2004年10月27日水曜日

クノシンジ:『オレンジジュース・グレープフルーツジュース』 (abcdefg*record/a-g023)














クノシンジは若干21歳という若さながら、豊かなソングライティング・センスを身につけた、ポップス系シンガーソングライターだ。過去の音楽的資産を大きく受け継ぎ、ポップスの持つドリーミーでバブルガムな世界観を現代的に表現した本作でデビューと相成った。 ここでは彼に行ったインタビューを絡めながら本作の魅力を紹介したい。

(クノシンジ:以下括弧内同じ)「僕がなぜ60~70年代のポップス、ロックに填っていったかというと、やはりビートルズとの出会いがきっかけです。その出会いもやはり父がビートルズのベストを持っていて、それを中学生の頃に聴いたからですね。ビートルズに行く前には、邦楽、とくにスピッツに填っていたんですが、並行してビートルズに填っていきました。丁度、ポールが『Flaming Pie』(97年)というアルバムを出したころで、確か発売日に買いに行きました(笑)」 

CDリイシューによる過去音源発掘でカタログ化された作品群を、クノの世代では普通にコンプリートで聴ける好環境で育ったといえる。そこからポップス・マニアへと成長したのは云うまでもない。 きっかけがビートルズだったというのが、結構後々のマニア心に影響していると思える。何故なら彼らはポピュラーミュージックの要素をほぼ網羅したといっても過言ではない程、多用なアイディアをサウンドに取り入れてしまったから。 筆者は収録曲の中でも「恋泥棒」に、ロジャー・ニコルスとのコンビで知られるポール・ウィリアムスの「Mornin' I'll Be Movin' On」(『Someday Man』収録曲)的な匂いを感じ取り、その辺りのシーンへの感心も聞いてみた。

「ここ1、2年前までは周りにも60~70年代のポップス好きは居ませんでしたので、ほぼ自分一人で突き詰めていきました。良くも悪くも、ここまでマニアになったのは多分好きな音楽以外に興味が少なく、さらに良い曲を作るという事に生活の大部分を費やしてきた結果だと思います。 「恋泥棒」はロジャニコを意識して作った曲だったりしますが、『Someday Man』は聴いたことがないです。ただロジャニコ・プロデュースっていうことで何か繋がりがあるのかもしれないですね。 コーラスに関しては、本当に感覚だけで作っているので、まだ何々風にとかいったことは出来ないんです。ただ思いついたコーラスラインを、2、3声でハモってるだけっていう。でも出来る事なら、というか今後はそういった名盤を徹底的に研究して、意識してアレンジ出来る様になりたいとかなり思っていますそれこそ日本で、完全に当時のソフトロックを消化した現代版ソフトロックをやって、且つそれが一般ポピュラリティーを持つ位なものを作りたいって思ってます」

周りに音楽仲間が少なかったのでコアに追求していった結果、シンガーソングライターなってしまったというのが面白い。ただそれだけ現代の若い世代は、音楽に興味を持てなくなってしまったという裏返しでもあるのだが・・・。 「恋泥棒」の他にもクノの曲には様々な音楽資産が見え隠れして面白い。例えば「君のお気に入り」にはクイーンからの影響を強く感じさせる。ギターの重ね方やソロの音色等はブライアン・メイをかなり意識しており、ブリテッシュロック・マニアの心を擽りそうだ。 一回り以上も下の世代であるクノの作品に惹かれるのは、これら嘗てのポップス、ロックへのオマージュが惜しみもなく表れているところなのかも知れない。 勿論、彼ならではの個性とアイディアのフィルターを通しているので、単なるオマージュで終わらせない努力にも注目したい。 何でも彼は、デビュー前からポスト小沢健二と称されている様だが、筆者はそれ以上の可能性を信じており、これを機にさらに大きく成長して欲しいと願っている。ともあれ作品毎の変化が楽しみになる、若く有望なアーティストに出会えた事を心より喜びたい。

 「「君のお気に入り」のギターは完璧にブライアン・メイを意識していますまだまだ甘いですが。いつかは完璧なオマージュを目指しています音色、ボイシング、フレージング。僕自身、誰かが誰かのオマージュをやっているのを聴いたとき、思わずニコってしちゃうのが好きですから聴いてもらった方に気づいてもらうのも、かなりの楽しみではあります(笑)。今回のアルバムを完成させて思ったのは、やっぱりまだ色んな部分が甘いなという事です。演奏や歌も勿論、こういった過去の音楽へのオマージュだったり、研究だったりが。これからは、よりソフトロックやジャズ等の研究をして自分の中に消化したいです。それでしっかりとしたアレンジ、コーラスワークを身につけた上で、更にポップで現代の人にも自然に伝わるモノを作るっていうのが、今後僕が目指すポップ・ミュージックです。今は既に制作意欲が高まってきているので、いろいろ研究しつつ出来るだけ早く新しい曲をリリースしたいとも思っています」
 (ウチタカヒデ)


2004年10月25日月曜日

Radio VANDA 第 55 回選曲リスト(2004/11/04)



Radio VANDA は、VANDA で紹介している素敵なポップ・ミュージックを実際にオンエアーするラジオ番組です。

Radio VANDA は、Sky PerfecTV! (スカパー) STAR digio の総合放送400ch.でオンエアーしています。

日時ですが 毎月第一木曜夜 22:00-23:00 1時間が本放送。
再放送は その後の日曜朝 10:00-11:00 (変更・特番で休止の可能性あり) です。

佐野が DJ をしながら、毎回他では聴けない貴重なレア音源を交えてお届けします。


特集the Beach Boys 版で聴く『SMILE

1. Our Prayer (Early Version)
2. Heroes And Villains (Alternate Version)
3. Heroes And Villains (Section)
4. Do You Like Worms
5. Barnyard
6. Barnyard = [Heroes And Villains(Demo)]
7. The Old Master Painter / You Are My Sunshine
8. Cabin Essence (Early Version)
9. Wonderful
10. Holidays = [Look]
11. Child Is Father Of The Man
12. Surf's Up (Early Version)
13. I'm In Great Shape = [Heroes And Villains(Demo)]
14. I Wanna Be Around / Friday Night
15. Vege-Tables
16. Vege-Tables [Smiley Smile]
17. Tones = [Tune X]
18. Wind Chimes
19. Wind Chimes [Smiley Smile]
20. Mrs.O'Leary's Cow = [Fire]
21. Water
22. I Love To Say Da Da
23. Good Vibrations (Early Version)

 

2004年10月7日木曜日

モダーン今夜:『青空とマント』 (MOTEL BLEU/MBR-007) 永山マキインタビュー



 昨年『赤い夜の足音』でデビューしたモダーン今夜から、約一年振りのセカンドアルバムが届いた。
 画家アンリ・ルソー作「眠れるジプシー女」の構図を思わせる印象的なジャケットからして期待が大いに持てるのだが、今回もメイン・ソングライターでヴォーカリストの永山マキの描く独特な詩世界に、複数のホーンプレイヤーとパーカッショニストにヴァイオリン奏者も含めた、濃厚なビッグバンド・アンサンブルが有機的に絡んでいく。
 ここでは前作を超え意欲溢れる作品に仕上がった本作について永山に聞いてみた。

 (永山マキ:以下括弧内同じ)「『赤い夜の足音』は、結成した当初につくった曲もあり、割といろんな要素がつまったアルバムだったんですが、今回の『青空とマント』は自分たちの方向性や世界観がより濃くなったと思います。相変わらずいろいろなリズムなんですが赤い夜~よりも、さらに一本筋が通ったというか。
とにかく歌いたいことが歌えたと思っています。
セカンドアルバムは「七つの歌」で構成されていますが、これは、ひとつひとつ、言葉を大切にしてつくりました。 楽曲の方はファーストの時よりも、タムと一緒につくったり、タムがアレンジしてくれたりと、タムの活躍がめまぐるしかったと思います。それがとてもいい形になってセカンドに表れたなぁと思っています。特に、「海の底」のアレンジはタムならではだと思います。 海にだんだん沈んでいく感じがうまく表れている。さすがです。 このような感じで、今回は一曲一曲、詩とともに情景が浮かぶような、紙芝居になっているのです」

  バンド内アレンジャーたるキーボーディストのタムは、前作以上に曲作りでも大きく貢献をしている。先行シングル「名犬ジョディー」やタイトル曲「青空とマント」ではマキとの共作となっているが、より完成度を高めるソングライティング・コラボレーションを生んでいるのだ。また各メンバーの演奏にも自信溢れる能動的プレイが多く、聴き所が増えたのもポイントだ。新しいレコーディング方法にその辺りの鍵があるのかも知れない。

 「今回のアルバムは、タムがいなかったらできなかったと思います。それと、リズム隊のみんなが、かなりいい感じでリズムを構築してくれたので、それも大きいです。
わたしが書いた詩をみんなでかたちにしたという感じです。もちろん、逆もありますけれど。ファーストのときよりライブ感が増したかもしれません。ファーストはリズム隊やホーンなど、全部わけて録音していったのですが、今回は一発録りのものが結構ありまして。
「もぐら」は完全一発録りです。 他の曲もグルーヴを活かし、ほとんどみんなで一緒に録音しました。」

  今回もマキの詩の世界に興味が尽きない。 彼女自身の心情を赤裸に綴ったとされる「青空とマント」と「名犬ジョディー」。特に「名犬ジョディー」は、その高揚感溢れるサンバ調の曲調とは裏腹に痛烈な歌のサインランゲージを感じずにいられない。 前回の「涙の雨」の続編というべき昭和ロマンを讃えた「あのフレーズ」では、絶妙なダブルミーイングを効果的に配置してストリーテラー振りを発揮している。因みにこの曲ではユニークなセッションもあったとの事だ。

 「「青空とマント」については、自分がね、飛べると信じていたのに飛べなくて、泣きたくても泣けない時期があったんです。そうやって、泣きたくても泣けない人って私だけじゃなくてたくさんいると思うんですよね。仕事場で、学校で、いろいろです。そうやって、つくり笑いしていると、こころがカチコチになってしまうでしょ。そういう固まってしまった心のねじを巻いてあげると青空とマントではうたっているのです。
「名犬ジョディー」は「カオナシ」の歌です。自分がなにがしたいんだか、例えば、歌を歌っている永山マキだって、本当のあたしなのかどうかわからない。自分が何者であるか、なんて、自分が死ぬまでわからない。でもね、ずっと止まり続けていられないんですよね。 進まなくちゃ。何があろうとも、時間は流れているわけですからね。 
そうそう、それと、「あのフレーズ」。これがとっても可愛らしい曲でして。 ストーリー中の「フレーズ」は、音のフレーズと言葉のフレーズでもあるんです。 主人公と男性の間でしかわからない、「あのフレーズ」を奏でる(もしくは囁く)のです。ニクイ人なんですね。 あのフレーズのギターソロを弾いているのは実は私の実の父親なんですよ。なので、私の弟のヤスとギターと私というソロ回しがつづき、ちょっとおもしろいことになっていますね。」

 聴く度にそれぞれの曲に深い世界観が潜んでいるのが理解出来ると思う。即ち本来ポップスが持ち得た高い創造性がここでは感じられるのだ。本作は歌詞カードを手にじっくり聴くべき作品といえるだろう。最後にマキも以下の様なコメントでその魅力を語ってくれた。

 「わたし、みんなに伝えたいことがあって。セカンドアルバム「青空とマント」はそれをぎゅっと詰め込みました。 伊藤ゴローさんから戴いたコメントのなかに「モダーン今夜はバロックの罠、七つの夢のなぞなぞを解こう」とあるのですが、 収録曲、7曲をじっくり聞いてみてください。
キメ細やかなアレンジと素敵なおはなしがかくれています。 ファーストから進化したモダンサウンドを、是非お楽しみください! 」

 (ウチタカヒデ)