2013年8月25日日曜日

Frankie Valli:『Closeup』『Our Day Will Come』『Valli』『Lady Puts The Right Out』(ワーナーミュージック・ジャパン/WPCR-15057,15058,15059,15060)


 フランキー・ヴァリの70年代のソロ・アルバム、4枚が一挙にデジタル・リマスター・リイシューされた。『Frankie Valli Solo』(67年)に続く快挙であるが、同じくワーナーミュージック・ジャパンから今回は【新・名盤探検隊】シリーズで、またもロー・プライスであるのが嬉しい。
 今回リイシューされたのはヴァリのソロ・アルバムの最高傑作との誉れ高い『Closeup』(75年)をはじめ、『Our Day Will Come』(75年)、『Valli』(76年)、『Lady Puts The Right Out』(77年)と、一時期は中古市場で高値になっていたアルバムばかりなので喜々として紹介したい。

 前回の『Frankie Valli Solo』のレビューに続き、今回は70年代中期ヴァリがフィリップス~モータウンを経てプライベイト・ストック・レコード移籍後にリリースした代表的な4作品である。
 ファンならご存じの通り、ヴァリは『Frankie Valli Solo』の後『Timeless』(68年)、フォー・シージンズ作品とソロ名義作品を半々に収録した『Half & Half』(69年)を古巣のフィリップスに残し、72年にグループと共にソロとしてモータウンに移籍する。モータウンではソロ作品2曲を収録したフォー・シージンズ名義の『Chameleon』(72年)をリリースするが不発に終わり、短期とはいえ彼らの不遇時代と呼ばれ、後に『Inside You』(75年)という変則的な編集盤もリリースされている。
 74年にプライベイト・ストック・レコード移籍後シングル「My Eyes Adored You」をリリースし、見事全米1位の大ヒットとなる。ソングライティングを盟友ボブ・クリューとケニー・ノーラン、アレンジをチャーリー・カレロが手掛けたこのバラードは正に完璧な仕上がりで、フランキー・ヴァリの第二期黄金期に相応しい曲となった。



 アルバム『Closeup』は全編に渡ってこの「My Eyes Adored You」に象徴される落ち着いた大人のためのロックというサウンドで、収録曲8曲を4曲毎に分けクリューのプロデュースによるニューヨーク録音、フォー・シージンズ同僚のボブ・ゴーディオのプロデュースによるハリウッド録音になっている。
 この変則的なレコーディング・プロダクションの経緯は、クリューとゴーディオの確執だと言われているが、アルバムのカラーを決定づけているのはカレロによるスコアであり、リック・マロッタとゴードン・エドワーズ、ジム・ケルトナーにチャック・レイニー等々東西のファースト・コール・ミュージシャンが多く参加しているのもこのアルバムの完成度を高めている理由だろう。
 また本作では10分半の大作「Swearin' To God」も忘れてはいけない。ジェリー・フリードマンのギターとパティ・オースティンのバックアップ・ヴォーカルをフューチャーし、カレロのオーケストレーションは同時期彼が手掛けていた『Dr Buzzards Original Savannah Band』(76年)のそれを彷彿させる。この曲はシングル・カットされて全米6位のヒットとなった。



 同じく75年の『Our Day Will Come』は、これまでのフォー・シージンズ関係者であるクリューとゴーディオにカレロすら関わっていないアルバムで、プロデュースを元トーケンズのハンク・メドレスとアレンジャーのデイヴ・アペルが手掛けている。
 タイトル曲はルビー&ロマンティックスのヒット曲として知られるが、ここでのアレンジはフィリー・ソウルのそれであり、アルバム全体的に前作よりソウル・ミュージックのエッセンスがやや濃くなっているのが特徴だろう。この曲ではアラン・シュワルツバーグのドラミングとボブ・バビットのベース・ラインのコンビネーションが素晴らしい。
 「How'd I Know That Love Would Slip Away」や「Heart Be Still」に至っては完全にブルーアイド・ソウル~AORのサウンドであり、当時のボズ・スキャッグスやネッド・ドヒニー等を彷彿させるのでそちらの愛好家にもお勧めである。レフト・バンクの66年のヒットである「Walk Away Renee」も「Our Day Will Come」同様に完全にモデル・チェンジしたアレンジで意表を突くがやや消化不良である。

 続く76年の『Valli』ではボブ・ゴーディオが復帰して単独でプロデュースしており、当時のフォー・シージンズのメンバー全員もアレンジャーやミュージシャンとして参加している。
 前作で醸し出していたブルーアイド・ソウル感はここでも引きずっており、ボズの「We're All Alone」をカバーしているが、リズム・セクションを身内で固めてしまったのが仇となり、しなやかでバネのある演奏はこのアルバムでは聴けない。そんな中で筆者的には、ジーン・ペイジがアレンジし、レイ・パーカーJrとリー・リトナーがギターで参加した2曲の内「Where Were You (When I Needed You)」は評価したい。前出の二人に加え右チャンネルにはデヴィッド・T・ウォーカーらしきギターも聴けるので、アレンジの構築という意味では考え抜かれているのだろう。

 そして77年の『Lady Puts The Right Out』であるが、『Closeup』と共に70年代のフランキー・ヴァリを語る上で欠かせないアルバムである。実質的なプロデュースとアレンジをチャーリー・カレロに委ねたことで全編に渡って統一感があり、AORの本来の意味であるアルバム・オリエンテッド・ロックという名に相応しい名作と言えるだろう。
 取り上げられた楽曲もフォー・シージンズやヴァリのソロ作への実績も多いサンディ・リンツァー&デニー・ランドルに加え、エリック・カルメンやポール・アンカ、アルバート・ハモンド&キャロル・ベイヤー・セイガーに偉大なるバリー・マン&シンシア・ワイル等々の作品と正攻法で挑んでいる。これらは既出曲のカバーもあるのだが、ヴァリのヴォーカルの存在感とそれを引き立てるカレロによる緻密なアレンジの構築力で原曲をもかすませる程だ。
 参加ミュージシャンにはスタッフのゴードン・エドワーズ、スティーヴ・ガッド、リチャード・ティーに、ニューヨークではファースト・コールのギタリストであるデヴィッド・スピノザやジョン・トロペイ、またヴァリのセッションでは『Our Day Will Come』にも参加していた名ドラマーのアラン・シュワルツバーグ等々と精鋭が勢揃いしている。故に悪い訳がないのだ。
 冒頭のエリック・カルメン作「I Need You」は、後にカルメンがプロデュースしたユークリッド・ビーチ・バンドも取り上げるラズベリーズ時代の未発表のバラード曲で、ここでは壮大なオーケストレーションとゴスペル・フィールのコーラスに、リチャード・ティーのピアノが美しく響く。
 熱心な音楽ファンはご存じの通り、カレロのワークスには山下達郎の『CIRCUS TOWN』(76年A面のみ)が知られるが、そのサウンドを彷彿させるのが「Native New Yorker」であり、本作のベスト・トラックと言えるだろう。この曲は作者のサンディ・リンツァー&デニー・ランドルが同年に手掛けたオデッセイがカレロのアレンジで取り上げているので、聴き比べするのも面白いだろう。
 ここではガッド&エドワーズと思しきリズム隊の完璧なコンビネーションに、ギタリストは4人程参加しているだろうか、ヴィニー・ベルやトロペイらしきフレーズが聴ける。また達郎の「WINDY LADY」で素晴らしいアルト・ソロを聴かせていたマンハッタン・ジャズ・クインテットのジョージ・ヤングのプレイもフューチャーしている。




 今回のリイシューは1枚1200円と良心的価格なのでポップス・ファンとしては全て揃えるのも一興であるが、強いて言えば『Closeup』と『Lady Puts The Right Out』だけは入手して聴いて欲しい。特に前者は60年代のアメリカン・ポップスと70年代のブルーアイド・ソウル~AORのミッシングリンクを垣間見られる重要作であるからだ。
(テキスト:ウチタカヒデ


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