ラベル フレネシ の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル フレネシ の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2026年4月12日日曜日

フレネシ★ライブ At The 全日本テルミンフェス★レポート 


 昨年10月に活動を再開し、弊サイトでもお馴染みのシンガーソングライターのフレネシが、3月28日に全日本テルミンフェスで11年振りのライブをおこなったので、遅ればせながら紹介したい。


 まずこの全日本テルミンフェスについて説明するが、2005年にテルミン教室「テルミン大学」を開校し、日本国内でその普及に尽力するテルミン奏者の街角マチコ氏が主宰して、同大学の開校10周年の2015年から2017年まで定期開催していた世界でも稀な音楽フェスで、名誉会長は元ラーメンズでアーティスティックな活動でも知られるタレントの片桐仁が務めている。
 今回は9年振りとなる第4回で、ジャンルを超えたミュージシャン達のライブをはじめ、学際情報学の博士号を持ちメディアアーティストとして著名な落合陽一のインタビュー映像、編集者兼作家ながら怪談語り手としても知られる吉田悠軌まで出演するという、メディアカルチャー・イベント的側面も持っているのだ。会場は都内渋谷区代官山のUNITと晴れたら空に豆まいての2会場で開催され、開場の15時半から16組(リモート出演含め)の演奏からグランドフィナーレまで5時間を超える長丁場で繰り広げられた。

(女優兼音楽家のん氏からの祝い花と/撮影者:三宅芳夫)

 本稿の主役であるフレネシのステージは、”晴れたら空に豆まいて”において中盤の18時からのスタートで、開演前から椅子席とスタンディング客含め会場の最大キャパ(約200名)を完全に埋めて、入場規制のアナウンスがあったほどであった。
 定刻より少し遅れ、フレネシが登場する。サポート・メンバーには昨年10月にリリースしたフォースルバム『ナサリ―』が好評の無果汁団のショック太郎と、フレネシの所属事務所 ”乙女音楽研究社” を主宰する川島イタルの2名というミニマムな編成である。また後半スペシャルゲストとして本フェス主催者の街角マチコが参加している。
 セットリストに各演奏者のマークを付けているので参照して読んでほしい。

(全ライブ写真撮影者:野中麻実子)

セットリスト(2026年3月28日)
ローウィッツアーク(『キュプラ』収録/2009年)☆◎ 
nero(『キュプラ』収録/2009年)☆◎
除霊しないで(配信シングル/2025年10月)☆◎
Cloud Bossa(『ドルフィノ』収録/2013年)☆◎
運動音痴(配信シングル/2026年3月)☆◎
おやすみルナモス(配信シングル/2025年12月)☆◎★
silly joke(『ゲンダイ』収録/2012年))☆★
(収録アルバム及びシングルジャケット/曲順で上段左→下段左→)

☆フレネシ:ボーカル、シンセサイザー(microKORG)、
 アコースティックピアノ
◎ショック太郎(無果汁団):アコースティックピアノ
◎川島イタル(乙女音楽研究社主宰) :スティールパン、パーカッション、
 アコースティックギター、コーラス
★スペシャルゲスト~街角マチコ(全日本テルミンフェス主宰):テルミン 



 幕が開き「こんばんは、フレネシです」のMCが。11年の長い間待ちわびたファン達からの拍手が会場に鳴り響く。そして「この時間がずっと続いてくれたら嬉しいな。ある女友達とのエピソード」のMCから始まる冒頭曲は「ローウィッツアーク」。
 ショック太郎はグランドのアコースティックピアノ、川島はスティールパンを演奏し、リズムセクションのバックトラックをバックに歌うフレネシの歌声は、ブランクを感じさせないアンニュイで唯一無二なものだった。ファンが選ぶベストソングにも入るこの曲は、バックビートを強調した変則ポルカのリズムに、自身のエピソードをシニカルでユーモラスに描いている。またタイトルの「ローウィッツアーク」は“希少な大気光学現象”という気象学用語だが、音楽業界におけるフレネシの立ち位置を現わしているようで興味深い。
 当日ステージでのフレネシは、白のバンドカラーシャツ・ワンピースに、ミントグリーンのエプロン・ワンピースを重ねるというレイヤード・スタイル(本人談)で、ロリータ帽子を被り、まるでルノアールやモネの絵画から飛び出してきた少女のような衣装で目を惹いた。バックの2人も白シャツに黒のパンツというフレンチ・カフェのギャルソン風で、今日のステージに相応しい出で立ちである。


 続く「nero」もファーストソロアルバム『キュプラ』収録で、こちらは一転してクールでエスプリの効いた歌詞を持ち、ボサノヴァ・フィールのコード進行とグルーヴが渋谷系以降のアーティスト然としていて人気が高い。ここでショックは同じくアコピをプレイし、川島はコンパクトコンガ(別名トラベルコンガ)と呼ばれるヘッドのみで胴部が無いコンガとシェイカー、ウィンドチャイムまで担当している。
 とにかくクールなサウンドとフレネシのウィスパーボイスのコントラストがこの曲の最大の魅力であるが、間奏のシンセ・ソロまで彼女自身がプレイしている。愛用しているmicroKORGのエレピ系プリセットで、巧みなソロ・プレイは聴き応えがあった。



 3曲目は昨年10月の活動再開宣言のタイミングで、シングルとして配信リリースした「除霊しないで」だ。MCではそんな活動再開のきっかけとなった、クリープハイプの長谷川カオナシ氏のソロアルバムへの参加、NegiccoのMegu氏のシングル曲提供のオファーについて触れた後「11年振りに書いた曲が、なんでこんな曲なのかなっていうの、自分でもよく分からないのですけど・・・(苦笑)。まだ三途の川は渡らないぞ」と紹介されイントロのオケが流れてくる。前曲同様の楽器編成で、ここでもフレネシはシンセ・ソロを弾いている。楽曲的にはゼロ年代且つフレネシ・サウンドであり、心霊写真として写ったお化けが現世に未練を残しているというテーマがユニークであり、このような視点で世界を編み出せるのは彼女ならではある。

 ライブのスタートからフレネシは、ステージ下手に横向きパフォーマンスしていたためか、4曲目の前には上手側の客席に挨拶をするという心遣いがあった。MCではフレネシTシャツを着てライブ観戦するファンに触れて感謝したり、Megu氏にプレゼントされたと思しきグッズのドリンクボトルで、ライブ中愛飲しているスロートティー(ハーブティーの一種)を紹介して勧めるなど、ファンサービスのトークも大事にしていた。
 そんなリラックスした雰囲気の中で始まるのが「Cloud Bossa」だった。ここでは川島はアコースティックギターでボッサのリズムを刻み、ショックのアコピと共にこの曲を支えていた。この曲は活動休止前の最終アルバム『ドルフィノ』収録曲で、フレネシ・サウンドの中でもオーセンティックなボサノヴァで、フレネシのボーカルはアストラッド・ジルベルトよろしくサウンドに溶け込んでいた。



 後半に入ると、最新シングル「Undo-Onchi」が演奏される。乙女音楽研究社主宰の川島がソングライティングしたこの曲は、”運動音痴”というユニークなテーマの歌詞を持っているが、曲自体は60年代イタリアン映画音楽の巨匠エンニオ・モリコーネやピエロ・ピッチオーニに通じる欧州ラウンジ・ラテンのテイストを持っていて、彼の非凡なセンスを感じさせる。ショックは優雅なピアノをプレイし、川島はコンパクトコンガとこの曲に欠かせない独特なコーラスでサポートする。主役のフレネシのボーカルは童女のようなひたむきさを持ち、1コーラス目のサビからは歌詞に合わせてアンブレラを開き、間奏では片手でシンセ・ソロまで披露する器用さを観させてくれた。



 そして本ステージのハイライトである。今回のフェス主宰者であるテルミン奏者の街角マチコがスペシャルゲストとして、フレネシから呼ばれて登場する。ターコイズブルーの七分袖ワンピースがすらりとした美しい長身にマッチして、ただならぬ神秘性を醸し出していた。彼女は2001年に日本におけるテルミン演奏の第一人者である竹内正実氏に師事し、わずか4年後には自身の教室「テルミン大学」を設立して、長年テルミンの普及に尽力しており、令和日本のクララ・ロックモアと呼べる存在なのだ。

 そんな街角をゲストに迎えて演奏されたのは、昨年12月にリリースされた「おやすみルナモス」で、スタジオ・レコーディングにもテルミンで参加して話題になっていた。ここでの演奏陣はピアノのショックとアコースティックギターの川島に、ワルツ・パターンのドラムやリバース・ノイズなどSEを含むバックトラック、そしてボーカルとは異なる複旋律をテルミンで演奏する街角である。クラシカルなマイナーキーのバラードを無垢に歌い上げるフレネシの姿は非常に印象的で、彼女の楽曲群の中では「メルヘン」(同名アルバム収録/2010年)に通じるヨーロピアン哀愁歌としてファンの心に残ったのではないだろうか。なおこの「おやすみルナモス」終了後にショックと川島はステージからはける。



 あっという間にラストになってしまったが、7曲目は『ゲンダイ』収録の「silly joke」である。ここではフレネシはピアノに移動して弾き語りするスタイルとなり、街角はテルミンでオブリガードと間奏のソロでサポートする。


 三連符コードのピアノで演奏される愛らしいこの曲は、初期ユーミンや大貫妙子に通じる淡い乙女感覚と一人称英語歌詞のラブソングだ。間奏のえも言われぬテルミン・ソロを演奏し終えると街角は静かにステージをはけて、完全にフレネシのソロ弾き語りとなる。
 このロンリネスな曲が持つ、ひしひしとした乙女の孤独感とオーバーラップして、後ろ髪を引かれる雰囲気でステージを締め括った演出は実に素晴らしかった。

 最後にフレネシのソロ活動再開後初の記念すべきステージの総括として、11年の活動休止期間中にこの日を待ちわびていた熱心でストロングなファン、そして新たに加わったニュー・ファンを魅了して、今後も彼女の世界に浸っていきたいと再認識させた、極めてエクセレントなステージであった。

(全ライブ写真撮影者:野中麻実子)


フレネシ・プロフィール

Sound Palette by frenesi 

8歳で、ささやき声しか出なくなる。20歳で衝動的に音楽活動を開始し、大学卒業までの2年間に50曲余りを作曲。
2009年6月、乙女音楽研究社からリリースした初のフルアルバム『キュプラ』が、HMV インディーズチャート1位、カレッジチャート1位を獲得し注目を集める。
その後、『メルヘン』『ゲンダイ』『ドルフィノ』の3枚のアルバムを発表したのち、2014年12月27日のワンマンライブ「フレネシ学園 伝説の終業式」をもって活動を無期限休止。
2020年にストリーミング配信が開始されたことで海外の音楽ファンを中心に新たな注目を集め、 累計再生回数は数千万回に達し 「渋谷系のビョーク」とも称される。
2025年10月31日に11年ぶりの新作『除霊しないで』を発表し活動再開を宣言、さらには12月22日に『おやすみルナモス』を発表し、大きな話題を呼んでいる。
★フレネシofficial site:こちらをクリック
◎関連記事「テルミンフェスのこと」:こちらをクリック
◎最新配信シングル「Undo-Onchi」 amazon


(設問作成、本編テキスト:ウチタカヒデ)
















2026年3月31日火曜日

MEWCATUNE:『もう物語なんていらない/きっと正解』インタビュー★ゲスト~フレネシ


フレネシ作★令和アイドル・アンセムの傑作!

 新潟を拠点に日本国内で活動するアイドルグループ、MEWCATUNE(ミュキャチュン)が、才女フレネシからのタイトル曲提供によるニューシングル『もう物語なんていらない/きっと正解』を4 月1 日にリリースする。
 

MEWCATUNE
左から早乙女かなめ、泡沫なこ、
世楽みこと、兎咲くるみ、夏萌りんな

 彼女達MEWCATUNEは、2021 年の夏にローカルアイドルの聖地とも言われ、弊サイトでも紹介しているNegiccoやRYUTist(2024年12月に無期限活動休止)でも知られる新潟で結成された。「MEW=猫の鳴き声、CAT=猫、TUNE=旋律」をグループ・コンセプトとし、様々なジャンルで活躍するクリエイター陣から提供された楽曲とキュートなパフォーマンスを特徴とする新進気鋭の5 人組アイドルグループである。
 月10 本程のペースで、ホームタウンである新潟だけに留まらず、都内や全国各地で積極的にライブパフォーマンスを披露している。今年2月と3月には東京(西永福JAM)と新潟(新潟LOTS)でワンマンライブを開催し、大盛況のうちに終了させている。
 
 ここでは筆者による詳細解説に加え、本タイトル曲を提供して、Megu(Negicco)に提供した『めしませルルボン』も記憶に新しい、シンガーソングライターのフレネシへのインタビューと、ソングライティングやレコーディング時にイメージ作りで彼女が聴いていたプレイリストをお送りする。

 タイトル曲「もう物語なんていらない」は、アップテンポでビートを強調しながら複雑な構成を持つアイドル・アンセム(賛歌)だ。散文詩的歌詞にはアイドルとその推し活層の機微がちりばめられていて、これまでのアイドル・ソングにはあまりなかったテーマといえよう。
 ソングライティングとアレンジ的にはドラマティックなサビから始まる歌謡曲的転回で、フラットな歌唱がキュートで初期Perfumeの「wonder2」(「エレクトロ・ワールド」CW/2006年)に通じるバース1、それとサビを繋ぐアンニュイなバース2でサビに戻る。2コーラス目頭にはチャイニーズ・スケール風アルペジオを持つブリッジ・パートがあるなど、相対性理論をはじめとするゼロ年代サウンドのカラーが強く、作者であるフレネシのソロ作に通じる一筋縄ではいかぬエッセンスも潜んでいて、まったく聴き飽きない。マニアックながらキャッチーなフックを持ったヒット性のあるシングル曲に仕上がっている。
 全てのトラックのプログラミングはフレネシ自身が担当し、ブランクを感じさせない絶妙な譜割りのキック(バスドラム)やスネアの音色など、そのセンスは相変わらずだ。生のエレキベースはポップユニット“フラッシュバックあの人”を主宰し、フレネシのバックバンドにも参加していた山口洋輔がプレイしている。

 カップリングの「きっと正解」は、京都を拠点とする音楽グループ“EMERALD FOUR”を主宰する足立大輔がソングライティングとアレンジを担当した躍動的なギター・ポップだ。足立がプレイしたと思しき複数のギターを構築して多重録音されており、ティンパニーを入れたり、唐突なマンボのパートが挿入されたりと楽器配置やアレンジにも工夫されていて、この曲も聴き飽きさせない。
 

特別インタビュー★ゲスト~フレネシ

”MEWCATUNEの5人が持つ、物語に頼らない
「個としての輝き」がこの曲には詰まっている”
 
●立て続けの楽曲提供で多忙な中、今回もありがとうございます。
プレス向け資料によると、今回MEWCATUNEさんに楽曲提供することになったきっかけは、フレネシさんが以前参加していたxxx of WONDER(オブ・ワンダー:南波志帆、Dr.Usui、フレネシ、岸田メル、Julie Watai)のレーベルA&Rマンが同じことだったからということで、それはいつ頃決まったんでしょうか?
またMEWCATUNEさんについてはオファーされた当時ご存知でしたか?


 ◎フレネシ:2025年の10月上旬に三宅さんと一度数年ぶりのオンライン会議をして、11月5日に正式オファーをいただきました。その時初めて、MEWCATUNEを知りました。

 オファーを受けてから改めてプロデューサーの坂田さんを含めたMTGをし、年内にアレンジまでのFIXを目指して、制作を始めました。


●アイドルグループへの楽曲提供は今回が初めてでしょうか?
メンバーのソロとしては、これまでに最近のMeguさんをはじめ何回かあったと思いますが、声質の異なる複数のボーカリストによって歌うことを前提にする訳で大変だったかと。
パート毎にソロを取るメンバーを選んでいくとか、サビではユニゾンとハモらせるパートをどこで分けるなど、ソロとは違いますからね。


◎フレネシ:グループへの楽曲提供は初めての機会で、他の作家さんの提供曲をじっくりと聴きこみました。

各メンバーのパート分けはプロデューサーの坂田さんが担当しています。コーラスのラインについては試行錯誤しましたが、最終的にはユニゾンとなりました。


●正式オファーから曲作りとアレンジFIXまでのスケジュールがややタイトですね。本作「もう物語なんていらない」のテーマやコンセプト作りについてですが、MEWCATUNEさん側からはどのようなリクエストがあったでしょうか?
例えば、フレネシさんのこれまでのソロ曲の中から挙げられたとかですね。

MEWCATUNEとフレネシ

◎フレネシ:坂田さん、三宅さんからリファレンスとして挙げていただいたのが、私の楽曲2曲で…「GO ROPEWAY」的な王道ギターポップ・ソング・テイスト、「渚のアンドロメダ」に入るドラム要素があると盛り上がりそう、と具体的にリクエストをいただきました。

 これらの楽曲は、私の作品としてはやや異質なロックテイストで、得意分野ではないだけに「あの感じですね!」と即座に再現できるサウンドではなかったため、作詞作曲までの骨組みを完成させた後、実はアレンジでかなり苦戦しているのです。何をどれだけ足しても何か足りないまま、という。


●成る程、盛り上がるアップテンポな曲でというオーダーだったんですね、確かにフレネシさんの世界観からはやや異質だったかも知れません。
そんな状況下で曲作りやレコーディングの時期と特筆すべきエピソードをお聞かせ下さい。今回のレコーディングは一人多重録音ではなく、以前フレネシのサポート・メンバーでアレンジも手伝っていたベースの山口洋輔(フラッシュバックあの人)さんも参加していますね。このあたりの経緯は?


◎フレネシ:アレンジャーとしては私よりずっと先輩で、メジャー、インディー問わず数多くお仕事をこなしている彼とは、普段から音楽制作の相談に乗ってもらう間柄で…。今作では、ギターのプログラミングが入った時点で音源を聞いてもらったところ弾きたいと申し出てくれて、ベースのトラックを送ってくれました。それがばっちりハマり、さすがだなあと。山口君の音は、もはやフレネシサウンドの要ですね。生ベースの存在がグルーヴの輪郭を明らかにするというか。足しても足しても足りない何かを、ようやく埋めてくれたような。

そして、アレンジ段階でスランプに陥った際、長谷川カオナシさんにも相談しまして…「このラインにはコーラスがハマりそう」だとか「サビのキメはタイミング合わせるといいかも」など、具体的なアドバイスをいただき、ありがたかったです。それらのアイディアを本作のアレンジに取り入れています。

さらには、製作途中で迷いが生じた時、谷山浩子さんにも背中を押していただいて…相談できるミュージシャンが身近にいるありがたみを感じます。


●旧知の山口さんの他、昨年フレネシさんがアレンジャーとしてソロアルバムに参加した長谷川カオナシさん、そのアルバムに同じように参加されたレジェンド・シンガーソングライターの谷山浩子さんなど、音楽活動再開後に知り合った方まで相談できるミュージシャンが多くいることは頼もしく、ありがたいことですよね?


◎フレネシ:それは本当にその通りだと思います。
一人で悩んだ末にお蔵入りした曲は数知れず。悩みを言語化するだけでも、回路がつながって解決の糸口が見えることもあったりしますね。



●本作「もう物語なんていらない」の曲作りやアレンジ、レコーディング中のイメージ作りで聴いていたプレイリストをお願いします。

フレネシ・リファレンスプレイリスト
★MEWCATUNE『もう物語なんていらない』

Ma jeunesse fout le camp…/Françoise Hardy
(アルバム『Ma jeunesse fout le camp...』1967年)

GALZ XYPHER/COCONA from XG
(Single『GALZ XYPHER』2022年)
※アルバム未収録のデジタルリリース作品。

アイドルばかり聴かないで/Negicco
(アルバム『Melody Palette』2013年)

ラッキーカラー/SHY(アルバム『ずっとラプソディ』2007年)

Go Ropeway/フレネシ(アルバム『ドルフィノ』2013年)

渚のアンドロメダ/フレネシ(アルバム『ゲンダイ』2012年)

ミュンヘナーCMソング
(1980年代後半〜90年代初頭の静岡ローカルCMソングとして有名)

◎フレネシ:この内容で補足説明がないと「なぜ…」となりそうなので、一言ずついいでしょうか。?

フランソワーズ・アルディの『Ma jeunesse fout le camp...』が描く、若さが去りゆく際の空虚な美しさに、(音楽シーンに限らず)現代社会全体に蔓延る「物語への過度な依存」を重ね合わせたんです。

Negiccoの「アイドルばかり聴かないで」は、楽曲の主題を三宅さんに相談したところ「そういえばそんな曲ありましたよね、アイドルがアイドルばかり聴かないでって歌う…」とこの曲を挙げていて…無意識のうちに小西さんプロデュースのこの曲に影響を受けていたのだと思います。

ちなみに私の推しを一人挙げるとするならば、それはXGのCOCONAさんですが、今作のプロットを考える上で、最初に出会った衝撃のソロラップMVを振り返るなどしました。

ラッキーカラー/SHYは、プロアクティブのCMソングで00年代の後半によく流れていた曲なんですが、商品と映像とががっちりイメージできるこの曲みたいなポップさを目指したい、と参考にしました。

ミュンヘナーのCMソングも同じですね…これは、子供のころにしか聞ていないハズなのに今も歌える。キャッチーなCMソングには学びが多いです。



●最後に本作「もう物語なんていらない」のアピールをお願いします。

◎フレネシ:音楽の聴き方が2010年辺りから明らかに変わってきてるね、って話をスタッフと最近したところです。私たち(主語が大きいかもしれませんが)の世代を束ねて縛っていたスノビズムはもはや鳴りを潜め、体裁のための言い訳を用意せずとも堂々とオタクを名乗っていい時代。民主化したってことなのかな、とも思いますし、音楽自体は器で、物語を運ぶ装置になったようにも感じます。変化したというより、元来そういうものだったのかも。

本能に訴えかけてくる魅力には抗う必要もないのだけれど、音楽が音楽として教養や物語から独立してただ存在してもいいのではないか…という、私なりの問題提起でもあったりするのですが、そんな理屈は一旦置いておいて。 

MEWCATUNEの5人が持つ、物語に頼らない「個としての輝き」がこの曲には詰まっています。発売日は奇しくもエイプリルフール。究極的には「物語なんていらない(いや、いるだろう)」かもしれないですし、4月1日、彼女たちの新しい一面に、ぜひ驚いてください。


●そう言えば、フレネシさん自身の新曲「Undo-Onchi」も3月13日に配信リリースされたばかりですが、”運動音痴”をテーマにしたということで、そんなユニークなテーマにしたきっかけと、同曲のアピールもお願いします。
脱力しそうなテーマと歌詞ですが、洒脱でコンチネンタルなコンポーズとアレンジは、イタリアン映画音楽の巨匠エンニオ・モリコーネやピエロ・ピッチオーニに通じて、好きにならずにいられません。


◎フレネシ:これは、私の何気ない日常からこぼれ落ちた歌ですね。
乙女社主宰のイタルさんが、私のブログに書いた「運動が苦手」という独白を拾い上げて、「運動音痴」というテーマを閃いたそうです。

最初にデモを聴いたときは、「本気でこれを……? 私は一体どんな顔をして歌えばいいの?」と正直戸惑いました(笑)。ですが、アレンジが進むにつれて思わず唸ってしまうほどの名曲に化けていきました。イタルさんの低音ボイスによる合いの手も、絶妙なアクセントになっています。

実は、イントロと間奏のハーモニカの旋律、そしてジャケットの切り絵イラストは私が手掛けています。特にイラストの「ちょっと不機嫌そうな表情」にはこだわりました。

周りの景色も雨も、世の中は案外暖かくて優しい。それなのに、自分だけが取り残されたように孤独で灰色、少しだけ憂鬱……。そんな私の内面を、イタルさんは恐ろしいほど正確に理解してくれているなと感心します。歌っていて、心の底から楽しいと思える一曲になりました。
インフレイションに続いて、いつか、この曲もカラオケに入ってほしいですね。運動音痴で方向音痴…きっと共感してくださる方も多いのではないかと…そんな気持ちでいます。



フレネシ・プロフィール
8歳で、ささやき声しか出なくなる。20歳で衝動的に音楽活動を開始し、大学卒業までの2年間に50曲余りを作曲。
2009年6月、乙女音楽研究社からリリースした初のフルアルバム『キュプラ』が、HMV インディーズチャート1位、カレッジチャート1位を獲得し注目を集める。
その後、『メルヘン』『ゲンダイ』『ドルフィノ』の3枚のアルバムを発表したのち、2014年12月27日のワンマンライブ「フレネシ学園 伝説の終業式」をもって活動を無期限休止。
2020年にストリーミング配信が開始されたことで海外の音楽ファンを中心に新たな注目を集め、 累計再生回数は数千万回に達し 「渋谷系のビョーク」とも称される。
2025年10月31日に11年ぶりの新作『除霊しないで』を発表し活動再開を宣言、さらには12月22日に『おやすみルナモス』を発表し、大きな話題を呼んでいる。
★フレネシofficial site:こちらをクリック
◎関連記事「MEWCATUNEに楽曲提供しました」:こちらをクリック
◎最新配信シングル「Undo-Onchi」





『もう物語なんていらない/きっと正解』:
各種サブスクリンクはこちらをクリック

(設問作成、本編テキスト:ウチタカヒデ)



2026年1月11日日曜日

Megu:『めしませルルボン』インタビュー★ゲスト~フレネシ

 
 新潟在住のアイドル・ユニットNegicco(ネギッコ)のメンバーMegu(メグ)が、才女フレネシのプロデュースによるニューシングル『めしませルルボン』(Fall Wait Records / FAWA-0035)を1月14日にリリースする。 

  Negiccoとしては、2024年に結成20周年記念ミニアルバム『Perfect Sense』と5thオリジナルアルバム『What A Wonderful World』をそれぞれリリースして弊サイトでも紹介したのが記憶にあると思う。そんな彼女達はリーダーのNao☆をはじめ、MeguとKaedeも2021年までに全員既婚者となり、翌年揃って出産も経験している。昨年9月にはKaedeが第2子を出産し現在育児休暇期間だが、全員がこうした経験をしているアイドル・ユニットというのは稀であり、現在も活動続行中というのは、音楽業界やファンにとって素晴らしいことである。
 過去弊サイトではメンバーのソロ作品として、Nao☆のソロ・シングル『菜の花』(2018年)、Kaedeの『秋の惑星、ハートはナイトブルー。』(2020年)を紹介しているが、今回初めてMeguのニューシングル、しかも11年振りに音楽活動を本格的に再開したフレネシがソングライティングとアレンジ、プロデュースまでおこなっているということで紹介したい。


 本作『めしませルルボン』は前出の通り、唯一無二の世界観を持つ女性シンガーソングライターのフレネシがソングライティングとアレンジ、プロデュースを担当しており、Megu の声質を活かした、陽だまりを感じさせるシャッフルの愛らしいフレンチ・ポップ風に仕上げている。 イントロ無しで始まるサビのキャッチーなリフレインが最も特徴だが、シャッフル・リズムのヴァースAとBでハイハットのパターンを細かくチェンジさせたり、ブリッジはアンディ・パートリッジ(XTC)作品を彷彿とさせる英国モダンポップの捻じれたメロディーラインにするなどフレネシならではの拘りのセンスを感じさせた。
 パッケージにも触れるが、Meguのソロ作ではお馴染みとなっている、”CD+フォトブック”仕様で、本作の世界観からインスパイアされたクラシカルなロリータ・ファッションに身を包んだビジュアルはMegu も初挑戦ということで、ファンの興味を湧かせるだろう。 
 さてここでは、昨年10月の無果汁団や11月の長谷川カオナシのレビュー記事と同様に、本作をプロデュースしたフレネシへのインタビューをお送りする。


特別インタビュー★ゲスト~フレネシ

◎活動再開で多忙な中ありがとうございます。
まずはNegiccoのメンバーであるMeguさんとの出会いを聞かせて下さい。Negiccoが新潟地区のアイドルから全国的に知られるようになる以前に、ご自分のコラムでインタビューされていたとか。北園みなみもそうでしたが先見の明がありますよね。

フレネシ:「先見の明」とは恐れ多いです。私より耳の早いリスナーが紹介していたのを目にして、音を聞き、ぜひインタビューをしたいと思っただけで…。私よりも先に紹介していた誰かの拡散力があってこそ私にも届いたのだと思いますし、何よりNegiccoさんや北園さんが魅力的だったということに尽きると思います。 

 ◎そうですか、フレネシさんが取り上げたことで彼女達のことが更に知られるようになった切っ掛けの一つになったと思いますよ。ご自分でNegiccoを聴いて興味をもったということで、きっかけになった曲を教えて下さい。
因みに 私が今でも好きなのは『ティー・フォー・スリー』(2016年)収録ヴァージョンの「おやすみ」でして、ユメトコスメの長谷泰宏君のストリングス・アレンジ含め完成度が高いと思っています。 

フレネシ:きっかけになった曲は「圧倒的なスタイル」だったかな…。「トリプル!WONDERLAND」あたりも大好きですね。

「圧倒的なスタイル」/「トリプル!WONDERLAND」
 

◎今回そんなMeguさんに楽曲を提供するに至った経緯は? 

フレネシ:一番最初は、6月19日にマネージャーさんからフレネシの通販サイト「フレネシ学園洋品店」あてにオファーが来たと、ディストリビューターのブリッジさんから連絡を受けました。その時点のメールには具体的なことは書かれておらず、私もまだ活動再開という状態ではなかったものの、奇しくも先にオファーを受けた長谷川カオナシさんと最初のミーティングをした日で、いよいよCubase(Steinberg社製DAW(デジタル・オーディオ・ワークステーション)ソフト)を立ち上げて、トラック組んでいくぞ!と決意をした直後で…休眠状態から創作モードに脳が切り替わったタイミングだったんです。
翌日のメールで、Meguさんの声にフレネシの曲が合うのではないだろうかというところで、オファーをいただいたことが明らかになりました。 

 ◎そういう経緯だったんですね。確かにNegiccoの中では高域でウィスパー系の声質を持つMeguさんにはフレネシさんの楽曲は合うと思います。
Meguさんの歌唱スタイルや声のキャラクターにはどういう印象を持ちましたか?

フレネシ:ふわふわとした、羊毛のような綿雲のような柔らかさでしょうか。
ソフトフォーカスの似合う声には、デジタル候なアレンジよりもクラシカルな生楽器的サウンドに軸足を置いたアレンジが合うように感じました。 

◎では本作『めしませルルボン』のテーマ、コンセプトをお聞かせください。

フレネシ:Negiccoの拠点の新潟といえば、とあるお菓子が有名かと思いますが、そのお菓子を擬人化した楽曲となっています。
お菓子の「勝手にCMソング」を作る構想はずっと前からあって、ここでようやく実現したというわけです。

◎昭和から多くの家庭で親しまれた洋菓子がヒントになっているんですね。お米の生産量が日本国内で長年トップの地なので、米菓(せんべい、あられ)メーカーさんはよく知られていますが、そのカテゴリー外の洋菓子で全国に広まりロングセラー商品を多数発売したという、新潟県発祥商品のポテンシャルの高さを物語っていますね。そんなお菓子の「勝手にCMソング」というコンセプトは非常に面白いと思います。さすがですね! 
曲作りやアレンジのアイディア、レコーディング時のエピソードなどはありますか?

フレネシ:Meguさんからフレネシ「8:30のテーク」のようなアレンジで…とリクエストいただき、シャッフルのリズムパターン、メジャーコードを軸に組み立てていきました。
「8:30のテーク」直系というよりも、Meguさんのソフトなイメージにフィットしそうな、マーゴ・ガーヤン的なマイルドさを目指しました。 

◎アレンジの参考で「8:30のテーク(八時半のテーク)」(『ドルフィノ』収録/2013年)をリクエストで挙げられたということは、Meguさんやスタッフの方々はフレネシさんの作品を熱心にチェックしていたということですよね。この曲の牧歌的なシャッフルのリズムは、それこそ洋菓子のCMソングをイメージさせますよ、某社の◎◎◎エクレアとか。
今回フレネシさんがモチーフの一つにされたマーゴ・ガーヤン(Margo Guryan)は、弊サイト前進のVANDAが監修した書籍の『ソフトロックA to Z』で発掘され取上げたことが切っ掛けで、渋谷系ミュージシャン達に広く知られるようになったと思います。元々ジャズを専攻していて若くしてアーメット・アーティガンやクリード・テイラーに認められた才女ですが、今でもソフトロックの範疇で信奉者が多く、ジャケット・デザインまでオマージュされています。
そしてマスタリング直後の本作『めしませルルボン』を先日聴きまして、イントロ無しで始まるサビのリフレインや独特なメロディーラインで直ぐに心を掴まれました。シャッフルになるヴァースは確かにガーヤンの「Thoughts」(『Take A Picture』収録/1968年)などに通じます。何よりMeguさんの声質にマッチしているので、理想的なオファーだったと考えます。
 
『Take A Picture』/ Margo Guryan
『ソフトロックA to Z』シリーズ

フレネシ:マーゴ・ガーヤンが広く知られるようになったきっかけが『ソフトロックA to Z』というのは、まさにその通りでしょうね。雨の滲む窓越しにこちらを向いたご本人のアンニュイな表情が印象的なカバーデザインの「テイク・ア・ピクチャー」が唯一のアルバムとして知られていますが、リファレンスが明確にあるというわけではなく、今作のAメロに「雨樋はメトロノーム」という歌詞があり、雨がモチーフのひとつとなっているあたりにオマージュ要素があったりします。


◎では本作『めしませルルボン』のピーアールをお願いします。

フレネシ:楽曲のテーマにまさにぴったりな、Meguさんの初ロリータ衣装に注目! 本当に良くお似合いで、これまで衣装としてお召しになったことがなかったのが不思議なくらい…フォトブックを眺めつつ、メルヘンでスウィートなお菓子たちの宴ソングに浸っていただけたら嬉しいです。


◎そう言えば、フレネシさんは昨年12月22日に新曲「おやすみルナモス」を配信リリースされたばかりでしたね。この曲のテーマや曲作りのアイディアも聞かせて下さい。
またレコーディングにはテルミン奏者の方が参加されたそうで、エピソードがあればお願いします。

フレネシ:この曲は、まだ20代だったころに、渋谷のミニシアターで「ラジュテ」のオールナイト上映を観た帰りだったかと思うのですが、夜明け前の路上で季節外れのオオミズアオが死にかけて震えているのを見かけて、それがずっと記憶の片隅に残っていて…。「呪い」がコンセプトのアイドルグループ、じゅじゅの元メンバー、ねうちゃんへの提供曲として、バレエをモチーフにしつつ、あのときのオオミズアオを主役にワルツの曲に仕上げました。

今回、セルフカバーするにあたって、コーラスのラインを新たに追加し、サビのストリングスのラインをテルミン奏者の街角マチコさんにテルミンで演奏していただきました。

◎多忙な中今回もありがとうございました。


フレネシ・プロフィール 
8歳で、ささやき声しか出なくなる。20歳で衝動的に音楽活動を開始し、大学卒業までの2年間に50曲余りを作曲。 
2009年6月、乙女音楽研究社からリリースした初のフルアルバム『キュプラ』が、HMV インディーズチャート1位、カレッジチャート1位を獲得し注目を集める。
その後、『メルヘン』『ゲンダイ』『ドルフィノ』の3枚のアルバムを発表したのち、2014年12月27日のワンマンライブ「フレネシ学園 伝説の終業式」をもって活動を無期限休止。
2020年にストリーミング配信が開始されたことで海外の音楽ファンを中心に新たな注目を集め、 累計再生回数は数千万回に達し 「渋谷系のビョーク」とも称される。
2025年10月31日に11年ぶりの新作『除霊しないで』を発表し活動再開を宣言、さらには12月22日に『おやすみルナモス』を発表し、大きな話題を呼んでいる。
★フレネシofficial site:https://frenesifrenesi.com/ 
◎関連記事「ネシ子が会う」Negicco・Megu (第二十回)
◎最新配信シングル「おやすみルナモス」









【Megu「めしませルルボン」発売記念イベント】

【出演】Megu、フレネシ

【日時】2026年1月16日(金)18:30スタート

【会場】タワーレコード錦糸町パルコ店 イベントスペース

【内容】トーク&特典会

フレネシ告知動画

詳細はNegicco・official site内NEWSを: https://negicco.net/live_information/detail/30324


(設問作成、本編テキスト:ウチタカヒデ)

2025年11月26日水曜日

長谷川カオナシ:『お面の向こうは伽藍堂』インタビュー★ゲスト~フレネシ

“クリープの末っ子・ファンタジスタが
独自の世界を開花させた
記念すべきファースト・ソロアルバム” 

 ロックバンド ”クリープハイプ”のベーシスト、長谷川カオナシが初のソロアルバム『お面の向こうは伽藍堂』(おめんのむこうはがらんどう/ユニバーサルミュージック・UMCK-1810)を11月26日にリリースした。

 小説家としても著名な尾崎世界観を中心としたロックバンドとして知られるクリープハイプ(以降クリープ/2001年結成)だが、メインコンポーザーの尾崎以外に、長谷川も自らソングライティングしてボーカルを取った楽曲をアルバム毎に1曲のペースで提供してきたので、クリープにおけるジョージ・ハリスン的立ち位置のメンバーと言えるだろう。
 1987年9月生まれの長谷川は、2009年からクリープにべーシストとして加入し、2012年に『死ぬまで一生愛されてると思ってたよ』でメジャーデビューした際のメンバーでもある。べース以外にヴァイオリンやヴィオラ、ピアノなど鍵盤楽器もプレイするなど、マルチ・ミュージシャンとしても才能を発揮している。

長谷川カオナシ

 ファースト・ソロアルバムとなった本作では、ジャンルやキャリアを超えたゲスト・アレンジャーを迎えていて、十代から”ヤング101”後期メンバーとして業界で活動していた、レジェンド・シンガー・ソングライター(以降SSW)の谷山浩子と、長年谷山の音楽プロデューサーとして知られている石井AQ(いしいエーキュー)を筆頭に、CM音楽家として多くの作品を手掛けてきたjoe daisque、『ニコニコ動画』の音楽で知られるsimoyuki(しもゆき)が参加している。
 そして先月の無果汁団『ナサリー』の対談レビュー等、弊サイトでもお馴染みの鬼才SSWのフレネシも1曲にアレンジで参加しており、彼女にとっても本格的な音楽活動再開のきっかけとなった。
 レコーディングに参加したゲスト・ミュージシャンも多彩で、ヒトリエのドラマーのゆーまお、KEYTALKのリーダーでギタリストの小野武正 、Official 髭男 dismのベーシスト兼サックス奏者の楢﨑誠、Nanakambaのドラマーの矢尾拓也など、長谷川が共に音楽シーンを作り上げてきたバンドマン達が参加している。またクリープからは尾崎世界観がコーラス、小川幸慈がギター、小泉拓がドラムでそれぞれ1曲に参加しているのでファンにとっても嬉しい。

 ここでは本作で筆者が気になった収録曲の解説と、アレンジャーとして参加したフレネシへの特別ミニ・インタビューを紹介する。
  収録された全12曲は全て長谷川のソングライティングで、外部アレンジャーが参加した4曲以外は、長谷川がイニシアティブを取ってセッションに参加したミュージシャン達とヘッドアレンジで詰めたと思われる。「刹那の夏」においては全楽器を長谷川が一人多重レコーディングで完成させていて、マルチ・ミュージシャン振りを発揮している。

 
『お面の向こうは伽藍堂』全曲トレーラー 

 冒頭の「ねんねんころり」はワルツを基調にして変拍子のパートを持ち、英国トラッド~プログレ・ミュージックの匂いがする。独特な歌詞の世界は長谷川の個性をよく現わしており、シンプルなアレンジと楽器編成で、長谷川自身はべースとアコースティック・ピアノをプレイし、ギターとドラムは元JUGONZのチバソウタと入交盾(イリマジリジュン)が各担当し巧みな演奏を聴かせてくれる。ボーカリストとしての長谷川は、歌い上げるタイプではなく、アルバム全体的に感情を抑制したフラットなピッチと声量で、1970年代の欧米SSW系で聴けるようなストーリーテラー・スタイルに近いものだ。
 一転してプログラミングされたトラックをバックした「恋する千羽鶴」は、simoyukiがアレンジした四つ打ちキックのチープなテクノ・サウンドに、憂さ晴らし的な歌詞ながら人生応援歌と解釈できるのが痛快である。ハイプなコーラスで長谷川の関係者8名が参加して盛り上げている。

 10月29日に先行配信された「ハエ記念日」は、先月前半にプレスキット音源を初見で聴いて、マイク・オールドフィールド風のイントロや久保田早紀の「異邦人」(1979年)に通じるバース・パートの中近東風和声とテンポ感覚に興味を惹いた。この曲は谷山浩子と石井AQが共同アレンジしており、プログラミングされたオブリガードの楽器音色は「異邦人」でも使用され、トルコ(ペルシャ)発祥とされる打弦楽器のハンマー・ダルシマー(映画『犬神家の一族』のテーマ曲「愛のバラード」で有名)やアコーディオンなど現在のポップスとは隔世したサウンド作りをしていて、『Istanbul mambo』(1977年)期のムーンライダーズやあがた森魚に通じる。長谷川はべースとヴィオラ、谷山はアコースティック・ピアノ、石井は全てのプログラミング、ドラムには元X-RAYのメンバーで、バンド解散後はセッション・ドラマーとして活動していた高橋ロジャー和久が参加している。
  一早く9月23日に先行配信されたリードトラックの「金木犀」は、本作中最もキャッチャーなサビのリフレインを持った、長谷川の代表曲となる曲だ。King Harvestの「Dancing in the Moonlight」(1970年)を彷彿とさせるローファイで空間狭い16節のイントロ部から劇的に転回していく楽曲とアレンジ、不毛の恋愛を綴った歌詞などポップスとして完成度が高く、筆者もファースト・インプレッションでベストトラックに挙げた。セッションに参加したミュージシャンは本作中最も多く、長谷川はこの曲でもべースとヴィオラをプレイし、アレンジとプログラミングはjoe daisque、ギターは前出のチバソウタ、キーボードはSSWの? Meytél(メーテル)、ドラムにはヒトリエのゆーまお、コーラスにはSSWの星野菜名子が参加している。キュートなコーラスが特徴的な星野は本作5曲目「あなたはきっと」ではコーラス以外にキーボードもプレイしている。

 フレネシがアレンジとプログラミングで参加した「僕の居ない明日に吠え面かきやがれ」はシアトリカルな世界観とポルカ風サウンドで、コーラスには尾崎世界観が参加している。本作中重要曲であるが、この後のテキスト・インタビューでフレネシ本人が詳しく解説しているので、そちらを読んで頂きたい。
  牧歌的ながら哀愁を感じさせる歌詞を持つ「ウサギとオオカミ」は、クラリネットとワウをかましたギターのイントロからその不思議な世界に引き込まれる。メジャー・キーからサビでマイナーに転調してシリアスになる感じなど日本人好みだ。長谷川はべース、ギターはクリープの小川幸慈、サックスとクラリネットは馬場レイジ、アコースティック・ピアノはモリモトマイ、ドラムは八月の微睡みのミナカワがプレイしている。
  本作ラストの「馬の骨に候」は、ノイジーな倍音が鳴り響くギターリフから始まり、まるでセルフポートレートのようなアイロニー溢れる歌詞が印象的だ。間奏のピアノ・ソロには「金木犀」など収録曲のフレーズを忍ばせこませるなど、本作の大団円として相応しい。長谷川はべースとピアノ、ドラムはクリープの小泉拓、ギターはTHE RODEOSの坂本陽平が参加している。

 最後に本作の総評として、弦楽器やピアノを習得しているなどクラシック音楽の素養を持っていそうなファンタジスタが、尾崎世界観という天才肌の文学系ミュージシャン率いるロックバンドに最年少で加入して16年、独自の世界を開花させた記念すべきファースト・ソロアルバムに仕上がっている。


特別インタビュー★ゲスト~フレネシ

●今回フレネシさんにアレンジのオファーがあった経緯と、「僕の居ない明日に吠え面かきやがれ」の曲を聴いたファースト・インプレッションを聴かせて下さい。

◎フレネシ:青天の霹靂でした。カオナシさんとはこれまで交流がなかったもので、どうして私にオファーをくださったのか分からず、本当に驚きました。
そして、素材をいただいた際は「随分とトゲトゲとした言葉の乗った曲だなあ…これを私が…?上手にアレンジ、できるかなあ?」と正直なところ、不安もありました。
そもそも、私は11年も休眠していたわけで。もはやミュージシャンと自称するのはおこがましいような状況でありまして。その上、アレンジ単体のお仕事はこれが初めて。さらに困ったことに、いただいた素材はポップなロック調にすでにアレンジされていて、その時点ですでに私の引き出しにはないテイストだったのです。

ご本人からは、私のアレンジで歌ってみたいという長年の夢があったと伺いました。私の楽曲の「スプロウル」(『キュプラ』収録 2009年)がお好きだそうで、「GO ROPEWAY」(『ドルフィノ』収録 2013年)くらいのトラック数でどうだろうか…とご提案いただきました。
これらは、本件のオリジナルとは曲調が近くなかったので、トラック数は参考とするにしても、直接のリファレンスとするよりは、一旦真っ新な状態から自分なりに再構築するのがいいだろうと思いました。
行間に潜むトゲトゲの裏の真意を探り、自分の引き出しとカオナシさんの世界観にフィットしそうな共通項のテーマを掲げ、リファレンスを集めてみることにしました。


 ●「僕の居ない明日に吠え面かきやがれ」のアレンジにおけるアイデアを可能な範囲で教えて下さい。

◎フレネシ:タイトルを拝見しての第一印象は、ボリス・ヴィアン『お前らの墓につばを吐いてやる』のようなタイトルだなあと。
どこかつかみどころのないカオナシさんのキャラクターは、シャンソン歌手であり、トランぺッターであり、俳優であり、作家であり…と、さまざまな顔を持つ(おまけにアメリカ人と偽って執筆)ヴィアンのようでもあるなあと思いました。



まず最初にテーマを考えました。詞を読み込むと、舞台はインターネットで、生贄を欲しては誰かの失態を餌に正義を振りかざす善意のオーディエンスたちが背後に見えました。
続いて、なぜか韓国人作家・シュークリーム氏の『全ての人が美しい世界』という漫画に出てくる、ピエロとバレリーナの格好をしている2人の主人公の絵が浮かんで…あと、これは単なる勘違いなんですが、カオナシさんの「火まつり」(クリープハイプ『死ぬまで一生愛されてると思ってたよ』収録 2012年)という曲の「地平線を『探す』」を「サーカス」と聴き間違えて、それらをきっかけに「サーカス」をテーマとすることにしました。



で、次にサーカスの世界にフィットする楽曲をリストアップしました。まずは何と言ってもユリウス・フチークの「剣士の入場」。サーカスと聞いて誰もが思い浮かべる曲ではないだろうかと思います。

Einzug der Gladiatoren


そして、レトロフレンチな見世物小屋テイストがまさに私っぽいと思い、ジャディス・オルセンのチューバ・ベースを要素として組み込みました。大学時代に初めて作った音源がこの人のサウンドと雰囲気が似ていると言われ、後追いで好きになった90s仏アーティストです。

 Petit amant frimeur / Jadice Holsen


カオナシさんはベーシストでありながらヴァイオリンやヴィオラも弾く方で、そんな立ち位置がネオロカバンドのファビュラス・プードルズのボビー・ヴァレンティノっぽいと思い…ブルーグラス的な裏打ちとフィドルのプレイは「The Man Who Invented Jazz」からの引用です。

The Man Who Invented Jazz / Bobby Valentino


それから、マーチ要素はミッチ・ミラー楽団の「テキサスの黄色い薔薇」を参考にしました。

テキサスの黄色い薔薇 / ミッチ・ミラー楽団


ブリッジの落としどころでの私の笑い声は、ロスト・グリンゴスの「バーゲルド・アモーレ」にヒントを得ました。

Bargeld Amore(1983)/ Lost Gringos 

ラストサビとキラキラしたピアノのエンディングのストーリーは市川春子『宝石の国』(※漫画です)を参考にしました。自分対自分以外の激戦、そして浄化後の穏やかな時間、そんな情景を音で表現してみました…とはいえ、漫画をリファレンスに上げるってちょっと何言ってるか分からないかもしれないですね。



そして、ラストのもじょもじょ何か言ってる風の部分は、les escrocs「Qu'est-ce qu'on ferait pas」のイントロをリファレンスとして提案しました。20代の前半にどハマりした仏バンド・トリオで。余談ですが、当時はこの曲が好きすぎて、着メロにイントロ部分を8トラックで打ち込むなどしていました。

Qu'est-ce qu'on ferait pas / les escrocs



●最後に本作『お面の向こうは伽藍堂』の総評をお願いします。

◎フレネシ:あどけなさと禍々しさという相反する成分が混在する、一聴するとポップだけど奥行きのある童謡集。
清涼感のあるボーカルは、顕微鏡で観察するとおそらく針状結晶なんだろうと思います。
つまり、かわいく見えて、実は殺傷能力が高いってことですね。そうした二面性に、何か自分の音楽性との共通点を感じずにはいられませんでした。


フレネシ・プロフィール
-唯一無二のウィスパーボイスに、かわいさと潔さが同居する-
海外の音楽ファンから「渋谷系のビョーク」とも称される、フレネシ。2009年6月に乙女音楽研究社からリリースされた『キュプラ』は、HMV渋谷店のインディーチャートで1位を獲得し「ネオ渋谷系」の代表作として各所で話題を呼んだ名盤。この秋、満を持してLP盤(国内流通分は完売)が発売となる。
 2015年より活動休止中であるものの、2020年にストリーミング配信が開始されたことで再び注目を集め、海外のSNSでも人気が拡大。クリープハイプのベーシスト、長谷川カオナシのソロアルバムにアレンジャーとして参加し、今秋ついに活動再開の機運が高まりつつある。
★フレネシofficial site:https://frenesifrenesi.com/
◎ 「ネシ子が会う」長谷川カオナシ (第十九回):https://frenesifrenesi.com/column/381/
◎最新配信シングル「除霊しないで」










(設問作成、本編テキスト:ウチタカヒデ)