~WebVANDA管理人推奨・今年聴くべきアルバム~
The Pen Friend Club(ザ・ペンフレンドクラブ)が、『Back In The Pen Friend Club』から約2年振りとなる待望のニューアルバム『Songularity』(Penpal Records/PPRD-0011)を3月18日にリリースする。
本作は全収録曲が20曲で2枚組という、そのボリュームばかりか、2022年9月の『The Pen Friend Club』以来となる、全曲がメンバーによる作曲のオリジナル作品(全て英語歌詞)ということで、熱心なファンにとって喜ばしい内容となっている。
前列左よりリカ(A,Gt,Cho)、そい(Key,Cho)、西岡利恵(Ba,Cho)
後列左より平川雄一(Gt,Cho)、祥雲貴行(Dr)、中川ユミ(Glo)、Niina(Vo)
大谷英紗子(Sax)は現在海外在住で休団中
まずは彼らザ・ペンフレンドクラブ(以下ペンクラ)のプロフィールに改めて触れよう。2012年にリーダーでギタリスト兼メイン・ソングライターの平川雄一により結成された。ビーチ・ボーイズやフィル・スペクター周辺の60年代中期のウェストコースト・ロックをベースとした音楽性を持ち、60'sマニアである平川のセンスを基に活動している男女8人組のバンドである。これまでに幾度かのメンバー・チェンジがあり、特にボーカリストは現在のNiinaで5人目になるが、こうしてバンド活動を14年も継続しているのは稀有なことで、バンドとして強固なアイデンティティが確立されているからに他ならない。
現在までに9枚のアルバムをリリースしており、内カバー曲を中心としたクリスマス・アルバム1枚、ライブ・アルバム1枚、全曲カバー・ナンバーを収録したアルバム1枚をリリースしており、2枚組となる本作が加わることで、彼らのリリース・カタログも多彩になってきた。
なお本作のレコーディングには、米国の温故知新系ロックバンドWondermintsの主要メンバーで、ブライアン・ウィルソン・バンドにも長年参加して参謀格だった、ダリアン・サハナヤ(Darian Sahanaja)がハンドクラップで参加しているのは注目に値する。これはブライアン信奉者同志で親交のある平川のために友情参加しただけではなく、本作のクオリティを素直に認めたからだろう。2004年に幻の未完成アルバム『Smile』(Rec:1966~1967年)をリレコーディングし『Brian Wilson Presents Smile』として蘇らせた、最大の功労者として知られる一流クリエイターのダリアンが、世界的には無名である日本人インディーズ・バンドのレコーディングに参加すること自体が稀なのだ。
ここでは筆者による収録曲全ての詳細解説と、平川を中心としたメンバー達へのインタビューの前編と後編の2回に分けて紹介する。また曲作りやレコーディング中イメージ作りでメンバー達が聴いていたプレイリストを後編でお送りする。
Harbinger (Official MV)
DISC-1冒頭の「Harbinger」は平川が全コード進行、ベースの西岡利恵が全メロディという共作になっている。また平川や西岡が手掛けた曲を中心に英語歌詞を多く手掛けるのはニューヨーク在住の日本人音楽家Youth Yamadaだ。この曲は昨年9月にドラムレスのラフミックスを聴かせてもらったヴァージョンからブリリアントな導入部であると感じて、このアルバムは傑作になるだろうと確信した曲である。イントロのギター各種のアルペジオ、複雑に転回しながら心に響くコーラス・パート、ビートリー(ポール・マッカートニー)なギター・ソロ、ドラムの祥雲貴行がプレイする多彩なフィル、そして「Let’s see the beginning of you that's to come・・・」で締める歌詞も非常に良い。
続く「Got To Be Rock And Roll」は先行シングル第二弾で2月27日に配信開始された、平川作曲、Yamada作詞によるシンプルなロックンロールで、コーラス・アレンジはビーチ・ボーイズからの影響が強い。イギリス育ちでネイティブな発声のNiinaのボーカルは、こういったスタイルの曲でも強い説得力があり、堂々とした歌唱で聴き惚れてしまう。
Got To Be Rock And Roll (Official Short MV)
チェンバロ(ハープシコード)の刻みとシャッフル・ビートの「Never Let You Go」は平川=Yamada作のソフトサイケ・ナンバーで、弊サイト読者に強くアピールするだろう。中期ビートルズ風の複雑なコーラス・パートや変拍子とワルツ・パートが挿入されたり、深いリヴァーブを効かせたブレイクがあったりとアレンジも非常に凝っており、カート・ベッチャーがプロデュースしたEternity's Childrenの諸作からヴァン・ダイク・パークスの『Song Cycle』(1967年)まで許容する音楽マニアは聴くべきだ。
インタビュー後編でリカ(アコースティック・ギター&コーラス)が触れる「Lily’s Smile」は先行シングル第4弾で、リカが作曲と歌詞のモチーフを作り、そこからNiinaが娘に捧げた歌詞を書いたラヴソングになっている。ペンクラとしては珍しいヒスパニックなリズムとスイング感を持ったサンシャイン・ポップだ。後半のパートで現在海外在住である大谷英紗子が帰国のタイミングでダビングした複数のサックス・プレイを聴ける。またコーダでは娘Lilyの笑い声もオーバー・ダビングしており、スティーヴィー・ワンダーの「Isn't She Lovely」(『Songs in the Key of Life』収録 1976年)を彷彿とさせて微笑ましい。
「Begin Tomorrow」も昨年9月のラフミックス段階から注目していた深い音像を持つ平川=西岡=Yamada作の曲で、ブライアン・ウィルソンにアンダース&ポンシアのセンスが加わったソングライティングとアレンジに感心したが、全コード進行とヴァース1は平川、ヴァース2を西岡が手掛けている。その西岡がプレイする耳に残るベースラインとそいがプレイするオルガンの響き、また平川のバリトンギターとユニゾンする中川ユミによるグロッケンのオブリガードも重要だ。
このオブリのラインだが、ペンクラの1st『Sound Of The Pen Friend Club』(2014年)に収録されたブルース&テリーの「Don't Run Away」(1966年)をカバーした際に遡る。嘗て同曲をこよなく愛する山下達郎氏が「Only With You」(『BIG WAVE』収録/1984年)としてオマージュした自作曲があり、同じようにグロッケンのオブリガードを入れているのだが、こちらは山下氏のオリジナルである。ペンクラの「Don't Run Away」カバーではこの「Only With You」のオブリのラインを引用するという二重構造のオマージュをしており、当時筆者しか指摘しなかったと平川から聞いたが、非常にマニア心をくすぐった。今回この「Begin Tomorrow」で、再びこのオブリのラインを登場させているのが嬉しい。
渋谷系から入ったソフトロック・ファン読者のために、平川=Yamada作の「The National Bird」にも触れるべきだろう。同曲はRoger Nichols & The Small Circle Of FriendsやThe Carnivalに通じる、疾走感あるボッサのリズムを持つソフトロック・ナンバーで、Niinaの表現力あるボーカルも相まって完成度が高い。アレンジ的にこのタイプの曲では高域にトランペットに配置させてオブリをプレイさせるのが定石だが、ここでは大谷のサックスとゲストのMiyu Ohashiによるフルートのユニゾンにしているのがペンクラらしく独自性を感じる。是非7インチでシングルカットして欲しいナンバーである。
Niinaのソングライティングによる「Really Feel」、そい作曲による「Merry-Go-Around」(作詞はYamada)はそれぞれ彼女達のカラーが出ており、前者は現代的でコンテンポラリーな曲調であるが、平川をはじめメンバー達によるアレンジによってペンクラ・サウンドに仕上げているのが見事だ。左チャンネルのギターやハモンドオルガン系の音色やビーチ・ボーイズ風のコーラス・パートが肝になっている。後者はフィル・スペクターのフィレス・サウンドをオマージュしたことでより原曲が活きている。
平川以外では唯一のペンクラ・オリジナルメンバーで、弊サイトのガレージバンドの連載コラムでもお馴染みの西岡単独作曲の「Thelma」と「Die Alone」は、異なるタイプの曲を器用に書き分けている。いずれもYamadaによる英語の歌詞で、前者はテルマというミュージカル女優に歌を懇願するシーンを描いており、80年代英国ギター・ポップの匂いがするが、平川がプレイするバンジョー・ソロが始まるとアメリカン・カントリー・ポップになるという展開が面白い。後者ではタイトル通り、一転してシリアスなサイケデリック・ブルース・ロック風で、この作風は前々作『The Pen Friend Club』で西岡が披露していたスタイルである。ここでは平川のスライドギターのソロ、祥雲のドラミングが一級のプレイで何度も聴きたくなる。
Grow (Official Short MV)
DISC-2は先行シングル第三弾の「Grow」から始まり、この曲が誕生したきっかけはインタビュー後編でも触れられるが、歌詞も手掛けたNiinaがヴァース1とサビを作曲し平川は全体のコード進行を作った原曲に、西岡がヴァース2を足して完成させている。Niinaによる歌詞は一人称で自らを描いたようで、様々な葛藤に打ち勝っていこうとする姿に感動してしまう。サビへの導き方も自然でアレンジ的にも完成度が高く、パート毎に3人それぞれが作ったとは思えない不思議な統一感があり、バンドメンバーの絆を強く感じさせた。
続く「You’re The One 1965」は平川=Yamada作で、歌詞の世界観とややファースト・テンポのシャッフル・ビートから典型的なソフトロックである。優和なヴァースからサビでビターなマイナーに転調する感じなど、Spiral Starecaseの「More Today Than Yesterday」(1968年)、マニアックなところではThe Golden Gateの「Lucky」(『Year One』収録 1969年)あたりに通じて好きにならずにいられない。
「In Your Light」はリカの単独のソングライティングで、英語詞はNiinaと共作している。この曲は70年代初期シンガー・ソングライター系の曲調とアレンジで、恐らく彼女が敬愛しているであろうキャロル・キングの匂いを強く感じさせる。こういった従来のペンクラとは毛色の異なるサウンドを許容している点が新鮮である。
一転して初期ビーチ・ボーイズ風の「Breakin’Up」は平川=西岡=Yamada作で、ほぼ全体を平川が作曲しヴァース1を西岡が修正したようだ。とにかくボーカルのNiinaがシャウトしまくる、ライブで映えする曲である。ペンクラの魅力はこういったタイプの曲に象徴される、一般音楽リスナーが初見で楽しめる親近性を持ちながら、DISC-1に収録された「Never Let You Go」や「Begin Tomorrow」など、筆者のようなコアなマニアック層にもアピールする深い音楽性を内包させている点なのだ。
主にNiinaのソングライティングした原曲に西岡がサビを追加した「Little Life」は、マイナーからサビでメジャーに転調するブルース進行のバラードだ。ひと際シリアスな歌詞であるが、Niina自身と平川やリカらによる美しいコーラスが効果的に機能して曲の完成度を高めている。
西岡=Yamada作の「For It's Worthwhile」は、ワルツに一部変拍子が入る独特なリズムに複雑なコーラス・アレンジが絡む美しいラヴソングだ。Yamadaによる歌詞は奥ゆかしく恋の手ほどきをしており、基本リズムを刻むバンジョーは平川、後半パートで入る間奏のサックス・ソロは大谷がそれぞれプレイしている。
そして本作の先行シングル第一弾として2月20日にいち早く発表された「California Again」は、DISC-2の後半に収録されており、平川=西岡=Yamada作で、ヴァース1は西岡、ヴァース1の一部とヴァース2の作曲は平川がそれぞれ手掛けている。いきなりビーチ・ボーイズの「Do It Again」(1968年)を意識したアレンジなのはペンクラらしいのだが、こういったノベルティ感覚に近い曲もNiinaのボーカリストとしての力量で聴かせてしまうのはさすがである。
California Again (Official Short MV)
多感な時期をイギリスで育ったNiinaのソングライティングによる「Promise」は、実にオーセンティックなカントリーソングで驚かされる。英国人によるアメリカン・ルーツミュージックへの憧憬という感覚に近いのかもしれないが、嘗て英国のザ・バンドとされたブリンズリー・シュウォーツのニック・ロウやその弟子筋で、日本でも信奉者(筆者もだ)が多いエルヴィス・コステロなど良質のカントリーソングを残した先人も多いのだ。ここでは平川によるスティールギターを模した味わい深いスライドギターやバンジョーのプレイが楽しめる。
一転して続くタイトル曲「Songularity」は平川作のギター・インスト曲で、アップビートなサーフィン&ホット・ロッドとは異なる、6/8拍子の静かで美しいバラードだ。骨格はビーチ・ボーイズの「Summer Means New Love」(『Summer Days (And Summer Nights!!)』収録 1965年)だろうが単純にそれだけではなく、『Pet Sounds』(1966年)収録の「Let's Go Away for Awhile」で多用されたティンパニやバリトン・サックスなど楽器編成であり、同アルバムの歌物で展開されたコーラス・アレンジを投入しているのは平川のセンスであり、まったく聴き飽きない。
ラストの「Be Here With You」は平川=Yamada作で、こちらは完全にビートルズとポール・マッカートニーへの愛情のこもったオマージュであり、骨格はWingsの「Band on the Run」(1974年)だが、モザイク的に複数曲のエッセンスを付加している。この「Band on the Run」自体ビートルズ時代の『Abbey Road』(1969年)B面の「You Never Give Me Your Money」から「The End」のメドレーの内、ポール単独曲を1曲に凝縮させた感がある。この曲でも僅か2分58秒の尺にドラマティックな展開を凝縮させており、特にテンポアップするブリッジのパートのバックには、「A Day In The Life」(『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』収録 1967年)で、ジョン・レノンとポールがそれぞれソングライティングしたパートを繋ぐ24小節のため、プロデューサーのジョージ・マーティンがアレンジしたオーケストラの「無調クレッシェンド」までオマージュさせているのだ。このアイデアを実現させるのはなかなか困難なので、正に脱帽してしまった。
アルバム全編を通してこれまでのペンクラ史上、最高傑作であることは間違いないので、筆者の詳細解説と彼らへのインタビューを読んで興味を持った音楽ファンは、速やかに予約し入手して聴いて欲しい。いや聴くべきだ。
The Pen Friend Club『Songularity』
リリース★インタビュー前編
“今回はより開かれた状態で、
今のバンドの姿をそのまま封じ込めた作品”
●前作『Back In The Pen Friend Club』(フル・カバーアルバム)から約2年振り、全てオリジナル曲のアルバムとしては、2022年9月の『The Pen Friend Club』以来になります。
しかも今回は2枚組で全20曲というボリュームですが、こういったコンセプトでリリースすることは、以前より計画していたんでしょうか?
◎平川雄一:前作が新体制での「挨拶がわりのカバーアルバム」だったこともあり、次はオリジナル曲だけでアルバムを作る意識は早い段階からありました。
前々作の8thアルバム『The Pen Friend Club』(2022年)に始まった【オリジナル曲のみでのアルバム制作】を継続したかった、という気持ちです。
メンバーと制作を進める中で曲数が自然と増えていき、今のThe Pen Friend Clubの状態を削らずに残すなら、この形が一番正直だと感じ、2枚組20曲という構成になりました。
個人的にはバンドの歴史の中で2枚組の大作を一つは作っておきたい、という願望もずっと持っていました。
●フル・オリジナルアルバムとして、その『The Pen Friend Club』と本作の違いは、2枚組20曲を収録というボリューム、またボーカリストがNiinaさんに変わったことで、前々作(『The Pen・・・』)とアプローチをどの様に変えるよう心掛けたでしょうか?
Niinaさんのキャラクターや声域のブライト・ポイントというのか、メジャーキーの曲の比率が増えたと感じました。
◎平川雄一:メジャーキーの曲が増えたのは、単純に曲数が増えたから、ということだと思います。僕自身がもともとあまりマイナーキーの曲を書かないので、数が増えれば自然とそうなる、という感じですね。
今回大きく違うのは、ソングライターの人数です。
前々作『The Pen Friend Club』(2022年)は、コロナ禍での制作でした。オリジナル曲のみでアルバムを作る、という強い意志のもとで、「自分たちの手で希望を見つける」ような感覚があったと思います。
ただ、その時代の空気もあって、どこか鬱屈としたトーンがアルバムに滲んでいるのも事実です。
そして前々作は、僕、西岡利恵、リカの3人による作曲でしたが、今回『Songularity』ではそこにNiinaとそいが加わり、5人のソングライターでの体制になりました。
人数が増えれば、メロディ、コードの発想も変わります。今回はそうした複数の書き手の個性が、そのままアルバムの広がりになっています。
前々作が「限られた状況の中で希望を探す作品」だったとすれば、今回はより開かれた状態で、今のバンドの姿をそのまま封じ込めた作品だと思っています。
●前作からクラウドファンディングを利用してアルバム制作のバジェット(予算)を確保されていますが、この切っ掛けや苦労点などあれば聞かせて下さい。
◎平川:クラウドファンディングを使い始めた一番の理由は、制作のスピードと自由度を保ちたかったためです。
正直、これが無かったら厳しかったと思います。
制作費の目処が立つことで、より妥協せずに進められる。一方で、支援してくれる方々に対する責任、緊張感が、結果的に作品の完成度を押し上げてくれたと思っています。
「レコーディング見学」や「ハンドクラップでの録音参加」などの返礼品もあり、ファンの方々と一緒に制作している感覚があり非常に楽しかったです。
●本作制作において、クラウドファンディングの成果が大いに出ていることで良かったです。今後もこの手法を導入してコンスタントに新作をリリースしていきたいですか?
◎平川雄一:そうですね、特にコンスタントに作品を作っていく僕らのようなバンドにとってクラウドファンディングは、有効な仕組みだと感じています。
続けるかどうかはその時々の状況次第ですが、少なくとも今は、僕らも楽しみながら取り組めています。(レア音源をファン向けに出せるのが嬉しかったりします。)
インタビュー後編に続く
(設問作成及び編集、本編テキスト:ウチタカヒデ)


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