2026年4月30日木曜日

コンピレーション:『Adventures in Modern Recording by TOHRU OKADA』


 ムーンライダーズのキーボーディストで同バンドきってのメロディーメーカーだった岡田徹氏のトリビュート・アルバム『Adventures in Modern Recording by TOHRU OKADA』(Headland Records / HEAD-0001)が4月23日にリリースされたので遅ればせながら紹介したい。 
 惜しくも2023年2月14日に逝去した岡田氏は、前進バンドのはちみつぱい時代からムーンライダーズでリーダーの鈴木慶一氏を支えていたメンバーとして知られ、多くの名曲を残してきた。またプロデューサーやソングライター、キーボーディストとしてバンド外での多くの活動も知られており、ライダーズ系譜の若手バンド、アーティストの育成でも貢献をしてきた。彼が手掛けた中ではPSY・S(サイズ)やパール兄弟、Nav Katze、野田幹子、矢野有美(元シャワー)。メジャー系ではガールズバンドとしては国内で最初に成功したプリンセス・プリンセスの名付け親としても知られおり、その影響力は多岐に渡る。

岡田 徹 

 このような幅広い岡田氏の交流関係から、本作にも世代を超えた多くの人材が参加しており、『MODERN MUSIC』(1979年)や『カメラ=万年筆』(1980年)、『マニア・マニエラ』(1982年)に歌詞を提供しボーカルやコーラスでも参加して、この時期ライダーズの準メンバーとも呼べる存在だった佐藤奈々子を筆頭に、鈴木慶一がプロデュースしたコンピレーション・アルバム『Bright Young Aquarium Workers (陽気な若き水族館員たち)』(1983年)にPortable Rockのメンバーとして参加し、『Don't Trust Over Thirty』(1982年)にコーラスで参加した野宮真貴のライダーズ人脈。
 岡田がファーストから初期アルバムを手掛けたシンガーソングライターの野田幹子、同様に岡田がデビュー時のアルバムやEPをプロデュースしたPSY・SのCHAKA、ガールズ・ニューウェイヴ・バンドのNav Katze、読者モデルからガールズバンドに転じたChiroline(チロリン)の初代リーダーの島崎夏美まで参加している。
 若手では元地下アイドルで現在はライター業の傍ら、音楽ユニット”僕とジョルジュ”の活動をしている姫乃たま、富士山ご当地アイドルグループで、井出ちよのソロユニットというべき3776 (みななろ)も参加し、この2名は2016年の岡田のセルフカバー・ソロアルバム『Tの肖像』でフューチャー・ボーカリストでもあった。更に岡田が生前手掛けようとしていた逸材として、アニメ映画『天気の子』(新海誠監督)のテーマ曲歌唱や映画『ドライブ・マイ・カー』(濱口竜介監督)の演技で新人俳優賞を受賞した、女優兼歌手の三浦透子まで加わっており、全曲のリードボーカリストが、女性陣というのも注目である。

 本家ムーンライダーズからはリーダーの鈴木慶一をはじめ、武川雅寛、白井良明、鈴木博文、夏秋文尚と、実質的メンバーであるスカートの澤部渡、”想像力の血”の佐藤優介という現在のフルメンバーに加えて、岡田が参加していたユニットのLife Goes On、ya-to-i(山本精一との)、CTO LAB.のメンバー達も演奏やアレンジでそれぞれ参加するという、豪華な参加者により、愛に溢れる稀有なトリビュート・アルバムに仕上がっているのだ。 そして本作を飾る装丁面では、一際目を惹くペガコーン(ペガサス+ユニコーンのミックス)のジャケット画は、岡田の立教大学時代からの盟友で、ペガサスをモチーフとした一連の作品で知られるイラストレーターの真鍋太郎氏の描き下ろしである。

1.ウェディング・ソング / 岩下清香 with ROSE-UNLIMITED 
 (鈴木慶一とムーンライダース『火の玉ボーイ』1975年
2.Try Again / 野田幹子 with 武川雅寛、夏秋文尚
  (アグネス・チャン『Mei Mei いつでも夢を』1976年)
3.週末の恋人 / 佐藤奈々子 with 鈴木博文、佐藤優介
4.さよならは夜明けの夢に / 姫乃たま with 山本精一
5.ビューティコンテスト / 野宮真貴 with 鈴木慶一
  (以上3曲:ムーンライダーズ『イスタンブール・マンボ』1977年)
6.いとこ同士 / Nav Katze(ナーヴ・カッツェ) 
(ムーンライダーズ『ヌーベル・バーグ』1978年)
7.いつの日か Happy End / 島崎夏美(Chiroline) with CTO LAB. 
 (杏里『哀しみの孔雀』1981年)
8.Good Nightは嫌い / 3776 (伊藤つかさ『Osusume = オススメ』1984年)
9.(チロリンの)星に願いを / CHAKA with 白井良明 
 (Chiroline『Chiroline - For Camp Fire Use Only』1986年)
10.9月の海はクラゲの海 / 覚和歌子 with Life Goes On
 (ムーンライダーズ 『ドント・トラスト・オーバー・サーティー』1986年)
11.途中にしてね / テノリエリ with 黒田英明
 (Chiroline「途中にしてね」シングル 1987年)
12.涙は悲しさだけで、出来てるんじゃない / Pyokn
 (ムーンライダーズ 『最後の晩餐』1991年)
13.硝子MOON / ジーニアス (須藤まゆみ『電影少女OST』1992年)
14.空の名前 / 三浦透子 with 澤部渡(スカート) 
 (コミック・イメージアルバム『君だけをみつめてる Scene2』1997年

 
岡田徹(ムーンライダーズ)トリビュート・アルバム
「Adventures in Modern Recording by TOHRU OKADA」トレーラー 

 ここでは先月末に本作の音源を入手し、80年代にライダーズを愛聴していた筆者が収録曲の中から特に気になった曲を厳選して詳細解説していく。
 「Try Again」は、70年代前半に人気絶頂だったアイドル歌手のアグネス・チャンが、海外留学のため一旦引退する直前の1976年4月にリリースされた7THアルバム『Mei Mei いつでも夢を』に収録されており、レコーディングには前年からライブのバッキングを務めていたムーンライダーズが全面参加していた。岡田が作曲してアグネス自身が作詞したこの曲はオリジナルからレイドバックしたサウンドで、アイドルからシンガーに脱皮しようとする姿が見て取れる。シンガーソングライターの野田幹子が美しいボーカルを聴かせる本作のヴァージョンでは、ライダーズから武川がバイオリン、夏秋がドラムで参加し、アレンジとその他の楽器演奏とプログラミングをマイクロスターの佐藤清喜が担当している。オリジナルの雰囲気を大切に踏襲したそのサウンドは、アメリカン・ルーツ・ミュージックの芳醇な香りがするエヴァーグリーンな名曲で、作曲家としてのキャリア初期から岡田が円熟していたことが理解出来る。 
 続く「週末の恋人」はライダーズ提供曲の中では珍しく岡田自身がリードボーカルを取った曲で、上品な声質を持つシンガーの大野方栄とデュエットして、フランス系カナダ人シンガーソングライターのルイス・フューレイに通じるヨーロピアンなストリングスに変則的なボサノヴァのリズムを取り入れたサウンドだった。このサウンドとハース・マルチネスを彷彿とさせる岡田のだみ声のコントラストが極めて欧州映画的で素晴らしく、ライダーズ・ベストソング10の1曲に選ばれると思う。ここではこの曲を作詞した鈴木博文のベースと佐藤優介のピアノのバッキングのみで、佐藤奈々子が一人でアンニュイに歌い、サビで優介がコーラスを付けている。やはりサビ前のフックとなる「もう一度あなたの肩にもたれたいわ いつまでも 素敵でいてね・・・」のパンチラインは、このカバーヴァージョンでも光っている。また今回の参加シンガーの中でライダーズと関係性が最も古い佐藤奈々子がこの曲を取り上げたのは意義深いと考える。

鈴木慶一、佐藤奈々子サイン入り
『Radio Moon and Roses 1979Hz』
アナログ盤(2022年 / 管理人所有) 


 続く「さよならは夜明けの夢に」、「ビューティコンテスト」も前曲同様『イスタンブール・マンボ』収録で、オリジナル曲順通り収録されおり、同アルバムが岡田の代表曲を最も収録していたということだろう。曲順を決定させた本作プロデューサーの川村岬と岡田の愛娘である岡田紫苑 (little moa)の拘りと深い愛を感じさせる。
 前者のオリジナルはこれまた鈴木博文の作詞で、アコースティックピアノのコードワークにエレピや複数のアナログシンセのオブリガード、リードボーカルを取る鈴木慶一の多重録音によるコーラスが入る、中期10cc風のサウンドがブリリアントだった。後の1981年には岡田自身によるリアレンジでシンガーの杏里が『哀しみの孔雀』で取り上げている。ここでは元ボアダムスでオルタナティブ・ギタリストの山本精一、彼とのユニットPARAに参加するピアニストの西滝太、多くの前衛ユニットに参加するギタリストのmoooting(むうとん)がフルートで参加している。音数の少なさはオリジナルを踏襲し、西によるドビッシー風のイントロからこの曲のもの悲しさを表現しており、本編の”less is more”なサウンドも姫乃たまの無垢なボーカルを引き立てた名カバーと言える。
 後者のオリジナルは無国籍且つユニークなパーティソングで、同じく作詞:鈴木慶一とのコンビによる「マスカット ココナッツ バナナ メロン」(『Moon Riders』1977年)から連なるライダーズ・カラーを引き継いでいた。ここではその鈴木慶一がリアレンジしエレキギターと全てのプログラミングを担当し、チャイニーズ風味を強調させたサウンドに仕上げている。ボーカリストには鈴木がPortable Rock時代にプロデュースし、その後ピチカート・ファイヴの活動で成功した野宮真貴が迎えられている。野宮の独特な歌唱法と声質によって、ソフィスケイトされたお洒落ポップスに生まれ変わったのはさすがである。

 そしてライダーズ及び岡田の代表曲として、多くのファンが挙げる「いとこ同士」が本作でも取り上げられている。タイトルや鈴木博文が書いた歌詞のインスパイア元は、1959年ベルリン国際映画祭金熊賞を受賞しフランスのヌーベル・バーグ(Nouvelle Vague)映画の代表作、クロード・シャブロル監督『いとこ同士』である。またオリジナルではシンセサイザー・プログラマーの第一人者だった松武秀樹によりローランド社製マイクロコンピューター・ミュージック・コンポーザー”MC-8”(初期YMOでも使用)が導入され、ピンポン・パンニングする独特なシーケンス・サウンドが斬新だった。この松武をライダーズの鈴木慶一に紹介したのは、恐らくYMO結成前後の細野晴臣ではないだろうか。細野はこの曲ではスティール・ドラムの生演奏で参加しているのが興味深い。この様に革新的映画のモチーフと当時最先端のミュージック・テクノロジーを融合させた、鈴木と岡田のアイディアには脱帽するしかない。
 ここではNav Katzeがオリジナルのアナログシンセのサウンドをデジタルシンセに置き換えて、シャープでよりヨーロピアンなテクノ・サウンドでリメイクしている。長年彼女達の共同プロデューサーとしてエンジニアリングやプログラミングを務めている杉山勇司とメンバーが構築したトラックは、山口美和子が意図的にフラットにしたボーカルとの相性が良く、ヌーベル・バーグ映画のイメージを現代的に解釈して、このトリビュート・アルバムをより格調高くしてくれた。

 筆者がライダーズの最高傑作と考えるアルバム『ドント・トラスト・オーバー・サーティー』から「9月の海はクラゲの海」が取り上げられたのは非常に嬉しい。当時パール兄弟のボーカリストだったサエキけんぞう(佐伯健三)による作詞で、サエキはハルメンズ時代の81年から作詞家としてライダーズに関わっていた。オリジナルではドイツ製デジタル・サンプリング・シンセのPPG Wave 2.3 WAVETERMを全面的に使用し、サンプリングされたメンバーの声をモザイクの様にコーラスで配置させたサウンドが新鮮だった。
 本作では岡田が1995年に結成したアコーディオン・テクノバンド、Life Goes Onが作詞家兼シンガーソングライターの覚和歌子をボーカリストに迎えてアコーディオンバンド・アレンジで取り上げている。因みに覚は、蓮田ひろかのペンネーム時代を含め80年代後期のアイドル作品や沢田研二などに提供して、ライダーズ・メンバーの外部提供曲の作詞家としても度々関わっている。Life Goes Onには元ヴァリエテの鶴来正基、元カーネーションの棚谷祐一、元ZABADAKの上野洋子等実力派キーボーディスト達が多く参加して非常に音楽性が高い。この曲はライダーズ史上屈指の美しいメロディーを持ち、どことなくポール・マッカートニーの匂いをさせていたのだが、鶴来のバンド・アレンジや上野のコーラス・アレンジ、元々ボーカリストではなかった覚の純朴でナチュラルな歌唱によってスコティッシュ・フォーク風となり、正に原点回帰して生まれ変わっている。これこそがこの曲の完成形として、岡田が求めていたカタチなのかも知れない。 

 岡田徹氏サイン入り
カセットブック月光下騎士団
1984年 / 管理人所有)

 最後に繰り返しになるが、本作は岡田徹氏を敬愛する関係者が多く関わって、愛に溢れる稀有なトリビュート・アルバムに仕上がっているので、筆者のレビュー記事を読んで興味を持った音楽ファンは速やかに入手して聴いて欲しい。いや聴くべきだ。

(テキスト:ウチタカヒデ

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