まずこの全日本テルミンフェスについて説明するが、2005年にテルミン教室「テルミン大学」を開校し、日本国内でその普及に尽力するテルミン奏者の街角マチコ氏が主宰して、同大学の開校10周年の2015年から2017年まで定期開催していた世界でも稀な音楽フェスで、名誉会長は元ラーメンズでアーティスティックな活動でも知られるタレントの片桐仁が務めている。
今回は9年振りとなる第4回で、ジャンルを超えたミュージシャン達のライブをはじめ、学際情報学の博士号を持ちメディアアーティストとして著名な落合陽一のインタビュー映像、編集者兼作家ながら怪談語り手としても知られる吉田悠軌まで出演するという、メディアカルチャー・イベント的側面も持っているのだ。会場は都内渋谷区代官山のUNITと晴れたら空に豆まいての2会場で開催され、開場の15時半から16組(リモート出演含め)の演奏からグランドフィナーレまで5時間を超える長丁場で繰り広げられた。
本稿の主役であるフレネシのステージは、”晴れたら空に豆まいて”において中盤の18時からのスタートで、開演前から椅子席とスタンディング客含め会場の最大キャパ(約200名)を完全に埋めて、入場規制のアナウンスがあったほどであった。
定刻より少し遅れ、フレネシが登場する。サポート・メンバーには昨年10月にリリースしたフォースルバム『ナサリ―』が好評の無果汁団のショック太郎と、フレネシの所属事務所 ”乙女音楽研究社” を主宰する川島イタルの2名というミニマムな編成である。また後半スペシャルゲストとして本フェス主催者の街角マチコが参加している。
セットリストに各演奏者のマークを付けているので参照して読んでほしい。
(全ライブ写真撮影者:野中麻実子)
セットリスト(2026年3月28日)
ローウィッツアーク(『キュプラ』収録/2009年)☆◎
nero(『キュプラ』収録/2009年)☆◎
除霊しないで(配信シングル/2025年10月)☆◎
Cloud Bossa(『ドルフィノ』収録/2013年)☆◎
運動音痴(配信シングル/2026年3月)☆◎
おやすみルナモス(配信シングル/2025年12月)☆◎★
silly joke(『ゲンダイ』収録/2012年))☆★
(収録アルバム及びシングルジャケット/曲順で上段左→下段左→)
☆フレネシ:ボーカル、シンセサイザー(microKORG)、
アコースティックピアノ
◎ショック太郎(無果汁団):アコースティックピアノ
◎川島イタル(乙女音楽研究社主宰)
:スティールパン、パーカッション、
アコースティックギター、コーラス
★スペシャルゲスト~街角マチコ(全日本テルミンフェス主宰):テルミン
幕が開き「こんばんは、フレネシです」のMCが。11年の長い間待ちわびたファン達からの拍手が会場に鳴り響く。そして「この時間がずっと続いてくれたら嬉しいな。ある女友達とのエピソード」のMCから始まる冒頭曲は「ローウィッツアーク」。
ショック太郎はグランドのアコースティックピアノ、川島はスティールパンを演奏し、リズムセクションのバックトラックをバックに歌うフレネシの歌声は、ブランクを感じさせないアンニュイで唯一無二なものだった。ファンが選ぶベストソングにも入るこの曲は、バックビートを強調した変則ポルカのリズムに、自身のエピソードをシニカルでユーモラスに描いている。またタイトルの「ローウィッツアーク」は“希少な大気光学現象”という気象学用語だが、音楽業界におけるフレネシの立ち位置を現わしているようで興味深い。
当日ステージでのフレネシは、白のバンドカラーシャツ・ワンピースに、ミントグリーンのエプロン・ワンピースを重ねるというレイヤード・スタイル(本人談)で、ロリータ帽子を被り、まるでルノアールやモネの絵画から飛び出してきた少女のような衣装で目を惹いた。バックの2人も白シャツに黒のパンツというフレンチ・カフェのギャルソン風で、今日のステージに相応しい出で立ちである。
続く「nero」もファーストソロアルバム『キュプラ』収録で、こちらは一転してクールでエスプリの効いた歌詞を持ち、ボサノヴァ・フィールのコード進行とグルーヴが渋谷系以降のアーティスト然としていて人気が高い。ここでショックは同じくアコピをプレイし、川島はコンパクトコンガ(別名トラベルコンガ)と呼ばれるヘッドのみで胴部が無いコンガとシェイカー、ウィンドチャイムまで担当している。
とにかくクールなサウンドとフレネシのウィスパーボイスのコントラストがこの曲の最大の魅力であるが、間奏のシンセ・ソロまで彼女自身がプレイしている。愛用しているmicroKORGのエレピ系プリセットで、巧みなソロ・プレイは聴き応えがあった。
3曲目は昨年10月の活動再開宣言のタイミングで、シングルとして配信リリースした「除霊しないで」だ。MCではそんな活動再開のきっかけとなった、クリープハイプの長谷川カオナシ氏のソロアルバムへの参加、NegiccoのMegu氏のシングル曲提供のオファーについて触れた後「11年振りに書いた曲が、なんでこんな曲なのかなっていうの、自分でもよく分からないのですけど・・・(苦笑)。まだ三途の川は渡らないぞ」と紹介されイントロのオケが流れてくる。前曲同様の楽器編成で、ここでもフレネシはシンセ・ソロを弾いている。楽曲的にはゼロ年代且つフレネシ・サウンドであり、心霊写真として写ったお化けが現世に未練を残しているというテーマがユニークであり、このような視点で世界を編み出せるのは彼女ならではある。
ライブのスタートからフレネシは、ステージ下手に横向きパフォーマンスしていたためか、4曲目の前には上手側の客席に挨拶をするという心遣いがあった。MCではフレネシTシャツを着てライブ観戦するファンに触れて感謝したり、Megu氏にプレゼントされたと思しきグッズのドリンクボトルで、ライブ中愛飲しているスロートティー(ハーブティーの一種)を紹介して勧めるなど、ファンサービスのトークも大事にしていた。
そんなリラックスした雰囲気の中で始まるのが「Cloud Bossa」だった。ここでは川島はアコースティックギターでボッサのリズムを刻み、ショックのアコピと共にこの曲を支えていた。この曲は活動休止前の最終アルバム『ドルフィノ』収録曲で、フレネシ・サウンドの中でもオーセンティックなボサノヴァで、フレネシのボーカルはアストラッド・ジルベルトよろしくサウンドに溶け込んでいた。
後半に入ると、最新シングル「Undo-Onchi」が演奏される。乙女音楽研究社主宰の川島がソングライティングしたこの曲は、”運動音痴”というユニークなテーマの歌詞を持っているが、曲自体は60年代イタリアン映画音楽の巨匠エンニオ・モリコーネやピエロ・ピッチオーニに通じる欧州ラウンジ・ラテンのテイストを持っていて、彼の非凡なセンスを感じさせる。ショックは優雅なピアノをプレイし、川島はコンパクトコンガとこの曲に欠かせない独特なコーラスでサポートする。主役のフレネシのボーカルは童女のようなひたむきさを持ち、1コーラス目のサビからは歌詞に合わせてアンブレラを開き、間奏では片手でシンセ・ソロまで披露する器用さを観させてくれた。
そして本ステージのハイライトである。今回のフェス主宰者であるテルミン奏者の街角マチコがスペシャルゲストとして、フレネシから呼ばれて登場する。ターコイズブルーの七分袖ワンピースがすらりとした美しい長身にマッチして、ただならぬ神秘性を醸し出していた。彼女は2001年に日本におけるテルミン演奏の第一人者である竹内正実氏に師事し、わずか4年後には自身の教室「テルミン大学」を設立して、長年テルミンの普及に尽力しており、令和日本のクララ・ロックモアと呼べる存在なのだ。
そんな街角をゲストに迎えて演奏されたのは、昨年12月にリリースされた「おやすみルナモス」で、スタジオ・レコーディングにもテルミンで参加して話題になっていた。ここでの演奏陣はピアノのショックとアコースティックギターの川島に、ワルツ・パターンのドラムやリバース・ノイズなどSEを含むバックトラック、そしてボーカルとは異なる複旋律をテルミンで演奏する街角である。クラシカルなマイナーキーのバラードを無垢に歌い上げるフレネシの姿は非常に印象的で、彼女の楽曲群の中では「メルヘン」(同名アルバム収録/2010年)に通じるヨーロピアン哀愁歌としてファンの心に残ったのではないだろうか。なおこの「おやすみルナモス」終了後にショックと川島はステージからはける。
あっという間にラストになってしまったが、7曲目は『ゲンダイ』収録の「silly joke」である。ここではフレネシはピアノに移動して弾き語りするスタイルとなり、街角はテルミンでオブリガードと間奏のソロでサポートする。
三連符コードのピアノで演奏される愛らしいこの曲は、初期ユーミンや大貫妙子に通じる淡い乙女感覚と一人称英語歌詞のラブソングだ。間奏のえも言われぬテルミン・ソロを演奏し終えると街角は静かにステージをはけて、完全にフレネシのソロ弾き語りとなる。
このロンリネスな曲が持つ、ひしひしとした乙女の孤独感とオーバーラップして、後ろ髪を引かれる雰囲気でステージを締め括った演出は実に素晴らしかった。
最後にフレネシのソロ活動再開後初の記念すべきステージの総括として、11年の活動休止期間中にこの日を待ちわびていた熱心でストロングなファン、そして新たに加わったニュー・ファンを魅了して、今後も彼女の世界に浸っていきたいと再認識させた、極めてエクセレントなステージであった。
(全ライブ写真撮影者:野中麻実子)
Sound Palette by frenesi
8歳で、ささやき声しか出なくなる。20歳で衝動的に音楽活動を開始し、大学卒業までの2年間に50曲余りを作曲。
2009年6月、乙女音楽研究社からリリースした初のフルアルバム『キュプラ』が、HMV インディーズチャート1位、カレッジチャート1位を獲得し注目を集める。
その後、『メルヘン』『ゲンダイ』『ドルフィノ』の3枚のアルバムを発表したのち、2014年12月27日のワンマンライブ「フレネシ学園 伝説の終業式」をもって活動を無期限休止。
2020年にストリーミング配信が開始されたことで海外の音楽ファンを中心に新たな注目を集め、 累計再生回数は数千万回に達し 「渋谷系のビョーク」とも称される。
2025年10月31日に11年ぶりの新作『除霊しないで』を発表し活動再開を宣言、さらには12月22日に『おやすみルナモス』を発表し、大きな話題を呼んでいる。
★フレネシofficial site:こちらをクリック
◎最新配信シングル「Undo-Onchi」 amazon
(設問作成、本編テキスト:ウチタカヒデ)
















0 件のコメント:
コメントを投稿