2022年5月25日水曜日

FMおおつ 音楽の館/Music Note 西城秀樹デビュー50周年特集

FMおおつ 音楽の館/Music Note 2022年5月号 西城秀樹特集

2022.5.28.(土) 16:00~ (再放送)2022.5.29.(日) 8:00~ 
※FMおおつ 周波数79.1MHzでお楽しみください。
※FMプラプラ(https://fmplapla.com/fmotsu/)なら全国でお楽しみいただけます。

 2019年4月よりFMおおつで放送中の「音楽の館~Music Note」。今回の5月号は4年前の2018年5月16日に急性心不全のため、63歳で惜しまれつつご逝去された“ヒデキ”こと西城秀樹さんの特集です。

 今年3月25日は彼のデビュー50周年にあたります。それを記念して2017年の「THE45+1」以来5年振りのコンサート「HIDEKI SAIJO CONCERT 2022 THE 50」が開催されています。これはファンクラブ会員限定の映像と生演奏による完全コンサートで、4/3に横浜・神奈川県民ホール、4/14には大阪・オリックス劇場にて行われました。そこでは当時のライヴさながらの熱気にあふれた雰囲気だったそうです。 

 またそれに連動したかのように「BRUTUS/2022年3年15日号(No.957)」では、ヒデキの<遥かなる恋人へ>歌唱スナップが表紙を飾った「全世代に捧げる~歌謡曲特集」が特集されています。そのプログラムのトップを飾っていたのは「西城秀樹という星(スター)」でした。 


 私自身は熱狂的なヒデキ・ファンというわけではありませんが、テレビのスペシャル番組で彼のライヴ映像を見て以来、彼のライヴにおける選曲センスには当時から注目していたひとりです。そんなヒデキの音楽センスとパフォーマンスの素晴らしさを中心に、「1970年代アイドルのライヴ・アルバム」としてVANDA30号に特集を寄稿しています。
 その後、このWebVANDAでも彼のライヴ・アルバムや映像放送についてを何回か寄稿をしてきました。 その中でひときわ強く訴えてきたことが、彼のライヴ・アルバムのCD復刻化でした。というのも“新御三家”のひとりでヒデキの盟友・野口五郎さんのライヴ・アルバムは「タワー・レコード限定版」で、ほぼ完ぺきに復刻されていたからです。

 
 それに対しヒデキのライヴ音源は一部CD化されたこともあったようですが、廃盤となったままでした。1999年には『HIDEKI SUPER LIVE BOX』なる6枚組CDが限定発売されていますが、このBOXのコンセプトは1985年のシングル50枚発売を記念して行われた『'85 HIDEKI Special live in Budokan-for 50 songs-』にスポットをあてたものだったので、(個人的に)収録曲には不満が募るものでした。 

 とはいえ、彼のライヴ・アルバムは1970年代に11作、80年代にも7作とトータル18作もリリースされており、しかもほとんどがWアルバム(3枚組もある)でした。それを思えば、これをわずかCD5枚にまとめる作業はかなり難航したのではないかと逆に同情してしまったほどでした。 

 そんな中、昨年6月(18日)からはファン待望となる彼のオリジナル・アルバムの復刻発売がはじまっています。その第3弾となる12月(24日)発売分には、彼の真骨頂ともいえる「ライヴ・アルバム」が紙ジャケット仕様にて発売されました。 
 このライン・アップには私が「1970年代アイドルのライヴ・アルバム」をまとめるきっかけとなった1975年『ヒデキ・オン・ツアー』(注1)もありました。 このライヴ・アルバムは初の全国縦断ツアー「BLOW UP! HIDEKI」を収録したものです。


 そして来月(6月24日)発売となる第4弾には、私が「Radio.VANDA」や「音楽の館2019年5月号」でも放送したKing Crimsonの<Epitaph>カヴァーが収録されている、1978年8月の『BIG GAME ’79 HIDEKI』(注2)も含まれてい ます。 
   
BIG GAME’78 後楽園球場 西城秀樹

 今回放送する「音楽の館~Music Note2022年5月号」は、これら一連のニュースに触発され組んだプログラムです。彼の全身全霊をこめたパフォーマンスは、当時の若手ロッカーたちの憧れとなり、現在のシーンにも大きな影響を与えているはずです。今回の特集を通じ、そんなヒデキの魅力を彼を体験されていない世代の皆さんも含め、再認識していただければ幸いに思います。 

 
注1)1975年9月25日発売の第4作ライヴ・アルバム。1975年7月20日に富士山麓の特設ステージを皮切りにスタートした初の全国ツアーを収録。ここに収録されているFrankie Varriの全米1位曲<My Eyes Adored You(瞳の面影)>は、特に彼の選曲センスが光るものだった。 

 注2)1979年10月9日発売の第11作ライヴ・アルバム。1979年8月24日の第2回後楽園球場で開催された『BIG GAME '79 HIDEKI』の模様を収録。当日は、1971年に行われた伝説のGrand FunkRailroadのライヴを彷彿させるほどで、雷鳴が響く中で歌われる<Epitaph>はそのハイライトとなっている。 


2022年5月14日土曜日

デヴィッド・ペイトン&SHEEP:『メロディ・アンド・エコーズ』(Ca Va? Records / Hayabusa Landings / HYCA-8037)

 英国ポップロックの最高峰と称されるパイロット(Pilot)のフロントマンでベーシスト、またアラン・パーソンズ・プロジェクトでも活躍したデヴィッド・ペイトン(David Paton)が、日本のポップ・ユニット、SHEEPとのコラボレーションで完成させたアルバム『メロディ・アンド・エコーズ』を5月18日にリリースする。


 パイロットの熱心なファンには説明不要だが、デヴィッドのプロフィールに触れておくと、1949年10月スコットランドのエジンバラ生まれの彼は、最初に組んだバンド、The Beachcombersのメンバーとして1968年にCBSレコードと契約した。同年バンド名をThe Bootsに変え、シングル「The Animal In Me」と「Keep Your Lovelight Burning」をリリースするも70年に解散する。直後に初期Bay City Rollersに代理メンバーとして加わるが短期間で脱退し、翌年同様に脱退したビリー・ウイリアム・ライオール(キーボーディスト)、更にスチュアート・トッシュ(ドラマー)を加えて73年にパイロットを結成する。
 彼らはEMIレコードと契約し74年に名匠アラン・パーソンズのプロデュースで、ファーストアルバム『From the Album of the Same Name』を10月にリリースする。先行シングルとして「Just a Smile」(同年6月)の次にリリースした「Magic」(同年9月)が全英11位、全米5位を記録し、カナダではゴールドディスク認定されるヒットとなった。
 
左からビリー、スチュアート、
イアン、そしてデヴィッド

 ファーストのレコーディング後にサポート・メンバーだったイアン・ベアンソン(ギタリスト)を正式に加えて4人グループとなり、翌75年の2ndアルバム『Second Flight』の先行シングルとして、デヴィッドが単独でソングライティングした「January」(同年1月)は全英1位となり国内最大のヒットとなった。
 しかし良いことは続かず、バンド結成時からソングライターとして貢献していたビリーが76年に脱退してソロ活動に入ったため、3rdアルバムの『Morin Heights』(76年)では残った3人にサポート・キーボーディストを加え、新たにロイ・トーマス・ベイカーのプロデュースの元でレコーディングしている。翌77年にはスチュアートも脱退し、パイロットはデヴィッドとイアンの2人体勢で、再びアランのプロデュースにより4thアルバム『Two's a Crowd』(77年)をリリースするが同作がラスト・アルバムとなってしまった。デヴィッド、イアン、スチュアートの3名は、彼らの多くの作品を手掛けたアランが75年に結成したアラン・パーソンズ・プロジェクトの準メンバーにもなっていた。76年のファースト・アルバムから全盛期の80年前半までコンスタントに参加していたので、そちらの活動の方がメインとなったことで、パイロットが自然消滅したとも考えられるだろう。 
 
 この様に70年代から80年代を通し、英国ロック界でデヴィッドの果たした貢献は極めて大きい。その後パイロットは2002年と2007年にデヴィッドとイアンを中心にリユニオンし5thアルバム『Blue Yonder』(2002年)と、企画アルバム『A Pilot Project:A Return to The Alan Parsons Project』(2014年)をリリースし、2017年以降はデヴィッドのソロ・プロジェクトとして現在も活動を継続している。 
 
左上から時計回りに1stから4thアルバム 

 本作『メロディ・アンド・エコーズ』は、デヴィッドにとっては、2020年11月に個人レーベル“David Paton Songs”からリリースした『2020』以来となる新作で、彼をリスペクトする日本のポップ・ユニット、SHEEPとのコラボレーション・アルバムとなる。
 SHEEPはポップロック・バンドBeagle Hat時代からデヴィッドと共演していた田中久義(ヴォーカル)と、TOM★CATの後期メンバーで石川優子や五十嵐浩晃等多くの著名シンガーをサポートしていた堀尾忠司(ヴォーカル、ベースetc)が2011年に結成したユニットで、これまでに2枚のアルバムをリリースしている。
 本作でデヴィッドとSHEEPがコラボレーションに至った経緯は、ライナーノーツの解説(インタビュー付/山田順一氏)に詳しく掲載されているので入手して読んで欲しいが、切っ掛けは2015年にまで遡るという。実質的な制作期間は約2年にも及んだということなので、こうして完成されたことは両者にとっても極めて感慨深いであろう。 

 全収録曲11曲の内、デヴィッド単独名義のソングライティングは5曲で、Tanya O'SullivanとAnne Marie Tripoloneの女性作詞家チームとの共作1曲、田中との共作は3曲、堀尾との共作は2曲という構成である。
 演奏はデヴィッドとマルチプレイヤーの堀尾の2人が主に担当し、田中はバッキング・ヴォーカル、1曲のみリユニオン後パイロットのサポート・メンバーであるドラマーであるデイヴ・スチュワート(元キャメル)と、ギタリストのカライス・ブラウンが参加している。堀尾はエンジニアリングとミックスでもクレジットされているので、英国録音のデータを日本側でファイナル・ミックスしたということだろう。
 ジャケット・アートにも触れるが、Led Zeppelinの『Physical Graffiti』(1975年)に通じる英国建築美に興味を惹かれる。グラフィックデザインとアート・ディレクションは、元ザ・ファントムギフトのベーシストで音楽家としても活動しているサリー久保田氏である。

   
DAVID PATON&SHEEP 
『メロディ・アンド・エコーズ』トレーラー 

 ここからは収録曲中筆者が気になった主要曲を解説していこう。
 冒頭の「My Only Love」はポール・マッカートニー系譜の曲調で、デヴィッドのソングライティング・センスが光っており、彼自身の歌声も近年のポールに極めて近い。クリシェを活かしたアコースティックギターのアルペジオとそれに寄り添うエレキギターやアコーディオンのフレーズが印象深い。曲毎の細かいクレジットは無いのだが、アコギとベースはデヴィッドでそれ以外はプログラミングも含め堀尾のプレイだろう。 
 続く「Happy Traveller」は、SHEEPの2ndアルバム『ORDINARY MUSIC』(2015年)に収録された「ご気楽トラベラー」にデヴィッドが英歌詞に変えて、堀尾を中心に本作用にリアレンジしている。同様にSHEEPの既発表曲では1stアルバム『トーキョー・シーペスト・ポップ』(2013年)に収録されている「タイムマシンツアー」が「Time Machine」、「僕の中のメロディ」が「Melody in My Mind」として取り上げられていので聴き比べるのも面白いだろう。またアルバム未収録でライヴ・レパートリーらしき「雨に落ちる」が「Raindrops」として取り上げられている。
 いずれもパイロットや10cc~XTCをこよなく愛する、英国拘り派ロックのフォロワーがクリエイトした曲調とサウンドなのが頷ける。特に「Time Machine」は、うっちゃりの多いクイーン的サウンドの中でデヴィッドが歌っているのが新鮮で興味を惹いた。

 筆者がファースト・インプレッションで最も気に入ったのは、『2020』収録曲を再演した「Midnight Limelight」だ。基本アレンジは同じだが、堀尾のセンスが加わって尺も延長したことで、よりドラマティックな展開で生まれ変わった。パイロット時代の「Girl Next Door」(『From the Album of the Same Name』収録)を彷彿とさせる曲調も非常に好みである。
 9曲目の「Out of the Blue」にはデイヴとカライスが参加し、3ピースの演奏が堪能出来るブルース調のマイナー・キー・ナンバーだ。デイヴの正確なビートとカライスのギターソロなどデヴィッドが認めた2人のプレイは確かである。
 ラストの「Waiting for You」は、アメリカン・ルーツミュージックの匂いがする壮大なバラードで、『The Unforgettable Fire』(84年)や『The Joshua Tree』(87年)期のU2サウンドに通じており、好きにならずにいられない。

 アルバム全体としては、日本のフォロワーとのコラボレーションにより往年のパイロット・ファンにもアピール出来て、英国伝説のロック・ミュージシャンであるデヴィッドの今の姿を現した懐の深いアルバムとなっているので、是非入手して聴いて欲しい。
 なお嬉しいことに、7月20日にはデヴィッドによるパイロットのセルフ・カヴァー・アルバム『The Magic Collection』(HYCA-8038)の国内リリースが決定しているので、パイロット・ファンは忘れずに入手しよう。
『The Magic Collection』

 今回特別にパイロットのファンとして知られる著名ミュージシャンで、現在ニューアルバム制作で多忙な中、TWEEDEESの沖井礼二氏から本作へのコメントをもらったので掲載しておく。

「僕は今とても混乱している。
70年代の英国ポップスの芳醇さそのものがこのアルバムには詰まっているんだけど、当時こんな音像は実際には存在出来なかった筈だ。
テンポ感なども絶妙に2020年代のものだし。シミュレーショニズムでは絶対に到達できない70’s英国ポップスが、堂々たる2022年の仕様で、まさに新譜としての説得力を持って僕の部屋で鳴っている。
一体何が起きているんだ。
こんな奇跡が起きるのが現代だというのなら、僕はこの時代に生まれてよかったと軽々しく断言してしまいそうだ。」
TWEEDEES 沖井礼二

●沖井礼二(おきい れいじ)プロフィール
1997年“Cymbals”を結成。同グループを率い8枚のシングル、5枚のフルアルバム、3枚のミニアルバムのプロデュース、作詞・作曲・編曲、アート・ディレクションを担当。
2003年9月のCymbals解散以降は作・編曲家として多くのCM、ゲーム、アニメーション、テレビ番組等の音楽制作に携わる。
2015年1月、清浦夏実(Vo.)との新バンド”TWEEDEES” を結成して活動中。5枚のシングル、(配信、アナログ含め)、3枚のフルアルバム、2枚のミニアルバム(配信含め)のプロデュース、作詞・作曲・編曲、アート・ディレクションを担当している。
最新作は小学館「ゲッサン」連載中の『国境のエミーリャ』(作・池田邦彦)のコンセプトミニアルバムで、2021年12月に配信リリースしている。
TWEEDEESオフィシャルサイト:http://www.tweedees.tokyo/

(テキスト:ウチタカヒデ

 

2022年5月7日土曜日

Holly Golightly について

 イギリスのケント州メドウェイ・タウンズで80年代頃に発生したガレージシーンの重要人物にBilly Childishという人がいる。ガレージ好きの多くは彼の名前を知っていると思う。私にとってもBilly Childishはガレージに興味を持つきっかけになった人だった。彼の結成したいくつかのバンドのひとつにThee Headcoatsがある。そのThee Headcoatsがバックバンドになり、メンバーのガールフレンド等4人の女性が歌っていたバンドがThee Headcoateesとされる。

 Thee Headcoateesの中で私が特に好きだったのがHolly Golightlyだった。Truman Capoteの「ティファニーで朝食を」の主人公と同名なのは、彼女の母親が妊娠中にこの小説を読んでいたからだそうだ。


 Holly GolightlyはThee Headcoateesの活動中、1995年にソロ活動も開始。数多くのシングルとアルバムも13枚リリースしていて、Billy ChildishやDan Melchiorとコラボレーションでも制作している。もともと彼女は古い音楽のコレクターらしいのだけれど、Thee Headcoateesのようなガレージパンク以外の要素もソロではより濃く表れ、彼女の音楽性を特徴づけている。自身のオリジナルの他、Willie Dixon、Ike Turner、Lee Hazlewood、Bill Wither、Sam & Daveなど、カバーも多くある。

(You Ain’t) No Big Thing  / Holly Golightly

 2000年代半ばには長年のバンドメイトLawyer Daveとのデュオ、Holly Golightly & the Brokeoffsを結成。2018年までに10枚のアルバムがリリースされている。Holly Golightly & the Brokeoffsは特に商業的なものとの縁遠さを感じるけれど、彼らの生活に根ざした音楽なのかもしれない。2人は2008年にジョージア州アセンズ近郊の田舎に家を購入して引っ越している。2012年リリースのアルバム 『Sunday Run Me Over』 は完全にその自宅で録音されたそうだ。

Goddamn Holy Roll / Holly Golightly & The Brokeoffs

これは日曜の朝にベッドから出て教会に行きたくない、というような曲らしい。

 Holly Golightlyのその他の活動として、The White Stripesの4thアルバム 『Elephant』 への参加や、Rocket From The Crypt、The Greenhornesとのコラボレーションなどもある。The Greenhornesとの「There Is An End」という曲は、2005年のJim Jarmusch監督の映画「Broken Flowers」の主題歌だ。私は以前からJim Jarmuschの創り出す世界観が好きだったのだけれど、音楽に限らず、一見関係がなさそうでも好きだと感じたものを辿ってみると、不思議と繋がりを発見することがあるもので面白いなと思う。

               There Is An End / Holly Golightly & The Greenhornes

【文:西岡利恵

参考・参照サイト: