2025年12月17日水曜日

Wink Music Service:『Little China Girl / かたことの恋』


 サリー久保田と高浪慶太郎による拘りのポップ・グループ、Wink Music Service(ウインクミュージック・サービス/以降WMS)が、7インチ・シリーズの第6弾『Little China Girl / かたことの恋』(VIVID SOUND/VSEP866)を12月24日にリリースする。なおタイトル曲はあの伊藤銀次の書き下ろしなのだ。
 
 弊サイト読者には説明不要かも知れないが、伊藤銀次は日本音楽界の至宝だった故大滝詠一(大瀧詠一)氏の一番弟子で、プロデューサーやアレンジャー、ソングライターとしてデビュー当時の佐野元春をはじめ、松原みき、歌謡界のトップスターだった沢田研二など多くのミュージシャンの作品に関わってきたレジェンドである。そんな伊藤の完全書き下ろしによる新曲というこれまでに無い展開で、温故知新派の読者には大いにお勧めしたい。
 ゲスト・ボーカルには、昨年4月リリースの第3弾『Fantastic Girl』のオーバンドルフ凜らとのガールズ・グループ ”She’s A Rainbow”(サリー久保田プロデュース)のメンバーで、中国とタイにルーツを持つ14歳の若きアジアン・モデルの心愛(ここあ)を迎えている。
 WMSとしては今年9月24日にリリースした『Night In Soho/オードリィ・ヘプバーン・コンプレックス』が記憶に新しいので、彼らのプロフィールは前回の記事を参照してほしい。

Wink Music Service

心愛(ここあ)

 ここでは筆者による本作の詳細解説をする。タイトル曲の「Little China Girl」は前出の通り、あの伊藤銀次が書き下ろした新曲で、WMSサブメンバーのマイクロスター飯泉裕子が作詞してラブソングに仕上げている。
 この曲における伊藤のコンポーズ・スタイルは、1982年9月リリースのソロ・サードアルバム『Sugar Boy Blues』収録の「Dear Yesterday」に通じていて、イントロのあとサビから始まり、その切ないメロディが強く耳に残るのだ。飯泉の歌詞もティーンエイジャーの不毛の恋愛を綴って伊藤の曲にマッチさせており、まだ幼さが残る心愛のボーカルとのギャップも新鮮に聴かせてしまう。
 このように大滝詠一の下ナイアガラ・レーベルからデビュー予定だったバンド、ココナツ・バンクのリーダーとして、また山下達郎が率いたSUGAR BABE(シュガー・ベイブ)を大滝に紹介して自らも一時同バンドのメンバーで筆頭ブレーンであった、日本のロック、ポップス界の重要人物の伊藤がWMSに関わった事実は極めて大きい。
 そんなポップ・マエストロが提供したラブソングを、WMSと岡田ユミは英国のジェフ・リン率いるELO風のサウンドでアレンジしている。べースのサリー久保田とドラムの原"GEN"秀樹のリズム隊は、70年代後半のディスコ・ファンよろしく軽快なグルーヴでダンス・チューンとして料理し、奥田健介(ノーナ・リーヴス)によるギターリフやソロも英国風で、空間系エフェクターやハーモナイザーを駆使して、複数のトラックでその巧みなプレイを聴かせている。

『Sugar Boy Blues』/ 伊藤銀次


 カップリングの「かたことの恋」は、2002年に高浪慶太郎がソングライティングとアレンジを担当し提供した、TVアニメ『ちょびっツ』のエンディングテーマのセルフカバーだ。オリジナルでは同アニメでヒロインの”ちぃ”の声を演じた声優女優の田中理恵の歌唱で、「ビートでジャンプ(Up,Up and Away)」(The 5th Dimension / 1967年)などをオマージュしたサウンドが、ピチカートファイブやソフトロック・マニアには知られていた。
 本作のカバー・ヴァージョンは、オリジナルのエッセンスを少々残しつつ、これまでに岡田がWMSで披露してきたサウンド・バリエーションを総動員して、モザイク的にコラージュした大胆でマニアックなものだ。聴きものはミッシェル・ルグラン風ヨーロピアン・ジャズ・パートでのサリーと原によるタイトな演奏をバックに、縦横無尽に繰り出されるスキャット、ストリングスやホーンセクション、各種SEの融合だろう。SEの中にはマニア心をくすぐるネタもいくつか聴けて、例えばジェームス・ブラウンの70年代楽曲でよく聴けた、ワウペダルをかましたエレキギターにモジュレーションを極端に効かせたあの音だったり、最新作『ナサリー』が傑作の無果汁団ショック太郎が、blue marble時代に「街を歩くソルジャー」(『ヴァレリー』収録/2010年)でオマージュした、ビートルズの「I Am The Walrus」(1967年)やトッド・ラングレンの『A Wizard, a True Star』(1973年)に通じる、”音楽のロバート・ラウシェンバーグ”状態で脱帽してしまう。
 またタイトル曲同様に高浪とのデュエットで歌う、心愛の夢心地なボーカルが微笑ましく、イントロのセクシーな英語のモノローグまで彼女自身が担当しているというから驚きだ。若くしてトリリンガルもしくはクァドリンガルな才能に恵まれた心愛の才能を今後も注目しよう。

 最後に筆者の詳細解説を読んで興味を持ったポップス・ファンは必聴なのだが、本作は数量限定のリリースのため、ディスクユニオンなどでは既に予約受付が終了しているので、大手外資系レコード・ショップの店頭発売分を事前チェックし、是非入手して聴いて欲しい。 

(テキスト:ウチタカヒデ






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