2025年10月11日土曜日

ザ・スクーターズ:『Listen』


 今年2月にその活動の集大成となる6枚組コンプリート・ボックスを発売し話題となった、ザ・スクーターズが新曲『Listen』(VIVID SOUND/HIGH CONTRAST / HCR9727)を7インチ・アナログシングルで10月22日にリリースする。

 タイトル曲は先月Wink Music Service(ウインクミュージック・サービス/以降WMS)として、『Night In Soho』を7インチでリリースしたばかりで、本バンドのべーシストであるサリー久保田が作曲し、作詞はメンバーのターバン・チャダJr.こと高橋秀幸とサリーが共同で手掛けている。カップリングにはザ・スクーターズのライブ・レパートリーで、60年代モータウン・レコード黄金期のヒットナンバーをメドレーで収録しており、両面共にDJプレイでも盛り上げてくれるだろう。
 それとひと際目を惹くジャケ・フォトグラフは、米ロサンゼルス出身で現在は神奈川県葉山町在住の写真家ブルース・オズボーン(Bruce Osborn)が、来日直後の1984年に撮影した東京モッズ・シーンのショットで、センターのカスタム・ベスパに乗って存在感を放っているのは、他でもない現在ザ・スクーターズでテナー・サックスをプレイする、ルーシーの当時の姿というからファンは驚喜するに違いない。

The Scooters

 バンドのプロフィールにも触れるが、説明不要のカリスマ・ジャケット・デザイナーの信藤三雄をリーダーとし、周辺のデザイナー仲間で結成されたガレージ・バンドがその始まりで、東京モータウン・サウンドとして、音楽通に知られることになった。1982年のファースト・アルバム『娘ごころはスクーターズ』でレコード・デビュー後、僅か2年間の活動で解散してしまうが、その後91年と2003年にコンピレーション・アルバムがリリースされ再注目され、30年振りとなる2012年に橋本淳・筒美京平コンビ、宇崎竜童から小西康陽の著名ソングライター陣が楽曲提供したセカンド・アルバム『女は何度も勝負する』をリリースして活動再開に至った。以降は不定期でライヴ活動を続けている。
 現在のバンド・メンバーは、ボーカルのロニー・バリー、ボーカルとコーラスを兼務するビューティ、コーラスのココとジャッキーの女性4名がフロント・メンバーで、リズム・セクションにギターの薔薇卍、ベースはサリー久保田、ドラムとタンバリンはオーヤ、キーボードとバンド内アレンジャーの中山ツトム。ホーン・セクションはアルト・サックスのサンデーとビートヒミコ、テナー・サックスのルーシーの3名で、バンドのムードメーカーとして不可欠なMCとVocalのターバン・チャダJr.で構成されている。 


 
New Single “Listen” The Scooters

 ここからは収録曲を解説していく。タイトル曲の「Listen」は、嘗てリーダーだった信藤三雄が生前温めていたアイデアを基にサリーが作曲している。この曲は"LOVE & UNIVERSE"というテーマの歌詞を持つダンサンブルなラブソングで、イントロから全般にかけてギター・カッティングは、アーチー・ベル&ザ・ドレルズの「Tighten up」(68年)に通じるハネ方をしており、60年代英国のオリジナル・モッズが好んだノーザンソウルのサウンドである。 
 キュートなロニーのボーカルを引き立てる3名のコーラスとチャダのレスポンスも見事で、若かりし頃の姿がジャケットに写る、ルーシーのムーディなテナー・サックス・ソロを交えながら曲は進行していく。何より新藤の志を引き継いだサリーのセンスが光る一曲となった。

 カップリングの「Motown Medley」は、彼女たちのステージではお馴染みで、60年代モータウン・レコード黄金期のナンバーばかりだ。曲目をオリジナル・アーティストと共に下記に記すが、曲を提供したのはソングライティング・チームの最高峰とされる、ホーランド=ドジャー=ホーランドをはじめ、初期モータウンの柱だったスモーキー・ロビンソン、また歌手兼ソングライターのバレット・ストロングやプロデューサーとしてもモータウンを支えたウィリアム・スティーブンソン、ノーマン・ホイットフィールド、ヘンリー・コスビーなどである。このような名曲群は、現在の音楽にも引き継がれている遺伝子とも言えるので、筆者が作成したサブスク・プレイリストを聴いてみて欲しい。 

 Reach Out I’ll Be There / Four Tops(1968年)
It’s The Same Old Song / Four Tops(1965年)
I Can't Help Myself(Sugar Pie, Honey Bunch)/ Four Tops(1965年)
Stop! In the Name of Love / The Supremes(1965年)
Come See About Me / The Supremes(1964年)
Jimmy Mack / Martha Reeves & The Vandellas(1967年)
Stubborn Kind of Fellow / Marvin Gaye(1962年)
I Heard It Through the Grapevine / Marvin Gaye(1968年)
Money (That’s What I Want) / Barrett Strong(1959年)
Get Ready / The Temptations(1966年)
Fingertips / Stevie Wonder(1963年)  

The Scooters Motown Medley


(テキスト:ウチタカヒデ















2025年10月4日土曜日

Shel Naylor 「One Fine Day」

 前回の記事で触れた、『キンクト!~キンクス・ソング&セッションズ 1964~1971(PCD17745)』に、シェル・ネイラーの「One Fine Day」という、キンクスのギタリストのデイヴ・デイヴィスが提供した曲が収録されている。ザ・ベンチャーズの「Walk Don't Run」の影響を受けて作られた曲だそうだ。フリークビートのコンピレーション『The Freakbeat Scene』(Decca-772 467-6)(Deram-844 879-2)にも収録されているので、そこから知られることの方が多いのかもしれない。

One Fine Day / Shel Naylor

 この「One Fine Day」を歌うシェル・ネイラーというのはどういう人物なのか気になって調べてみると、70年代に人気のあったノベルティ・バンド、ルーテナント・ピジョンの中心人物として知られているロブ・ウッドワードが60年代初期に使用していた別名義だそうだ。

Mouldy Old Dough / Lieutenant Pigeon

 英国中部コヴェントリー出身のロブ・ウッドワードは17歳の時、キンクスやトロッグスのマネージャーとして知られるラリーペイジが開催していた、オーキッドボールルームでの新人発掘コンテストに参加。グランプリを受賞し、この時の賞品だったデッカレコードとのレコーディング契約が決まったそうだ。当時ラリー・ペイジは、リバプール・サウンドに匹敵する "コヴェントリー・サウンド" なるものを生み出そうと、地元の才能ある人材を集めていたらしい。プロデューサーとして、シェル・タルミー、マイク・ストーンを説得して参加させていた。"シェル・ネイラー" というのはラリー・ペイジが名付けたそうで、シェル・タルミーへのトリビュートの意味合いがあるよう。

 シェル・ネイラー名義では2枚のシングルがリリースされている。初のシングルはアーヴィング・バーリンのポピュラーソング「How Deep Is The Ocean」(Decca F.11776)。B面は「La Bamba」。「One Fine Day」は翌年の1964年にリリースされたものだ。この演奏には、後にレッドツェッぺリンとなるジミーペイジとジョン・ポール・ジョーンズが参加している。ドラムはおそらく、キンクスの「You Really Got Me」などの演奏でも知られるセッションドラマーのボビー・グラハムではないかと言われている。冒頭に書いた通り、作曲はデイヴ・デイヴィスだけれど、シングル盤にクレジットされたスペルには誤りがあり、"Davies"ではなく"Davis"になっている。B面は「It's Gonna Happen Soon」という曲で、エジソンライトハウス「恋のほのお」などで有名なセッションシンガーのトニー・バロウズ、英国の著名なソングライター、ロジャー・グリーナウェイ、J. Brooksの3人が作曲者にクレジットされている。J. Brooksについては詳しい情報が見あたらなかった。

 「One Fine Day」には、1965年にラリー・ペイジが結成したラリー・ペイジ・オーケストラによるバージョンも存在する。こちらが収録された『Kinky Music』(Decca LK4692)は、キンクスのヒット曲をインストゥルメンタルアレンジしたアルバムで、キンクスに無断で制作したことで裁判沙汰になったそう。このラリー・ペイジ・オーケストラでもジミー・ペイジとジョン・ポール・ジョーンズが参加している。

One Fine Day / The Larry Page Orchestra



【LIVE】

2025年11月23日(日) 東高円寺UFO CLUB
The DROPS New 7inch Single “Get On A Train” Release Party!
チケット予約


リリース

■ベストアルバム第二弾『Best Of The Pen Friend Club 2018-2024』
(試聴トレーラー)

■カバーアルバム『Back In The Pen Friend Club』
(試聴トレーラー)

8thアルバム『The Pen Friend Club』
(試聴トレーラー)


現在、2枚組NEWアルバム
​[Songularity - ソンギュラリティ]​ 制作中

































2025年9月21日日曜日

Wink Music Service:『Night In Soho/オードリィ・ヘプバーン・コンプレックス』


 サリー久保田と高浪慶太郎による拘りのポップ・グループ、Wink Music Service(ウインクミュージック・サービス/以降WMS)が、2024年から25年にかけてリリースしてきた7インチ・シリーズの第5弾『Night In Soho/オードリィ・ヘプバーン・コンプレックス』(VIVID SOUND/VSEP865)を9月24日にリリースする。 
 本作のゲスト・ボーカルには、ニューウェイヴ系ガールズグループ“ゆるめるモ!”の めあり(2021年加入~)を迎えている。なおこのグループには現在ソロアーティストで大成功している、あのちゃんも2013年から19年まで在籍していたことで知られ、才能の人材プールとして注目すべき存在になっている。

Wink Music Service

めあり

 WMSのプロフィールを改めて紹介するが、ネオGSムーブメントを牽引したザ・ファントムギフトでデビューし、近年はSOLEILからザ・スクーターズなど数多くのバンドに参加するベーシストでプロデューサー、またデザイナーでもあるサリー久保田が、ピチカート・ファイヴ解散後音楽プロデューサー兼作曲家として活動していた高浪慶太郎に「極上のポップ・ミュージックを作ろう」と誘い結成されたユニットである。
 このベテラン・クリエイター2人が、それぞれ培ってきたセンスと活動戦略によって、シングル毎にフォトジェニックな美少女ハーフ・モデルや現役アイドルをゲスト・ボーカルとしてピックアップして、大きな成果を残している稀な存在なのである。これまでに7インチ短冊(8cm)CDの2フォーマットでシングル4枚と、オリジナルアルバム『It Girls』をリリースしている。

 
Night In Soho /
オードリィ・ヘプバーン・コンプレックス 

 では本作を解説しよう。タイトル曲の「Night In Soho」は、作詞はマイクロスターの飯泉裕子、作曲は3人目のWMSとされる岡田ユミで編曲もバンドと共に手掛けている。飯泉による歌詞は、英国ロンドンのウエスト・エンドの一角にあったソーホー地区への憧憬であり、ここは60年代” Swinging London”時代のカーナビー・ストリートなどストリートカルチャーの聖地であった。この地の最大のアイコンとされ、後に世界的スター・モデルとなったのがツイッギー(TWIGGY/Twiggy Lawson)であり、2024年にはドキュメンタリーが映画化もされている。恐らく歌詞のモチーフになっているのは、このツイッギーであり、タイトルは2021年英米合作のサイコロジカル・ホラー映画『ラストナイト・イン・ソーホー(Last Night In Soho)』から来ているのだろう。 
 曲調やアレンジも歌詞の世界そのままに60年代へのオマージュに満ちているが、こちらは米国のThe Fifth Dimensionなど西海岸でレコーディングされたソフトロックの香りがして、ジミー・ウェッブ(Jimmy Webb)作の「Up, Up And Away」(1967年)のリフが引用されている。そしてイントロやコーラスを含めたサウンド全般は、これらのソフトロックのエッセンスを濃縮して1989年に制作された、英国のSwing Out Sisterの「You On My Mind」をオマージュしていると一聴して気付いた。サリーによるイントロのべースラインやフィルを多用した原"GEN"秀樹の迫力のあるドラム、間奏ではファズを効かせた奥田健介(ノーナ・リーヴス)のギター・ソロが良いアクセントになって、めありと高浪のデュエットで歌われるボーカルをバックアップしている。 
 余談であるが、Swing Out Sisterの「You On My Mind」が収録されたセカンドアルバム『Kaleidoscope World』では「Forever Blue」と「Precious Words」の2曲で、前出のジミー・ウェッブにオーケストレーションをオファーするという拘り振りで当時話題だった。後年筆者はウェッブ氏が2000年に初来日ソロ公演をした際、恐れ多くも滞在先のキャピトル東急ホテルのカフェで対面インタビューをしており、この『Kaleidoscope World』についても少し触れているので、寄稿したVANDA28号をバックナンバーで探して一読して欲しい。
Jimmy Webbの直筆サイン入りプレス向けフォト
筆者宛に"Thank for The Great Interview"とある。

 カップリングの「オードリィ・ヘプバーン・コンプレックス」(1985年)は、高浪がピチカート・ファイヴ時代にデビュー曲として作曲し、小西康陽が作詞した記念碑的曲のセルフカバーである。このオリジナルは細野晴臣がテイチク内に設立したNON-STANDARDレーベルから、1985年8月に当時としては異例の12インチ・シングルでリリースされた。サウンド的には近代クラシック的緊張感のあるキーボードが刻まれるヴァースと、ポップで軽いシンセがバッキングするサビのコントラストが効果的だった。またオケの上物は初期メンバーだった鴨宮諒が所有したYAMAHA DX7だけで主に制作されたという説もあるが、相当使い倒していたと想像できる。
 ここでのセルフカバー・ヴァージョンは、サリー、原、奥田によるテンポアップした生演奏のスリー・リズムに、岡田のキーボード類とプログラミングされたストリングスやホーン・セクションがダビングされ、ホーランド=ドジャー=ホーランドがヒットを量産していた頃のモータウンを彷彿とさせる、ゴージャスなサウンドに生まれ変わっている。
 この曲でもめありの愛らしいボーカルをクールにバックアップする高浪だが、嘗て自身が作曲したメロディは極めて独自性があり、映画音楽の大家ヘンリー・マンシーニ(Henry Mancini/1924年~1994年)を彷彿とさせるヴァースと、H=D=H~筒美京平に通じる洒脱なサビのメロディとのコントラストがこの曲の大きな魅力であり、40年後の今でもこのセンスには脱帽してしまう。今回岡田が付加したオーケストレーションやオブリガードのストリングス・ラインも、原曲が持つ高浪のメロディやコード感覚からインスパイアされたと感じさせる、名セルフカバーとなった。
オードリィ・ヘプバーン・コンプレックス / 
ピチカート・ファイヴ(Non-Standard/12NS-1003


 弊サイト読者をはじめとするソフトロックやポップス・ファンは必聴な本作であるが、ディスクユニオンなどでは既に予約受付が終了しているようなので、外資系大手レコード・ショップの店頭発売分を事前チェックし是非入手し聴いて欲しい。


“Wink Music Service “Night In Soho” リリースライブ”

◎出演:Wink Music Service(Vo.高浪慶太郎+Ba.サリー久保田)
Vocals>めあり(ゆるめるモ!)/アンジーひより/
オーバンドルフ凜/白鳥沙南(LIT MOON)
Special Guest>シーズ・ア・レインボー
Gt:奥田健介(NONA REEVES)/Dr:原GEN秀樹/Key&Mp:岡田ユミ

◎日程:2025/10/24(金)
開場日時:18:00 / 開演日時 19:00 

会場:下北沢CLUB Que(東京都)
東京都世田谷区北沢2-5-2

◎チケット予約:eplus / livepocket


(テキスト:ウチタカヒデ






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