、アップビートなサーフィン&ホット・ロッドとは異なる、6/8拍子の静かで美しいバラードだ。骨格はビーチ・ボーイズの「Summer Means New Love」(『Summer Days (And Summer Nights!!)』収録 1965年)だろうが単純にそれだけではなく、『Pet Sounds』(1966年)収録の「Let's Go Away for Awhile」で多用されたティンパニやバリトン・サックスなど楽器編成であり、同アルバムの歌物で展開されたコーラス・アレンジを投入しているのは平川のセンスであり、まったく聴き飽きない。
ラストの「Be Here With You」は平川=Yamada作で、こちらは完全にビートルズとポール・マッカートニーへの愛情のこもったオマージュであり、骨格はWingsの「Band on the Run」(1974年)だが、モザイク的に複数曲のエッセンスを付加している。この「Band on the Run」自体ビートルズ時代の『Abbey Road』(1969年)B面の「You Never Give Me Your Money」から「The End」のメドレーの内、ポール単独曲を1曲に凝縮させた感がある。この曲でも僅か2分58秒の尺にドラマティックな展開を凝縮させており、特にテンポアップするブリッジのパートのバックには、「A Day In The Life」(『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』収録 1967年)で、ジョン・レノンとポールがそれぞれソングライティングしたパートを繋ぐ24小節のため、プロデューサーのジョージ・マーティンがアレンジしたオーケストラの「無調クレッシェンド」までオマージュさせているのだ。このアイデアを実現させるのはなかなか困難なので、正に脱帽してしまった。
●前作『Back In The Pen Friend Club』(フル・カバーアルバム)から約2年振り、全てオリジナル曲のアルバムとしては、2022年9月の『The Pen Friend Club』以来になります。
しかも今回は2枚組で全20曲というボリュームですが、こういったコンセプトでリリースすることは、以前より計画していたんでしょうか?
今回のレコ発ライブは、これまでブックマークスのレコーディングにレギュラーで参加してきた、手練ミュージシャンである足立浩(Drums)と北村規夫(Bass)、佐藤真也(Key)がバッキングするフルメンバーである。ゲストとして、『BLOOM』にフューチャーリング・ボーカルで参加したSwinging Popsicle(スウィンギング・ポプシクル)の美音子Fujishima、FLY HIGH RECORDSのレーベル・メイトで、2019年11月のシングル「君の気配」にデュエット参加したシンガー・ソングライターの青野りえ、昨年12月その青野が作詞、近藤が作曲した新曲『青いカケラ』、洞澤はカップリング曲に編曲で楽曲提供した、声優兼シンガーの藍田理緒の出演もそれぞれ予定されている。
なおオープニング・アクトは、同じくFLY HIGH RECORDSから2022年10月にソロアルバム『Nostalgic hour』をリリースし、ブックマークスの2人とは関係性が強い男性ソロユニットKARIMAが務める。
ジム・クロウチの「Operator」を初めて聴いた時、優しいメロディと輪郭のはっきりした心地いい歌声に聴き惚れた。電話をかけるには交換手(Operator)に繋いでもらう必要があった時代。交換手へ語りかけながら、過去の恋人に電話をしようかしまいか、心境が変化していく様子が歌われている。5枚あるスタジオアルバムのうち、初ヒットとなった3作目『You Don't Mess Around with Jim』(ABC Records-ABCX756)からのシングル曲だ。
兵役の任務が解かれた1968年、大学の友人でもある音楽プロデューサーのトミー・ウエストの勧めで夫妻はニューヨークへ移住し、キャピトルレコードからデュオでのアルバム『Jim & Ingrid Croce』(Capitol Records-ST-315)をリリース。しかし商業的には恵まれず、ニューヨークでの生活にも疲れた2人はペンシルベニア州リンデルの田園地帯に移り住むことにした。ここでのクロウチは工事現場の作業員やトラック運転手など様々な仕事で生計を立てていたそうだ。この生活の中で出会った人々は、後の曲作りのテーマとして登場しているらしい。
1970年になって、大学の友人で音楽プロデューサーのジョー・サルヴィオロから紹介されたシンガーソングライターのモーリー・ミューライゼンとパートナーを組みABCレコードと契約。この頃息子が生まれたクロウチは決意を新たに再びニューヨークへ向かい、ミューライゼンをリードギターに、トミー・ウェストとテリー・キャッシュマンのプロデュースでアルバムを制作する。こうして1972年4月にリリースされたのがヒットアルバムとなった『You Don't Mess Around with Jim』だ。収録曲のひとつ「Time In A Bottle」は息子のために書かれた曲だそう。この時から、全米中をツアーしてまわる多忙な日々が始まった。ツアーと並行してレコーディングも進められ、ABCレコードでの次のアルバム『Life and Times』』(ABC Records-ABCX756)は1973年1月にリリースされた。このアルバムからのシングル曲「Bad, Bad Leroy Brown (邦題: リロイ・ブラウンは悪い奴)」は2週連続全米1位を獲得。フランク・シナトラやドリー・パートンにもカバーされた。クイーンの「Bring Back That Leroy Brown」という曲で歌われているのは、このクロウチの「Bad, Bad Leroy Brown」の歌詞に登場する悪党リロイ・ブラウンのことだ。
1973年9月20日、クロウチとミューライゼンはルイジアナ州ナケテシュにある、ノースウェスタン州立大学でのコンサートを終え、翌日のテキサス州シャーマンのコンサートに向かうところだった。しかしナケテシュの空港で2人が乗り込んだ小型チャーター機は、離陸した直後に木に激突し6人の乗客全員が死亡。ジム・クロウチは30歳、モーリー・ミューライゼンは24才という若さで突然この世を去った。シングル曲「I Got A Name」がリリースされる日の前日の事故だったそうだ。11月には、これまで『You Don't Mess Around with Jim』の中の1曲だった、息子のための曲「Time In A Bottle」がシングルカットされ、全米1位を獲得する。そして事故の1週間前にレコーディングを終えていた、「I Got A Name」を含む同名のアルバム『I Got a Name (邦題: 美しすぎる遺作)』(ABC Records-ABCX797)が1973年12月にリリースされ、「I Got A Name」の他、「I'll Have To Say I Love You In A Song」、「Workin' at The Car Wash Blues」がヒットを獲得した。