2020年12月29日火曜日

WebVANDA管理人が選ぶ2020年邦楽ベストソング


 恒例となったWebVANDA管理人(筆者)が選ぶ、邦楽の年間ベストソングを今年も発表したい。
 選出楽曲はプレス向け音源としてリリース前に入手した中からレビューで取り上げたアルバム中、最もリピートした収録曲であり、筆者目線ではアルバムを象徴する存在となっている。
 
 今年は未曾有のコロナ禍により、音楽業界に携わる人々はライヴやイベントでの収入源を失い、大変苦しい中での活動やリリースとなった。本サイトで紹介するアルバムは主にインディーズ・ミュージシャンが多いので、特にその影響を受けたのではないだろうか。
 そんなミュージシャン達の作品を多く紹介することで、微力ながら彼等を応援したいと思う。またこの記事で改めて知った各作品を入手して聴くことで、彼等の活動を後押して欲しい。 
選出趣旨からコンピレーション・アルバムと配信のみの単体楽曲は除外とした。昨年同様、順位不同のリリース順で紹介する。

※サブスクに登録されたベストソング・プレイリスト
(未登録曲の内、別Verで登録されているものも含む)


☆Flyaway on Friday / WACK WACK RHYTHM BAND
『THE 'NOW' SOUNDS』収録)  
東京ナンバーワン・ヴァーサタイル・バンドの15年振りのオリジナル・アルバムから。ニューソウル系コード進行とヴォイシングが効いた歌物レアグルーヴで、女性メンバー2人のダブル・ヴォーカルとの相性がとてもいい。


☆On Green Dolphin Street / Saigenji
唯一無二な存在のライヴ・パフォーマーとジャズ系ミュージシャン達の鉄壁な演奏を収めた2枚組ライヴ・アルバムのハイライト。ジャズスタンダードの壮絶なカバーは、マイルスの『Complete Live At Plugged Nickel 1965』クラスに興奮してしまう。


☆ALIVE / RYUTist(『ファルセット』収録) 
アルバム毎に光速で進化し続ける一流ガール・ヴォーカル・グループの最新作のキーデバイスとなった1曲。現代音楽やジャズ・マナーの演奏から構築されるサウンド・ストラクチャーに彼女達の歌声が溶け込み、得も言われぬ世界観を生んでいる。 


☆さよなら麦わら帽子(Live Version) / ウワノソラ
『くらげ』収録)
 自主製作マキシシングル収録にしておくには勿体ないクオリティのライヴ音源。彼等のファースト・アルバムの中でも筆者がファイバリットにしていた、リズムチェンジが激しいラテン・ジャズ風ポップスで、巧みな演奏力はスタジオ盤を超えている。


☆さよならはハート仕掛け, セピア色の九月 / Kaede
Lamp染谷とウワノソラ角谷の共同プロデュースによる、Negiccoメンバーのセカンド・ミニアルバムは、両バンドファンにとっても完成度が高く、1曲に絞って選べない。それはクリッパーのアールグレイとヴェローゾのカイピリーニャのいずれかを選べという愚問にも近い。


☆TAXI / 一色萌 FEAT. Deaf School(7”『Hammer & Bikkle』収録) 
英国ロック・マニア感涙のコラボ&カバーを実現させた7インチから。伝説のパブロック/パワーポップ・バンドに43年の歳月を経てリレコーディングさせてしまった、プログレ~パブロック・アイドルとレーベル代表の情熱に敬服するばかりだ。


☆悲しいくらいダイヤモンド / 流線形/一十三十一
『Talio』収録) 
ネオ・シティポップのアイコン達が集結して製作したドラマ・サウンドトラック・アルバムを期待しない方がおかしい。一十三の艶のあるコケティッシュな歌声とアーバン・メロウなサウンドで、悪夢にうなされたこの年を80年代の煌めきに揺り戻してくれた。


☆Count On Me / Diogenes Club (『Count On Me』収録)  
男性2人組のネオ・アコースティック・ユニットによるファースト・7インチのタイトル曲。ギターポップとソフトロックを融合させたソングライティングとアレンジを誇るクリエイターと、ギタポ・バンドマンにしては美声で巧すぎるヴォーカリストとの邂逅による名曲。


☆公園日和 / 伊藤尚毅 (『伊藤尚毅の世界』収録)  
若きシンガー・ソングライター初の全国流通アルバムの核となる曲。風をあつめた遙か昔の時代から時を止めたような、桃源郷ブルーアイドソウルは彼以外には生み出せないだろう。個性派ブライテストホープとして次作も期待している。


☆Shame On You / Ellie (『NEO BITCHIZM』収録)  
渋谷系のミューズという冠はもはや無用な超一流ヴォーカリストの最新作で最高傑作に、年の瀬を前に出会えたことを心から感謝している。特にこの曲でのエモーショナルで圧倒的な彼女のヴォーカルには平伏すばかり。ミニー・リパートン、リンダ・ルイス、TLCの諸作と同クラスで熱く聴き込んで欲しい名作だ。

(選者:ウチタカヒデ)

 

2020年12月26日土曜日

Paul McCartney:『McCartney III』対談レビュー(Capitol Records / 60243538471)



 現役ビートルの一人として、また世界で最も著名な音楽家であるポール・マッカートニーが、通算18作目で自身の名を冠したソロ・アルバムの3作目となる『マッカートニーIII(McCartney III)』を12月18日にリリースした。 
 1970年の『マッカートニー』から半世紀、1980年の『マッカートニーII』からも40年振りとなり、自身も78歳ながら年齢を感じさせない精力的活動を続け、全世界のファンに感動を与えている。
 ここでは弊誌VANDA30号(2013年発行)にて、『今更ながらポール・マッカートニーの魅力を語る』と題した企画で、筆者と対談をおこなったミュージシャンの近藤健太郎君(the Sweet Onions, The Bookmarcs)と本作の魅力について語ってみた。
 また同企画で【勝手に選ぶ・ポール・マッカートニー・ソング・ベスト10】と題して、2人でビートルズ時代とソロ&ウイングス時代の各10曲を選曲しており、今回その合計40曲をサブスクでプレイリスト化したので、聴きながら読んで欲しい。


●ポール・マッカートニーの魅力を語った対談からもう7年以上経ちますが、その間に『New』(13年)、『Egypt Station』(18年)と今回の『McCartney III』と3枚のオリジナル・アルバムがリリースされています。またOut There! Japan Tourで13年と15年 (急病により中止された14年の代替公演)、One On One Tour 2017、FRESHEN UP JAPAN TOUR 2018(近藤君によるライブレポートはこちら)と、4度の来日公演を実現させています。 近藤君もこの来日公演をいくつか観に行かれていますが、近年のポールの精力的な活動をどう考えています?レジェンド・ミュージシャンとしては破格の活動ペースですよね? 

◎近藤健太郎(以下近藤): この度、VANDA30号『今更ながらポール・マッカートニーの魅力を語る』の対談をあらためて読み返してみたのですが、僕は締めで「ポールの何が一番すごいかって、デビュー以来ほとんど休むことなく常に第一線で活躍してきたことは勿論なんですが、加えてやっぱり彼ってずっとカッコよくていまだに可愛いんですよね(笑)。
そしてそんな彼が作ってきた音楽を聴くといつも幸せな気持ちになれる。気分が高揚する。だから僕はこれからもずっと、ポール・マッカートニーの音楽を聴いて、ニヤニヤわくわくドキドキしていくんだろうなぁ」と語っていました。 
あれから7年、当時と気持ちは全く変わっていませんし、むしろ想像を遥かに超える精力的な活動にただただ圧倒され、アルバムやライブを通して常に楽しませていただいているという事実、本当に感謝しかありません。 

●対談当時のことを思い出しました。6ページに渡ってポールのことを熱く語ってくれた近藤君だけのことはあるなと(笑)。
やはりビートルズ時代から世界のファンのためへのサービス精神が他のミュージシャン達を圧倒しているんでしょうね。またポールのお人柄も大きく関係しているんじゃないかと思いますがどうですか?  

近藤:まさに人柄ですよね。冗談を言ったりおどけてみたりして相手の緊張感を和らげてくれたり。誰かのエピソードを話す時には、その人の物真似をしながらお話したりするから、ついつい引き込まれてしまいます。
堂々としているけど物腰柔らか。ポールが本気で怒鳴ったり何かモノに当たったりとか、考えてみたら想像できないですよね? 
僕、一度だけライブ会場に入るポールの入り待ちをしたことがあるんですよ(笑)。ふと思い立って武道館に足を運んだのですが、勿論すごい人混みで。なんとか前の方を確保できて、いよいよポールが乗った車が目の前を横切りました。周りもみんな悲鳴をあげているんですよ。「ウォー!キャー!ポーールーーー!!」って(笑)。
今は60年代か?って感じですけど、ずーっとポールはこんなファンに囲まれ、嫌な顔ひとつせず笑顔で手を振ってくれる。窓の外にいるファンの方向に合わせて席を移動して応対してくれる。
考えてみたらすごい人だなと思います。ちなみに僕の目の前を横切ったその一瞬は、不思議なものでまさにスローモーションのようでした。

●出待ちの件は初耳だな(笑)、もしかしたら聞いていたかも知れませんが。近藤君は『New』と『Egypt Station』も聴き込んでいたと思いますが、各々のアルバムの感想はどうでしたか? 

 『New』/『Egypt Station』  

◎近藤 :ライブで披露されている曲に特化して感想を述べますと、「New」「Queenie Eye」 (それぞれ『New』収録 /13年)「Who Cares」「Come On To Me」(それぞれ『Egypt Station』収録 /18年)等々、ロックなポールは健在ですし、新たなスタンダードと呼べる曲を生み出してくれていることが嬉しいです。なぜか「Come On To Me」や「Queenie Eye」で泣けるんですよ。

●Out There! Tour Japan 2013は私も2日間行きまして、近藤君とご一緒した日もありましたが、『New』収録では挙げられた曲以外に「Save Us」と「Everybody Out There」もありました。特に後半「Lovely Rita」(『Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band』収録/1967年)と「Eleanor Rigby」(『Revolver』収録 /1965年)の間に演奏された「Everybody Out There」は強烈に記憶にあります。発表された時代を経てもシームレスに繋がっているような感覚。このアルバムには良曲が多かったと思います。 一方『Egypt Station』は当時個人的には何故か印象に残ってなかったんです。改めて聴き返すと冒頭の「I Don't Know」なんて一聴して地味だけど実にポールらしい曲なんですよね。挙げられている「Come On To Me」で泣ける気持ちも分かります。この曲もどこを切ってもポールらしい元気印な曲調で(笑)。  

 Out There! Tour Japan 2013
(2013年11月21日 / 撮影:ウチタカヒデ)  

◎近藤:ウチさんとも一緒に行きましたねぇ。別の日は洞澤さん(The Bookmarcs)とご一緒されていましたっけ? 
ライブ後半に「Everybody Out There」、2曲目に「Save Us」と、新曲とビートルズ時代の曲が並んでも盛り上がってしまうのがポールのすごいところですね。

●そうなんですよ、友人が海外のチケット・サイトで良い席を取ってくれたので、行きたがっていた洞澤君も誘いました。
ライブのレパートリーについて、ポールのすごいところは正しく同感です。時代を超えているんですよね。 
本題に移りますが、本作『McCartney III』のアルバム全体のファースト・インプレッションと、特に気に入った収録曲とその魅力を聞かせて下さい。 

◎近藤:考えも及ばなかった『McCartney III』発表のアナウンス、そして公開されたトレイラーのサウンドにまず心踊りました。 個人的には『McCartney』(1970年)収録の「Oo You」や「That Would Be Something」の雰囲気を感じたのでとにかくワクワクしたんです。実際アルバムを聴いてみると、まずドラムがかっこいい。そしてポールのギタープレイが沢山聴けて嬉しいなって思いました。
やっぱりいわゆる完全なる“ソロ作”なんですよね。本当に自分がただ楽しくて音楽を作っている。きっと誰のためでもない、自由なポールの音作りが堪能できるのが最高ですよね。

気に入った曲はまずオープニングを飾る「Long Tailed Winter Bird」。前述の『McCartney』に収録されていそうなインスト主体のナンバーが、2020年の宅録サウンドで蘇ったかのようです。
2曲目の「Find My Way」は『Chaos And Creation In The Backyard』(2005)収録の「Fine Line」を彷彿とさせながら、よりラウドで生々しいサウンドがグッときます。
「The Kiss Of Venus」は『Ram』(1971)や『Wild Life』(1971)の頃のメロディを思い出させてくれて、時折重なるユニゾンのコーラスがどことなくリンダみたいでウルウル。
「Seize The Day」はジェフ・リンっぽくて好きですねぇ。ラストの「Winter Bird / When Winter Comes」は92年に録音されていた未発表音源がベースの曲のようですが、ポールが14歳の時に初めて書いた曲と言われている「I Lost My Little Girl」や、メリー・ホプキンに提供した「Goodbye」が思い浮かんでとろけてしまいました。

Paul McCartney - McCartney III
 (Official Album Trailer)

●リリースから僅かながら、結構聴き込んでいますね。トレイラーが公開されたのが現地時間10月22日なのですが、今思うとアルバム冒頭の「Long Tailed Winter Bird」だった訳で、イントロのMARTIN(D-28?)のリフからしてわくわくしてきますよね。
『McCartney』から踏襲された一人多重録音ということで、ポール自身が叩く生ドラムを再び聴けるとは本当に思ってもいませんでした。
このように全パートをこなす器用なポールの才能についてはどう思っていますか?

◎近藤:元々はギターを弾いていた彼がベースに転向し、世界有数のベーシストとしても名を馳せる。ドラム、ピアノ、ギターとそれぞれの楽器をプレイしても、ちゃんとポールのフレイバーを感じる、ホントにすごいことですよね。
でもポールの素敵なところは、例えば楽器の初心者にもとっつきやすいというか、ちょっと頑張って弾いてみようかなぁって気にさせてくれるところです。もちろん難解で複雑な曲は沢山ありますし、実際弾いてみると、いわゆるビートルズの「あの音」にはなかなか到達しないんですけど、いい意味で敷居が低い、音楽って楽しいんだって思わせてくれる、そこが何より魅力ですね。  

●「初心者にもとっつきやすい」という点、ポールの良い意味でのアマチュア精神じゃないかと思いますね。マルチ・プレイヤーでギター・テクニックもあるけどひけらかさない。例えば「Blackbird」(『The Beatles』収録/68年)のような一聴して地味目な曲でも高度なツー・フィンガー・ピッキングを披露してしまう。
本作『McCartney III』なんですけど、当初リリース予定されていなかったようなんです。CDの盤面やブックレットに記載されている「MADE IN ROCKDOWN」という文字が気になり調べたら、やはりこのコロナ禍の中で、ロックダウン生活を送りながら一人スタジオにこもっていたということで、この未曾有の全世界的パンデミックが切っ掛けになり、ポールの創作意欲を駆り立て40年振りのワンマン・レコーディングも実現したと考えられますね。
そんな経緯を感じながら本作を聴くと、この2020年を象徴するアルバムになったのではないのかな。
熱心なポール信奉者である近藤君から、本作をこれから聴こうとしている音楽ファンに『McCartney III』の魅力をアピールして下さい。  

”MADE IN ROCKDOWN”

◎近藤:ひけらかさない。まさにそうですね。少し前に、「子供達に音楽を教えるにはどうしたらよいか」という質問にポールが答える動画を観たのですが、ポールはピアノの鍵盤を押さえながら、「ドを弾いてひとつあけたらミ、そしてまたひとつあけたらソ、これで和音になる。また少しずらしたら他の和音になって、3つ4つ覚えたら何億も曲が出来るよ。ほら、こうやっているだけ(バッキング)でなんとなく素敵な感じになるだろう?」って鼻歌まじりに話すのですが、それが実に明快でかっこいいんですよ。なんか僕にも私にも出来そうって思わせてくれるんですよね。

そこで「MADE IN ROCKDOWN」と『McCartney III』に話を戻しますと、コロナ禍において多くの音楽家が家に篭り、リモートでセッションを披露したり、曲を作ってすぐ配信でリリース等々、ネット上で楽しませてくれましたよね。やっぱりポールも録音してたんだぁって、まずびっくり驚き嬉 しくて、届けられた音楽は本当に自由で実験的で、また自身の原点を意識したかのような曲が並んでいました。正直ちょっと退屈な曲もあります。 でもそれが逆によくて、当時ビートルズから解放されたくて作った、元祖宅録とも言われる『McCartney』、ウイングスの成功と様々なトラブルで疲れたポールが、一旦息抜き的に作ったと思われる、ポール流テクノ作の『McCartney II』、そして激動の2020年、家に篭り『McCartney III』ですよ。 ここはもう固い頭で聴くのではなく、ポールのように柔軟な気持ちと自由な発想で、楽しい音のセッションに、僕達もちょっと参加させてもらっているみたいな感覚で楽しんだら、とっても豊かな時間を過ごせるのではないかなぁと思います。 

『McCartney III』国内盤スペシャル・エディション 

●今後のポールの活動に期待することはありますか?  
コロナ禍が落ち着いたらまた来日公演をして欲しいですよね? 

◎近藤:勿論またライブが観たいし、きっとまた日本にも来てくれると信じていますが、まずはいつまでも元気で、長生きしてくれれば何も望まないというのが本音です。
あえて期待というならば、ライブでなかなか演奏してくれない名曲の数々、まだまだ沢山ありますので、いつか聴いてみたいなぁとは思いますが多くは求めません!(笑) 
 
 【近藤健太郎 プロフィール】
The Bookmarcs、the Sweet Onionsというユニットで音楽活動。
philia records主宰。散歩と鉄道好き。火・日曜放送「The Bookmarcs Radio Marine Café」マリンFM(86.1)ナビゲーター 。
the Sweet Onions 新曲「A Place Of Love」配信リンク
(amazonは下記画像からリンク)

 (企画・設問作成・編集 / ウチタカヒデ)

2020年12月20日日曜日

伊藤尚毅:『伊藤尚毅の世界』(なりすコンパクト・ディスク / Hayabusa Landings / HYCA-8010)


 若きシンガー・ソングライター、伊藤尚毅(いとうなおき)が初の全国流通作となるセカンド・アルバム『伊藤尚毅の世界』を12月2日にリリースした。
  2016年の自主制作ファースト音源『Bon Voyage~盆旅行記~』が、坂本龍一によるFMプログラム“RADIO SAKAMOTO”のデモテープ・オーディションにノミネートされたことで、その日本語ロックの原点回帰的サウンドが注目され、某カルチャー雑誌や音楽誌でも取り上げられてブライテストホープとして期待されているシンガー・ソングライターなのだ。 
 1994年生まれという若さながら、70年代日本のフォーク・ミュージックに影響を受けたという彼がクリエイトする楽曲は、はっぴいえんどのファースト・アルバム(通称ゆでめん)やセカンドで永遠の名作『風街ろまん』、細野晴臣の『HOSONO HOUSE』に通じる。


 本作は京都府出身のロックバンド、本日休演(ほんじつきゅうえん)のリーダーでメイン・ソングライター兼ギタリストの岩出拓十郎がプロデュースとエンジニアリング、ミックスまでを担当しており、独特な音像や質感も彼の手腕によるところが大きい。レコーディングは岩出の出身大学である京都大学の軽音学部スタジオで、19年8月の僅か2日間で録音されており、本日休演からはドラマーの樋口拓美も5曲に参加している。 因みに岩出と樋口は、18年に弊サイトで筆者が絶賛したツチヤニボンドの『Mellows』にも参加していた。
 またゆらゆら帝国、SCOOBIE DO等を手掛けている中村宗一郎によるマスタリングも注目したい。

 
『伊藤尚毅の世界』アルバム・トレーラー  

 ここでは筆者が気になった主な収録曲の解説をお送りする。 
 「裏通りの風鈴売り」はフォーク調のイントロ~バースからいきなりブギウギに変貌し、サビの後半では岩出がサックス、樋口がトランペットをフリージャズ・スタイルでプレイする。人を喰ったような展開であるが、冒頭曲のインパクトという点では成功しているだろう。
 伊藤の特徴あるバリトン・ヴォイスはダブル・トラックになっており、全8曲中4曲でこの手法によりたらされる質感は、本作の大きな特徴の一つになっている。この曲で伊藤自身はアコースティック・ギターをプレイし、岩出はベースとキーボード、樋口のドラムによる編成である。 
 続く「いい天気」は一転して静かなるネイチャー・ソングで、伊藤のアコギのアルペジオと樋口のハープシコードのリフが美しく絡み合う。ザ・バンドの「In A Station」(『Music From Big Pink』収録/68年)に通じる甘美なそのメロディは、伊藤と岩出によるコーラスも相まって遙か遠い野山を駆けていくようだ。 

 筆者が最も釘付けになったのが3曲目の「公園日和」である。エレキギターにべースとドラムのスリーリズムを基本とした、ゆるいミッドテンポのブルーアイドソウル風のポップスで、坦々としたメロディなのだが、ウーリッツァーのミニマルなフレーズやメロトロン系のストリング・パッド、リヴァース・エコーとクラップが計算されたかのように配置されて唯一無二の音像を生みだしている。特徴ある伊藤のダブル・トラックのヴォーカルやコーラスも含めたその独創性は、弊誌読者をはじめとするソフトロック・ファンにも大いにアピールする、桃源郷ブルーアイドソウルと呼んでしまいたい。

 
風見鶏 / 伊藤尚毅 
(企画・撮影・編集:おもちプロダクション)

 「風見鶏」は一聴するとフォーク・ロックのようだが、岩出と樋口によるリズム隊のグルーヴは、細野晴臣の「蝶々-San」(『泰安洋行』収録/76年)にも通じるチャンプルー・ミュージック風である。この風通しのよいグルーヴでモラトリアムな青春賛歌と呼ぶべき歌詞が歌われる。特徴あるハモンド・オルガンによるフレーズの響きも懐かしくも新しい。
 本作中最もハード且つサイケデリック・サウンドの「盆」は、岩出が本職のギターで活躍する。メロトロン系のキーボードや木管のファゴット・ソロが入るなど初期トラフィックの匂いもするが、伊藤のヴォーカルや歌詞の世界観はやはり『ゆでめん』(70年)に通じる。荒削りだが味のあるファゴットは、京都在住のインプロ・プレイヤーの佐藤諒の演奏だ。  
 伊藤がピアノのみで歌う「日がな一日」は2分弱の小曲ながら、ローラ・ニーロのソングライティング・センスにも近く、伊藤の今後の可能性を秘めている。 

 本作全体を通して強く感じたのは、伊藤尚毅の唯一無二の個性と若くほとばしる才能に他ならない。
 弊サイトで多く紹介している、技巧的和声感覚と洗練されたサウンドを持つポップスや、ポストパンク・ルーツで洒脱なギターポップのミュージシャン達とは明らかに異なる、言わばガラパゴス的なその独自のスタンスは前出のツチヤニボンド(新作を期待)やGIUROにも近いかも知れないが、筆者はそんな音楽家こそ貴重な存在であるが故に今後も応援していきたいのだ。この解説を読んで興味を持った音楽ファンは是非入手して聴いて欲しい。 
(ウチタカヒデ)


2020年12月16日水曜日

1970 Release / The Beach Boys(未配信)

 本稿執筆時では米国大統領はまだ未確定ではあるものの、共和党現職大統領の2期目 実現は困難な模様である。
 The Beach Boysのキャリア上昇と共和党大統領しかも現職2期 との相性は非常に相関性が強いのだ。50年代のEisenhower2期目(1957-1961年)は冷戦時代に突入した。軍需産業と密接な関係にあるHawthorneの街は活気付き、父Murry の家産を助けた。またその子らのThe Beach Boys結成前夜でもある。

 さらに70年代Nixon2期目(1973-1974年)はWatergate事件で本人が辞任するも1973年リリースのライブ盤『In Consert』はセールスでは『Wild Honey』につぐ歴代トップ40入りとなった(それぞれ1973年 25位 、1968年 24位)。また翌年1974年リリースのベスト盤『Endless Summer』は1位を記録しReprise移籍後最大のヒットとなりキャリア再上昇を揺るぎないものとした。
 また、80年代Reagan時代(1981-1989年)においては本人がHollywoodの芸能界出身にして同地の知事も務めた事から窺われるように、大統領就任以来The Beach Boysに対する厚遇の数々は枚挙にいとまがない(White Houseへの招待、娘PattiとDennisとの交際、Dennis死後の水葬許可などなど)また、シングル盤『Kokomo』(1988年)は『Good Vibrations』(1966年)以来の1位を獲得しキャリアの更なる上昇をもたらした。
 また同年Brianのソロ作『Brian Wilson』リリース、また『Pet Sounds』世界初CD化に始まる過去の作品群の再評価は新たな世代のファンを獲得した。
 Mikeは今回も共和党大統領現職2期目のジンクスに賭けていたのだろうか?おそらく新年にWhite Houseへ招待されTrump氏との熱き抱擁を夢見ていた、そして純真な米国の持っていた家族の団結・友愛の強調をもってAlやBrianの再合流を高らかに宣言し、自身の価値を高めるのが目的であろう。

 本題へ戻ろう、今回リリース音源(全64曲)は毎年恒例の著作権対策として考慮されていたものの12月初頭現在正式リリースは未だ行われていない。 音源の所在は当初米国の音楽アーカイブサイトAllmusicにおけるThe Beach Boys Discographyの中に1970 Releaseとしてアップデートされており、全64曲のダイジェスト版が試聴できるようになっていたのをSNSユーザーが発見したのが発端であった。 恐らく著作権対策の為に配信の実績作りで行ったと思われ、短期間で削除となっている。

【削除前画像】

 ただし、全曲を編集し合体させたものを有志がYoutube動画で配信中である。 著作権者からの許諾も調整されている為、下記動画を参照していただきたい。

 
1970 Release(ダイジェスト編集盤) / The Beach Boys

 ダイジェスト版故に完全版ではないものの、全曲の音像はしっかりと統一されており、試用的なラフミックスの趣はなく、マルチトラック本格導入以降後のThe Beach Boysの立体的音響とその方向性を強く意識させ、当時のレコーダーやアウトボードの持つ歪みも再現した音圧感に溢れる力強いサウンドを聴くことができる。 
 曲目はABC順でまとめたものが以下(動画再生時の順番 タイトル)の通りで、ほぼ既発曲(Capitol後期〜Surf's Up期)であることが分かるがこれらはボックスセット類の再発企画を意識したリリースとなっている。 

 過去の再発例では

1.ステレオリマスター音源
2.バックトラック
3.ボーカル+コーラス部のみ
4.セッションアウトテイク
5.未発表曲

となっており、今回の一群の音源もそれに倣っているものと思われ今後の展開が楽しみだ。

 【動画再生時の順番 タイトル】
52 A Day In The Life Of A Tree [track & backing vocals]
28 Add Some Music To Your Day [2019 a capella]
  6 Add Some Music To Your Day [alternate version]
10 Add Some Music To Your Day [track & backing vocals]
30 All I Wanna Do [a capella]
14 All I Wanna Do [session intro & backing vocals]
18 At My Window [track & backing vocals]
25 Back Home [demo] 
35 Big Sur [alternate version] 
  2 Carnival (Over The Waves) - Sobra Las Olas 
19 Cool, Cool Water [alternate version] 
61 Cotton Fields (The Cotton Song) [a capella] 
11 Deirdre [backing track] 
56 Disney Girls (1957) [backing vocals excerpt] 
48 Disney Girls (1957) [track & backing vocals?] 
42 Don't Go Near The Water [alternate version] 
45 Don't Go Near The Water [track & backing vocals] 
55 Feel Flows [backing vocals excerpt] 
50 Feel Flows [track & backing vocals] 
31 Forever [2019 a capella] 
15 Forever [sessions highlights]
16 Forever [track & backing vocals] 
  1 Good Time [2019 mix] 
44 Good Time [backing vocals section] 
22 Good Time [session intro, track & backing vocals] 
29 Got To Know The Woman [a capella] 
40 H.E.L.P. Is On The Way [2019 mix] 
  4 I Just Got My Pay [2019 mix] 
64 It's About Time [backing vocals excerpt] 
12 It's About Time [track & backing vocals] 
46 Long Promised Road [track & background vocals] 
51 Lookin' At Tomorrow (A Welfare Song)
  [session intro & alternate mix] 
20 Loop De Loop (Flip Flop Flyin' In An Aeroplane) 
  [backing track] 
57 Medley: All Of My Love / Ecology [unreleased song] 
58 Medley: Happy Birthday, Brian / God Only Knows
  [unreleased recording] 
62 My Solution [track & backing vocals] 
39 My Solution [unreleased song] 
  7 Our Sweet Love [string section] 
17 Our Sweet Love [track & backing vocals] 
60 Riot In Cell Block #9 [live 1970 Big Sur Folk Festival concert] 
21 San Miguel [session intro, track & backing vocals with] 
36 Seasons In The Sun [2019 mix] 
36 Slip On Through [alternate 1969 mix with session intro] 
  8 Slip On Through [track & backing vocals] 
37 Sound Of Free [1970 single mix, 2019 master] 
33 Student Demonstration Time [new mix?] 
49 Student Demonstration Time [track & backing vocals] 
32 Sunflower Promo #1 [radio spot] 
63 Sunflower Promo #2 [radio spot] 
54 Surf's Up [Brian's lead vocal 2019 mix] 
43 Surf's Up Promo [radio spot] 
53 Surf's Up, Pt.1 [1971 remake track with 1966 Brian's vocal] 
  3 Susie Cincinnati [2019 mix] 
24 Susie Cincinnati [basic session highlights] 
38 Sweet And Bitter [2019 mix] 
47 Take A Load Off Your Feet [alternate vocals]
13 Tears In The Morning [track & backing vocals] 
  5 This Whole World [alternate ending]
27 This Whole World [backing vocals section] 
  9 This Whole World [long version & backing vocals] 
34 Til I Die [new mix?] 59 Til I Die [piano demo] 
23 When Girls Get Together [backing track] 
41 You Never Give Me Your Money 
  [unreleased cover of the Beatles song

(text by MaskedFlopper / 編集:ウチタカヒデ)

2020年12月10日木曜日

Ellie:『NEO BITCHIZM』 (Happiness Records/HRBR-019)

 元ラヴ・タンバリンズ(Love Tambourines)のヴォーカリストで、渋谷系のミューズとして高名な Ellie(エリ)が待望のニューアルバム『NEO BITCHIZM(ネオ ビッチズム)』を12月15日にリリースする。 
 96年のファースト・ソロ『Bitch In Zion』からeli名義の『Rita』(2007年)を含めると4作目となる本作は、前作『Stay Gold』から2年と比較的短いインターバルで発表されたので、彼女のファンにとっては嬉しいリリースとなっただろう。  

 タレントの千秋など芸能界にまでファンがいることで知られるラヴ・タンバリンズは、1991年に結成され、93年にDJでクラブイベント・オーガナイザーをしていた瀧見憲司氏が主宰するCrue-L Recordsからシングル「Cherish Our Love」でデビューした。
 94年シングルの「Midnight Parade」がヒットして注目され、翌95年にはファースト・アルバム『Alive』をリリースし、インディーズ・レーベルとしては異例の10万枚以上のセールスを記録する。しかしながら同年末にはバンド内の方向性の違いなどにより解散してしまった。4年という短い活動期間ながらシングル5枚とアルバム1枚を残し、その影響力は後のアーティスト達にも及んでいる。
 因みに先月弊サイトに掲載した【追悼・筒美京平を讃えるベストソング】でインタビューした森達彦氏は、全作品にエンジニアとして参加していた。 
Alive / LOVE TAMBOURINES

 本作はアルバム・タイトルからもインスピレーションできるが、ファーストの『Bitch In Zion』にも通じるニューソウルやHIP HOP系R&B、ファンク・ミュージックの要素が強い。同アルバムを愛聴していた筆者は約1ヶ月前に入手したプレス向け音源を聴いて驚喜してしまったほどだ。
 今回そのサウンドの鍵を握るのは、全編のプロデュースとアレンジを担った気鋭キーボーディストのSWING-Oで、本作の9曲中8曲をEllieと共作している。
 彼のプロフィールにも触れるが、izanamiやJAMNUTS等の活動を経てソロ活動をスタートし、Kyoto Jazz Massive、CHARA、福原美穂、KREVA、椎名純平等錚々たるバンド、アーティストへの楽曲提供やプロデュース、ツアー・キーボーディストとして活躍しており、参加したアルバムは150作を超えているという。2017年からは「幸せであるように」(90年)のヒットで知られる、ファンクバンドFLYING KIDSに2代目キーボーディストとして加入して更に注目されている。
 サポート・メンバーにも手練の面々が多く、SWING-Oが率いる45trio(フォーティファイブ・トリオ)のベーシストのSUNAPANNGこと砂山淳一とドラマーの久保正彦をはじめ、数多くのセッションで活躍するギタリストの伊原“anikki"広志、ジャズ・ロックバンド男塾のドラマーとして活動する米元美彦(パーカッションも)、2曲でセッション・サックス奏者の栗原健が参加している。
 またエンジニアとミックス、マスタリングは、初期ラヴ・タンバリンズにパーカッショニストとして参加していた平野栄二が担当しており、saigenji流線形の録音でも知られる、彼が主宰のスタジオ・ハピネスでレコーディングされている。 


 ここでは筆者が気になった主な収録曲の解説をお送りする。
 冒頭の「マジ無理 NOWAY」は、11月3日に7インチ・アナログで先行リリースされたリード・トラックとして本作を象徴する一曲である。ソウル・マニアなら聴けば分かると思うが、この一曲に様々なエッセンスが詰め込まれていて聴き飽きさせない。Booker T & the MG'sのドラマーとしてSTAX~HIレコードのボトムを支えたアル・ジャクソン流というべきドラム・トラック(SWING-Oによる打ち込み)は、バックビートをロータムにして独特のグルーヴで迫り、サビのコードのアッパーストラクチャーにはマーヴィン・ゲイの匂いをさせて多幸感を醸し出す。Ellieの巧みなヴォーカル・テクニックも多彩でたまらない一曲となっているのだ。

 
マジ無理NOWAY / Ellie
MV監督:田口 新作 (Ore-fes)

 続く「愛情分別」はサンバのリズムを持つラテン・ソウルで、SWING-Oのエレピに砂山と久保のリズム隊、そして米元が各種パーカッションをプレイしている。Ellieのヴォーカル・スタイルはサウンドの効果もあり、リンダ・ルイスにも通じるが、サビの歌詞をスルドのリズムに合わせて韻を踏むセンスはさすがである。
 テディー・ライリーに通じるスイング・ビートに合わせて、現代病である慢性ストレスによる記憶障害をモチーフにした「海馬レス問題」も実に発想が素晴らしい。嘗てZappのロジャー・トラウトマンからテディーも多用したトークボックスはSWING-Oがプレイしている。
 一転してディープなバラードの「iroha」は音数少ない打ち込みR&Bで、エロティックで意味深な歌詞は彼女らしい世界観といえる。 

 「マジ無理 NOWAY」のカップリングでもある「Midnight Parade 2020」は、ラヴ・タンバリンズ時代の出世作リメイクで、オリジナルはアフロ・ファンクだったが、本作のヴァージョンではアコースティック・ピアノを中心とした編成で、クールなジャズ・ソウル風アレンジである。この曲ではドラムは米元が担当し、ギターの伊原もブルージーで巧みなプレイを披露している。ここでもEllieの表現力には敬服してしまう。 
 そして筆者が本作の中でもベスト・トラックに挙げるのは「Shame On You」である。ここまで正統派なハチロク(6/8拍子)のソウル・バラードを歌い上げることが可能なヴォーカリストは日本にどれだけいるだろうか。エモーショナルで圧倒的なEllieのヴォーカルに平伏すばかり。
 バックトラックは全てSWING-O一人によるキーボード・プレイと打ち込みによるものだが、ヒューマンなスイング感では出せないサウンドが逆にマッチしていて、栗原健のテナー・ソロと共にこの曲に欠かせない。

 本作全体を通して、Ellieの魅力を掬い上げたSWING-Oのプロデュース力(りょく)を高く評価し、手練なミュージシャン達と作り上げたヴォーカル・アルバムの傑作として大いにお勧め出来る。興味を持った音楽ファンは直ぐに予約して入手しよう。
(ウチタカヒデ)

2020年11月28日土曜日

TheBookmarcs ファースト配信ライブ


 The Bookmarcs(ザ・ブックマークス)が初の配信ライブを12月2日に開催するので紹介しよう。
 改めて彼等を紹介するが、The Bookmarcsは作編曲家兼ギタリストとして活躍する洞澤徹と、ポップスバンドSweet Onionsのヴォーカリスト近藤健太郎が2011年にタッグを組んだ、男性2人組のポップス・ユニットである。 
 
 弊サイトではこれまでにリリースした2枚のオリジナル・アルバム『BOOKMARC MUSIC』(2017年)『BOOKMARC MELODY』(2018年)を紹介しているのでご存じと思うが、ソフトロックとシティポップの良さを融合しながら大人が聴ける良質なポップスをクリエイトしているのだ。 
 このコロナ禍により会場でのライブが極めて困難な時期であり、またライブ回数自体が少ない彼等の演奏がリアルタイムで視聴出来るという貴重な試みなので、是非この機会にThe Bookmarcsのサウンドに触れて欲しい。
 ライブ当日は2人によるアコースティック・ライブとなり、演奏曲は上記2枚のアルバムからセレクトされた全8曲を予定している。 

  
黄昏のメトロ(アコ・ライブVer)/ The Bookmarcs

 

【TheBookmarcs ファースト配信ライブ】
  ●日  程:2020年12月2日(水)  
●配信時間:19時30分~(約40分) 
 ●視聴料:無料(投げ銭歓迎)   
※ホームスタジオからお送りします。   
●投げ銭はコチラから:https://ofuse.me/bookmarcs 
 ※アーカイブ試聴期間は1週間を予定。       

 なおThe Bookmarcsは、今年4月の『雲の柱 - Spring Jazz Mix -』に続いて、8月末に洞澤の作編曲、近藤の作詞による新曲『When I Was Young』を配信リリースしている。 
 特徴ある洞澤のギター・カッティング(佐橋佳幸氏がプレイした某有名曲を彷彿とさせる)の後、いきなりサビから始まるこの曲は、70年代後半のAORサウンドへの憧憬を匂わせたサウンドで、活動初期からサポートしているドラムの足立浩とベースの北村規夫による巧みなプレイによるグルーヴの効果もあり、デイヴィッド・フォスターが手掛けた諸作が好きな洋楽ファンにも大いに勧められる。 
 ヴォーカルの近藤自身がコーラス・アレンジしたタイトルのパンチラインが耳に残るよう、よく練られた曲作りによって聴き飽きさせないのだ。


● 配信リンク(amazonは下記画像からリンク)

(ウチタカヒデ)

 

2020年11月22日日曜日

追悼・筒美京平を讃えるベストソング


 昭和から平成にかけて日本の音楽界を支えた偉大な作編曲家の筒美京平(つつみ きょうへい、本名:渡辺栄吉(わたなべ えいきち))氏が10月7日に亡くなった。80歳だった。
 
 青山学院大学在学時からジャズを演奏していた音楽通で、卒業後の1963年には日本グラモフォンに入社し洋楽部門のディレクターを担当していた。その頃青学時代の先輩で作詞家だった橋本淳の紹介で、フジテレビ社員ながら作曲家として成功していた、すぎやまこういち(本名:椙山 浩一)に師事して作編曲を学んでいる。筒美の才能を見抜いた、すぎやまの推薦もあり、1966年(昭和41年)に藤浩一と望月浩の競作シングル「黄色いレモン」(作詞:橋本淳)で職業作曲家としてデビューする。
 1968年12月リリースのいしだあゆみの「ブルー・ライト・ヨコハマ」では、累計売上150万枚を超え、自身初のミリオンセラーとなり、翌年の第11回日本レコード大賞作曲賞を受賞するまでになる。3年後の1971年の第13回同賞では、尾崎紀世彦の「また逢う日まで」がレコード大賞を受賞したのをはじめ、朝丘雪路の「雨がやんだら」と平山三紀の「真夏の出来事」の2曲で作曲賞、渚ゆう子の「さいはて慕情」で歌唱賞、堺正章の「さらば恋人」で大衆賞、南沙織の「17才」で新人賞という快挙を成し遂げ、早5年にしてその名は広く知れ渡ったのだった。
 これまで同賞で1968年から89年の間に17年に渡り43曲の受賞歴があり、その中でレコード大賞2回と作曲賞5回7曲を受賞しており、作曲家としてのシングル総売上枚数は7,560万枚を超えていて、歴代一位である。この大記録は今後も更新されることはないだろう。

 文化や価値観が大きく変貌していった日本の音楽界において、これほど長い期間に渡り彼が成功を収め続けられた秘訣は何だろうと考える。
 各時代の洋楽チャートや流行サウンドを常にチェックしたリサーチ力(りょく)と、提供する歌手の個性となる声質や声域を的確に分析して、それぞれにフィットするオーダーメイドのように職人技で仕立てる作曲技術の賜物ではないだろうか。
 そのような技術がなければ、野口五郎や岩崎宏美のような鍛練を積んだプロフェッショナル歌手から、素人同然のアイドル女優やタレントだった浅田美代子や鈴木蘭々にまで平等にヒットソングのギフトを贈れない筈なのだ。
 もし読者の中に作曲家を目指す人がいれば、多くの筒美作品を聴いて研究、分析することを強く勧める。

 なお弊サイトが立ち上がる前の定期誌VANDAの初期には、スタディストの岸野雄一氏や土龍団の方々が筒美作品を含む隠れた歌謡曲を発掘、研究した記事を投稿しており、その後コンピレーションCD『ソフトロック・ドライヴィン』シリーズでリイシュー化した功績は大きいので、改めて紹介しておく。
 さてここでは筆者の知人で、筒美作品の音楽制作現場に多く携わり、実際筒美氏とお会いしている、シンセサイザー・プログラマー兼エンジニアの森達彦氏へのテキスト・インタビューを紹介すると共に、ベストプレイ・シリーズのスタイルで、筒美作品をこよなく愛するミュージシャン達と氏が作曲したベストソングを挙げて、その偉業を振り返ってみたい。是非サブスクリプションのプレイリストを聴きながら読んで頂きたい。

※参考文献:榊ひろと『筒美京平ヒットストーリー 1967-1998』
 白夜書房


【森 達彦氏 インタビュー】

●今回はよろしくお願い致します。
森さんがプログラマーとしてスタジオ・ワークを開始されたのは年何になりますか?
 
◎森達彦(以下森):1980年だったと記憶しています。
 
●80年当時の音楽業界では、シンセサイザー・プログラマーがまだ少ないという状況ではないでしょうか?
また当時メインで使用されていたのはどのような機種でしたか?
やはりプロフェット5などでしょうか?
 
◎森:Mac松武さん、Emu浦田さん、Jan杉原さんという先輩方がいらっしゃいました。
僕はその次の世代になります。当時、メインで使ったシンセはプロフェット5、同10、オーバーハイムのOBX、PPG2.3でした。
 
●当時森さんはレオミュージックに所属されていて、主に多く携わったミュージシャンや歌手の方はどなたでしたか?
 
◎森:編曲家のお名前でしたら、主に武部聡志、鷺巣詩郎、山川恵津子、十川知司、萩田光雄(敬称略)。

●名だたるアレンジャーの方々が並びますが、萩田光雄氏や鷺巣詩郎氏、武部聡志氏は歌謡曲でも大活躍されていましたね。特に筒美京平作品での編曲が忘れられません。
その筒美先生とのお仕事で最初に関わった年と、歌手の方や曲を覚えていますか?
 
◎森:何年という記憶はありませんが、たぶん鷺巣さんのお仕事です。81年から84年にかけて鷺巣さんは多くの筒美作品に関わっています。
 
●その期間の筒美作品で鷲巣氏が編曲された代表曲と言えば、松本伊代のデビュー曲「センチメンタル・ジャーニー」(81年)から「ラブ・ミー・テンダー」(82年)、「TVの国からキラキラ」(82年)とヒットが続きますが、筒美先生が直にシンセのパッドやシーケンスの音色をリクエストされることはあったんですか?
「TVの国から・・」は生のリズム・セクションですが、パートによってはテクノ歌謡ですし、先生も曲作りの時点から意識していたのでは?と期待してしまいます。 

TVの国からキラキラ / 松本伊代

◎森:鷺巣さんに関しては、早くから京平さんからの信任が厚かったと思っています。その頃京平さんはほとんど現場でお見掛けすることはなかったです。
ただ質問の趣旨に添えるかわかりませんが当時の鷺巣さん独特なやり方があって、4リズムの録音後例外なくスネアとキックにシモンズ音源の音を重ねていました。生の音をトリガー※にしてシモンズを鳴らすのが僕の役割だった訳です。 
(※:ドラムに装着し、その振動を信号に換えて音源モジュールを鳴らすシステム)

●成る程、鷲巣氏が筒美先生の秘蔵っ子だった時期のサウンド作りが垣間見られて興味深いです。
また当時のレコーディング期間中は、先生がスタジオに立ち会われる機会は少なかったのですね。因みに初めてスタジオで先生にお会いされた時の印象はどうだったでしょうか?
  
◎森:スタジオに張りつめた緊張感は独特のものでした(笑)。
とてもダンディな方と印象を持ちました。
 
●その時点で既に大御所な存在だった訳ですからね。
筒美先生が立ち会われたレコーディングでのエピソードをいくつかお聞かせ下さい。
 
◎森:まず87年頃に京平さん御自身によるアレンジ仕事が思い浮かびます。セッションの詳細については覚えてはいませんが、当時アレンジまでご自身でやられることはなかったのではと思われるので。
スタジオのスタッフの緊張感も高かったですね。
 
それと同時期ですが、ある歌手の曲のオケを京平さんがチェックしにいらっしゃるというので、4リズムはもちろん、シンセダビング等も終えて万全を期した状態で試聴して頂いたんです。
「いいじゃない」と言われて、皆が胸をなで下ろした後、京平さんがスタジオの調整室から出られる際、「少しテンポは落としてね」と一言。結末については覚えていません(笑)。
 
もうひとつ、小沢健二君とコラボの時(『強い気持ち・強い愛/それはちょっと』/ 95年)、70年代ディスコテイストなシンセサウンドを作れとのことでスタジオを訪れると、レコードが入った大量の段ボール箱に囲まれた京平さんがいらっしゃいました。
始終あのような笑顔の京平さんを拝見するのは初めてで、忘れられないです。  
強い気持ち・強い愛 / 小沢健二

●貴重なエピソードをありがとうございます。
特に小沢氏とのエピソードは、根っから洋楽好きという側面が確認出来ました。
それで、筒美先生のレコードの聴き方が普通ではないというエピソードがあるらしいのですが・・・。1曲の中で針を上げ下げして飛ばして、好きな小節だけを集中的に聴くという(笑)。まるでヒップホップのフレーズ・サンプリングみたいな感じで。そのスタジオでもそうだったのかなと(笑)。

◎森:実は僕が呼ばれた時点では曲は出来ていなかったと思われます。もちろん通常は曲があってその上で僕が持ち込んだシンセをダビングしていく流れなのですが、あの時は大量のレコードと共に複数のシンセが用意されていました。そのシンセ1台につき1音色作るというオファーで。
全く異例中の異例、詞先の曲ならぬ音先(笑)。
レコードもシンセも曲作りのパーツだったのでしょう。
「完パケるまでシンセの電源落としませんから」と、小沢くんも言っていました(笑)。
 
●その後も多くの筒美作品に携われたんですね?
その中でも特に印象に残った曲を教えて下さい。
  
◎森:先の設問に挙げた編曲家の方々はそれぞれ何曲も筒美作品に関わっておられます。かなりお手伝いさせていただいたと思います。
印象に残ったというより、好きで今でも聴いているのは斉藤由貴さんの「初戀」ですね。
 
初戀 / 斉藤由貴

●斉藤由貴の「初戀(はつこい)」は85年8月リリースで、編曲は武部聡志氏ですね。曲調やサウンドは、ストロベリー・スウィッチブレンドの「ふたりのイエスタデイ(Since Yesterday)」(84年)にも通じますが、筒美先生は80年代半ばもリアルタイムの洋楽を意識されていたんでしょうか?
また思い出す限りで、この曲での使用機材を教えて下さい。
 
◎森:たぶんおっしゃる通りだと思います。当時も洋楽を意識していたんでしょうね。
機材はLINN9000、EmulatorⅡ、ProphetT-8、Simmons5,7、ppg2.3 等です。
 
●その頃は森さんもhammerを設立されて、ムーンライダーズ関係からおニャン子クラブなどの多くの歌謡曲も手掛けられていた時期ですよね。
EmulatorⅡやリンドラムなど使用された機材も時代を感じさせます。 
 
◎森:そういえばムーンライダーズのレコーディング時にMC-4(ローランド社製デジタル・シーケンサー)をどのように使っているか興味があるから見学させてくれと京平さんから申し出があったという話しを岡田(徹)さんから聞いたことがあります。たぶん80年代初頭でしょうか。
僭越な憶測ですが、どのような機材や手法で時代の音が産まれるのか、そのような認識も膨大なレコードコレクションと同様『筒美京平の曲』に取り込まれていたのではないでしょうか。

MC-4

 ●それは貴重な話ですね!
ライダーズのレコーディングで岡田氏がMC-4を本格的に導入していたのは、『マニア・マニエラ』(82年)や『青空百景』(82年)の頃ですね。
筒美先生がそれらのアルバムを聴いていたと想像したらライダーズ・ファンとしては嬉しいです。直接的に影響下にある曲は挙げられませんが、その後の現場で感じられたことはありましたか?
 
◎森:それについてはわかりません。ただ90年代の渋谷系、特にR&B色が強いものについては興味をお持ちだった、このことは京平さんをよく知る方から伺っていました。
ラヴ・タンバリンズは聴いていらっしゃったようですよ。

●ラヴタンも聴かれていたんですね!
以前森さんやエリさん(Ellie / 元ラヴ・タンバリンズのヴォーカル、ニュー・ソロアルバムを12月15日リリース予定)と会食した際、筒美先生がラヴタンに曲を提供したがっていたけど、結局実現しなかったと聞きました。実現したらビッグ・ニュースになっていたでしょう。
今回は貴重な話を誠にありがとうございました。

Alive / LOVE TAMBOURINES
森氏はミックスを担当。インディーズとしては異例の
10万枚以上のセールスを記録したラストアルバム

【森 達彦氏 プロフィール】
長崎県出身のシンセサイザー・プログラマー、エンジニア、サウンド・プロデューサー。
1978年にレオミュージック入社。入社後にシンセサイザーのプログラミングを習得する。1984年ムーンライダーズと共同出資で、プログラマーのマネージメントを業種としたhammer(ハンマー)を設立。1987年には社名をHAMに変更するが、1991年に自身が立ち上げたインディペンデント・レーベルをHammer labelとしてその名を復活させている。
シンセサイザー・プログラミングの仕事の傍ら、プライベート・スタジオで後に渋谷系と呼ばれるクルーエル・レコードやエスカレーター・レコードのエンジニアリングをサポートし、現在は郷里の長崎に戻り音楽制作を継続している。
(10月30日テキストにて / 設問作成、文:ウチタカヒデ)


【筒美京平を讃えるベストソング】

●曲目 / 歌手名
(収録アルバムまたはシングル / リリース年度)
◎選出曲についてのコメント
※管理人以外は投稿順により掲載。




●愛の戯れ / 平山みき(7' 『愛の戯れ』 / 1975年)
◎個人的に「昭和歌謡の巨匠の多くはジャズ上がりで、小手先で書いた曲が大ヒット」という先入観があるが、加えて筒美には洋楽リスナーとしての膨大な知識量がある。A&M系ポップスやフィリー・ソウルを彷彿させるこの作品も、当時の同時代性を内包した名曲だ。

●心象風景 / 太田裕美(『こけてぃっしゅ』 / 1977年)
◎西海岸サウンドなどを意識した、極めて洋楽的なアルバムから。松本隆の瑞々しい歌詞、ポピュラリティを一義とする筒美京平と萩田光雄のバランス感覚から、極上の「70年代シティポップ」としても楽しめる。

● あなたを・もっと・知りたくて / 薬師丸ひろ子
(7'『あなたを・もっと・知りたくて』 / 1985年)
◎こちらも松本&筒美の黄金コンビの名曲で、編曲は武部聡志。渋谷系の重鎮、森達彦もシンセ・プログラマーとして参加している。胸キュンのコード進行、歌い易さより美しい響きを優先させたメロディなど、まさに極上のポップ・ソング。

●野生の風 / 今井美樹(『elfin』/ 1987年)
◎僕が中学の頃に書いたお気に入りのバラードが、後にこの曲のサビに酷似していると知る。恐らく何処かで耳にしていたのだ。しかも "原曲" のサビの続きは、さらに美しい怒涛の展開。彼の奥深さを猛烈に実感した、最初の瞬間だった。

●それはちょと / 小沢健二(『刹那』/ 2003年)
◎オザケンのマイ・ベストはこの曲。筒美のお家芸である "洋楽的でありながら日本人の琴線に触れるせつないメロディ&コード進行" が、ヴァースから惜しみなく展開される。それに応える服部隆之の弦アレンジも見事だ。

 
 野生の風 / 今井美樹



オフィシャルサイト: https://www.kouhando.com/


●ダンシング・セブンティーン / オックス
(7”『ダンシング・セブンティーン』/ 1968年)
◎筒美京平といえば橋本淳!GS期のこのコンビを取り上げるならこの曲は外せません。ブチ上がるイントロ、普段は座して音楽を楽しむタイプですがこの曲は踊ってしまいます。ちなみに、映画「GSワンダーランド」(08年)の主題歌『海岸線のホテル』もこのコンビによるもの。40年経てのセルフパロディ的仕上がりなので合わせて聴いてみると面白いです。

●ア・リ・ス / 遠藤京子(『Operette』/ 1981年)
◎このアルバムを知ったのは約半年前と最近のことなのですが、びっくりでした。ぶっち切りで忙しかったであろう1981年、LPでいえばB面中盤にひっそりと収められているこの曲に、僕はあらためて京平先生の凄さを思い知りました。これ以前も、そしてこれ以降も全日本国民分と言っても過言ではない数の思い出の1曲を生み出すわけです。本当に凄い。鈴木茂さんの編曲も最高です。

●夏色のナンシー / 早見優(7”『夏色のナンシー』/ 1983年)
◎言わずと知れた超有名曲です。そんな曲が多すぎて選ぶのに苦心しましたが、早見優さんへの提供曲は本当に全部素晴らしく、このシングルのあとすぐにリリースされたアルバム『LANAI』、その2ヶ月後にはナンシーの別verが収録されたアルバム『Dear』が発表され、両方で多数楽曲を提供されています。全部好きです。

●夢色のスプーン / 飯島真理(7”『夢色のスプーン』/ 1983年)
◎B面曲「リンゴの森の子猫たち」とどっちにしようか凄く悩みました。どちらも僕が好きすぎる飯島真理さんの良いトコが詰まっています。そういえば、京平先生はキーを決める際に一緒にカラオケに行って策定するという話を聞いた記憶があります。もしこの曲もそうだとしたら、本当にありがとうございましたと言いたいです。

●風のノー・リプライ / 鮎川麻弥(7”『風のノー・リプライ』/ 1984年)
◎アニメ「重戦機エルガイム」のOPテーマです。アニメは観たことないのですが、この曲はもう10年以上聴き続け、友人とカラオケで熱唱する定番曲です。「サザエさん」然りですが、知らず知らずのうち日常に組み込まれる音楽って本当にいいなと思います。筒美京平先生、本当にありがとうございました。

 
風のノー・リプライ / 鮎川麻弥



2020 New Song - 「When I Was Young」トレーラー:


●セクシー・バス・ストップ / Dr.ドラゴン& オリエンタル・エクスプレス
(『The Birth of Dragon』/ 1976年)
◎有名なバージョンは浅野ゆう子のカバーですが、ここではあえて良演奏が味わえる原曲のインストゥルメンタルで。
クレジットには変名のJack Diamondの表記。とにかくバンドメンバーがすごい。林立夫(ドラム)鈴木茂(ギター)、後藤次利(ベース)、矢野顕子(キーボード)。
筒美京平の遊び心ある覆面ユニット、素敵すぎます。収録アルバム全曲オススメ。ちなみにバス・ストップはダンスのステップ。

●夏のクラクション  / 稲垣潤一(『J.I.』/ 1983年)
◎ジャパニーズAORの歴史的作品と言って良いのではないでしょうか。
弱起から入るサビのはじめの4小節のペンタトニックの降りてくるフレーズが特に日本人の心を鷲掴みにする気がします。
僕の永遠の座右の曲です。

●迷宮のアンドローラ / 小泉今日子(『迷宮のアンドローラ / DUNK』/ 1984年)
◎AメロのF#マイナーのキーからサビのC#マイナーへの5度上への転調のしかたがとても好みです。切なさのオンパレードのようなメロディの行き方ですが、キョンキョンの歌声がポップに昇華させている。アレンジの範疇かもしれないけど追っかけサビ(サビのフレーズを追っかけるようにオーバーダブで重ねる)のフレーズが印象的。

●摩天楼ブルース / 東京JAP(『TOKI色外人倶楽部』 / 1985年)
◎甘いリードボーカルを際立たせる爽やかな色気あるメロディ。この声にこのメロディあり、というくらいはまっている。声質がメロディを呼んだのでしょうか。
サビでは主旋律のカウンターメロディーとして、コーラスが違うフレーズを当ててくる追っかけコーラスサビが印象的。C-C-Bの筒美京平作品でもこの追っかけサビ手法結構多く使われていますね。

●人魚 / NOKKO(『colered』/ 1994年)
◎秀逸なテイ・トイワのアレンジとの相乗効果で出来上がった極上のバラード。
歌謡曲のよくあるA-B-C構成ではなく、シンプルな8小節1ブロックの繰り返しと大サビの構成だが大サビの歌い上げる世界観のあと、少しの変化とともに再度登場する最初のモチーフが今度は息をつまらせるほどの熱を帯びて切ない。

 
 摩天楼ブルース / 東京JAP



作詞/作曲/編曲家。 ボーカル、ギター、サックスを担当。 自身のクループ「鈴木恵TRIO」「EXTENSION58」の他、アイドルグループ「RYUTist」への楽曲提供、作家「大塚いちお」氏との共同楽曲の制作等を行う。
TRIO堂(通販サイト)https://szkststrio.theshop.jp/


●Romanticが止まらない / C-C-B(7"『Romanticが止まらない』/ 1985年)
◎ドラマ「毎度おさわがせします」の主題歌。
サビで「胸が胸が苦しくなる〜」との歌詞に呼応するが如く、強烈に胸を締め付けるようなメロ。先生は、歌詞にマッチする曲をつける天才ですよね。
ピンク色の髪でシモンズを叩く笠さんはテレビでは相当なインパクトでした。が、ユキヒロさんや橿渕さんを知っていた僕にとっては、テクノロジーがお茶の間にも押し寄せてきた、と時代の流れと驚異を肌で感じた高校時代でした。

●ツイてるねノッてるね / 中山美穂(7"『ツイてるねノッてるね』/ 1986年)
◎Romantic〜とはミポリン繋がり、と言うことで続いては中山美穂。資生堂のキャンペーンソングだったのは良く記憶しています。松本隆先生とのタッグ「WAKU WAKU させて」「派手!!!」との三つ巴で、迷った挙句にこちら。当時、中山さんにはそんなに興味がなかったけれど、未だにこの3曲は全部ソラで歌えるほどメロディが記憶に残っています。先生の「心に残るメロディ」を身で実体験したミポリン3部作の中の1曲。

●仮面舞踏会 / 少年隊(7"『仮面舞踏会』/ 1986年)
◎こちらは誰もが認める少年隊のビッグヒットナンバー。編曲家の船山基紀先生をなくしては筒美楽曲を語れませんが、実は当時日本に数台しかなかった「Fairlight CMI」(PSY・S松浦氏のサウンドストリートでお馴染み)を日本ポップス界に持ち込んだコンピュータ音楽の先駆けなんです。と言うことは、イントロのオーケストラヒッツ、もしかしてCMI?って思ったら途端に胸が熱くなりました。そして僕は現在もド頭の拍がとれません。

●強い気持ち・強い愛 / 小沢健二(8cmCDシングル『強い気持ち・強い愛』/ 1995年)
◎「小沢健二=筒美京平ソングブック」と銘打たれた'90年代日本ポップスの最高峰シングル。
先生は常に歌い手を意識して書かれているように思っていまして、とにかくどの曲も音域が歌い手にピタリと来ているんですよね。これ実はとても重要なことなんです。
オケを書いている服部隆之氏はオザケンさんのテレビ出演の際にも後ろで棒を振っている方で、服部良一氏のお孫さんであられることはあまりにも有名ですね。

●AMBITIOUS JAPAN! / TOKIO(CDシングル『AMBITIOUS JAPAN!』/ 2003年)
◎「勇者であれ!」歌詞に沿った作曲をされる先生の'00年代の究極の代表作だと思っています。
「日本人の心に残る筒美サウンド」的な研究は、きっと各所で繰り広げられていて、それは例えばペンタトニックだとか何とかいろんなことがあるのだと思うのですが、僕は「相の手」だと思っているんです。民謡で言えば「それからどうした〜」ってやつ。サビの相の手。これが僕ら日本人の心に浸透させる決め手だったのでは、こんな風に思っているのです。

仮面舞踏会 / 少年隊



オフィシャルブログ:http://blog.livedoor.jp/soulbass77/


●また逢う日まで / 尾崎紀世彦(7"『また逢う日まで』/ 1971年)
◎今更何を語るまでもない代表作の一つ。「話したくない〜」の一節に早くもクライマックスを迎える展開が、カッコイイ。ここでは自ら編曲しピアノを弾いた。つまり、寺川正興による伝説的なベースを「弾かせた」のだとしたら、まさに偉業としか言いようがない。

●さすらいの天使(マジックロード) / いしだあゆみ
(7"『さすらいの天使(マジックロード)』/ 1972年)
◎軽やかでシンプルなメロディ、優しく朗らかな歌声。その中にある確固たる意思というか、何者にも屈しない力強さに、聴く度に勇気が湧く。ただただ、良い曲だなぁと思う。実は多くの歌手が取り上げていて、作者御本人も気に入っていたのではないかなぁ?と想像しています。

●愛の飛行船 / 岩崎宏美(『飛行船』/ 1976年)
◎歌い出しに筒美流AORバラードか?と思わせて、そんなネタ探しを無意味にするようなスケール大きなサビへ。「あ~な~た~が~」という一節に、歌手の実力や持ち味を100%発揮させ、アルバム全体のクライマックスを演出させる手腕はお見事。

●抱きしめてtonight / 田原俊彦(7"『抱きしめてtonight』/ 1988年)
◎ドラマ『教師びんびん物語』主題歌。1988年の『ザ・ベストテン』年間第1位。最後のセクションまでメロディの洪水。メロディラインと、歌声の、その官能的なことと言ったら。トシちゃんは大歌手だと思います。

●なんで なんで ナンデ? / 鈴木蘭々(CDシングル『なんで なんで ナンデ?』/ 1996年)
◎『泣かないぞェ』に続きモータウン・マナーな2ndシングル。平成に生まれた傑作の一つに数えたい。美しすぎるメロディを、完璧に表現した20歳の鈴木蘭々の歌声も素晴らしい。まさにエヴァーグリーン。

 
なんで なんで ナンデ? / 鈴木蘭々



集団行動HP:https://www.syudan.com/
ツイッターアカウント @tikanakangana https://twitter.com/tikanakangana


●さらば恋人 / 堺正章(7" 『さらば恋人』/ 1971年)
◎はい。臆面もなく超有名曲選びました。
しかしながらあれです、幼少期にラジオか何かでこの曲が流れまして、本当にただのガキンチョであった私が「ああなんていい曲なんや」と感じた記憶があるのでございます。特段音楽に興味もなかった子供にそう思わせるって、とんでもないと思います。

●日曜日はストレンジャー / 石野真子
(7" 『日曜日はストレンジャー』/ 1979年)
◎イントロまんまやないかい、的なツッコミもあるそうですが、演奏もキレッキレでメロディも最高、言う事無しの名曲だと思います。「悪魔に〜♪」のギターでご飯何杯でもいけます。ちなみに僕はいしのようこさんがタイプです。

●セクシャルバイオレットNo.1 / 桑名正博
(7" 『セクシャルバイオレットNo.1』/ 1979年)
◎20代中頃、わずかな期間でしたがスーツを着て仕事をしていた時期があり、その頃人生唯一の出張で某所に行きまして、その晩港町の場末のスナックで現地の案内の方がこの曲を熱唱されていまして、そりゃあもう鮮烈な記憶として脳内に残っておるわけです。

●卒業 / 斉藤由貴(7" 『卒業』/ 1985年)
◎イントロからもう掴まれてしまいます。武部聡志さんの編曲がこれまた良すぎて何十年経っても全然古臭くもダサくもないという。メロディ、歌詞、アレンジ、歌声、全部完璧でもうやんなっちゃいます。神曲って言うんですかね。

●元気!元気!元気! / 高橋由美子(シングル『元気!元気!元気! 』/ 1991年)
◎高橋由美子さん、好きだったので。てゆうか今も最高だぜ!実は歌もうまい。
そんでもって秋元康さんの歌詞がまたメロディと声にバッチリ合うのです。タイトル通り、なんだか元気が出る良曲です

 
セクシャルバイオレットNo.1 / 桑名正博



オフィシャルサイト:https://groove-unchant.jimdo.com/


●ベイビー,勇気をだして / 堺正章(『サウンド・ナウ』/ 1972年)
◎「サウンド・ナウ」という全曲筒美京平先生が作・編曲した堺正章のアルバムに収録。
全曲を通してモータウン・サウンドを意識した歌謡曲。
いうならば早すぎた渋谷系!? 特にこの曲が最高すぎ!!!!

真夜中のエンジェル・ベイビー(セルフカバー7インチ)

●真夜中のエンジェル・ベイビー / 平山みき
(7"『真夜中のエンジェル・ベイビー』/ 1975年)
◎平山みきさん×筒美京平先生は昭和歌謡の宝物と思っております。
畏れ多くも2016年ぼくのレーベルで平山みきさんにセルフカバーしていただきました。
平山さんに歌っていただくのも光栄でその上カバーを先生に許可いただけたのは震えるほど感激したのを覚えております。

京平ディスコナイト / Various
  
●セクシー・バス・ストップ / 浅野ゆう子
(7"『セクシー・バス・ストップ』/ 1976年)
◎もともとは筒美京平先生が率いた覆面ユニット“Dr.ドラゴン&オリエンタル・エクスプレス”の1stシングルで、“Jack Diamond”という変名で作曲した作品でインスト曲だったものをボーカルカバーした曲です。実は小西康陽氏監修の『京平ディスコナイト』(2007年)の中でこの曲をわたくしがリミックスしておりまして・・・。
生涯忘れられない曲のうちの1曲でもあります。

●女になって出直せよ / 野口五郎
(7"『女になって出直せよ』/ 1979年)
◎高揚感のあるストリングスとブラスアレンジ、キレのあるギターカッティング。
それもそのはずラリー・カールトン、デヴィッド・サンボーン、トム・スコットといった強力バッキングによるロサンゼルスレコーディング。野口五郎の31枚目のシングル。

●Hey girl / スクーターズ(『女は何度も勝負する』/ 2012年)
◎現在進行形でモータウン・サウンドと歌謡曲の融合、カバーであっても日本語詞のバンドといえば信藤三雄氏率いるスクーターズではないだろか。
スクーターズが筒美京平先生に曲を依頼したのも前述の「サウンド・ナウ」を聴けばしっくりくる。

 
セクシー・バス・ストップ / 浅野ゆう子




●いつか何処かで /平山三紀(7'『希望の旅』/ 1972年)
◎定期誌VANDAで90年代初頭に発掘された筒美作品で、所謂”ビートでジャンプ歌謡”の元祖ではないだろうか。ボサノヴァのリズム・テクスチュアをオーケストレーションに転換した発想を踏襲した優れたコンポーズとアレンジである。プロトタイプとして前年に欧陽菲菲の「あなたは再び帰らない」で試しており、その完成形がこの曲といえる。73年にはつなき&みどり(三原綱木と田代みどりの夫婦デュオ)がカバーしている。作詞:橋本淳 / 編曲:筒美京平

●美しい誤解 / 南沙織(『20才まえ』/ 1973年)
シンシアでは最もヒットした7thアルバムのB面において新録されたシングル・メドレーの後にひっそり収録された隠れソフトロック曲。編曲は元アウト・キャストの穂口雄右が担当しており、ウーリッツァーを中心にしたコンボ編成に弦とホーンが絡む。表向きは当時のA&Mサウンドと感じる人もいるだろうが、旋律の転回やハネ方が極めて複雑で、ミシェル・ルグラン等にも通じるジャズ・テイストで、同時代の歌謡曲とは異次元なのが理解出来る。
作詞:有馬三恵子 / 編曲:穂口雄右

●グッド・ラック / 野口五郎(7'『グッド・ラック』/ 1978年)
◎筒美作品も70年代後半に入るとR&BをベースにしたAORテイストを加味してくる。この曲もその代表で、イントロのクラビネットのリフに絡むギターのアルペジオやファンキーなベースラインなどは典型的サウンドである。山川の洗練された歌詞に対し京平メロディは極めて洋楽的で、当時小学生の筆者は「ブラインド降ろし」のアクセントが気になって仕方がなかった。歌謡曲の巨匠が脱歌謡曲の方法論を提示させた曲の一つではないだろうか。作詞:山川啓介 / 編曲:高田弘

●たそがれマイ・ラブ / 大橋純子(7'『たそがれマイ・ラブ』/ 1978年)
◎フェイザーをかました矢島賢(「グッド・ラック」でもプレイした名手)によるイントロのギターリフが象徴するクールなAOR歌謡で、数多ある筒美作品の中でも極めて完成度が高い。美乃家セントラル・ステイションは参加せず、手練なスタジオ・ミュージシャン達の演奏によって、S・ガッドなどスタッフがバッキングしたC・サイモンの「You Belong To Me」(78年)を想起させるNY派系の緊張感あるサウンドに仕上がっている。この効果もあり阿久悠が描く大人達の不毛の恋愛模様が、大橋の圧倒的な歌唱力でよりドラマチックに演出された。
作詞:阿久悠 / 編曲:筒美京平

●スカーレットの毛布 / 太田裕美(『海が泣いている』/ 1978年)
◎10年程前SNSで音楽家の片寄明人さんに教えてもらった筒美=松本の黄金コンビによるLA録音。一聴してD・フォスターの影響下にある萩田光雄のアレンジで、ドラムのエド・グリーンはC・B・セイガーの「It's The Falling In Love」(78年)と同じかと納得した。LA産AORサウンドをバックに、舌足らずでコケティッシュな太田に「僕の辞書には愛がない」と歌わせる対話形式の松本イズムの歌詞に京平メロディが乗れば何も言うことはない。作詞:松本隆 / 編曲:萩田光雄

 
たそがれマイ・ラブ / 大橋純子

(企画 / 編集:ウチタカヒデ)