2015年1月17日土曜日

☆『東映名作アニメ絵本・全5巻セット』(復刊ドットコム)遂に完成!長く長くかかった経緯をちょっと紹介。The Long And Winding Road...



待ちに待った『東映名作アニメ絵本・全5巻セット』の見本が復刊ドットコムから届いていた。素晴らしい仕上がりに感激!日本の印刷技術はかくも凄いとは...。私の持っていた原本は古い本で状態の悪いものもあったのだが、紙についた汚れも全て消え、色の発色は当時のまま、そして一番肝心な輪郭線や文字が一切ボケることがなくそのままなのだ。つまり一緒に戻ってきた原本が、「新品になった」のである。原版が残っていないのにこれは本当に凄い事。「一番いい仕事をするから費用がかかってもここに出す」といっていた図書印刷の仕事は素晴らしい。値段は高くなってしまったが、そこはこの仕上がりで納得していただきたいところ。このセットを作る過程は本当に大変だった。宮崎駿、森康二、大塚康生、小田部羊一、高畑勲という日本のアニメーションの中核が、東映動画で長編として作り出した4大傑作アニメの貴重な当時のセル画で構成された絵本があるがこれを復刻しないかという提案からスタート。もう1編入れて5冊セットにしたいというので、「空飛ぶゆうれい船」をプラスしてラインナップが決まる。私は付加価値を付けないというポリシーがあるので、1981年から1982年にかけて演出家の高畑さんを除く4人にインタビューをしてそれぞれ「漫画の手帖」という当時編集人をしていたミニコミで特集号を出していたので、そのインタビュー全文を掲載したい。そしてそこには多くのマンガ家の方にマンガやカットを描いていただいたのでそれも載せたい、そして「VANDA」ではこの5人が生み出した後のTVアニメシリーズなども含め特集をしているので、プラス1冊のヴォリュームになる副読本の提案を出していた。

東映アニメーションからは2014年に58年の歴史を持つ東映動画スタジオを取り壊してリニューアルするので何か記念の本を...という話も来ていたとのこと、これは渡りに船と、まずは東映アニメーションのバックアップを先に取り付けようと動くが、そこがすんなりとはいかない。承認だけでも時間がかかったのに、東映動画以降の作品(「旧ルパン三世」や「未来少年コナン」「ルパン三世カリオストロの城」「パンダコパンダ」「アルプスの少女ハイジ」「母をたずねて三千里」など)は全て外して欲しいと言う。ではこの副読本は切り離して別売本として出すことにして、何か別の小冊子を付ける案で東映アニメーションの関門は超えた。


次は、権利を持っている小学館だ。小学館は、自らも多くの復刻本を出す部署があり、いきなり横から東映アニメーションのバックアップが付いた自社製品の復刻が他社からライセンスで来たのだ。これはすんなりいく訳がない。長い時間がかかり、しぶしぶ「小学館の絵文庫」というロゴや小学館のマークなど、小学館の出版物であることを全て消すことを条件に承認が下りた。このレイアウトの変更はデザイナーのセンスが非常によく、全体のイメージをまったく変えないという見事な腕前を見せてくれた。そして絵本なので文を書いた作家への許諾。最初はすんなりすすんだが、故・井上ひさしのライセンスの返事が相当に遅れたものの、ようやく承認が揃う。

さて主目的の副読本だ。復刊ドットコムの条件は、宮崎駿の承認を取る事。これは確かに最大の売りなので、当然だろう。そしてジブリへ打診すると、「まだ早い」でおしまい。ジブリは宮崎駿のインタビューを全てチェックしていて、「漫画の手帖」のインタビューも知っているらしい。宮崎駿は始めて演出のクレジットをされた「未来少年コナン」を自分の原点としてその後のエッセイやインタビューを集めたものを2冊出しているが、その前の本当の出発点であるこれらの東映動画長編アニメから日本アニメーションの世界名作アニメまでの作品群のものは出していないのだ。推測だが、このために「まだ早い」ということなのだろう。ここで副読本の話は終わった。全体のレイアウトやカットの全てまで考えてあったが、全てゴミ箱に。

しかし気を落としてばかりいられない。内容を決めていなかった小冊子を作らないといけない。まずこの小冊子に使えるものとして表紙は、森康二さんにインタビューを録ったときに描いていただいた「太陽の王子ホルスの大冒険」のヒロイン・ヒルダ。その「漫画の手帖」でふくやまけいこさんに描いていただいた森アニメキャラ満載の傑作「ある夜のできごと」もすぐに決定。このマンガは森さんが東映動画入社前の日動時代に作った短編アニメ「黒いきこりと白いきこり」がベースになっていて、コアなアニメファンなら涙ものの森キャラが総登場しているのだ。もちろんこの絵本の森キャラもみな入っていてこれほどふさわしいマンガはない。そして「VANDA」のホルス特集用に描いていただいた和田慎二さんの「ヒルダのこと」も決定。森さんと和田さんは残念ながら故人だったのでご遺族から許諾を得る。そして大塚康生さんの東映動画スタジオ時代のインタビューが決まるが、私は外に出かけられないので、こちらで聞いてもらいたい案を渡しておいてインタビューを復刊ドットコムの方で録っていただいた。残りは作品評なのでそれは私が担当だが、ただの作品評では何人もの方が書いているので、まだビデオもアニメ雑誌もない時代、宮崎駿らの名前もどこにも活字に出てこない時代からこれらの作品を追いかけてきた自分達だからこそ書ける、ある意味激変の時代の変遷の中に作品評を入れることにした。そして森さんは「太陽の王子ホルスの大冒険」、大塚さんは「わんぱく王子の大蛇退治」、宮崎さんは「どうぶつ宝島」、小田部さんは当時の東映動画スタジオの雰囲気を語っていた部分が「漫画の手帖」のインタビューの中にあったので、その部分だけ切り抜いて作品評に織り込こんでおいたので、溜飲が下りた。持ち前の性格で資料性も持たせたいので、相当な長文になってしまい読みづらくなってしまったが、お許しいただきたい。用意しておいて図版も1/3となり、当時のレコードと映画パンフレットだけを小さく並べるので精一杯。そうして長い時間をかけてようやくこの小冊子付の絵本セットが届き、個人的にはちょっと感無量。こういう仕事をしている皆さんには当たり前のことかもしれないが、今までやってきた音楽書とは違って、権利が身近でかつ複雑に絡んで、そして自分は動けない体になってしまったので連絡待ちの世界の連続。復刊ドットコムの澤田さんとの共同作業は、個人的にはこの前の「ぬいぐるみ殺人事件」をはるかに凌ぐ難作業だった。(「ぬいぐるみ...」は25人もの作者の許諾を取った澤田さんの努力賞)いい経験になりました。(佐野邦彦)












2015年1月5日月曜日

☆『宇野誠一郎ソングブックⅠ』(TV AGE)

TV AGEがリリースした『宇野誠一郎ソングブック』のCDは、宇野誠一郎の偉大なワークスを、新録音で振り返っていくシリーズの第1弾だ。宇野研究の第一人者である濱田高志が企画・プロデュースし、ピアニストの島健をミュージカル・スーパーバイザーに迎え、まず宇野の代表曲から16曲をチョイスした。宇野の追悼ライブの行ったピアニストの江草啓太と、向島ゆり子、橋本歩、伊藤ハルトシ、田ノ岡三郎、熊谷太輔という腕利きの面々による「江草啓太と彼のグループ」がインストで10曲を担当、他は彼らのバッキングで「ねえ!ムーミン」で藤田淑子、「アンデルセン物語」の「キャンティのうた」を増山江威子というオリジナルの歌手が変わらぬ素晴らしい歌声を披露してくれそれだけでも涙ものなのに、Smooth Aceの重住ひろこが「長靴をはいた猫」の名バラード「幸せはどこに」と「一休さん」の「ははうえさま」を歌い、こまつ座でも活躍したミュージカル女優の島田歌穂が「まんがこども文庫」の「よんでいる」とこまつ座の「わたしたちのこころはあなのあいたいれもの」でその素晴らしい歌声を聴かせてくれた。個人的に気に入っているのは江草啓太たちの手によるインストで、特に「ふしぎなメルモ」の主題歌と、ソフトロックの隠れた名曲と評価が高かったエンディングテーマの「幸せをはこぶメルモ」、美しいワルツの「エッちゃん」は、ジャズやクラシカルなタッチのアレンジで聴くとその新たな魅力にうっとりと聴き惚れてしまった。その他、斬新な「ネコジャラ市の11人」をはじめ、「山ねずみロッキーチャック」の「緑の陽だまり」や「長靴をはいた猫」「一休さん」のテーマ、オープニング用の「チロリン村とくるみの木」、そして未音盤化の曲と思われる「ヨットのうた」と「よだかの星」と、軽快であったり重厚であったりと変幻のアレンジでたっぷりと楽しませてくれる。あらためて宇野誠一郎の偉大さを再確認できた。(佐野邦彦)



2015年1月4日日曜日

☆私家版『宇野誠一郎の世界』遂に発売(濱田高志編)



濱田高志さんが私家版として出した『宇野誠一郎の世界』は、同じ出版に携わってきた人間として、まさに理想、究極の1冊だった。日本の作曲家という枠に留まらず、日本の音楽書としても、今まで読んだ中で最高の本であることは間違いない。これは断言しておく。宇野誠一郎が作曲した曲は「ひょっこりひょうたん島「ムーミン」「長靴をはいた猫」「悟空の大冒険」「W3」「ふしぎなメルモ」「アンデルセン物語」「チロリン村とくるみの木」「ネコジャラ市の11人」など枚挙にいとまがなく、まさに名曲の宝庫。1955年(本格的に開始した年)から無くなる2011年まで56年間に膨大な曲を作ってこられた。濱田さんと出会ったころ、日本の三大作曲家という話になり、「富田勲」「山下毅雄」そして「宇野誠一郎」と見事に一致して、変な言い方になるが、お互いに「さすがですね」なんて褒め合った事を思い出す。この3人の中でも濱田さんが最も交流が深かったのは宇野さんだ。濱田さんと宇野さんは40数歳も年が違っているが、孫ほども年が離れているにも関わらず、15年間も交流を続け、会えば昼も夜もご馳走になるほど話が弾み、自作を振り返ることをほとんどしてこなかった宇野さんの貴重な証言を丹念に集め、こうやって万人が読めるように残したのは快挙。上から目線の表現で申し訳ないが、褒めて褒めて褒めちぎりたい。音楽書を作る際に読者が最も求めるのは1番目にミュージシャン本人の回想と証言(自書含む)、2番目に一緒に仕事をしてきたスタッフの思い出、3

番目に詳細なディスコグラフィーだ。

本書は448P中、濱田さんらによる宇野さんへのインタビューが135P、宇野さんが井上ひさしのこまつ座のパンフレットに書き下したエッセイが114Pと、宇野誠一郎本人が語ったものがなんと249Pと全体の56%を占める。そして宇野誠一郎に捧げる文章は、NHKでの大ヒット人形劇「ひょっこりひょうたん島」「ネコジャラ市の11人」をはじめこまつ座の作品も常に宇野に曲を依頼しずっと宇野をリスペクトしていた井上ひさしからスタート、「チロリン村」での黒柳徹子、「ひょっこりひょうたん島」での中山千夏など超豪華な面々による寄稿が73P、そして濱田さんらがスタッフに対してインタビューしたものが44Pと計117P、リストはTV、映画、そしてラジオの作品を曲名ではなくリストアップしただけで25Pもあり、後に楽曲リストは補遺編として別途出版する予定だという。私が最も音楽書として最も重要だというページが計391Pと約9割を占める。こんな本が今まであっただろうか?宇野作品に対する一般ライターの思い出は31Pのみで短くまとめている点にも非常に好感が持てる。というのも最近の音楽出版社が出すムック本は、読みあきたアルバム解説と、ファンだというミュージシャンのインタビューと音楽評論家の文で本の大半を占めるイージーな作りをしていて、金返せ!いう本ばかり並んでいたからだ。完璧なディスコグラフィーと(本を出すなら当たり前。作れないなら出すなと言いたい)徹底的な音源比較さえあれば、十分に満足できるのだが、それすら適当な特集本も多いのだ。この濱田さんの作った「宇野誠一郎の世界」の爪の垢でも煎じて飲ましてあげたい。発行所は濱田さんが編集人で私も寄稿している「月刊てりとりい」とあるが、実際は私家本。限定1000部でイニシャルが入っている。少々高額だが、この本ならお釣りはいらねえって思えるだろう。なお、宇野誠一郎の楽曲はNHKの人形劇「チロリン村」「ひょうたん島」「ネコジャラ市」だけでも膨大な曲を書いているのに、当時NHK(他の局でもそうだったが)は2インチのビデオテープが超高価かつ大型なものだったため上書きでほとんど消してしまっていた。この3つの作品で2704話もあるのに、現存しているのはたったの「チロリン村」で4話、「ひょうたん島」で8話(カラー放送だがカラーで残ってるのは2話)のみ。「ネコジャラ市」はただの一話も残っていない。だからTVの仕事が多い宇野の素晴らしい楽曲の多くは消えて無くなってしまっているのだから惜しいという言葉では片づけられない。そして宇野は、過去の作品の執着がなく、当時の「ひょうたん島」などの楽譜はみな捨ててしまったというのだから驚かされた。しかしこの話を読んで思い出されたのは、日本アニメーション界の至宝、森康二だ。以前、森さんにインタビューした際に、自分の描いた設定や原画はほとんど持っていないと語っていた。理由を尋ねると「もっと上手く描けると思っていたから」だと言う。宇野の場合、「新しい価値観を生み出すため、過去のものに頼らないようにした」ので、その思いは違うが、過去には執着しないプロフェッショナルな姿勢は共通する。本書で私が興味を強く持ったのは、宇野は他の作曲家との付き合いはほとんどなかったが、早稲田のエースである宇野と、慶応のエースである富田は仲が良く、一緒に「シェルブールの雨傘」を見に行き、富田は自分がやりたい音楽はこれなんだと悔しがっていたというエピソードや、特に驚かされたのは宇野が富田より早くシンセサイザーを入手していて使っていて、富田が宇野にシンセサイザーを見て何?と尋ねていたこと。当時のシンセサイザーの操作性の大変さに宇野は諦め、宇野は富田には堪え性があったと語る。また宇野はメロディには全く関心がなく、リズムの探求のために音楽家になったと言い切る。素晴らしいメロディを書ける人なのに、まずリズムありきという姿勢に、ミュージカルを書かせたら右に出るものがいない宇野の原点を見た気がした。プロの歌手の技術力を嫌い、プロデューサーが連れてきた小室等が歌う「スナフキンのうた」を使わず、本物に対する価値が見いだせないとあえて上手いとはいえない西本裕行の歌を使ったことなど興味深い話が満載だ。この本は絶対に購入すべきだが、amazonなどでは手に入らないので濱田さんからの購入方法に添って入手して欲しい。(佐野邦彦)

[購入方法]

購入を希望される方は、「てりとりぃ」編集部 territory.tvage@gmail.com まで、
件名に「宇野誠一郎の世界購入希望」と表記の上メールにてお知らせ下さい。
到着後3日以内にお支払い方法を記載したメールを送ります。
*私家版につき、本書の書店販売は行ないません。