2016年6月13日月曜日

千尋:『旅の途中』(Happiness Records/ HRBR-003)



横浜在住の女性シンガー・ソングライターの千尋が、4年ぶりとなる通算3枚目のアルバムを6月15日にリリースする。
09年8月に某テレビ局が開催した楽曲オーディションで「満ちた月」がグランプリを受賞した後、同年10月にファースト・アルバム『うたうため』、12年3月には『この街から』をリリースしている。
また全国規模で展開しているライヴ・パフォーマンスにも定評があり、その歌声に魅了されているファンは数多いのだ。
今作では彼女が活動の拠点としているヨコハマ系のミュージシャンが多く参加しているのも特色で、アルバム全編でその卓越したプレイを聴かせてくれている。
筆者は一聴して彼女の歌声にノックアウトされてしまったので、こうしていち早く紹介出来ることは心より嬉しい。


シンガー・ソングライター千尋の一番の魅力はなんと言っても、柔らかく素朴で優しく繊細なその歌声であり、聴く者を歌の世界に引き込んでくれる表現力だと思うのだが、今作のレコーディングには笠原敏幸や椎野恭一(共に吉川晃司with PaPaのオリジナルメンバーで、数多くのアーティストのセッションにも参加している)など第一線で活躍してきた歴戦のミュージシャン達が加わってバッキングが一新したことで、更に際立っているように感じる。
これまでの2枚のアルバムでは「Less is more(より少ないほど、より豊かである)」という感覚で、音数を削ったアレンジと楽器編成とそれをすくい上げる様な丁重なミックスを施しており、今作でもその姿勢は変わらないが、ミュージシャンが一新したことでダイナミズムがより増している。


 


では主な収録曲を解説していこう。
ハモンド・オルガンのイントロに導かれてブルージーなギターから静かに始まる冒頭の「朝焼け」。リズム・セクションは前出のベースの笠原、ドラムの椎野にギターの長崎真吾、そして加藤ミリヤのツアー・バンマスでもあるキーボーディストのMAKO-Tの4人。 この曲はサザンソウル系のサウンドを下敷きにしていると思われるが、千尋のヴォーカルは静かに熱くソウルフルだ。長崎のギターとMAKO-Tのハモンドのプレイも出色である。
続く「それいゆ」もリズム・アレンジにはサザンソウルのエッセンスを残しているが、ここでは軽快なポップスに仕上げている。またこの手のリズムでは笠原と椎野のコンビーネションが抜群でMAKO-Tが弾くウーリッツァーも印象的だ。

タイトル曲の「旅の途中」ではシカゴソウル(チャールズ・ステップニー等)に通じるリズム感が現代のフリーソウル・ファンにも受け入れられるだろう。この曲ではエレピがフェンダー・ローズにチェンジされており、きちんとサウンドの構造が考えられている。 続く「wave」は筆者的に今作のベスト・トラックと考えるほど、曲とアレンジ、歌と演奏の一体感が素晴らしい。
笠原による巧みなベース・ラインとツボを押さえた椎野のドラミング、長崎のギター・ソロもアルバム収録曲中のベスト・プレイではないだろうか。この曲では鍵盤がハモンドだけという構造がアレンジ的にはミソなのかも知れない。とにかく一聴して好きにならずにいられない曲である。
他にもレゲエのリズムで歌われる「Mr. melody」やジャズ・テイストの「シャラライフ」な聴きどころが多く、各曲で千尋の表現力豊かなヴォーカルを楽しめる。
興味を持った音楽ファンは是非入手して聴いてみて欲しい。
(ウチタカヒデ)



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