◎フェイザーをかました矢島賢(「グッド・ラック」でもプレイした名手)によるイントロのギターリフが象徴するクールなAOR歌謡で、数多ある筒美作品の中でも極めて完成度が高い。美乃家セントラル・ステイションは参加せず、手練なスタジオ・ミュージシャン達の演奏によって、S・ガッドなどスタッフがバッキングしたC・サイモンの「You Belong To Me」(78年)を想起させるNY派系の緊張感あるサウンドに仕上がっている。この効果もあり阿久悠が描く大人達の不毛の恋愛模様が、大橋の圧倒的な歌唱力でよりドラマチックに演出された。作詞:阿久悠 / 編曲:筒美京平
●スカーレットの毛布 / 太田裕美(『海が泣いている』/ 1978年)
◎10年程前SNSで音楽家の片寄明人さんに教えてもらった筒美=松本の黄金コンビによるLA録音。一聴してD・フォスターの影響下にある萩田光雄のアレンジで、ドラムのエド・グリーンはC・B・セイガーの「It's The Falling In Love」(78年)と同じかと納得した。LA産AORサウンドをバックに、舌足らずでコケティッシュな太田に「僕の辞書には愛がない」と歌わせる対話形式の松本イズムの歌詞に京平メロディが乗れば何も言うことはない。作詞:松本隆 / 編曲:萩田光雄
アルビーシンガーは96年から活動していたThe Time Capsulesから改名して、現在は小野によるソロ・プロジェクトである。北海道北見市にてソングライティングとワンマン・レコーディングでの活動が主であり、これまでに2枚のシングルとスプリット・シングル『Let's Split!』をリリースしている。
タイトル曲の「Count On Me」は小野の書き下ろしの新曲で、木村の美声が聴けるギターポップとソフトロックの魅力を融合させた良質なナンバーである。バックビートを強調させたシャッフルのリズムやコーラス・アレンジには、élレコードのルイ・フィリップからWondermintsまでを想起させて、嘗てのジェリー・ロス~ジョー・レンゼッティがクリエイトしていたサウンドの匂いもする。とにかくWebVANDA読者には特にお勧めしたいとっておきの曲であり、筆者も年間ベストソングの候補にしているのだ。
カップリングのB面1曲目「Look For The Rainbow」は一転して、ベン・ワット~Everything But The Girlに通じる小野のオリジナルである。80年初期ネオ・アコースティック・ムーヴメントの中でもWeekendの『La Varieté』(82年)の流れにあるボサノヴァやラテンのエッセンスを取り入れたそのクールなサウンドは、2000年代以降も色褪せることはない。
続く2曲目の「Out On The Rebound From Love」はギャングウェイの85年作のシングル曲カバーで、本作でのアレンジはオリジナル(88年にエレポップ・ヴァージョンもリリースしている)と同様にドラムレスの編成で独特の浮遊感を醸し出している。この2曲でも木村の美しい歌声に絡む小野のコーラスの絶妙で聴き応えがあり、完成度が高い。
とにかく収録曲3曲共にギターポップ・ファンには溜まらないセレクションになっているのだ。
【ディオゲネス・クラブがRec中に聴いていたプレイリスト】
●Ridin' In My Car / NRBQ (『All Hopped Up』/ 1977年)
●Take It Over In The Morning / Edward, Harding And George
(『Half & Half』/ 1972年)
●We'll Work It Out / Gary Lewis & The Playboys
(『Everybody Loves A Clown』/ 1965年)
●Life Must Go On / Wall Of Orchids(7"single / 1993年)
●All Gone Away / The Style Council(『Our Favourite Shop』/ 1985年)
●Like Nobody Do / Louis Philippe
(『Passport To The Pogie Mountains』/ 1987年)
●Ett & Noll / Bo Kaspers Orkester(『Amerika』/ 1996年)
●Lovely Day / Bill Withers(『Menagerie』/ 1977年)
●Blanket Of Calm / Healing Potpourri(『Blanket Of Calm』/ 2020年)
そんな二組がこのサントラに携わる切っ掛けは、ドラマの音楽プロデューサーから一十三に声が掛かり、彼女が瀧口を誘ったという。またアートワークには、大滝詠一『A LONG VACATION』などで高名なイラストレーター界の巨匠、永井博氏の描き下ろしイラストをジャケットにするなど、今回の制作チームは鉄壁な布陣となっている。
更にこのサントラのオープニング・テーマ曲と挿入歌には、キリンジからソロのシンガー・ソングライターに転身し、THE LAKE MATTHEWSの活動でも知られる、堀込泰行をフィーチャリング・ボーカルに迎えているなど話題にも事欠かないのだ。
バンドとしての流線形の編成は、瀧口本人はソリーナ(アープ製ストリングス・シンセサイザー)をプレイし、ギタリストは名手の山之内俊夫(ROUND TABLEなど)、ベーシストは弊サイトベストプレイ・シリーズでもお馴染みの松木俊郎、キーボーディストの平畑徹也、ドラマーとしてTHE LAKE MATTHEWSの他多くのセッションで知られる北山ゆう子という『ナチュラル・ウーマン』以降のライヴではお馴染みのメンバーだ。
「嘘つき手品feat. 堀込泰行」は瀧口のソングライティングで、一十三と堀込のデュエットというレアな組み合わせのAORサウンドで、ネッド・ドヒニーの「A Love of Your Own」(『Hard Candy』収録/76年)にも通じるムードと二人の声のブレンドが素晴らしい。「曇り時々雨」は平畑作のピアノ・ソロのインスト・バラードで、彼が本作中提供している2曲の内の1曲で歌物に発展しても良さそうな美しい曲である。
タイトル曲の「The First One」は、ジーン・ペイジ・スタイルのストリングス・アレンジにヴィブラフォンのオブリが絡むメロウなサウンドに、モジュレーション・ディレイをかました甘い女性コーラスがMarcusのヴォーカルに絡んでいくというものだ。ファースト・シングルの「American High School Fashion」のスタイルを踏襲したロマンティシズムは、プリファブ・スプラウトの『Jordan: The Comeback』(90年)や『Andromeda Heights』を愛する音楽ファンには大いに勧められる。
カップリング1曲目の「Crying in Your Sports Car」は、一転してホーンセクションが入ったリズミックなギター・ポップにシフトしている。凝った転調の仕方はプリファブの「I Never Play Basketball Now」(『Swoon』収録/84年)にも通じる、所謂スティーリー・ダン・シンドロームの流れを汲んでいるソングライティング・センスと言える。
同じく2曲目の「If I Had a Visa (Anguk)」は、女性コーラスのYunmi Jungがリード・ヴォーカルを取っており、空間系エフェクターでトリートメントしたサウンドは既出2曲とも異なり新鮮である。この曲の様な16ビートのダンスビートになるとドラマーとベーシストの演奏の荒さが気になるが、ヘタウマ的要素もギター・ポップの魅力だろう。
【フォリン・コレスポンデントのレコーディング中のプレイリスト】
●Les cactus / Jacques Dutronc (7”『Les Cactus』/ 1966)
●Canto de Ossanha (Let Go) / Astrud Gilberto
(『September 17, 1969』/ 1970)
◎Selected by Chris Haggerty:lead guitar
●Where do the Girls of Summer Go? / Mark Eric
(『A Midsummer's Day Dream』/ 1969年)
●Caroline, No / The Beach Boys (『Pet Sounds』/ 1966年)
◎Selected by Marcus Campbell:vocals, rhythm guitar
●The Meaning of Love / Karin Krog (『We Could Be Flying』/ 1975年)
●Hair / John Sangster (『Ahead of Hair』/ 1969年)
◎Selected by Bruce McIntryre:percussion
●Stairway to the Stars / Bill Evans Trio (『Moon Beams』/ 1962年)
●Alison Limerick - Where Love Lives (『Where Love Lives』/ 1990年)
◎Selected by Kepler Ryan:keys
●We Will Turn You On / Joey Negro Presents the Sunburst Band
(『Until The End of Time』/ 2004年)
●These Words / The Lemon Twigs (『Do Hollywood』/ 2016年)