2024年5月19日日曜日

コンピレーション:『16 SONGS OF HIROBUMI SUZUKI - DON’T TRUST OVER 70 -』


 本日5月19日に70歳の誕生日を迎えたムーンライダーズの鈴木博文をリスペクトするミュージシャン達による、トリビュート・カバー・アルバム『16 SONGS OF HIROBUMI SUZUKI - DON’T TRUST OVER 70 -』(NARISU COMPACT DISC/NRSD-30130/AICP-040)がリリースされる。
 一般発売日は6月25日だが、下記の3店舗では本日付で先行発売されている。

●ペット・サウンズ・レコード:https://www.petsounds.co.jp/
       ●パイドパイパーハウス:https://twitter.com/PiedPiperHouse
    ●ディスクユニオン:https://diskunion.net/ 


 本作は先月弊サイトでも紹介した6月1日開催予定の”鈴木博文 古希記念 ライブ「Wan-Gan King 70th Anniversary」” 出演ミュージシャン達を中心として参加し、このライブのバンマスを務めるシンガーソングライターの猪爪東風(ayU tokiO)と、なりすレコード主宰の平澤直孝により共同プロデュースされている。 
 収録曲とカバー・ミュージシャン、オリジナル収録アルバムを下記に挙げるので、各参加ミュージシャンの選曲センスやアレンジを想像しながら入手して聴いて欲しい。
              

1.大寒町 / あがた森魚 with 秘密のミーニーズ 
 (あがた森魚『噫無情 (レ・ミゼラブル)』1974年)
2.工場と微笑 / PORTABLE ROCK
 (ムーンライダーズ『マニア・マニエラ』1982年)
3.MR.SUNSHINE 3x7x7x6 Edit / 3776
 (リサ SG『私の恋は自由型 / MR.SUNSHINE』1983年)
4.夢見るジュリア / MUSEMENT(ミオ・フー『Mio Fou』1984年)
5.ウルフはウルフ / カーネーション 
 (ムーンライダーズ 『アニマル・インデックス』1985年)
6.駅は今、朝の中 / XOXO EXTREME
 (ムーンライダーズ 『アニマル・インデックス』1985年)
7.ボクハナク / 本日休演 
 (ムーンライダーズ 『ドント・トラスト・オーバー・サーティー』1986年)
8.Kucha-Kucha / GRANDFATHERS(鈴木博文『Wan-Gan King』1987年)
9.Fence / やなぎさわまちこ(鈴木博文『Wan-Gan King』1987年)
10.Early Morning Dead / 佐藤優介(鈴木博文『Wan-Gan King』1987年)
11.どん底人生 / ayU tokiO(鈴木博文『どん底天使』1988年)
12.ゴンドラ / 青木孝明(鈴木博文『無敵の人』1989年)
13.穴 / スカート(鈴木博文『石鹸』1990年)
14.今日も冷たい雨が / 加藤千晶&鳥羽修(鈴木博文『孔雀』1995年)
15.ぼくは幸せだった / emma mizuno(ムーンライダーズ 『月面賛歌』1988年)
16.くれない埠頭 / Bright Young & Old Wan-Gan Workers 
  (ムーンライダーズ 『青空百景』1982年)


鈴木博文(ムーンライダーズ)カヴァー・アルバム
「16 SONGS OF HIROBUMI SUZUKI」トレーラー

 ここでは先月マスタリングしたばかりの本作音源を入手し、80年代にライダーズを愛聴していた筆者が収録曲の中から気になった曲を解説していく。
 冒頭の「大寒町」は、オリジナル提供先のあがた森魚が取り上げた再演で、アレンジと演奏には今年1月にセカンド・フルアルバム『Our new town』をリリースした秘密のミーニーズが参加している。鈴木にとって音楽活動最初期の提供曲で、詞曲共に完成度が高く、最高傑作候補の一曲ではないだろうか。ここではイントロからミーニーズの淡路と渡辺によるスキャットから始まり、本編でもこのコーラスが活かされていく。メイン・ボーカルに呼応する淡路のサイド・ボーカル、間奏の渡辺によるペダルスチールと青木のエレキ・ギターのフレーズなど聴きどころが多く、いきなりクライマックスという感じだ。
 続く「工場と微笑」は、ムーンライダーズの問題作『マニア・マニエラ』収録曲でファンにも人気が高い。オリジナルは当時最先端のシーケンサーだったMC4と生楽器を融合させた独特なグルーヴで、武川雅寛によるジプシー・スタイルのヴァイオリンとユニゾンする複数のエレキ・ギターのリフなど唯一無二のサウンドだった。カバーしたのは再結成したPORTABLE ROCKで、彼らはソロ・シンガーとしてデビューした野宮真貴と、バックバンドのメンバーだったギターの鈴木智文とベースの中原信雄の3名で1982年に結成され86年には解散した短命のバンドだが、ムーンライダーズのリーダーで鈴木の兄、慶一のプロデュースによる83年のコンピレーション・アルバム『Bright Young Aquarium Workers (陽気な若き水族館員たち)』に参加し、同作でエンジニアを務めた鈴木から知己を得ており、その後の各メンバーの活躍振りはファンの知るところだろう。ここではオリジナルのサウンドをライトに解釈し、コンボ・オルガンをフューチャーして英国のモッズビート~パブロック風に仕上げている。90年にピチカート・ファイヴ3代目ボーカリストとなり渋谷系の顔となった野宮にとっては、今回のトリビュート企画による再結成レコーディング音源は、彼女にとって貴重な音源になっただろう。 

 政風会(1986年~)というユニットを鈴木と組んで繋がりが深い直枝政広が率いるカーネーションは、「ウルフはウルフ」(『アニマル・インデックス』収録1985年)を取り上げている。オリジナルは変則ビートの抒情的ニューウェイヴ・サウンドだったが、ここでは90年代中期のオルタナティヴ・ロックの色濃いサウンドになっている。超音楽マニアの直江のセンスの引き出しは、カーネーションの諸作でも披露されているが、現メンバーの大田譲のベースとコーラス以外は、ボーカルとギターからプログラミングからミックスまで自身で担当する拘っている。
 一転するが同じ『アニマル・インデックス』収録で屈指の名曲「駅は今、朝の中」は、なんとプログレッシヴ・アイドルグループのXOXO EXTREME(キス・アンド・ハグ・エクストリーム)が取り上げている。弊サイトで幾度か紹介したパブロック・アイドルの一色萌(ひいろ もえ)が所属しており、現在は5名で構成され前身グループxoxo(Kiss&Hug)(キス・アンド・ハグ)からの活動歴は9年になる。ここでは曲頭でもあるサビ1をメンバー全員でユニゾン、サビ2やヴァースをソロで歌唱している。各メンバーの歌唱スタイルの違いが分かって楽しめる。オリジナルのアレンジを現代的に解釈したサウンドは、全てのバックトラックの演奏とプログラミング、ミックスまで彼女達が所属するレーベル、Twelve-Notes代表の大嶋尚之が自ら手掛けている。

 「ボクハナク」(『ドント・トラスト・オーバー・サーティー』収録1986年)は昨年12月にリリースされた、なんちゃらアイドルのカバー・アルバム『Sentimental Jukebox』で取り上げたばかりで作者の鈴木も参加して話題になったが、本作では京都府出身のロックバンド“本日休演”がカバーしている。リーダーでボーカル兼ギターの岩出拓十郎は、以前弊サイトで高評価していたツチヤニボンドの準メンバーで、新鋭シンガーソングライター伊藤尚毅のプロデューサーとしても注目されている。ここではアコースティックギターと複数のエレキ・ギターを重ねたベーシック・トラックに、無国籍なパーカッションや深いリバーブを効かせたメンバー3名によるコーラスをダビングし独自の音像をして、オタクのための失恋ソングをよりオルタナティブに仕上げてくれた。
 ラストの「くれない埠頭」(『青空百景』収録1982年)は、鈴木博文 古希記念 ライブ「Wan-Gan King 70th Anniversary」のバンドメンバーによる“Bright Young & Old Wan-Gan Workers”名義でカバーされている。アレンジも担当した本作共同プロデューサーの猪爪東風を中心に、現ムーンライダーズのドラマーで音楽プロデューサーの夏秋文尚、カーネーションのベーシストの大田譲、同バンドの元ギタリストの鳥羽修、シンガーソングライターのやなぎさわまちこ、更にライダーズの準メンバーでキーボーディストの佐藤優介もシンセサイザー(対位法のオブリガート・ソロだろう)で参加している。リードボーカルは全メンバーでパート毎に担当し、“Sitting on the Highway”のリフレインなどコーラスは猪爪とやなぎさわが担当している。音数少ない空間を活かした音響系サウンドに各自のボーカルがフューチャーされる愛溢れるカバーで、リアルタイムにこの曲を10代前半で愛聴していた筆者も感動してしまった。



【関連ライブイベント情報】
鈴木博文 古希記念 ライブ 
「Wan-Gan King 70th Anniversary」
2024年6月1日 (土) 
open 17 : 00 / start 18 : 00
新代田 FEVER 

■出 演
鈴木博文
バンドメンバー : 
gt/etc 猪爪東風
ba 大田譲
gt 鳥羽修
dr 夏秋文尚
key やなぎさわまちこ

ゲスト: 青山陽一 あがた森魚 emma 加藤千晶 直枝政広

■チケット 前売り ¥7000 / 当日 ¥7500 +1d ¥600 (お土産付き) 
※チケット前売り予約は予定枚数を終了しているので、
当日券について会場に問い合わせて欲しい。

 ■問い合わせ
 新代田 FEVER
03-6304-7899


鈴木博文ベストソング★WebVANDA管理人選


(テキスト:ウチタカヒデ


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