2025年8月2日土曜日

Saigenji:『You can fly again feat.YUKI KANESAKA』+ライブ情報

 シンガー・ソンングライター兼ギタリストのSaigenji(以降サイゲンジ)が、ポップス回帰のニュー・シングル『You can fly again』を、デジタル配信で7 月16 日にリリースした。  2023年6月にリリースしたカバーとオリジナル・インスト曲をコンパイルした『COVERS & INSTRUMENTALS』以来の新作となり、今回は彼の初期作に通じるので紹介しよう。

 本作で注目すべきは、アメリカはボストン在住で、かのバークリー音楽大学(Berklee College of Music)でアジア人初の助教授となった、YUKI KANESAKA(Yukihiro Kanesaka)とのコラボレーションである。彼はアレンジャー兼トラック・メーカーとして全面的に参加し、自身が所有するボストンのプライベート・スタジオでトラックを製作して、日本側ではサイゲンジのホームであるスタジオ・ハピネスでギターと歌入れするという二元レコーディングが敢行され、マスタリングはニューヨークという拘りで完成させたという贅沢な一曲になっているのだ。
 サイゲンジの久しぶりのオリジナル曲としてソングライティング的には、「走り出すように」(『La Puerta』収録/2003年)や「Breakthrough The Blue」(『Acalanto』収録/2005年)、「Sunrise」(『Music Eater』収録/2006年)と彼のソロ活動初期に通じる、MPB(ブラジリアン・ポピュラー・ミュージック)とニューソウル(Stevie Wonderなど)を融合させた、独特なコード・プログレッションやリズム感覚である。そんなサイゲンジ・サウンドにKANESAKAがもたらしたのは、プロデューサー“YUKI KANESAKA”、マルチインストゥルメンタリスト“monolog”、ビートメイカー DJ “U-Key” と複数の肩書きで活動する、マルチタスクなクリエイターとしての感覚だろう。本作でも打ち込みのロールするキック(バスドラム)やスネアのビートに、生演奏のパンデイロやアゴーゴーベルなどブラジリアン・パーカッションが絶妙に融合した有機的なトラックを聴けるが、彼だからこそ生み出せられたと考えられる。
 興味を持った音楽ファンは、是非このサイゲンジの新曲を高音質の配信で聴いて欲しい。

You can fly again / Saigenji



 Saigenji ライブ・スケジュール

◎8月10日(日)鎌倉 カフェ エチカ
 18:30open 19:00start
  ¥4000+order/定員20名


8月17日(日)吉祥寺 アウボラーダ
 open 17:00 / start 18:00
 charge 4,000円+2オーダー


◎8月30日(土)西荻窪BAR 1956
 【SAIGENJI acoustic Live】
 8/30(sat)Open19:45~Start20:00
 charge:¥4,000 + onedrink:¥600〜


◎9月18日(木)福島県 郡山The Last Waltz
 19:00START 前売り¥3500
 当日¥4000 


◎9月19日(金)宮城県 仙台Mondo Bongo
 19:30スタート
 前売り¥4000 当日¥4500
 予約リンク:店舗サイト


◎9月28日(日)大船メルカド
 詳細は未確定のため、後日店舗のリンクで要確認


◎Saigenjiスペシャル・ユニット
 〜日本×ブラジル国交130周年記念公演〜
 2025年 11月 6日(木)@ラゾーナ川崎プラザソル
 Saigenji(g,vo)、工藤精(b)、斉藤良(ds)
 ゲストグスターヴォ・アナクレート(sax)、城戸夕果(fl)
 詳細及び予約リンク:イベントサイト
※2025年は、日本とブラジルが外交関係を樹立してから130年という節目の年。
 両国のさらなる交友を願って、Saigenjiを中心としたスペシャル・ユニットが
 出演します。  
 ブラジル音楽を軸にジャズやポップスなどのエッセンスを散りばめた、
 この日限りのサウンドをお楽しみください! 



Saigenji 関連過去記事

◎『COVERS & INSTRUMENTALS』:記事はこちら

◎『Music Eater』配信開始:記事はこちら

◎『Live “Compass for the Future”』:記事はこちら

◎『Compass』:記事はこちら

◎『ACALANTO~10th. Anniversary Edition~』Saigenjiインタビュー

◎『Innocencia』山上一美インタビュー:記事はこちら

◎『la puerta』bonjour対談レビュー:記事はこちら

◎『SAIGENJI』:記事はこちら


(本文テキスト:ウチタカヒデ

















2025年7月27日日曜日

『ザ・ビーチ・ボーイズ・アンソロジー』(レコード・コレクターズ増刊号)

 ブライアン・ウィルソンの突然の訃報から1ヶ月半ほど経ったが、深い悲しみから脱していないファンは多いだろう。 
 弊サイトの前進である定期誌VANDAでは、その音楽的功績を多く取り上げ、『ザ・ビーチ・ボーイズ・コンプリート』(revised edition 2012年、2001年、1998年)として3回に渡って書籍化してきた。主監修を担当したVANDA誌及び弊サイト創設者の故佐野邦彦氏と、同書籍の編集で中心となったザ・ビーチ・ボーイズ研究家(BBFUN会長)の鰐部知範氏は、他の商業音楽誌への寄稿も多く、ミュージック・マガジン社の『レコード・コレクターズ』誌(1982年~)への記事は知られている。

 そんなレコード・コレクターズ誌からブライアン・ウィルソン追悼として、両氏の過去記事を含んだ増刊号『ザ・ビーチ・ボーイズ・アンソロジー』が、7月22日に発売されたので紹介する。
 日本ではブライアンとザ・ビーチ・ボーイズ研究の第一人者である、音楽評論家の萩原健太氏をはじめ、多くのライター陣によりベスト・ソングズや、『Pet Sounds』(1966年)のレコーディング・セッションの膨大な未発表トラックを収録した4枚組CD ボックスセット、『The Pet Sounds Sessions』(1997年)のリリースに合わせた特集など貴重な過去記事も多く、ファンにとっては必携の一冊となってるので、弊サイト読者も入手して読んでみて欲しい。 


追悼 ブライアン・ウィルソン
6月11日に82歳で亡くなったブライアン・ウィルソン。
彼はザ・ビーチ・ボーイズのメンバーとして、メイン・ソングライター、プロデューサーとして、多くの名曲・名盤を生み出してきました。
そんな伝説的な存在であるブライアンを追悼し、功績をたどる増刊を緊急出版します。
サーフ・ミュージックで人気を博した初期から、『ペット・サウンズ』(1966年)や当時は完成しなかった『スマイル』、そして2000年代以降の積極的な活動まで、『レコード・コレクターズ』が掲載してきたビーチ・ボーイズおよびブライアンの特集を再録、集成した決定版です。

主な収録記事
◆特集 ビーチ・ボーイズ・ベスト・ソングズ100[2016年7月号]
 ── 執筆陣25名の投票によって選ばれた至高の100曲
◆特集 ペット・サウンズ[1997年12月号]
◆特集 ビーチ・ボーイズ/スマイル[2004年11月号]
 ── ブライアンが完成させた伝説の未発表アルバム
◆特集 ビーチ・ボーイズ『スマイル』[2011年12月号]
 ── バンド名義で発売された『スマイル』
◆特集 ブライアン・ウィルソン[1999年7月号]
◆ビーチ・ボーイズ・ディスコグラフィー[2004年11月号]
◆ブライアン・ウィルソン オリジナル・アルバム・ガイド[1999年7月号]
◆『ホーソーン、カリフォルニア〜伝説が生まれた場所(レア・トラックス)』
 [2001年8月号]
◆ブライアン・ウィルソン・インタヴュー──『スマイルDVD』[2005年8月号]
◆『ペット・サウンズ』40周年記念企画盤[2006年11月号]
◆ブライアン・ウィルソン・インタヴュー──『ラッキー・オールド・サン』
 [2008年10月号]
◆ビーチ・ボーイズ『ゴッド・メイド・ザ・ラジオ』[2012年7月号]
◆ビーチ・ボーイズ『カリフォルニアの夢』[2013年10月号]
◆『ビーチ・ボーイズ・パーティ』[2016年4月号]
◆『フィール・フロウズ〜サンフラワー&サーフズ・アップ・セッションズ1969-1971』[2021年8月号]
◆『1967〜サンシャイン・トゥモロウ』[2017年9月号
◆ブライアン・ウィルソン『アット・マイ・ピアノ』[2021年12月号]
◆『セイル・オン・セイラー1972』[2022年12月号] 

『ザ・ビーチ・ボーイズ・アンソロジー』 
定価2860円(本体2600円)
A5判336ページ
レコード・コレクターズ7月増刊号

2025年7月21日月曜日

bergamot romance:『1 dozen』


 新鋭男女ツインボーカル・ユニット”bergamot romance(ベルガモット・ロマンス)”がファースト・アルバム『1 dozen』(*blue-very label*/blvd-052)を7月24日にリリースする。   
 まずはグループ名のインパクトに目を引くが、”Maybelle(メイベル)”のボーカリストWAKAKOと、ギターポップ系バンド”the Sweet Onions””Snow Sheep”のメンバーで、マルチプレイヤーの高口大輔により2022年に結成された。

 そんなbergamot romanceのプロフィールに触れよう。WAKAKOは高校時代よりネオアコースティック系インディーズ・アーティストのファン向け同人誌(ファンジン)の制作、イベントの企画などを行うマニアで、音大声楽科を卒業後、作編曲家の橋本由香利と組んだ女性二人組ユニット”Maybelle”の作詞家・ボーカリストとして2000年にデビューし、空気公団などで知られるcoa recordsより2枚のアルバムをリリースした。(現在活動停止中)近年では本作リリース元のblue-bery label関連のコンピレーションアルバムへの参加やイベントに多く参加している。
 一方高口は、幼少期から母親の影響でクラシックピアノを習い、その後ドラムやベース、ギターまで習得したマルチプレイヤーである。ギターポップ系バンド”the Sweet Onions”(以降オニオンズ)や”Snow Sheep”のメンバーとして活動しながら、多くのアーティスト、バンドのサポート・ドラマーやプロデュースもおこなっている。またオニオンズの近藤健太郎とインディーズレーベル philia records を主宰し、所属アーティストのプロデュースも行っており、昨年2月にリリースした小林しのの『The Wind Carries Scents Of Flowers』でサウンドプロデュースしたのも記憶に新しい。
 

 本作は2人が共作した楽曲を中心に、WAKAKOがボーカル、高口がアレンジとほぼ全ての演奏、ミックスを担当してレコーディングされており、マスタリングはSnow Sheepの『WHITE ALBUM』同様にSmall Gardenの小園兼一郎が起用されている。収録曲の内1曲はMaybelle活動休止後に作曲家として劇伴で活躍する橋本が提供しており、小林の『The Wind Carries ・・・』からも1曲をカバーしている。またリリース元のblue-very labelを主催する中村佳が初めて作詞した曲も収録されていて、話題性にも事欠かないのだ。
 更にゲストミュージシャンには、The Bookmarcsや高口とのオニオンズでの活動で知られ、今年3月にファースト・ソロアルバム『Strange Village』をリリースしたばかりの近藤健太郎、Swinging Popsicleでメジャーデビューし、高口がドラムで参加するthe Carawayを率いている嶋田修、正統派ネオアコバンドTHE LAUNDRIESのTerry、kolchack名義で活動するシンガーソングライターのキモトケイスケが参加している。
 アートワークにも触れるが、ジャケット・イラストはred go-cart等、様々なアーティストのジャケットやフライヤーのイラストで知られるイラストレーターのAkiko Hattoriが手掛け、全体のトータルデザインは近藤の『Strange Village』を共同プロデュースした及川雅仁が担当するなど、メンバー2人の多岐に渡る交友関係を反映している。

 ここでは筆者による全収録曲の解説、WAKAKOと高口、本作のレコーディングに参加したサポート・ギタリストのキモトケイスケが、ソングライティングやレコーディング期間中にイメージ作りで聴いていたプレイリストをお送りするので聴きながら読んで欲しい。


 
bergamot romance 『1 dozen』 トレーラー

 冒頭の「ラプラスの砂時計」はWAKAKOが作詞し、高口と2人(WAKATAKの連名クレジット)で作曲した、ノイジーなギターリフが印象的な80年代中後期ブリティッシュのインディー・ギターポップ風サウンドで、本作のリードトラックとして相応しい曲だ。イントロのギターSEやディストーション・ギター、アルペジオ・ギターなど複数のトラックをよく計算してミックスされており、研究成果が出ていると感じた。透明感あるWAKAKOの美しいボーカルをメインに、高口は意外にも女性のような高域でハーモニをつけている。ゲストのキモトはセカンド・ヴァースとサビの左チャンネルでアルペジオ・ギターを弾いている。
 続く「サーチライト」は、WAKAKOの作詞で高口が作曲したハイテンポで爽やかなギターポップで、全てのギター含め全演奏を高口が担当している。この手の曲では本職ドラマーである高口のプレイが発揮されて聴き応えがある。またこの曲ではオニオンズの近藤がコーラスと同アレンジでゲスト参加し、一人多重の3声コーラスを披露し、WAKAKOのボーカルをサポートしている。
 「Spring Swan」もWAKAKO作詞、高口作曲の作品だが、前曲と異なりオルタナティブロック色が濃い英語詞の曲であり、以前弊サイトで紹介したshinowaに通じるサウンドで、サイケデリック・ロックの系譜と考えられる。不穏なイントロからいきなりスタートする格好良さなどはMy Bloody Valentineを彷彿とさせて、好きにならずにいられない。

 WAKAKOが作詞し、橋本由香利が曲を提供した「沈黙のあいだ」は、Maybelleの未発表曲で、正確には高口のリアレンジでカバーしたと捉えていいだろう。定期誌VANDAの読者だったらしい橋本による曲は、不毛の恋愛を綴ったWAKAKOの歌詞の世界にもマッチした青春のソフトロックである。The Carnivalの「Hope」(『The Carnival』収録/69年)に通じるマイナーキーで、ジョー・オズボーンを意識した高口によるベース・プレイや間奏のチェンバロのソロなど演奏面でも秀一である。
 「Chirality〜君と鏡像の世界へ〜」は、WAKAKOの作詞、2人の作曲による「ラプラスの砂時計」と感触が近いギターポップで、WAKAKOの作曲スタイルが滲み出ていると思われる。この曲ではダブル・ボーカル曲の中で高口のボーカルのミックスレベルが他曲より高いパートがあり、彼の声質の特徴が出ている。
 2分少々の短い尺の「Candy drip」は、WAKAKOによる英語詞に高口が曲をつけている。所謂渋谷系の系譜にあるサウンドは、WAKAKOが青春時代に愛聴していたバンドやアーティストへのオマージュと言っていいだろう。全編で聴けるアコースティックギターはキモトがプレイしている。

 
bergamot romance '1 dozen' 特典CDティザー

 本作7曲目の「おかしの国 Lonely tea party」は、一聴してユーミン(松任谷由実)・ファンを公言する、作曲者の高口の趣味が滲み出ていて、本作のポップス・サイド(7曲目以降)の冒頭を飾っている。WAKAKOの歌詞も本作前半収録曲のようなクールさが排除されたメルヘンな世界で、無垢な歌唱法と相まって微笑ましい。NYのブリル・ビルディング系の柔らかなシャッフルのリズムに八分刻みのピアノ、チェンバロのオブリガード、オーバードライブをかましてダブル・トラックにした松原正樹風のエレキギター(ルーツはJay Graydonだろう)等々、1980年頃のユーミン・ソングの中でも「5cmの向う岸」(『時のないホテル』収録)や「まぶしい草野球」(『SURF&SNOW』収録)など、キュートなテイストが好きなファンは必ずハマるだろう。筆者も好みのサウンドであり、70年代アメリカンポップの影響下にあり完成度が高い。 
 続く「夢の隨に」は、blue-very label中村の作詞、高口の作曲による60年代ガールポップ系のビート感のある失恋ソングだ。中村によるサビの英語詞のリフレインは、メロディとマッチして処女作としてはまとまっている。1コーラス目終わりのギターリフが、フランソワーズ・アルディの「Comment te dire adieu(さよならを教えて)」(1968年)を意識していて、サビのメロディはクリストファー・クロスの「Arthur's Theme(Best That You Can Do)」(1981年/アカデミー主題歌賞獲得)を彷彿としていたりと、ポップスの構造として凝っている。イントロの左右2チャンネルのアルペジオをはじめ、全編でキモトがエレキギターをプレイしている。 

 「forget me not」は前説明の通り、小林のソングライティングで彼女のセカンド・アルバム『The Wind Carries Scents Of Flowers』収録曲のカバーである。オリジナルはThe Laundriesの遠山幸生によるエレキギターをフューチャーした硬質なネオアコ・サウンドだったが、ここではブルース系シャッフル・ビートで、ボーカルと全ての楽器を高口が一人で担当したワンマン・レコーディングで完成されている。オリジナルでサウンドプロデュースを担当した本人が、全く異なるスタイルでアプローチしているのは興味深く、彼の幅広い音楽性を現わしている。 
 一転してWAKAKOの素朴な歌詞とナチュラルな歌声による「こがらしの子守唄」は、児童唱歌のようなイノセントな佇まいが、本作中では稀有な存在だが、音大声楽科出身の彼女の素養と、幼少期からクラシックピアノを習っていた高口だからこそ完成出来た曲だろう。WAKAKOによるコーラスアレンジもこの曲をよく演出しており、子供達(彼女の教え子達か)の歌声も参加して、崇高な気持ちにさせてくれる。

 クラシカルなピアノのイントロから高口のボーカルで始まる「Taupe velvet」は、WAKAKOの作詞で高口が作曲したシティポップで、サビでは70年代ソウル・ミュージック系のコード進行を内包していて聴き飽きない。2コーラス目のサビから入るトランペットは、The LaundriesのTerryが担当して効果的なプレイをしている。
 ラストの「Fluttering Snow」はWAKAKOの作詞、高口の作曲によるギターポップで、イントロから全編でthe Carawayの嶋田修がアコースティックギターをプレイして、この曲の爽やかな雰囲気に貢献している。この曲が斬新なのは、1コーラス目がフィールド・レコーディングされた素材をほぼそのまま使用し、周辺の環境音も残していることだ。2コーラス目からのデッドなスタジオ・レコーディングのサウンドとの繋ぎもさほど違和感がないのは、高口のミックスがよくなされているからである。またコーダでリフレインするフォークミュージック系スキャットも耳に残って完成度が高く、本作の大団円曲として曲順の見事さも感じさせた。


bergamot romance『1 dozen』プレイリスト  

 
高口大輔

●Lets Make Some Plans / Close Lobsters
(『Forever, Until Victory! The Singles Collection』/ 2009年)
 ◎アルバム1曲目収録の『ラプラスの砂時計』を作る際の
原型といってもいい曲です。
気品のあるギターフレーズを探している中で
この曲を参考にさせていただきました。 

●ビュッフェにて / 松任谷由実(『昨晩お会いしましょう』/ 1981年)
◎アルバムラスト収録の『Fluttering Snow』のコード進行を決めている時に
参考にした曲です。物悲しげで切ないAメロの進行が好きです。

 ●Country / Keith Jarrett(『My Song』/ 1981年)
◎コード進行を考えるのが好きなので、ジャンルに関係なくいい進行の曲を日々探しています。その中で出会った素晴らしい進行の曲です。

●ヒム・トゥ・フリーダム / 佐山雅弘
(『ヒム・フォー・ノーバディ』/ 1995年)
◎キースジャレットのCountry同様、素敵な進行のピアノ曲はないかなと
探した中で出会った一曲です。

●Les saisons(The Seasons)Op.37b:Ⅲ.March:Song of the Lark
 / Tchaikovsky,P.I:Seasons(『Piano Sonata in C-Sharp Mionor』/ 1991年) 
◎クラシック曲もショパン・シューベルト・ドビュッシーなど色々聴きつつ、
チャイコフスキーのこの曲もよく聴いていました。
物悲しい気分に浸れるメロディです。 

●Pavane,Op.50(Version for Piano / Jorge Federico Osorio
(『The French Album』/ 2020年)
◎クラシック曲では知人からの勧めもあって、
フォーレの曲もよく聴いていました。
今回のアルバム制作時は短調の曲を聴く機会が多かった気がします。

●花 / 藤井風(『花』/ 2023年)
◎最初に聴いたときに一発で好きになった曲です。
直接的に制作の参考にしたというわけではないですが、
大事な1曲に出会ったという存在です。

●push / the Cure(『The Head On The Door』/ 1985年)
◎アルバムの中でも1,3,5曲目収録のWAKATAKA名義曲を作っている時に
キュアーをよく聴いていました。このアルバムの中でも一番好きな曲です。

●Old Canvas / The fin.(『Old Canvas』/ 2021年)
◎The fin.の作る音は日本ぽいテイストもありながら
世界の様々な音楽を感じられる
ジャンルレスな格好良さがあってとても好きです。

●Always There / Ronnie Laws(『Pressure Sensitive』/ 1975年)
 ◎レアグルーヴ・スムースジャズ系の音楽は、移動中などによく聴いています。
この曲も、のちの渋谷系に通じる音で、サックスも素敵です。



 WAKAKO

 ●The Velvet Underground, Nico / Sunday Morning
(『The Velvet Underground and Nico』 / 1967年)
◎アルバムの制作初期頃に,こんな気だるげな雰囲気を
日本語詞で歌いたいなと思いながら聞いていました。
日曜日の朝というテーマにも影響を受けています。

●Prefab Sprout / Appetite (『Steve McQueen』 / 1985年)
◎男女のツインボーカルをやるならこんな感じにしたいと思っていました。
透明感のある二人の声が絡み合う感じを目指したいと思っていました。

●Blueboy / Sea Horses(『If Wishes Were Horses』/ 1992年)
◎Blueboyも男女のツインボーカルをやるなら
こんな感じがいいなと思って聴いていました。
ジャカジャカギターに男女のボーカルが物憂げに絡む感じが好きです。

●another sunny day / you should all be murdered
(『London Weekend』/ 1992年)
◎高口さんにネオアコやアノラックについて色々と語っている時に、
よく引き合いに出していた1曲。
迫りくる切なくもの悲しいギターのイントロから始まり、
曲を貫くムードに胸がキュッとなる1曲。

●The Hit Parade / You Didn’t Love Me Then(『With Love From』/ 1988年)
◎高口さんにネオアコって何なの?と聞かれて勢い余って
この曲を何回も送るくらい自分のなかでこの曲の気分がとても好きです。
青くて勢いがあって,不安定なアンニュイさが堪らないのです。

●sunnyday service / picture in the sky 
(『COSMO-SPORTS ep』 / 1990年)
◎「Fluttering Snow」のデモを聞いたときに,狭い空間が似合うと思い
こんな閉塞感のあるアレンジにしてほしいと伝えるときに
の曲を聞いてもらいました。
いい具合の閉塞感が出せたと思うので、
どんな手法で録音したのかCDで確認してみてください。

●b-flower / 日曜日のミツバチ (『Clover Chronicles I』 / 1994年)
◎「こがらしの子守唄」のデモを受け取ったときにこの曲の目指す
最終的な音楽的な着地点と世界観の共有のためにこの曲を高口さんに送って、
b-flowerのもつネオアコ要素を理解してもらいました。

●the Hang Ups / Top of Morning(『So We Go』 / 1997年)
◎「サーチライト」は1番初めのデモのメロディや世界観が
あっけらかんとした広がりすぎるエバーグリーン具合だったので、
もう少し引き締まったネオアコっぽさを出したいと色々と考えていた時に目指したい方向性の参考にしました。「サーチライト」は歌詞もなかなか決まらなくて、
メロディも何度も修正してもらいました。

●group_inou / BLUE (『MAP』 / 2015年)
◎「Spring Swan」の素案のコードを送ったあとに私の頭の中にこの曲がぐるぐるとうごめいていました。素案のメロや雰囲気の参考にしました。

●Virginia Astley / Darkness Has Reached Its End
 (『Hope in a Darkened Heart』 / 1986年)
 ◎世界の闇を克服する愛の力について歌い上げるこの曲を聞くたびに、
不条理で理不尽な世界を憂いてばかりいてはいけないと励まされます。
ボーカルの目指す方向性としてVirginia Astleyのように清涼感を感じさせつつも
物憂げさや儚さがある歌い方を参考にしています。



キモトケイスケ

●what you want / My Bloody Valentine (『loveless』/1991年) 
(アルバム参加曲 ♪ラプラスの砂時計) 
◎一番初めにレコーディングに参加した曲でした。
お二方のイメージにない曲調だったので、新鮮な驚きとともに、
他にどんな曲が出てくるのかを楽しみにしていました。

●Big Bad Bingo / The Flipper’s Guitar
(『CAMERA TALK』1990)
(アルバム参加曲 ♪Candy Drip) 
◎デモ音源をその場で聴いてすぐにレコーディングしました。 
ノリと勢いで弾いたアコースティックギターが
曲の雰囲気に合ってるかなぁと思ってます。
なんとなくフリッパーズの2ndに入っていそうな感じの曲です。

●T’en va pas / Elsa(1986年) 
(アルバム参加曲 ♪夢の隨に) 
◎哀愁を感じる曲です。なんとなくヨーロッパの雰囲気があって、
すぐにこの曲が思い浮かびました。
儚げな雰囲気が出せればと思ってギター弾きました。

●Under The Jamaican Moon / Nick Decaro(『Italian Graffiti』/1974年)
 ◎歌の伴奏でギターを弾く時に、まずDavid T.Walkerが頭に浮かびます。
曲に寄り添いつつも、自分の色もしっかり出せるギターは永遠の憧れです。
いつかはあんな風に弾いてみたいなぁと思っています。
 名演は数々ありますが、最近よく聴いてるアルバムの冒頭の曲です。



 最後に本作の総評になるが、これまでドラマーやキーボディスト、アレンジャーとして裏方的立ち位置だった高口が、優れたソングライターとしても開眼して、音大出身でボーカリストとしてプロであるWAKAKOと組んだことで、確かな成果を発揮したファースト・アルバムに仕上がったと確信した。
 筆者の詳細な解説を読んで興味を持った読者は、リンクしたECサイトから予約入手して聴いて欲しい。 

(テキスト:ウチタカヒデ










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2025年7月12日土曜日

Ray Davies作「Nobody's Fool」

  昔YouTubeを観ていたら、キンクスのレイ・デイヴィスが弾き語る「Nobody's Fool」のデモ音源が流れてきた。すごく惹かれて何度も聴いていたのだけれど、キンクスのオリジナルアルバムの曲でもなさそうだったので、この曲はなんだろうと思っていた。(現在は2013年再発盤のキンクス『マスウェル・ヒルビリー +13 デラックス・エディション Sanctuary UICY75872-73』のボーナストラックなどで収録されている)

Nobody's Fool / Ray Davies (Demo)

 他にコールドターキーというグループのバージョンも存在することは分かったものの、このコールドターキーが何者なのか疑問に思いつつもそのままにしていたので、今回もう少し詳しく調べてみた。

 「Nobody's Fool」は70年代初頭に放映されたアダムフェイス主演、英ITVのテレビドラマ『バッジー』第2シリーズのテーマ曲だそうだ。レイ・デイヴィス作曲、ジミー・ホロウィッツプロデュースで、1972年にパイ・レコードから、コールドターキーのクレジットでシングルリリースされた。B面は、子供向け合唱団ザ・ストリート・キッズが歌う別のテレビシリーズ『セサミストリート』のテーマ曲で、プロデュースは同じくジミー・ホロウィッツ。もともとこちらがA面になる予定だったそうだけれど、「Nobody's Fool」がヒットした為曲順を変更したらしい。イントロはキンクスの「アニマルファーム」(1968年『ヴィレッジ・グリーン・プリザヴェイション・ソサエティ』Pye Records NPL18233 収録曲)に似せた作りになっている。

Nobody's Fool / Cold Turkey

 コールドターキーというグループはこの音源のみでその後何もリリースしておらず、彼らが誰だったかは議論の的になっている。キンクスの別名義の可能性が高いとも言われているけれど、スウェーデンのRock’n’Roll Magazineのインタビューでレイ・デイヴィスが答えた通りなら、コールドターキーはキンクスに似せたサウンドを作ろうとしていたけれど、キンクスではないとされる。別の推測では、アンディ・ボーン(ベース)、バリー・デ・スーザ(ドラム)、ボブ・コーエン(ギター)、クリス・スペディング(ギター)、ジミー・ホロウィッツがピアノを弾いているという話、ボーカルはストーリーテラーというグループに所属していたロジャー・ムーンではないかという説などがあるよう。コールドターキーの「Nobody's Fool」は、『キンクト!~キンクス・ソング&セッションズ 1964~1971(Ace/CDCHD1463)』などで聴くことができる。この編集アルバムにはレイ・デイヴィス作の楽曲を他アーティストがカバーしたものなどが収録されていて、一部キンクスが演奏に参加しているものや、弟のデイヴ・デイヴィス作の楽曲も含まれる。

 コールドターキーのリリースより前、1971年にマンフレッドマンのメンバーで、作曲家のマイク・ヴィッカーズも「Nobody's Fool」を録音していたようなのだけれど、リリースされているのかどうか、その音源は見あたらなかった。

 2019年には、カルト映画やテレビ番組のテーマ曲を集めたコンピレーション 『Cult Themes Forever(Future Legend Records – FLEG.37CD)』に、グレンダ・コリンズによるカバーが収録された。また、同じ年、BBCラジオ4でポール・ウェラーとサッグス(グラハム・マクファーソン)もデュエットでカバーしている。

Nobody's Fool / Suggs & Paul Weller

おそらくこれとは別バージョンだろうか、今月25日にリリースされるポール・ウェラー のカバーアルバム『ファインド・エル・ドラド(Parlophone 2173.274893)』にも、「Nobody's Fool」が収録されるようだ。

 キンクスやキンクスの関連曲には、当初未発表だったり、あまり知られていない中にも本当にいい曲が多いなと思う。


参考・参照サイト:

https://popdiggers.com/kinda-ray-davies/

https://onlyrockandroll.london/2021/04/09/the-great-lost-kinks-single/


執筆者・西岡利恵
60年代中期ウエストコーストロックバンドThe Pen Friend Clubにてベースを担当。


【NEWS】
2025年7月30日(水)まで 
クラウドファンディング実施中
2枚組NEWアルバム [Songularity - ソンギュラリティ]​
(プロジェクトページ)

【LIVE】
2025年8月30日(土) 東高円寺UFO CLUB【Color Me Pop】
(チケット予約)

リリース
■ベストアルバム第二弾『Best Of The Pen Friend Club 2018-2024』
■カバーアルバム『Back In The Pen Friend Club』
CD、配信にて発売中

(試聴トレーラー)




2025年7月4日金曜日

短冊CDの日 2025 -シングルCDの祭典-


 2023年から展開されていた『短冊CDの日』のイベントが今年も7月7日”七夕の日”に開催される。
 これは1988年に8cmサイズのCDを短冊型パッケージにしたシングルCDが生産開始されて35周年となった、2023年から展開されている『短冊CDの日』のイベントで、再ブームの兆しを見せているのだ。90年代に青春時代を送った世代にとっては懐かしく、デジタル配信で育った令和の若い世代にとっては、この8cmサイズのCDのフォーマットは、アナログ盤やカセットテープと同様に音楽産業のリバイバル・ブームと言えるのだ。
 ここでは『短冊CDの日 2025』にエントリーされて、7月7日に同時リリースされる中から、弊サイトのカラーや筆者の好みやで選出した作品を詳細レビューで紹介したいと思う。

●短冊CDの日 2025 -シングルCDの祭典-公式サイトリンク



Wink Music Service 
『素直な悪女/ラ・ブーム ~だってMY BOOM IS ME~』(VSCD9747)
 『Fantastic Girl/Der Computer Nr.3』(VSCD9748)
 『ミツバチのささやき/ロマンス』(VSCD9749) 

 昨年のキャンペーンでファースト・シングル『ローマでチャオ/ヘンな女の子』を取上げたWink Music Service(ウインクミュージック・サービス/以降WMS)は、同年7インチでリリースした3作の『素直な悪女/ラ・ブーム ~だってMY BOOM IS ME~』、『Fantastic Girl/Der Computer Nr.3』、『ミツバチのささやき/ロマンス』を今年はエントリーしている。それぞれタイトル曲とカップリング曲に各インスト・ヴァージョンの計4曲を収録しており、7インチを所有するファンにもコレクターズ・アイテムとして必携である。
 
 各曲の詳細レビューはリンク先の当時記事を読んで欲しいが、弊サイト的にはソフトロック色が強く、筆者(管理人)が2024年のベストソングに選出したオーバンドルフ凜(りん)歌唱の『Fantastic Girl』が特にお勧めである。
 またこのパッケージでのヴィジュアルでもゲスト・ボーカルの美少女ハーフ・モデルのアンジーひよりと前出のオーバンドルフ凜、現役アイドルの白鳥沙南の存在感は大きく、WMSを主宰するベテラン・クリエーターのサリー久保田と高浪慶太郎による究極のポップ・ユニットの戦略は、音楽面以外にも成功しており、今後の活動にも期待するばかりだ。


Wink Music Service (左から高浪慶太郎、サリー久保田) 

アンジーひより    オーバンドルフ凜   白鳥沙南

◎『素直な悪女』+『Fantastic Girl』:詳細レビューはこちら
◎『ミツバチのささやき』(『It Girls』収録時):詳細レビューはこちら


 
平野友里(ゆり丸)『世界でいちばん熱い夏』(NRSD-3156)

 同じく昨年『超ゆり丸音頭』(プロデュース:ムーンライダーズ白井良明)をレビューしたアイドル・シンガーのゆり丸こと平野友里は、80年代後半にヒットした、PRINCESS PRINCESSの「世界でいちばん熱い夏」(1987年/最高順位:1位)と、渡辺美里の「恋したっていいじゃない」(1988年/最高順位:2位)のカバーをカップリングしたシングルでエントリーしている。サウンドプロデューサーには近年マスタリング・エンジニアとしても著名なmicrostar佐藤清喜が起用され、全ての演奏も手掛けおり、彼が得意とする英国エレクトロ・ポップのカラーも見え隠れしている。収録は各曲のカラオケ(インスト)・ヴァージョン含めた4曲に、「超ゆり丸音頭」を佐藤によりダブミックスした「超ゆり丸音頭(nicely nice dub mix)」を加えた計5曲となっている。 


 ゆり丸のプロフィールは前回のレビューを参照頂くとして、このカバーについて解説しよう。「世界でいちばん熱い夏」は、PRINCESS PRINCESSのボーカル奥居香の作曲、ドラム富田京子の作詞で、原曲のアレンジはバンドとプロデューサーである笹路正徳(フュージョンバンド元マライア出身)が共同クレジットされている。
 この曲を聴いてポップス・マニアは直ぐに分かると思うが、サビのオマージュ元はフランキー・ヴァリの「Can't Take My Eyes Off You」(1967年)だろう。ここでのカバーはオリジナルと異なり、このキャッチャーなサビを冒頭に持ってきて聴き手にインパクトを与えているのがグッドアイデアだ。基本アレンジは完成度が高かった原曲を踏襲しながら、コーラスやギター・カッティング・パターンを変え、シンセ・ドラムのアクセントを入れている。

 カップリングの「恋したっていいじゃない」は、渡辺美里による作詞、作曲は後にダンス&ボーカルグループSPEEDのプロデューサーとして活躍する伊秩弘将で、アレンジは大貫妙子やEPOなどを手掛けたベテランの清水信之。このオリジナルは渡辺自身が出演するコーヒーCMのタイアップ曲だったこともあり、アップテンポで躍動的な曲だった。遡る1984年にカセットテープCMのタイアップ曲で、日本でもヒットした米女性シンガー、Teri DeSarioの「Overnight Success」に通じる明快さはいかにも当時のヒットポップスである。
 ここでのカバーは佐藤がリスペクトする英国人プロデューサーのトニー・マンスフィールド風のシンセサイザーのサウンドが聴けてマニア心をくすぐる。両曲ともゆり丸の非凡な歌唱力によりオリジナルの完成度にも引けを取らないので、80年代ポップス・ファンにもお勧めである。
 またボーナストラックの「超ゆり丸音頭(nicely nice dub mix)」は、英国プロデューサーのエイドリアン・シャーウッドが1979年に設立したOn-U Sound Recordsに通じるダブミックスで、オリジナルを換骨奪胎した大胆なサウンドは新鮮に聴けてダンス・ミュージックとしても面白い仕上がりだ。 



TAMAYURAM (まゆたん✖️ルカタマ)
『bye-bye, tape echo』(NRSD--3153)

 TAMAYURAM(たまゆらむ)は、シンガー・ソングライターのルカタマと、嘗て『三宅裕司のいかすバンド天国』(通称イカ天)への出演で一躍知られた伝説のガールズバンド“マサ子さん”のボーカルまゆたんで結成された女性2人組ユニットだ。
 本作『bye-bye, tape echo』は、今年2月にリリースされたファースト『She’II ―あの子が世界を赦すまでー』と同様に短冊CDのフォーマットに拘ったセカンド・シングルとなる。
 アイドルグループ ”めろん畑a go go”出身のルカタマは、筆者の2024年ベストソングで選出した広瀬愛菜の「LA BLUE feat.MCあんにゅ ルカタマ」でフューチャーされるなど、その活動は多岐に渡るので記憶に新しいと思うが、このユニットもユニークな存在なのでここで取上げたい。 

左からまゆたん、ルカタマ

 タイトル曲の「bye-bye, tape echo」は、本作のプロデューサーである音楽ユニットdetune.(デチューン)の郷拓郎(ごう たくろう)がソングライティングとアレンジを手掛け、ギター以外の全ての演奏とプログラミングまで担当している。高域のまゆたんと中音域の柔らかいルカタマの声質のブレンドがこのユニットの魅力であるが、郷はそんなボーカル・パートが引き立つサウンド作りをしている。ラグディなドラム・ループにウーリッツァー系エレピや各種シンセで上物を構築し、サエキけんぞう率いる”ハルメンズX”のメンバーでもあるギタリストの吉田仁郎が複数のギター・トラックでプレイしている。

 カップリングは、ムーンライダーズが1986年にリリースし、筆者が最高傑作候補に挙げる『Don't Trust Over Thirty』のB面3曲目に収録された「A Frozen Girl, A Boy In Love」(作詞:滋田みかよ)のカバーである。ここでは同曲の作曲者でライダーズの武川雅寛がヴァイオリンとコーラス、また昨年古希を迎えた鈴木博文もコーラスでゲスト参加するという豪華さである。アレンジ的にはオリジナルより音数を減らしテンポをやや下げて空間を活かし、まゆたんとルカタマの個性あるボーカルのコントラストがより楽しめる。先人二方のコーラスもこのボーカルを引き立てながら、各々爪痕を残すパフォーマンスをしているのが、らしくて嬉しくなる。 

 また今回ここで紹介した、ゆり丸やTAMAYURAM以外のレーベルメイトも同日短冊CDをリリース予定なので触れるが、XOXO EXTREME(キス・アンド・ハグ・エクストリーム)から一色萌に続いてソロデビューした小日向まおの『永遠』(NRSD-3155)、富士山ご当地アイドルグループの 3776 (みななろ)の『さよなら渦巻きの中の私』(TANZ-3776)、そして嘗てヒットしたアニメ『らんま1/2』(1989年/原作:高橋留美子)の主題歌をカバーした、シンガー・ソングライター兼アイドルの小日向由衣の『じゃじゃ馬にさせないで』(NRSD-3152)と、個性派ぞろいなので是非注目してほしい。 

小日向まお『永遠』
(NRSD-3155)disk union 予約
3776『さよなら渦巻きの中の私』
(TANZ-3776)disk union 予約
小日向由衣『じゃじゃ馬にさせないで』
(NRSD-3152)disk union 予約



Usabeni & MaNaMaNa『女ともだち』(AVOC-1005)

 ムーンライダーズ絡みでは、鈴木慶一が作編曲とプロデュースを手掛けた野宮真貴のデビュー・シングル「女ともだち」(1981年/作詞:伊藤アキラ・資生堂CM曲)を、アイドルのUsabeni(宇佐蔵べに)と、ミライスカート出身のMaNaMaNa(林奈緒美)が、Usabeni & MaNaMaNaのデュオ名義で今回カバーして短冊CDでリリースする。
 彼女達は歌詞の世界そのままに実際の友達であるということもあり企画されたらしく、収録曲は同じバックトラックで、UsabeniとMaNaMaNaがそれぞれリードボーカルを取ったヴァージョンを収録し、お互いが双方のヴァージョンでコーラスを取っているという稀なレコーディングが施されている。

左からUsabeni、MaNaMaNa

 今回のカバーでは元相対性理論集団行動(活動休止中のため復活希望!/ドラム:西浦謙助)のリーダーである真部脩一がアレンジを担当し、オリジナルが持っていた慶一イズムなチャイニーズ・スケールのニューウェイヴ感覚を、よりキッチュなサウンドでリメイクしている。コーダにはオリジナルにはないアンニュイなシンセサイザーソロがあり、ライダーズの「鬼火」(『MODERN MUSIC』収録/1979年)を彷彿とさせてライダーズ・マニアとしては嬉しい。
 これらは嘗て『ハイファイ新書』(相対性理論/2009年)で聴けた真部の感覚にも近く、今回この組み合わせを実現させ、これまでにBase Ball Bearやフジファブリック等々多くのバンドを発掘、育成したA&Rマンで、プロデューサーの加茂啓太郎の企画力には敬服してしまう。
  Usabeni、MaNaMaNaのファンの他、初期相対性理論から近年真部が楽曲提供とバックバンドで参加するano(あの)のファンにもアピールするだろう。



スワンスワンズ
『お星さま採集~白鳥倶楽部のテーマ~』(SW-005)

 最後に今回プレスキットが送られてきて初めて知ったのが、2人組アイドルグループのスワンスワンズで、新曲の『お星さま採集~白鳥倶楽部のテーマ~』を初短冊CDでリリースする。
 彼女達は2022年4月に結成された完全セルフ・プロデュースのグループで、メンバーのあみは作詞を、あかりが振り付けを各々担当し、作編曲とバックトラックは彼女達が気に入ったクリエイター達に発注するというプロダクションで楽曲制作をおこなっている。大阪を拠点に活動し、東京や京都、名古屋など都市部でのライブイベントにも多く参加しているようだ。
 本作にはタイトル曲とカップリングの「パーフェクトスコール」、各インスト・ヴァージョンの計4曲を収録している。 

左からあみ、あかり

 アーテイスト写真をご覧の通り、まずは彼女達のロリータファッションに目を奪われてしまうだろうが、筆者はタイトル曲「お星さま採集~白鳥倶楽部のテーマ~」を一聴してその高度な音楽性に直ぐに魅了されてしまった。
 3分弱の尺なのだが、パート毎に転調とテンポチェンジを繰り返しメロディも極めて複雑で、あみのファンタジーな歌詞の世界にインスパイアされたであろうサウンドに仕上がっている。敢えて言えば、サイケデリックロックやプログレッシブロックのマニアにしか作れない楽曲であり、特にサビの「わたしたちは白鳥倶楽部・・・」からのパートのメロディはクラシック音楽の素養がないと編み出せないし、続くブリッジのペンタトニック・スケールのメロでクールダウンさせるテクニックも巧みだ。
 作編曲は大阪で活動するマルチプレイヤー兼エンジニアの吉井大希で、全ての演奏も彼が一人多重録音で担当しており、そのセンスも含め令和のシド・バレットロイ・ウッドと呼んでしまいたい。 

 カップリングの「パーフェクトスコール」は、一転してステディな打ち込みシティポップ・サウンドで、リズムパターンは竹内まりやの「プラスティック・ラヴ」(1984年)を踏襲している。不毛の恋愛を綴ったあみの歌詞もサウンドにマッチしていて、ドライブミュージックとしてリスニング可能だ。作編曲は大阪音大卒の若き作編曲家のマキシコーマで、キーボード類とプログラミングなどバックトラックも一人で担当している。ライブでの再現性が難しそうな転調が多い「お星さま採集」に比べ、この「パーフェクトスコール」は今後ライブ・レパートリーの定番になるかも知れない。


 以上紹介した各作品は短冊CDのフォーマットにより数量限定のため、筆者の詳細レビューを読んで興味を持った読者は、各リンク先から直ちに予約し入手して聴いて欲しい。

(テキスト:ウチタカヒデ) 

2025年6月15日日曜日

California Dreamland

  

 もしも米国音楽の地図に、ひときわ眩い光を放つ地点があるとすれば、それは間違いなくCaliforniaの海辺、波打つ西海岸にあるだろう。そしてその座標を指し示す星のひとつが、Brian Wilsonという存在だ。だが、その煌きは決して最初から祝福されていたわけではない。むしろその原点は、土埃舞う中西部にあった。Wilson一族は、移ろいやすい気候と単調な農業に苦しむ中西部の片隅から、新天地を求めて西へ向かった。米国の理想――自由、解放、再出発――それを信じた家族の、汗と涙の旅路だった。
California。それは楽園の象徴だった。しかし、現実はどうだ。そこに待っていたのは、経済的苦境、社会の冷淡さ、そして家族内部の圧力だった。Brianの父、Murry Wilsonは、自らの音楽的な夢に未練と期待を持ちながら、家庭にもその執念を託す。厳格で、時に暴力的な教育方針のもと、少年Brianはただ音に救いを求めた。ピアノの前、ビーチの風、AMラジオ。そこに彼だけのユートピアを築き始めた。だが、その逃避は甘美なものばかりではなかった。若くして名声を得たBrianは、60年代中頃から重度の精神疾患に苦しむようになる。統合失調症的な症状、幻聴、不安障害。そしてそれを和らげようとした薬物依存。音楽の天才として評価される裏側には、孤独と混乱に苛まれる青年の姿があった。
Brianの音楽は、単なるポップではない。1960年代、大英帝国から押し寄せた「British Invasion」が米国音楽界を席巻する中で、彼の存在は異質だった。彼は“反撃”しようとしたのではない。自分だけの音の宇宙を築くことで、英国勢の陰に色褪せない米国音楽の魂を示したのだ。『Pet Sounds』はまさにその象徴。コード進行は複雑で、多彩なハーモニー。動物の鳴き声や管弦楽とロックンロールコンボの層が交錯し、当時の若者(特に英国人)たちは「音楽って、こんなに広くて深かったのか」と目を見開いた。だが、Brianの世界は、ただ未来に向かって突き進むものではない。その音楽には、両親から影響を受けた戦前の米国ポピュラー音楽の遺伝子が、色濃く流れている。George GershwinやIrving Berlinの哀愁と洗練、Boogie-Woogieの溌剌さ、Doo-Wopの甘やかかつ滑稽なハーモニー、Jazzの自由な精神。彼の楽曲には、米国の音楽史が縦横に編み込まれ、重層的な音の物語が展開される。同時にそれはまるで、家族の歴史を語るような音楽だ。苦難の道を歩んできたWilson家の旅路。希望を胸に西へ進んだ彼らの軌跡は、米国建国の神話と重なる。その神話の続きを、Brianは音で描いた。『Smile』は完成に多くの年月と協力を要したが、まさに“西へ進んだ米国”が辿り着いた精神の地平を音にしたものだと言っていい。

彼の音楽に耳を澄ませば、そこには明るさと哀しみが混じり合う。主旋律の中に潜む切なさ。コーラスの重なりによって生まれる奥行き。転調とコード進行がもたらす予測不能の展開。そこには、愛というものの不確かさと、それでも信じようとする意志が込められている。恋のときめきと、失われた少年期のノスタルジアが交錯する。サーフィンと波の下に隠された、父との確執、兄弟との葛藤、精神的な苦悩。すべてが「音楽」という形で再構築されていく。まるで、人生そのものが一つの交響曲となって流れているかのようだ。
また、兄弟たちとの関係も彼の創作に大きな影響を与えた。Carl Wilsonの包容力あるボーカル、Dennis Wilsonの野性的でロマンチックな感性。これらはBrianの繊細な作曲に対する理想的な対位法となり、The Beach Boysというユニットの総体的な表現力を高めた。一方で、家族だからこその軋轢も存在し、それが時にグループの亀裂を生む原因ともなった。

今日、Brian Wilsonの音楽は改めて再評価され、若い世代にとっても新たな発見の対象となってきた。その理由は、彼の作品が単に懐かしさやノスタルジーに訴えかけるものではなく、音楽という手段を通して人間の感情、記憶、そして再生を描いているからだ。Brianの音楽は、私たちに問いかける——人生の痛みをどう乗り越え、どのように希望へと変えていくか。
Brian Wilsonは、単なる天才ではない。彼は、一族の歴史と米国の理想、ポピュラーミュージックの可能性と限界の狭間で、孤独にして壮大な戦いを繰り広げてきた存在だ。音楽という武器で、彼は“戦った”のではない。“語り” “許し”、そして“夢を見た”。Brianの出自と重なる米国西海岸という土地も、彼の音楽性を語る上で欠かせない。太平洋の広がり、陽光、そして新天地としての自由。西海岸は常に、米国人の理想と幻想が交差する場所であった。Brianはそこに現実と幻想の境界を曖昧にするような音楽を描き出し、西海岸の風土と精神を音に変えた。

そしてその夢は、時代を超えて今も響き続けている。今、彼の残した音を聴く時、我々はもう一度、米国という国の魂に触れているのかもしれない。希望、苦悩、家族、自由、敗北、そして再生――Brian Wilsonの音楽には、これらすべてが宿っている。西へ進んだ者たちが見た、果てなき空と水平線。その先に、彼の音楽が広がっている。その才能は人間の限界を超え、音楽を通して世界の構造を再構成するような力を持っていた。しかしその光のような才能ゆえに、同時に、この世界で生きることの苦しみも広く受け入れざるを得なかったのだろう。この世にただ一瞬だけBrianだけに聞こえてきた、幻のようなハーモニー。Brian Wilsonは、何かに選ばれた存在だった、それは、本当は天上に居るべき存在が、すこしだけ私たちのために降りてきてくれたのか?
80年余りの生涯は長いようで、しかし本人にとっては、この現世の衆生へ天上の調を響かせんとする「発声練習」のためのわずかな旅だったのかもしれない。

──そして最後に、このコラムを締めくくるにあたって、どうしても触れずにはいられない一点がある。それは、Brian Wilsonが一生心の底から愛した“食べ物”が、何だったのか──それを筆者が探り出せなかったことである。
いや、ピアノの前でうつむきながら「Surf’s Up」のコードを爪弾くBrianに、「一番好きな食べ物は?」などと尋ねるのは、あまりに場違いで無粋だ。しかし、その一言をこそ、誰かが聞いておけばよかった。サンドイッチだったのか?それともミルクシェイク?はたまた、ひと口頬張ればHawthorne Boulevardで車を駆け抜けた青春が蘇るような、西海岸特製バーガー、いやいやRoger Christianと夜を徹して語り合った際パクついたアイスクリーム・サンデーだったのか?──。
今となっては、それも永遠の謎である。
Brianの音楽は、あらゆるコード進行と情感、リズムと音色の選択によって、私たちに人生の奥行きを教えてくれた。しかし彼の胃袋が最も欲した一品──それだけは、音楽の中にすら残されていない。
ああ、それさえ聞いておけば、彼の魂をもうひと匙、味わえたかもしれないのに。
けれど──だからこそ、永遠の謎がまた一つ、彼の神秘の一部として私たちの心に刻まれるのかもしれない。

Your imagination running wild!

California Dreamland - A Tribute to Brian Wilson

Selection:MaskedFlopper,  Takahide Uchi(WebVANDA)

If there were a single spot on the musical map of America that gleamed more brightly than the rest, it would surely lie upon the sun-drenched shores of California, along the undulating edge of the western coast. One of the stars to mark that sacred coordinate is, without question, the figure of Brian Wilson. Yet his brilliance was not born of immediate blessing. Rather, its origin lay in the dust-choked hinterlands of the American Midwest. The Wilson family, wearied by the capricious weather and the monotony of agricultural toil, ventured westward in search of renewal. The American ideals of freedom, release, and new beginnings shimmered before them as a guiding light, their journey steeped in sweat and sorrow.

California was to be the promised land. And yet, what awaited was not paradise, but economic hardship, societal indifference, and mounting pressure within the family itself. Brian's father, Murry Wilson, having laid aside his own musical aspirations, channeled that frustrated passion into his household. Under his stern, at times violent, regime, young Brian sought solace in sound alone. At the piano, by the seaside, through the crackling of magic transistor radio, he began constructing a utopia of his own design. But this escape was no untroubled reverie. Attaining fame in his youth, Brian would soon find himself beset by profound mental afflictions. Schizophrenic episodes, auditory hallucinations, and crushing anxiety took their toll, further complicated by the lure and subsequent dependence on narcotics. Behind the image of the musical prodigy was a young man besieged by loneliness and confusion.

His music, then, is no mere confection of pop. Amidst the so-called "British Invasion" of the 1960s, wherein English bands stormed the American soundscape, Brian Wilson emerged as a singular force. Not by retaliation, but through the forging of his own sonic cosmos, he preserved the essence of American musical spirit. The album Pet Sounds stands as the very embodiment of this endeavour. Its harmonic complexity, its symphonic interplay of animal calls, orchestration, and rock instrumentation, left listeners—particularly the British—utterly astounded. "So music," they thought, "can reach such depths and breadths."

Yet Brian's musical vision was not merely futuristic. It bore within it the DNA of pre-war American popular music—the melancholy and elegance of Gershwin and Berlin, the exuberance of boogie-woogie, the sweet and ludicrous harmonies of doo-wop, the liberty of jazz. His compositions wove the American musical lineage into a multidimensional tapestry. At once, it resembled the chronicling of a family history. The journey of the Wilsons westward in pursuit of hope mirrors the very mythos of America itself. And Brian, in turn, drew out that myth in tones and melodies. Smile, though taking years and many hands to reach fruition, was nothing less than the spiritual frontier that America found upon arriving at the western edge.

Listen closely, and one hears in his music a mingling of brightness and sorrow. A melancholy nested in the melody, a depth revealed in the layered vocals, an unpredictability wrought by modulation and harmonic divergence. It is music suffused with the uncertainty of love and the wilful insistence upon believing in it nonetheless. The flush of young romance collides with the nostalgia of a lost "in my childhood". Beneath the surfboards and shimmering waves lie unresolved tensions with his father, fraternal conflict, and inner despair—all transfigured into music. As though life itself had become a symphony.

His brothers, too, exerted profound influence on his creations. Carl Wilson's tender voice and Dennis Wilson's wild, romantic spirit formed a counterpoint to Brian's delicate craftsmanship. Their union lent The Beach Boys a unique expressive power. Yet familial bonds are double-edged; the very closeness that birthed beauty also gave rise to fracture.

Today, Brian Wilson's work is experiencing a renewed appreciation, even among younger generations. This owes not to mere nostalgia, but to the fact that his music, through rhythm and harmony, engages with the full range of human sentiment: memory, emotion, and renewal. His songs ask us, again and again: how do we bear life's pain, and by what grace do we transform it into hope?

Brian Wilson is not simply a genius. He is a man who waged a vast and lonely battle at the intersection of familial legacy, American ideals, and the boundaries of popular music. He did not so much fight with music as he spoke with it, forgave through it, and dared to dream. The West Coast, his spiritual and geographical home, is crucial to understanding his voice. The Pacific's expanse, the ceaseless sun, the land of liberty—this coast has always been the site where America lays its hopes and illusions. Brian blurred the line between dream and reality, turning that coast's atmosphere into sound.

And that dream continues to echo across time. As we listen to his music today, we might feel we are once more touching the soul of a nation: its hopes, sorrows, kinships, freedoms, failures, and rebirths. The endless sky and horizon seen by those who journeyed west—Brian's music dwells just beyond them. His gift seemed to transcend the human, as though he reconfigured the structure of the world through music. Yet that very luminosity may have exacted a terrible price: to bear the pain of living in this world while channelling another.

That ineffable harmony heard by him alone, in a moment not meant for earth. Brian Wilson was, perhaps, a being chosen by something beyond, descending briefly from heaven to share with us his sound. His eighty-odd years upon this earth, for all their length, may have been naught but a fleeting sojourn—a mere vocal warm-up for performing the celestial.

—And as we bring this reflection to a close, one point remains unresolved, stubbornly lingering. Namely: what was the one food that Brian Wilson loved above all others? Alas, this author has failed to unearth the answer.

To ask such a question—"What is your favourite food?"—of Brian Wilson, head bowed over a piano, softly playing the chords of "Surf's Up"—is surely inapt, graceless even. Yet someone ought to have asked it. Was it a sandwich? A milkshake? A west-coast hamburger redolent of youth speeding down Hawthorne Boulevard"Fun,Fun,Fun"? An ice cream sundae shared with "Hot Rod head"Roger Christian during a night of fervent conversation?

We shall never know. That morsel of knowledge is lost to time.

His music teaches us the intricacies of life through every chord progression, every timbre, every emotional turn. But his truest craving—his deepest hunger—remains beyond the stave. Had we known, -wouldn' it be nice?-perhaps we might have tasted one final spoonful of his soul.

But then again—perhaps mystery is part of the divinity. And thus, one more eternal enigma is folded into the myth of Brian Wilson, never to be dispelled.

Your imagination running wild!

(text by Akihiko Matsumoto-a.k.a MaskedFlopper)