2024年4月14日日曜日

IKKUBARU:『DECADE』


 海外での再評価を背景に現在も続くシティポップ・ブームにおいて、インドネシアで活動するAOR~シティポップ・バンドのイックバル(IKKUBARU)が、デビュー10周年を記念したサード・アルバム『DECADE』(CA VA? RECORDS / HAYABUSA LANDINGS / HYCA-8070)を4月20日にアナログLP盤でリリースする。
 
 本作は“RECORD STORE DAY 2024”のアイテムであり、前アルバル『Chords & Melodies』からは実に4年振りとなる。 2021年08月の『Summer Love Story』、2022年12月の『Lagoon』の各7インチ、昨年7月の8cm CDの『The Man In The Mirror』といったシングルのタイトル曲も含め全10曲を収録している。
 これまでの作品同様に全曲がフロントマンのムハンマド・イックバル(Muhammad Iqbal、以降ムハンマド)によるソングライティングで、プロデュースとミックスも彼自身が担当しており、マスタリングはマイクロスター佐藤清喜が担当し、上記で挙げたシングル同様である。そして南国感溢れるジャケット・イラストレーションにも触れるが、KADOKAWA発行の隔月刊漫画誌『青騎士』連載中で単行本化もされた「音盤紀行」が、音楽ファンの間でも知られる、漫画家の毛塚了一郎(けずか・りょういちろう)が本作でも担当している。今年1月に弊サイトで紹介した秘密のミーニーズの『Our new town』のジャケットでも、その緻密で印象に残るイラストレーションを描き下ろしていたので記憶に新しいと思う。 


 バンドのプロフィールも紹介するが、彼らはムハンマドを中心として、2011年にインドネシアのジャワ島西部の州都バンドゥンで結成された4人組で、ムハンマドはボーカルとギター、キーボードを担当し、ギター兼ボーカルのRizki Firdausahlan、ベースのMuhammad Fauzi Rahman、ドラムのBanon Gilangの4名から構成されている。2015年に来日公演をして、TWEEDEES、脇田もなり、RYUTistなど国内アーティストとのコラボレーションも多く、昨年7月には日本テレビの番組『世界一受けたい授業』のシティポップ特集にも出演して、その知名度を一般層にも広げていた。
 筆者はムハンマドが作曲し、TWEEDEESの清浦夏実が作詞してRYUTistに提供した「無重力ファンタジア」をいたく気に入って、リリースした2018年に年間ベストソングに選出している。タイムリーにもその「無重力ファンタジア」を清浦がセルフカバーし、ソロ・ミニアルバムBreakfastに収録して、3月15日に配信リリースしたばかりなので、そちらも是非チェックして欲しい。

 
 IKKUBARU『DECADE』Album Teaser 2024 

 ここでは本作収録の全曲を解説していく。
 冒頭の「Horizon」とB面2曲目の「Out of Your Love」は、21年6月リリースの『Amusement Park・Expanded Edition』のディスク2に収録されていた既出曲で、尺が異なるので今回のアナログ用にミックスを変えていると思われる。前者はミッドテンポのシャッフルビートのドラムに、太いシンセベースからなるリズムトラックに、ギターのアルペジオが絡む軽快なポップスで、80年代中期のUKシンセポップにも通じるので懐かしむ読者もいるだろう。後者は左右チャンネルのギター・カッティングのイントロが耳に残り、やはりシンベによるグルーヴが曲を支えている。ムハンマドのボーカルに絡むRizkiのコーラスも効果的だ。
 A面2曲目の「Sound of Rainfall」は、風通しのいいソウル経由ボサノバのリズムと情熱的な歌詞のコントラストが印象的なラヴソングで、女性シンガーのMirna Nurmalaがバッキング・ボーカルで参加して、ストーリーをうまく演出している。
 続く「Catch The Love」はイントロから80年代初期の日本のカシオペアからの影響を一瞬感じさせるが、本編はソウルフルなムハンマドのボーカルをRizkiが高域のコーラスで引き立てた歌ものとして完成度が高い。またゲスト・パーカッショニストのRezki Delian Kautsarによるコンガや、クレジットはないがサックス・ソロ、ムハンマドにプレイと思われるシンセ・ソロなど演奏面でも聴き応えがある。
 ミッドテンポ・バラードの「Karena Cinta」では、再びMirnaがバッキング・ボーカルで参加して、70年代ブルーアイド・ソウルの雰囲気を醸し出した良曲だ。ディレイを効かせたRizkiのギター・リフも効果的である。
 A面のラスト曲「Summer Love Story」はレビュー前文で紹介した通り、2021年8月に7インチで先行リリースされている。故ジェフ・ポーカロが70年代後半に編み出した”ポーカロ・シャッフル”に影響されたドラミングを持つヴァース、ジェイ・グレイドン風のRizkiによる間奏のギター・ソロなどから、アル・ジャロウの「Breakin' Away」(82年/同名アルバム収録)のオマージュというべき良質なサマーAORなので必聴だ。ゲスト・ミュージシャンとしてトランペットのWisnu Mawl、トロンボーンのAldy Nugraha Noor Maasirが参加している。

 
Ikkubaru - Summer Love Story (Official Music Video) 


 B面冒頭の「I Will Be」は、オールド・タイミーなローファイ・ピアノとプログラミングされた簡素なリズムトラックにアコースティック・ギターが絡む、スローなニュージャックスイング系リズムのナンバーで、ここでもソウルフルなムハンマドのボーカルと、それをバックアップするRizkiのコーラスのコンビネーションも良い。
 バラードの「So Real」はドラムレスで、エレピとベースのみのオケで歌われるが、ハンマドのボーカルをバックアップするコーラス・アレンジが素晴らしく、曲の良さを引き出していて何度もリピートして聴き込みたくなる。
 「LAGOON」は2022年12月の7インチで、オーバードライヴが効いたRizkiのギター・プレイから高中正義の「BLUE LAGOON」(1980年)へのオマージュと思しき曲で、高中ファンだった筆者は一聴して好きになってしまった。ゲストのRezkiによるコンガの他、複数のパーカッションも効果的に配置されて、サマーアンセムとして素晴らしい仕上がりである。
 B面ラストで、昨年7月の8cm CDでリリースされた「The Man In The Mirror」は、完全にスウィート・ソウルのサウンドと歌唱であり、IKKUBARUとしては新境地のサウンドになるだろう。この手のソウルも大好きな筆者も一聴して気に入ってしまった。 

 なお本作『DECADE』は“RECORD STORE DAY 2024”のアイテムにより数量限定なので、筆者の解説を読んで興味を持った音楽ファンは、リンク先のオンラインショップ等で早期に予約して入手することをお薦めする。 

 ディスクユニオン予約:https://diskunion.net/indiealt/ct/detail/1008800850 

(テキスト:ウチタカヒデ

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