2026年4月30日木曜日

コンピレーション:『Adventures in Modern Recording by TOHRU OKADA』


 ムーンライダーズのキーボーディストで同バンドきってのメロディーメーカーだった岡田徹氏のトリビュート・アルバム『Adventures in Modern Recording by TOHRU OKADA』(Headland Records / HEAD-0001)が4月23日にリリースされたので遅ればせながら紹介したい。 
 惜しくも2023年2月14日に逝去した岡田氏は、前進バンドのはちみつぱい時代からムーンライダーズでリーダーの鈴木慶一氏を支えていたメンバーとして知られ、多くの名曲を残してきた。またプロデューサーやソングライター、キーボーディストとしてバンド外での多くの活動も知られており、ライダーズ系譜の若手バンド、アーティストの育成でも貢献をしてきた。彼が手掛けた中ではPSY・S(サイズ)やパール兄弟、Nav Katze、野田幹子、矢野有美(元シャワー)。メジャー系ではガールズバンドとしては国内で最初に成功したプリンセス・プリンセスの名付け親としても知られおり、その影響力は多岐に渡る。

岡田 徹 

 このような幅広い岡田氏の交流関係から、本作にも世代を超えた多くの人材が参加しており、『MODERN MUSIC』(1979年)や『カメラ=万年筆』(1980年)、『マニア・マニエラ』(1982年)に歌詞を提供しボーカルやコーラスでも参加して、この時期ライダーズの準メンバーとも呼べる存在だった佐藤奈々子を筆頭に、鈴木慶一がプロデュースしたコンピレーション・アルバム『Bright Young Aquarium Workers (陽気な若き水族館員たち)』(1983年)にPortable Rockのメンバーとして参加し、『Don't Trust Over Thirty』(1982年)にコーラスで参加した野宮真貴のライダーズ人脈。
 岡田がファーストから初期アルバムを手掛けたシンガーソングライターの野田幹子、同様に岡田がデビュー時のアルバムやEPをプロデュースしたPSY・SのCHAKA、ガールズ・ニューウェイヴ・バンドのNav Katze、読者モデルからガールズバンドに転じたChiroline(チロリン)の初代リーダーの島崎夏美まで参加している。
 若手では元地下アイドルで現在はライター業の傍ら、音楽ユニット”僕とジョルジュ”の活動をしている姫乃たま、富士山ご当地アイドルグループで、井出ちよのソロユニットというべき3776 (みななろ)も参加し、この2名は2016年の岡田のセルフカバー・ソロアルバム『Tの肖像』でフューチャー・ボーカリストでもあった。更に岡田が生前手掛けようとしていた逸材として、アニメ映画『天気の子』(新海誠監督)のテーマ曲歌唱や映画『ドライブ・マイ・カー』(濱口竜介監督)の演技で新人俳優賞を受賞した、女優兼歌手の三浦透子まで加わっており、全曲のリードボーカリストが、女性陣というのも注目である。

 本家ムーンライダーズからはリーダーの鈴木慶一をはじめ、武川雅寛、白井良明、鈴木博文、夏秋文尚と、実質的メンバーであるスカートの澤部渡、”想像力の血”の佐藤優介という現在のフルメンバーに加えて、岡田が参加していたユニットのLife Goes On、ya-to-i(山本精一との)、CTO LAB.のメンバー達も演奏やアレンジでそれぞれ参加するという、豪華な参加者により、愛に溢れる稀有なトリビュート・アルバムに仕上がっているのだ。 そして本作を飾る装丁面では、一際目を惹くペガコーン(ペガサス+ユニコーンのミックス)のジャケット画は、岡田の立教大学時代からの盟友で、ペガサスをモチーフとした一連の作品で知られるイラストレーターの真鍋太郎氏の描き下ろしである。

1.ウェディング・ソング / 岩下清香 with ROSE-UNLIMITED 
 (鈴木慶一とムーンライダース『火の玉ボーイ』1975年
2.Try Again / 野田幹子 with 武川雅寛、夏秋文尚
  (アグネス・チャン『Mei Mei いつでも夢を』1976年)
3.週末の恋人 / 佐藤奈々子 with 鈴木博文、佐藤優介
4.さよならは夜明けの夢に / 姫乃たま with 山本精一
5.ビューティコンテスト / 野宮真貴 with 鈴木慶一
  (以上3曲:ムーンライダーズ『イスタンブール・マンボ』1977年)
6.いとこ同士 / Nav Katze(ナーヴ・カッツェ) 
(ムーンライダーズ『ヌーベル・バーグ』1978年)
7.いつの日か Happy End / 島崎夏美(Chiroline) with CTO LAB. 
 (杏里『哀しみの孔雀』1981年)
8.Good Nightは嫌い / 3776 (伊藤つかさ『Osusume = オススメ』1984年)
9.(チロリンの)星に願いを / CHAKA with 白井良明 
 (Chiroline『Chiroline - For Camp Fire Use Only』1986年)
10.9月の海はクラゲの海 / 覚和歌子 with Life Goes On
 (ムーンライダーズ 『ドント・トラスト・オーバー・サーティー』1986年)
11.途中にしてね / テノリエリ with 黒田英明
 (Chiroline「途中にしてね」シングル 1987年)
12.涙は悲しさだけで、出来てるんじゃない / Pyokn
 (ムーンライダーズ 『最後の晩餐』1991年)
13.硝子MOON / ジーニアス (須藤まゆみ『電影少女OST』1992年)
14.空の名前 / 三浦透子 with 澤部渡(スカート) 
 (コミック・イメージアルバム『君だけをみつめてる Scene2』1997年

 
岡田徹(ムーンライダーズ)トリビュート・アルバム
「Adventures in Modern Recording by TOHRU OKADA」トレーラー 

 ここでは先月末に本作の音源を入手し、80年代にライダーズを愛聴していた筆者が収録曲の中から特に気になった曲を厳選して詳細解説していく。
 「Try Again」は、70年代前半に人気絶頂だったアイドル歌手のアグネス・チャンが、海外留学のため一旦引退する直前の1976年4月にリリースされた7THアルバム『Mei Mei いつでも夢を』に収録されており、レコーディングには前年からライブのバッキングを務めていたムーンライダーズが全面参加していた。岡田が作曲してアグネス自身が作詞したこの曲はオリジナルからレイドバックしたサウンドで、アイドルからシンガーに脱皮しようとする姿が見て取れる。シンガーソングライターの野田幹子が美しいボーカルを聴かせる本作のヴァージョンでは、ライダーズから武川がバイオリン、夏秋がドラムで参加し、アレンジとその他の楽器演奏とプログラミングをマイクロスターの佐藤清喜が担当している。オリジナルの雰囲気を大切に踏襲したそのサウンドは、アメリカン・ルーツ・ミュージックの芳醇な香りがするエヴァーグリーンな名曲で、作曲家としてのキャリア初期から岡田が円熟していたことが理解出来る。 
 続く「週末の恋人」はライダーズ提供曲の中では珍しく岡田自身がリードボーカルを取った曲で、上品な声質を持つシンガーの大野方栄とデュエットして、フランス系カナダ人シンガーソングライターのルイス・フューレイに通じるヨーロピアンなストリングスに変則的なボサノヴァのリズムを取り入れたサウンドだった。このサウンドとハース・マルチネスを彷彿とさせる岡田のだみ声のコントラストが極めて欧州映画的で素晴らしく、ライダーズ・ベストソング10の1曲に選ばれると思う。ここではこの曲を作詞した鈴木博文のベースと佐藤優介のピアノのバッキングのみで、佐藤奈々子が一人でアンニュイに歌い、サビで優介がコーラスを付けている。やはりサビ前のフックとなる「もう一度あなたの肩にもたれたいわ いつまでも 素敵でいてね・・・」のパンチラインは、このカバーヴァージョンでも光っている。また今回の参加シンガーの中でライダーズと関係性が最も古い佐藤奈々子がこの曲を取り上げたのは意義深いと考える。

鈴木慶一氏、佐藤奈々子氏サイン入り
『Radio Moon and Roses 1979Hz』
アナログ盤(2022年 / 管理人所有) 


 続く「さよならは夜明けの夢に」、「ビューティコンテスト」も前曲同様『イスタンブール・マンボ』収録で、オリジナル曲順通り収録されおり、同アルバムが岡田の代表曲を最も収録していたということだろう。曲順を決定させた本作プロデューサーの川村岬と岡田の愛娘である岡田紫苑 (little moa)の拘りと深い愛を感じさせる。
 前者のオリジナルはこれまた鈴木博文の作詞で、アコースティックピアノのコードワークにエレピや複数のアナログシンセのオブリガード、リードボーカルを取る鈴木慶一の多重録音によるコーラスが入る、中期10cc風のサウンドがブリリアントだった。後の1981年には岡田自身によるリアレンジでシンガーの杏里が『哀しみの孔雀』で取り上げている。ここでは元ボアダムスでオルタナティブ・ギタリストの山本精一、彼とのユニットPARAに参加するピアニストの西滝太、多くの前衛ユニットに参加するギタリストのmoooting(むうとん)がフルートで参加している。音数の少なさはオリジナルを踏襲し、西によるドビッシー風のイントロからこの曲のもの悲しさを表現しており、本編の”less is more”なサウンドも姫乃たまの無垢なボーカルを引き立てた名カバーと言える。
 後者のオリジナルは無国籍且つユニークなパーティソングで、同じく作詞:鈴木慶一とのコンビによる「マスカット ココナッツ バナナ メロン」(『Moon Riders』1977年)から連なるライダーズ・カラーを引き継いでいた。ここではその鈴木慶一がリアレンジしエレキギターと全てのプログラミングを担当し、チャイニーズ風味を強調させたサウンドに仕上げている。ボーカリストには鈴木がPortable Rock時代にプロデュースし、その後ピチカート・ファイヴの活動で成功した野宮真貴が迎えられている。野宮の独特な歌唱法と声質によって、ソフィスケイトされたお洒落ポップスに生まれ変わったのはさすがである。

 そしてライダーズ及び岡田の代表曲として、多くのファンが挙げる「いとこ同士」が本作でも取り上げられている。タイトルや鈴木博文が書いた歌詞のインスパイア元は、1959年ベルリン国際映画祭金熊賞を受賞しフランスのヌーベル・バーグ(Nouvelle Vague)映画の代表作、クロード・シャブロル監督『いとこ同士』である。またオリジナルではシンセサイザー・プログラマーの第一人者だった松武秀樹によりローランド社製マイクロコンピューター・ミュージック・コンポーザー”MC-8”(初期YMOでも使用)が導入され、ピンポン・パンニングする独特なシーケンス・サウンドが斬新だった。この松武をライダーズの鈴木慶一に紹介したのは、恐らくYMO結成前後の細野晴臣ではないだろうか。細野はこの曲ではスティール・ドラムの生演奏で参加しているのが興味深い。この様に革新的映画のモチーフと当時最先端のミュージック・テクノロジーを融合させた、鈴木と岡田のアイディアには脱帽するしかない。
 ここではNav Katzeがオリジナルのアナログシンセのサウンドをデジタルシンセに置き換えて、シャープでよりヨーロピアンなテクノ・サウンドでリメイクしている。長年彼女達の共同プロデューサーとしてエンジニアリングやプログラミングを務めている杉山勇司とメンバーが構築したトラックは、山口美和子が意図的にフラットにしたボーカルとの相性が良く、ヌーベル・バーグ映画のイメージを現代的に解釈して、このトリビュート・アルバムをより格調高くしてくれた。

 筆者がライダーズの最高傑作と考えるアルバム『ドント・トラスト・オーバー・サーティー』から「9月の海はクラゲの海」が取り上げられたのは非常に嬉しい。当時パール兄弟のボーカリストだったサエキけんぞう(佐伯健三)による作詞で、サエキはハルメンズ時代の81年から作詞家としてライダーズに関わっていた。オリジナルではドイツ製デジタル・サンプリング・シンセのPPG Wave 2.3 WAVETERMを全面的に使用し、サンプリングされたメンバーの声をモザイクの様にコーラスで配置させたサウンドが新鮮だった。
 本作では岡田が1995年に結成したアコーディオン・テクノバンド、Life Goes Onが作詞家兼シンガーソングライターの覚和歌子をボーカリストに迎えてアコーディオンバンド・アレンジで取り上げている。因みに覚は、蓮田ひろかのペンネーム時代を含め80年代後期のアイドル作品や沢田研二などに提供して、ライダーズ・メンバーの外部提供曲の作詞家としても度々関わっている。Life Goes Onには元ヴァリエテの鶴来正基、元カーネーションの棚谷祐一、元ZABADAKの上野洋子等実力派キーボーディスト達が多く参加して非常に音楽性が高い。この曲はライダーズ史上屈指の美しいメロディーを持ち、どことなくポール・マッカートニーの匂いをさせていたのだが、鶴来のバンド・アレンジや上野のコーラス・アレンジ、元々ボーカリストではなかった覚の純朴でナチュラルな歌唱によってスコティッシュ・フォーク風となり、正に原点回帰して生まれ変わっている。これこそがこの曲の完成形として、岡田が求めていたカタチなのかも知れない。 

 岡田徹氏サイン入り
カセットブック月光下騎士団
1984年 / 管理人所有)

 最後に繰り返しになるが、本作は岡田徹氏を敬愛する関係者が多く関わって、愛に溢れる稀有なトリビュート・アルバムに仕上がっているので、筆者のレビュー記事を読んで興味を持った音楽ファンは速やかに入手して聴いて欲しい。いや聴くべきだ。

(テキスト:ウチタカヒデ

2026年4月21日火曜日

青野りえ:『フィナーレを待ちながら』

“青野りえのTokyo Tendaberry”
 
 シンガー・ソングライターの青野りえが、ニューシングル『フィナーレを待ちながら』(aonote / FLY HIGH RECORDS)を5月4日にデジタル配信と自主制作CDでリリースするので紹介したい。


 青野にとって、昨年6月のシングル「恋する惑星」や2023年10月に発表したサード・アルバム『TOKYO magic』以来となるこの新曲は、以上の作品をプロデュースした作編曲家の洞澤徹とのThe Bookmarcs(以降ブクマ)や、昨年3月にファースト・ソロアルバム『Strange Village』をリリースした近藤健太郎が提供した曲に青野自身が作詞している。
 青野の作詞、近藤の作曲というこのソングライティング・チームは、昨年12月5日にリリースされた声優兼シンガーの藍田理緒にシングル曲「青いカケラ」(共同サウンドプロデューサー:高口大輔)を提供したのが初組合せで、本曲では近藤の『Strange Village』同様、彼と及川雅仁によるアレンジ、サウンド・プロデュース作品となっている。同アルバムの世界観に近いこの「フィナーレを待ちながら」だが、これまで鬼才SSWの関美彦やブクマの洞澤が手掛けてきた青野サウンドのカラーとは異なるのが非常に興味深く、曲調やサウンドを含めて、彼女の新境地となったのは言うまでもない。

 そもそもこの曲が誕生したきっかけを知る数少ない中の一人である筆者が解説するが、原曲は近藤が自身のバンドthe Sweet Onions、または『Strange Village』などソロ用にストックしていた、ピアノとスキャット・メロディだけのデモ曲「Circle」である。ポール・マッカートニーの「Maybe I'm Amazed(恋することのもどかしさ)」に通じるその曲は、この段階でも既にブリリアントであったが、そんなダイヤの原石を見抜き、歌詞をつけて歌いたいとオファーした青野の審美眼はさすがである。青野はその原曲にローラ・ニーロやキャロル・キングなど70年代初期~中期の良質なシンガー・ソングライターの楽曲をイメージさせていたという。彼女が書いた歌詞もそんな曲調から共鳴されたピュアでナチュラルな心情を描いたラブソングに仕上げており、巧みな歌声で豊かに歌い上げている。 
 アレンジ的にはシンガー・ソングライター系サウンドということで、必要最低限の楽器配置をした引き算の美学を心掛けていて、適所で光るプレイをしている。近藤がアコースティックピアノとオルガンにコーラス、及川は本職のベース以外にエレキギターとドラムのプログラミング、コーラスを担当して、この曲を演出している。特に間奏の及川の「Maybe I'm Amazed」に通じるギター・ソロやブレイク後に入る近藤のゴスペル風ハモンドオルガンの響きなど聴きものだ。

 
青野りえ ニューシングル 
「フィナーレを待ちながら」Teaser

 なおこの 「フィナーレを待ちながら」の自主制作CDは、4月29日東京・渋谷gee-geにて開催されるThe Bookmarcs『BLOOM』のレコ発ライブ・イベント「FLY HIGH RECORDS PRESENTS THE BOOKMARCS “BLOOM” RELEASE PARTY」の会場でいち早く販売するので、筆者のレビューを読んで興味をもった音楽ファンは是非会場にも足を運んで手にしてほしい。
◎「フィナーレを待ちながら」配信リンク:こちらをクリック


The Bookmarcs
4thアルバム『BLOOM』
レコ発ライブ4/29(水・祝)
12時〜渋谷gee-ge. にて開催決定

FLY HIGH RECORDS PRESENTS
THE BOOKMARCS
 “BLOOM”RELEASE PARTY

2026年4月29日(水・祝)
会場 : 渋谷gee-ge @shibuyageege
時間 : OPEN 12:00 START 12:30
料金 : 前売り4000円(税込)+1d(700円)
           当日 4500円(税込)+1d(700円)

GUEST MUSICIANS :
KARIMA(Opening Act)
美音子Fujishima
青野りえ
藍田理緒

The Bookmarcs BAND MEMBER :
Drums : 足立浩
Bass : 北村規夫
Key : 佐藤真也

※前売り予約特典として未発表音源CD-Rプレゼント

チケット予約 :


【未発表音源入り限定CD-Rを先行販売】
ニュー・シングル「フィナーレを待ちながら」リリースを記念して、
未発表音源入り限定CD-Rを販売します。
ライブ会場と青野りえの通販サイトのみの限定販売です。

発売日:2026年4月29日
収録曲:「フィナーレを待ちながら」+未発表音源3曲入り(CD-R)
価格:1,000円(税込)
通販:【青野りえのサインCD屋さん】https://aonorie.booth.pm/
東京・渋谷gee-geにて開催される「FLY HIGH RECORDS PRESENTS THE BOOKMARCS “BLOOM” RELEASE PARTY」の会場にて
先行販売します。
青野りえはゲスト出演いたします。


【関 連 記 事】 






◎『TOKYO magic』リリース・インタビュー







◎『Live in Tokyo 2022』レビュー





◎『Rain or Shine』リリース・インタビュー






【青野りえ★プロフィール】
都会的なメロウ感と、無垢な透明感を併せ持つ歌声のシンガー。富山県出身。
1996年、亀渕友香率いるゴスペル・グループ“VOJA”のメンバーとしてデビュー。沖井礼二(TWEEDEES/ex.Cymbals)のソロ・プロジェクト“FROG”にゲスト・ヴォーカルとして参加。 
またコナミ「pop'n music」「beatmania」等のゲーム音楽での歌唱や、資生堂、ユニクロの CMナレーション等、様々なレコーディング、ライヴ、TV、CM で活動している。
2017年、関美彦プロデュースによる1stアルバム『PASTORAL』(ヴィヴィド・サウンド)をリリース。
2022年、同じく関美彦プロデュースによる2ndアルバム『Rain or Shine』(FLY HIGH RECORDS)をリリースし、ジャパニーズAOR/シティ・ポップ・ファンの間で話題に。
さらに2021年にリリースした配信シングル「Never Can Say Goodbye」(洞澤徹プロデュース)が話題となり、2023年11月、3rdアルバム『TOKYO magic』 をFLY HIGH RECORDSからリリース。
2025年6月6日、洞澤徹プロデュースによるデジタル・シングル「恋する惑星」をリリース。
2025年12月5日、藍田理緒のデジタル・シングル「青いカケラ」(作詞:青野りえ/作曲:近藤健太郎)リリース。
そして新たなアルバムが期待される中、2026年5月4日にデジタル・シングル「フィナーレを待ちながら」リリース。
現在、K-MIX(静岡エフエム)の老舗音楽番組「ようこそ夢街名曲堂へ!」にレギュラー出演中。

青野りえOfficial Web Site: http://aonorie.com
X(旧Twitter): @rie_aono
FLY HIGH RECORDS Official Web Site:https://flyhighrecords.hatenablog.com/

(テキスト:ウチタカヒデ



2026年4月12日日曜日

フレネシ★ライブ At The 全日本テルミンフェス★レポート 


 昨年10月に活動を再開し、弊サイトでもお馴染みのシンガーソングライターのフレネシが、3月28日に全日本テルミンフェスで11年振りのライブをおこなったので、遅ればせながら紹介したい。


 まずこの全日本テルミンフェスについて説明するが、2005年にテルミン教室「テルミン大学」を開校し、日本国内でその普及に尽力するテルミン奏者の街角マチコ氏が主宰して、同大学の開校10周年の2015年から2017年まで定期開催していた世界でも稀な音楽フェスで、名誉会長は元ラーメンズでアーティスティックな活動でも知られるタレントの片桐仁が務めている。
 今回は9年振りとなる第4回で、ジャンルを超えたミュージシャン達のライブをはじめ、学際情報学の博士号を持ちメディアアーティストとして著名な落合陽一のインタビュー映像、編集者兼作家ながら怪談語り手としても知られる吉田悠軌まで出演するという、メディアカルチャー・イベント的側面も持っているのだ。会場は都内渋谷区代官山のUNITと晴れたら空に豆まいての2会場で開催され、開場の15時半から16組(リモート出演含め)の演奏からグランドフィナーレまで5時間を超える長丁場で繰り広げられた。

(女優兼音楽家のん氏からの祝い花と/撮影者:三宅芳夫)

 本稿の主役であるフレネシのステージは、”晴れたら空に豆まいて”において中盤の18時からのスタートで、開演前から椅子席とスタンディング客含め会場の最大キャパ(約200名)を完全に埋めて、入場規制のアナウンスがあったほどであった。
 定刻より少し遅れ、フレネシが登場する。サポート・メンバーには昨年10月にリリースしたフォースルバム『ナサリ―』が好評の無果汁団のショック太郎と、フレネシの所属事務所 ”乙女音楽研究社” を主宰する川島イタルの2名というミニマムな編成である。また後半スペシャルゲストとして本フェス主催者の街角マチコが参加している。
 セットリストに各演奏者のマークを付けているので参照して読んでほしい。

(全ライブ写真撮影者:野中麻実子)

セットリスト(2026年3月28日)
ローウィッツアーク(『キュプラ』収録/2009年)☆◎ 
nero(『キュプラ』収録/2009年)☆◎
除霊しないで(配信シングル/2025年10月)☆◎
Cloud Bossa(『ドルフィノ』収録/2013年)☆◎
運動音痴(配信シングル/2026年3月)☆◎
おやすみルナモス(配信シングル/2025年12月)☆◎★
silly joke(『ゲンダイ』収録/2012年))☆★
(収録アルバム及びシングルジャケット/曲順で上段左→下段左→)

☆フレネシ:ボーカル、シンセサイザー(microKORG)、
 アコースティックピアノ
◎ショック太郎(無果汁団):アコースティックピアノ
◎川島イタル(乙女音楽研究社主宰) :スティールパン、パーカッション、
 アコースティックギター、コーラス
★スペシャルゲスト~街角マチコ(全日本テルミンフェス主宰):テルミン 



 幕が開き「こんばんは、フレネシです」のMCが。11年の長い間待ちわびたファン達からの拍手が会場に鳴り響く。そして「この時間がずっと続いてくれたら嬉しいな。ある女友達とのエピソード」のMCから始まる冒頭曲は「ローウィッツアーク」。
 ショック太郎はグランドのアコースティックピアノ、川島はスティールパンを演奏し、リズムセクションのバックトラックをバックに歌うフレネシの歌声は、ブランクを感じさせないアンニュイで唯一無二なものだった。ファンが選ぶベストソングにも入るこの曲は、バックビートを強調した変則ポルカのリズムに、自身のエピソードをシニカルでユーモラスに描いている。またタイトルの「ローウィッツアーク」は“希少な大気光学現象”という気象学用語だが、音楽業界におけるフレネシの立ち位置を現わしているようで興味深い。
 当日ステージでのフレネシは、白のバンドカラーシャツ・ワンピースに、ミントグリーンのエプロン・ワンピースを重ねるというレイヤード・スタイル(本人談)で、ロリータ帽子を被り、まるでルノアールやモネの絵画から飛び出してきた少女のような衣装で目を惹いた。バックの2人も白シャツに黒のパンツというフレンチ・カフェのギャルソン風で、今日のステージに相応しい出で立ちである。


 続く「nero」もファーストソロアルバム『キュプラ』収録で、こちらは一転してクールでエスプリの効いた歌詞を持ち、ボサノヴァ・フィールのコード進行とグルーヴが渋谷系以降のアーティスト然としていて人気が高い。ここでショックは同じくアコピをプレイし、川島はコンパクトコンガ(別名トラベルコンガ)と呼ばれるヘッドのみで胴部が無いコンガとシェイカー、ウィンドチャイムまで担当している。
 とにかくクールなサウンドとフレネシのウィスパーボイスのコントラストがこの曲の最大の魅力であるが、間奏のシンセ・ソロまで彼女自身がプレイしている。愛用しているmicroKORGのエレピ系プリセットで、巧みなソロ・プレイは聴き応えがあった。



 3曲目は昨年10月の活動再開宣言のタイミングで、シングルとして配信リリースした「除霊しないで」だ。MCではそんな活動再開のきっかけとなった、クリープハイプの長谷川カオナシ氏のソロアルバムへの参加、NegiccoのMegu氏のシングル曲提供のオファーについて触れた後「11年振りに書いた曲が、なんでこんな曲なのかなっていうの、自分でもよく分からないのですけど・・・(苦笑)。まだ三途の川は渡らないぞ」と紹介されイントロのオケが流れてくる。前曲同様の楽器編成で、ここでもフレネシはシンセ・ソロを弾いている。楽曲的にはゼロ年代且つフレネシ・サウンドであり、心霊写真として写ったお化けが現世に未練を残しているというテーマがユニークであり、このような視点で世界を編み出せるのは彼女ならではある。

 ライブのスタートからフレネシは、ステージ下手に横向きパフォーマンスしていたためか、4曲目の前には上手側の客席に挨拶をするという心遣いがあった。MCではフレネシTシャツを着てライブ観戦するファンに触れて感謝したり、Megu氏にプレゼントされたと思しきグッズのドリンクボトルで、ライブ中愛飲しているスロートティー(ハーブティーの一種)を紹介して勧めるなど、ファンサービスのトークも大事にしていた。
 そんなリラックスした雰囲気の中で始まるのが「Cloud Bossa」だった。ここでは川島はアコースティックギターでボッサのリズムを刻み、ショックのアコピと共にこの曲を支えていた。この曲は活動休止前の最終アルバム『ドルフィノ』収録曲で、フレネシ・サウンドの中でもオーセンティックなボサノヴァで、フレネシのボーカルはアストラッド・ジルベルトよろしくサウンドに溶け込んでいた。



 後半に入ると、最新シングル「Undo-Onchi」が演奏される。乙女音楽研究社主宰の川島がソングライティングしたこの曲は、”運動音痴”というユニークなテーマの歌詞を持っているが、曲自体は60年代イタリアン映画音楽の巨匠エンニオ・モリコーネやピエロ・ピッチオーニに通じる欧州ラウンジ・ラテンのテイストを持っていて、彼の非凡なセンスを感じさせる。ショックは優雅なピアノをプレイし、川島はコンパクトコンガとこの曲に欠かせない独特なコーラスでサポートする。主役のフレネシのボーカルは童女のようなひたむきさを持ち、1コーラス目のサビからは歌詞に合わせてアンブレラを開き、間奏では片手でシンセ・ソロまで披露する器用さを観させてくれた。



 そして本ステージのハイライトである。今回のフェス主宰者であるテルミン奏者の街角マチコがスペシャルゲストとして、フレネシから呼ばれて登場する。ターコイズブルーの七分袖ワンピースがすらりとした美しい長身にマッチして、ただならぬ神秘性を醸し出していた。彼女は2001年に日本におけるテルミン演奏の第一人者である竹内正実氏に師事し、わずか4年後には自身の教室「テルミン大学」を設立して、長年テルミンの普及に尽力しており、令和日本のクララ・ロックモアと呼べる存在なのだ。

 そんな街角をゲストに迎えて演奏されたのは、昨年12月にリリースされた「おやすみルナモス」で、スタジオ・レコーディングにもテルミンで参加して話題になっていた。ここでの演奏陣はピアノのショックとアコースティックギターの川島に、ワルツ・パターンのドラムやリバース・ノイズなどSEを含むバックトラック、そしてボーカルとは異なる複旋律をテルミンで演奏する街角である。クラシカルなマイナーキーのバラードを無垢に歌い上げるフレネシの姿は非常に印象的で、彼女の楽曲群の中では「メルヘン」(同名アルバム収録/2010年)に通じるヨーロピアン哀愁歌としてファンの心に残ったのではないだろうか。なおこの「おやすみルナモス」終了後にショックと川島はステージからはける。



 あっという間にラストになってしまったが、7曲目は『ゲンダイ』収録の「silly joke」である。ここではフレネシはピアノに移動して弾き語りするスタイルとなり、街角はテルミンでオブリガードと間奏のソロでサポートする。


 三連符コードのピアノで演奏される愛らしいこの曲は、初期ユーミンや大貫妙子に通じる淡い乙女感覚と一人称英語歌詞のラブソングだ。間奏のえも言われぬテルミン・ソロを演奏し終えると街角は静かにステージをはけて、完全にフレネシのソロ弾き語りとなる。
 このロンリネスな曲が持つ、ひしひしとした乙女の孤独感とオーバーラップして、後ろ髪を引かれる雰囲気でステージを締め括った演出は実に素晴らしかった

 最後にフレネシのソロ活動再開後初の記念すべきステージの総括として、11年の活動休止期間中にこの日を待ちわびていた熱心でストロングなファン、そして新たに加わったニュー・ファンを魅了して、今後も彼女の世界に浸っていきたいと再認識させた、極めてエクセレントなステージであった。

(全ライブ写真撮影者:野中麻実子)


フレネシ・プロフィール

Sound Palette by frenesi 

8歳で、ささやき声しか出なくなる。20歳で衝動的に音楽活動を開始し、大学卒業までの2年間に50曲余りを作曲。
2009年6月、乙女音楽研究社からリリースした初のフルアルバム『キュプラ』が、HMV インディーズチャート1位、カレッジチャート1位を獲得し注目を集める。
その後、『メルヘン』『ゲンダイ』『ドルフィノ』の3枚のアルバムを発表したのち、2014年12月27日のワンマンライブ「フレネシ学園 伝説の終業式」をもって活動を無期限休止。
2020年にストリーミング配信が開始されたことで海外の音楽ファンを中心に新たな注目を集め、 累計再生回数は数千万回に達し 「渋谷系のビョーク」とも称される。
2025年10月31日に11年ぶりの新作『除霊しないで』を発表し活動再開を宣言、さらには12月22日に『おやすみルナモス』を発表し、大きな話題を呼んでいる。
★フレネシofficial site:こちらをクリック
◎関連記事「テルミンフェスのこと」:こちらをクリック
◎最新配信シングル「Undo-Onchi」 amazon


(設問作成、本編テキスト:ウチタカヒデ