2019年3月17日日曜日

We Love Hal Blaine ~ 追悼ハル・ブレイン


既に各メディアで報道されている通り、アメリカの偉大なスタジオ・ミュージシャンでドラマーのハル・ブレイン氏が、3月11日にカリフォルニア州のパームデザートで亡くなった。90歳だった。
1929年2月9日にマサチューセッツ州ホルヨークでHarold Simon Belskyとして生まれた彼は、19歳からプロのドラマーとして活動を開始した。
弊誌監修書籍の読者にとっては説明不要だが、61年にロサンゼルスでフィル・スペクターがフィレス・レコード設立後には、レコーディング・セッションの要となるスタジオ・ミュージシャン集団「The Wrecking Crew(レッキングクルー)」のリーダー格としてそのサウンドに大きく貢献した。
その後もファーストコール・ミュージシャンとして、レコード会社を超えて多くのポップス、ロックのレコーディングに参加し、その数は150曲のトップ10ヒット・シングルを含む約35,000曲におよぶと言われているが、実際はそれ以上のレコーディングに関わっていると思われる。

より詳しく知りたい読者は、関係者のインタビューを中心に構成され2015年に公開された映画『The Wrecking Crew』の映像ソフトでチェックして欲しい。
この様に輝かしいキャリアを持ったミュージシャンは古今東西未来永劫現れないだろう。
ここではハル・ブレイン氏を心より敬愛し、筆者と交流のあるミュージシャン達と共に彼のベストプレイを挙げてその偉業を振り返りたい。
 
 【ハル・ブレインのベストプレイ5】

●曲目 / ミュージシャン名
(収録アルバムまたはシングル / リリース年度)
◎選出曲についてのコメント


【桶田知道】
オフィシャルサイト: https://www.kouhando.com/
 

●Something Latin / Martin Denny
(『Latin Village』/ 64年)
◎マーティン・デニーを聴く時にハル・ブレインを意識したことがなかったので少し吃驚しました。聴くと確かに初期ビーチ・ボーイズに通ずるプレイがあります。

●I Just Wasn't Made For These Times / The Beach Boys
(『Pet Sounds』/ 66年)
◎本曲の中でのパワーワードとともに刻まれるビートが、ただ悲惨ではなく「悲壮」的な印象を残してくれました。ちなみにティンパニとボンゴもプレイしているそうです。

●Moog Power / Hugo Montenegro
(『Moog Power』/ 69年)
◎終始躍動的なプレイですが、その中でもドラムがかなりフィーチャーされている曲です。月並な表現ですが、まさに60’sサウンドの集大成のような印象です。

●Goodbye, Columbus / The Association
(『Goodbye, Columbus』/ 69年)
◎メロディに沿いながらもよく聴くとかなり激しいドラミング、その一方で流れるようなリムパートもあり、静的、且つ動的という美味しすぎる楽曲です。

●Bridge Over Troubled Water / Simon & Garfunkel
(『Bridge Over Troubled Water』/ 70年)
◎だんだんアグレッシヴになるガーファンクルのヴォーカルと共鳴するように打たれる、というより打ち放されるようなスネアは、本楽曲において最も特筆したいポイントです。



【角谷博栄(ウワノソラ)】
オフィシャルサイト:https://uwanosora-official.themedia.jp/ 
 
 

●Be My Baby / The Ronettes
(『Presenting The Fabulous Ronettes Featuring Veronica』/ 64年)
◎ハル・ブレインですぐに浮かぶものはやっぱりこの曲です。
このリフは、もし自分が影響を受けたとしても、手を出してはいけない聖域的なものだと感じております。

●Wouldn't It Be Nice / Beach Boys
(『Pet Sounds』/ 66年)
◎世界でもおそらく最も有名なロックの一曲。
4小節目のスネアの一発からシャッフルに乗せてトキメキが雪崩れ込みます。

●California Dreamin' / The Mamas & the Papas
(『The Mamas & The Papas』/ 66年)
◎初めて聴いたハルのドラムはカーペンターズかこの曲だったと思います。
小学生の頃、親父と卓球をする為に近くの地区センターへ向かう車中でかかっていた記憶があります。
この曲を聴くと、親父に勝てなくて拗ねていた卓球の事を思い出します。

●MacArthur Park / Richard Harris
(『A Tramp Shining』/ 68年)
◎作曲はJimmy Webb。
Hal Blaine、Larry Knechtel、Joe Osborn、Thomas Tedesco。
沢山の感動をありがとうございました。

●Ventura Highway / America
(『Homecoming』/ 72年)
◎中学生の頃に試験勉強の為に夜なべをしていて、目覚ましの為に聴いていました。
50年がたった後でも彼のビートで少年は日本の片隅から70'sのL.Aのハイウェイへとトリップをしていました。青春の一曲。




【近藤健太郎(The Bookmarcs / the Sweet Onions)】
オフィシャルブログ:https://note.mu/kentarokondo 


 ●The Last Of The Secret Agents / Nancy Sinatra
(7”『How Does That Grab You?』B面 / 66年)
◎ひたすらかっこいい、サスペンス映画風味のロックナンバー。
踊らずにいられない。これぞグルーヴ!

●Wouldn’t It Be Nice / The Beach Boys
(『Pet Sounds』/ 66年)
◎外したくない、外せない曲。ただただ好き。美しいメロディとハーモニー、ドラマティックに魅せるドラミングの究極のアンサンブル。

●Up,Up and Away / The 5th Dimension
(『Up,Up and Away』/ 67年)
◎やっぱり心踊りますね。リム・ショットとクラシックギターの小粋な絡みから一転、爽快なドラムとソフトロックなコーラスワーク。素敵です。

●The Boxer / Simon & Garfunkel
(『Bridge Over Troubled Water』/ 70年)
◎心地よいフィンガーピッキングのギターを軸に、突如現るスネア(オーバーダブ)が印象的。
歌詞と相まって、胸が締め付けられるような曲です。

●Saturday / Carpenters
(『Carpenters』/ 71年)
◎リチャードがリード・ボーカルをとるジャジーで軽快なナンバー。
ハルの小気味よいドラミングがたまりません。


【hajimepop】
オフィシャルサイト:https://www.hajimepop.com/ 


●Santa Claus is Coming to Town / The Crystals
(Various Artists『A Christmas Gift For You From Philles Records』/ 63年)
◎フィル・スペクターの大名盤クリスマス・アルバムから。
深いリヴァーヴと豪快なハルのドラムが、更なる華やかさを加えている。

●I Saw Her Again / The Mamas & The Papas
(『The Mamas & The Papas』/ 66年)
◎彼らは、60年代のアメリカにおける象徴的なグループの一つ。
ハルが「その時代の空気を作った」一人であることを再認識させられる。

●Good Vibrations / The Beach Boys
(『Smiley Smile』/ 67年)
◎映画『Love & Mercy』では、ハルが優しくブライアンに語りかけるシーンに、彼のパーソナリティの一端を垣間見た気がした。

●Wedding Bell Blues / The 5th Dimension
(『The Age of Aquarius』/ 69年)
◎計算し尽くされたカラフルなポップスを奏でる彼ら。これはローラ・ニーロのデビュー曲のカヴァーで、ハルの跳ねたリズムが心地良い。

●(They Long to Be) Close to You / Carpenters
(『Close to You』/ 70年)
◎オールタイム・ベストで、個人的に大きな影響を受けた曲。
ジョー・オズボーンとのコンビは、ポップスにおけるリズム隊の理想形だ。






【平川雄一(The Pen Friend Club)】
オフィシャルサイト:https://the-pen-friend-club.wixsite.com/the-penfriendclub  
  
 

 ●How Does It Feel? / The Ronettes
 (『Presenting The Fabulous Ronettes Featuring Veronica』/ 64年)
◎全てが最高ですね。(祥雲貴行のプレイも一聴の価値アリですぞ)

●Do I Love You / The Ronettes
(『Presenting The Fabulous Ronettes Featuring Veronica』/ 64年)
◎『Be My Baby』よりも、これ。

●Green Grass / Gary Lewis & The Playboys
 (『Hits Again』/ 66年)
◎ハル・ブレインって、こういう普通のエイトの刻みが気持ちいいんですよね。
ドラムが歌って踊っているんです。リズムが体の中にある人が叩くエイトだと思います。
あと「アラヨット」的な小気味いいフィルが上手い。笑
こういうセンスのドラマー、すごい信用できますね。

●Aquarius/Let the Sunshine In / The Fifth Dimension
 (『The Age Of Aquarius』/ 69年)
◎そもそも曲が良すぎるんですが、ドラムも最高ですね。
フロアの音がたまりません。ライドのカップも踊ってていいですね。

●(Last Night) I Didn't Get To Sleep At All / The Fifth Dimension
(7”『(Last Night) I Didn't Get To Sleep At All』/ 72年)
◎本当に上手い。


【松木MAKKIN俊郎(Makkin & the new music stuff/流線形 etc)】
オフィシャルブログ:http://blog.livedoor.jp/soulbass77/  
   

●It's going to take some time / CARPENTERS
(『A SONG FOR YOU』/ 72年)
◎細かい小技を連発しながら、そよ風のように撫でるように過ぎていく。なによりドラムが歌ってる。こんなドラムはハルにしか叩けない。

●GOODBYE / AMERICA
(『HAT TRICK』/ 73年)
◎グッバイ、グッバイというリフレインのフェイドアウトと共に、素晴らしいフィルインが寄せては帰す。まさに真骨頂。

●WHO 'S FOR COMPLAININ? / JIM GRADY
(『JIM GRADY』/ 73年)
◎キラリというライドシンバルの比類なき美しさ。トトトトトトと六連で降りてくるタム。
そしてステディなビート。100点満点のポップス。

●恋時計 / 高木麻早
(『TAKE A TEN』/ 74年)
◎萩田光雄アレンジでビーマイベイビーのビートを本人再現。
70年代のクリアなサウンドと大きなドラムセットで聴けるのが嬉しい。

●SAD SONGS / ALESSI
(『ALESSI』/ 76年)
◎ハル流ミディアム16ビート。よく聴けば手数王だが喧しさは微塵も無い。彼の音の一つ一つが音楽そのものだからでしょう。



【Masked Flopper(BB5数寄者)】

●Run-Around Lover / Sharon Marie
(7”『Run-Around Lover』/ 63年)
◎1963年6月Brian Wilsonが憧れのGold Star で初のセッションを行った時の一曲。
ドラムは当然Hal!

● Banzai Washout / The Catalinas
(『Fun Fun Fun』/64年)
◎Terry Melcherプロデュースで、Bruce Johnston-Hal Blaine-Steve Douglas-Leon Russell-etc参加

● Topsy '65 / Hal Blaine
(『Drums! Drums! À Go Go』/ 65年)
◎当時の西海岸のいなたいノリとHal自身の演奏が詰まった名曲!65年当時の空気が真空パックされたような気分に浸れる一曲。

●旅立つ朝 / 江利チエミ
(7”『旅立つ朝』/ 71年)
◎東京キューバンボーイズをバックに民謡を歌う見事な歌唱力の持ち主が、この曲でもHalのドラミングにがっぷり四つで東西共演。

● Night Lights (1965 Version) /  Gerry Mulligan Quintet
(『Night Lights』/ 94年再発)
◎師匠のRoy C Knapp門下からはGene Krupa, など多くのJazz ドラマーが巣立っている。
再発CDのボーナストラックのみ演奏はHal!! 


【ウチタカヒデ(WebVANDA管理人)】

●Not Too Young To Get Married / Bob B. Soxx And The Blue Jeans
(7”『Not Too Young To Get Married』/ 63年)
◎初期フィレスの男女ヴォーカル・ユニットのラスト・シングルで、ハルは結構大胆なプレイをしており、コーダではキック(バスドラ)を連打しまくって足跡を残している。とにかくウォール・オブ・サウンドでも決して埋もれないのが彼のプレイなのだ。

●Let Him Run Wild / The Beach Boys
(『Summer Days (And Summer Nights!!)』/ 65年)
◎天才ブライアンの独創的サウンドに応えるべく、ハルはドラム・キットの概念に縛られないダイナミックなプレイを発揮している。その柔軟なスタンスはBB5黄金期に欠かせない存在だった。

●Along Comes Mary / The Association
(『And Then...Along Comes The Association』/ 66年)
◎このソフトロック・バンドの出世曲は比較的ストレートなリズム構造なのだが、もたったクラップとハルの強烈なグルーヴのコントラストが不思議なサイケ感覚を生み耳に残る。フィルのバリエーションも尋常じゃなく見本市状態。

●A Little Less Conversation / Elvis Presley With The Jordanaires
(7”『Almost in Love』B面 / 68年)
◎02年にリミックスVerがリバイバル・ヒットしたのが記憶に新しい、映画『バギー万才』挿入歌として主演のエルヴィスが歌ったナンバー。
躍動感溢れるシェイクのグルーヴで親の仇のようにスネアを連打するハルのプレイがたまらない。

●MacArthur Park / Richard Harris
(『A Tramp Shining』/ 68年)
◎ジミー・ウェッブが手掛けた7分半のこのポップ・ソナタで、ハルは自らの全演奏テクニックを駆使しドラマティックに演出している。彼の膨大なワークスの中でも後世に語り継がれる名演ではないだろうか。




 (企画 / 編集:ウチタカヒデ) 



2019年3月10日日曜日

コントラリーパレード:『CONTRARY』(miobell records / PCMR0013)


コントラリーパレードが、昨年11月の『PARADE』に続くミニアルバム『CONTRARY』を3月13日にリリースする。
現在はピアノ兼ヴォーカリスト、たなかまゆのソロ・ユニットとなっているが、バンド結成は2001年に遡りそのキャリアは長く、寡作ながらこれまでに1枚のフルアルバムと3枚のミニアルバム、2枚のシングルをリリースしている。
ソングライターとしても評価が高い、たなかのソロ・ユニットとなったのは12年からで、サポート・ミュージシャンをバックにしたバンド編成や弾き語りでのライブ活動もおこなっているので、生で彼女の歌声を聴きたいポップスファンは足を運んで欲しい。
前作と同様にバンド名の一部からタイトルにした本作『CONTRARY』には、元L⇔Rの黒沢秀樹(L⇔R)を筆頭に、以前ここで紹介したRYUTist の『柳都芸妓』に「夢見る花小路」を提供していた佐藤望がアレンジとキーボードで参加している。 またSwinging Popsicleの3名や、元ゲントウキで多くのセッションでも知られる伊藤健太(ベース)と元くるりの森信行(ドラム)が主に参加しており、このアルバムに貢献している。


 では全収録曲5曲の内、筆者が気になった主な収録曲を紹介していこう。
冒頭の「子猫アラーム」は3連シャッフルのサンシャイン・ポップで、バッキングにはSwinging Popsicle(97年にメジャー・デビューしたスリーピース・ポップバンド)の藤島美音子(ヴォーカル)、嶋田修(ギター)、平田博信(ベース)の他、GOMES THE HITMANの山田稔明(ヴォーカル)、キンモクセイの張替智広(ドラム)が参加している。
たなかと藤島、山田のハーモニーの美しさはこの曲の聴きどころであり弊誌読者には特にお勧めだ。

黒沢のスライド・ギターとセカンドライン・ファンク・リズムというリトル・フィート風のバースを持つ「カウント3」はパート毎にリズム・チェンジを繰り返すので、伊藤と森のリズム隊も含め巧みな演奏力を堪能出来る。
続く「ユートピア」はリード・トラックにもなっているが、佐藤のアレンジ・ワークが光るマジカルなポップである。繊細且つ大胆なそのサウンドは、ダイヤモンドの原石を美しくカットし研磨していると言うべきだろうか、マリンバのフレーズや各種シンセサイザーが絶妙に配置されていて耳を奪われてしまう。バッキングには佐藤とOrangeade(オレンジエード)の同僚である黒澤鷹輔がアコーステック・ギターで、また本作と同日にファーストEP『午後の反射光』(APLS-1903)をリリースするシンガー・ソングライターの君島大空がエレキ・ギターで参加していることにも注目したい。
ラストの「虹のしっぽ」は、パーカッションのバッキングのみでほぼたなかの弾き語りで歌われるバラードで、たなか本人によるクラリネットのレイジーな響きもこの曲の世界観に合っている。
本作全体を通して、たなかの個性的な声質とソンングライティングにはサムシングな魅力が潜んでいるで、興味をもった音楽ファンは是非入手して聴いて欲しい。 
(ウチタカヒデ)


2019年3月4日月曜日

1970年代アイドルのライヴ・アルバム(郷ひろみ編・Part-2)


 Part-1の歩みに続き、今回は彼がデビューした1970年代のライヴ・アルバムを紹介する。ちなみに、彼のライヴ・アルバムは10作あるが、70年代には8作(うち1枚はフォーリーブスとの共演)を発表、初期2枚がジャニーズ事務所時代のものになる。

1974.『フォーリーブス・郷ひろみ/ジョイント・リサイタル』(CBSソニー)
※1974年大阪フェスティヴァル・ホールで行われたフォーリーブス(以下、FL)結成7周年、郷ひろみデビュー3周年公演。 26曲(ソロ7曲、FLと8曲)収録 6位 


 このライヴ・アルバムは、ファン・クラブ主導のもので、共演者には元FL八田英二とジャニーズJr.も並んでいる。なおこの時期の郷は出す曲全てがトップ3ヒットと、すでにジャニーズを代表する地位に上り詰めており、その存在感は際立っていた。
 トップには公開前の楽屋での談話が収録されているが、これはジャニー氏とは因縁の関係にあったアソシエイション(注1)のライヴ・アルバム(1969年)を連想してしまう。
 肝心のライヴは<ハイウェイスター>のインストで幕が開き、FLの定番曲Slyの<I Want To Take Higher>に突入する。他にも<Get Ready>や<Thank You>などFLの得意とするソウルフルなステージを披露している。
 そんな先輩FLに対し、郷が歌っているナンバーは最新新曲が中心になっている。特にその後彼のライヴ定番となるユーライヤヒープの<七月の朝>など、新旧交代を感じさせるレパートリーが際立っている。



1974.『HIROMI ON STAGE ! よろしく哀愁』(CBSソニー)

※ファン待望の郷単独ライヴ・アルバム。最大ヒット<よろしく哀愁>発売直後という絶好のタイミングで発表され、彼のライヴではトップ・セールスを記録している。 
13曲収録 4位

  

 ライヴ会場には2日前からかけつけたという熱狂的なファンで埋め尽くされ、開演前から興奮のるつぼと化している。
 肝心の公演は、レッド・ツェッペリン風のハードなインストで幕を開け、エルトン・ジョンの<彼女はツイストを踊れない>(注2)で郷が登場。こんなマニアックな選曲でもファンたちは大きな歓声を上げて酔いしれている。
 前半の洋楽から一転して後半ではお待ちかねのヒット曲を歌いまくるも、それらには洋楽的なアレンジが施されている。まず<モナリザの秘密>にはブラック・サバスの<Paranoid>風のヘヴィなテイストを、また<花とみつばち>では元ネタと思われるキンクスの<All Day Of The All Night>で聞かれるような鋭いギター・リフが響いている。
 なおここにはFLと親交のあったオズモンズの意欲作『Crazy Horses』(注3)から<That's My Girl><Utah>がカヴァーされているが、このライヴ作は『Crazy~』の構成によく似ている気がする。これはジャニー氏が意図的にお手本としたものなのか気になるところだ。



1976.『GO GOES ON! HIROMI IN  U.S.A. Part 1』(CBSソニー)
※ロス・アンジェルスのスコティッシュ・ライト・オーデトリアムにおける郷初の海外公演の前半。バックは郷専属のSuper Jetで、収録曲は全曲洋楽カヴァー。帯には翌月発売になる後半の『Part 2』のセット購入特典「アメリカ公演写真集」告知も掲載されている。 13曲収録 4位


 
 オープニングはファンにはお馴染みの<七月の朝>、続く2曲目には郷の和太鼓をフューチャーしたエルトン・ジョンの<血まみれの恋はおしまい>(注4)という大胆な選曲。この太鼓はオリジナル曲でのパーカッション奏者レイ・クーパーのプレイを意識しているようで興味深い。またこの和太鼓は<American Woman>にもフューチャーされ、うまくサンドに溶け込んでいる。ただ、インスト。ナンバーにしたのはもったいない感じだ。

 このライヴでは万人向けのポップスやカントリー・ソングが大半で面白味にかけるきらいもある。ただ、<SAKURA SAKURA>はジミ・ヘンドリックスの演奏した<アメリカ国家>を連想するようなロック・アレンジで興味深い仕上がりになっている。

 ラスト・ナンバーは欧米では幅広く聴かれている<兄弟の誓い>(注5)を取り上げている。日本では馴染みが薄い曲ではあるが、選曲にセンスの良さが感じられる。



 

1976.『GO GOES ON! HIROMI IN  U.S.A. Part 2』(CBSソニー)
※ロス・アンジェルスのスコティッシュ・ライト・オーデトリアムにおける郷初の海外公演の後半。収録曲は本人のヒット曲が大半で、明らかに日本のファン向けと思える。 
9曲収録 7位

 



 ここで目玉となっているのは英詞で歌われている<花とみつばち><よろしく哀愁><逢えるかもしれない>だろう。中でもロック調にアレンジされた<花と~>は、洋楽風な仕上がりでいかしている。
 個人的にはラストの<恋の弱み>のギター・リフを<Brown Suger>風にアレンジして、かつ英詞で披露してくれたら、この公演がより華やかになったのではないかと感じる。





 

1977.『ヒーロー』(CBSソニー)

※1977年4月1~2日中野サンプラザにおける公演を収録。収録された14曲中、10曲が洋楽カヴァーと、彼のライヴ・アルバムでは比較的洋楽が多い。ただその半分以上のにあたる6曲は日本語の訳詞で歌われている。 14曲収録 8位


 
 長年バック・バンドを務めるSuper Jetとのコンビネーションは良好で、ハードからバラードまでをそつなくこなしている。
 ここでは80年代以降の郷を象徴するようなバラードも積極的に取り上げており、その代表ナンバーはシカゴの<If You Leave Me Now>(注6)といえるだろう。なお、大半を占める訳詞で歌った洋楽のベスト・テイクは<愛という名の薬がほしい>と題されたポール・マッカートニーの<May Be I'm Amazed>だろう。
 なおアルバムのラスト曲<真夜中のヒーロー>のエンディングは、郷のシャウトでブラックホールに吸い込まれるように幕が下りるというドラマティックな構成になっている。この曲は翌年開催される郷初の武道館公演のオープニング曲となっていて、このアルバムとの連動性が感じられる。






1978.『フェニックス-HIROMI In BUDOUKAN-』(CBSソニー)

※1977年12月25日(日)に開催された郷にとって初の日本武道館公演を収録。
11曲収録  17位


 
 オープニングは前ライヴ・アルバムを閉めた<真夜中のヒーロー>だが、キャパの大きさを意識したスケール・アップされた雰囲気で披露している。
 ここでのセット・リストは、前作から一転して郷のオリジナルが中心となっている。それも<禁猟区><洪水の前><悲しきメモリー>といったノリの良いナンバーを会場のサイズに合わせ、ダイナミックなアレンジで聴かせている。その盛り上がりたるや、後の2010年に開催した「55 Birthday」武道館公演を彷彿させるようだ。
 そして数少ない洋楽カヴァーも、サンタ・エスメラルダ(注7)のラテン・ディスコ<悲しき願い>をチョイスして流行に敏感なところを覗かせている。また<MIND反比例>(注8)といった、これまでライヴでは披露することのなかったアルバム曲を収録するなど、彼の意気込みが伝わる興味深いものになっている。
 なおこの公演の音楽監督は服部克久と三原綱木、演奏はいつものSuper Jetにストリングスが加わっている。特に三原はこの時期、テレビの歌番組でも共演しており、彼のギターを大きくフューチャーしているのが印象的だ。補足ながら、彼とは1980年のライヴ・アルバム『My Own Road』でもタッグを組み、こちらでは洋楽カヴァーを中心とした抜群のライヴを披露している。




1978.『IDOL OF IDOLS』(CBSソニー)
※1978年7月16~17日に大阪フェスティヴァル・ホールで行われた公演を収録。この年、二作目となるライヴ・アルバムで、バックはThe Croos Overに変わっている。

17曲収録  22位




 

 
 前半のⅠ部は、つのだひろ・芹澤廣明・惣領康則によるオリジナル・ミュージカル仕立て。後半のⅡ部は最新作『Nari-rhythm』収録曲を核に、当時彼が夢中ににななっていた映画『サタディナイト・フィーバー』収録曲をベースにした構成になっている。なおこの最新作からは4曲が披露され、うち<METAL POINT>は英詞に変えており、彼のアルバムへの愛情が伝わってくる、
 またヒット・メドレー(モナリザの秘密~裸のビーナス~君は特別~よろしく哀愁)は”ORIGINAL DISCO”ORIGINAL DISCOとして聴かせるなど、ライヴ・アルバムでありながらオリジナル・アルバムのように統一感を意識している。
 ラストでは樹木希林をゲストに迎え、楽屋の現況をファンに伝えさせてお約束のヒット曲をデュエットと、ご愛嬌も覗かせている。
そしてオオトリにはばり、バリー・マニロウの<Even Now>を取り上げており、シンガーとしての力量とセンスの良さがうかがえる幕引きとなっている。

ここまで1970年代に郷ひろみがリリースしたライヴ・アルバムをレビューさせていただいた。なお、彼は1980年代にも3作のライヴ・アルバムを発表しているので、参考までにリストのみ紹介しておく。

1980.『My Own Road』
1981.『At The Starting Live~Ready Set Go!~』
1986.『郷ひろみライブ Concert Tour Labyrinth』

この3作を合わせて郷ひろみのライヴ・アルバムは10作となる。どのアルバムも捨てがたい魅力にあふれたものなので、ぜひ復刻されることを願ってやまない。
(鈴木英之)

(注1)アソシエイションの代表曲の1つ<Never My Love>は、元はジャニーズのあおい輝彦のため書あれた曲だった。しかしながら、諸事情で発売されずアソシエイションがレコーディングして全米2位の大ヒットとなった。この件については、あおい輝彦が自身のライヴ・アルバム(1978年『あおい輝彦 オン・ステージ』)でもコメントしている。 

(注2)原題:Your Sister Can't Twist(But She Can Rock'n Roll。エルトン・ジョンが1973年10月に発表した2枚組大作『Goodbye Yellow Brick Road』に収録されたオールディーズ調のロックンロール・ナンバー。

(注3)オズモンズの第10作アルバムで、全曲メンバーの自作によるロック・アルバム。プロデュースも彼ら自身(長男のアランとマイケル・ロイド)が担当している。

(注4)原題:Love Lies Bleeding。『Goodbye Yellow Brick Road』のオープニングを飾ったドラマチックな作品で、デル・ニューマンのプログレッシブなアレンジが光っている。なおパーカッション奏者レイ・クーパーはこの作品からエルトン・ジョンのバック・バンドに参加している。

(注5)原題:He Ain't Heavy...He's My Brother。ホリーズが1969年に発表したドラマティックな傑作バラードで、全英1位、全米7位を記録。その後、ニール・ダイヤモンドなど多くのシンガーに歌い継がれている名曲。

(注6)1976年にシカゴが発表した極上のバラード。彼ら初の全米1位獲得曲。

 (注7)1977年にサックス奏者リロイ・ゴメスが結成したラテン・バンド。アニマルズの代表作<悲しき願い>をラテン・アレンジで発表し、世界中で大ヒットを記録。

(注8)1977年10月1日リリースの第9作『アイドルNo.1』。