2022年12月25日日曜日

WebVANDA管理人が選ぶ2022年邦楽ベストソング


 今年もWebVANDA管理人が選ぶ、邦楽の年間ベストソングを発表したい。選出楽曲は今年リリースされて、弊サイトで取り上げた作品を中心に最もリピートした収録曲で、アルバムを象徴する曲である。
 2020年からのコロナ禍は落ち着いてきており、本サイトで紹介するミュージシャン達のアルバム作りもコロナ前に戻りつつあるので、来年もそんな彼らを応援する意味でも良作品を紹介し続けていきたいと思う。またこの記事で改めて知った各アルバムはこれからでも遅くないので、彼等の活動を後押しするためにも是非入手して聴いて欲しい。 
 選出趣旨からコンピレーション、カバー作品、配信のみの単体楽曲は除外とした。 昨年同様、順位不同のリリース順で紹介する。

   
※サブスクに登録された
ベストソング・プレイリスト 


☆Waiting for you / 青野りえ
(『Rain or Shine』収録・記事はクリック
 実力派女性シンガー・ソングライターのセカンドの冒頭曲。イントロからセンスを感じさせ、サビに呼応するコーラスやアナログ・シンセのオブリなど細部に渡って聴き応えがあった。アルバム全体的に名コンポーザー兼プロデューサーと手練ミュージシャン達の鉄壁なプレイに支えられた完成度の高さに耳を奪われてしまった。



 ☆西暦2200年 / 冗談伯爵
(『ONE』収録・記事はクリック 
 2達組音楽ユニットのファーストから。甘美なフレーズとコーラスが牽引する打ち込みフィリー・ソウル系サウンドとデストピアな仮想未来を綴った歌詞とのコントラスト、テノール気味の特徴あるヴォーカルに繊細な声質のコーラスがブレンドされたサビのパートなど聴きどころが多い。プログラミング系シティポップの旗手になるだろう。



☆一週間ダイアリー / ウワノソラ'67
(『Portrait in Rock'n'Roll 2』収録・記事はクリック
 ウワノソラの別ユニットのセカンドより。イントロからハモンドオルガンに絡むエレキ・ギターのリフ、バリトンなど3管のサックスなど、もう何も言うことはないあのサウンドで、甘酸っぱいトーチソングは60年代ガールズ・ポップから続く永遠のテーマである。ファーストからモディファイされた部分もあるが、巧みなコンポーズとアレンジは健在だった。



☆ふたりのシルエット(feat. 堀込泰行) / 流線形
(『インコンプリート』収録・記事はクリック
 現行シティポンプのパイオニアの16年振りのミニアルバムより。イントロの繊細なハイハット・ワーク、曲全体的にギターはデイヴィッド・Tに通じるプレイとそれに呼応するフェンダー・ローズなど名手達によるプレイと、シルキーなコーラスもこの曲の雰囲気に不可欠なエレメントである。弊団体定期誌の読者だった堀込泰行のヴォーカルも一級である。



☆MAP for LOVE / 冨田ラボ(『7+』収録)
 前出の堀込泰行など9名の名だたるシンガーの別々のヴォーカル・データから構築させた現代のゴスペル・シンフォニー。コロナ禍初頭の2020年に某FM局の企画で制作し翌年配信リリースされ、今年になってフィジカルのアルバムに収録された。パンデミックで遮断された人々の交流の真の大切さを綴った歌詞と、ガーシュウィンを彷彿とさせる優雅な旋律が融合して感動へと誘う。



☆Dawn / The Pen Friend Club
(『The Pen Friend Club』収録・記事はクリック
 弊サイトでは同じみのバンドの8作目のハイライト曲となるのがこの曲だろう。1960年代末期の英国ロックの魅力が4分14秒に凝縮されオマージュされた傑作と言える。ピアノ1台をバックにした歌唱から徐々に楽器がプラスされドラマティックに展開していく様は圧巻である。アルバムのトータル感も含め歴代最高傑作ではないだろうか。



☆Blue velvet / KARIMA
(『Nostalgic hour』収録・記事はクリック
 男性シンガー・ソングライターの記念すべきファーストより。複数のギターの展開やエレキ・シタールのアクセント、打ち込みのキーボードやベース&ドラム・セクションでありながら、そのヒューマンなバックトラックに耳を奪われた。恋の喪失感を滲ませる歌詞を表現するヴォーカルも含め完璧で長く聴ける。サウンドの裏方達が良い仕事をした見本である。



☆オーロラ / RYUTist
(『(エン)』収録・記事はクリック
 4人組ガールグループの5作目より。プリミティヴなアフロ・ビートをルーツとするR&Bサウンドをバックに、ソロ・パートとメンバーのコーラスがリフレインするサビのコントラストが非常に新鮮である。アルバム全体的に前作以上に独自性を持つサウンド・プロダクションの曲が多い問題作であるが、作品毎に成長していく彼女達の次作も期待している。



☆meta meta love / TWEEDEES
(『World Record』収録・記事はクリック
 男女2人組ポップ・グループの4thアルアムより。ファンタジー・テレビアニメのコラボソングで、「後期YMOで」というオーダーに応えたサウンドにより拘りが随所に鏤められている。ブリッジの甘美な旋律と無垢な歌声と相まって一本の映画を観たような感動へと誘ってくれる。アルバム全体的に異なる世界観で制作されていながら、彼らの多岐に渡る交流から発展したマスターピースと呼べるだろう。



☆ハートにROCK! / 一色萌とザ・ファントムギフト
(7インチ『ハートにROCK!』収録・記事はクリック
 唯一であろうパブロック・アイドルのサード・シングル。80年代後期のネオGSムーブメントの名バンドをリユニオンさせ、新鋭女性シンガーソングライターに書き下ろしの新曲を提供させるというアイディアに脱帽した。ヘッド・アレンジでエイトビートのガレージ風ロックンロール・サウンドに乙女の片思いを綴った歌詞をキャンディ・ボイスで歌い上げる。

(選者:ウチタカヒデ

2022年12月14日水曜日

一色萌とザ・ファントムギフト:『ハートにROCK!』(なりすレコード / NRSP-7106)


 今年4月のセカンド・シングル『トラブル・ボーイズ』が記憶に新しいパブロック・アイドルの一色萌(ひいろ もえ)が、リユニオンした伝説のネオGSバンドのザ・ファントムギフトをバックに、サード・シングル『ハートにROCK!』を12月21日に7インチでリリースする。
 B面には英国のモダンポップ・ユニット、コーギス(The Korgis)の80年のヒット曲「永遠の想い(Everybody's Got To Learn Sometime)」の日本語カバーを収録し、両サイド共に拘りのカップリングとなっている。

 一色は2020年11月の『Hammer & Bikkle / TAXI』のカップリング曲「TAXI」で英国伝説のパブロック・バンド、デフ・スクール(Deaf School)、前作『トラブル・ボーイズ』(デイヴ・エドモンズのカバー)ではオリジナル作者のデイヴとロックパイル(Rockpile)時代の同僚ギタリストのビリー・ブレブナー(Billy Bremner)とコラボレーションを敢行し、英国ロック・マニアには密かに知られたアイドルなのだ。

一色萌とザ・ファントムギフト

加納エミリ

 プログレ・アイドルグループXOXO EXTREME(キス・アンド・ハグ エクストリーム)のメンバーである一色は、ソロ作ではパブロックをはじめ、パワーポップやモダンポップと極めてユニークなスタンスで活動しており、本作では80年代後期のネオGSムーブメントを牽引したザ・ファントムギフトまでリユニオンさせてしまったという。
 その情熱には脱帽してしまうが、この新曲「ハートにROCK!」は、80'sテクノ系アイドルからシンガー・ソングライター兼クリエイターに転身した加納エミリが手掛けた書き下ろしで、レコーディング・エンジニアはayU tokiOとしてアーティスト活動をしている猪爪東風(いのつめ あゆ)、ミックスは前作同様マイクロスターの佐藤清喜がそれぞれ参加し、リリース元の“なりすレコード関係者”が全面的にバックアップしている。
 また目を惹く昭和レトロなジャケット・デザインは、ザ・ファントムギフトのメンバーで、アートディレクターとしても知られるサリー久保田が担当している。

 
一色萌とザ・ファントムギフト「ハートにROCK!」MusicVideo

 ここからは筆者による収録曲の解説をお送りする。タイトル曲「ハートにROCK!」は、前出の通り加納エミリのソングライティングで、ザ・ファントムギフトがヘッド・アレンジをしたエイトビートのガレージ風ロックンロールだ。
 ギターのナポレオン山岸(スターリン=遠藤ミチロウとの活動等)、ベースのサリー久保田(アートディレクター、ミュージシャンとしてLes 5-4-3-2-1やSOLEIL等)、ドラムのチャーリー森田(チャーリー&ザ・ホット・ホイールズ等)のオリジナル・メンバーが35年振りにザ・ファントムギフトとしてリユニオンしてプレイしており、こなれたコンビネーションを聴かせている。タイトルはファントムの1987年メジャーデビュー・シングル「ハートにOK!」を彷彿とさせるが、片思いをした乙女の心情を綴った歌詞を一色がキャンディ・ボイスで軽快に歌い上げ、加納もコーラスで参加している。このプリティーなヴォーカルに対して、ファズをかまして縦横無尽に暴れる山岸のリード・ギターとのコントラスが非常に面白く、トラックに施されたリヴァーヴ処理も素晴らしい。7インチということでDJプレイでもフロアを沸かせるだろう。 
 
 The Korgis
『KOOL HITS, KURIOSITIES AND KOLLABORATIONS』

 カップリングの「永遠の想い(Everybody's Got To Learn Sometime)」は、コーギス最大のヒット曲として知られており、今年8月に日本でリリースされた特別編集コンピ『KOOL HITS, KURIOSITIES AND KOLLABORATIONS』(HYCA-8039)のボーナストラックとして、新たにリアレンジとリレコが施され、更に鈴木さえ子と掛川陽介が日本語訳を担当し一色がカバーしていた。
 英国ロック通には説明不要だが、かのジョージ・マーティンが手掛けた『The Man in the Bowler Hat』(1974年)で知られるスタックリッジ (Stackridge / 1969年-1976年)を母体とし、中心メンバーのジェームス・ウォーレンとアンディ・デイヴィスによって1978年に結成されたのがコーギス(1978年-1982年)である。プログレッシブ路線だったスタックリッジをニュー・ウェイヴの波によりモダンポップとして発展させたコーギスは、日本にもシンパが多く、ムーンライダーズ及びその周辺ミュージシャンが特に知られており、今回訳詞で鈴木さえ子が参加したのも頷ける。
 ここではオリジナルと異なるアレンジで、ジェームス(ベース、ヴォーカル)を中心とした現メンバーのジョン・ベイカー(ギターetc)、アル・スティール(ギター)、ポール・スミス(ドラム)、ナイジェル・ハート(キーボード)が新たにリレコしたバックトラックに、一色のヴォーカルを日本でダビングしている。原曲の荘厳でドラマティックなサウンドを80年代中期的にアップデイトさせたというべきか、シンセヴォイスのパッドやオーケストラ・ヒットなどデジタルシンセが多用されているが、表現力豊かな一色のヴォーカルは抜群で、この曲の儚い世界観をよりよく表現している。

 数量限定の7インチ・シングルなので、ネオGSや英国モダンポップ・ファンなどの音楽ファンはリンク先のレコード・ショップなどで早期に予約して入手しよう。 


(テキスト:ウチタカヒデ

2022年12月9日金曜日

FMおおつ 音楽の館/Music Note(2022年11月号)~ジュリー・リクエスト特集(Part-1) Set List& 次回放送予告

  11月26日に放送した「音楽の館~Music Note」は、9月に募集したジュリー・ナンバーへのリクエストでまとめた「ジュリー・リクエスト特集」を放送しました。この特集は昨年11月放送の「ジュリー特集」がFMおおつの放送アプリ「FMプラプラ」で、ダウンロードによる聴取が局開局以来トップ数を記録させていただきました。そんなジュリー・ファンの皆さんへの感謝を込めた企画です。

   現在、ジュリーは久々にツアーバック・バンドを結成し、Live2022-2023『まだまだ一生懸命』のツアー中で74歳とは思えない元気なステージをこなしています。その音源は「YouTube」にもアップされており、圧倒される方も多いと耳にしています。

 ちなみにこの番組をスタートしてから初のリクエスト・プログラムでしたが、全国のジュリー・ファンの皆さんから局がてんてこ舞いするほどリクエストが届き、なんと163曲ものご要望をいただきました。しかも大半は一般のヒット曲よりもマニアックなものが大半でした。元々私の番組は局内でもとびぬけてオンエア曲数が多いのですが、さすがにこの数は2時半ではクリア出来るレベルのものではありませんでした。

 参考までに今回のリクエスト・ベスト10は以下のようなラインナップで、かなり熱心なファンの皆さんからいただいたものだということが、ご理解できると思います。


◎リクエスト・ベスト10  

1.コバルトの季節の中で(1976)

2.夜はあなたにワインをふりかけ(1978)

3.君をのせて(1971)

4.LUCKY/一生懸命(一生懸命分のラッキー)(2022)

5.灰とダイヤモンド(1985)

5.ヤマトより愛をこめて(1978)

7.ある青春(1973)

8.遠い旅)(1974)

8.晴れのちBLUE BOY(1983)

8.砂漠のバレリーナ(1985)

8.脱走兵(1990)

8.月の刃(1991)

8.そのキスがほしい(1993)


 このリストをご覧いただければ、「私だけが知っている名曲」といったジュリー・マニアの想いが伝わるかと思います。ということで、少しでも多くのジュリー・マニアのご期待に沿えるよう12月に「Part-2」を追加放送する想定で、1曲でも多くチョイスしたセット・リストに仕上げています。

 さて今回11月26日に放送した「Part-1」のオープニングはリクエスト上位で一番勢いのあるナンバー<あなたに今夜はワインをふりかけ>、オンエア・テイクは、私も足を運んだ2008年12月3日東京ドーム公演「人間60年・ジュリー祭り」から1000人のコーラス隊が参加したインパクトある音源をチョイス。

 まず第1パートBGは”これぞジュリー‼”<憎み切れないろくでなし>。本編は<ジャストフィット>でスタート。この曲は1982年にリリースの「全曲作詞作曲:井上陽水」によるコンセプト・アルバム(18作)『MIS CAST』収録曲。陽水氏自身もこの制作で刺激を受け、傑作アルバム(10作)『LION & PELICAN』を完成させている。もう1曲は井上尭之バンドが絶妙なバッキングを務めた<恋は邪魔者>。リクエストの「コロナは邪魔者」という洒落にやられました。

 第2パートは全てザ・タイガース・ナンバー、BGは最大ヒット<花の首飾り>と両A面曲<銀河のロマンス>。まずは彼らを語る上で絶対に欠かせない<君だけに愛を>、ここでは「黄色い歓声」がけたたましい1982年同窓会ライヴ『A-Live』から。続いてはB面曲ながらリクエストの多かった<落葉の物語>と<風は知らない>、そしてジュリーのソロを連想させる<嘆き>、この曲は映画「ハーイロンドン」から。

 第3パートBGはPYGのデビュー曲<花・太陽・雨>、本編ではロック・バンドとしての本領を発揮した<自由に歩いて愛して>。続いてThe Rubettesでお馴染みのソングライター・コンビTony WeddingtonとWayne Bickertonの制作で欧州でもリリースされた1974年『THE FUGITIVE』収録の<キャンディー>。 ソロ初リサイタルからNillsonカヴァー<Without You(Live) >。それにお馴染みのヒット<魅せられた夜><ヤマトより愛をこめて>、さらにちょっと渋めの<ロンリー・ウルフ>。

 第4パートBGは”正にジュリーのテーマ・ソング”<カサブランカ・ダンディ>。トップは「おおおニ~ナ~」の<追憶>。続いてポップス曲で初のNHK紅白歌合戦でトリを飾った<LOVE (抱きしめたい)>、3曲目はレコード大賞を受賞した代表曲のひとつ<勝手にしやがれ>。

 第5パートBGは”今やカリスマ”佐野元春が『G.S.I LOVE YOU』(1980年/15作)に提供した<THE VANITY FACTORY>。ここでの伊藤銀次アレンジによるAlwaysの演奏は“Rolling Stones”を意識した<Under My Thomb>風。本編でもロッカー・ジュリーを象徴するAlwaysのギタリスト柴山氏の髪をかきむしるパフォーマンスが印象的な<おまえがパラダイス>。そして制作費250万の電飾付きパラシュートを身に着けてのパフォーマンスで度肝を抜いた1980年1月1日リリース<TOKIO>。

 第6パートはJULIE & EXOTICSにスポットを当てたチョイス。まずは佐野元春書き下ろしで吉川晃司もカヴァーした<すべてはこの夜に>。本編は予想外にリクエストの多かったという印象のAlwaysを率いたアルバム『G.S.I LOVE YOU』のタイトル・ソングでスタート。そしてJULIE & EXOTICSでジュリー自作<麗人>、“46歳で早逝された名アレンジャー大村雅朗”の最高傑作スコアとも語り草となっている<晴れのちBLUE BOY>。

 第7パートでは、ジュリーの独立時期のナンバーから、その独立作で東芝移籍作『架空のオペラ』(1985年22作)収録の<君が泣くのを見た>。本編は “最後のトップ10ヒット”となったペン・ネーム李花幻(りかげん)による自作<灰とダイヤモンド>。続いては白井良明(Moonriders)のアレンジが光る2005年リリースのロック・ナンバー<greenboy>。次の曲のみナベプロ時期曲で、当時まだ珍しい「カラー・コンタクト」の衝撃が忘れられない<恋のバッドチューニング>。4曲目は昭和最後の年に“ジュリー大復活”とシーンを賑わせた『彼は眠れない』(1989年26作)から亡き村上ポンタ氏のドラミングが印象的なNobody作<Down>。続いてはNobodyのコーラスがジュリーのヴォーカルを引き立たせている<SPLEEN (スプリーン) ~六月の風にゆれて~>。ラストは今年リリースの最新曲<LUCKY/一生懸命(一生懸命分のラッキー)>。

 といったところで次の第8パートは、まさに”ジュリー・マニア”たちならではのリクエストによるスペシャル・チョイス。BGはジュリー初のWアルバム『耒タルベキ素敵』タイトル曲。本編では『彼は眠れない』収録のユーミン書下ろし<静かなまぼろし >と『PANORAMA』(1991年28作)収録のPANTA作<月の刃(やいば)>。

 ではラス前第9パート、BGは『耒タルベキ素敵』収録の<確信>。本編では“ロシアのウクライナへの侵攻”を連想させられる<脱走兵(Live)>。このナンバーは1990年の一人芝居Act『Boris Vian(ボリスビアン)』から。もう1曲はジュリーの最大ヒットでこの時期にこそ聴いてほしい<時の過ぎゆくままに>。

 いよいよラスト・パートBGは今の時期にお似合いの素敵な光景が見えそうな87年のシングル<きわどい季節-Summer Graffiti>。まずはジュリーからの爽やか吐息が届きそうな<いい風よ吹け>、続くラス前はジュリーのソロ・デビュー曲<君をのせて>。オーラスは木枯らし舞うこの時期に一番お似合いと、今回ご要望の一番多かったジュリー自慢の自作ナンバー<コバルトの季節の中で>。

 ということで、11月26日放送の11月号は全国のジュリー・ファンからのリクエストを頂いた162曲中、BGを含め44曲チョイスしました。放送後ファンの間では<脱走兵>がなかなかの反響をいただけたようでしたが、「最後の「撃ってくださいください~♪」まで聴きたかった」とお嘆きの声もあり、時間の都合とはいえ曲に対する勉強不足を反省すべき点もあったかと思います。

 とはいえ、本放送オンエア中の2時間半パソコンの前でセット・リストをメモしながら鑑賞された方をはじめ、ステレオに繋ぎ大音響で聴取された方、中には深夜の再放送まで含めほぼパーフェクトにどっぷり「ジュリー三昧」を楽しまれたという熱心なリスナーさんもいらしたということを伺い、感無量の心境です。

 そこでリクエストをいただいた多くのジュリー・マニア皆さんの熱い思いにお応えし、次回12月も引き続き「ジュリー・リクエスト特集」の「Part2」をお届けすることにしました。

 今ファンの皆さんは来年6月25日「ジュリー75歳の誕生日」にさいたまスーパー・アリーナで開催される『ツアー・ファイナル・バースデーライブ!』のチケット抽選結果が発表される12月19日を心待ちにされていらっしゃるかと思います。その当選結果の吉報で、次回12月24日クリスマス・イヴ(再放送25日クリスマス他)に放送する「リクエスト特集パート2」がより気持ち良くお聴きいただけることをお祈りしています。

◎音楽の館~Music Note12月号 

「ジュリー・リクエスト特集パート2」

2022.12.24.(土)16:00~ 

(再放送)

2022.12.25.(日)8:00~

       12.27(火)~12.30(金)1:52~


※FMおおつ  周波数 79.1MHz でお楽しみください。

※FMプラプラ (https://fmplapla.com/fmotsu/)は全国(全世界)でお楽しみいただけます。


<セット・リスト>

1.今夜はあなたにワインをふりかけ~2009年「人間60年・ジュリー祭り」

BG:憎み切れないろくでなし

2.ジャストフィット  ~1992年武道館コンサート“Julie Mania”

3. 恋は邪魔者

BG:銀河のロマンス/The Tigers

4.君だけに愛を/The Tigers 1982   ~1982年THE TIGERS『A-LIVE』

5.落葉の物語/The Tigers

6.風は知らない/The Tigers

7.嘆き/The Tigers

BG:花・太陽・雨/PYG

8.自由に歩いて愛して/PYG

9.キャンディー

10.Without You(Live)

11. 魅せられた夜

12. ヤマトより愛をこめて

13. ロンリー・ウルフ

BG:カサブランカ・ダンディ

14.追憶

15.LOVE (抱きしめたい)

16.勝手にしやがれ

BG:THE VANITY FACTORY/沢田研二 With Always

17.おまえがパラダイス/沢田研二 With Always

18.TOKIO

BG:すべてはこの夜に/ JULIE & EXOTICS

19.G.S. I LOVE YOU/沢田研二 With Always

20.麗人/ JULIE & EXOTICS

21.晴れのちBLUE BOY/ JULIE & EXOTICS

BG:君が泣くのを見た

20.灰とダイヤモンド

21.greenboy

22.恋のバッドチューニング

23.DOWN(Single Version) 

24.SPLEEN (スプリーン) ~六月の風にゆれて~

25.LUCKY/一生懸命(一生懸命分のラッキー)

BG:耒タルベキ素敵

26.静かなまぼろし

27.月の刃(やいば) 

BG:確信

28.脱走兵(Live) ~1990年『ACT BORIS VIAN(ボリスビアン)』

29.時の過ぎゆくままに

BG:きわどい季節-Summer Graffiti 

30.いい風よ吹け

31.君をのせて

32.コバルトの季節の中で


(テキスト:鈴木英之)

2022年12月1日木曜日

TWEEDEES:『World Record』(日本コロムビア/COCP-41930)


 清浦夏実と沖井礼二によるポップ・グループ、TWEEDEES(トゥイーディーズ)が、2018年10月の『DELICIOUS.』(COCP-40536)以来約4年振りとなる4thフルアルバム、『World Record』を12月3日にCDと12インチ・アナログ盤で同時リリースする。 

 ファンにとっては待望となる本作には、2019年11月に帽子ブランド”CA4LA(カシラ)”とコラボレーションした配信限定の「Béret Beast」をはじめ、小学館「ゲッサン」連載中の仮想戦後活劇漫画『国境のエミーリャ』(作・池田邦彦)のコンセプト・ミニアルバムから「二気筒の相棒」とシングル「ルーフトップ・ラプソディ」、TOKYO MX系で今年7月から9月に放映されたファンタジー・テレビアニメ『ユーレイデコ』に提供した「meta meta love」と先行発表された曲だけでも注目が集まっている。
 また沖井が楽曲提供した曲のセルフカバーとして、声優兼歌手の竹達彩奈の「Sinfonia! Sinfonia!!!」、ガールポップ・バンドSOLEILのサード・アルバム『LOLLIPOP SIXTEEN』(VICL-65209/19年)に提供した「ファズる心」(作詞は清浦)の2曲と、書き下ろしの新曲4曲を含めトータルで10曲を収録している。この様に異なる世界観で制作されたコラボレーション曲を収録した本作は、TWEEDEESの多岐に渡る交流から発展したマスターピースと呼べるだろう。
 ジャケットのアートワークは、沖井が率いたCymbals時代からデザインを手掛けている菊池元淑(LOKI代表)が担当し、これまでのTWEEDEES作品同様に美しく統一感があるものとなっており、英国風のエンブレムには気品が漂っている。


 TWEEDEESのプロフィールにも触れよう。Cymbals(1997年~2003年)解散後に作・編曲家として多くのCM、ゲーム、アニメーション、テレビ番組等に携わっていた沖井礼二が、アイドルを経て女優(『3年B組金八先生・第7シリーズ』の生徒役等が特に知られる)、歌手として活躍していた清浦夏実をヴォーカリストに誘い、2015年に結成。同年3月に日本コロムビアよりファースト・アルバム『The Sound Sounds.』、翌16年7月にセカンド・アルバム『The Second Time Around』をリリース。17年4月にはEテレのアニメ「おじゃる丸」のエンディング・テーマを担当し、この楽曲を収録したミニアルバム『à la mode』を同年6月、18年10月にはサード・アルバム『DELICIOUS.』をリリースしている。
 2021年12月には前出の『国境のエミーリャ』のコンセプト・ミニアルバム、今年9月には同作のコラボレーション・シングル「ルーフトップ・ラプソディ」とコンスタントに作品を残し、沖井の高い音楽性と清浦のファッション性によりライブ・パフォーマンスにも定評があり、多くのファンを魅了しているのだ。

TWEEDEES『World Record』ティザー  

 ここからは収録曲の解説をしていくが、今回特別にTWEEDEESの二人が、曲作りやレコーディング中にイメージ作りで聴いていた楽曲をセレクトしたプレイリスト(サブスクで試聴可)も紹介するので、アルバムのダイジェスト・ティザーと共に聴きながら読んで欲しい。

 冒頭の「Victoria」は沖井の書き下ろしの新曲で、清浦が口ずさむハミングのみで始まるイントロから一転し、オーケストラ・チャイムのフレーズと激しいドラミングでスタートする。タイトルは英国女王の名として広く知られるがローマ神話の“勝利の女神”であり、聴く者を高揚させる歌詞にも繋がっており本作のリード・トラックとして相応しい。沖井はソングライティングと編曲、ベースやギターのプレイと鍵盤類のプログラミングを担当している。ドラムにはロックバンドNORTHERN BRIGHTの原“GEN”秀樹が参加しており、本作ではこの曲を含め4曲に参加しそのアグレッシブなドラミングを披露している。 

TWEEDEES - Victoria (Offical Video)

 続く「Béret Beast」はモータウン~ノーザン・ソウルを80年代的解釈から更にアップデートさせたサウンドで、沖井が敬愛するポール・ウェラーが当時率いたスタイル・カウンシル(1982年~1990年)の匂いがして好きにならずにいられない。清浦が一人多重で担当したコーラスはガール・グループのそれを意識した、よく練られたアレンジである。ソングライティングと編曲、全ての演奏とプログラミングは沖井が担当している。
 
 ハーフ美少女“それいゆ”を配したSOLEIL(2017年~2019年活動休止)に提供した「ファズる心」のセルフカバーは、同バンドのリーダであるサリー久保田(ザ・ファントムギフト)がプロデュースした原曲のガレージ・バンド感覚は薄れ、新たなアレンジでリレコされている。ここでは沖井のカラーが色濃いスウィンギング・ロンドンしたサウンドとなっており、作詞を担当した清浦のキュートな歌声もあり生まれ変わった。この曲でも原のドラム・プレイが聴ける。
 「ルーフトップ・ラプソディ」は前出の通り、漫画家で鉄道ライターとして知られる池田邦彦氏原作の仮想戦後活劇漫画『国境のエミーリャ』の主人公、杉浦エミーリャをイメージしたコラボレーション・シングルで、作詞は清浦、作編曲は沖井による。筆者もSNSでの沖井の発言を切っ掛けにコミックで愛読しているが、“国境脱出請負人”として驚異的身体能力を持つエミーリャなのだが、19歳の恋する乙女を等身大で表現した甘いワルツに仕上がっている。ブラシを使った繊細なドラムは、ファンク・ポップバンドのカラスは真っ白(2010年~2017年)のメンバーだったタイヘイのプレイで、ジャズバンドでの経験が発揮されている。
 なお『国境のエミーリャ』の第25話「美しい歌はいつも悲しい」(コミック第5巻収録)にはTWEEDEESが本人役!として登場しているので、こちらも是非チェックして欲しい。

 
『ユーレイデコ』コラボレーションソング#03
 『meta meta love』TWEEDEES

 本作中サウンドの毛色が異なる「meta meta love」は、ファンタジー・テレビアニメ『ユーレイデコ』の第3話「仕組まれた裁判」で使用されたコラボレーションソングだ。作編曲とプログラミングを担当した沖井によると、同アニメの音楽プロデューサー氏からは「後期YMOで」というオーダーだったという。十代前半にYMOを熱心に聴いていたという彼なりの拘りが随所に鏤められていて、八分で刻むシンベやヴァース以外のドラム・トラックのアクセントで入る加工されたクラベスがCUE(『BGM』収録/81年)、間奏のシンセ・フレーズが「ONGAKU」(『NAUGHTY BOYS』収録/83年)等々を想起させて興味は尽きない。
 でもそれだけで済ませないのが沖井流で、ブリッジの甘美な旋律がエンニオ・モリコーネによる『ペイネ 愛の世界旅行』(イタリア映画/74年)のメイン・テーマに通じていて、清浦による無垢な歌詞や歌声と相まって、一本の映画を観たような感動へと誘ってくれるのだ。
 一転してハイテンポ・2ビートの「GIRLS MIGHTY」は、沖井のソングライティングによる書き下ろしの新曲で、原とのリズム隊で目まぐるしいコンビネーションや沖井自身によるパンキッシュなギターソロなどUKのパンク/ニュー・ウエイヴ好きに勧めたい。ハンドクラップでTWEEDEESスタッフが参加しているのも楽しい。

エミーリャが座る愛車が
トラバントP50

 再び『国境のエミーリャ』とのコラボで、昨年12月に配信のみでリリースされた同名コンセプト・ミニアルバムから「二気筒の相棒」も本作に収録している。イントロはノーザン・ソウル風だが、本編に入るとCymbals時代から脈々と続く沖井節全開である。
 因みに劇中エミーリャの愛車は東ドイツ製のトラバントP50(生産期間:1958年~1964年)で、排気量500ccの直列二気筒2ストローク空冷エンジンというロースペックながら、同国の国民車となった小型FF車だ。最高出力が20ps未満と当時の日本車同排気量と比べて性能は落ちるが、ボディがFRP製で車重600kgと軽量なので最高105km/hの走行が可能だった。エミーリャが任務遂行のため、猛スピードで疾走する情景を綴った沖井の歌詞を清浦が感情移入して歌い上げている。この曲ではタイヘイのドラミングと沖井自らプレイするオルガン・ソロも秀逸だ。
 「Sinfonia! Sinfonia!!! TWEEDEES ver」は沖井がTWEEDEES結成前に、声優兼歌手の竹達彩奈のファースト・シングルとして提供し、2012年4月にリリースした楽曲のセルフカバーだ。テレビアニメで映画化もされた『けいおん!』の声優としてブレイクした竹達のこの曲は、オリコンのシングルチャート初登場で7位となるヒットとなり、現在も彼女の代表曲となっている。
 ここではテンポを落として音数を削ったサウンドでリアレンジされ、シックで落ち着いた清浦のキャラクターに合わせたTWEEDEESヴァージョンとして生まれ変わっている。ドラムにタイヘイが参加しその他の演奏とプログラミングは沖井が担当している。

 本作終盤では書き下ろしの新曲が続き、「Day Dream」は清浦の作詞で沖井の作編曲による美しいバラードだ。クリシェで下降する繊細なコード進行ながら徐々にリズム隊が派手に出てくる沖井らしい作風だ。繊細なエレピのコード・ワークとリズム隊のコントラストが、表現力豊かに歌い上げる清浦のヴォーカルをドラマティックに演出している。ドラムには原が参加し、ベースとギター、鍵盤類のプログラミングは沖井が担当している。  ラストの「Hello Hello」は前曲をクールダウンさせる小曲で、沖井によるエレキギターとエレピ、パーカッション類のプログラミングによる狭い空間で展開するサウンドをバックに、清浦のキュートな歌声が聴ける。作詞は清浦で作編曲は沖井によるものだ。  以上のように本作は収録曲毎に異なる世界観で制作されているのにも関わらず、沖井礼二と清浦夏実によるTWEEDEESでしか表現出来ない統一感により完成度が高められているので、 筆者の解説で興味を持った弊サイトの読者や音楽ファンは是非入手して聴いて欲しい。

 
 TWEEDEESプレイリスト

◎沖井礼二
■Magical Mystery Tour / The Beatles 
(『Magical Mystery Tour』/ 1967年)
■Vanishing Girl / The Dukes Of Stratosfear
(『Psonic Psunspot』/ 1987年)
■I Like Myself / Gene Kelly
(OST『It's Always Fair Weather』/1955年) 
■Devant Le Magasin / Michel Legrand
(OST『Les Parapluies de Cherbourg』/ 1964年)
水硝子 / RYUTist(『水硝子』/ 2021年)

◎清浦夏実
■pray / 赤い公園(『オレンジピアノ / pray』/ 2020年)
■Painted From Memory / バート・バカラック、エルヴィスコステロ (『Painted From Memory』/ 1998年)
■濡れない雨 / 中納良恵 (『窓景』/ 2015年)
■陽のあたる大通り / ピチカート・ファイヴ 
(『陽の当たる大通り』/ 1994年)
■パイロット / 坂本真綾(『DIVE』/ 1998年)

(テキスト:ウチタカヒデ


2022年11月25日金曜日

IKKUBARU:『LAGOON / THE FOUR SEASONS』(CA VA? RECORDS / HAYABUSA LANDINGS / HYCA-8046


 現日本のシティポップ・ブームの後押しで注目される、インドネシアのAOR~シティポップ・バンドのイックバル(IKKUBARU)が、新曲「LAGOON」を7インチ・シングルで12月3日にリリースする。
カップリングの「THE FOUR SEASONS」もシュガー・ベイブ(SUGAR BABE)の「DOWN TOWN」に通じる小気味良いグルーヴで必聴チューンなので紹介したい。

 昨年8月リリースの『Summer Love Story』(HYCA-8023)のレビューでもプロフィールを紹介しているが、彼らはソングライターでフロントマンのムハンマド・イックバル(Muhammad Iqbal、以降ムハンマド)を中心として、2011年にインドネシアのジャワ島西部の州都バンドゥンで結成された4人組だ。ムハンマドはボーカルとギター、キーボードを担当し、ボーカル兼ギターのRizki Firdausahlan、ベースのMuhammad Fauzi Rahman、ドラムのBanon Gilangからバンドは構成されている。
 2015年から来日公演の他、TWEEDEES、脇田もなり、RYUTistなど国内アーティストとのコラボレーションも多く、日本との繋がりは極めて強い。今年7月には日本テレビ系の地上波番組『世界一受けたい授業』のシティポップ特集にリモート出演し、その存在を一般層にも広げており、今後の展開にも期待出来るのだ。 
 これまでに『Amusement Park』(2014年)、『Chords & Melodies』(2020年)の2枚のオリジナル・アルバムをリリースしており、21年6月には『Amusement Park』のExpanded Edition2枚組で、同年7月には『Chords & Melodies』をアナログ盤LPでそれぞれリイシューしている。繰り返しになるが昨年8月にはRYUTistへ提供した「無重力ファンタジア」のセルフカバーをカップリングにした『Summer Love Story』を7インチ・シングルでリリースして好評だった。
 

 本作は「LAGOON」、「THE FOUR SEASONS」共にムハンマドのソングライティングによるオリジナルの新曲で、アレンジとプロデュースも彼自身が担当しており、「LAGOON」にはバンド・メンバー以外にパーカッショニストとしてRezki Delian Kautsarが参加している。
 ジャケット・デザインにも触れるが、『Summer Love Story』に続き、KADOKAWA発行の隔月刊漫画誌『青騎士』連載中の「音盤紀行」を初単行本化して話題の漫画家、毛塚了一郎(けずか・りょういちろう)が描き下ろしのイラストを提供している。珊瑚環礁に囲まれた海岸を眼下にしたひと夏のシーンがサウンドをイメージさせてくれる。

 では本作の収録曲を解説していこう。タイトルの「LAGOON」はオーバードライヴの暖かみのある歪みとコーラスで広げたギター・ソロがイントロから間奏、コーダまで活躍しているサマー・アンセムで、Rizkiのギター・プレイは高中正義に通じて興味深い。高中のヒット曲「BLUE LAGOON」(1980年)へのオマージュと思しきスケール感に思わずニンマリしてしまう。Fauziのベースはフレットレスで、Banonのラテン・テイストなドラミングとのコンビネーションもマッチしている。またゲストのRezkiはコンガの他、ウッドブロック、シェイカー、ツリーチャイム、トライアングル、レインスティックまで多種多様にプレイして曲を演出しているのが聴ける。
 この曲に因んで今回特別に筆者も10代の頃ファンだった高中正義のベストプレイのサブスクのプレイリストにしたので聴いて欲しい。

 
高中正義ベストプレイ・プレイリスト

 カップリングの「THE FOUR SEASONS」は冒頭の通り、シュガー・ベイブの「DOWN TOWN」(1975年)に通じる小気味良いグルーヴが印象的なプリティーなラヴソングだ。歌詞の内容は四季を通して恋を高め合うというものだが、夏から始まり春には溶けてしまうという発想が面白い。
 「DOWN TOWN」に関してだが、以前他アーティストのレビューで触れたので再掲するが、クレジット通り伊藤銀次氏の作詞で山下達郎氏の作曲と認識しているファンも多いと思う。しかし実際はサビのリフレインは伊藤氏のソングライティングであったことがマニアにはよく知られている。また散々指摘されているが、この曲はアイズレー・ブラザーズの「If You Were There」(『3 + 3』収録/1973年)へのオマージュではなく、ザ・フォー・トップス「I Just Can't Get You Out Of My Mind」(1973年)を意識していたことを伊藤氏はラジオ番組でも公言しているので要注意である。
 またそれを遡るとこのグルーヴはStax RecordsでBooker T. & the MG'sのドラマーとして活躍したアル・ジャクソンJr.が、後にHi Recordsで編み出したパターンが基ではないかと思われるのだ。アル・グリーンの稀代の名曲「Let's Stay Together」(1971年)のドラム・パターンのテンポを上げると、「I Just Can't Get You Out Of My Mind」のそれに近いという。何とも興味は尽きない訳であるジャクソンだ(笑)。

 
WebVANDA管理人が考察するDOWN TOWNプレイリスト

 なお本作『LAGOON / THE FOUR SEASONS』も『Summer Love Story』同様、数量限定の7インチ・シングルなので、筆者の解説を読んで興味を持ったシティポップ・ファンは、リンク先のオンラインショップ等で予約して入手することをお勧めする。
JET SET RECORD & CD ONLINE SHOP:https://www.jetsetrecords.net/i/716006103419/

(テキスト:ウチタカヒデ

2022年11月21日月曜日

Hack To Mono-Goldringがやってきた、そしてウクライナからのおくりもの


Art Laboe

 Art Laboeが2022年10月7日に97歳の大往生を遂げた。現役ラジオDJとして死の直前まで活躍し、彼の生み出したフレーズ「Oldies But Goodies」はラジオ番組のみならず、創業者として立ち上げた自身のレーベルからリリースした同名のコンピレーションはベストセラーとなった。また、Morgan家と実父Murryを通じて15歳のBrianをオーディションに向かわせた先は彼のレーベルであった。(リリースは実現せず)

 R&B〜Rock’n Roll黎明期の立役者の物故が相次ぐ昨今モノラル音源を大切にしたい。

 モノラル再生に大志を抱き1年経った、最近の収穫は英国製モノラルカートリッジだ。

 Goldring社はドイツで創業し蓄音機周りの製造を中心としたが、英国へ製造拠点を移転後はカートリッジ中心に現在でも定評がある。モノラル時代に発売された500は人気を博しステレオ時代の幕開けに登場した600以降ステレオカートリッジにその座を譲る。


 今回600を譲るとの報があったが、詳細を確認せずオファーを二つ返事返したのはいけなかった。英国より届いた筐体はGoldringと言う割には鈍い銅褐色だ。


Goldring 600のハズだったが?
ヘッドシェル付きで入手したもののボディの色が違う?
ヘッドシェルを外してみた

 よく調べると600の前の580のようだ。きんさんぎんさんに続いて銅も獲得した訳だから、これも何かの縁、と割り切るしかない。テスタで通電を確認し、問題ない。改めて筐体を確認する、この鉄仮面は2つの顔があるのだ。先端のノブを押し込むと回転する、再生針が表裏についているのだ。SP盤からLP盤への転換期の時代背景がこの二面性の原因といえよう。

 今回は両面LP対応にすることとした、事前に入手した交換針がなかなか雑な作りである。そもそも純正と思われる方の針も変わっている。針を装着する箇所にパテ状の物質で覆われており、この弾力がダンパーの役割なのか?

「仮面」をとった状態

 といっても50年以上の歳月が固化を生じて錠剤並に変化してしまっていた。取り外すだけでもヤスリで少しづつ削らねばならなかった。交換針もクセモノで、樹脂の部分のサイズがやや大きい、こちらも削りながら位置調整が必要だった。

謎の交換針----赤い部分を削らなけらば入らない!

謎のパテに覆われた純正針

 あとはアームへの装着だけだが、新たなハードルが!現代のトーンアームとはそもそも形状が全く違うので通常のヘッドシェルでは対応しないのだ。60年近く前の製品だから絶版なのは覚悟の上だがどうするか?

「カーソル」を装着した状態 このパーツがあれば....

 自分で作る?いやいや、Murryが英国から輸入したような工作機械が必要だ。しかし世の中には予想もつかない好き者がいるものだ、当方の所有機種のパテント元の米国機種のクローンを製造販売していたのだ。さらに予想もつかない事態が!

そう、当人の住まいChernihivとある、なんとUkraineの北方の都市だった。

 Chernihivで検索すると露軍の侵攻や制圧にミサイル攻撃のニュースがこれでもかという位出てくるのだ。これでは当人宅から旋盤や加工素材など露軍兵士に持っていかれてもおかしくは無いはずだ、思わず弱気になる。恐る恐る本人にコンタクトを取ると数日後「今でもフル操業中」との返事があった。もうここまで来たらSerge(本名)君に任せた、送金しよう。たとえパーツが露軍に差し押さえられてもいい、ほぼお布施感覚だが送金は成功した。数日後「送ったよ」の連絡があった、本人は航空便で送ったとのこと、しかし当地の情勢では日本に向けて航空機を飛ばせば露国の勢力圏に入り撃墜されるのではないか?

 この懸念も杞憂に過ぎなかった、ある日ニュースで宇国から海外への空輸はPolandへ一旦陸路で配送し、波国から空輸するとの報道があった。このため宇国と波国の国境にはトラックの大渋滞で、国境を超えるのに数週間要するとの事。実際追跡番号で検索したが、首都Kiewへ持ち込みの後2週間も動いていなかった。発送メールから一ヶ月強、とうとう自宅へ到着した。


 早速開封し件のカーソルに580をネジで固定し、アームへ装着。パテントは同じと思われるが国内製造メーカーによっては形状が異なるのが懸念事項だったが、

60年の隔たりを感じさせない寸分違わぬ見事な出来だ、楽曲なら極上カバー!。

戦火をくぐり抜けてたどり着いたぶん、ありがたみは大きい。

ありがとうSerge!

さて、初めて聴くレコードは如何に?

英国製なら英国盤で応えよう、モノラル時代なのでクラシック?

ある意味Phil Spector並の破天荒なビーチャム卿指揮のエニグマ変奏曲か?

いやいやもっと大衆的なのがいい、ということで

The Rolling Stonesのデビュー盤「Come On」にしてみよう。



 tax code入の初期オリジナル盤をあえて選び聴いてみよう。彼らのファンならご存知の通り当盤は本人たちはレコーディングに不承不承の状態で参加したようなので、出来としては今一つだが、エコーや音の重なりが心地よく、Brian Jonesのハープも背後で子気味よく聴こえてくる。




 本項作成中に宇国南部Kherson州において露軍撤退の報が入る、KhersonといえばPhil Spectorの父祖由来地である、冥府で本人も喝采を送っているだろうか?宇軍はドニプル川渡河を決行し露軍をクリミア半島へ押し返そうと企図している。
 思えば約80年前独ソ戦において当時のソ連邦は逆の立場でドニプル川渡河作戦を行い独軍をクリミア半島へ押し返したその際米国から供与のジープが活躍したと聞く、加州からの便が寄与したとのこと。現在の宇軍の通信インフラは衛星インターネットだ、供給元は米国のElon Musk率いるSaceX社である。SpaceX社の本拠地はWilson兄弟及びThe Beach Boys由来のHawthorneに置く、今後の戦況はいかに?