2018年5月6日日曜日

Lamp『彼女の時計』(Botanical House/BHRD-008)リリース・インタビュー前編


















Lampが8作目のオリジナル・アルバムとなる『彼女の時計』を5月15日にリリースする。 前作『ゆめ』(2014年)の完成度から本作にも当然期待していた訳だが、3月初頭に入手した音源を聴いてみて、ほぼ全編がミッドテンポのメロウなサウンドで統一されているのにまず驚いた。
鍵盤類は80年代のデジタル・シンセサイザーの実機や音源モジュール、またシンセサイザー・ベースを多用しているが、当時のシティポップ及び現代のフォロワーとは一線を画す、彼等ならではの唯一無二のサウンドを構築しているので聴き飽きない。『ランプ幻想』(08年)以来リーダーの染谷がグループに本格的に持ち込んだミナス・サウンドを初めとする良質なブラジリアン・ポップのエッセンスがメンバー全員のソングライティングにも浸透しているのが聴き取れるのだ。
ここではファースト・アルバムに推薦コメントを寄せ、デビュー前から交流のある筆者が、サードアルバムの『木洩陽通りにて』(05年)リリースから13年振りに彼等におこなったインタビューを前編と後編に分けて掲載する。


(左より染谷太陽、永井祐介、榊原香保里)

●前作『ゆめ』から4年余りの歳月を経てのニューアルバムですが、本作の元々のコンセプト「小さなバラード集を作ろう」という発想はどこから?

染谷:なぜ「バラード集」かという部分についてはあんまりよく覚えていないんですが、最初は、4曲入りで考えていました。たしか、収録候補曲は、「Fantasy」「1998」「車窓」「夜会にて」みたいな感じだったと思います。
でも、やっている内に時間も経っちゃって、数年振りに出す作品が4曲入りだと、待ってくれている人にちょっと申し訳ない気もしたし。永井と僕とで1曲ずつ増やして6曲入り、さらにもう1曲ずつ増やして8曲入りと段々増やして、この形になりました。

●『ゆめ』収録の「さち子」に創作のヒントを得た曲が中心ということですが、具体的に聞かせて下さい。

染谷:僕の曲は4曲とも全部そうですね。最近の僕の曲は、転調はしませんし、作曲の際には、テンションコードというよりはオンコードに考え方がシフトしていたり、ギターの開放弦を活かした曲作りやキーの設定、とか。曲の展開もシンプルにしています。

●これまで染谷さんが作る楽曲にはメロディーやコード進行の難解な曲があり、Lampの一つの特徴になっていたのですが、このアルバムではそれがあまり感じられなかった。 曲作りがシンプルになったのは、音楽に対する姿勢や心境の変化があったからですか?

染谷:音楽に対する姿勢や心境の変化というよりは、ストレートに言うと、今こういうのが作りたかったというのが一番近い気がします。
今の僕が、より良いと感じる音楽を求めた結果、と捉えていただけたらって感じです。


●サウンド的にはこれまでのアルバムよりデジタル系エレピの音を多く聴けますね。ローランドのMKS-20(音源モジュール)やヤマハのCP-80、そしてDX7のエレピなど80年代の名器が全体的に使われていて本作のサウンドの要となっています。これはバラードというかムーディーでメロウな曲が多いから必然的にそうなったんでしょうか?
 Lampの自主レーベルBotanical Houseからリリースした新川忠氏の『Paintings of Lights』(15年)にも通じるサウンドだと感じました。90年代のプリファブ・スプラウト的というか。

染谷:こういうサウンドのアルバムを作ることは10年以上前からアイディアとして温めていました。この時代のブラジル音楽を沢山聴いていて、すごく感化されていたので、そういう音でやりたいなと思ったんです。僕は時間的にも距離的にも遠いものに憧れるタイプなので、新川さんのアルバムからの影響は全然なかったです。
YAMAHAのDX7やCP-80は当時の名機として有名ですよね。ローランドのMKS-20はFlavio Venturiniの作品のクレジットに書いてあって、購入しました。JX-8PはToninho Hortaの『Diamond Land』(88年)に書いてありました。その他、80年代に使われていたリバーブやディレイなども購入したりもしました。

永井:プリファブは新川さんが好きらしいということで割と最近聴くようになったんですけど、新川さんのアルバムにも通じるロマンチックでキラキラした感じの音像に本作の僕の曲は影響を受けていると思います。プリファブに限らず10年前なら敬遠していた80年代の音楽を今はむしろ良い感じで聴けていて楽しいです。

●ローランドの80年代最後のアナログ・シンセであるJX-8Pは、本作中「夢の国」でのみ使用していますが、Toninhoの「Sunflower」(『Diamond Land』収録)でのヴォイス・パッドを意識しましたか? Toninhoファンである染谷さんだから聴き込んでいるのでその他にも影響されている点はあると思いますが。

染谷:まさにそうです。 このテイクの暗く冷たく濡れた響きが大好きでしたし、間奏のヴォイス・パッドの部分は昇天しますよね。こういう感じにしたかったのですが、いざ実機を鳴らしてみると中域がとても強く、イコライジングしましたが、結局思っていたように上手くは行きませんでした。

●一方で『ランプ幻想』(08年)から前作まで大胆に取り入れていた生のストリングスが本作では聴けません。当初からアルバムのコンセプトによってオミットしたのでしょうか?

染谷:そうです。 生のストリングスで満足する音が得られたことってほとんどなくて、逆にシンセストリングスでも良いものは本当に良いというか。敢えてシンセストリングスを多用しました。シンセストリングスは、過去作だと「さち子」や「恋人と雨雲」(『東京ユウトピア通信』収録・11年)の大サビなんかですごく上手くいっていましたので、その経験を活かしました。
 

●その他レコーディング中特出するようなエピソードはありませんでしたか? 

染谷:うーん、毎回地味な作業の繰り返しで、特に言いたくなるようなエピソードは思い出せません。ただ、毎回そうなんですが、変わったサウンドを得る為に、制作では色んなことを試していますね。

永井:本作のレコーディングから自分たちで機材を買い揃えて、自宅である程度の録音作業ができるような環境を整えました。そういう意味で今までより自由度の高いレコーディングができたと思います。
今までも割とそうでしたけど、より試行錯誤を繰り返しながらより良い結果が得られたと思います。ただ、もっと良い音にしたいという欲求もあるので今後はもっと録音環境や機材の知識を増やしたいなとは思っています。 

●ソングライティング的には、バンド内シンガーソングライター的ポジションだった永井さんの曲に榊原さんが詞をつけた曲の比率が増えたように感じますね、前作収録の「ため息の行方」の組み合わせのように。
中でも永井さんによる『続「さち子」』と呼べそうな「ラブレター」は完成度が高いと思います。

永井:そうですね、年を重ねるにつれて歌詞を書くことのハードルがだんだん高くなっていて、結果的にこのような形になりました。歌詞をカオリさんが書いている2曲は僕が書けなかったということです。

榊原:この2曲は制作の終盤あたりで私が書くことになったので、あまり時間がかけられなかったんです。多分永井も自分で書くつもりで最後の方まで考えていたと思うので、台無しにしてしまわないよう頑張りました。

●そうなんですね。短い時間で曲に歌詞をつけるのは大変だったと思いますが、この「ラブレター」と「スローモーション」以外で、染谷さんの曲への作詞では苦労はなかったですか? 
曲先が多いと思いますが、複雑なメロディ・ラインに歌詞を当てはめるのは大変な作業だと思います。

榊原:染谷曲の作詞のほとんどは2014年から2016年の間に完成していて、ライブでも演奏してきました。けれど、レコーディングに入って音を重ねていくうちに構成が変わるんです。
例えば2番のメロディーがまるごと削られたり、繰り返しがなくなったり。わりと削ぎ落とす方向で変化した曲がいくつかありました。そうなると歌詞の場合、1番と2番で音感を揃えたり、場面を相対させたりした箇所の意味がなくなってしまう・・・。ちょっと悲しいですが、曲が一番大切ですから、すぐに切り替えて修正します。
二人の曲が大好きなので歌詞を考えるのはいつも楽しいです。できたての曲を聴きながら色々イメージする時間がとても好きです。 

 後編へ続く


(インタビュー設問作成/文:ウチタカヒデ)


0 件のコメント:

コメントを投稿