2014年3月23日日曜日

GREAT3:『愛の関係』(ユニバーサル・ミュージック/TYCT-60027)


 活動を再開した新生GREAT3が、12年の『GREAT3』に続くニューアルバム『愛の関係』を3月19日にリリースした。 12年5月に片寄明人と白根賢一の2人で活動再開を発表と同時に高桑圭が脱退するも、同年8月に若干23歳のjan(ヤン)が新ベーシストとして参加。 今年結成20周年を迎えたメモリアルに相応しい完成度の高いアルバムとなった。
 ソングライティングにおいても三者三様、各々がその個性を曲に投射させ、絶妙なバランスでアルバムのトータリティを生んでいる。これもバンドにおける新たなトロイカ体制の賜物だろう。 先入観では相容れないであろう、70~80年代のダンス・ミュージックやニュー・ウェーヴ・サウンド、60年代サイケデリック、70年代のブルーアイドソウルから00年代音響派等々、時空を飛び越えたジャンルレスなスタイルが奇妙に共存しているのが彼等最大の魅力である。音楽マニアを自認する弊誌読者には聴きどころが多いので紹介したい。 

 GREAT3は94年のロッテンハッツ解散後、ヴォーカル兼ギターの片寄明人を中心にドラムの白根賢一とベースの高桑圭による3ピース・バンドとして95年にアルバム・デビュー。 オリジナル・アルバム7枚とシングル13枚を発表し、ポスト渋谷系という枠を超えてコアな音楽通やクリエイターから大きな支持を得ていたが04年に活動休止。メンバーはそれぞれのソロ・ユニットと平行しながら、プロデューサーやセッション・ミュージシャンとして幅広く活動を続けていた。リード文から繰り返すが、12年の活動再開に伴うメンバー・チェンジで新生GREAT3として今回2作目としてリリースされたのが本作『愛の関係』である。

   

 では主な収録曲を解説していこう。 アルバム冒頭はフアナ・モリーナに代表されるアルゼンチン音響派にも通じるエレクトロニカとフォーキーなサウンドにスモーキーなヴォーカルが心地いいjan作の 「丸い花」。
 続くのは前アルバムの軸となり先行配信された「彼岸」と同じく、片寄の作詞と白根の作曲によるタイトル曲「愛の関係」で、今年のグラミーで最優秀レコード賞を獲得したDaft Punkの「Get Lucky」(ファレル・ウィリアムスとナイル・ロジャースをフューチャー)にも通じるグルーヴィーなサウンドが懐かしくも新しい。作詞面では「彼岸」へ対する回答というべきパンチラインの「どうせいつか 死ぬんだろ 崖っぷちで 笑いたい ・・・」(「愛の関係」より歌詞引用)が耳に残って離れない。 

 アルバム中最もキャッチーでライヴ・レパートリーとして盛り上がるであろう「穴と月」も完成度が高い。今月来日公演を成功させたばかりのローリング・ストーンズのギター・サウンドに、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのサイケデリックなエッセンスを注入した様な名曲である。片寄の作詞、白根とjanによる作曲でリード・ヴォーカルはjanが取っている。
 「Don't Stop Words」は一聴して片寄が中心になって作られたと思しき洗練されたブルーアイドソウル~ファンク・ナンバーで、GREAT3流ソウル・ミュージックの典型である。 一方で片寄はヘヴィなサイケデリック感覚を全開させた「マグダラ」の様な快作を生み出すのだから面白い。ここでの白根のドラム・ソロはビートルズの「THE END」(『Abbey Road』69年)のそれを彷彿させてにんまりする。とにかくこの曲は未整理ながら編集による構築力が素晴らしく、個人的にはアルバム中1,2を争う好みの曲である。 

 「モナリザ」は「愛の関係」と同様に片寄=白根作のダンスナンバーで、片寄のリード・ヴォーカルにはオートチューン!が掛けられているが、その刹那的な歌詞の世界と相まって非常に効果的である。
 続く「タランチュラ」は片寄作で、jan作の「丸い花」と同じくアルゼンチン音響派を彷彿させるサウンドで、アルペジオで奏でられるアコースティック・ギターのひんやりした感触はS&Gの諸作にも通じる。 ラストの「砂時計」は片寄=jan作による洗練さとサイケデリックな怪しさを共存させたニュー・ソウル風のテイストで、『There's No Place Like America Today』(75年)の頃のカーティス・メイフィールドのサウンドでネッド・ドヒニーが歌っているかの様な曲である。
 jan作曲だが片寄のソロ・アルバム『Hey Mister Girl!』(2000年)に収録されていても違和感はない。筆者的にもアルバム中ベストと思える名曲だ。 
 プロデュースは前作と同様、佐野元春&ザ・ハートランド~Dr. Strange Loveのギタリストとして活躍した長田進で、ファースト・アルバムからGREAT3には欠かせない重要人物である。
 GREAT3の最高傑作がこの『愛の関係』によって塗り替えられるのは間違いないので、興味を持った音楽ファンは是非入手して聴いて欲しい。
(ウチタカヒデ)


 

2014年3月22日土曜日

☆大滝詠一:『Each Time(30th Anniversary Edition)』(ソニー/SRCL8005-6)



 今年は『Each Time』の盤だな。321日を待とう。
恒例行事のようになった大滝詠一の30周年記念盤のリリース。30周年...の方のディスク2はカラオケに違いない。楽しみだ。そしてリリースの度に長くなったり短くなったりひとつとして同じものがない『Each Time』だから今回はどうなることか。実質的なファイナル・アルバム、いや極端に言えばファイナル・リリースと言ってもいいこの作品の、最終形のリリースはどうするんだろう。どう飾る、大滝先生。
そうしたら本当のファイナル・リリースになってしまった。5か月ぶりに退院し、久々の我が家でテレビを見ているとテロップで「大滝詠一氏が死去」と流れる。えっ?いったい何が起きたんだ?あわててインターネットを見ると速報されている。本当だったんだ...12月は嫌だ。『Each Time』の3年前、『A Long Vacation』の前年の12月には、テレビに「ジョン・レノン氏死去」のテロップが流れ、呆然としたのを思い出す。また12月に、自分の大好きだったミュージシャンがこの世を去っていってしまった。
しかし彼らは不世出のミュージシャン。生み出した作品は永遠に残る。真に優れた作品は時代で錆びつかず、逆に時間と共に輝きを増してくる。リリースされた1984年に最新盤のLPで手にして以来、何十回も聴いたこのアルバム。改めて聴いたが、あまりの素晴らしさに震えがした。自分が音楽に求めていた理想がこのアルバムに詰まっている。メロディ、サウンド、プロデュース、全てが未だに理想形でとどまっていた。そしてさすが大滝先生、やはりファイナルも同じものにはしなかった。大滝ファンを名乗る多くの方は、はっぴいえんどやナイアガラが大好きないわば「ナイアガラ派」だが、私は『A Long Vacation』以降が大好きな「ロンバケ派」。だからこの時代はこだわりが深いので、詳しく記載しよう。


 まず『Each Time』は、9曲しかなかった当初の1984年盤は「仮」であり、『Complete Each Time』以降の11曲仕様が今回も続いたので、11曲が真の『Each Time』と確定した。ただし曲順は『Complete Each Time』『20th Anniversary Edition』『30th Anniversary Edition』で全て違い、「Final」と題打ったこの曲順を正規の曲順としよう。『Each Time』も30周年の例にのっとり『A Long Vacation
Niagara Triangle Vol.2』に続いてディスク2は完全カラオケなので本来別々に記載すべきなのだが、大滝先生はアルバムとカラオケで別ヴァージョンを使うという期待を裏切らないマニアックぶりを見せてくれたので、それらを混在して紹介したい。
冒頭は不動の「夏のペーパーバック」だが、ここでは『Complete Each Time』で登場したイントロにベースが入らず楽器の少ないあっさりヴァージョンを採用した。ところがカラオケは1984年盤と20周年盤のベースの入るヴァージョンになっていて冒頭からやってくれる。「Bachelor Girl」は別ヴァージョンなし。「木の葉のスケッチ」は1984年盤、20周年盤と続く、フェイドアウトするヴァージョンだが、カラオケは『Complete Each Time』の完奏ヴァージョンを採用した。なお、『Snow Time』で披露されたイントロにアコーデオンが加わったヴァージョンは、「特別仕様」ということでこの盤でしか聴けない。そして「魔法の瞳」だが、『Complete Each Time』に続き20周年盤と、330秒後に新たにサビ(「ブルーの夜明けまで...」以降の30秒)が加わったロング・ヴァージョンが採用されていたが、30周年盤ではその部分がない、オリジナルの1984年盤に戻った。カラオケも同じ長さのテイクなので、これがFinalだった。「銀色のジェット」は別ヴァージョンなし。「1969年のドラッグレース」は『Complete Each Time』以降で使われたエンディングのギター音が長く伸びるヴァージョンで、カラオケも同じことからこれがFinal。「ガラス壜の中の船」は別ヴァージョンなし。アルバムのハイライトである「ペパーミント・ブルー」は、1984年に33㎝シングル6枚組でリリースされた『Each Time Single Vox』のみ収録されていたカラオケが遂に初CD化された。このカラオケが欲しくて当時購入したが、このボックス収録の曲は6曲が別ヴァージョンで、そのまま1986年の『Complete Each Time』に引き継がれたので、今まで書いた原稿は、『Complete Each Time』及び『Each Time Single Vox』が正確。ただ後者はアナログの限定盤だしゴチャゴチャするので今の表記で継続する。「恋のナックルボール」は『Complete Each Time』のみエンディングにごく短いSEが足され大滝らしい声も聞こえたが、それ以外、今回も通常ヴァージョンでこれがFinal。そしていよいよ難物「レイクサイド・ストーリー」だ。1984年盤オリジナルは最後のリフレインが2回続く時に2回目をフェイドアウト気味にヴォリュームを下げたあと完奏するエンディングを付けた通称「大エンディングヴァージョン」だったが、CD化された時はリフレインが4回続くロング・ヴァージョンながら完奏するエンディングはなかった。『Complete Each Time』はリフレインが3回でエンディングなし、20周年盤はこの曲が入った『Snow Time』も含め2回のリフレインでフェイドアウト、エンディングもない最短ヴァージョンに再変更。ところが今回は9曲仕様CDと同じ、リフレイン4回でフェイドアウト、エンディングなしに戻りこれがFinalのようだ。しかしカラオケは2回のリフレインのあとにエンディングが入る「大エンディングヴァージョン」が久々の登場、さらに2回目のリフレインでのフェイドアウト気味の音の絞りをしない編集なので、これは初登場の「大エンディングヴァージョン」であり、大滝先生やってくれました。「フィヨルドの少女」は別ヴァージョンなし。

こうやって堪能させてもらった『Each Time』だが、以降は実質オマケのようなシングル2枚だけだったので、大滝先生はキッチリと自分で仕事を仕上げて、音楽も人生もFinalしてしまった。数多い大滝の名曲でも本作の「ペパーミント・ブルー」と前作の「オリーブの午后」は、日本のポップスの最高峰であり、世界のポップス、ソフトロックと比べてもやはり最高峰、ポップ・ミュージックの行き着く最も美しい姿を示してくれた。こんな天才に出会えて我々は本当に幸せだった。大滝先生、ありがとう。(佐野邦彦)

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