2023年9月10日日曜日

Argyle:『Yellow Magic Carnival / Down Town(Toshiya Arai Remix)』(unchantable recoerds/ CT-049)


 大阪で活動する大所帯パーティー・バンドのArgyle(アーガイル)が、3年振りとなる7インチ・シングル『Yellow Magic Carnival / Down Town(Toshiya Arai Remix)』を9月13日にリリースする。
 リリース後即完売した7インチの前作『DOWN TOWN / ぼーい・みーつ・がーる』(2020年10月)もタイトル曲は70年代邦楽ポップスのカバーだったが、本作も日本音楽界の至宝とされる細野晴臣がティン・パン・アレー時代にファースト・アルバム『キャラメル・ママ』(1975年11月)に提供した「Yellow Magic Carnival」を取り上げている。またカップリングは、前作「DOWN TOWN」を冗談伯爵の新井俊也がリミックスしたニュー・ヴァージョンということで注目をあびることは間違いない。


 Argyleはキーボーディストとして複数のバンドで活躍する甲斐鉄郎を中心に1995年に結成された。その甲斐とYURIによる男女ツイン・ヴォーカルをフロントとして、ホーン隊とフルートを含む11名から構成されるバンドなのだ。ソウル・ミュージックをベースにして、ファンク、ラテン、ジャズ、ラウンジ、ソフトロックなど様々なジャンルのエッセンスを取り入れていて、現在でも音楽通に注目されている。これまでに『HARMOLODIC』(2003年)と『Go Spread Argyle tune』(2005年)のオリジナル・アルバム、EPを1枚、7インチ・シングルを4枚それぞれリリースしている。 
 
 本作「Yellow Magic Carnival」は、2008年ORANGE RECORDSからリリースされたコンピレーション・アルバム『incense』に提供していたが、今回7インチ用にリミックスとリマスタリングされた新装ヴァージョンとなっており、「Down Town(Toshiya Arai Remix)」同様本作でしか聴けない音源となっている。
 プロデュースはリーダーの甲斐と、今年7月のリリースも記憶に新しいザ・スクーターズの『東京は夜の七時』を共同アレンジで参加したグルーヴあんちゃんが手掛け、ミックスとマスタリングは、関西を中心にTREMORELA名義で電子音楽家として活動する田中友直が担当している。 ジャケットにも触れるが、アート・ワークとイラストレーションは前作に引き続き、さくらいはじめが担当し、無国籍且つノスタルジックな雰囲気を醸し出している。なお初回限定盤はクリアイエローのカラーバイナル仕様であり、今回も完売必至と予想されるので、興味を持った読者は早急に入手しよう。


 ここからは筆者による収録曲の解説と、前作レビューの際作成した「DOWN TOWN」を考察するサブスク・プレイリストを更新し、山下達郎作品のオマージュ元を追加したので聴いてみて欲しい。
 これまでに「Yellow Magic Carnival」のカバーとして最も知られるのは、ティン・パン・アレーがバックアップした、女性シンガー・ソングライターのMANNA(マナ)が79年に取り上げたヴァージョンだろう。プロデューサーはドラマーの林立夫で、アルバムとシングルではアレンジが異なり、後者はギタリストの鈴木茂がアレンジを手掛けていて、キャプテン&テニールの「Love Will Keep Us Together」(1975年)に通じるシンコペーションが効いたアレンジが好評となり、当時「夜のヒットスタジオ」にも出演していた。
 本作でのヴァージョンは、BPMを下げたメロウで大人のラテン・ソウル・ポップとなっており、その洗練さに耳を奪われる。これはオリジナルではストリングスによるチャイニーズ・スケールのメイン・リフを梅田麻美子のフルートにアダプトしたことや、左右のチャンネルで異なる展開をする2名のギタリストのプレイ、リズム隊とコンガの絶妙なポリリズム、ホーン・セクションの適切な配置など、隙間を活かしながらじわじわと有機的に絡んでいくバンド・アレンジにした効果だと思われる。
 高域でハスキーな声質が魅力のYURIと、ソウルフルでダンディーな甲斐のヴォーカルのコントラストもこのサウンドに溶け込み、彼ら流に言えば「シュッとした」とした名カバーに仕上がっている。 
 
WebVANDA管理人が考察するDOWN TOWNと
達郎イズム・プレイリスト


 『ONE』冗談伯爵/『My Romance』前川サチコとグッドルッキングガイ 

 カップリングの「Down Town(Toshiya Arai Remix)」は、前作好評だったカバーを冗談伯爵の新井俊也がリミックスしたニュー・ヴァージョンで、昨年7月リリースされた彼らのファースト・フルアルバム『ONE』に通じる緻密なサウンドがここでも展開されている。
 コーラスを含むヴォーカルは前作同様、前川サチコとグッドルッキングガイを率いる前川サチコがゲスト参加したトラックが使用されており、彼女のキュートなヴォーカルがフューチャーされているのだ。なおグッドルッキングガイのメンバーとして甲斐も参加した、2021年7月のサード・アルバム『My Romance』は、幣サイトでも紹介したので記憶している読者もいるだろう。 
 本作のニュー・ヴァージョンでは、弊誌監修『ソフトロックAtoZ』(初版1996年)でも巻頭で紹介された、アルゾ&ユーディーンの「Hey Hey Hey, She's O.K.」(『C'mon And Join Us!』収録/68年)をオマージュしたコーラス・トラックが効果的にリサイクルされており、新井による疾走感あるノーザン・ソウル風のバックトラックと相まってフロアを熱く沸かせるだろう。 
 最後に繰り返しになるが、リリース後即完売した前作同様に数量限定の7インチ・シングルなので、本レビューを読んで興味を持った読者はリンク先のレコード・ショップなどで早急に予約して入手しよう。

◎ディスクユニオン予約リンク:https://diskunion.net/jp/ct/detail/1008706414 

 (テキスト:ウチタカヒデ

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