おかげさまで、WebVANDA読者の皆様にはお馴染みのことと思います2024年4月20日のRECORD STORE DAYに、RECORD STORE DAY JAPAN 2024アイテムとして、わたくしのファースト・アルバム『The Summing Up』が、去年11月発売のCDから一部内容を変更したvinyl editionとして発売されます。
シンガー・ソングライターとして36年目となる鈴木祥子(すずき しょうこ)が、自身が主宰するレーベルBEARFOREST RECORDS(ベアフォレスト・レコード)より発表した、アナログ・7インチシングルやCDシングル等から16曲を選出したコンピレーション・アルバム『16 ALL-TIME SYOKOS BEARFOREST SINGLES AND MORE...2009-20XX』(BEARFOREST RECORD / BECD-30/31)を3月8日にリリースする。
昨年12月のなんちゃらアイドルのカバー・アルバム『Sentimental Jukebox』へのスペシャル・ゲスト参加も弊サイト読者には記憶に新しい鈴木だが、2009年6月の『超・強気な女(I’ll Get What I Want)』(BEEP-001)から、2021年3月の『助けて!神様 ~ So Help Me,GOD!』(NRSP-795)までの現在入手困難な音源や初CD化された貴重音源が本作で一挙に聴けるのだ。また付録の8cm ボーナス・シングルでは、カップリングとして収録された洋楽カバーが4曲収録されており、彼女のファンにとってはメモリアルなアルバムとなった。
彼女のプロフィールにも触れよう。1988年9月にEPIC SONYよりシンガー・ソングライターメジャー・デビューし、現在までに13枚のオリジナル・アルバムを発表している。またデビュー前の86年からドラムやパーカッション、キーボード・プレイヤー、コーラスのセッション・ミュージシャンとして、原田真二、ビートニクス(高橋幸宏と鈴木慶一のユニット)から小泉今日子のツアー・メンバーとして活躍するなどマルチプレイヤーであるばかりか、ソングライターとしてもこれまでに、大ヒットした小泉今日子の「優しい雨」(1993年)をはじめ、松田聖子「We Are Love」(1990年)、PUFFY「きれいな涙が足りないよ」(『FEVER*FEVER』収録/1999年)等々メジャー・アイドル歌手への提供も多く、職業作家としても活躍している稀有な存在なのだ。
冒頭の「超・強気な女(I’ll Get What I Want)」は2009年リリースの7インチ・シングルで、スリーリズムのシンプルな編成でピアノとドラム(リズムボックス含め)が鈴木、ベースをCHAINSのラリー藤本がそれぞれ担当している。当時デビュー20周年を迎えた鈴木のドキュメンタリー映画『無言歌~romances sans paroles~』の主題歌で書き下ろされ、強気というか勝気な女性の一人称の歌詞が、50年代アメリカのリーバー&ストーラー作のコーラス・グループ風の曲調で歌われる。シングル盤ジャケットはトッドの『The Ever Popular Tortured Artist Effect(トッドのモダン・ポップ黄金狂時代)』(1982年)のオマージュだ。
続く「You take me,you make me」は同じ2011年の CDシングルで、一転してザ・バンド風のサウンドでピュアな歌詞を持つラヴ・バラードである。鈴木はドラムの他、ピアノ、ハモンドオルガン、ウーリッツァー、チェンバロまで演奏し、ホーン・セクションにはムーンライダーズのヴァイオリニストとして著名な武川雅寛、栗コーダーカルテットの川口義之と関島岳郎が参加し、川口は巧みなテナーサックス・ソロもプレイしている。なにより鈴木の表現力豊かでソウルフルなボーカルは圧巻で感動してしまう。
鈴木としては異色コラボであろう2021年の7インチ・シングル「助けて!神様 ~ So Help Me,GOD!」は、アイドル出身ながらエレクトロ・ポップ系シンガー・ソングライターとして注目されている加納エミリが、アレンジとサウンド・プロデューサーで参加している。加納は昨年5月にリリースされたFrancisのシングル『裁かるゝエミリ』でフューチャーされていて、本曲でも彼女が得意とするネオ80’sサウンドをバックに鈴木のキュートさを引き出している。
アコースティックピアノのみのバックで歌われる「北鎌倉駅」は、夏のひと時の記憶を切り取った短い歌詞を、10ccの「I'm Not in Love」(1975年)に通じる幻想的なマルチトラック・コーラスが演出する曲で、鈴木の繊細なピアノ演奏も含め聴くべき曲だろう。
8cm ボーナス・シングルにも触れておこう。いずれもこれまでのシングルにカップリング収録された洋楽カバー曲で、フィル・コリンズの「Against All Odds(見つめて欲しい)」(1984年)、エイジアの「Heat Of The Moment」(1982年)という、いずれも鈴木が青春時代に聴いていていたUKロックのヒット曲。またリンダ・ロンシュタットの『Heart Like a Wheel(悪いあなた)』(1974年)収録の「Heart Like A Wheel」、そしてSINDEE & FORESTONES名義で発表された、リーバー&ストーラー作でクリフ・リチャードがヒットさせた「Lucky Lips」(1957年)を収録している。いずれも現在CD音源で聴くのは困難な曲ばかりなのでこの機会に入手すべきだ。
また今年は小林を中心としたバンドHarmony Hatch(ハーモニー・ハッチ)の結成から25年で音楽活動のメモリアル·イヤーとして区切りの年でもあるので、同バンドからのファンにとっては嬉しいリリースとなっただろう。そのHarmony Hatchは、空気公団やMaybelle(弊誌VANDA読者だった著名劇伴音楽家の橋本由香利が所属)を輩出したCoa Recordsから2000年にデビューした。その後ソロのシンガー·ソングライターとして、前出のファースト『Looking for a key』を2016年2月にリリースしており、2018年11月には初のアナログ7インチ·シングル『Havfruen nat』、2020年12月には配信EP『Cold And Warm Winter』を発表し、都内を中心に定期的なライヴ活動、様々なバンドのコーラス·サポート等精力的に活動している。
2018年の7インチ・シングル『Havfruen nat』収録の和訳タイトル曲「人魚の夜」は、ササキアツシがmelting holidays時代に書いた「morning star lily」が原曲で、小林が日本語歌詞をつけて完成させた、ソフトロック~MORとして非常に完成度が高い。元melting holidaysのタサカキミアキがプレイする間奏のクリーン・トーンのギター・ソロを含め、当時筆者はかなり気に入っていたので同年の年間ベストソングにも選出していた。本作収録にあたりCD用にリミックスしているとのことだ。
イントロのアルト・サックス含め全楽器をプレイした小園のアレンジによる「海の底で」もMORのテイストがあり、前曲からの流れも良い。元々は小林が、chelsea terraceのmayumi、スイスカメラの梶山織江とのユニット”Lilly chilly blue stars”に提供した曲だが、この小園のアレンジでまた生まれ変わっている。ギターポップ・バンドからスタートした小林にとっても、新境地なサウンドとして歓迎したい。
「forget me not」は「かすみ草のように」同様にThe Laundries遠山のエレキギターをフューチャーした硬質なネオアコースティック・サウンドで、本作中唯一の英歌詞で小林の文才さを計り知れる。全体のアレンジは高口でギター以外の楽器を担当しているが、ピアノのオブリガードやエンディングのソロで光るプレイをしているのでチェックしてほしい。
「小さな夜」は『Cold And Warm Winter』収録ヴァージョンと基本アレンジは同じだが、ボーカルのリバーブが抑えられて楽器も差し替えられてスッキリした音像になっている。アレンジと全ての楽器を高口が担当しており、イントロやオブリで使用されるピアニカが印象的だ。
ササキアツシのソングライティングとアレンジによる「うさぎのウシャンカ」は、『Cold And Warm Winter』収録ヴァージョンをCD用にリミックスしたもので、レコーディング・メンバーは「人魚の夜」と同様、タサカのエレキギター以外の全ての楽器とプログラミングをササキが担当している。このウシャンカも詞曲共に小林好みのウインター・メルヘンに溢れた良曲で、ポール・マッカートニーに通じる美しいコード進行とソフトサイケなアレンジがササキらしい。
「小さな夜」という曲は2020年に『Cold And Warm Winter』で発表した曲ですが、セカンド·アルバムに収録するにあたり再アレンジしてくれて、素朴で幻想的な美しさがアルバム後半の核になるような曲になりました。高口さんは様々な楽器を演奏できるオールマイティなプレイヤーで飄々としてみえますが、きっと人一倍練習して努力を重ねてる方だと思います。コミュ力が高い高口さんがいるといつも楽しい場になるので安心します。
small gardenでは「8番目の月」がすごく好きです。小園さんの作品の優しい太陽の日差しのようなオーガニックな音作りや、反対に深夜のような暗さがあるところも好きでした。小園さんの携わる音楽の、緻密だけれど自然体で、計算されているような、されていないような、華やかなのに派手ではない不自然ではないところが好きでした。
フルートやサックスの演奏もすばらしく、曲が完成に近づくたびに感動していました。「海の底で」はLilly Chilly Blue Starsというユニットでも発表した曲ですが、小園さんヴァージョンはサックスで深い海の底に落ちていくような怖さもあります。それぞれの良さがありどちらも良いので是非聞き比べていただきたいです。小園さんに編曲していただいた2曲も私の宝物になりました。自宅のレコーディングスタジオにお邪魔してボーカル録音させていただき、おいしいコーヒーやお茶を飲みながらお話できたのも楽しい思い出です。
「人魚の夜」作編曲、「うさぎのウシャンカ」作詞作曲編曲で参加してくれたササキアツシさんについては、もう20年近くの友人になります。「人魚の夜」は2018年に発売した7インチ「Havfruen nat」の収録曲、「うさぎのウシャンカ」は2020年配信でリリースした「Cold And Warm Winter」で発表した曲をリマスタリングして収録しました。どちらの曲も華やかさと切なさをいったりきたりするような素敵な曲で、とくに「人魚の夜」を好きだと言ってくださる方も多いので、今回セカンド·アルバムにも改めて収録できてうれしかったです。佐々木さんは優しくて繊細で研究熱心で、そしてすごく温かな方です。作る音楽のファンも多い方なので、佐々木さんの曲を歌えることが光栄です。
The Laundriesのライヴに何度かゲスト出演させていただき、レコーディングに参加させていただいていましたが、遠山さんのギターが大好きで自分の曲でも弾いてほしいと思い、今回もお願いしました。とくに「金木犀の部屋」は、遠山さんのギターをイメージして作った曲でもあるので、デモにギターを重ねていただいた時は感動でした。