2021年9月18日土曜日

Hack To MONO


宝探しは見つからないから楽しい。

 佐野邦彦氏の弊誌記事中の言葉だ。
 The Beach Boysのレア音源逍遥云々は佐野氏以来の「伝統」の一つといえよう、拙筆も時代考証とやらの筆すさびで、この伝統の末席に加えていただいている。
 音源の配信による共有化の時代にあっては、好古家の出番は限られる、ステレオ音源の探求だとありふれている、モノ音源にこだわってみたい。
レアなモノ音源聴覚体験という宝探しはどうかな?
 かの野村胡堂も何故レコードを蒐集するのかと問われ
「この耳で、よい音楽を聴きたいため」と答えているではないか......
と、決心したものの具体的なイメージをどうする?
 試行錯誤の末にたどり着いたのは「なるべくデビュー当時に近い機材環境でモノ音源を聴いてみよう」ということになった。
 贅沢を言わせていただくと、当時のラジオ局にあったような、ながーい頑丈なトーンアームで聴くモノ音源ならなおさらいい。


 ここで1950年代末までのレコード事情を駆け足で紹介しよう。
1948年に米Columbiaが33回転塩化ビニール盤を製造販売開始する翌年1949年には米RCAが45回転塩化ビニール盤を製造販売開始した。
 当初はどちらかが戦前から続くSP盤にとって変わる、リーディングフォーマットと画策していたようだが、最終的には併存することとなった。
 1954年にはRIAAカーブが制定され、今後の業界標準となった。
 このRIAAカーブは、レコード盤に刻まれている溝と関係がある、原則的に音のダイナミックレンジが大きいと溝の幅が大きくなり、その逆は狭くなる。
 音声信号をダイレクトにレコード盤に刻んだとしたら、普段目にする溝とは異なる複雑な溝になってしまう。現に目にする溝はほぼ一直線、これは何を意味するかというと、レコーディングされた音を音の強弱が大きく出ないように加工してあるということになる。
 しかしそのままでは、モヤモヤした音が再生されてしまう、きちんと聴くためには、フラットに調整されている周波数帯の逆の周波数帯のカーブをかけてやれば元のレコーディングされた音に戻す必要がある。
 そこでこれを実現したのがフォノイコライザーという機器で、単体で使う場合かアンプ等に内蔵している場合もある。
 このフォノイコライザーがかける前と原音に戻す際の周波数帯のカーブがRIAAとなっているのだ。

青い線がカッティング時のカーブでフォノイコライザーで
赤い線のカーブをかける青・赤の曲線は理論上真逆になるので
元の音が再生できることになる


1958年より各社からステレオ盤の製造販売開始となる。

ステレオも様々なフォーマットが登場していた、
これは二つの溝に左右の音声を記録し二股のピックアップが
拾った音声からステレオ音像を再生していた

 閑話休題、この「モノ音源再生企画」にとりかかろう。

 機材等の選定をしていてあらためて、実現までのハードルの高さを痛感する。
 まず、ラジオ局にあるようなズドーンとしたトーンアームは1950年代辺りに絞ると入手困難かつ設置及び調整方法は複雑そうだ、元来約40センチのターンテーブルに合わせて設計されているモデルがほとんどなのが現状であって思案のしどころ満載である、残念ながらここは探索中とした。
 他のアンプ類は、実機は断念してできるだけ当時の回路に近い環境をシミュレートしたソフトウェアを活用することにした。
フォノイコライザーは真空管式のものを持っているのでそのまま使用する。
 ハードルがどんどん下がっている、このままではいけない、好奇心旺盛でその関心に向かってとことん楽しむ「佐野イズム」を絶やしてはいけない初志貫徹で50年代のモノ専用カートリッジを使用することにした。
 50年代当時の物の選定に当たっても困難を極めた、接続方法不明の物やレコード針そのものの取替が不明な物ばかりで当初は断念しかけたが
一筋の光明を見出した。

 General Electric社(以下GE社)のRPXシリーズであった。



 記録によると同製品は放送局から民生用にいたるまでレコード再生に幅広く使用された、とある。一時は絶対優位であった同製品は、ステレオ時代にSHURE社のカートリッジが市場に登場するや否や市場から駆逐される運命を辿った。

GE社のカートリッジは日本メーカーにも影響を与えていた
画像は東京サウンド社(Guyatoneで有名)のもの


 本製品の仕様は現代の観点から見るとユニークだ、33回転 45回転 78回転がこのカートリッジをアームを一度つけるだけで全フォーマットの音盤を聴くことができるようになっている。

 背面の突起を押して針をせり出してやって、
二種類の針が交換できるようになっている


 早速2点入手することができた。テスターで通電OKだったので期待は高まる。


 この突起を押し出すと針がせりあがり、クルッと回転させて針を変更する60年近く前の機種であるが、原理は現代のカートリッジとほぼ変わらないのと、サイズは大ぶりだが、ヘッドシェルにつけても違和感ない大きさだ。
 アームはまだ有望なものが見つからないので、愛機(1973年製)につなぐ真空管時代とトランジスタ時代のキメラシステムで当面再生に挑むこととした。
 ヘッドシェル は装着した時の重量を考慮してDJ用の物を利用することとしよう。
 しかし、ここで難題発生!


 装着予定のヘッドシェルに空いている穴が例の背面の突起の位置と合わずとぶつかるのだ。
 穴を開けねばならない!さあ、どうする?

(次回へ続く)
(text by Akihiko Matsumoto-a.k.a MaskedFlopper)

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