2025年4月23日水曜日

伝承民謡 スカボロー・フェア

  最近、少し興味があった英国伝承童謡のマザーグースについて調べていたら、サイモン&ガーファンクルのヒット曲「スカボロー・フェア」の情報に辿り着いた。有名曲なので存在は知っていたけれど、マザーグースにも含まれるのは今になって知った。

Scarborough Fair / Simon & Garfunkel

 サイモン&ガーファンクルの直接的なカバー元になっているのは、60年代英国のフォークリバイバル運動の中心人物だったマーティン・カーシーの弾き語りだそう。ポール・サイモンとアート・ガーファンクルは、まだ学生だった1957年にトム&ジェリーとして、母国アメリカでデビューしたものの思ったようには売れず、その後ポール・サイモンはイギリスに渡った。その際に、フォーククラブなどでトラッドを弾き語っていたマーティン・カーシーの「スカボロー・フェア」を聴いたそうだ。当時この弾き語りに影響を受けたのはポール・サイモンだけではなく、ボブ・ディランも同曲からインスピレーションを得て「北国の少女」を制作している。もとは古くからの伝承民謡のため多くのバリエーションが存在する曲で、マーティン・カーシーはイワン・マッコール&ペギー・シーガーによる歌集のバージョンを元にしていると言われている。

Scarborough Fair / Ewan MacColl

 "スカボロー・フェア"というのは13〜18世紀頃、約500年もの間、イギリス北東部ヨークシャー州の海辺の街、スカボローで毎年夏に開催されていたマーケットのことだそう。サイモン&ガーファンクルの「スカボロー・フェア」の歌詞は、ある者がスカボローに住むかつての恋人への伝言を、その地へ向かう者に依頼する内容になっている。伝言には、

縫い目を残さず針も使わずにキャンブリックのシャツを作ってほしい

海と波打ち際の間に1エーカーの土地を見つけてほしい

といった、不可能な課題が提示される。そして、その伝言に対しての言葉なのか、繰り返し歌われる

パセリ・セージ・ローズマリー・アンド・タイム

という言葉。謎かけ歌として解釈が様々存在するけれど、ここで出てくるハーブは古くは魔法的な意味を持ち、災いから身を守るためのお守りとしても考えられていたことが、植物学者や民俗学者にはよく知られていることらしい。問いかけに応じると魂を奪われてしまうため、まじないとしてハーブの名前を唱えているというのがひとつの解釈だ。

 また、サイモン&ガーファンクルのバージョンでは、前述の恋人への伝言に、さらに1965年にリリースされたポール・サイモンのソロアルバム『ポール・サイモン・ソングブック』収録の反戦歌「ザ・サイド・オブ・ア・ヒル」の歌詞の内容が組み合わされているので、ここでの伝言は戦死した騎士の生前の恋人へのものかもしれないし、スカボローの恋人の方がこの世に存在していない、と解釈されることもある。

 「スカボロー・フェア」の歴史を辿れるところまで辿ると、19世紀後半にアメリカの文献学者フランシス・ジェイムズ・チャイルドが、イングランドやスコットランドの民間伝承バラッドを収集してまとめた、『チャイルド・バラッド』の整理番号Child #2にあたる「エルフィンナイト」に行き着くとされる。ここでは、妖精の騎士へ結婚を望む乙女に対して騎士が不可能な課題を提示し、乙女も同様に困難な課題を考案する。

 1993年にリリースされたフォーク・ドキュメンタリー番組のサウンドトラック『アコースティック・ルーツ』にはマーティン・カーシーとペンタングルのメンバーとしても知られるフォーク・ミュージシャンのバート・ヤンシュが共演したバージョンが収録されていて、ここでのタイトルは「エルフィンナイト」とされている。

The Elfin Knight / Martin Carthy · Bert Jansch

 「エルフィンナイト」から続く「スカボロー・フェア」の根幹は "不可能な課題" だと思うけれど、これがバージョンによって様々な効果を生んでいて面白い。有名な男女デュエットのものでは、お互いが不可能な課題を与え合い、達成できればあなたは恋人だと歌う。16〜17世紀から存在するとされている民謡が伝承の過程で変化しつつも、消滅することなく歌い継がれてきたと思うと、途方もなく壮大でわくわくしてくる。


参考・参照サイト



執筆者・西岡利恵

60年代中期ウエストコーストロックバンドThe Pen Friend Clubにてベースを担当。



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試聴トレーラー:

■ライブ
5/18(日) ​横田基地『日米友好祭2025』

詳細・ご予約

■クラウドファンディング
2枚組NEWアルバム『Songularity - ソンギュラリティ』
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プロジェクトページ








































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