2017年9月18日月曜日

☆Jigsaw:『Letherslade Farm+11』(Solid/CDSOL1799)☆Jigsaw:『Broken Hearted & Aurora Borealis+1』(Solid/CDSOL1800)☆Jigsaw:『Sky High & Rare Tracks 40th Anniversary Collection』(Solid/CDSOL 1797~8)




UKロックバンドのジグソーだが、私は『ソフトロック A to Z』でバンドを発掘していく中、ジグソーは美しいメロディとハーモニーを兼ね備え、転調や対位法も取り入れながら、ファルセット中心のリード・ヴォーカルというまさにソフト・ロックの理想の形でアルバムを作っていたので強くプッシュすると、1998年にテイチク、2006年にビクターより、それぞれ彼らの19731977年の中核アルバム4枚にベスト盤1枚という5枚編成で、選曲をまかせてくれたので目いっぱいシングルオンリーや未発表曲を収録時間内に押し込んで計10枚のCDをリリースできた。しかし密かに押し込んだ中核は、彼らが1970年と1972年にPhilipsからリリースしていたプログレッシヴな2枚のアルバム『Letherslade Farm』と『Aurora Borealis』をファンに聴いて欲しくて、前者は寸劇混じりなのでセレクトだが、後者は全てばらして入れた。今Discogsで見るとどちらも100ポンド以上の値が付き、ジグソーではこの2枚だけが高額取引盤になっていた。またシングルの中でもB面曲がサイケデリック色の濃い「Tumblin’」だと120ポンドという高額だったりと、11年前に睨んだ見方は間違いなかったなと。それで今回のウルトラヴァイヴでは『Letherslade Farm+11』は初期音源集付きで完全収録、『Aurora Borealis』は従来の3枚目のアルバムとの2in1として表に出て、ジャケットがリバーシブルになっているので、写真のように「表ジャケット」にも出来る。テイチクの声かけより19年、ようやく希望がかなった訳だ。今回のリイシューで、以前購入した人はまたジグソーかよ…と思わずに、成功はしなかったもののジグソーはプログレ系バンドとデビューして、「Sky High」とは違う世界観のサウンドで、一部のプログレファンには高く評価されていたことを知っていただきたい。この2枚にはそれぞれ1968年、1972年というその当時の未発表トラックを見つけたのでプラスしてあり価値がある。9月リイシューの3枚のもう1枚は、日本で「Sky High」がヒットして今年で40年という記念盤。1枚は「Sky High」が2000年代のリミックスを含めて12テイクも入っているがシングルと、映画用のMain TitleEnd Titleの3曲は価値がある。「Sky High」が1975年に全米3位、全英9位と大ヒット、その後全米では30位、66位、93位というヒットはあったものの、英米ではワン・ヒット・ワンダーだ。しかし日本では大人気覆面レスラーのミル・マスカラスのテーマ曲に使われたため1977年のオリコン洋楽チャート年間1位など、全世界の中で日本はでのジグソーは飛び切り人気が高く、英米で発売が見送くられた2枚のアルバムが日本のみでリリースされたほど。もちろん未CD化である。その1978年の『Journey Into Space』と1980年の『12 Chapters Of Love』が初めてCD化された。このディスク2は価値がある。


今回のリイシューの話は中村俊夫さんから夏過ぎに緩く話が来たものの、8月になって締め切りまで10日間くらいの超タイトなスケジュールでウルトラヴァイヴから依頼された。内容はこの9月発売の3枚と、11月発売の3枚で、9月発売の方は、『Sky High 40th Annerversary』は当時のミル・マスカラス人気を熟知している鈴木英之さんに依頼、11月には残り3枚がリリースされるが、そこには今までのテイチク、ビクター以降に発見された21テイクのCMジングル集や、未発表曲や未発表サントラ曲などが待ち構えていて、この「3シリーズ」でなんと膨大なジグソーの全音源のリリースが実現できる。こちらも林哲司さんの「If I Have To Go Away」が収録されている『Pieces Of Magic』は、林哲司さんの本の作った実績がある鈴木さんにおまかせすることにした。選曲はコンプリートにするので、11月発売の3枚もお待ちいただきたい。今回のリイシューは「Sky High」がヒット40周年(これは日本での大ブレイクが1977年なのでそこが起点のようだ…)で、その記念がメインである。中村さんはイギリスまで行って立ち合い、その番組は910日にBSTBSの番組『SONG TO SOUL「スカイ・ハイ」ジグソー』で放送された。曲のほとんどを共作で書いていたクライヴ・スコットが亡くなっていたのが残念だったが、もう一人の曲作者でリード・ヴォーカリストでもあったデス・ダイヤーほかの3名のメンバーが揃いデビュー時からの想い出を語り、長くマネージメントとエクゼクティヴ・プロデューサーを担当したチャス・ピートという最重要人物がみな中心になってコメントした。そして「Sky High」が生まれるまでだが、香港映画「The Man from Hong Kong」のサントラ盤候補のミュージシャンにフォートップス、トム・ジョーンズ、エンゲルベルト・フンパーディンクと片端から断られ、万策尽き、たった3日で仕上げられるかということでジグソーに白羽の矢が回ってくる。まだヒットのないジグソーはこのチャンスを逃さず、見事、この傑作「Sky High」を書いて採用され、すぐにイギリスの腕利きアレンジャー、ハワード・ヒューソンに最終アレンジが回る。彼は信頼を置くイギリスのレッキング・クルーであるジャズ・ミュージシャン達に翌日にはスコアを回し、ほぼワンテイクでバックのオーケストレーションを仕上げ、ジグソーのメンバーもワンテイクで同時演奏する緊張感に満ちたレコーディングに臨むが、さすがプロ集団、完璧で驚嘆した…などという映画『レッキング・クルー』と同じ光景はイギリスでも同じなんだなと楽しく見ていた。なおハワード・ヒューソンはビートルズの「The Long And Winding Road」のアレンジをするなどまさに超一流アレンジャーである。

まず『Letherslade Farm+11』の紹介だが、この当時のメンバーは5人である。この当時、作曲を一手に受け持っていたキーボードのクライヴ・スコット、後に作曲・作詞を開始、クライヴ・スコットの共作者になり、リード・ヴォーカルも担当するようになるドラムのデス・ダイヤー、そして初期のリード・ヴォーカリストでギタリストのトニー・キャンベル、そしてベースのバーニー・バーナード、サックスのトニー・ブリネルである。そしてこのアルバムからずっと彼らのマネージャーとエグゼクティブ・プロデューサーを務めるチャス・ピートが参加したことも大きい。それまではアマチュアだったジグソーにプロとしての自覚を与えた。メンバーはTVの中で、「モンティ・パイソン以前に寸劇仕立てのさまざまなジャンルの曲をアルバムに収めた。今でもエッジが効いていて面白いね」となかなか自信を持った反応だ。曲目は非常に多いがたくさん挿入されているInterviewとかTap Danceは曲ではなく、読んで字のごとしである。曲になっている部分だけ追っていくとまずはJim Whitney作の「Weavers Answers」だ。スコットのキーボードによって盛り上がるブルージーな曲で間奏のサックスからオルガンのソロ、そこにギターが被り事に堂々たる演奏で聴きどころ十分。 外部ライター作で女性の喘ぎ声がフィーチャーされた変わった曲が「Je T’aime/If You Were The Only Girl In The World」 、スコットの自作の「Can I Have This Dance」はピアノの弾き語りの小品、スコット作の「Blow Blow Thou' Winter Wind」は、キーボードを全面に出したこれもブルージーな曲で、「Weavers Answers」と同じく間奏のオルガンとギター、サックスのからみが聴きもの。そしてスコットはバッハの「主よ人の望みの喜びよ」をモチーフにしてEL&Pばりのキーボードを効かせた「Jesu Joy Of Man's Desiring」としてアレンジ、中間部には2種類のギターソロを入れ込むなどEL&Pにはないサウンドであり、全体的にビートがあって浮き浮きするようなこのインストはアルバムのハイライトになった。B面にはおふざけの外部ライター作のオールディーズ「Danny」を挟んで、アルバムのハイライトのもう1曲、これは外部ライターのMartin Hallの作品だが「Say Hello To Mrs. Jones」はスコットのピアノとキーボードをバックに歌い上げるノスタルジックな美しいバラードで、レイ・デーヴィスが書きそうな雰囲気も漂う。 「Diesel Dream」は曲ではない部分のクレジットと同じYettey作とあるが、メンバーの共作の意味だ。曲は堂々たるR&Bで、ブルース・ハーブも入り、ギターソロもブルージーで、ヴォーカルも及第点。こんな黒いジグソーを聴ける貴重なヴァージョンだ。この後はスコット作の「Morning」。少し緊張感を漂わせた曲だが、サビでは緊張を解くような工夫が施されている佳作。そしてアルバム最後の「曲」は、スコットの「Seven Fishes」。この曲も哀調が漂うバラード系のロック・ナンバーで、泣くようなギターがいい味を出している。サビは一転して明るめに作られギターの音色など少しサイケデリック。こうして作られたジグソーのファースト・アルバム『Letherslade Farm』は、プログレ&サイケファンに評価された。

このファースト・アルバムより前にジグソーは4枚のシングルをリリースしており、さらにファーストとセカンド・アルバムの間にも3枚のシングルがリリースされ、どのシングルもレア盤ばかりだ。作曲はこの時代は基本的にメンバーのクライヴ・スコット単独なので、スコット以外の時のみ記述する。まず19683枚リリースしているが、デビューはMGMからリリースした「One Way Street」で、このA面はホーンを効かせたAmen Cornerを思わせるラテン風のロック・ナンバーで、中間にアコースティック・ギターを作った美しいブレイク部分を入れ込んできたところにセンスの良さが感じられる。B面の「Then I Found You」は、オルガンとホーンのバッキングによるポップなロック・ナンバーだ。続くシングルはミュージック・ファクトリーからの「Mr.Job」で、サックスをフィーチャーした軽快なロック・ナンバーで、牧歌的な味わいもあった。作曲はBown-Bannisterという外部ライターを起用している。B面の「A Great Idea」はストレートなEquals風のロック・ナンバーだ。続く「Let Me Go Home も同じレーベルからのリリースで、A面はさらにホーンを効かせたパワフルなビート・ナンバーだったが、B面の「Tumblin’ はジェットマシーンを使い、ギターもシタール風でサイケデリック色が強く、サイケファンの間では名作として大人気のナンバーになった。中古市場でもジグソーのシングルでは最も高い120ポンドで取引されているほど。その次の1968年と最初期のBaby Jump Back’」はどのリストを捜してもリリースされた形跡がないので未発表曲とみて間違いない。ファルセットのコーラスを少し入れるなどこの当時の曲としてはポップなナンバーだ。1970年に『Letherslade Farm』がフィリップスからリリースされるが、同年にフォンタナから「Lollipop Goody Man」のシングルをリリース、ホーンのリフをさらに強調してフィーチャーしたビート・ナンバーで、歌い方もEqualsを意識したかのようなブラック風にしていた。このシングルのB面は「Seven Fishes」でLetherslade Farm』からのカットである。この「Lollipop And Goody Man」のシングルもNear Mint100ポンドと高額だ。翌1971年には、前述のMGMからの1968年のデビュー・シングル「One Way Street」をフィリップスから再リリースしているが、B面を「Confucious Confusion」に差替えている。このオリエンタルなムードの曲は、何か日本のお祭りの曲を聴いているような不思議な感覚を持ち、オルガンの間奏部分など顕著。このシングルも相当レアのようで、コンディションが悪くて80ポンド、いいと200ポンドという超高額盤である。その次がLetherslade Farm』からインストの「Jesu Joy Of Man's Desiring」をシングル・カット、そのB面が「No Question Asked」だ。1971年になりと、それまでのオルガンとホーン、ギターのロック、サイケデリックのロックバンドから脱却しようと、試行錯誤した時期なので、軽快なサウンドでポップなメロディが印象に残る佳曲に仕上げている。そしてこの年のリリースのシングルのラストが『Aurora Borealis』からの先行シングル「Keeping My Head Above Water」のシングルだが、UK盤のカップリングのみ違っていてアルバム未収録曲の「It’s Nice But It’s Wrong」が収録された。セカンド・アルバムではスコット単独作はなくなりクライヴ・スコット=デス・ダイヤーの共作になるのだが、この曲はまだスコット単独だ。しかしサウンドは明らかに進歩していてポップで浮き浮きするようなメロディとサウンド、バックにはハープシコードも聴こえ、セカンド・アルバムへ至る変化が感じられる。なおこのA面曲はフィリップスから移籍したBASFからもシングル・カットされているが、確認されたドイツ盤、ポルトガル盤のB面はセカンド・アルバムの「Seven Fishes」に差替えられていて、「It’s Nice But It’s Wrong」を聴くことはできない。

そして1年置いた1972年にフィリップスからのセカンド・アルバム『Aurora Borealis』をリリースする。クレジットはクライヴ・スコット&デス・ダイヤー共作のスコット=ダイヤーにこのアルバムから統一される。冒頭の「Keeping My Head Above Water」はヘヴィなロックンロールで、それまでのジグソーサウンドの延長線上に作られた感がある。シングルのリリースは前年の1971年で、イギリスでは前述のアルバム未収録の「It’s Nice But It’s Wrong」とカップリングでリリースされている。中間部にはきれいなハーモニーを響かせる部分があり、単純なロックナンバーではない。次の「Autumn」は前作とつながるパワフルなイントロと、目いっぱいのファルセットでハモるロックナンバー。「Come With Me」はミディアムのシンプルなポップナンバーだが、コーラス、オーケストラのバックも入り、転調も使って単純な進行では作っていない。「Life Insurance」は1曲丸ごとファルセットのシャウト・ヴォーカルで歌うロックナンバーで、ちょっと声に無理がありハード・ロックにもなっていない。「Sitting On A Bomb」はやタイトルそのものに、タイマーのように刻まれるドラムに合わせてシンプルに歌われるナンバーだが、サビはコーラスも入ってゴージャスに。でもその後に爆発音でおしまい。「When The Sun Is In Your Eyes」は哀調を帯びたミディアムのロックナンバーだが、ハーモニーがあるもののリード・ヴォーカルがファルセットのシャウト・ヴォーカル、しかしハード・ロック的な迫力を感じさせる皆無なので、不思議な印象の曲だ。そしてB面のトップを飾る「What’s My Name」こそ、新生ジグソーを代表する名曲。オーケストラに載せて、巧みな転調で作られた美しいミディアムのバラードで、アルバムのハイライトになった。ジグソーのベスト盤を作っても必ず選ばれる名曲だ。続く「See Me Flying」、この洒落たコード進行とアコースティック・ギターのカッティングが印象に残る佳曲は、開放感があり、従来のジグソーにはない新しい世界を感じさせてくれた。「Freud Fish」はイントロのSE、バッキングの叫び声、電気処理されたリード・ヴォーカルと、サイケデリック・バンドのジグソーの面影を残す曲。しかし基本は哀調を帯びたロックナンバー。「Hanging Around」は明るいホーンからスタートするこの曲は、ハッピーな雰囲気に満ちていて、わくわくさせられる曲だ。今までのジグソーにはなかったサウンドが楽しい。「P-R-R-R Blues」はガヤガヤしたSEをバックに入れ、ホンキートンク風のピアノやボトルネックのギターで愉快に歌われるブルースナンバー。「Ready To Ride」はパワフルなホーンのビートに載せて歌われるソウル風のナンバー。サビに一瞬、静寂のような変化を入れるのがジグソーらしい。この曲が『Aurora Borealis』のラスト・ナンバーだ。そして今回、世界初登場となる1972年の未発表曲が「Standing On My Hand」。収録年からいってBASF用ではなくフィリップスの『Aurora Borealis』用に録音された曲だろう。マイナーのスタートがメジャーに展開、ハーモニーも十分だし、後半の抒情的なピアノソロなど洗練されている。お蔵入りにしたのが惜しい1曲だ。このアルバムのカップリングの2in1BASFと契約した1973年の『Broken Hearted』で、この中にはThis is Soft Rockというべき「Summertime Wintertime」や「Have You Heard The News」という、フィリップス時代には無かった流麗なソフトロックナンバーが登場、クオリティは11月発売の後半の3枚へ毎年上がっていくのだが、もう何度も紹介しているのでパス。

Sky High & Rare Tracks 40th Anniversary Collection』は先に紹介したようにディスク1は「Sky High12テイク(価値ありは3テイク)と6曲のシングルオンリーなどはテイチク、ビクターで聴ける。最後の1989年に作られた「Who Do You Think You Are(PWL Mix)」は洋盤コンピにはよく入っていたが、まだ持っていない人にはお得。目玉はディスク278年に日本のみリリースの『Journey Into Space』の10曲は、オリジナルが3曲しかなく、金を前払いしていたリック・ジェラルドが怒ったと伝えられるが、聴いてみるとオリジナルの3曲は焼き直しで出来が悪く、外部ライターの7曲がアコースティックで新鮮で、これはジグソーの狙いの方が上だったが、英米で発売を拒否されこうして日本のみの発売になった。もう1枚の80年リリースの日本のみのアルバム『12 Chapters Of Love』の11曲は2曲がリレコだが他はオリジナル、クオリティは保っており、当時のディスコの影響を受けた曲もあった。このディスク2の曲はテイチク、ビクターでは未収録のものも多いので、このディスク2のために買うべきだ。では11月の未発表トラック満載の3タイトル『I've Seen The Film,I've Read The BookCM Tracks』『Sky HighUnreleased』『Pieces Of Magic+Home Before Midnight』をお待ちください。(佐野邦彦)



2017年9月15日金曜日

☆Rolling Stones:『Sticky Fingers Live At Fonda Theatre 2015(From The Vault)』(Ward/GQXS90284-5)Blu-ray+CD


ローリング・ストーンズは大規模ツアーの前に、小規模な会場で密かにウォームアップギグを開催してきたが(古くは1977年の『Love You Live』のエル・モガンボが皮切り)、2015年の北米ツアーの前の2015520日に、席数が1200人というごく小規模のフォンダシアターでこのライブが行われた。今までのスモール・ギグとは全く違うのは、今回は名盤『Sticky Fingers』を全曲披露するというコンセプトライブで、全16曲という曲数も絞り込んだものであること、そしてこのギグを4Kで撮影して初めてその全貌が我々ストーズファンに届けられたことにある。解説は寺田正典さんが主で、知りたいことが全て分かる。例えばストーンズのアルバムで全曲がライブで披露されたものは何枚あったのかなと思ったら『Let It Bleed』『Sticky Fingers』『Black And Blue』『Some Girls』の4枚だけだそうで『Exile On Main St.』も強く望まれたが、チャーリーいわく「今、あんな叩き方はできないよ」と。さすが名盤が並ぶ。ミックはコンサートの冒頭付近で「今度は『Their Satanic Majesties Request』を全曲やるかな」と言っていたが、もちろんこれは冗談、先日、キースは『Their Satanic Majesties Request』を最低のクズと言っていたので、100%やるわけがなく、ミックのブラックジョークだ。コンセプトのあるギグなので、アルバム10曲とその他6曲の計16曲という短いコンサートだ。まず全体的に言えるのはやはりこういう取り組みはストーンズも楽しいようで、始終笑顔のキースが忘れられない。Blu-rayCDは曲順が違い、正しいのはCDだが、『Sticky Fingers』の曲をプレイすると何度もメンバーの想い出のインタビューが挿入され、そこが面白いので、その内容を交えながら紹介していきたい。冒頭は「Start Me Up」だ。「Jumpin’ Jack Flash」と並ぶストーンズのオープニング・アクトの定番から始まる。やはりいくら『Sticky Fingers』といえども、頭に「Brown Sugar」を持ってきては、「ライブでアルバムを楽しませる」ことには直結しないので「Sway」からスタートする。この粘っこいR&Bナンバーを、かなりテンポアップしてプレイする。キースも通常のギターなのでなんとなく歯切れがいい。そして「Dead Flowers」だ。シンプルなC&Wナンバーだが、人気がある。そしてキースがミックとの自慢の共作だと誇らしくインタビューで語る「Wild Horses」。キースはアコギではなくエレキを弾き、若干テンポアップしてウェットな感じにはしていない。そしてミックが本作はドラッグの隠語満載と言い、キースはインタビューでバレたかと笑う本アルバムの中でも最問題作「Sister Morphine」。久しぶりにプレイしたら不気味で70年代にタイムスリップしたよ、我に返ったら胡麻塩頭の頭の自分がいた(笑)と語る笑顔のキースはそれでも嬉しそう。冒頭は確かに不気味な滑り出しだが、中間以降のロンのボトルネックギターの迫力は素晴らしく、ロンの名演だ。そして1970年当時にこのアルバムを買った時には、なぜこんなメチャクチャシンプルで酔っぱらいのざれ歌のようにも聞こえたアルバム唯一のカバー曲、フレッド・マクダニエル作の「You Gotta Move」の登場だ。カッコいい事にキースのアコギのブルースギターに乗せてミックら全員で歌う。単純なブルースの繰り返しだが、会場全員で「You Gotta Move」を全力で歌うようになるのは感動的。発売当時は分からなかったが、今はこの曲の魅力にハマるなあ。そしてアルバムの中でもハイライト級に人気がある「Bitch」の登場だ。ボビー・キーズ、ジム・プライスのホーンが最高のこの曲、キースは2014年に急死してしまったボビーが最高だと忘れられず、いつも右横にはボビーがいる気がすると、全幅の信頼を置いていたことが伝わってくる。ライブではあのリフをロンにまかせ、キースがリード・ギターを自在に弾いている。ホーンが弱く聴こえるのが残念だ。そしてアルバムの中である意味、一番斬新な「Can’t Hear Me Knocking」。ザックリとしたギターのリフに乗せたロックナンバーが途中からのコンガからラテン・ジャズに変わって演奏が続いていくフリーキーな曲でカッコいい。ボビー・キーズの後釜のカール・デンソンがサックスで頑張っている。ミックもその当時、プレイしていてストーンズの新しい面が見られてやっていて楽しかったそうだ。そしてメンバーがストーンズで最もスローなナンバーと口を揃える「I Got A Blues」。最もスローといいながらミックの熱唱によるスロー・バラードで、テンポは特に遅いわけではない。そして『Sticky Fingers』の最後はオリエンタルな「Moonlight Mile」。聴いていて何か違和感があると思っていたら、見事寺田さんの解説でミックのオリジナルはGだが、ライブでは5度上のDで歌っていて色々と歌い方も違っているのだそうだ。そして最後はいよいよお待ちかね、「Brown Sugar」。ミックは無人島へ持っていく1曲なら「Brown Sugar」と断言していて、傑作を書いたという自信に満ちていた。さらにキースもレコーディングは感動的だった、究極のロックンロールを仕上げた気分だった、そして何よりも熱があったんだと語る。キースのリフも当時のレコードと同じ跳ね上がらない弾き方でこういう小さいところも嬉しい。そしてアンコールはB.B.キングのカバーの「Rock Me Baby」。徐々に盛り上がりエンディングでロンのギターソロ、キースのギターソロ、ミックのブルースハーブで終わるところが最高だ。そしてオオトリは「Jumpin’ Jack Flash」。昔から自分が力説しているようにこの史上最強のロックナンバーをここでは一切崩さず、But it’s alright nowの部分もレコードと同じハーモニー、ミックの歌い方もレコードと同じで崩さず、こういうライブ・ヴァージョンが一番好きだ。この会場の人はこういう部分も幸せだな。ボーナストラックは実は「Start Me Up」の後に続いて演奏された「All Down The Line」と「When The Whip Comes Down」で、なかなか熱いライブだ。そして3曲目の「I Can’t Turn You Loose」は、実際には「Jumpin’ Jack Flash」の続いての本当のラストナンバーだった。オーティス・レディングで知られるこのナンバーだが、最も親しまれているのはブルース・ブラザースがデビュー・アルバムのオープニングに使われていたからで、このこの繰り返すホーンのフレーズを聴いたことがない人間などいないだろう。みんなが明るく笑顔で終わる最高のエンディングだ。このライブ、なんとたったの$29.5だったそうで、なんと幸せなファンなのだろうか。ただ会場にいたオーディエンスにはそうそうたる有名人が並び、一般人じゃとても入り込むすきなどなさそう。(佐野邦彦)

2017年9月2日土曜日

『Best Of The Pen Friend Club 2012-2017』(サザナミ・レーベル/SZDW1040) 平川雄一インタビュー


 2月8日に4thアルバム『Wonderful World Of The Pen Friend Club』をリリースしたばかりのペンフレンドクラブが、初のベストアルバムを9月6日にリリースする。
 幾度かのメンバー・チェンジを経たバンド・ストーリーのメモリアルというばかりではなく、リーダーの平川によるリミックスへの飽くなき拘りによりブラッシュアップされた全20曲が収録された、希なベストアルバムと評価したい。選曲的にもWebVANDA読者にはお馴染みのソフトロック・クラシックが多く収められているので強くお勧め出来るのだ。
 ここでは通算4回目(またかと言われそうだが)となる平川氏へのインタビューをおおくりする。


   

 【収 録 曲】
1. 8月の雨の日 ※4
2. Do I Love You ※1
3. Tell Me (Do You Really Love Me?) ※2
4. 街のアンサンブル ※3
5. 微笑んで ※4
6. Don't Run Away ※1
7. How Does It Feel? ※2
8. What A Summer ※3
9. Sherry She Needs Me ※4
10. I Sing A Song For You ※1
11. I Like You ※2
12. Summertime Girl ※3
13. Love's Lines, Angles and Rhymes ※4
14. I Fell In Love ※1
15. His Silhouette ※3
16. The Monkey's Uncle ※2
17. Newyork's A Lonely Town ※1
18. 土曜日の恋人 ※3
19. Wichita Lineman ※2
20. ふたりの夕日ライン ※4

【オリジナル収録アルバム】
『Sound Of The Pen Friend Club』※1 
『Spirit Of The Pen Friend Club』※2 
『Season Of The Pen Friend Club』※3
『Wonderful World Of The Pen Friend Club』※4



●今年2月の『Wonderful World Of The Pen Friend Club』が記憶に新しい訳ですが、この時期にベスト・アルバムをリリースしようとした動機を教えて下さい。
また選曲にはメンバーの意見も反映しましたか?バンド内投票とか? 

平川:動機は過去の音源をリミックスしたかったからです。それだけと言っていいです。選曲は僕一人の判断です。
活動が5周年とキリがいいのと、今回はメンバーが入れ替わることなく次に進めそうなので、これまでの4枚のアルバム(4人のボーカル)を「初期のペンクラ」として一区切りにできるかなと。
でも、とにかく「リミックスしたかった」の一言に尽きます。

●拘りが凄いよね(笑)。リミックスということでマルチトラックから全てやり直す訳ですが、作業時期と作業状況はどんな感じでしたか?
時間が経過しているとはいえ、オリジナル・ミックスの固定観念があるから頭を切り換えるのが大変だったのでは?
基本的に平川さん一人で担当したんですか?

平川:リミックスの作業時期は今年の4thアルバム発売後くらいから少しずつ進めていました。
1stアルバムの曲を全曲やり直そうと思ってなんとなく進めていたんですが、そのうちベスト盤として出すことにしたので全アルバムから選抜された曲のリミックス作業に移行しました。
オリジナル・ミックスへの固定観念というのは全然無くて、むしろ「もっと良くしたい」という気持ちで一杯だったので楽しんでやれました。
作業は僕一人で行いました。

●これまでのアルバムを振り返って、それぞれについて平川さんの思い入れを聞かせて下さい。

1)『Sound Of The Pen Friend Club』
平川:当時は全然知識が無くて、まさか自分のバンドで全国流通のアルバムが作れるとは思っていなかったので、最初に声をかけてくれたサザナミ・レーベルには本当に感謝ですね。
当時はこの1枚で終わる(アルバムを2枚も3枚も発売させてもらえるわけがない)と思っていました。なのでジャケットは見る人が見ればどういうバンドか一発でわかるデザインにせねば、と思いこのような感じに。音もジャケも、あの当時の僕の全力を投入して制作にあたりましたが・・・今聴くとやり直したいところだらけですね(笑)。
今回のベスト盤でのリミックスで一番恩恵受けているのはこの1st収録曲です。完全に生まれ変わりました。ベスト盤に入らなかった曲もいつか全部やり直したいですね。

●当時の心情が伺えますが、そもそもペンクラを結成した時は活動の中心はライブと考えていたのですか?
またサザナミ・レーベルから声が掛からなければ、自主制作でリリースする予定はあったのですか?

平川:結成当初は軽い遊びのバンドのつもりだったので、たまにライブが出来る程度でいいと思っていましたが、ボーカルに夕暮コウが加入すると自分が思っていた以上にいいバンドになると確信するようになりました。 活動が始まってからすぐに自主製作EP(CD-R)を作ったので、盤を残そうという意識は当初からあったと言えます。
最初に声をかけてもらったのがサザナミ・レーベルでした。それがなければ未だに手刷りCD-Rだったかもしれませんね。


2)『Spirit Of The Pen Friend Club』
平川:僕の気持ち的には「ペンクラのアルバム1枚目」、という感じです。
現メンバー(楽器隊)が参加したアルバムですし、非常に思い入れがあります。選曲的にもペンフレンドクラブというバンドを1stアルバム以上に象徴したものになっていると思います。
ただクオリティは1stより進化しましたが、やっぱり今聴くといろいろ自分のミックスが許せないので・・・。

●初めて推薦文を書かせて頂いたアルバムなので私も印象に残っています。ファーストでカバーしていたブルース&テリーの「Don't Run Away」やトレイドウィンズの「New york's A Lonely Town」は、マニアックな選曲とはいえ熱心な山下達郎ファンの間ではよく知られていましたが、このアルバムではジミー・ウェッブ作でグレン・キャンベルの「Wichita Lineman」を取り上げていて、平川さんの趣味の良さを確信しましたね。
各アルバムにおけるカバー曲の選択基準は、どんな尺度で選んでいたのですか?

平川:カバー曲の選択基準はもうただ単に「好きな曲」に尽きます。
あとは「こんな曲やるバンド、今どこにもおらんやろう」というのもありますね。ラグドールズの『Dusty』然り。
そういうところに命を懸けたいです(笑)。

●「命を懸けたい」とは拘りを超えて、悟りを開いたような境地に近いね(笑)。
繰り返しになるけど、各アルバムで取り上げるカバー曲は既にリストアップしていて、アルバム全体の構成を考えながらタイミングを計っているということですか?

平川:最初の頃はリストアップしていましたが、最近はその時のバンドの状況や、前作との比較を考えて決めるようにしてます。



3)『Season Of The Pen Friend Club』
平川:自主レコーディング、自主レーベルでの発売、と全部自分たちで作ったアルバムですね。
オリジナルとカバーの比率も5:5にし、日本語曲もこのアルバムから。 いろいろ挑戦した一枚ですね。新規ファン開拓、業界人との繋がり、等、いろいろな切っ掛けを作ってくれたアルバムになりましたが、やはり今聴くとダメなポイントが多すぎますね。
今回ベスト盤のリミックスで満足できる出来になりました。 

●このアルバムがリリースされたのは、ゾンビーズやジェフリー・フォスケットの来日公演で共演するなど、バンドとしてかなり充実していた時期ですが、今のところこのアルバムだけが自主レーベルからのリリースですね。
自主レーベルに拘った理由はなんでしょうか?

平川:このころになると盤を作って売ることのイロハが分かってきたので「これは自分でできるな」と思い自主レーベルでやることにしました。
自分で録って、自分で売る方が儲けが多いですからね。その分リスクは伴いますが、そこまで大きいビジネスにもなってないんで(笑)。分かる人にだけ伝わればいいと。
面倒くさい事務作業もありますが、メンバーが手伝ってくれるので助かっています。

●またボーカリストが、ファーストの夕暮コウさんからセカンドで向井はるかさんへ交代して、このアルバムでも高野ジュンさんへ代わっています。
各メンバーの方向性などシビアな事情があったと思いますが、バンドの看板であるボーカリストを定着させるというのは、この時期ペンクラにとって永遠のテーマになりつつありましたか?

平川:ボーカルが変わるとライブの全レパートリーのキーが変わるので、打楽器奏者以外がいつも大変な思いをします。もう三回もキーを総変えしていますからね、ペンクラは(笑)。
あと個人的なことですがボーカルの交代はとにかく精神的な重圧がすさまじいです。ペンクラの場合、ボーカルが抜けるだけで一気にバンド存亡の危機に陥ります。一番の肝のパートですし、一番後任が見つかりにくくもあります。ボーカルの違いでバンドの色がハッキリと変わりますから後任探しも慎重にならざるを得ません。
そんな中、いつもいいボーカルに巡り合えたなあと幸運に感謝しています。今回のベスト盤でも4人のボーカルが入れ代わり立ち代わり聴けるので、それが伝わるだろうと思っています。結果オーライですかね。

●同じバンドなのにレパートリーのキーを三回も変えるってなかなか無いよね(笑)。でもそれは歴代ボーカリストのベストな声域を綿密に計算していることの現れであって、今回のベスト盤を聴いて感じたのは違和感無くペンクラ・サウンドとして受け止められたことですね。

平川:ありがとうございます。今回のベスト盤のライナーノーツでもカンケさんが「初めて聴いた人は4人の女性ボーカルがいると思うだろう」といった趣旨の文を寄せられていました。
確かにそうかもしれませんね。


 4)『Wonderful World Of The Pen Friend Club』
平川:近作ですが、これは褒めるところの多い一枚です。
これまでのペンクラ作品の中で一番まともに聴けますね。「Sherry She Needs Me」のサウンド作りでは、やりたいことが100%実現できました。もちろん新メンバー藤本有華(Vo)と大谷英紗子(Sax)の好演も理由の一つです。
実は今年の11/3(レコードの日)に、この4thアルバムがアナログLP化されるんですが、ここぞとばかりに全曲リミックスしました。CDよりも更に、遥かに良くなったのでその4thLPも是非聴いていただきたいです。

●私もこれまでの最高傑作だと感じています。
「最新作が最高傑作」と言ったのは、ミック・ジャガー(ローリング・ストーンズ)の口癖だったと思いますが、リリース毎に前作を超えるアルバムを制作するというプレッシャーをリーダー、そしてプロデューサーという立場で常に感じていたと思います。
その辺りの苦労話を聞かせて下さい。

平川:そういうプレッシャーは感じたことはないです。
ただその時の自分が合格点を出せることが大事なので、そこに至らないことのほうが恐ろしいです。誰もがそうだと思いますが、完成時点で自分が100%納得できないとだめですね。
後から聴いたら後悔ばかりなんですけどね。



●過去多くのバンドは、ベスト・アルバムを一区切りに新たなステップを踏んでいく訳ですが、今後のペンクラについて新たなトピックスはありませんか?

平川:現メンバーで次の5thアルバムを作るということです。
同じメンバーで続けてアルバムを作ることは未知の経験であり、同時に悲願でもありました。既にジャケットがいい感じに完成しているので、それに見合った音楽を作ります。

●ペンクラみたいにマニアック(個人的には音楽界の「ガールズ&パンツァー」的なギャップの美学を感じている)なバンドのニューアルバムのコンセプトが、ジャケ先行というのは珍しいですが、収録曲やカバー曲の選曲などのアイディアは既に固まっていますか?

平川:収録曲は全部決まっていて、現在少しずつ録音を進めています。
本当は音楽のコンセプトのほうが先に決まって、それに合わせてジャケを撮るという順番なんですが、ジャケデザインのほうが先に出来てしまう、というだけなんです。
でもジャケができるとやる気が沸きますね。



●リリースに合わせたライブ・イベントをお知らせ下さい。

平川:9月30日にdues新宿でディスクユニオン購入者限定ライブ&サイン会があります。その他にも増える可能性がありますのでザ・ペンフレンドクラブ公式サイトをチェックして頂ければ幸いです。
ザ・ペンフレンドクラブ公式サイト

●では最後にこのベスト・アルバムのピーアールをお願いします。

平川:とにかくリミックスによって格段に音が良くなったので是非お聴きいただきたいですね。
これから初めてペンクラを聴く人にこそお勧めです。あとカンケさんのライナーノーツが絶品でバンド5年の統括と20曲分の解説は圧巻です。 紙ジャケもA式セミダブルと豪華な仕様ですので是非!

(インタビュー設問作成/テキスト:ウチタカヒデ