本作のゲスト・ボーカルには、ニューウェイヴ系ガールズグループ“ゆるめるモ!”の めあり(2021年加入~)を迎えている。なおこのグループには現在ソロアーティストで大成功している、あのちゃんも2013年から19年まで在籍していたことで知られ、才能の人材プールとして注目すべき存在になっている。
Wink Music Service
めあり
WMSのプロフィールを改めて紹介するが、ネオGSムーブメントを牽引したザ・ファントムギフトでデビューし、近年はSOLEILからザ・スクーターズなど数多くのバンドに参加するベーシストでプロデューサー、またデザイナーでもあるサリー久保田が、ピチカート・ファイヴ解散後音楽プロデューサー兼作曲家として活動していた高浪慶太郎に「極上のポップ・ミュージックを作ろう」と誘い結成されたユニットである。
このベテラン・クリエイター2人が、それぞれ培ってきたセンスと活動戦略によって、シングル毎にフォトジェニックな美少女ハーフ・モデルやの現役アイドルをゲスト・ボーカルとしてピックアップして、大きな成果を残している稀な存在なのである。これまでに7インチと短冊(8cm)CDの2フォーマットでシングル4枚と、オリジナルアルバム『It Girls』をリリースしている。
Night In Soho /
オードリィ・ヘプバーン・コンプレックス
では本作を解説しよう。タイトル曲の「Night In Soho」は、作詞はマイクロスターの飯泉裕子、作曲は3人目のWMSとされる岡田ユミで編曲もバンドと共に手掛けている。飯泉による歌詞は、英国ロンドンのウエスト・エンドの一角にあったソーホー地区への憧憬であり、ここは60年代” Swinging London”時代のカーナビー・ストリートなどストリートカルチャーの聖地であった。この地の最大のアイコンとされ、後に世界的スター・モデルとなったのがツイッギー(TWIGGY/Twiggy Lawson)であり、2024年にはドキュメンタリーが映画化もされている。恐らく歌詞のモチーフになっているのは、このツイッギーであり、タイトルは2021年英米合作のサイコロジカル・ホラー映画『ラストナイト・イン・ソーホー(Last Night In Soho)』から来ているのだろう。
曲調やアレンジも歌詞の世界そのままに60年代へのオマージュに満ちているが、こちらは米国のThe Fifth Dimensionなど西海岸でレコーディングされたソフトロックの香りがして、ジミー・ウェッブ(Jimmy Webb)作の「Up, Up And Away」(1967年)のリフが引用されている。そしてイントロやコーラスを含めたサウンド全般は、これらのソフトロックのエッセンスを濃縮して1989年に制作された、英国のSwing Out Sisterの「You On My Mind」をオマージュしていると一聴して気付いた。サリーによるイントロのべースラインやフィルを多用した原"GEN"秀樹の迫力のあるドラム、間奏ではファズを効かせた奥田健介(ノーナ・リーヴス)のギター・ソロが良いアクセントになって、めありと高浪のデュエットで歌われるボーカルをバックアップしている。
余談であるが、Swing Out Sisterの「You On My Mind」が収録されたセカンドアルバム『Kaleidoscope World』では「Forever Blue」と「Precious Words」の2曲で、前出のジミー・ウェッブにオーケストレーションをオファーするという拘り振りで、筆者はウェッブ氏が2000年に初来日ソロ公演をした際、恐れ多くも対面インタビューをしており、この『Kaleidoscope World』についても少し触れているので、寄稿した定期誌VANDA28号をバックナンバーで探して一読して欲しい。
オードリィ・ヘプバーン・コンプレックス /
ピチカート・ファイヴ(Non-Standard/12NS-1003)
カップリングの「オードリィ・ヘプバーン・コンプレックス」(1985年)は、高浪がピチカート・ファイヴ時代にデビュー曲として作曲し、小西康陽が作詞した記念碑的曲のセルフカバーである。このオリジナルは細野晴臣がテイチク内に設立したNON-STANDARDレーベルから、1985年8月に当時としては異例の12インチ・シングルでリリースされた。サウンド的には近代クラシック的緊張感のあるキーボードが刻まれるヴァースと、ポップで軽いシンセがバッキングするサビのコントラストが効果的だった。またオケの上物は初期メンバーだった鴨宮諒が所有したYAMAHA DX7だけで主に制作されたという説もあるが、相当使い倒していたと想像できる。
ここでのセルフカバー・ヴァージョンは、サリー、原、奥田によるテンポアップした生演奏のスリー・リズムに、岡田のキーボード類とプログラミングされたストリングスやホーン・セクションがダビングされ、ホーランド=ドジャー=ホーランドがヒットを量産していた頃のモータウンを彷彿とさせる、ゴージャスなサウンドに生まれ変わっている。
この曲でもめありの愛らしいボーカルをクールにバックアップする高浪だが、嘗て自身が作曲したメロディは極めて独自性があり、映画音楽の大家ヘンリー・マンシーニ(Henry Mancini/1924年~1994年)を彷彿とさせるヴァースと、H=D=H~筒美京平に通じる洒脱なサビのメロディとのコントラストがこの曲の大きな魅力であり、40年後の今でもこのセンスには脱帽してしまう。今回岡田が付加したオーケストレーションやオブリガードのストリングス・ラインも、原曲が持つ高浪のメロディやコード感覚からインスパイアされたと感じさせる、名セルフカバーとなった。
弊サイト読者をはじめとするソフトロックやポップス・ファンは必聴な本作であるが、ディスクユニオンなどでは既に予約受付が終了しているようなので、外資系大手レコード・ショップの店頭発売分を事前チェックし是非入手し聴いて欲しい。
“Wink Music Service “Night In Soho” リリースライブ”
◎出演:Wink Music Service(Vo.高浪慶太郎+Ba.サリー久保田)
Vocals>めあり(ゆるめるモ!)/アンジーひより/
オーバンドルフ凜/白鳥沙南(LIT MOON)
Special Guest>シーズ・ア・レインボー
Gt:奥田健介(NONA REEVES)/Dr:原GEN秀樹/Key&Mp:岡田ユミ
◎日程:2025/10/24(金)
開場日時:18:00 / 開演日時 19:00
◎会場:下北沢CLUB Que(東京都)
東京都世田谷区北沢2-5-2
◎チケット予約:eplus / livepocket
(テキスト:ウチタカヒデ)
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