2021年10月16日土曜日

1973年 Jackson 5 初来日公演(5月2日・日本武道館)


  ”King Of Pop”ことMicheal Jacksonの初来日公演といえば、大半の方は1987年の『Bad World Tour』での後楽園球場をはじめとするスタジアムでのライヴを思い浮かべる方がほとんどかと思う。
  しかし彼の初来日公演は、The Jackson 5(以下、J-5)時代の1973年4月だった。ただこの時期は本国での爆発的な人気にも陰りを帯び始めていた頃で、またマイケルの変声期にも重なり、印象が薄いのは否めない。なおこの公演は日本独自にライヴ・アルバム『In Japan』(注1)としてリリースされている。
 

  そんな彼らの来日を知ったのは、音楽雑誌「音楽専科」の広告ページだった。そこにはJ-5が4月27日(金)帝国劇場で開催される「第2回東京音楽祭」の特別招待ゲストとあり、追加で一般公演の日程(注2)も紹介されていた。その東京日本武道館公演が熱烈な「J-5ファン」だった弟の誕生日だったこともあり、彼への誕生日プレゼントにちょうど良いと思った。この時期の私は、東京で浪人生活を送っていたので、静岡から弟を呼んで行くことにした。
 
  とはいえこの1970年代初頭の日本では、海外の兄弟グループといえばオズモンズが断トツ人気で、J-5は<abc>(注3)が知られる程度で人気は華々しいものではなかった。ただ、1972年にマイケル初の全米1位を記録した<Ben(ベンのテーマ)>(注4)は、曲の良さに加え抜群の歌唱力が多くを魅了し、ソウルファンだけでなく一般のポップス・ファンにも注目されていた。
  そんなJ-5を静岡という地方在住だった私が知ったのは、彼等の4枚目のシングル<Mama’s Pearl(ママの真珠)>が、アイドル歌手のデビュー曲(注5)によく似ていたことがきっかけだった。そして、曲として気に入ったのは5枚目の<Never Can Say Goodbye(さよならは言わないで)>だった。弟がJ-5のファンになったのは、<Ben(ベンのテーマ)>(注6)がラジオから流れていた1972年の秋口だった。

  当時、日本ではJ-5のベスト・アルバムが何種類か発売されていたが、その中で『Both Sides』というA面「アップテンポ」、B面か「バラード」で構成したLPを購入している。そこでこのアルバムの「バラード」サイドに収録された<La-La (Means I Love You)(ララは愛の言葉)>(注7)でその恐るべし歌唱力に惹かれるようになった。 そんな私よりも熱中したのが弟で、擦り切れるほど聴きまくり熱狂的なJ-5になっている。そして、このLPを購入した頃リアル・タイムでヒットしていた<Lookin’ Through the Window(窓辺のデイト)>のカッコよさに、ファン熱は高まるばかりだった。

  と前置きが長くなってしまったが、肝心のJ-5初来日公演の話を進めることにする。この初来日公演だが正確には「Jackson 5+1」となっており、The Jacksonsになってから正式加入する9男Randyがコンガで参加していた。そんなこの日の公演は大雨の悪天候で、アリーナでも外の雷鳴が響くほどだった。とはいえ、席はメンバーの顔が肉眼でもしっかり確認できるくらいの良席だった。
  なおこの公演には前座がおり、この日は「オレンジ・ペコ」(注7)というロック・バンドだった。余談になるが、この前座には後に“和製ジャクソン5”と呼ばれたフィンガー5が切望していたという話がある。彼等は1970年6月に“ベイビー・ブラザース”としてデビュー後、1972年8月にフィンガー5と改名し、この時期には“関東ローカル番組”「銀座Now!!」(注8)等で地道にライヴ活動をしていた。皮肉にもこの公演の数か月後8月25日にリリースした<個人授業>で大ブレイクを果たしている。あと少し人気に灯がつくのが早かったら、「和製Vs.真打」という夢の共演を見れたかもしれなかった。
 捕捉になるが、フィンガー5も人気絶頂だった1974年に武道館公演を開催している。その公演は<Heartbeat - It's a Lovebeat(恋のハートビート)>のヒットを持つ、カナダの出身の兄弟グループThe DeFranco Familyとジョイント・コンサートだった。

 そんな前座のステージが終了すると、再び司会者がステージに登壇し「これまでの経験から彼らは雨の日に来てくれたお客さんのために、今日はそれに応えるように気持ちいっぱいに頑張ると言っている!」とコメント、それに反応した会場内は一気にヒートアップした。
 そしてイントロダクションの演奏がスタートし、いよいよお待ちかねのJ-5が登場した。 オープニング曲は日本では来日記念シングルとなっていた<Halleujah Day>。この「ベトナム戦争解放」を祝うゴスペルタッチのポップ・ソングからスタートしたライヴは、続く<Lookin' Through The Windows(窓辺のディト)>で、会場内は一体化した。 
 次に披露されたナンバーはJamaineのファーストに収録されたMarvin Gayeのカヴァー<Ain't That Peculiar>。この演奏が終わると、Michealから「Mina-Sama Konbanwa」と切り出す。この日の公演が最終日だけあって慣れた日本語だった。 

 そんなスピーチの後はMichealのソロ・デビュー曲<Got To Be There>。この美しいバラードは変声期の彼には少々辛そうで、出だしはやっと発声している風だった。サビ以降に聴かれるはずの伸びやかな高音もおさえて歌っているようだったが、バックを務める兄弟たちのコーラスで無難に乗り切っていた。 続いては既に恒例となっていたデビュー曲からの全米1位メドレーが登場。<I Want You Back(帰ってほしいの)><ABC>に続き、<The Love You Save(小さな経験)>に入る直前にMichealがニヤリとした笑みがのぞくところを確認。「この曲好きなんだ。」と彼の表情から察することができた。
 

  そんなJ-5に余裕が戻ったところで、次はJamaineのソロ・コーナーに入る。まずは彼のヒット・ナンバー<Daddy's Home(パパの家)>、近くにいたJamaineのファンのグループから大きな拍手、続いても彼のファーストからミディアムの<Live It UP>。続いてはStevie Wonderのカヴァー・ソング<Superstition(迷信)>がスタート、ここでの見せ場はコンガを演奏していたRandyが、Michealから「Come On,Randy!」の呼びかけで、サビの一部でヴォーカルを披露。

 そんな見せ場が終わるとリラックスした静寂の時間が経過する。 そこでMichealから「My Favorite Song…」のメッセージに盛大な拍手が起こる、そう来場者お待ちかねの<Ben(ベンのテーマ)>だ。この日一番のハイライトの瞬間と思えるほど盛大な拍手が沸き起こった。続いてもMichealのソロで、最新シングルの<With A Child's Heart(大人は知らない)>、地味な曲ながら彼の囁くヴォーカルがしみた。
 

 Michalの「Arigato !」メッセージに続いてサイレンが鳴り響き、後半戦のスタートはTemptationsのグラミー・ナンバー<Papa Was A Rollin' Stone>、そしてJamaineのソロ・デビュー曲<That's How Love Goes(恋の約束)>、名曲<Never Can Say Goodbye(さよならは言わないで)>が続く。ここでもMichaelの負担を軽減するかのように、メンバーのコーラスを大きくフューチャーしながら<Walk On>に流れ込む構成になっていた。 

 ラストはMichealのソロでのサード・シングル<I Wanna Be Where You Are(キミはボクのマスコット)>。多少喉をセーブ気味だったMichealも、めいっぱいシャウトしながらステージを所狭しと動き回り「A・Ri・Ga・To」を連発! そんなノリノリで会場内も手拍子で大きな声援を送るも、フェイド・アウトでステージから去っていった
 

 なお2010年にはこの公演の前年1972年の全米ツアーのライヴがCD化されている。以下にこの時期のセット・リストと来日公演を紹介しておく。これを比べれば、マイケルの不調をいかにジャーメインのソロや、メンバーのコーラスでサポートしていたのかがよくわかるはずだ。 

 <Budokan Hall Tokyo Jpn. May 1, 1973 > 
01. Introduction~We're Gonna Have A Good Time 02. Halleujah Day(⋆) 
03. Lookin' Through The Windows(窓辺のディト) 04. Ain't That Peculiar 05. Got To Be There 06. Medley:I Want You Back / ABC / The Love You Save(小さな経験) 
07. Daddy's Home(パパの家) 08. Live It UP(⋆) 09. Superstition(迷信) 
10. Ben(ベンのテーマ) 11. With A Child's Heart(大人は知らない) (⋆)
12. Papa Was A Rollin' Stone 13. That's How Love Goes(恋の約束) 
14. Never Can Say Goodbye(さよならは言わないで)~ Walk On 
15. I Wanna Be Where You Are(キミはボクのマスコット) 

(⋆)は『In Japan』未収録曲

 <Los Angeles Forum U.S.A. August 26, 1972 > 
01. Brand New Song 02. Medley:I Want You Back / ABC / Mama’s Pearl(ママの真珠) 
03. Suger Daddy 04. I’ll Be There 05. Goin’ Back To Indiana / Brand New Song / Goin’ Back To Indiana 
06. Bridge Over Troubled Water 07. I Found A Girl 08. I’m So Happy 
09. Lookin' Through The Windows(窓辺のディト) 10. Ben(ベンのテーマ) 
11. Rockin’ Robin 12. Got To Be There 13. You’ve Got A Friend 14. Ain’t No Sunshine 
15. I Wanna Be Where You Are(キミはボクのマスコット) 
16. That's How Love Goes(恋の約束) 17. Never Can Say Goodbye(さよならは言わないで)~ Walk On 18. The Love You Save(小さな経験) 
19. I Wanna Be Where You Are(キミはボクのマスコット) 

 そんなマイケルたちではあったが、変声期を乗り越えたこの年の秋には快作『G.I.T.:Get It Together』をリリースしている。このアルバムはダンスに特化したコンセプト・アルバムで、音楽雑誌「Rolling Stone」で絶賛された。セールス的には100位と惨敗ではあったが、セカンド・シングル<Dancing Machine>が全米2位の大ヒットとなり健在を印象付けた。

注1)当時のMotown系アーティストの来日公演は、日本独自でライヴ盤がリリースされていた。その皮切りになったのがThe Supreams、続いてThe Temptations、そしてこのThe Jackson 5だった。 

 (注2)4/28広島郵便貯金会館、4/30大阪厚生年金会館、5/1大阪フェスティヴァル・ホール、5/2東京日本武道館。 

 (注3)1970年5月にリリースされた日本では40位3.8万枚。当時のMotownにおける最大ヒットで、後にMariah Careyも大ヒットさせるスタンダード・ナンバー<I’ll be There>でも99位0.2万枚だった。

 (注4)日本でのリリースは1972年11月、52位2.6万枚。 

 (注5)西城秀樹や郷ひろみの同期デビュー・アイドル歌手伊丹幸雄の<青い麦>。

 (注6)スウィート・ソウル・グループThe Delfonicsの代表曲。1968年リリースのサード・シングルで全米4位R&B2位を記録。J-5カヴァーは、1970年5月リリースの『abc』に収録。

 (注7)詳しい素性は不明だが、私の知る限りではKingからデビューした「チューリップ・フォロワー」のはず。 

 (注8)1972年10月から放送開始したTBS系の関東ローカル「情報・バラエティ番組」。この当時の放送時間は平日17時~17時30分でフィンガー5は月曜日のレギュラー。ちなみに木曜のレギュラーには矢沢永吉率いるCarolがいた。

 (文・構成:鈴木英之)

2021年10月9日土曜日

bjons:『CIRCLES』(NARISU COMPACT DISC / HAYABUSA LANDINGS / HYCA-8024)リリース・インタビュー


 bjons(ビョーンズ)が、2018年5月の『SILLY POPS』から約3年半振りとなる最新作でセカンド・アルバムの『CIRCLES』を10月13日にリリースする。
 昨年10月に彼らの7インチ・シングル『抱きしめられたい』を弊サイトでも紹介しているので記憶に新しいと思うが、2017年にソングライターでヴォーカル兼ギターの今泉雄貴、ギターの渡瀬賢吾とベースの橋本大輔の3人で結成されたポップスバンドだ。レコーディングやライブでは、サポートメンバーとしてドラムの岡田梨沙(元D.W.ニコルズ)とキーボードの谷口雄(元森は生きている、現1983)が加わり準メンバーとして活動している。 

 筆者はファーストアルバム『SILLY POPS』からシングルカットされた『ハンバーガー / そろりっそわ』(18年7月)のジャケット写真が、The Parade(Jerry Riopelle、Murray MacLeod、Allen "Smokey" Roberdsによる短命のソフトロック・グループ)の日本編集盤のそれをオマージュしていたことで気になりチェックして、今泉の巧みなソングライティングと個性的なヴォーカル、渡瀬と橋本の手練なプレイを高く評価するようになった。因みにギタリストの渡瀬は昨年紹介したポニーのヒサミツの『Pのミューザック』(20年4月)や一色萌の『Hammer & Bikkle』(20年11月)をはじめ、加納エミリの『朝になれ』(20年11月)などジャンルを超えて様々なセッションで活躍している。

 本作『CIRCLES』では前作以上にソングライティングに磨きが掛かった楽曲が揃っており、サポートの岡田と谷口を含めたフォーリズムのコンビネーションも素晴らしく、長い年数聴ける良作になったと高評価している。なお主要曲の解説と聴きどころについては、インタビュー記事中で筆者が触れているので要チェックだ。
 さてここではメンバー3人におこなった、この最新アルバムの曲作りやレコーディングについてのテキスト・インタビューと、ソングライティングやレコーディング期間中にイメージ作りで聴いていたプレイリスト(サブスクで聴取可能)をお送りするので聴きながら読んでみて欲しい。

 
左から時計回りに渡瀬、岡田、今泉、橋本、谷口


 ~必要性のある音以外は極力鳴らさず、 
曲のエグみやザラついた質感を活かすアレンジで統一~ 

 ●ファーストアルバム『SILLY POPS』の後、昨年のシングル『抱きしめられたい』を経て、本作『CIRCLES』のコンセプトとして考えていた世界観を聞かせて下さい。 

◎今泉:制作が長期に渡ったこともあり、曲単位で一貫したコンセプトはありません。曲が出揃ったときに「抱きしめられたい」の延長線上とも言えそうな、必要性のある音以外は極力鳴らさず、曲のエグみやザラついた質感を活かすアレンジで統一しようとバンド内で話し合いました。 

●音数を削ぎ落とす引き算的アレンジは成功しているのではないかと思います。bjonsのサウンドを構築していく上で心掛けているポイントを教えて下さい。

◎今泉:プレーヤーとして素晴らしいメンバーが集まっていると思うので、それぞれの持ち味を活かせるような曲を書きたいな、とは常々考えています。 


CIRCLES』トレーラー


●収録曲のソングライティングの着想やアレンジのアイディアを可能な限り聞かせて下さい。

「皮肉屋」~ 
◎今泉:書いたのはちょうどコロナ禍に突入した2020年初頭です。Whitneyみたいな少し牧歌的で大きめなメロディーに、当時自分の中でぐつぐつと沸いていた憤りやもどかしさを言葉にして乗せました。 

◎渡瀬:歌詞の世界観にあわせて特にイントロとアウトロは不穏な感じを演出しつつ、歌のバックのスライド・ギターやギターソロは明るい音選びで少しだけ希望のようなものを表現したつもりです。着想としては、WilcoやWhitneyなど近年のUSインディーのイメージがありました。

◎橋本:最初の緊急事態宣言の時に送られてきた曲ですね。シンプルな演奏ですが緊張感をだしたいなと思い、アップライトにしました。 

●サウンド面ではプレイリストでも挙げているWhitneyからの影響というのは興味深いです。Whitney は2019年の『Forever Turned Around』を星野源氏などが年間ベスト・アルバムに選んでいて、ミュージシャンズ・ミュージシャンズという存在ですが、コロナ禍に入った当時の社会情勢が作詞面におよぼした影響というのはどの辺りに出ていますか?
冒頭から「きみは嘘つき とても好きになれない」やサビの「顔に引っ付いて 消えなくなった  そこに潜んでいたのかアイロニー」などサウンドとは対照的な辛辣なラインがありますが。 

◎今泉:仰る通り、「皮肉屋」「スロウリー」では大きく影響が表れていると思います。作詞においては、暫くの間は影響を受けてしまうだろうと思います。 


「デジャヴ」~ 
◎今泉:もう少し緩やかな曲として産まれました。上京した頃暮らしていた石神井公園〜大泉学園あたりの深夜から明け方を舞台に歌詞を付けています。アレンジは、どこか暗くて重苦しい負の硬質なAORみたいになったかなと。たぶん、あまりいい思い出ではないんでしょうね。

◎渡瀬:なかなかギターはアレンジが決まらず苦労しました。ソロはSteely Dan期のラリー・カールトンを少しだけ意識しましたが、うまくいったのかどうかはわかりません。

◎橋本:デモの時点で今泉君がベースラインいれていて。音数も多かったので、そこから削ぎおとしつつ整えていきました。特にBメロなんかは、ここに行き着くまでけっこう苦労したんです(笑)。

●この曲、マスタリング前のラフミックス音源を聴かせてもらった段階から一聴して虜になった曲なんですよ。イントロの渡瀬さんのギターリフから、橋本さんのベースと岡田梨沙さんのドラムのコンビネーションなどブルーアイドソウル~AORのテイストが濃くて好きにならずにいられないという(笑)。 
また橋本さんのコメントにもありますが、不安定なヴァース(Aメロ)からこのブリッジ(Bメロ)があることで、開放感あるサビに美しく繋がったと思います。「お互い死に際に会えたなら それでいいだろう」と最期のラインは感動的で、入口は重苦しい世界観で複雑な構成なんだけど、最期にヒューマニズムが滲み出ているマインドを感じられたという。 

◎今泉: 今作の制作の中では初期の楽曲で、僕個人としてはこういうトーンで纏まったアルバムになるかなとイメージしていました。結果ならなかったのですが。

 

「抱きしめられたい」~ 
◎今泉:弾き語りのデモはもっとフォーキーで、記憶は曖昧ですが田島貴男さんをイメージして書いた曲だったと思います。アレンジは、当時メンバー内で盛り上がっていた「Running Away」(Vulfpeck)の影響を受けています。

◎渡瀬:レコーディング時期にVulfpeckの「Running Away」をメンバー間でよく聴いていたこともあり、全体のアレンジはその曲に引っ張られているところが大きいと思います。ただDavid Tのように弾くことは僕にはできないので、結局アウトロのソロは自分らしいブルージーな感じになりました。

●Vulfpeckの「Running Away」にはデイヴィッドTとジェームス・ギャドソンが参加していて、そのデイヴィッドは昨年弊サイトのベストプレイ企画をした際渡瀬さんにも参加頂きました。原点回帰的ソウル・ミュージックのサウンドに、松本隆的な映像が浮かぶ詩世界が融合していて完成度が非常に高いです。「無言の街に 誰かのバイブレーション 響いて聞こえる」の後の谷口さんのアナログシンセの無限音階も実に効果的ですしね。
デモの段階で田島さんの作風をイメージしていたという点が気になりますが、オリジナルラヴを愛聴されていたんですね? 『風の歌を聴け』(94年)や『RAINBOW RACE』(95年)はリアルタイムで聴き込んでいましたが、90年代日本のポップスの完成形だと思っています。

◎今泉:そうですね、大好きです。田島さんに限らず、フェイバリットミュージシャンが歌っている姿を想像して作曲することはしばしばありますね。


「かっこわらい」~
◎今泉:シーズンソングを書いてみよう、という軽薄なきっかけで書いた曲です。いろんなアレンジを試しましたが、メロディーが強くて拒絶反応を起こす面白い曲でした。最終的にはPerfume Geniusをイメージした、機械っぽい生のリズムアレンジになりました。

●等身大の詞の世界に好感が持てます。Perfume Geniusを聴き込んでいないのでその影響が掴めないのですが、シャッフルのリズムやメロトロン系キーボードを入れるアレンジは今泉さんのアイディアですか? 

◎今泉:シャッフルのリズムは書いた時からですが、それ以外はサポートメンバーの谷口雄君によるアイディアです。特にこの楽曲に関してはアレンジの大半が彼によるものです。



 
「ハードレイン」~ 
◎橋本:イントロとアウトロの谷ピョンのオルガンに私の願いが詰め込まれています。 

●元森は生きているのメンバーで、多くのセッションに参加しプロデューサーとしても活躍している谷口さんへのシンパシーを感じました。シンコペーションが効いたオルガンもそうですが、ウーリッツァーのプレイも素晴らしいです。
この曲ではドラムの岡田さんがコーラスも担当していますが、今泉さんの声とのコントラストがいいので、今後も依頼してはどうでしょうか。

◎橋本:STAXのコーラスグループ「Mad Lads」の曲に元ネタがあって。これははまるんじゃないかと谷ピョンにリクエストした次第です。りっちゃん(Risa Cooper)は昨年ソロデビュー(下記画像参照 / 2020年11月)もしていますし、どんどん歌って頂きたいです。話声は大きくて賑やかだけど、歌声はとても繊細で素敵です(笑) 。

(1stシングル / タイトル曲~作詞作曲:今泉雄貴)


「フォロー・ユー」~ 
◎今泉:ライブのMCでも何度か話していますが、津川雅彦さんのことを考えて作りました。バンド・アレンジとしては最初から現在のリズムパターンでアレンジを開始しましたが、元々はスローな3連で作った曲です。 

◎渡瀬:短い曲なので起承転結を付けるのが大変でしたが、ファズとディレイを使ったロングトーン中心に、歌詞の寂しさとか余韻とかを裏付けられるようにアレンジしました。

◎橋本:フレットレスの音色が、曲の世界観に合うかなと。演奏がシンプルなだけに音色で少し味付け、程度ですが。 

●昨年『抱きしめられたい』のカップリングで聴いた時から好きな曲でした。谷口さんのウーリッツァーのコード・ワークとリズム・セクションのコンビネーション、そこに絡む渡瀬さんのギターリフという必要最低限の音数で、今泉さんの鼻腔から響く独特の声質をよく引き立ています。 
ところで俳優の津川雅彦氏のことを考えという着想が非常に気になりますが(笑)、津川氏が生前に出演されていた映画やドラマのストーリーに歌詞を影響されているとか? 

◎今泉:いえ、俳優としての出演作品からではなく、彼が亡くなったときに感じたことをきっかけに作詞をしました。



~スタジオでせーのでヘッドアレンジする際より、
 みんなの音をより意識しながら進めたので、
ほんとに必要な音しか鳴っていない~
 
 ~bjonsは3人ともあんまり喋らないから、
 サポート二人の無駄話のおかげで終始リラックス~ 

●レコーディング中の特質すべきエピソードをお聞かせ下さい。

◎渡瀬:コロナ禍のためスタジオに集まれず宅録でのアレンジをはじめたことによって、逆にみんなの向き合い方が変わり、無駄な音がなくなったような気がします。またレコーディングが大きく2回に分かれて、さらにその間1年空いたことで、モチベーションとかどうなるかな?と思ったのですが、エンジニアの原さんが大変面白い人で、現場は毎回楽しかったです。

●コロナ禍によりバンドとして新たなレコーディング手法を取ることになり、その効果がサウンドに影響したことは興味深いです。その影響が最も現れているのはどの曲でしょうか?
またエンジニアの原真人さんは、細野晴臣氏をはじめWorld Standardやカーネーションなど拘り派ミュージシャンのレコーディングに携わっていることで知られますが、ギタリストとして外部のセッションにも参加している渡瀬さんとして、勉強になった点は何かありますか? 

◎渡瀬:アルバムに先駆けて、宅録で作った「皮肉屋」「頼りない魂」「スロウリー」の3曲のデモ音源をbandcampにて販売したのですが、特に「皮肉屋」と「頼りない魂」は、順番にそれぞれが音を足してデータ上でやり取りする、という方法による効果が如実に出ている気がします。
スタジオでせーのでヘッドアレンジする際より、みんなの音をより意識しながら進めたので、ほんとに必要な音しか鳴っていない、って感じになっていると思います。
レコーディング中に自分がヘッドホンで聴いている音と、コントロールルームに戻ってスピーカーでプレイバックした音が全然違ってがっかりすることってよくあるんですが、原さんは、録っている時も気持ちいいし、プレイバックでも「もうこのままで最高!」と思える音で録ってくれます。大体いつもふざけていますが(笑)、リラックスさせてくれますし、人間としての魅力が仕事にも出ているんだろうな~と思います。

●デモ音源を先行でネット販売というのは新しい試みで、ファンにとっては曲が完成に近付く過程が分かるので面白いと思いますが、リリース前にデモの段階で発表することの抵抗はなかったですか? 
挙げられた曲について、データのやり取りで音を重ねていった効果というのがサウンドを形成していったのが理解出来ました。
また原さんのプロフェッショナルな仕事振りと共に、人間性も伺えて非常に興味深いです。エンジニアに原さんを推薦されたのは渡瀬さんですか? 

◎渡瀬:bandcampで発表する際はアルバム・リリースの段階ではなく、純粋に新曲を公開する場として捉えていたので、特に抵抗はなかったですね。 原さんにお願いしようと言い出したのは僕ではなく、恐らく今泉か谷ぴょんだったと思います。

●なるほど新曲公開という趣旨だったんですね。原さんへのオファーの経緯も理解しました。
では他のメンバーの方でエピソードはないでしょうか? 

◎橋本:こんな状況ですし、ほとんど音を合わせることもなくレコーディングに入りましたが、わりとトントン拍子に録れました。渡瀬君も言っていますが、原さんは本当に気持ち良い音で録らせてくれるなあと。bjonsは3人ともあんまり喋らないから、サポート二人の無駄話のおかげで終始リラックスできました(笑) 

●サポートの谷口さんと岡田さんによって和やかにレコーディングが進んだようですが、本作収録で橋本さんが特にお二人のプレイでお気に入りの曲とその個所を挙げて下さい。

◎橋本:お二人とも全曲素晴らしいプレイなので全てお気に入りです。特別選ぶとなると難しいですが…。 
「頼りない魂」は宅録していく過程で、リズムがきて、そこにベース重ねて。で上物がどうくるのか楽しみに待っているわけですけど。頭のシンセ聴いて興奮しました。そしてサビ、ピアノの8分の刻みは非常に印象的で、曲をグッと引き締めています。心地よいですよね。
「鈍行アウェイ」は、確かスタジオで合わせてさらっと出来上がった曲だったような。淡々としているようですが、様々な感情がリズムに込められているように思います。穏やかであたたかいリズム。アルバムの中でも一番優しい曲ですよね。 



●ソングライティングやレコーディング期間中、イメージ作りで聴いていた曲を挙げて下さい。 

◎今泉:
◎若い頃は苦手だったこの手のサウンドですが今では大好物です。デジャヴで影響を受けています。

◎Whitneyのレコードは音が悪いイメージでしたが、このカバーアルバムは丸いのにガッツがあって好きな音です。皮肉屋で影響を受けています。
 
◎Randy Newmanを愛しています。スロウリーで影響を受けています。 

◎ちょっとストレンジなサザン・ソウル風味のカントリー?ハードレインで影響を受けています。


◎渡瀬:
◎前述の「皮肉屋」のイメージはこのアルバムかなと思いますが、今聴いてみたらエレキギターの印象はだいぶ薄かったです。全体のイメージということで。

◎「頼りない魂」は本アルバムの中でも特にスカスカなアレンジですが、その中でトム・ミッシュのボイシングやディレイの使い方は、この曲に限らずわりと参考にしました。

◎「ハードレイン」はHiサウンドでいこう、となったときに真っ先に思いついたのがこの辺の曲でした。アル・グリーンはこのアルバムが一番好きです。

◎特に今回のレコーディング中に聴いていたというわけではないのですが、西川さんのギターの影響は自分にとって非常に大きく、「フォロー・ユー」のアレンジなどに自然に出てしまっていると思います。


◎橋本:
◎「かっこわらい」をアレンジするにあたり、変わったものにしたいと思って。各楽器のリズムの絡み具合が面白い曲です。

◎マラコの演奏は、良い意味で可もなく不可もなくというか。録音中もよく聞いていました。その中でもお気に入りの曲です。

◎なにかとヒントをくれるのがジョージジャクソン。この度も大変お世話になりました。

◎「頼りない魂」のイメージに合いそうな、この類いの曲を色々聞いていたのですが、改めて最高の曲だなと(笑) 。 



●リリースに合わせたライブ(配信含む)があればお知らせ下さい。

◎今泉:12/11(土)のお昼に、下北沢440にてリリース記念ライブを予定しています。 今後の状況は不透明ではありますが、僕たちは楽しく演奏したいと思っています。 
詳細が決まりましたらTwitter(@bjons_info)にてお知らせしますので、チェックしてください。

●では最後にこのセカンド・アルバムのピーアールをお願いします。

◎今泉:長い時間がかかりましたが、前作よりもパーソナルな、思い入れのある曲ばかりが揃いました。ぜひ聴いてみてください。

◎渡瀬:派手な楽曲は入っていませんが、今の過酷な世の中の状況を反映しながらも、どこかしら希望を感じさせるようなアルバムになっていると思います。何回も繰り返し聴けると思いますので、ぜひ。

◎橋本:良い作品ができたと思います。聴いてみて下さい。音楽はよいものです。 

(インタビュー設問作成、本編テキスト:ウチタカヒデ)

2021年9月23日木曜日

The Bookmarcs:『BOOKMARC SEASON』(VSCF-1775/FRCD-070)リリース・インタビュー


 The Bookmarcs(ブックマークス)が、2018年の『BOOKMARC MELODY』から3年振りとなる最新作のサード・アルバム、『BOOKMARC SEASON』を9月29日にリリースする。
 彼等は弊サイトのベストプレイ企画でお馴染みの作編曲家の洞澤徹と、今年5月に初ソロ・シングルをリリースしたthe Sweet Onions(スウィート・オニオンズ)の近藤健太郎が、2011年にタッグを組んだ男性2人のユニットだ。
 『BOOKMARC MELODY』リリース後は翌19年に「Let's Get Away~かりそめの夏~」(7月)、「君の気配(duet with 青野りえ)」(11月)、20年には「雲の柱(spring jazz mix)」(3月)、「When I Was Young」(8月)、「Candy」(12月)とコンスタントに配信で新曲を発表しており、その活動をファンにアピールしてきた。今年に入ってからも「Days」(6月)と本作『BOOKMARC SEASON』のリードトラックとなる「Night Flight」を9月24日に発表する予定だ。
 70~80年代AORから強く影響を受けたギタリストである洞澤の作編曲によるサウンドと、ギターポップ・バンド出身のヴォーカリスト、近藤の甘くジェントリーな歌詞が融合した楽曲は唯一無二のスタイルで、希有な男性ユニットと言えるだろう。
 本作のジャケットにも触れておこう。街路樹の木陰で休息を取る二人の何気ない瞬間をとらえた、写真家の尾崎康元氏によるショットだ。構図やコントラストが見事で、ECMレコードを彷彿とさせる川久保政幸氏のデザインも相まって、長く聴けるこのアルバムを強く印象づけている。

 ここでは筆者と交流がある2人におこなった、この最新アルバムの曲作りやレコーディングについてのテキスト・インタビューと、ソングライティングやレコーディング期間中にイメージ作りで聴いていたプレイリストをお送りするので聴きながら読んで欲しい。



~配信はとにかくスピード、
CDはそれを一つ上のステージに上げて集大成にする役割~ 

●『BOOKMARC MELODY』の後2019年から今年の6月までの間、コンスタントに6曲を配信リリースしていたので、今回の『BOOKMARC SEASON』に至るまでブランクを感じさせることはなかったです。
こういうリリース方法は戦略的にも考えてのことですか? 

◎洞澤:戦略的というか、自然な流れでそうなった感じです。ですが常にフィジカルとしてのリリースはどこか意識してはいました。配信はとにかくスピード、CDはそれを一つ上のステージに上げて集大成にする役割。しかしながら配信はCDの劣化版では決してなくその時の空気を詰めたもの。今後も同じ流れになっていくかもしれません。

●成る程、自然の流れだったんですね。配信とCDアルバムの各役割を棲み分けているのは分かり易いですし、ブックマークス(以降ブクマ)ファンにとっても、コンスタントに新曲を聴けるのはいい傾向ではないでしょうか。今後も同じ様なスタンスでリリースするとのことですので、コンスタントな新曲発表を期待しています。

◎洞澤:はい、新曲が作り終える頃には次のアイデアがもう沸いていることが多いのでコンスタントな発表が今後もできると思います。


●先行配信していた曲の方が多く、レコーディング時期も曲毎に異なる訳ですが、新曲の「Night Flight」、「マリンブルーの街」、「Birthday」も含め、ソングライティングの着想やアイデアを可能な限りお聞かせ下さい。

 
The Bookmarcs third album 
「BOOKMARC SEASON」trailer

◎洞澤:「Night Flight」に関して、僕らは’70 や‘80のAORやソフトロックが大好きですが、それらをただトレースするような感じにはしたくありませんでした。アウトプットはどこかやはり時代感と自分を飽きさせない何かがないといけないし。メロディは普遍的に、でもアレンジは少しだけ違和感、ミックスは隙間をちゃんと感じさせたい、そんな心持ちで作りました。
 
「マリンブルーの街」は僕らパーソナリティを務めるラジオ番組「The Bookmarcs Radio Marine Café」の「誰デモ!サウンドクリエーター」という作曲レシピを紹介するコーナーから生まれた曲です。曲解説を前提として作ったためメロディとコードもわかりやすい構成です。基本のデモから、どうやって現状音楽シーンのなかでリリースに耐えうる仕上がりにできるかをけっこう考えました。ベースの北村規夫さんの、間をうまく使ったプレイで随分正解に近づけた気がします。
あと最近変わってきたことといえば、以前はシンセメロで近藤君に曲を渡していたものが、仮歌を自分で歌って渡す機会が多くなった気がします。最近の音楽は特にそうですが、メロのクセやニュアンスはただ鍵盤を弾いただけでは歌い手には伝わりにくいですよね。

「Birthday」に関しては最初からアルバム通し聴きしてもらうことを意識して最後から2曲目あたりのほっこりした雰囲気を想定して作りました。配信シングルだけ作っているとこういう曲は作らなくなるかもしれません。(実際には最後から4番目という位置付けになりましたが)

●「Night Flight」はイントロからトーンの異なるギターの構築方法が洞澤君らしいと思いました。以前の「I Can Feel It」(『BOOKMARC MUSIC』収録)や「Flight!」(『BOOKMARC MELODY』収録)などにも通じる職人ギタリストらしいサウンドですよ。
「マリンブルーの街」はブクマのレギュラーラジオ番組のコーナー企画から生まれたということですが、それだけではない曲の良さが滲み出ているのはさすがと思いました。北村さんのベースと足立浩さんのドラムの絶妙なコンビネーションがとてもいいですよ。
「Birthday」はこれまでの洞澤君のソングライティングには見られない、近藤君のポール・マッカートニー趣味に寄せた曲調が新鮮でしたね。

個人的には「君の気配」が配信された時期からよく聴いていたので思い入れがありました。確かこの曲は当時お二人と飲んだ時、青野りえさんとデュエットするアイデアを先に聞かされていたので印象深かったのかも知れません。青野さんのファースト『PASTORAL』(2017年)は、流線形の『TOKYO SNIPER』(2006年)に通じるセンスの良いアルバムでしたからね。
 この曲の洞澤君のギタープレイは、ベストプレイ企画でも取り上げたデイヴィッド・T・ウォーカーを彷彿とさせるハンマリング&プリング・ハープ奏法が実に良い感じです。この曲の着想は? 
また最近は仮歌を自分で歌って渡す機会が多くなったということですが、どのようなスタイルで歌っているんですか、スキャットとか?それも聞きたいな(笑)。

PASTORAL / 青野りえ 

◎洞澤:「君の気配」は落ち着いた大人のミディアムテンポなシティソウルを念頭に置いて、そこにアコースティック感をミックスしたいという考えが最初でした。エレキでは程よい丸さと太さのテレキャスターシンラインが良い仕事をしてくれました。フレーズはもちろん、デイヴィッド・Tの影響も受けていますが、最近のneosoul系のギタリストの動画をたくさん見ていますので少し滲み出たかな。
仮歌はメチャクチャ英語です(笑)。サビは特に母音を大事にして仮歌を歌っています。

●大人のミディアムテンポなシティソウルというのは、実にブクマらしいですね。仮歌のメチャクチャ英語(笑)ですが、実はニュアンスは伝わっているんじゃないかと思います。
近藤君も作詞の着想やアイデアをお聞かせ下さい。

◎近藤:歌詞に関してですが、「Days」と「マリンブルーの街」はラジオをテーマに、「Let’s Get Away~かりそめの夏~」は大人のちょっと刹那な夏、「Candy」はクリスマスといった、明確にお題を決めて歌詞を書きました。
今までそういう作り方はほとんどしてこなかったのですが、テーマに沿った歌詞作りは新鮮で、比較的スムーズに書き上げることが出来たのは、個人的には新たな発見と同時に嬉しい体験でした。

●「Days」と「マリンブルーの街」の2曲はいずれもラジオ番組の企画で各モチーフは異なりますが、共通して言えるのは近藤君らしいジェントリーな世界観が垣間見られることですね。
「Let’s Get Away~かりそめの夏~」は配信された時期に感じていましたが、曲調とアレンジは新境地で、歌詞の設定も近藤君の爽やかなイメージからは想像出来なかったです(笑)。「Let's Get Away She's Got A Way Just A Runaway 幻を見た かりそめの夏に」という意味深な歌詞には驚きました。このモチーフはどんなところから?

◎近藤:夏の逃避行をなんとなくイメージして書いてみました。ほんの少し退廃的で、気怠さや投げやりな気持ちを、ひと夏の風景の一部に重ねてみたいなと。同時に、80年代のTVドラマ『ふぞろいの林檎たち』というタイトルがなぜか頭に浮かんできて、試しに「ふぞろいの夏に」と歌いながら言葉を当てはめてみた瞬間、スラスラと言葉が湧いてきました。ドラマは実際観ていないので、歌詞とドラマのストーリーは全く関係ないのですが。 

●『ふぞろいの林檎たち』(83年5月)は著名脚本家の山田太一氏の代表作で、落ちこぼれの大学生達の群像劇でしたね。しかしドラマ自体は観ていなくて、タイトルだけをモチーフにしたというのは面白い発想です(笑)。確かにドラマを観てストーリー自体にインスパイアされていたら、もっとどろどろした歌詞内容で曲調に合わなかったでしょうね。
また洞澤君への質問の回答で、デモの仮歌がメチャクチャ英語というのがありましたが、近藤君がそれをもらってどんな反応をしながら歌詞を作っていくのかが興味があります。

◎近藤:結構そのメチャクチャ英語の響きに引っ張られております(笑)。でもそれはある意味正しいというか、いわゆるメロディと相性の良い言葉の響きなんですよね。自分で曲を作るときも全く同じで、なんとなくメロディにのった言葉で歌っていて。だからわりとそこを大切に意識しながら言葉を探していきます。
例えば「Birthday」のサビの出だし、洞澤さんは「I Say」って歌っていたんです。そこで見つかった言葉は「Birthday」でした。うまくハマった!と小躍りして、そうだ、誕生日の歌を作ってみようと思い立ったわけです。
また「マリンブルーの街」のサビ中に出てくる「トゥルルルルー」も洞澤さんがそう歌っていて、これはもうそのまま生かして、前後の言葉や全体の世界観が決まっていきました。

 

   ~集中して短期で録るボーカルテイクの良さを、
洞澤さんが引き出してくれた~ 

 ●次にレコーディング中の特質すべきエピソードをお聞かせ下さい。

◎洞澤:全般的にコーラスアレンジは近藤君が担当し、部分的に僕がアレンジしたりアイデアを出したりしているのですが、レコーディング中、アイデアが広がったり混ざりあったりしていろいろトライしていくうちに最良のものが出来上がる瞬間は楽しかったです。

●近藤君自身もthe Sweet Onions(スウィート・オニオンズ)やソロで、曲作りとアレンジまで自己完結させるミュージシャンですが、明確に役割分担されているブクマでの作業でも洞澤君が作ったリズムトラックに対して、近藤君が「もうちょっとテンポを上げましょう」や「楽器パートを足しましょう」というようなアイデアを出すこともあるんですか?

◎洞澤:たまにアイデアをもらうことはありますが、ほとんど僕が決めています。キーに関してはけっこう相談しながら一緒に決めることが多いです。

●やはり役割分担でレコーディング作業しているという感じですね。
では収録曲の中で完成までに最も時間を費やした曲を教えて下さい。そのエピソードも。

◎洞澤:やっぱり書き下ろしの1曲「Night Flight」でしょうか。ギターのバッキングに神経を使っていろいろフレーズを考えたり、テレキャスターシンラインで試したりストラトキャスターで試したり(結局ストラトで弾いた)、ギターとオケのバランスや他の楽器のフレーズパターンとの噛み合わせもあれこれ試したりして一番時間がかかった気がします。歌の本番録音の際に土壇場でキーを変更して、また一から弾き直しもしたり・・・苦労した分愛着が湧きました。

●「Night Flight」のあのギター・トラックの構築には試行錯誤があったんですね。それを感じなが聴き込みます。
では近藤君も特質すべきエピソードをお聞かせ下さい。

◎近藤:ボーカルレコーディングはお互い限られた時間の中で、悪戯に時間を費やすことなく、集中力を高めレコーディングすることが出来ました。勿論時間をかけたレコーディングも大切ですし、時間の余裕があれば何テイクも歌うことはやぶさかではないのですが、集中して短期で録るボーカルテイクの良さを、洞澤さんが引き出してくれたと思います。
今迄は「すいません、もう一回歌い直したいです」と無理を言ってお願いしたこともあるのですが、今回はそれがなかったことは成長?したのかも知れないし、ささやかですが、個人的には特筆すべきエピソードと言えるのかもしれません。

●歌入れを集中して短期間でおこなって、何テイクも歌い直しをしないというのは画期的ですね。確かに古今東西で名曲と言われる曲は1テイクか2テイクと聞きます。それを引き出した洞澤君はさすがですね。
昨年からのコロナ禍でのレコーディング方法で新たに実践したことは何か無いでしょうか?

◎近藤:実践とはちょっと意味合いが違うのですが、コロナ禍以降、自分で宅録する機会が増えました。ステイホームで生活のリズムが変わり、逆に歌う機会が増えたことにより、本番のレコーディングも今迄以上に自信を持って臨む事が出来ました。



●ソングライティングやレコーディング期間中にイメージ作りで聴いていた曲を各自7曲ほど挙げて下さい。

◎洞澤:
■Nobody’s Fault / Benny Sings『music』/ 2021年)
○音色や全体のバランス 歌のテイストが好きで繰り返し聴いて体に染み込ませました。

■Rolled Up feat. Mac DeMarco / Benny Sings
 (『music』/ 2021年)
○テンポ感・アレンジ・隙間感・丁度良い抜け感が最高。

■Groovy Times / Paul Petersen
(『The World is a Ghetto』/ 2017年)
○大人っぽいクリーンギターのカッティングアレンジが好み。サビの程よい高揚感。

■Hide Away / Christian Gratz(『1981』/ 2021年) 
○70’ 80’ のエキス満載のアレンジがたまりません。

■Lost In Paris / Tom Misch(『Geography』/ 2018年)
○洗練されたギターリフパターンは多いに参考にしました。

■Meet Me After Midnight / Jakob Magnusson
『Jack Magnet』/ 1981年)
○この曲のコード進行とそれに当てたギターアレンジが好き。

■Goin' Downtown / LATUL(『LATUL』/ 1981年)
○ヒラ歌部分のベースパターン、ストーリー性ある曲展開。

◎近藤:
■The Like In I Love You / Brian Wilson
○圧倒的なキャリアと、波乱に満ちた人生経験を経て到達した歌声は、ただただ優しく慈愛に溢れていて、その包容力に心が奪われてしまいます。

■Clair / Gilbert O’Sullivan(『Back To Front』/ 1972年)
○新曲「Birthday」のデモを聴いた時に思い出した曲です。こちらもまた優しい眼差しを感じる楽曲と歌声で、自分の表現力を培う上で、何度もリピートした曲です。

■She / Jeff Lynne(『Long Wave』/ 2012年)
○ジェフ・リンが歌う「She」が大好きです。重厚なコーラスと、彼が手掛けたThe Beatlesの「Free As A Bird」と地続きなアレンジが堪りません。

■Wichita Lineman / James Taylor(『Covers』/ 2008年)
○ジェームス・テイラーが歌うこの曲もまた大好きです。どこまでもジェントルでスマート、憧れます。確か洞澤さんもこの曲を僕達のラジオ番組「The Bookmarcs Radio Marine Café」で選曲していましたね。

■For Once In My Life / Stevie Wonder
○「Let’s Get Away~かりそめの夏~』のレコーディング時によく聴いていた曲です。自然と身体が動くってこういうことなんだなぁと。

■Dead Meat / Sean Lennon(『Friendly Fire』/ 2006年)
○相変わらずショーン・レノンが好きでして、この繊細かつ色気のある歌声、日本的情緒も感じるメロディ、メランコリックな世界観が本当に素晴らしいです。

■Les Champs-Élysées / Joe Dassin
○映画「ダージリン急行」のエンディングにも起用された、ジョー・ダッサンが歌う「オー・シャンゼリゼ」。なんとなくThe Bookmarcsの「Candy」のレコーディング時によく聴いていました。歌詞も影響を受けています。今は「街へ出よう!」と声高に言えない世の中ですが、そんな日々においても人生を肯定し、音楽を通して幸せな気持ちを味わうことが出来たらなと思います。



●リリースに合わせたライブ(配信含む)があればお知らせ下さい。

◎洞澤:10月中にバンド形態の配信ライブを企画中です。
日時は調整中なので詳細はSNSなどでチェックお願いします。ぜひ皆さん観に来てください。
TheBookmarcs twitterアカウント:https://twitter.com/TheBookmarcs


●では最後にこのセカンド・アルバムのピーアールをお願いします。

◎洞澤:3枚目にしてやっと近藤君のボーカルトラックの作り方とか、全体的に思い通りに近いミックスにたどり着けた気がします。
何度も聴けるアルバムに仕上がっていると思いますのでどうぞよろしくお願いします。

◎近藤:最新作が1番の自信作。胸を張ってこう言えることが素直に嬉しいです。今まで僕達のことを知らなかった人は勿論、ずっと聴いてくれていた方々にも、新鮮な気持ちでこの新作が響いてくれたら嬉しいです。

(インタビュー設問作成、本編テキスト:ウチタカヒデ)