2020年3月7日土曜日

The Pen Friend Club:『Along Comes Mary/Love Can Go The Distance』リリース・インタビュー


 2月22日のステージをもって4代目ボーカリスト藤本有華が脱退したThe Pen Friend Club(ザ・ペンフレンドクラブ)が、今月11日にCDシングル『Along Comes Mary/Love Can Go The Distance』をリリースする。
 シングルとしては18年12月にライブ会場限定販売したRYUTistとの『Christmas Delights / Auld Lang Syne』、オフィシャル・シングルとしては18年4月の7インチ・アナログ『飛翔する日常 / Don’t Take Your Time』以来と約2年振りとなる。

 両タイトルとも既存曲のカバーだが、メインタイトル「Along Comes Mary」を見て驚喜するは、弊誌監修の『ソフトロックA to Z』や弊サイト読者をはじめとする熱心なソフトロック・ファンだろう。
 オリジナルは1966年3月8日にアソシエイションが発表したサード・シングルで、ビルボートとキャッシュボックス共に10位以内にチャート・インし彼等の出世作となった記念碑的曲でもある。 ソングライティングはタンディン・アルマーで、のちにビーチボーイズの「Marcella」(『Carl And The Passions – "So Tough"』収録 72年)や「Sail On, Sailor」(『Holland』収録 73年)をブライアン・ウィルソンらと共作しているミネアポリス出身のソングライターであり、当時ブライアンとも親しく交流していた。
 オリジナルを聴いて分かると思うが、ハル・ブレインの特徴的なドラミングを中心にレッキングクルーの巧みな演奏をバックにした、サイケデリックで独創的なコーラスが肝になっている。このコーラス・アレンジこそ当時アソシエイションのプロデューサーだったカート・ベッチャーのアイディアであり、彼等の成功のきっかけを作ったキーマンだったのである。


 カップリングの「Love Can Go The Distance」は、ご存じ山下達郎氏の『On The Street Corner 3』(99年11月)に収録のオリジナル・アカペラ曲で、先行シングルとしてリリースされて同年のNTTコミュニケーションズのCMタイアップにされたのを皮切りに2003年にはジャックス・カードのCM「アンモナイトと六法全書編」で再び使用されて話題となった。山下の楽曲にアラン・オデイが英語歌詞を付けた美しいバラードで、On The Street Cornerシリーズで取り上げるドゥーワップを主体としたカバー曲よりコンテンポラリーな曲調である。同アルバムではテディ・ペンダーグラスの「LOVE T.K.O.」(80年)カバーとともにいいアクセントとなっていて聴き飽きない。

 さてここではザ・ペンフレンドクラブのリーダー平川雄一、弊サイトでは『ガレージバンドの探索』を連載しているベースの西岡利恵、名ドラマーの祥雲貴行の3人におこなったインタビューをお送りする。

 ※写真前列左より 
大谷英紗子(Sax) / 藤本有華(Main Vo, Cho) /
平川雄一(各種Gt, Cho) / リカ(AGt, Cho) /
そい(Organ, Cho) / 中川ユミ(Per) / 
西岡利恵(Ba) / 祥雲貴行(Dr)  

●ザ・ペンフレンドクラブ(以下ペンクラ)としては久し振りの新作リリースですが、やはり本作はボーカルの藤本さんが脱退するメモリアルとして企画したんでしょうか?

平川雄一(以降 平川):はい、そのとおりです。実は次の7thアルバムの収録曲としてこの2曲をやる予定だったんですが、藤本有華脱退により急遽、現体制でのラストシングルに切り替えて作成しました。階段のジャケ写もアルバム用だったんです。

●収録曲はいずれもThe Associationと山下達郎氏のカバーですが、選曲した理由は?
 これまでカバーしてこなかったThe Associationは、VANDAの書籍でも取り上げてきたソフトロック・グループですが以前から愛聴していましたか?

平川:はい、勿論です。ただ「Along Comes Mary」に関しては、西岡利恵が「これやりたい」と言ったのがきっかけで取り上げました。
 「Love Can Go The Distance」は僕が以前から大好きで、いつかやりたいと思っていた曲です。90年代後期にNTTのTVCMで初めて聴いたときは本当に衝撃的でした。

●ペンクラならではとして拘ったアレンジのポイントはなんでしょうか?
 またメンバーのお二人にはカバーするにあたって演奏面で気を付けたことを聞かせて下さい。

平川:「Along Comes Mary」は僕の宅録は最小限に、ペンフレンドクラブのメンバーで出来ることを重視し、現在のバンドの音を形にする事を大切にしました。コーラスも普段なら僕の多重録音で済ませるところを近年加入したリカとそいと僕の3人でハモりました。リカのアコギもしっかり入れました。(普段のレコーディングでは竿類は全部僕がやります。) ライブではタンバリンとカウベルを中川ユミが担当しているので、そのまま彼女のプレイを録りました。(普段ならパーカッションも僕がやっています。) 
 あとオリジナルにある笛を大谷英紗子のサックスに置き換えたり。オリジナルのハンドクラップの音量が大きすぎると感じていたので適正な音量にしたり。そんなとこですかね。

 「Along Comes Mary」の藤本有華の歌唱はこれまでで最難関だったことと思います。実際、大変苦労していました。ただ藤本の歌でしか実現できなかったカバーでもあります。少なくとも日本人による「Along Comes Mary」の説得力のあるカバーは後にも先にもこのペンクラのヴァージョンを於いて他にないでしょう。エッヘン。(すごい狭いとこで勝負してるなあ…。だがそこがいい。)

 「Love Can Go The Distance」は「Along Comes Mary」とは違い、藤本のリードボーカル、リカとそいによるコーラス最高音部や掛け合いコーラス以外は全て僕の歌唱、演奏です。
 ただただ原曲の風合いを壊さないように作りました。テンポが非常に大事な曲で、原曲と全く同じクリックを作成し、それに合わせて演奏しました。とはいえラスト、勝手に転調しちゃっていますけどね・・・最後に半音上がるのが好きなんです。「日本一のラスト転調男」と呼んで頂いて構いません。

 西岡利恵(以降 西岡):サードアルバム以降ベースは自宅録音だったので、スタジオで録るのは久しぶりだったんです。

 『Along Comes Mary』はライブでもやっていた曲だったのと、ドラムと一緒に録ったのもあって、録音を意識しすぎずライブみたいな感覚で弾きました。

祥雲貴行(以降 祥雲):サビのブレイク前のフィルはどうアレンジしようか迷った末、ほぼ原曲そのままにしました。自分ではあまり思いつかないような長めでちょっと特殊なフィルだったので、自分がやるとどんなニュアンスになるのかを観察しながら叩きました。

 サビのそれ以外の箇所、基本パターンの頭打ちのリズムでは、かっこいいコーラスをさらに盛り上げるようにストレートなビートになるよう意識しました。

 

●このシングルで藤本さんが参加するラスト・レコーディングとなりますので、彼女に向けたメッセージをどうぞ。

平川:藤本さん、あのとき大ピンチだったペンクラに加入してくれて本当にありがとう。長い間歌ってくれてありがとう。藤本さんでよかった。お疲れさま。体冷やさないようにね。

西岡:藤本さん、スタジオで最初歌う時なんとなく試してみます~みたいな感じでふわふわしているのに(笑)歌い始めると完璧にこなしちゃうのがかっこよかったです。のびやかで綺麗な歌声だけどパワフルな表現もできたり、英語の曲もなんなく心地よく聴かせる藤本さんの魅力、歌唱力を感じるのにこのシングルの2曲は最高。形に残せて嬉しい。メンバーがやめていくのは一番つらい大きな変化だけど、これまで一緒に長く活動してきたこと大事にします。


祥雲:とにかく体調に気を付けて、自分のペースでこれからも音楽を継続してください。(あと例の連中と今度こそ飲みに行きましょう。)


●最後にこの『Along Comes Mary/Love Can Go The Distance』のアピールをお願いします。

平川:買わないなんてウソだろ?

西岡:どちらの曲もカバー作品として良いものにするのはとても難易度が高い、普通なら選ぶのを躊躇してしまいそうなほどの原曲ですが、ペンフレンドクラブだからこそ実現できた、第5期の集大成としてふさわしいものになっていると思います。 ぜひ長く聴いていただきたいです。


祥雲:「Along Comes Mary」は原曲の独特な渋さを残しつつ、よりタイトで新鮮な感じに仕上がっていると思います。上の質問で回答した点にも注目して楽しんでみてください。 


 「Love Can Go The Distance」はレコーディングには参加してないですが少し書かせてください。

昨年の12月、銀座のライブで藤本さんがソロで歌った「Love Can Go The Distance」には、会場の空気全体をあたたかく包み込むようなパワーがあり、ある種の神がかり的な領域に入っていたようにも感じました。そしてこのシングルにも、あのときと同等の力が確かに込められています。

 思い返してみるとあのライブの日、歌い手と聴き手双方の意識が一か所に集中していたという印象があり、それが特別な雰囲気を作り上げていたように思います。 またそのときに自分が最も強く感じたのは、藤本さんの脱退を惜しむ気持ちというよりは、これからのことに思いを馳せたくなるようなポジティブなものでした。


なので、できれば皆にもあまり感傷的にならずに聴いてほしいと個人的には思っています。 いずれにしても心を傾けて聴く価値のある名演であることには違いないので、ぜひCDを手に取ってじっくりと楽しんでください。 


 (インタビュー設問作成/文:ウチタカヒデ)



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