2012年5月30日水曜日

☆Paul and Linda McCartney:『Ram』(Paul McCartney Archive Collection)(ユニヴァーサル/UCCO9993)

ポール・マッカートニーのアーカイブ・コレクションの第4弾がようやくリリースされた。日本では[スーパー・デラックス・エディション]と名付けられたCD4枚+DVD1枚のボックス・セットだが写真集なども入ったので、今までのシリーズの倍はある分厚さで置き場所に困ってしまう。
ポール、フー、ストーンズがこの手で発売しているので、今後のリリースが心配になる。個人的な話で恐縮だが、狭い自分の部屋は既に限界状態で、横に並べられないのでどんどん隙間を見つけて積み重ねるだけ、先日の東日本大震災では見事に倒壊し片づけるのも四苦八苦、身の危険を感じるばかりだ。置き場所がない...
 それにしても『Ram』はいいアルバムだ。大傑作と胸をはるアルバムではないが、少し詰めが甘いがいい曲が多く入っていて、ソロになってからのポールの職人技のような曲がないので、逆に親しめる。1971年発売当時はともかく音楽評論家にバカにされていたが、今は人気盤であり、時代は変わるものだ。『Band On The Run』が出るまでの、ポール叩きを是としていた音楽評論家達...、だから音楽評論などクズだと思うようになった。特に「ロック」にこだわる連中に顕著で、反商業主義、ルーツ志向こそ正しく、それ以外は邪とするというその頑迷な姿勢は実に不快。かつての社会主義と一緒で、革新、進歩などという良さそうな言葉に踊らされ、振り返ってみたら、こいつらは歴史と共に消え去る運命なのである。発表から40年経って、曲の良さでアルバムを判断する、当たり前の姿に戻ったといえよう。『Ram』に関してはもう何も語る必要がない。リマスターは音が非常によく、モノ・アルバムもプラスされた。さらにスピン・オフものである『Thrillington』まで入ってしまったのはご愛嬌。肝心なのは『Bonus Audio』のディスクで、素晴らしく音がクリアーな「Another Day」「Oh Woman Oh Why」「Little Woman Love」からスタート、別テイクを聴いているように新鮮だった。あとは『Ram』時に未発表だったデモ集で、軽快なロック・ナンバー「A Love For You」はポップな小品、「Hey Diddle」は『Wingspan』のナレーションが被るテイクではなく、ポールのアコースティック・ギターを中心にポールとリンダでハモるフォーク・タッチの小品。「Great Cock And Seagull Race」はジャム・セッションのようなインスト。「Rode All Night」は842秒にも及ぶ即興のロック・ナンバーで、アルバムにそのまま入れるトラックでないが、ノリノリで気持ちいい。後にロジャー・ダルトリーに「Giddy」として提供されている。「Sunshine Sometime」はインストだが、ポールらしいセンスの良さが随所に出ていて、実に爽やかだ。このディスクは「デラックス・エディション」にも入っているので、一般のファンはそれで十分だろう。我々のようなコレクターはDVDBonus Film』が入っていたことが救いで、『Ram』の時のポールの追想から始まり、1971年の仲睦まじいポールとリンダのプライベート・フィルムをバックにした「Heart Of The Country」と「3 Legs」のミュージック・クリップへ移る。ここからがハイライト、1971年、スコットランドの野外でポールのアコースティック・ギターに合わせてポールとリンダがハモりながら歌う「Hey Diddle」はまさに即興、貴重なフィルムだ。周りでは二人の子供も映っていた。そして1972年のオランダでのウィングスのツアーの模様を収めた「Eat At Home」も素晴らしく、前半はギターの中心のジャム・セッション風でスタートし、お馴染みの「Eat At Home」へメドレー風につながる。シンプルなバンド・サウンドで、ギター中心のバッキングは実にカッコよく、個人的には最高に気に入ったテイク。ツアーバスにたくさん同行する女性たちは、メンバーの彼女達なのだろうか。なんだか楽しそうで、これから始まるワクワク感が伝わってくる。(佐野)



 

2012年5月27日日曜日

☆EMIミュージックジャパンよりサーフィン&ホットロッドの名盤10枚リイシュー

ビーチ・ボーイズ・リユニオンに合わせ、本家本元のEMIミュージックが、キャピトル/リバティ音源の、ビーチ・ボーイズと同時期に活躍したジャン&ディーンやファンタスティック・バギーズなどのCD10タイトル、リリースした。

まずジャン&ディーンは6タイトル。ジャン&ディーンは書きだすと長くなるのでブライアンがらみだけで紹介しよう。『Take Linda Surfin'(71302)と『Drag City(71304)にはビーチ・ボーイズがバッキングとコーラスを担当した「Surfin'」「Surfin' Safari」と「Little Deuce Coupe」が収録されていて、ビーチ・ボーイズのヴァージョンを聴いているかのようで要注目。『Drag City』には他にブライアンが書いた曲が3曲あり、まず全米10位となったポップな「Drag City」、そしてリフを生かしたホットロッドの快作「Surf Route 101」があり、さらにブライアンとゲイリー・アッシャーがコーラスを付けた「Dead Man's Curve」が収録されていた。「Dead Man's Curve」はシンプルなバッキングが功を奏し非常にいい出来だが、後にジャン&ディーンはブライアンらのコーラスを自分たちのコーラスに差し替え、SEなどを追加してシングル・カット、8位とヒットにするが、出来は明らかにこのアルバム・ヴァージョンが上だった。ちなみにジャン&ディーンのブライアンがらみの曲ばかりで構成したCD『Take Brian Surfin'』以前リリースされていたが、残念ながら「Dead Man's Curve」はシングル・ヴァージョンだった。このシングルの「Dead Man's Curve」は、ブライアンが「Gonna Hustle You」のタイトルで曲を書いたものの内容が卑猥だというので歌詞を変えた「The New Girl In School」とカップリングでリリースし、こちらも37位とヒット、2曲とも『Dead Man's Curve/The New Girl In School』(71305)に収められた。ブライアンが書いた最初のナンバー1ソング「Surf City」はスタジオに遊びに来ていたジャン&ディーンにせがまれブライアンがプレゼントした曲だったが、同じくブライアンが書いた「She's My Summer Girl」と共に『Surf City』(71303)に収められている。さらにブライアンが書いた快作であるシングル「Ride The Wild Surf」は16位とヒットとなり、「Catch A Wave」の歌詞を変えた「Sidewalk Surfin'」と、「Surfin' Wild」なるブライアンのいかにもやっつけ仕事の曲と共に『Ride The Wild Surf(71306)に収録されている。なおこのアルバムにはイエロー・バルーンのゲイリー・ゼクリー作「The Restless Surfer」も収録されているのでここにも注目して欲しい。もう1枚、『The Little Old Lady From Pasadena』(71307)にはブライアンが書いた「Move Out Little Mustang」や前述の「Sidewalk Surfin'」が収められている。

Shut Down』(71301)はビーチ・ボーイズの「Shut Down」「409」をはじめスーパー・ストックスやチアーズなどの曲を入れたホットロッドのコンピレーション・アルバムで、このアルバムが先行していたので、ビーチ・ボーイズのアルバムが『Shut Down Vol.2』になった経緯がある。本盤収録の「Shut Down」はイントロにカーレースの豪快なエキゾースト・ノートが被り、いつものヴァージョンより数段カッコいい。ちなみに本盤はモノながら「409」は通常の長さ。オリジナルモノLP盤『Shut Down』収録の「409」は10秒近くロング・ヴァージョンだったが、今は『Good Vibrations Box』で聴ける。スーパー・ストックスの4曲は本盤のみ収録のもの。
そのゲイリー・アッシャー率いるスーパー・ストックスはサーフィン&ホットロッド・ファンに根強い人気があるグループ。『Surf Route 101』(71308)のタイトル曲はブライアンの曲だが、同タイトルながらジャン&ディーンで紹介した曲とは違いずっとポップな仕上がりだった。他のブライアン作はフランキー・アヴァロンが歌ったタフな「Muscle Beach Party」があり、変わったメロディラインを持つ「My First Love」はこのアルバム以外で聴くことはできない。なおスーパー・ストックスの残り2枚のアルバムは第2期でまとめてリリースされる。蛇足だが、このジャケット、オリジナルはオマケのシングルがくっついていたのでそこがポケットになっているのでジャケットの絵はかなり欠けていた。今から20年くらい前にM&Mというリイシューメーカーがあり、そこの担当者がこの欠けた部分をデザイナーに依頼してコンピューターで欠けた部分を想像で補ってジャケットを作っていた。そのジャケットがその後、延々と使われているのは面白い。
名ソングライティング・チームのフィル・スローンとスティーブ・バリが自作自演で勝負していたのがファンタスティック・バギーズ、唯一のアルバム『Tell 'Em I'm Surfin'(71309)は名盤として名高いので知らない人はいないだろう。当時はヒットしなかったが、メロディが流麗で、スカが非常に多いサーフィン&ホットロッドのアルバムで光り輝いていた。少し残念なのはシングルのみの曲は非常に出来がいいので収録して欲しかったが...内容的にはこの10枚のリイシューでベストだろう。。残る1枚は64年に制作し66年に公開されたサーフィンのドキュメンタリー映画「エンドレス・サマー」のサウンドトラックであるサーフ・インスト・グループのサンダルスの『The Endless Summer』(71310)である。
なお、このシリーズは999円と激安。(佐野)


2012年5月12日土曜日

☆Neil Sedaka:『The Tra-La Days Are Over /Overnight Success』(BGO/1042)

70年代のニール・セダカのソロ・ワークスはかつてVANDA22号で大特集したようにまさに神がかり、どのアルバムも素晴らしく、オールディーズではない70年代の芳醇なメロディとサウンドに満ちていて、リスナーを必ず満足させる高いクオリティを持っていた。この時代のニールは前半、イギリスでしかスマッシュ・ヒットを出せなかったが、そのソングライティングの素晴らしさに感銘を受けた腕利きのミュージシャンが次々とバッキングを買って出た。このBGOレーベルでは1972年リリースの新生ニール・セダカの第一弾『Emergence』と翌年発売の第2弾の『Solitaire』をカップリングでリリースし、我々70年代ニール・セダカ・フリークを狂喜させてくれたものだが、本CDは続く1973年の『The Tra-La Days Are Over』と、1975年の『Overnight Success』のこれまた未CD化のアルバムのカップリングだ。
『The Tra-la Days Are Over』のバッキングは『Solitaire』から続く10CC。ファンキーな「Little Brother」のバンドサウンドが心地よいが、やはりニールはピアニストを目指ししたこともある卓抜したピアノをバックにした「The Other Side Of Me」や「Alone In New York City」「For Peace And Love」などのナンバーが光る。アルバム中のポップな「Love Will Keep Us Together」は後にキャプテン&テニールが歌って4週連続全米1位になった快作だ。捨て曲が一曲もない充実したアルバムでイギルスでは13位にランクされたが、なんとアメリカでは発売されずに終わる。その時、当時、飛ぶ鳥を落とす勢いのエルトン・ジョンが、ニールのアメリカでのプロデュースを名乗り出て、自らのレーベルRocketへ招いた。するとシングル「The Laughter In Rain」をアメリカで売り出すとはあれよあれよとチャートを駆け上がりついに全米1位を獲得する。以降はアメリカでの成功が続くのだが、シングルと合わせて作っていたアルバム『Laughter In The Rain』も名曲揃いなのにこれもアメリカで発売されていない。そのかわりRocketはアメリカ未発売のアルバム3枚から選んだベスト盤を発売して、こちらはヒットを記録している。そして本CDのカップリングの『Overnight Success』は1975年発売のその次のアルバムである。『Laughter In The Rain』のバッキングはザ・セクション、本『Overnight Success』のバッキングにはリーランド・スカラーに加えスティーブ・クロッパーやデビッド・フォスターらの実力者を並べており、これも凄いサポーターだ。特に10CCとザ・セクションのバッキングはまだニールが再ブレイクを果たす前のバッキングであり、いかにニールがプロ中のプロに尊敬を受けていたか分かる。『Overnight Success』ではエルトン・ジョンとデュオで吹き込み全米1位を再び獲得した「Bad Blood」がヘヴィなロックナンバー。持ち前の美しいバラードは「The Hungry Years」や「New York City Blues」などがあるがAORへスタンスを移したようなサウンドの曲が多くなっていた。このアルバム、アメリカでは『The Hungry Years』のタイトルで発売されたが、イギリス盤の『Overnight Success』とは2曲選曲が違う。アメリカ編集のものはVarese SarabandeからCD化されているのでそちらを聴いてもらいたい。このリリースの順をみると次は間違いなく未CD化のままの『Laughter In The Rain』と、順に行けば『Steppin' Out』か。さらにその後には未CD化のまま残っているジョージ・マーティンがプロデュースした『A Song』などが残っている。BGOのニールのCD化には4年間のブランクがあり、じっくりと腰を据えて次のCD化を待つとしよう。(佐野)


2012年5月11日金曜日

☆Brian Wilsonのソロアルバム3枚が、ボーナストラックを増やして再リリース!

☆Brian Wilson:『Reimagines Gershwin(Avex/AVCW12891)
☆Brian Wilson:『In The Key Of Disney(Avex/AVCW12890)
☆Brian Wilson:『That Lucky Old Sun(iTunes Download Only)








まず上の2枚のCD20125月になってようやく発売された日本盤CDである。2年も経ってのリリースは、ビーチ・ボーイズ・リユニオンに当て込んでのものだろう。そのままでは到底売り上げを望めないので、それぞれiTunesで購入した時のボーナス・トラックなどを追加してきた。こうなるとまた買ってしまうしかない...さて、『Reimagines Gershwin』のボーナス・トラックは、「Let's Call The Whole Thing Off」。ブライアン・バンドの紅一点、テイラー・ミルズとのデュエットによるスウィングするジャズ・ナンバー。『In The Key Of Disney』のボーナス・トラックは2曲で、まずは「シンデレラ」の挿入歌の「A Dream Is A Wish Your Heart Makes」。3連のピアノによるバラードで、エンディングのコーラスとハーモニカのからみが聴きもの。もう1曲は「わんわん物語」挿入歌の「Peace On Earth」で、クリスマス・ソングのようなアレンジの爽やかなコーラス・ナンバーである。
さらに名作『That Lucky Old Sun』は、BestBuyで購入したものは3曲多く「Just Like Me And You」という名曲を聴くことができ(前に紹介)たが、iTunesではのその3曲とは別の2曲が付けられた、中でも「Oh Mi Amor」はブライアンのナイアガラ・サウンド、それも「ペパーミント・ブルー」のようなゴージャスなプロダクションが施された名曲であり、アルバムの中に入れてもメインになる傑作、この曲こそボーナス・トラックにしてCD化してもらいたいたかった。もう1曲は「Message Man」といういかにものボツ曲。(佐野)

2012年5月4日金曜日

☆Kinks:『The Kinks in mono』(Sanctuary/277694-4)

昨年末にリリースされたこのボックス・セット、何を今頃...とお思いだろうがが、そう、私もこの記事を読んでいる多くの方と同じように、タカをくくって買っていなかった。なにしろ同じSanctuaryから同時にステレオ/モノの2イン1シリーズが出ているので、モノなんて全部ダブりじゃん、こんなのは紙ジャケのオリジナル仕様のCDが欲しい「マテリアル派」(私はそう呼んでいる。ちなみに私は音源の違いしか興味がない「音源派」である)だけだな、関係ないなというスタンスだった。ところがこの中に3曲の別ミックスが入っていると知ったらそれは放置できない、すぐ買わなきゃと入手した次第。Amazonではまだ当時の価格に近い値段で売っているが、既に中古状態でどんどん値段が上がっているので早く入手した方がいい。
ボックスの構成はUKオリジナル盤でファーストから『Arthur...』までの7枚+4枚のEPを集めた『The Kinks EP's』、各国モノ・シングルなどを集めた『The Kinks mono Kollectables Volume 1』『The Kinks mono Kollectables Volume 2』の10枚に、ブックレトが同梱されていて仕様はよい。では後のアルバム内容は全てすっ飛ばし、肝心な別ミックスを紹介しよう。このボックスの宣伝コピー文に書かれていた別ミックスの「Beautiful Delilah」が入っているのは『Volume 1』で、ここには別ミックスの「I'm A Lover Not A Fighter」も入っていたが、両者とも顕著な違いは感じられず、聴きこまないと違いを見つけられないレベルだった。しかし宣伝コピーにはない『Volume 2』収録の「Australia」のAustralian Single Versionがまったく違うミックス・編集で、これには興奮した。もともと好きな曲なのだが、シングル用にバックのピアノなどを大きくミックスし、まったく違う印象のテイクになっている。ドラムがバタバタした印象になっているが非常にポップな仕上がりになっていて個人的には好きだ。そしてこの曲、2分すぎからスローになり長い長いギターソロに移るのだが、そこをスッパリ切り捨て、スローになる寸前で「We'll surf like they do in the USA」のパートに無理やりつなぎ、アップテンポのまま快調に終わる。そのためアルバムが6分38秒なのにこのオーストラリア盤シングルは2分36秒と4分も短い。You Tubeでもこのヴァージョンがアップされているので、一度聴いてから購入するといいだろう。(佐野)