2025年11月16日日曜日

The Bookmarcs:『BLOOM』


"ブクマ・サウンドのパレットに新色が加わった。
この第二章を心より歓迎したい。"

 The Bookmarcs(ブックマークス)が、前作『BOOKMARC SEASON』から4年振りとなる新作で、フォース・アルバムの『BLOOM』(FLY HIGH RECORDS/VSCF-1781)を11月26日にリリースする。

 作編曲家やプロデューサー、ギタリストとして活動する洞澤徹と、the Sweet Onions(スウィート・オニオンズ,以下オニオンズ)やソロ・アーティストとして活動する近藤健太郎が、2011年にタッグを組んだこの男性2人のユニットThe Bookmarcs(以下ブクマ)は、これまでに3枚のアルバムをリリースしており、本作は前作『BOOKMARC SEASON』(VSCF-1775/FRCD-070)から4年のインターバルで、同アルバムとセカンドの『BOOKMARC MELODY』(VSCF-1769/FRCD-061)に比べてややスロー・ぺースとなった。
 それというのもこの間にブクマで作編曲とミュージシャンのアサインなどサウンド・プロデュースを担当する洞澤は、女性シンガー・ソングライター(以下SSW)青野りえのシングル「Never Can Say Goodbye(2021年10月)とサード・アルバム『TOKYO magic』(2023年11月)の作編曲とプロデュース、それと同様に男性SSWのKARIMAのファースト・アルバム『Nostalgic hour』(2022年10月)の半数の曲とその後複数の配信シングルのサウンド・プロデュースを手掛けていた。更にYouTube でリラクゼーション・ミュージック・チャンネル「natural sonic」(登録者数9 万以上)を主宰して、アコースティックギターやウクレレの演奏を発表し多忙していた。
 作詞とボーカル、コーラス(アレンジ含む)を担当する近藤も前出のKARIMA『Nostalgic hour』の共同プロデュース、オニオンズの高口大輔や女性SSW小林しのとのユニットSnow Sheepの23年越しのファースト・アルバム『WHITE ALBUM』(2023年3月)、そしてソロとしての記念すべきファースト・アルバム『Strange Village』を今年3月にリリースしたばかりと、別プロジェクトの活動が目まぐるしく充実していたのが、ブクマの制作ペースに影響していたのは言うまでもない。
 またラジオ・パーソナリティとしても、横浜市のコミュニティ放送局マリンFMで彼らの冠番組『The Bookmarcs Radio Marine Café』、静岡県のFMラジオ局 K-MIX(静岡エフエム放送)の『ようこそ夢街名曲堂へ!』の準レギュラーをそれぞれ務めるなど、その活動は多岐に渡っている。

The Bookmarcs
左から洞澤徹、近藤健太郎

 本作は2022年から今年2025年8月までに配信でリリースしていたシングル4曲と、新録の7曲からなら合計11曲を収録している。ゲスト・ミュージシャンとして、1995年Sony Recordsからメジャー・デビューしたSwinging Popsicle(スウィンギング・ポプシクル)の美音子 Fujishimaがフューチャーリング・ボーカルで参加しているのをはじめ、コーラスで和製オーガニック・ソウル女性シンガーのAloha Ichimura、これまでのブクマのレコーディングではお馴染みのドラマーの足立浩、べーシストの北村規夫、ジャズ・ピアニストの佐藤真也といった手練なミュージシャン達も参加してバックアップしているのが頼もしい。 
 マスタリングは今月1日に紹介したばかりの小林しの『Winter Letters』同様に、microstarの佐藤清喜が手掛け、ジャケットやインナースリーヴのデザイン、アートワークは近藤の『Strange Village』で共同プロデュースを務めた及川雅仁、フォトグラフは尾崎康元がそれぞれ担当している。


The Bookmarcs 4th Album『BLOOM』Trailer

 ここでは筆者による収録曲の詳細解説と、洞澤と近藤が本作の曲作りやレコーディング中、イメージ作りで聴いていたプレイリストをお送りするので聴きながら読んで欲しい。 
 
 冒頭の「青いループ」は、2トラックのアコースティックギターのアルペジオとリフ、キーボードのフレーズのイントロから導かれて始まるギターポップ系不毛のラブソングで、近藤による歌唱と韻を踏むサビの歌詞が耳に残る。リズムセクションは洞澤の各種ギター、足立のドラムと北村のべースによる生演奏に洞澤によるプログラミングされた上物が乗る。この上物のストリングス・アレンジもシンプルながら曲を演出している。
 続く「Follow The Rainbow」は今年8月に配信リリースされた最新の先行シングルで、山下達郎の某曲にも通じるサマー・アンセム感漂うシティポップだ。近藤の爽やかなボーカルに洞澤のエレキギターのリフが絡むなど聴き応えがある。コーラスのトップではAloha Ichimuraが特徴的な声を聴かせるのも嬉しい。
 一転して陰影のあるスローナンバーの「花びら」は、洞澤の作曲能力と近藤の作詞家としてのセンスが見事に調和したソングライティングだ。佐藤のよる表現力豊かなジャズテイストのアコースティック・ピアノ、洞澤によるエレキシタールのオブリガードも効果的だ。

 アコースティックギターのアルペジオとそれに呼応するべースのイントロに導かれ、サビから始まる4曲目の「Hello, Bluebird」はポール・マッカートニーの匂いがする。近藤の持ち味でもあるが、洞澤の作曲であり、ヴァースでは「真夜中のドア〜Stay With Me」(松原みき/1979年)のオマージュ元として知られる、Carole Bayer Sagerの「It's The Falling In Love」(1978年)に通じる洗練されたAOR風に変貌し、ビートルズ風(ジョン・レノン寄り)のブリッジを挟んで、またサビに戻るという凝った構成で感心させられる。
 続く「水色」は近藤の作詞、洞澤と近藤による作曲なので、ソングライティング的には近藤のソロに近いテイストがあるミドルテンポのバラードだ。前曲同様に洞澤の各種ギターに足立と北村のリズム隊による演奏は、近藤のレイジーなボーカルをバックアップする。洞澤による巧みなアコースティックギター・ソロや近藤自身による美しい一人多重コーラスが聴きどころだ。

美音子 Fujishima

 「誰もが夢を」は、ゲスト・ボーカルに美音子 Fujishimaをフューチャーリングしてデュエットで歌われるボサノバ・ポップだ。近藤によるフランス語をちりばめた歌詞からイメージするのは、クロード・ルルーシュ監督が手掛けた映画であり、洞澤によるガットギターの刻み、左チャンネルのウーリッツァー系エレピや彼方で聴こえる深くリバーヴが効いたアコースティック・ピアノのフレーズ、フルートのオブリガード、近藤とFujishimaによる間奏のスキャットなど、映画音楽家フランシス・レイをオマージュしている。日曜の昼下がりに聴きたい好ナンバーである。

 本作後半には先行配信曲が多く収録されており、「Maybe」は2024 年8 月の作品でブクマの曲としては珍しく全編マイナーキーの曲である。特徴的なリフから発展して生まれたこのファンキーなサウンドに、佐藤によるビリー・プレストン風のブルース・フィールなピアノが乗り、非常に玄人好みでもある。ブラック・ミュージックを聴かない読者に分かり易く例えると、刑事ドラマで主人公が容疑者を捜索するシーンの挿入歌風と言えばいいだろうか。
 同じく「Looking For The Light」は2023 年3 月、「街のレヴュー」は2022 年12 月に先行配信されており、前者のヴァースは古くはビートルズでジョンが主に書いた「No Reply」(『Beatles for Sale』収録1964年)やSteely Danの「Only a Fool Would Say That」(『Can't Buy a Thrill』収録1972年)に通じるメロディが印象的で、洞澤による各種ギターとプログラミングされた音数少ないバックトラックが、近藤のジェントルなボーカルを引き立てる。
 後者はイントロから筆者の好みで、ブラジリアン・フュージョン・バンドAzymuthの「Fly over the Horizon」(『Light As A Feather』収録Ver 1979年)に通じるアープ・オデッセイ系アナログ・シンセのポルタメントが効いたフレーズから引き込まれてしまう。歌詞のディテールから横浜関内にあるレンガ作りのカフェ”馬車道十番館”を舞台にしたと思しきラブソングで、近辺のロケーションが織り込まれており完成度も高い。サウンド的には前出のアナログ・シンセや北村のエレキベースのアクセント、シンセタムのフィルによって、横浜のナイト・シーンが目に浮かぶ演出で脱帽してしまう。


 曲順は前後するが、8曲目の「悲しみのウィークエンド」は再び作曲に近藤が加わったワルツのトーチソングで、メジャーキーで風通しが良いサウンドと、タイトルや失恋を綴った歌詞の世界とのギャップが面白い。北村のべースに足立はブラシを使ったドラムのリズム隊、洞澤はアコースティックギターの他マンドリンもプレイし器用なところを聴かせてくれる。
 本作ラストの「Bloom Again」にも近藤が作曲にクレジットされていて、「悲しみのウィークエンド」と同様の編成でプレイされる静かなバラードの小曲だ。この曲ではAloha Ichimuraが再びコーラスで参加し、その柔らかい美声で近藤の歌声に寄り添っている。近藤のソロ作にも近い世界観なので、『Strange Village』で彼を知った音楽ファンにもお勧めである。

 本作の総評として、これまでの3作品には無かった作曲面で近藤が3曲も参加したことで、The Bookmarcsの第二章が始まったと考えていいだろう。オニオンズやシンガー・ソングライターとして実績がある近藤が洞澤の作曲に協力したことで、今までには無かったブクマ・サウンドのパレットに新色が加わったのだ。この第二章を心より歓迎したい。


The Bookmarcs『BLOOM』プレイリスト
 
 
洞澤徹
 「BLOOM」アルバム制作期間中に創作のモチベーションを
保つためによく聴いた曲(特にアレンジに煮詰まった時)をセレクトしました。
アレンジの参考になった曲、作曲の着想になった曲もあります。
ほとんどが今年発表された楽曲です。

▪️Love Ride(Alternative Version)/(『Fighter For Love』/ 2025年) 
▪️In It To Win It / Matt Johnson,Triple H Horns(『Warrior Princess』/ 2025年)
▪️Simple Imagination / Young Gun Silver Fox
(『Ticket To Shangri-La』/ 2022年)
▪️Cycle deux - partie 2. / Hippie Hourrah
(『Il y eut un rythme』/ 2025年)
▪️Swoon / Fickle Friends (『Fickle Friends』/ 2025年)
▪️Love You Out Of Your Mind / Byrne & Barnes
(『An Eye for an Eye』/ 1982年)
▪️Oyo / Origami.(Single『oyo』/ 2025年)
▪️Never Givin’You Up / Pascal Bedoire
 (Single『Never Givin’You Up』/ 2025年)
▪️Sweet / Mörk(『Still Dreamin’』/ 2024年) 
▪️Je reviens / Gilles Rivard(『En couleurs』/ 1981年)


近藤健太郎
静謐で繊細、味わい深く円熟した歌声とサウンド。
それぞれに耳を傾けていると、しばし心は軽くなるのです。 
過去の名曲から現代の柔らかなポップスまで、
アルバム制作中に寄り添ってくれた魅力あふれる楽曲達です。

▪️Dating Me Ain't Hard / Whyte(Single『Dating Me Ain't Hard』 / 2025年)
▪️All My Candles / Men I Trust(『Equus Asinus』/ 2025年)
▪️Make It with You / Bread(『On the Waters』/ 1970年)
▪️Let Me Be The One / Paul Williams
 (『Just An Old Fashioned Love Song』/ 1971年) 
▪️Who Do You Think You Are / Bo Donaldson & The Heywoods 
(『Bo Donaldson And The Heywoods』/ 1974年)



(テキスト:ウチタカヒデ

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