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2026年2月4日水曜日

生活の設計 『長いカーブを曲がるために』

”大塚兄弟主演、フェリスはある朝突然に” 

 ロックバンド“生活の設計”が、セカンド・アルバム『長いカーブを曲がるために』を2月11日にアナログLPでリリースする。今月7日には本リリースを記念したワンマンライブを開催するので参加する読者もいるだろう。

 本作『長いカーブを曲がるために』は、昨年10月15日に配信で先行リリースしたアルバムなので、既に愛聴している読者も多いと思うが、そんな配信音源より再生周波数の帯域が格段に広く、高音質で聴けるばかりか、所有感を味わえるなどアナログLPのメリットは多々あるので、拘りを持つ音楽ファンは是非入手して頂きたい。

左から大塚薫平、大塚真太朗
 
 彼ら生活の設計のプロフィールは、先月のワンマンライブの記事で触れたばかりだが、リーダーでボーカル兼ギター、ソングライターの大塚真太朗と、実弟でドラム兼コーラスの大塚薫平による2人組のロックバンドである。前身バンド“恋する円盤” や“Bluems (ブルームス)”時代を含め、9年以上の活動経歴を持っており、2023年4月にファースト・フルアルバム『季節のつかまえ方』、同年11月に7インチ・シングル『キャロライン』をリリースしている。なお本作『長いカーブを曲がるために』に収録された内2曲は、GREAT3(1994年~)の片寄明人がプロデュースを手掛けており注目なのだ。
 またバンドのデビュー当時から、元ピチカート・ファイヴで著名クリエイターの小西康陽氏から高評価を得ており、ファッション・カルチャー雑誌『POPEYE』では対談記事が掲載され、その存在は音楽マニアから一般層にも広がっている。特筆すべきことに今年1月11日には、テレビ朝日の人気音楽番組『EIGHT-JAM』の【プロが選ぶ年間マイベスト2025】にて、元SUPERCARのギタリストで現在作詞家兼音楽プロデューサーとして活躍する、いしわたり淳治氏に、本作収録曲「小東京(リトル・トーキョー)」を選出されるという快挙もあり、今後彼らの活動もより一層注目されるだろう。


 ここでは筆者による収録曲の詳細解説と、メンバー2人が本作の曲作りやレコーディング中、イメージ作りで聴いていたプレイリストをお送りするので聴きながら読んで欲しい。
 冒頭の「街とダンサー」は、大塚(真)作らしい青春ブルーアイドソウルと呼べる、ポジティブながら散文詩的歌詞と躍動的なグルーヴが眩しい。サビの「しかめつらでもいいよ 帰り道はでかい音で音楽を聴くよ・・・」というライン、右チャンネルやセンターで聴ける、ゲスト・ギタリストの元Seukolの廣松直人によるブルージーなリフが強く耳に残り、曲の重要なエレメントとなっている。歌詞と曲の完成度が高く、冒頭のリード曲として相応しい。
 続く「稀代のホリデイメイカー」は昨年9月17日に先行配信リリースされたシングルで前出の通り、片寄明人がプロデュースをした2曲の内の1曲で、レコーディングにはGREAT3のサポート・キーボディストで数多くのセッションで知られる堀江博久と、セッションマンとしてメジャー・ワークも多い井上真也が参加している。
 アップテンポなシェイクビートに、Pico(樋口康雄)の「I LOVE YOU」(1972年)を彷彿とさせる和製ノーザン・ソウル風コード進行とスキャットのイントロでまずは耳を奪われるが、「とにかく外へ出て、旅に出て、さまざまなものを体験しよう」というテーマを持つ歌詞と大塚(真)の溌溂したボーカルが、メロディアスでポップなロック・ミュージックの心地良さを思い起こさせるナンバーに仕上がっている。大塚(薫)のやや前乗りのドラミングに、井上のバックビートにアクセントを持つべース・ラインが独特なグルーヴを形成し、堀江によるオルガンもメインのコード・ワークの他、グリッサンドのアクセント、スタッカートを活かせたオブリガード的リフなど多彩なプレイを繰り広げている。曲が持つべき方向性に的確に導いていくという、片寄のプロデュース力(りょく)を垣間見れる。

片寄明人

 3曲目の「いちょう並木の枯れるまで」は、弊サイト読者にも強くアピールする東海岸シャッフルのリズムを持つソフトロックで、アルバム・リリース前のライブでも披露されており、筆者も生で聴いて直ぐに気になった曲である。弊サイト前進のVANDA監修書籍『ソフトロックA to Z』で発掘された、ジェリー・ロス(Jerry Ross)のプロデュースでジョー・レンゼッティ(Joe Renzetti)がアレンジした、Keithの「Ain't Gonna Lie(嘘はつかない)」をオマージュしており、ソフトロック・マニアは唸る筈だ。
 A面ラストの「いさかいないせかい」は、片寄がプロデュースしたもう1曲で、フィラデルフィア・ソウル風のギター・リフ、Stax Records~Hi Recordsでドラマー兼プロデューサーとして活躍したアル・ジャクソン(Al Jackson Jr.)が編み出したリズム・パターン、ノーザン・ソウル風のフレーズ(「Am I The Same Girl」(「Soulful Strut」でも知られる))がモザイクでオマージュされたポップスだ。歌詞のテーマがユニークで、日常の情景から反戦イズムに繋がっていくというのが、作者である大塚(真)の世界観なのだろう。サウンド的にも大塚(薫)と井上によるリズム隊のグルーヴ、堀江のアープ系アナログ・シンセの温かみのあるソロなど聴きどころは多い。


 B面冒頭の「タイニー・シャイニー」は昨年12月6日にアナログ・7インチでシングルカットされていて、ポール・ウェラーがフロントマンだったThe Jam(1972年~1982年)に通じる、パンキッシュなネオモッズ感覚のサウンドが特徴だ。大塚(真)による退屈な日々から逃避行したクラビングのワンシーンを切り取った歌詞が瑞々しく、彼のボーカルもこのようなアップビート・ナンバーでは一層映える。ゲスト参加したHedigan's(ヘディガンズ)のギタリスト、栗田将治がプレイするリード・ギターの存在感は極めて大きく、双方にとって意義のあるコラボレーションとなった。また大塚(薫)の激しいドラミングとコンビネーションするのは、ゲスト参加したLIGHTERSのべーシスト清水直哉だ。
 同曲7インチのカップリングだった「君に起こりますように」は、レギュラー・サポートメンバーであるベーシストの大橋哲朗とキーボーディストの眞﨑康尚が参加し、大塚(真)のジェントルな歌詞とボーカル、眞崎による印象的なピアノが耳に残るラヴソングだ。ミドルテンポでメロディックなソフトロック調のサウンドで、米東海岸シャッフルのブリッジを挟んでいてアレンジ的にも凝っており、弊サイト読者にもアピールした好ナンバーに仕上がっている。

 続く「ポモドーロ」は、眞﨑のウーリッツァー系エレピがメインコードを刻む、変拍子パートを持つ2分15秒の小曲だ。大塚(薫)と大橋のリズム隊も特殊なテンポ・チェンジを巧みにプレイしている。タイトルのポモドーロはイタリアンのトマトソース・パスタ名で、歌詞のモチーフの一つで、ガールフレンドとのローマ旅行がテーマになったラヴソングに仕上がっている。
 B面ラストの「小東京(リトル・トーキョー)」は、前出の通り、『EIGHT-JAM』の【プロが選ぶ年間マイベスト2025】でいしわたり淳治氏に取上げられたばかりでなく、日本テレビ系ニュース番組の天気コーナーで一時タイアップされていた軽快なポップスだ。レギュラー・サポートメンバーであるパーカッショニストの關街によるコンガに絡むクランチ気味な廣松のエレキギター、大塚(薫)のビートも乗って展開していく。
 この曲も歌詞の世界観がユニークで、ラヴソングの要素もあるが、高倍率ズームレンズでその視点が瞬時に移動していくのが興味深く、大塚(真)の高い作詞能力を感じさせる。その他のゲスト・ミュージシャンは、キーボーディストの眞﨑、べーシストの清水が参加している。
 

生活の設計『長いカーブを曲がるために』
プレイリスト  
 
大塚真太朗
 アルバムを聴いてもらった人でソフトロックやソウルミュージックを愛好しているリスナーだったらすぐ分かる、というかこのWebVandaの読者の方々にはすぐわかってしまう曲ばかりを元ネタにしているので、列挙するのも野暮かもしれませんが、、

でも曲名やアーティスト名をこうして書いてみるだけで心がウキウキする大好きな曲ばかりです。
  「タイニー・シャイニー」に多大なる影響を与えた「恋はヒートウェーヴ 」はもちろん原曲も大好きですがあえてTHE COLLECTORS版で。ザ・リボンズというバンドの『君に届かない歌を大いに歌う』という作品に興奮した体験も曲に入れています。

 何卒『長いカーブを曲がるために』をよろしくお願いいたします。

■A Week Away / Spearmint(『A Week Away』1999年)
■Ain't Gonna Lie / Keith(『98.6 / Ain't Gonna Lie』1967年)
■I’ll Be Around / The Spinners(『Spinners』1973年)
■恋はヒートウェーヴ / THE COLLECTORS(『愛ある世界』1992年)
■Too Young To Be One / The Turtles(『Happy Together』1967年) 


大塚薫平
 友達のミュージシャンや日頃支えてくれているサポートミュージシャンとの共作を通じて身近なバンドの音楽に触れる機会が増えた。それと同時に、ソリッドでいて勢いのある60、70年代のロックのドラムやそこのリファレンスを受けた音楽を意識して制作にあたっていました。
 「稀代の〜」のリハでKey堀江さんに「(そのような)勢いあるドラムは年取ると出来なくなるよ」と言われました。なるべくずっとやれるよう筋トレしてます。

■In The Modern World / Fontaines D.C.(『Romance』2024年)
■マンション / Hedigan‘s(『Chance』2025年)
■It’s Not True / The Who(『My Generation』1965年)
■It’s Ok To Cry / Phoebe Katis(『It’s Ok To Cry』2020年)
■Deadstick / King Gizzard And The Lizard Wizard 
(『Phantom Island』2025年)



 なお本作はプレス枚数限定のアナログLPで、インナースリーヴの歌詞とクレジットの裏面にメンバーの大塚兄弟とプロデューサーの片寄明人への“ここでしか読めないインタビュー”が掲載された特別仕様となっている。
 筆者の収録曲の詳細レビューを読んで興味を持った音楽ファンは、早期にリンク先のショップで予約して入手しよう。

disk union 予約:こちらをクリック

(テキスト:ウチタカヒデ





高音質配信
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2026年1月24日土曜日

生活の設計 『長いカーブを曲がるために』リリース記念 ワンマンライブ


 昨年10月15日にセカンド・アルバム『長いカーブを曲がるために』を配信で発表していた“生活の設計”が、同アルバムを2月11日にアナログLPでリリースする。それを記念したワンマンライブ が2月7日に開催されるので紹介したい。

 まずは彼ら生活の設計のプロフィールに触れよう。リーダーでボーカル兼ギターの大塚真太朗と、実弟でドラム兼コーラスの大塚薫平による2人組のロックバンドで、前身バンドの“恋する円盤” や“Bluems (ブルームス)”時代を含めると、9年以上の活動経歴になる。2023年4月にファースト・フルアルバム『季節のつかまえ方』、同年11月に7インチ・シングル『キャロライン』をリリースしており、最新作『長いカーブを曲がるために』に収録された2曲は、GREAT3(1994年~)片寄明人がプロデュースを手掛けて話題になっている。
 デビュー当時から元ピチカート・ファイヴの小西康陽氏から高評価を得ており、ファッション・カルチャー雑誌『POPEYE』にも取り上げられ、その存在は音楽マニアから一般層にも広がっている。更に今年1月11日には、テレビ朝日の人気音楽番組『EIGHT-JAM』の【プロが選ぶ年間マイベスト2025】にて、元SUPERCARのギタリストで現在作詞家兼音楽プロデューサーとして活躍する、いしわたり淳治氏に収録曲「小東京(リトル・トーキョー)」を選出されるなど、彼らの前途は非常に明るいと言える。

 そんな彼らの『長いカーブを曲がるために』アナログLP・リリース記念ワンマンライブだが、サポートメンバーには、サブメンバーと言えるキーボーディストの眞崎康尚、べーシストの井上真也、パーカッショニストの關街に加えて、ゲスト・ギタリストとして、昨年12月に7インチでシングルカットした『タイニー・シャイニー』でフューチャーされたHedigan's(ヘディガンズ)の栗田将治も参加する。
 そしてライブの前後を飾るDJ陣には、収録曲の「稀代のホリデイメイカー」と「いさかいないせかい」をプロデュースした片寄明人に加えて、彼らの良き理解者である小西康陽氏も参加ということで、嘗ての渋谷系重要人物が顔を揃えるという極めて貴重なライブとなるので、興味を持った音楽ファンは直ぐに予約して欲しい。
 生憎であるが、この記事を執筆後の1月19日に前売り予約分がソールドアウトしてしまったので、当日券のアナウンスを彼らのSNSでチェックしよう。


生活の設計 『長いカーブを曲がるために』
リリース記念 ワンマンライブ 

日時:2026/2/7(土) 開場19:00 開演19:30 

会場:月見ル君想フ (東京都)
東京都港区南青山4−9−1

出演者:生活の設計
サポートメンバー
Key. 眞崎康尚
Ba. 井上真也 
Per. 關街
+Guest Gt. 栗田将治


開演前DJ:片寄明人

終演後DJ:小西康陽

前売り予約券SOLD OUT!!
※当日券の情報はコチラをチェック


(テキスト:ウチタカヒデ







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2025年12月26日金曜日

WebVANDA管理人選★2025年のベストソング


 今年も恒例のWebVANDA管理人が選ぶ年間ベストソングを発表したい。
 幣サイト母体のVANDA誌が指向するソフトロック系ではないカテゴリーの楽曲も一部選出しているが、これまで同様に分け隔てなく音楽の多様性を許容することが管理人の信条であるので、どうか理解して頂きたい。選出した楽曲は、今年2025年にリリースされ、弊サイトで取り上げた作品を中心に、管理人が執筆前に幾度もリピートした収録曲であり、アルバムを象徴する曲である。
 今回もインディーズ・レーベルからリリースされたミュージシャンの作品が多く、プロモーションがメジャーに比べて限定的な彼らを応援する意味で今後も続けていきたいと思う。毎年の繰り返しであるが、この記事で改めて知った各アルバムは、これからでも遅くないので、リンク先から是非入手して聴いて欲しい。
 今年も選出趣旨からコンピレーション、セルフカバーを除く他者のカバー作品は除外とした。昨年同様、順位不同のリリース順で紹介する。
    ※サブスク登録ベストソング・プレイリスト 


 ☆She Is Mine / 近藤健太郎 
(『Strange Village』収録・レビュー記事はクリック 
シャッフル・ビートで始まる、とっておきのソフトロックであるこの曲は、レジェンド・シンガー・ソングライター杉真理がコーラスで参加し、その美声でこの曲を格調高くしている。アレンジ的にもよく練られていて、共同プロデューサー及川雅仁がプレイするヴィブラフォンの旋律を聴いて切なくなるビーチボーイズ・ファンもいるだろう。詞曲共に完成度が高く、ファースト・ソロアルバム『Strange Village』を代表する曲である 。


 ☆子午線 / 北園みなみ
(『Meridian』収録・旧作レビュー記事はクリック
 Lampの2014年の『ゆめ』でその手腕を発揮していた鬼才クリエイターの10年振りの新作であり記念すべきファースト・ソロアルバムの冒頭曲である。転調とテンポチェンジを繰り返す、音楽を深く考える人のためのジャズファンクだ。ストリングス・セクションは、今も戦禍の中にあるウクライナはキーウのスタジオ”Kaska Records”にて、同スタジオの主でプロデューサーのアナトリー・シュマルグンの下でレコーディングされ、これ以上ない緊張感をこの曲に与えている。 


 ☆贅沢な週末を / Nagakumo
(同名配信シングル・旧作レビュー記事はクリック) 
2023年にも年間ベストに選出し、今も音楽通から熱く注目されている大阪の4人組ネオネオアコ・バンドの今年春の配信シングル曲。得も言われぬ疾走感と極上で甘酸っぱいサビのメロディ、表現力豊かで透明感のある紅一点コモノサヤのボーカルなど、そのスタイルはデビュー当時からであるが、メイン・ソングライターのオオニシレイジのソングライティング・テクニックも更に向上したように思える。来年にはニューアルバムを期待できるだろう。 


 ☆お星さま採集~白鳥倶楽部のテーマ~ / スワンスワンズ
(同名シングル・レビュー記事はクリック
偶然出会ったセルフ・プロデュース・アイドル・デュオのシングルで、3分弱の尺なのだがパート毎に転調を繰り返してメロディも複雑で、歌詞の世界にインスパイアされたこのサウンドは、サイケデリック・プログレッシブロック・マニアでないと作れない。特にサビのメロディはクラシック音楽の素養がないと編み出せないし、ブリッジのペンタトニック・スケールのメロでクールダウンさせるテクニックも巧みだ。そのセンスも含め令和のシド・バレットかロイ・ウッドと呼べる。 


 ☆Night In Soho / Wink Music Service
(同名7インチ・レビュー記事はクリック
拘りのポップ・グループWMSの7インチ・シリーズの第5弾。ロンドンのウエスト・エンドの一角にあったソーホー地区への憧憬の歌詞を持ち、曲調やサウンドも歌詞の世界そのままに60年代へのオマージュに満ちている。ジミー・ウェッブ作「Up, Up And Away」のリフが引用され、イントロやコーラスを含めたサウンド全般は、ソフトロックのエッセンスを濃縮して1989年に制作された英国のSwing Out Sisterの「You On My Mind」をオマージュしている。


☆いちょう並木の枯れるまで / 生活の設計
(『長いカーブを曲がるために』収録・関連作レビューはクリック) 
今月初頭7インチでリリースされたばかりの「タイニー・シャイニー」や、片寄明人がプロデュースした先行配信シングル「稀代のホリデイメイカー」も悪くないが、このサイトに相応しいベストソングとしてはこの曲を選ぶ。アルバム・リリース前のライブでも披露されていた、シャッフルのサンシャイン・ポップ然としたソフトロックで、弊団体監修書籍『ソフトロックA to Z』でピックアップしたKeithの「Ain't Gonna Lie(嘘はつかない)」をオマージュしている。


 ☆ナサリー / 無果汁団
(『ナサリー』収録・レビュー記事はクリック
普遍的バラードでサビの8小節目で解決させるテンション・コードが入る瞬間は鳥肌が立つ。新主流派以降のジャズ・ミュージシャン(ドナルド・フェイゲン含む)やスティーヴィー・ワンダーとそのフォロワー達しか自在に使いこなせない高度なコード進行というか、こういった無垢なバラードに、そんなサムシングなスパイスを付けられるのが、彼らの音楽理論の教養の高さやセンスを強く感じさせる。本曲収録の4thアルバムは彼らの最高傑作となった。


 ☆A White Heron/白い鷺 / Cambelle
(『Magic Moments』収録・レビュー記事はクリック) 
ローラ・二ーロ風コード進行のイントロのピアノから耳に残り、歌詞と曲が高次元で溶け合った、その世界観にはノスタルジーを超えたサムシングが潜んでおり、熊谷慶知のソングライターとしての能力や歌詞の世界を表現するソフトなボーカルには感心するばかりだ。アナログシンセ・ソロやエレキギターのリフ、歌詞に呼応するドラミングも曲を構築する重要なエレメントとなってこの曲の完成度を高めている。初期オフコースの匂いもする。 


 ☆NOVA ERA / Saigenji
(同名配信シングル・関連作レビュー記事はクリック) 
バークリー音楽大学でアジア人初の助教授となったYUKI KANESAKAとのコラボレーション第2弾で、ライヴパフォーマーとしての彼を如実に現している。ミナス・サウンド系のコード進行とポルトガル語の歌詞に、激しいビートが映えており、YUKI の新主流派風ピアノ・ソロ、Saigenji 自身によるフルート・ソロも繰り出され、正にブラジリアン・エクスペリメンタル・ダンスナンバーとなった。来年はこのコラボレーションがアルバムとして結晶することを願っている。


 ☆街のレヴュー / The Bookmarcs
(『BLOOM』収録・レビュー記事はクリック
男性2人組ユニットのフォース・アルバムの重要曲で、イントロからAzymuthの「Fly over the Horizon」に通じるアナログ・シンセのポルタメントが効いたフレーズから引き込まれる。横浜関内にあるレンガ作りのカフェ”馬車道十番館”を舞台にしたと思しきラブソングで、近辺のロケーションが織り込まれており完成度も高い。サウンド的には前出のアナログ・シンセやエレキベースのアクセント、シンセタムのフィルによって、横浜のナイト・シーンが目に浮かぶ演出で脱帽してしまう。



音楽活動再開☆特別枠

☆除霊しないで / フレネシ
(同名配信シングル・関連作レビュー記事はクリック) 
音楽活動再開後初の配信シングルで、11年もの長いブランクを感じさせないクオリティである。テーマから極めて独自過ぎるが、サビでキャッチーなリフレインにしてしまうという言葉選びをした歌詞、音数をそぎ落としたレトロフューチャーなエレクトロポップ・サウンドは健在で、唯一無二なフレネシ・ワールドが炸裂している。来年にはニューアルバムも期待できそうなので、更に不可思議な楽曲を期待している。


(選曲及びテキスト:ウチタカヒデ

2025年12月7日日曜日

cambelle:『Magic Moments』

“インディーズ新人バンドの1stアルバムとしては
稀なサウンド・プロダクション” 

 インディーポップバンドcambelle(キャンベル)が、ファースト・フルアルバム『Magic Moments』(OLD JOY RECORDS/OLDJ-1)を11月19日にリリースした。
 彼らは東京を拠点に活動する男女3名組で、バンド編成も去ることながら、そのソングライティングやサウンドからはLampウワノソラを彷彿とさせる。
 先月の本作リリース直後SNS経由で管理人宛にメンバーからDMが届き、弊サイトやVANDA監修の『ソフトロックA to Z』(初版96年)シリーズの熱心な愛読者であることを知り、遅ればせながら取り上げるに至った。

左から川上遥、市原諒、熊谷慶知

 先ずはcambelleのプロフィールに触れよう。ケイチ&ココナッツ・グルーヴ(2022年~2024年)のメンバーだった熊谷慶知(ボーカル、ギター、ピアノ他)、市原諒(プロデューサー、プログラミング他)、川上遥(キーボード、ボーカル、トランペット)の3名により2024年に結成された。60年代ポップスや70年代ソウルからAORやボサノヴァ等々温故知新派の若きメンバー達によりクリエイトされた楽曲は、前出の通りLmapやウワノソラの初期に通じるので、耳の肥えた弊サイト読者にも強く響くはずだ。

 本作ではメイン・ソングライターの熊谷を中心に、川上も1曲で作曲しており、アレンジはメンバー3名か2名の合議制で進めている。バンド内プロデューサーである市原の立ち位置がユニークだが、レコーディングでは殆ど生演奏に参加せず、プログラミングを担当しており、例えばセイント・エティエンヌ(Saint Etienne)のボブ・スタンリーのように膨大な音楽知識を基にアレンジのアイディアを出しているのではないだろうか。蛇足だがボブ・スタンリーがSNSのXでフォローする数少ない(唯一?)の日本人アカウントに、筆者が管理する弊サイト・アカウントもあり、ポピュラー音楽研究家の末席として光栄の至りである。

 レコーディングは都内のstudio CRUSOEでおこなわれ、エンジニアにはポストロック・バンドtalkを率いていたKensei Ogata、ミックスはMagic Sonやセッション・ドラマーの山本直親がそれぞれ担当して、ミュージシャンならではのセンスで本作に貢献している。またマスタリングはstudio CRUSOEのオーナーである西村曜が手掛け、サウンド・クオリティを更に向上させているのだ。
 懐かしも新しいジャケットのイラストレーションと全体のアートワークは、イラストレーターのサカサノカサによるもので、本作『Magic Moments』のサウンドを如実に現わしており、本年度リリースされた数多のアルバム・ジャケットの中でも高ランクではないだろうか。


 ここでは筆者による収録された全曲の詳細解説をお送りする。
 冒頭のタイトル曲「Magic Moments」は、熊谷のソングライティングとメンバー3名のアレンジによる現代のソフトロックで、イントロから独特なヴォイシングのコーラス、空間系エフェクターが効いたシンセサイザー・パッドとデジタル・エレピ、彼方で聴こえるホーン、眠りから目覚めさせる金物パーカッションとグロッケンと、この構築力で本作全体のクオリティを計り知れる素晴らしいサウンドだ。
 また夕暮れのマジックアワーを綴る歌詞をビビッドに浮かび上がらせるのは、熊谷の甘くソフトなボーカルと、サビに追い足したトランペットのオブリガードで、このアレンジにはニック・デカロの匂いがしてよく研究されている。熊谷はボーカルとコーラスの他にべース、川上は鍵盤類とトランペットをプレイし、ゲストではpersimmonの川島健太朗が各種ギター、ミキシングを担当した山本直親は本職のドラム、コーラスでマオ、パーカッションで筋野優作と亀山響吾でそれぞれ参加している。川島と山本は本作収録曲の多くに参加し、全体のサウンドプロデューサー・チームのメンバーとしてクレジットされている。
  続く「Gloom/親密さについて」は先行配信されたファーストシングルで、前曲同様のパーソナリティによるソングライティングとアレンジだが、一転してメロウなグルーヴでネオシティポップ以降に出てきたバンドのサウンドらしい。Lampの「街は雨降り」(『そよ風アパートメント201』収録/2003年)を彷彿とさせるが、エレピが刻むボサノヴァとソウルを融合させたリズム感覚は、チック・コリアの「What Game Shall We Play Today」(『Return to Forever』収録/1972年)にまで遡るだろう。編成的に特筆すべきは川上がコーラスに加わって、市原がエレキギターをプレイしている点だ。


A White Heron/白い鷺/cambelle

 筆者が本作中ファースト・インプレッションで惹かれたのが、3曲目の「A White Heron/白い鷺」である。ローラ・二ーロ風コード進行のイントロのピアノから耳に残り、歌詞と曲が高次元で溶け合ったその世界観にはノスタルジーを超えたサムシングが潜んでおり、熊谷のソングライターとしての能力や歌詞の世界を表現するソフトなボーカルには感心するばかりだ。その熊谷はべースの他、アコースティックギターとポルタメントを効かせたヴァイオリンまでプレイしている。川上による間奏のアナログシンセ・ソロや川島のエレキギターのリフ、歌詞に呼応する山本の巧みなドラミングも曲を構築する重要なエレメントとなって、この曲の完成度を高めている。初期オフコースの匂いもして、弊サイトで同バンドのコラムを連載していた音楽家の吉田哲人にも勧めたいし、筆者の本年度年間ベストソング候補に入る一曲である。
  セカンドシングルとして先行配信された「Giddy Parades/街場」は、シングルとしてチョイスされたのが意外なブリリアントな熊谷のソングライティングで、『SMILE』(1967年、2004年)期のビーチ・ボーイズやそのフォロワーであるハイ・ラマズに通じるバースがイントロ無しで始まり、転調とパート・チェンジを繰り返していく。コーダのコーラスではまた中期ビーチ・ボーイズ風で締め括っている。この曲ではバンジョーに片野修作、フリーキーなアルトサックスは中澤義也がゲスト参加し、この曲のソフトサイケなサウンドに貢献している。
 続くインスト小曲の「Interlude」も熊谷作で、前曲からの雰囲気を引き継いだSMILEフォロワー・サウンドだ。熊谷は一人多重コーラスとピアノ、中澤はバリトンサックスに持ち替えて2人のみの演奏で完成させている。約1分半の尺ではあるが、サムシングな余韻を残してくれる。


 本作中盤6曲目の「Dream in Bossa /しずかなふたり」は、熊谷の詞に川上が作曲して、熊谷とデュエットでボーカルを取るボサノヴァ・ポップだ。スティーヴィー・ワンダーの「You Are the Sunshine of My Life」(1973年)に通じるイントロから、2人の異なる声域のボーカルがブレンドすることで相乗効果をもたすクールなボサ・ラブソングである。川上はエレピの他、シンセサイザー・べースもプレイしており、ガットギターは片野、ドラムに山本、パーカッションは筋野がそれぞれ担当している。中澤はこの曲ではフルートをプレイし、マルチ木管奏者として本作に貢献している。
 再び熊谷の単独ソングライティングによる「Our Suburban Friends/火粉」は、尺の長いアコースティックギターのカッティングから始まる抒情的歌詞を持つバラードだ。本作中他の曲とは毛色が異なり、じわじわと感動を呼び起こすサウンドで、コーダではフェイドアウトせず唐突に終わるのがcambelle流なのだろう。ボーカルを取る熊谷はべース、ピアノと各種キーボードをプレイし、川上がグロッケン、川島はアコースティックギターを担当しており、ドラムレス編成である。
 幅広いソングライティング・スタイルを持つ熊谷は、続く「Christopher/クリストフ」では米東海岸風シャッフルのスウィートなソフトロックを披露している。歌詞の世界観も実にサンシャイン・ポップ的であり、詞曲共に器用に書き分けられる才能に脱帽してしまう。そんな熊谷はべースとキーボード、川上はコーラス、ピアノとヴィブラフォンをプレイし、ゲストの川島はアコースティックギターとコーダでエレキギターのソロ、山本はドラム、筋野はパーカッションで参加している。

 終盤9曲目の「Sleep Warm/微睡の午后」は、熊谷作のラテン・フィールがあるドラムレスの美しいスローバラードで、ビーチ・ボーイズをこよなく愛する弊サイト読者なら初見でオマージュ元のいくつかのエレメントが分かる筈だ。「Caroline, No」をべースに、間奏のテルミン風ソロは「I JustWasn't Made For These Times」(共に『Pet Sounds』収録/1966年)からだろう。それ以外にもシュガー・ベイブの山下達郎作「過ぎ去りし日々"60's Dream"」(『SONGS』収録/1975年)経由で、The Cyrkleの「The Visit (She Was Here)」(『Neon』収録/1967年)やOhio Knoxの「Pound Or My Dog Dad For Robert Downey (A Prince)」(『Ohio Knox』収録/1971年)のバース部など温故知新派の真髄であるが、何より重要なのはこの曲自体が本当に良い曲だということだ。熊谷はべースとキーボード、川上は各種鍵盤でチェンバロ(ハープシコード)、テルミンをシミュレートしたシンセサイザーも担当しているではないだろうか。ゲストの川島はアコースティックギター、筋野はボンゴとクラベスをプレイしている。 
 本作ラストの「Akegata/明け方のブルース」は、熊谷のソングライティングだがアレンジは川上と市原が担当しており、演奏も川上のシンセサイザーのみで構築した小宇宙のようなサウンドである。「Our Suburban Friends/火粉」同様に、人生を達観した哲学的作風を持っているのは、他の同系統のバンド・メンバーには無い、熊谷の才能であり今後強みになっていくだろう。


 最後に本作『Magic Moments』の総評として、才能あるソングライターが生み出したダイヤの原石を、バンドメンバーとサポートメンバー達がきめ細かく丁寧に磨き上げてクリエイトしたという、インディーズ新人バンドのファースト・アルバムとしては稀なサウンド・プロダクションの在り方を感じて、彼らcambelleの今後の作品にも非常に期待が高まった。
 繰り返しになるが、本年度リリースされた新人バンドのアルバムの中でも特に音楽性が高く、有望な存在なので、筆者の詳細解説を読んで興味を持った読者は是非入手して聴いて欲しい。 

(テキスト:ウチタカヒデ








2025年11月16日日曜日

The Bookmarcs:『BLOOM』


"ブクマ・サウンドのパレットに新色が加わった。
この第二章を心より歓迎したい。"

 The Bookmarcs(ブックマークス)が、前作『BOOKMARC SEASON』から4年振りとなる新作で、フォース・アルバムの『BLOOM』(FLY HIGH RECORDS/VSCF-1781)を11月26日にリリースする。

 作編曲家やプロデューサー、ギタリストとして活動する洞澤徹と、the Sweet Onions(スウィート・オニオンズ,以下オニオンズ)やソロ・アーティストとして活動する近藤健太郎が、2011年にタッグを組んだこの男性2人のユニットThe Bookmarcs(以下ブクマ)は、これまでに3枚のアルバムをリリースしており、本作は前作『BOOKMARC SEASON』(VSCF-1775/FRCD-070)から4年のインターバルで、同アルバムとセカンドの『BOOKMARC MELODY』(VSCF-1769/FRCD-061)に比べてややスロー・ぺースとなった。
 それというのもこの間にブクマで作編曲とミュージシャンのアサインなどサウンド・プロデュースを担当する洞澤は、女性シンガー・ソングライター(以下SSW)青野りえのシングル「Never Can Say Goodbye(2021年10月)とサード・アルバム『TOKYO magic』(2023年11月)の作編曲とプロデュース、それと同様に男性SSWのKARIMAのファースト・アルバム『Nostalgic hour』(2022年10月)の半数の曲とその後複数の配信シングルのサウンド・プロデュースを手掛けていた。更にYouTube でリラクゼーション・ミュージック・チャンネル「natural sonic」(登録者数9 万以上)を主宰して、アコースティックギターやウクレレの演奏を発表し多忙していた。
 作詞とボーカル、コーラス(アレンジ含む)を担当する近藤も前出のKARIMA『Nostalgic hour』の共同プロデュース、オニオンズの高口大輔や女性SSW小林しのとのユニットSnow Sheepの23年越しのファースト・アルバム『WHITE ALBUM』(2023年3月)、そしてソロとしての記念すべきファースト・アルバム『Strange Village』を今年3月にリリースしたばかりと、別プロジェクトの活動が目まぐるしく充実していたのが、ブクマの制作ペースに影響していたのは言うまでもない。
 またラジオ・パーソナリティとしても、横浜市のコミュニティ放送局マリンFMで彼らの冠番組『The Bookmarcs Radio Marine Café』、静岡県のFMラジオ局 K-MIX(静岡エフエム放送)の『ようこそ夢街名曲堂へ!』の準レギュラーをそれぞれ務めるなど、その活動は多岐に渡っている。

The Bookmarcs
左から洞澤徹、近藤健太郎

 本作は2022年から今年2025年8月までに配信でリリースしていたシングル4曲と、新録の7曲からなら合計11曲を収録している。ゲスト・ミュージシャンとして、1995年Sony Recordsからメジャー・デビューしたSwinging Popsicle(スウィンギング・ポプシクル)の美音子 Fujishimaがフューチャーリング・ボーカルで参加しているのをはじめ、コーラスで和製オーガニック・ソウル女性シンガーのAloha Ichimura、これまでのブクマのレコーディングではお馴染みのドラマーの足立浩、べーシストの北村規夫、ジャズ・ピアニストの佐藤真也といった手練なミュージシャン達も参加してバックアップしているのが頼もしい。 
 マスタリングは今月1日に紹介したばかりの小林しの『Winter Letters』同様に、microstarの佐藤清喜が手掛け、ジャケットやインナースリーヴのデザイン、アートワークは近藤の『Strange Village』で共同プロデュースを務めた及川雅仁、フォトグラフは尾崎康元がそれぞれ担当している。


The Bookmarcs 4th Album『BLOOM』Trailer

 ここでは筆者による収録曲の詳細解説と、洞澤と近藤が本作の曲作りやレコーディング中、イメージ作りで聴いていたプレイリストをお送りするので聴きながら読んで欲しい。 
 
 冒頭の「青いループ」は、2トラックのアコースティックギターのアルペジオとリフ、キーボードのフレーズのイントロから導かれて始まるギターポップ系不毛のラブソングで、近藤による歌唱と韻を踏むサビの歌詞が耳に残る。リズムセクションは洞澤の各種ギター、足立のドラムと北村のべースによる生演奏に洞澤によるプログラミングされた上物が乗る。この上物のストリングス・アレンジもシンプルながら曲を演出している。
 続く「Follow The Rainbow」は今年8月に配信リリースされた最新の先行シングルで、山下達郎の某曲にも通じるサマー・アンセム感漂うシティポップだ。近藤の爽やかなボーカルに洞澤のエレキギターのリフが絡むなど聴き応えがある。コーラスのトップではAloha Ichimuraが特徴的な声を聴かせるのも嬉しい。
 一転して陰影のあるスローナンバーの「花びら」は、洞澤の作曲能力と近藤の作詞家としてのセンスが見事に調和したソングライティングだ。佐藤のよる表現力豊かなジャズテイストのアコースティック・ピアノ、洞澤によるエレキシタールのオブリガードも効果的だ。

 アコースティックギターのアルペジオとそれに呼応するべースのイントロに導かれ、サビから始まる4曲目の「Hello, Bluebird」はポール・マッカートニーの匂いがする。近藤の持ち味でもあるが、洞澤の作曲であり、ヴァースでは「真夜中のドア〜Stay With Me」(松原みき/1979年)のオマージュ元として知られる、Carole Bayer Sagerの「It's The Falling In Love」(1978年)に通じる洗練されたAOR風に変貌し、ビートルズ風(ジョン・レノン寄り)のブリッジを挟んで、またサビに戻るという凝った構成で感心させられる。
 続く「水色」は近藤の作詞、洞澤と近藤による作曲なので、ソングライティング的には近藤のソロに近いテイストがあるミドルテンポのバラードだ。前曲同様に洞澤の各種ギターに足立と北村のリズム隊による演奏は、近藤のレイジーなボーカルをバックアップする。洞澤による巧みなアコースティックギター・ソロや近藤自身による美しい一人多重コーラスが聴きどころだ。

美音子 Fujishima

 「誰もが夢を」は、ゲスト・ボーカルに美音子 Fujishimaをフューチャーリングしてデュエットで歌われるボサノヴァ・ポップだ。近藤によるフランス語をちりばめた歌詞からイメージするのは、クロード・ルルーシュ監督が手掛けた映画であり、洞澤によるガットギターの刻み、左チャンネルのウーリッツァー系エレピや彼方で聴こえる深くリバーヴが効いたアコースティック・ピアノのフレーズ、フルートのオブリガード、近藤とFujishimaによる間奏のスキャットなど、映画音楽家フランシス・レイをオマージュしている。日曜の昼下がりに聴きたい好ナンバーである。

 本作後半には先行配信曲が多く収録されており、「Maybe」は2024 年8 月の作品でブクマの曲としては珍しく全編マイナーキーの曲である。特徴的なリフから発展して生まれたこのファンキーなサウンドに、佐藤によるビリー・プレストン風のブルース・フィールなピアノが乗り、非常に玄人好みでもある。ブラック・ミュージックを聴かない読者に分かり易く例えると、刑事ドラマで主人公が容疑者を捜索するシーンの挿入歌風と言えばいいだろうか。
 同じく「Looking For The Light」は2023 年3 月、「街のレヴュー」は2022 年12 月に先行配信されており、前者のヴァースは古くはビートルズでジョンが主に書いた「No Reply」(『Beatles for Sale』収録1964年)やSteely Danの「Only a Fool Would Say That」(『Can't Buy a Thrill』収録1972年)に通じるメロディが印象的で、洞澤による各種ギターとプログラミングされた音数少ないバックトラックが、近藤のジェントルなボーカルを引き立てる。
 後者はイントロから筆者の好みで、ブラジリアン・フュージョン・バンドAzymuthの「Fly over the Horizon」(『Light As A Feather』収録Ver 1979年)に通じるアープ・オデッセイ系アナログ・シンセのポルタメントが効いたフレーズから引き込まれてしまう。歌詞のディテールから横浜関内にあるレンガ作りのカフェ”馬車道十番館”を舞台にしたと思しきラブソングで、近辺のロケーションが織り込まれており完成度も高い。サウンド的には前出のアナログ・シンセや北村のエレキベースのアクセント、シンセタムのフィルによって、横浜のナイト・シーンが目に浮かぶ演出で脱帽してしまう。


 曲順は前後するが、8曲目の「悲しみのウィークエンド」は再び作曲に近藤が加わったワルツのトーチソングで、メジャーキーで風通しが良いサウンドと、タイトルや失恋を綴った歌詞の世界とのギャップが面白い。北村のべースに足立はブラシを使ったドラムのリズム隊、洞澤はアコースティックギターの他マンドリンもプレイし器用なところを聴かせてくれる。
 本作ラストの「Bloom Again」にも近藤が作曲にクレジットされていて、「悲しみのウィークエンド」と同様の編成でプレイされる静かなバラードの小曲だ。この曲ではAloha Ichimuraが再びコーラスで参加し、その柔らかい美声で近藤の歌声に寄り添っている。近藤のソロ作にも近い世界観なので、『Strange Village』で彼を知った音楽ファンにもお勧めである。

 本作の総評として、これまでの3作品には無かった作曲面で近藤が3曲も参加したことで、The Bookmarcsの第二章が始まったと考えていいだろう。オニオンズやシンガー・ソングライターとして実績がある近藤が洞澤の作曲に協力したことで、今までには無かったブクマ・サウンドのパレットに新色が加わったのだ。この第二章を心より歓迎したい。


The Bookmarcs『BLOOM』プレイリスト
 
 
洞澤徹
 「BLOOM」アルバム制作期間中に創作のモチベーションを
保つためによく聴いた曲(特にアレンジに煮詰まった時)をセレクトしました。
アレンジの参考になった曲、作曲の着想になった曲もあります。
ほとんどが今年発表された楽曲です。

▪️Love Ride(Alternative Version)/(『Fighter For Love』/ 2025年) 
▪️In It To Win It / Matt Johnson,Triple H Horns(『Warrior Princess』/ 2025年)
▪️Simple Imagination / Young Gun Silver Fox
(『Ticket To Shangri-La』/ 2022年)
▪️Cycle deux - partie 2. / Hippie Hourrah
(『Il y eut un rythme』/ 2025年)
▪️Swoon / Fickle Friends (『Fickle Friends』/ 2025年)
▪️Love You Out Of Your Mind / Byrne & Barnes
(『An Eye for an Eye』/ 1982年)
▪️Oyo / Origami.(Single『oyo』/ 2025年)
▪️Never Givin’You Up / Pascal Bedoire
 (Single『Never Givin’You Up』/ 2025年)
▪️Sweet / Mörk(『Still Dreamin’』/ 2024年) 
▪️Je reviens / Gilles Rivard(『En couleurs』/ 1981年)


近藤健太郎
静謐で繊細、味わい深く円熟した歌声とサウンド。
それぞれに耳を傾けていると、しばし心は軽くなるのです。 
過去の名曲から現代の柔らかなポップスまで、
アルバム制作中に寄り添ってくれた魅力あふれる楽曲達です。

▪️Dating Me Ain't Hard / Whyte(Single『Dating Me Ain't Hard』 / 2025年)
▪️All My Candles / Men I Trust(『Equus Asinus』/ 2025年)
▪️Make It with You / Bread(『On the Waters』/ 1970年)
▪️Let Me Be The One / Paul Williams
 (『Just An Old Fashioned Love Song』/ 1971年) 
▪️Who Do You Think You Are / Bo Donaldson & The Heywoods 
(『Bo Donaldson And The Heywoods』/ 1974年)



(テキスト:ウチタカヒデ

2025年11月1日土曜日

小林しの:『Winter Letters』

 昨年2月発表のセカンド・アルバム『The Wind Carries Scents Of Flowers』(*blue-very label*/ Blvd-043)が好評のシンガー・ソングライターの小林しのが、4曲入りの7インチのクリスマス・シングル(EP)『Winter Letters』(Blvd-055)を11月1日”レコードの日”にリリースした。
 丁度1年前に『The Wind・・・』に参加した、Small Gardenの小園兼一郎とのコラボレーションで、7インチEP『Mijn Nijntje(“私のナインチェ”)』(blvd-051)を発表しており、この季節の風物詩となっていて、彼女のファンには嬉しいリリースとなった。
小林しの

 まずは小林のプロフィールに触れるが、1999年に彼女を中心にHarmony Hatchを結成し、空気公団やMaybelleを輩出したCoa Recordsから2000年にデビューする。同バンドが2002年に解散後、ソロのシンガー·ソングライターとして、ファーストアルバム『Looking for a key』と前出のセカンド『The Wind Carries Scents Of Flowers』の2枚のアルバム、アナログ7インチ·シングルは『Havfruen nat』、コラボレーションでは彼女が所属するphilia recordsを主宰するthe Sweet Onionsの近藤健太郎、高口大輔との3人組ユニット”Snow Sheep(スノー·シープ)”で『WHITE ALBUM』、前出の『Mijn Nijntje』をそれぞれ発表し、都内を中心に定期的なライヴ活動、様々なバンドのコーラス·サポート等精力的に活動している。

 本作『Winter Letters』について解説しよう。ジャケットなどアートワーク全般とファンシーなイラストレーションは、リリース元レーベルではお馴染みのFumika Arasawaが担当している。またマスタリングを担当したのは、先月後半弊サイトで紹介したばかりの無果汁団『ナサリー』を手掛けたmicrostarの佐藤清喜で、マスタリング・エンジニアとしてジャンルレスに多くのアーティストから信頼されている。 
 続いて肝心の収録曲について解説しょう。 
 A面冒頭のリード曲「blue mint Christmas」は小林がソングライティングして、『The Wind・・・』では2曲に参加した、北海道在住でワンマン·ユニットのalvysinger(アルビーシンガー)を主宰する小野剛志がアレンジを手掛けている。同アルバム収録で小野が手掛けた「風は花の香りを運ぶ」に通じる爽やかなソフトロック~ギターポップ系サウンドは、小林のメルヘンチックな歌詞とその歌唱を引き立てる。この曲では元Johnny Deeや101 Dalmatiansなど伝説のバンドに所属し、現在Thee Windless Gatesで活動するギタリストの下田剛も参加し、特徴的なリッケンバッカーの響きを聴かせてくれる。
 続く「トナカイの夜」は、FMまつもとのラジオ番組『Hikory Sound Excursion』のクリスマス企画で結成され、小林も参加したユニット”タンタンルドルフ”のオリジナルで、番組ナビゲーターの久納ヒサシのソングライティングとアレンジによる、バラード系のクリスマス・ソングだ。同番組では2023、24年のクリスマス特集でオンエアされており、今回が初音源化となる。バックトラックの演奏とプログラミングは久納が担当し、小林とデザイナーのArasawaによるダブル・ボーカルで歌われ、インディーレーベル”chocolate & lemonade”主宰のBobbyがジングルベルでゲスト参加している。

   
小林しの (Shino Kobayashi) "Winter Letters" teaser 

 B面冒頭の「午後にはシュトーレン」は、小林の作詞に近藤健太郎が曲をつけるという、Snow Sheep組のコラボレーションで、アレンジは近藤と今年3月にリリースされた、彼のソロアルバム『Strange Village』で共同プロデュースを務めた及川雅仁と2人で担当している。曲調は近藤の「She Is Mine」に通じる風通しの良いソフトロックで、クリスマス・シーズンの午後のティーパーティーの風景を綴った歌詞と愛らしい小林の歌唱が印象に残る。近藤はアコースティックギターとピアノ、鍵盤類、及川はエレキべースやエレキギターからグロッケン、メロディカ、ボンゴやウインド・チャイムなどパーカッション類までプレイして貢献している。
 続く本作ラストの「wheat ana rice」は、小林のソングライティングに及川がアレンジを担当した2分弱のスロー・ワルツで、全ての演奏とプログラミングを及川が手掛けている。タイトルは小林が飼っていた(実家で?)2頭の愛犬の名前らしく、その想い出を綴った歌詞と無垢な歌唱が美しく、心に響く。コーダで響く及川によるパイプオルガンの演出も効果的だ。

 なお本作も数量限定(200枚)の7インチEPなので、筆者の詳細レビューを読んで興味を持った音楽ファンは、リリース元レーベルのオンラインショップ等で入手しよう。

*blue-very label* オンラインショップ :http://blue-very.com/?pid=187645587


(テキスト:ウチタカヒデ