2025年5月3日土曜日

SUGAR BABE:『SONGS 50th Anniversary Edition』


 山下達郎がミュージシャン・キャリアのデビュー50周年を記念して、彼が所属した伝説のバンド、SUGAR BABE(シュガー・ベイブ)の唯一のアルバム『SONGS』が50th Anniversary Edition(ワーナーミュージック・ジャパン/WPCL-13642/3)として、4月23日に2枚組CD、アナログ盤LP、カセットテープの3フォーマットでリリースされた。
 音楽ファンであれば知らぬ者無しの一級の名盤なので僭越ではあるが、弊サイトでも取り上げたい。今回は特別にこの『SONGS』を愛聴しているミュージシャンの沖井礼二氏大塚真太朗氏からのコメントも掲載する。

オリジナルメンバー
左より 村松邦男, 大貫妙子, 鰐川己久男, 山下達郎, 野口明彦
出典:https://www.discogs.com/ 

 説明不要かも知れないが、本作はソフトロックを含む60~70年代の良質なアメリカン・ロック、ポップスからブルーアイドソウル、ニューソウルなど幅広い音楽知識に裏打ちされた巧みなソングライティングを誇る楽曲を収録し、後の若いミュージシャン達に多大な影響を与えてきた。筆者が弊サイトで過去に取り上げた、伝説のバンドso nice(ソー・ナイス)を筆頭にLampウワノソラのアルバム(特にファースト)から、昨今の生活の設計に至るまで本作の影響下にあると言えるだろう。
 そんなシュガー・ベイブの『SONGS』は、元はっぴいえんどの大瀧詠一が設立したナイアガラ・レーベルの第一弾アルバムとして、1975年4月25日にリリースされた。バンドの結成は1973年4月に山下(ボーカル、サイド・ギター、キーボード他)を中心として、大貫妙子(ボーカル、キーボード)、村松邦男(ボーカル、リード・ギター)、鰐川己久男(ベース)、野口明彦(ドラム)の5名で結成され、リズム隊以外はコーラスも担当し、山下、大貫、村松はコーラス・ミュージシャンとして外部のレコーディング・セッションにも参加していく。75年4月には大瀧の周辺バンドのココナツ・バンクのメンバーだった上原裕(ユカリの愛称で知られる)がセッション・ドラマーから正式メンバーとなり、同バンドのリーダーでギタリストの伊藤銀次も一時的に加わる。更にこの2人とはハイ・ファイ・セットのバックバンドで一緒だった寺尾次郎が上原の誘いで、脱退したベーシスト鰐川の後釜として参加した。伊藤は短期間の正規メンバーではあったが、その後もバンドのブレーンとして山下と共作をしている。
 シュガー・ベイブは主に山下と大貫がソングライティングを手掛け、自らボーカルを取るスタイルにより、各々がソロのシンガー・ソングライターとして活動する基盤にもなっていて、異なる個性が絶妙に共存するという稀有なバンドだった。ギタリストの村松も1曲だけだがオリジナル曲を提供し、自らボーカルを取っている。とにかくこのバンドに参加したメンバー達のその後の活躍を知れば、その存在価値は極めて大きく、今日に至る日本の音楽業界への貢献度も計り知れるだろう。

シュガー・ベイブ『SONGS 50th Anniversary Edition』[Teaser]

 今回4度目のオリジナル・マスター・テープからのデジタル・リマスタリングでのリイシューということで、初回の1994年盤(AMCM-4188)からの音質向上はもとより、ボーナストラックの内容は重要なポイントである。前回2015年の40th Anniversary Ultimate Edition(WPCL-12160/1)からは2枚組となり、オリジナル収録曲の同年リミックスの他、新たに発掘された当時のライブ音源も収録されたので、次回も期待されていたのは言うまでもない。そして今回のボーナス・ディスクには、1994年の初のオリジナル・マスターからのリイシューを記念し、大貫妙子をゲストに迎えて同年4、5月に4日間のみ行われた「TATSURO YAMASHITA Sings SUGAR BABE Live」から14曲の音源を収録している。この伝説的公演の一部は、山下がパーソナリティーを務めるFM番組”サンデー・ソングブック”(毎週日曜日 14:00~14:55 / JFN,TOKYO-FM系 全国38局ネット)でオンエアされてきたが、このようにまとまって収録されたのは初であり、ライブアルバム『JOY』(50XM-95~96/1989年)の続編を待ち望んで、その収録を期待していた多くのファンも驚喜しただろう。
 このようにボーナストラックの収録曲にも変遷があるので、筆者が作成した比較表を参考に過去のリイシュー盤も入手することをお勧めする。
※1 収録時間はブックレット記載のもので未記載の曲はリッピング・データの時間を記載。
※2 「DOWN TOWN」のカラオケは2005年SRCL 5003盤と2015年WPCL-12160/1盤では、マルチトラック音源の一部(クラヴィネット)が異なるため別とした。

左上AMCM-4188、左下SRCL 5003
右上WPCL-12160/1、右下WPCL-13642/3
(以上筆者所有) 


 ここからはオリジナルアルバムに収録された全曲を解説していく。
「SHOW」
 いきなり分数和音の新鮮な響きとギターリフのイントロから始まり、他のロックバンドとの違いを聴かせてくれる。山下のソングライティングは既に一級品でアレンジも凝っていて、間奏ではスウィングル・シンガーズ・スタイルにドゥーワップを加味した8小節のスキャット&コーラス・パートから、村松による早いパッセージの16小節のギターソロが続くという構成で見事でしかない。健気にアコースティックピアノを八分刻みする大貫の初々しいプレイも聴けて、新鋭バンドのファースト・アルバムの冒頭曲として燦然と輝いている。セッション・パーカッショニストとしてボンゴでこの曲に参加し、ポリリズム・サウンドに貢献した木村真(キムチの愛称で知られる)を含めたレコーディング時(1974年)のメンバーの平均年齢が約21歳という事実を考えれば、このクオリティは驚きである。

「DOWN TOWN」 
 本作『Songs』と同じ1975年4月25日に同時リリースされたシングルで、半世紀後の現在もシュガー・ベイブの代表曲として認知されている。これはリリースから5年後の80年3月にシンガー・ソングライターのEPOがデビュー・シングルとしてカバーし、翌81年5月に人気バラエティ番組『オレたちひょうきん族』の放送初期からエンディング・テーマ曲として5クールの長きに渡り使用され、ヒットしたことが切っ掛けだ。その効果もあり、シュガー・ベイブのオリジナルもリバイバルされて広く知られるようになったからだろう。
 肝心のソングライティングについてだが、元々は4人組ボーカル・グループのキングトーンズへの提供を想定して、山下と伊藤銀次がそれぞれモチーフを持ち寄って進められたという。最終的に伊藤の作詞、山下の作曲というクレジットになっているが、サビのリフレインは伊藤が作曲もしていることがマニアには知られていて、後年類似性を指摘されたアイズレー・ブラザーズの「If You Were There」(『3 + 3』収録/73年)ではなく、ザ・フォー・トップスの「I Just Can't Get You Out Of My Mind」(73年)を意識していたという伊藤の発言は、提供先のキングトーンズのスタイルを考えればかなり信憑性が高い。いずれの曲にも通じるが、70年代初期ニューソウルの影響下にあるクラヴィネットのリフ・パターンがグルーヴの要になっているので、無意識にオマージュがあったとしか言いようがない。この曲ではそんなクラヴィのパターンにアル・ジャクソン風のドラミングと2台のリズム・ギターが有機的に絡み、左チャンネルには元ドラマーである山下のプレイによるハイハットがダビングされて、唯一無二のグルーヴを形成している。レコーディングされた当時の日本の音楽事情を考えるとドラムキットを解体してハイハットのみダビングするというのは斬新でテクノ的でもあるが、英国のビートルズは「You Won't See Me」(『Rubber Soul』収録/1965年)で早くもこの手法をおこなっていた。
 ともあれ「DOWN TOWN」がエバーグリーンな名曲であり続ける理由は、メジャー・セブンとマイナー・セブンを多用したコード進行や巧みなアレンジに加え、その溌溂として友愛に満ちた青春像を描いた普遍的な詞の世界に寄るところが大きいのではないだろうか。
 
DOWN TOWN』7インチ・アナログのリイシュー盤も
完全生産限定盤で『SONGS』と同時リリース

 
SUGAR BABE「DOWN TOWN」オフィシャル・トレーラー 


「蜃気楼の街」
 大貫のソングライティングで、ブルーアイドソウル色が濃かった山下の2曲とは異なり、彼女が敬愛するジョニ・ミッチェルに通じる作風である。一人称の脱出願望を綴った詞、裏拍から入るヴァースの歌いだしやメジャー・セブン~セブンス~ディミニッシュと進行するサビのコード感覚など独特で、“バンド内シンガー・ソングライター”然としている。山下によるコーラス・アレンジや村松のギターソロも、大貫のボーカルを活かすサウンドにシフトしている。後に大貫は4thソロアルバム『Romantique』(1980年)で、加藤和彦と清水信之によるボサノヴァ・アレンジでセルフカバーしているので、自身も気に入っている曲なのだろう。
 なおこの曲から「雨は手のひらにいっぱい」までの7曲のドラマーは、正式メンバーになる前の上原裕がクレジットされていて、参加したと思しきリズム録りの期間(1974年10月30日~11月21日)はセッション・ドラマーという位置づけだ。

「風の世界」
 同じ大貫のソングライティングで前曲とは作風が異なり、ソウル・ミュージック色が濃く、歌唱スタイルも明らかに変えている。40th Anniversary盤ボーナストラックに収録されたライブ・ヴァージョンではオリジナルよりBPMを落とし、大貫はエレクトリック・ピアノ、山下はハモンド・オルガンを弾いていて、よりこの曲の意図する方向性を理解して聴ける。コーラスに掛けられたリバーブもゴスペル・ミュージックを意識しており、タメの効いた上原のドラミングと共に効果的である。 

「ためいきばかり」
 ギタリストの村松が唯一提供した曲で、特徴的なスライド・ギターを含め3トラックにそのプレイをレコーディングしている。イントロ及び同じコード進行である間奏前半はそのスライドとハイハットだけ始まり、コードを奏でるハモンド・オルガンとピアノのトリルで対比させ、ヴァースのリズムは変則的なバイヨンという山下のアレンジも凝っていて、ペシミズム漂う男のトーチソングを演出している。

「いつも通り」
 大貫単独作の3曲目は前出の2曲より更にコード進行が凝っており、サビのリフレインは、スティーヴィー・ワンダーの当時の妻でソウル・シンガーのシリータ・ライトの「Baby Don't You Let Me Lose This」(『Syreeta』収録/1972年)に影響を受けている。マイナー・セブンとメジャー・セブンの繰り返しでメリハリをつけて耳に残るように工夫されていて、山下によるストリングス・アレンジやグロッケンのさり気ないオブリガード、また60年代初期からスタジオ・セッションのサックス奏者として活動していた稲垣次郎によるテナーソロなど聴きどころは多い。

2期メンバー
左より 山下達郎, 大貫妙子, 上原裕, 村松邦男, 寺尾次郎

「すてきなメロディー」
 アルバム中最もポップス、ソフトロックとして弊サイト読者にアピールするのが本曲だろう。ヴァースを大貫、サビを山下が作曲し、作詞は2人に伊藤が加わった3人の共作で、山下と大貫のデュエットで歌唱される。イントロ無しで始まりセブンス~マイナー・セブン~分数コード~メジャー・セブン~分数コード・・・と複雑なコード進行のヴァースから、キャッチーなリフレインのサビで解決させるのはさすがである。
 僅か2分40秒の間に、間奏の大貫のピアノソロと村松のギターソロはヴァースのコード進行、山下、大貫、村松に大瀧が加わったブレイク的アカペラ・パートを挟んで3回目のサビの後、リズム隊のみの4小節とスキャット&コーラス・パートの16小節はサビのコード進行で構成されているが、50年前の邦楽ポップスとは思えないモダンなアレンジに脱帽するばかりだ。キャロル・キングがThe City時代に書いた「Now That Everything's Been Said」(同名アルバム収録/1969年)、ローラ・二ーロの「Save The Country」(『New York Tendaberry』収録/1969年)に通じて好きにならずにいられない。 

「今日はなんだか」
 山下のソングライティングに歌詞の一部を伊藤が手伝っており、シュガー・ベイブや山下達郎ファンを公言するミュージシャン達にも人気が高い曲で、オリジナル・ラヴ田島貴男が自身のFM番組で幾度かオンエアし、aikoに至ってはテレビ番組の企画でカバーしている。本作収録の山下作品の中で最も後のソロ作のスタイルに近い16ビートのブルーアイドソウル系の曲調で、自身含め他メンバーのコーラス・トラックが無く、ダブル・ボーカルにしているのがソロ作に繋がる理由かも知れない。またコーダで稲垣のテナーとインタープレイで掛け合うトランペット奏者がクレジットで不明になっているが、名手の数原晋ではないかと想像してしまう。

「雨は手のひらにいっぱい」
 山下のソングライティングで自身もベストトラックに挙げる屈指の名曲だ。原曲はサザン・ポップ風のアレンジだったが、プロデューサーの大瀧のアイデアでフィル・スペクター風にリアレンジされており、山下によるジーン・ペイジを意識した美しいストリングスと、カスタネットは複数回自らダビングしている。アコースティックピアノによるメインのコードは山下が弾いているので、大貫はフェンダーローズにシフトして曲にとって重要なリフやオブリガードをプレイして貢献し、村松のエレキギターも原曲のサザン・ポップ(ロック)の名残りらしきトーンで良いアクセントになっている。
 またエンジニアリング的には40th Anniversary盤ボーナストラックのカラオケ・ヴァージョンでより細部が確認出来るが、フィレスのウォール・オブ・サウンドで聴ける様な深いリバーブ感は無く、1994年のオリジナル・マスター初回リイシュー盤発表後のサンデー・ソングブックの新春放談で、山下が大瀧に指摘していたのが懐かしい。

「過ぎ去りし日々"60's Dream"」
 山下の作曲、伊藤の作詞によるノスタルジックなバラードで前曲からの流れも良い。曲調やコード進行はThe Cyrkleの「The Visit (She Was Here)」(『Neon』収録/1967年)から影響を受けていると思しきマイナー・セブン主体で、伊藤によるアメリカン・ロック、ポップスの邦題タイトルをちりばめた詞の世界とマッチしており、2人の共作曲としては最高傑作ではないだろうか。ドラムレス編成のため上原はクラベス、山下はボンゴとバラードでは珍しいヴィブラスラップをプレイしている。

「SUGAR」
 オリジナル盤レーベルや裏ジャケットに“おまけ”、”furoku”、”付録”とクレジットされラストに収録されたライブ用のパーティー・ナンバーだ。短い歌詞はあるがヴァースの切っ掛けだけで、The Champsの「Tequila」(1958年)よろしく、タイトルの”SUGAR”を合いの手にして徐々にノベルティ感覚が強くなっていく。
 アレンジ的には野口のドラミングと鰐川のベースはラテン・フィールで演奏され、山下と村松のエレキギターはサーフィン&ホットロッドのテイストもあり、掴みどころのないユニークなサウンドになっている。またメンバーによるブレイクのコーラスは、ナンシー・シナトラの「Sugar Town」(1966年)のサビをテンポアップして引用していて、完全に大瀧と山下の趣味と思われる。その大瀧はスパイス的な掛声を入れ、レーベルメイトとなる元ブルース・クリエイションの布谷文夫は破天荒な奇声で盛り上げている。
 このフリーキーな感覚は、大瀧がはっぴいえんど時代「はいからはくち」(『風街ろまん』収録/1971年)でその片鱗を見せていたが、その後ナイアガラ・レーベルからリリースされる大瀧のソロ作『Niagara Moon』(1975年5月)、『Niagara CM Special Vol. 1』(1977年3月)、『Niagara Calendar '78』(1977年12月)の一部の曲、『多羅尾伴内楽団 Vol.1,2』(1977,1978年)、『Let's Ondo Again』(1978年)で引き継がれていく。


【ミュージシャンズミュージシャン・推薦コメント】

 このコメントのオファーを受けた時、最初はお断りしようと思いました。僕ごときが軽々しく語っていい作品ではない、そう感じたからです。
 しかし、94年の再発盤で初めてこの作品を耳にした当時20代半ばだった僕の「20年も前に作られた作品が、こんなにも新鮮な説得力を持っている!そしてそれは失せることはないだろう)」という驚愕、そして「この鮮やかさは決して褪せることはないだろう」という確信については是非とも公で自分語りをしたい気もしたので、今こうしてMacのキーを叩いている次第です。
 当時アマチュアのバンドマンだった僕に「このように繊細な曲たちを、かくも衝動に溢れた演奏・音で染め上げた」この作品は、僕の中でポップスの理想形として刷り込まれ、恐らく僕が死ぬまでそれらが拭い去られることは無いでしょう。
 あの驚愕から既に30年。今に至るまで唯一無二の鮮やかさを放つこの作品に、やはり僕はいまだに驚き続けています。

◎沖井礼二 プロフィール:作詞・作曲・編曲家。ベーシスト。音楽プロデューサー。
1997年、土岐麻子、矢野博康を誘い”Cymbals”を結成。同グループを率い8枚のシングル、5枚のフルアルバム、3枚のミニアルバムのプロデュース、作詞・作曲・編曲、アート・ディレクションを担当。
2003年9月のCymbals解散以降は作・編曲家として多くのCM、ゲーム、アニメーション、テレビ番組等の音楽制作に携わる。イザベル・アンテナ、RYUTist、さくら学院、星野みちる、竹達彩奈、花澤香菜、尾崎由香、シティボーイズ公演、NHK「大!天才てれびくん」、アニメ「IDOLY PRYDE」、バンドじゃないもん!、「クルマ買う系チャンネル『ワン速Tube』」(以上楽曲提供)、清 竜人25(編曲)、いきものがかり、ムッシュかまやつ、伊藤美来(以上ベース演奏)など多岐にわたる分野で活躍中。
2015年1月、清浦夏実(Vo.)を起用したバンド”TWEEDEES” を発表。作詞・作曲・編曲、アート・ディレクションを担当。現在までに4枚のフルアルバム、2枚のミニアルバムをリリース。2025年現在は沖井一人のプロジェクトとなった第二期TWEEDEESの次回作を制作中。
また、直近では朗読劇「新選組の恋~春の在処~」の音楽を担当。サウンドトラックe.p.が5/6に、サウンドトラックアルバムが5/6に配信リリースされる。


 優れた芸術作品とはそれに触れた人を何か始めたくなるような気持ちに駆り立てる、そんなものだと考える。「自分にもできるかも」という想いを抱かせるシンプルな作りと真似したからといってその通りにはならない複雑さ。

 50周年記念盤として届けられたこのレコードはファースト・エディションから今まで何人の若者を駆り立てたのだろう。間違いなく僕もその一人だ。

 躍動するアンサンブル、楽しげなコーラス、カラフルなメロディ。そのどれもがメジャー・セブンを多用するコードワークで組み立てられたロックンロールを彩る。
 作品の空気を満たすのは、今ではミュージシャンとしてのキャリアを駆け上ったメンバーたちのアマチュアリズムとプロフェッショナルの間にあった眩しさだ。
そしてそれは当時のロックシーンへの柔らかくも鋭いアンチテーゼだった。

 そっけなくもありながら自信に溢れたタイトルを冠したこのアルバムは、時の試練を跳ねのけて未来へ向かって今も鳴り続けている。

◎大塚真太朗 プロフィール
東京で活動するバンド「生活の設計」のボーカル/ギターを担当。
ソウル、ソフトロック、パワーポップなどに影響を受け制作された”日本語ポップス”を演奏している。
「レコードの日」にリリースされた7インチ『キャロライン / むかしの魔法』は小西康陽氏も「今年を振り返るときに思い出すシングル」と称賛。
2025年現在は2枚目となるフルアルバムを制作中。



WebVANDA管理人が考察する
山下達郎イズム・サブスクプレイリスト


 最後に繰り返しになるが、本作『Songs』は高度な音楽性を持ちながら、決して排他的ではない稀有なアルバムであり、一級の名盤あることは間違いないので、弊サイトの記事を読んで興味を持った読者は入手して聴くことを強くお勧める。

(企画&テキスト:ウチタカヒデ

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