2004年11月13日土曜日

Saigenji:『Innocencia』 (HAPPINESS RECORDS/HRAD-00001) 山上一美インタビュー



デビュー時からその圧倒的なライヴ・パフォーマンスで多くのファンを魅了しているsaigenjiのサード・アルバムが届いた。年一ペースのコンスタントなリリースは、彼の底知れぬ創造力を物語っているかの様で非常に頼もしい。
今回はオリジナリティ溢れる書き下ろしの10曲とカバー曲2曲(S・ワンダー作含む)で構成されており、前2作と同様に聴き応えは抜群に良いのだ。既に彼特有のソングライティング・センスは曲毎に独立した個性を確立しており、アルバムを重ねる毎に各々のタイプが成熟されている事がよく分かる。

ここでは前作のレコーディングやライヴまで彼のサウンドでは欠かせない存在となった、サックス、フルート奏者の山上一美を迎えてレコーディングの様子などを聞きながら本作の魅力を紹介してみたい。
因みに山上はメンバーであるカセットコンロスの活動とは別に、ハナレグミ、アン・サリー、 Dois Mapas等多くのレコーディングで定評のある実力派セッション・プレイヤーとしても知られる。

(山上一美:以下括弧内同じ)「先ずアルバムタイトルになっている「Innocencia」。この曲をはじめて聞かせてもらった時にsaigenjiが「ちょっとラテンぽい曲が出来たんだけど、、」って聞かせてもらったんです。 「えっ!ラテン!?じゃあ他の曲は何ていうの?」という素朴な発言をしちゃったんですが(笑)、曲を聴いて納得でした。私のフルートと島裕介君(RICO、ego-wrappin'等)のフリューゲルホーンが入ってます。島君のアレンジで2管のセクションになっています譜面を見つつ音を相談してっていう作業が凄く楽しかった。録音はホーン2人で一緒に録りました」 

「Innocencia」はこれまでのsaigenjiにしては珍しく、コンテンポラリーなラテンジャズ・テイストの曲だ。 山上が語るホーンアレンジも2管ならではという効果が感じられクールな雰囲気を醸し出し、丁度マーヴィン・ゲイの「Inner City Blues」に抱く感覚に近い。今後彼の新境地的サウンドとなる予感がする。 従来のブラジリアン・テイストな曲ではカーニバルのリズムを取り入れた軽快な「Frevo」、スパニッシュ風味で自らルーツ的サウンドと語る「azul azul verde azul」も美しく印象深い。 

「「Frevo」は2年位前からライヴでやっていましたFrevoっていうのはブラジル音楽のリズムのひとつなんですが2年前はそんな事知らないままに演奏していました。メロディを聴いた時全編ユニゾンしたら面白いだろうなって直感的に思ってピアニカで練習しました。saigenjiの曲の中でも大好きな曲の一つです。「azul azul verde azul」はメロディがとにかく美しくて。私ってサックスはずっとアルトを吹いてきて、他のサックスというのは全然ライヴで使ったことなかったのですが、ふと思い立ってソプラノをライヴで使ってみたら、自分にとっても馴染みがよく、しかも新鮮というちょっと不思議な距離感の楽器だったのですね。録音するにあたってsaigenjiから「ソプラノで」というリクエストがあったのです。鳥とか、雲とか、空に浮いているものをイメージしながら吹きました。 この曲はダイレクトに私の右脳を刺激する感じなので、色んな風景が浮かんでくるのです」

このコメントは本作が、山上をはじめ感性豊かなセッション・プレイヤーの演奏で支えられている事を証明する興味深いエピソードといえよう。saigenjiサウンドに関わる事で各ミュージシャンは強く刺激され、潜在的演奏能力を更に引き出せるという訳だ。 今回の基本メンバーは、これまでの豊富なセッション・ワークを器用にこなしていたメンバーから、彼と同世代や若い世代になったという事もあり、良い意味で一緒に冒険出来たという感じがする。彼の人となりから繋がったミュージシャンの輪がセッションにも色濃く反映されたという事ではないだろうか。

「私は2ndからの参加ですが、彼が1stを作っている頃は知り合いではあったけど、一緒に演奏というのはしてなかったんです。1stをリリースする位のタイミングから徐々に一緒に演奏をする様になりました。それからライヴを重ねてきて、一緒に2ndの録音をさせてもらうという流れになった様な気がしています。 今回のメンバーについても同じ様に2nd以降から彼が一緒に演奏をする様になったメンバーという意味合いが強いのではないかと思います。録音のためにメンバーを集めたというわけではなく、彼の周りの人の輪を録音の場面にもってきたというイメージなのではないでしょうか。 彼が出会ったミュージシャンと曲ごとに写真を撮ったという感じなんでしょうか。正にアルバム!ですよね。 人の輪ということでいえば、素晴らしいミュージシャンは世の中に沢山居ても外国に住んでいたり、既に亡くなっていたり、年代的にあまりに離れていたりいたりと、一緒に演奏をするという機会がもてる人というのは相当限られているのではないかと思います。その意味でsaigenjiという人間と出会うきっかけがあって、彼の演奏から沢山のイマジネーションをかき立てられ、そして一緒に演奏をしている、という事をとても嬉しく思っています」

実に素晴らしいミュージシャンシップではないだろうか。多くを語るよりこの素晴らしさは聴かないと理解出来ないだろう。収録曲の最後を飾るブルース進行ファンクの「テレスコープ」には、そんなセッションの楽しさと創造性が輝いていて、生き生きとしたプレイが聴く者を惹き付けて離さないのだ。この曲で一際活躍するフリーフォームなサックス・プレイをしている山上が、最後にこのアルバムの魅力について付け加えてくれた。

「どの曲も素晴らしいと思うのです。日本語の歌は勿論スキャットの2曲、アカペラのフォルクローレや「Golden lady」等々益々カテゴライズ出来なくなった"saigenjiワールド"を隅々までご堪能あれ!! 今本当に色んな方向から音楽に取り組んでいる彼の姿があらわれていると思います。 saigenjiと周りのミュージシャン、アレンジャー達のセッションの雰囲気が楽しげに響いてくるのが私は大好きです。このアルバムを聴いて頂いたら是非ライヴに来られることをお薦めします! 来年のツアーには私も参加します。この曲達がライヴでどう生まれ変わるのか、ぜひ耳で、目で確かめにいらして下さい!」
(ウチタカヒデ)

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