2022年12月14日水曜日

一色萌とザ・ファントムギフト:『ハートにROCK!』(なりすレコード / NRSP-7106)


 今年4月のセカンド・シングル『トラブル・ボーイズ』が記憶に新しいパブロック・アイドルの一色萌(ひいろ もえ)が、リユニオンした伝説のネオGSバンドのザ・ファントムギフトをバックに、サード・シングル『ハートにROCK!』を12月21日に7インチでリリースする。
 B面には英国のモダンポップ・ユニット、コーギス(The Korgis)の80年のヒット曲「永遠の想い(Everybody's Got To Learn Sometime)」の日本語カバーを収録し、両サイド共に拘りのカップリングとなっている。

 一色は2020年11月の『Hammer & Bikkle / TAXI』のカップリング曲「TAXI」で英国伝説のパブロック・バンド、デフ・スクール(Deaf School)、前作『トラブル・ボーイズ』(デイヴ・エドモンズのカバー)ではオリジナル作者のデイヴとロックパイル(Rockpile)時代の同僚ギタリストのビリー・ブレブナー(Billy Bremner)とコラボレーションを敢行し、英国ロック・マニアには密かに知られたアイドルなのだ。

一色萌とザ・ファントムギフト

加納エミリ

 プログレ・アイドルグループXOXO EXTREME(キス・アンド・ハグ エクストリーム)のメンバーである一色は、ソロ作ではパブロックをはじめ、パワーポップやモダンポップと極めてユニークなスタンスで活動しており、本作では80年代後期のネオGSムーブメントを牽引したザ・ファントムギフトまでリユニオンさせてしまったという。
 その情熱には脱帽してしまうが、この新曲「ハートにROCK!」は、80'sテクノ系アイドルからシンガー・ソングライター兼クリエイターに転身した加納エミリが手掛けた書き下ろしで、レコーディング・エンジニアはayU tokiOとしてアーティスト活動をしている猪爪東風(いのつめ あゆ)、ミックスは前作同様マイクロスターの佐藤清喜がそれぞれ参加し、リリース元の“なりすレコード関係者”が全面的にバックアップしている。
 また目を惹く昭和レトロなジャケット・デザインは、ザ・ファントムギフトのメンバーで、アートディレクターとしても知られるサリー久保田が担当している。

 
一色萌とザ・ファントムギフト「ハートにROCK!」MusicVideo

 ここからは筆者による収録曲の解説をお送りする。タイトル曲「ハートにROCK!」は、前出の通り加納エミリのソングライティングで、ザ・ファントムギフトがヘッド・アレンジをしたエイトビートのガレージ風ロックンロールだ。
 ギターのナポレオン山岸(スターリン=遠藤ミチロウとの活動等)、ベースのサリー久保田(アートディレクター、ミュージシャンとしてLes 5-4-3-2-1やSOLEIL等)、ドラムのチャーリー森田(チャーリー&ザ・ホット・ホイールズ等)のオリジナル・メンバーが35年振りにザ・ファントムギフトとしてリユニオンしてプレイしており、こなれたコンビネーションを聴かせている。タイトルはファントムの1987年メジャーデビュー・シングル「ハートにOK!」を彷彿とさせるが、片思いをした乙女の心情を綴った歌詞を一色がキャンディ・ボイスで軽快に歌い上げ、加納もコーラスで参加している。このプリティーなヴォーカルに対して、ファズをかまして縦横無尽に暴れる山岸のリード・ギターとのコントラスが非常に面白く、トラックに施されたリヴァーヴ処理も素晴らしい。7インチということでDJプレイでもフロアを沸かせるだろう。 
 
 The Korgis
『KOOL HITS, KURIOSITIES AND KOLLABORATIONS』

 カップリングの「永遠の想い(Everybody's Got To Learn Sometime)」は、コーギス最大のヒット曲として知られており、今年8月に日本でリリースされた特別編集コンピ『KOOL HITS, KURIOSITIES AND KOLLABORATIONS』(HYCA-8039)のボーナストラックとして、新たにリアレンジとリレコが施され、更に鈴木さえ子と掛川陽介が日本語訳を担当し一色がカバーしていた。
 英国ロック通には説明不要だが、かのジョージ・マーティンが手掛けた『The Man in the Bowler Hat』(1974年)で知られるスタックリッジ (Stackridge / 1969年-1976年)を母体とし、中心メンバーのジェームス・ウォーレンとアンディ・デイヴィスによって1978年に結成されたのがコーギス(1978年-1982年)である。プログレッシブ路線だったスタックリッジをニュー・ウェイヴの波によりモダンポップとして発展させたコーギスは、日本にもシンパが多く、ムーンライダーズ及びその周辺ミュージシャンが特に知られており、今回訳詞で鈴木さえ子が参加したのも頷ける。
 ここではオリジナルと異なるアレンジで、ジェームス(ベース、ヴォーカル)を中心とした現メンバーのジョン・ベイカー(ギターetc)、アル・スティール(ギター)、ポール・スミス(ドラム)、ナイジェル・ハート(キーボード)が新たにリレコしたバックトラックに、一色のヴォーカルを日本でダビングしている。原曲の荘厳でドラマティックなサウンドを80年代中期的にアップデイトさせたというべきか、シンセヴォイスのパッドやオーケストラ・ヒットなどデジタルシンセが多用されているが、表現力豊かな一色のヴォーカルは抜群で、この曲の儚い世界観をよりよく表現している。

 数量限定の7インチ・シングルなので、ネオGSや英国モダンポップ・ファンなどの音楽ファンはリンク先のレコード・ショップなどで早期に予約して入手しよう。 


(テキスト:ウチタカヒデ

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