2022年8月6日土曜日

流線形:『インコンプリート』(Happiness Records/ HRBR-025)


 現在のシティポップ・シーンのパイオニアとして知られ、クニモンド瀧口のソロ・プロジェクトである流線形(リュウセンケイ)が、単独名義としては『TOKYO SNIPER』(HRAD-00019/2006年)から実に16 年振りとなる、ミニアルバム『インコンプリート』を8月17日にリリースする。 
 本作では先行で収録の5曲中4曲が配信済みで、既にサブスク等で聴いている音楽ファンがいるかも知れないが、ジャケットのアートワークを含めた美的センスが流線形=クニモンド瀧口の魅力なので、是非フィジカルでも入手して欲しい。


 本作ではキリンジからソロに転向し、シンガー・ソングライター(以下SSW)の杉瀬陽子らとのTHE LAKE MATTHEWS(ザ・レイク・マシューズ)でも活動した、堀込泰行をヴォーカリストに迎えている。堀込とのコラボレーションは、2020年11月にSSWの一十三十一(ヒトミトイ)とのドラマ・オリジナル・サウンドトラック『Talio(タリオ)』(VICL-65441)を紹介しているので記憶に新しいと思う。
 全曲のソングライティングとリズム・アレンジを手掛ける瀧口は、レコーディングではソリーナ(アープ製ストリング・シンセサイザー)とProphet-5のアナログ・シンセサイザー、コーラスを担当している。バンドメンバーは北山ゆう子(ドラム)、山之内俊夫(ギター)、平野栄二(パーカッション)、平畑徹也(キーボード)、松木俊郎(ベース)で、Talioのセッションから加わった若手SSWのシンリズムはストリングスとホーン・アレンジをここでも担っている。
 また瀧口が今年2月から始動したCMT Production(City Music Tokyo Production)のレーベル、"CMT Records"から7月6日にソロ・アルバム『サン・キスド・レディー』(CMTR5)をリリースしたばかりの女性シンガー、ナツ・サマーもコーラスで参加している。同作は本作プロデューサーの瀧口をはじめレコーディング・メンバーが全員参加しており、兄妹アルバムとして位置付けされるので流線形ファンは是非チェックして欲しい。筆者は先行7インチでリリースされた、メロウなラヴァーズ・レゲエの「トワイライト・シャドウ」(CMTR4)が特にお気に入りだ。

『サン・キスド・レディー』 / ナツ・サマー 

 参加メンバーについては説明不要かも知れないが、saigenjiEllieなどの多くのアルバムでエンジニアとしても著名な平野をはじめ、北山と山之内は青野りえの『Rain or Shine』(VSCF-1776/FRCD-071)、松木はRISA COOPERの『RISA LAND』(HYCA-8027)に参加するなど最近の話題作にも参加している手練ミュージシャン達なのが流線形の強みでもある。
 制作スケジュールとしては、主要曲のリズムセクションのベーシックトラック・レコーディングと歌入れは2016年に終了していたが、瀧口の更なる拘りもあり月日が流れた。その後未完成曲を含め試行錯誤した結果、今回5 曲をミニアルバムという形にまとめてリリースすることを決めたということだ。 
 流線形としては、2009年に沖縄県出身のシンガー・ソングライター比屋定篤子とのコラボレーションアルバム『NATURAL WOMAN』(HRAD-00041)のリリース後、プロデューサーや選曲家として多忙になった瀧口にニューアルバムを待望していたファンも多かったので、ここでこうして形になって嬉しい限りである。 

 ここでは筆者による本作の全曲レビューに加えて、サブ企画として流線形のバンドメンバーで、音楽通として知られ弊サイトにも協力している松木俊郎が、ベーシストとして敬愛するスコット・エドワーズ(Scott Edwards)氏の追悼企画として、氏のベストプレイを挙げプレイリスト化したのでサブスクを含めて紹介したい。

 
「3号線(feat. 堀込泰行)」 

 アルバム冒頭の「3号線(feat. 堀込泰行)」は、オリジナルはファースト・アルバム『シティ・ミュージック』(ALCM2004/2003年)収録曲で、サノトモミの歌唱で洗練されたブルーアイド・ソウルをルーツにしたものだった。リアレンジしたここではBPMをやや下げて、堀込の落ち着いたヴォーカルをフューチャーし、シンリズムによる緻密なクラウス・オガーマンに通じるオーケストレーションを施したことで、ナイト・ドライヴィングに合う和製AORに仕上げられている。イントロなど他パートで聴ける印象的なフルートは映画やアニメなど多くのスタジオ・セッションで活躍する坂本圭だ。
 アレンジの基本モチーフとしては、名曲「Feel Like Making Love」(ジーン・マクダニエルズ作)のボブ・ジェームス(『One』収録)のカバー・ヴァージョンをイメージさせるのは容易だが、リズムの肝となる特徴的な松木のベースラインが、マイケル・ヘンダーソンの「In The Night Time」(同名アルバム収録)やクルセイダーズの「Keep That Same Old Feeling」(『Those Southern Knights』収録)のそれを彷彿とさせて非常にクールである。オリジナルと全く異なるアプローチで曲をリメイクさせる手法は、『NATURAL WOMAN』で比屋定篤子のソロ作「まわれ まわれ」(『ささやかれた夢の話』収録)でもトライしていて、一級の音楽マニアの瀧口ならではのセンスだろう。

 続く「ふたりのシルエット(feat. 堀込泰行)」は、2013年9月の比屋定篤子とのコンサート(めぐろパーシモンホール)で初披露された「誘惑(仮)」がオリジナルだという。筆者も当日この会場にいて(ももクロ等に楽曲提供する平山大介が同行していた)演奏を聴いていたので、このようにリアレンジされたヴァージョンを聴けるのは感慨深い。
 それから約2年半後にレコーディングされたのが今回のテイクらしい。 ここでも名手達のプレイとシンリズムのストリングス・アレンジが堀込のヴォーカルを引き立てている。イントロの北山による繊細なハイハット・ワークはスティーリー・ダンの「Deacon Blues」(『Aja』収録)のそれを思わせ、曲全体的に山之内のギターはデイヴィッド・Tに通じるプレイをしており、平畑のフェンダー・ローズもそれに呼応している。またナツ・サマーのシルキーなコーラスもこの曲の雰囲気に不可欠なエレメントだと感じた。マニアックなことに触れると、そのサビ後半のコーラスが入る前のストリングス・フレーズがドラマティックスの「In The Rain」(『Whatcha See Is Whatcha Get』収録)に通じていて思わず唸ってしまった。

 本作中間部に収録された「インコンプリート」は、唯一先行配信していないインスト曲で、ナツ・サマーと瀧口がスキャットを担当したブラジリアン・フュージョンである。
 Talioセッションのインスト群とは明らかに異なり、本作用に多数制作された中の一部がこの曲とのことで、全編が今後発表される可能性があるかも知れない。アース・ウィンド・アンド・ファイアーの「Love's Holiday」からメドレーになっている「Brazilian Rhyme (Beijo)」(『All 'N All(太陽神)』収録)のテイストに近い。

 
「メロディ(feat. 堀込泰行)」 

 「メロディ(feat. 堀込泰行)」は瀧口が自らホーン・アレンジも担当したアップテンポのサマー・アンセムだ。手練なバンドメンバー達だけに16ビートに対するアプローチは見事で、北山と松木のリズム隊に山之内のカッティング、平畑のローズのフレーズとクラヴィネットの刻みが有機的に絡んでいく。スタッカートが効いたイントロのトランペットは名手の島裕介のプレイで、間奏とアウトロでの山之内のギターソロなど聴きどころは多い。堀込の声質も加味してセカンド・ヴァースにはネッド・ドヒニーの「Each Time You Pray」(『Hard Candy』収録)に通じていて甘酸っぱい想いがする。 

 ラストの「潮騒(feat. 堀込泰行)」は、一十三十一の『CITY DIVE』(HBRJ-1004)収録の「人魚になりたい」の歌詞違いヴァージョンで、こちらがオリジナル歌詞とのことだ。「人魚になりたい」では打ち込み主体で、佐藤博の「I Can't Wait」(『Awakening』収録)に通じるサウンドが印象的だったが、本作ではバンドの生演奏でしなやかなメロウ・グルーヴを展開している。
 サビでは本作収録曲中随一ともいえる堀込の名唱が聴けるのでチェックして欲しい。間奏のサックス・ソロは副田整歩(ソエダナオム)で、土岐英史氏に師事したという表情豊かなプレイを披露している。ストリングス・アレンジは瀧口が担当して、生のリズムセクションに対しソリーナでプレイしており、このコントラストが初期AORの匂いをさせてたまらない。

 以上本作は5曲収録のミニアルバム形式であるが、曲毎の聴き応えがあるのでトータル・タイムを感じさせない濃い内容となっているので、この夏に入手して繰り返し聴いて欲しい。


【スコット・エドワーズ(Scott Edwards)追悼企画】
スコット・エドワーズのベストプレイ


 確か『Talio』のレコーディング時、クニモンド瀧口氏に「一番好きなベーシストって誰?」と急に訊かれました。あらためて考えてみて、思い浮かんだのがスコット・エドワーズです。ジェームス・ジェマーソンのマナーを完璧に受け継ぎ、リー・スクラー的なメロディアスさがあり、後のAOR時代のアレンジにばっちり適応したプレイは、これからもずっと私の教科書です。
 今作のリズム録音は何年も前なのであまり意識はしていなかったものの、やはり影響はあると思います。やはりクニモンド瀧口制作の瀧川ありさ『Warmth』あたりはモロだと思うので是非聴いて下さい。
 松木俊郎

 松木俊郎(流線形)選曲 
■Can't Get You Out Of My Life / Eric Andersen 
(『Be True To You』/ 1975年)
■Let Me Live In Your Life / The Originals 
(『California Sunset』 / 1975年)
■Groovin' On A Natural High / Lamont Dozier 
(『Right There』/ 1976年)
■Whachersign / Michael Omartian (『Adam Again』/ 1977年)
■Whatcha Gonna Tell Your Man / Boz Scaggs
 (『Down Two Then Left』/ 1977年)
■If There's A Way / The Waters (『Waters』/ 1977年)
■Love In The Afternoon / Dionne Warwick 
(『Love At First Sight』/ 1977年)
■Delayed Reaction / Lonette McKee
(『Words And Music』/ 1978年) 
■Lovin' Fever / High Inergy(『Steppin' Out』/ 1978年)
■Special Kinda Lady / Arthur Adams
 (『I Love, Love, Love, Love, Love, Love, Love My Lady』
/ 1979年)
※サブスクには登録された7曲のみ収録

ウチタカヒデ(WebVANDA管理人)選曲
 ■The Well Is Dry / The Four Tops
(『Meeting Of The Minds』 / 1974年)
■Don't Leave Me / Lamont Dozier 
(『The New Lamont Dozier Album - Love And Beauty』/ 1974年) ■Love Machine / The Miracles(『City Of Angels』/ 1975年) ■Whachersign / Pratt & McClain
(『Pratt & McClain Featuring "Happy Days"』/ 1976年)
■Caricatures / Donald Byrd(『Caricatures』/ 1976年)
■Love Hurts (Love Heals) / Daryl Hall & John Oates
(『Beauty On A Back Street』/ 1977年)
■I'm A Fool For You, Girl / T. Rex
(『Dandy In The Underworld』/ 1977年)
■Reunited / Peaches & Herb(『2 Hot!』/ 1978年)
■Closet Man / Dusty Springfield
(『Living Without Your Love』/ 1978年)
■Baby You Still Got It / Captain And Tennille
(『Make Your Move』/ 1979年) 


(企画・テキスト:ウチタカヒデ


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2022年7月27日水曜日

ウワノソラ'67:『Portrait in Rock'n'Roll 2』(UWAN-006) リリース・インタビュー


 2015年6月にファースト・アルバム『Portrait in Rock'n'Roll』で、ウォール・オブ・サウンドを昇華したオリジナル楽曲をクリエイトしたウワノソラ'67が、セカンド・アルバム『Portrait in Rock'n'Roll 2』(UWAN-006)を7月30日にリリースする。
 ウワノソラとして活動中のギター兼ソングライティング、プロデューサーの角谷博栄、ヴォーカリストのいえもとめぐみによる2人が、60年代、70年代初期の良質なポップスをルーツとするエイト・ビート主体の楽曲を発表するユニットがウワノソラ'67なのだ。
 ウワノソラとして2014年のアルバム・デビュー時から筆者は、彼らのソングライティングとアレンジ・センスにはいち早く注目しており、弊サイトの読者をより虜にするウワノソラ'67でのスタンスも大歓迎であった。ファーストを聴き込んでその完成度に満足した音楽ファンも本作を期待して良いだろう。

 全10曲収録で、いえもとはリード・ヴォーカル、コーラスを担当し、角谷は全てのソングラティングとリズム・アレンジ、各種ギターと一部の曲でリード・ヴォーカルを取り、エンジニアリングまで担当している。バックアップ・ミュージシャンはこれまでのアルバムにも参加していた、越智祐介(ドラム)、熊代崇人(ベース)、宮脇翔平(オルガン、チェンバロ)、深町仰(コーラス、各種アレンジ)に、新たにジャズ・ピアニストの渡辺翔太(父親はジャズ・ギタリストの渡辺のりお)が加わっており、その他にも曲毎にゲスト・ミュージシャンが参加している。エンジニアとミックス、マスタリングは玉田和平で、彼もウワノソラ・サウンドには欠かせない存在だ。 
 またエバーグリーンなジャケットにも触れるが、アートワークはいもえとが自ら手掛け、印象的なショットは本職のカメラマンではなく、角谷の友人という吉川浩平氏が撮影している。 


 次に本作の収録曲を解説していく。冒頭の「雨になる」は乾いたペダルスティール・ギターのリフがリードして、各種サックス4管とトロンボーンが入ったサマー・アンセムだ。バースの曲調やアレンジには、ジョージ・ハリスンがフィル・スペクターと組んだ「Awaiting On You All」(『All Things Must Pass』 / 1970年)の影響を感じるが、複雑なコーラス・アレンジや大サビの展開などには独自性を感じた。いえもとの温かい特徴のあるヴォーカルに加え、大サビでは角谷がヴォーカルを取っている。
 リード曲であるこの曲のMVはファースト収録の「年上ボーイフレンド」、ウワノソラの「夏の客船」(『陽だまり』(UWAN-003/2017年)収録)や「蝶の刺青」(『夜霧』(UWAN-004/2019年)収録)も手掛けた、阿部友紀子が監督と撮影を担当したロードムービー風で素晴らしい出来映えだ。
 続く「ジョルノ」はイントロの宮脇の麗しいチェンバロから始まり、ゲストの田中ヤコブのナチュラルな歪みのリード・ギターが鳴り響き、弦楽カルテットも入るという、正しく70年代初期の英国ロック・サウンドの構造を持っている。デュエット形式でいえもと、角谷がパート毎に交互にヴォーカルを取り、サビはユニゾンというパターンでLampにも通じており、サウンド的には弊サイトで5月に紹介したデヴィッド・ペイトンが率いた、全盛期のパイロットを彷彿とさせるのでファンは是非チェックしよう。 

 一転してカントリー・バラード風の「冷めたカルディア」では、「雨になる」同様に角谷によるペダルスティールをフューチャーしており、いえもとのヴォーカルの表現力により終わった恋の喪失感を見事に演出している。
 「ラストダンスは僕と」はアップテンポで3分程ながら様々な音楽的要素がちりばめられており、越智と熊代のリズム隊、渡辺のピアノ・プレイの巧みさが堪能出来る。リード・ヴォーカルは角谷で、いえもと、深町がコーラスを担当している。 
 アルバム中1曲だけサウンドの毛色が異なる「未来世紀ヨコハマ」は、60年代の良質なポップスを現代的に解釈したという点で、プリファブ・スプラウトのパディ・マクアルーンのセンス、特に『Jordan: The Comeback』(1990年)や『Andromeda Heights』(1997年)の頃に通じて溜まらない。ハープやホーン・セクションの楽器編成からサウンドスケープまで細部にわたり聴き応えがある。リード・ヴォーカルは角谷が取っている。

 
ウワノソラ'67 「真夏のエコー」 

 本作後半は今月16日にフル音源が先行公開された「真夏のエコー」から始まる。リード・ヴォーカルはいえもとが取り、タイトルや歌詞からイメージ出来る通りサマー・ソングで楽器編成はストレートだが、ジャズ・ピープルらしい渡辺のピアノのシグネイチャー・プレイと、角谷と深町による対位法やクローズド・ヴォイシングのコーラス・アレンジなど細部に仕掛けがあって聴き飽きない。
 続く「一週間ダイアリー」は本作中で最もウォール・オブ・サウンド色が強いアレンジで、ファイナル・マスタリング前のアルバム音源を聴いたファースト・インプレッションで筆者のベスト・トラックだった。イントロから宮脇のハモンドオルガンに絡む角谷のエレキ・ギターのリフ、バリトンをはじめ3管のサックスが重なり、渡辺の洒落たピアノのオブリが加わって、もう何も言うことはないあのサウンドである。ファースト収録の「年上ボーイフレンド」にも通じる、甘酸っぱいトーチソングは60年代ガールズ・ポップから続く永遠のテーマであり、ヴォーカルのいえもとの少女的な声質も相まって非常に完成度が高い。

 「めまいの中で」はスロー・ナンバーだが、「ジョルノ」同様に弦楽カルテットが入り、リード・ギターのリフが牽引して英国ロックの匂いがする。ここでのギターは角谷自らプレイしていて、ドラマティックでこの曲の世界観を広げているのだ。ヴォーカルはデュエット形式でいえもと、角谷が取っている。 
 角谷のペダルスティールが再び活躍する美しいバラードの「砂の惑星」は、仮想未来をいえもとのロンリネスな歌声が坦々と綴っていて、いえもと自身と深町によるコーラス、宮脇のチェンバロが効果的だ。 
 ラストの「八月の波」は、ウワノソラの「夏の客船」にも通じる過ぎゆく夏を綴ったバラードで、この曲でもいえもとの表現力は確かである。間奏における渡辺のピアノのインタープレイ、角谷がプレイするグロッケンなど細部に配慮されたアレンジで完成度を高めている。

 ここからはリリース前で最新となる、メンバーの角谷といえもとにおこなったテキスト・インタビュー、そしてイメージ作りで聴いていたプレイリストをお送りするので、聴きながら読んで欲しい。 
 

 ~今まで以上に、
ただやりたいことだけやって制作していった~ 

 ●前作から7年振りということで、その間にはウワノソラ名義で『陽だまり』と『夜霧』の2枚のアルバム、またマキシシングル『くらげ』(UWAN-005/2020年)をコンスタントにリリースしていて、課外活動として、NegiccoのKaedeさんのセカンド・ミニアルバム『秋の惑星、ハートはナイトブルー。』(TPRC-0256/2020年)をLampの染谷大陽君と共同プロデュースしていたので、ブランクは差ほど感じられなかったのだけど、今回ウワノソラ'67名義でリリースしようと考えた動機を聞かせて下さい。

◎角谷博栄(以下角谷):ただウワノソラ’67として表現をして2ndアルバムを作りたかったという想いになった事がきっかけです。僕の中で71、2年以降の音楽とそれ以前の音楽って自分の心を震わせるものがほんの少し違うのです。50’s後半~70’s前半を中心にした音楽に対して震える部分に主軸においた’67流のアウトプットをまたしてみたいと思った事が動機でした。 
そもそもメンバーが同じなのにバンド名が違うなんて意味がわからないですよね。故意ではなく、流れでそうなってしまったんです。すみません。 

●過去にも同じメンバーで名前が異なるバンドはいるから謝る必要はないですよ(笑)。嘗てXTCがThe Dukes of Stratosphearとして60年代後期のサイケデリック・ロックを表現した別バンドをやっていましたから。サウンドは全く異なるけど、そのケースに近いかなと考えますね。 
ファーストと、本作『Portrait in Rock'n'Roll 2』と意識的に変えた点はどういったことでしょうか? 

◎角谷:まず一つ目に、曲単位では例えばデヴィッド・ゲイツであったり、誰それであったり、そういった憧れからのきっかけはあるのですが、それはただのきっかけに過ぎず、今まで以上に、ただやりたいことだけやって制作していったといった感じです。 
二つ目に、使っている楽器こそ全て生演奏ですが、ガチガチに’67という名前に捉われず、面白いと自分自身が思うことはどんどんやっていきたいという姿勢でいました。表現がコンセプトなんかで疎かになることこそ本末転倒ですし。
三つ目に、曲が短いです。短くしたいと考えていました。 
四つ目にあげるとすれば、より雑味、空気感を追求出来た気がしています。1stはそんなものを考える余地もなくとにかく我武者羅だったのでそこはあまり意識できてなかったですし、そんな環境はどこにもありませんでした。
今回は所謂、商売っぽい音といいますか。メジャーっぽい音といいますか。その真逆になっていると思います。そうすると結果的に売れないものがより売れなくなるので困るのですが、やりたかったのでしょうがないです。他には、ベーシックは全曲クリックなしの同録であったり、無理のないリバーブ感であったり、少しモコモコしたMIXであったり、中央によったパンであったり、言い出すとキリがないですが、7年間の音楽体験や制作経験、美意識を詰め込められた作品のように感じています。
最後にあげるとすれば・・・。角谷がたくさん歌っているということです。 

●デヴィッド・ゲイツというキーワードが出てきたので思い出しましたが、かなり前にゲイツのソングブック・アルバム『THE EARLY YEARS 1962-1967』をお聴かせしたことがありましたね。本作を聴いていてその要素がモザイクの様に影響されていると感じました。「ラストダンスは僕と」のイントロやバースの一部は、Michael Landonの「Without You」やDorothy Berryの「Cryin' On My Pillow」に通じていて、ゲイツらしさをよく消化して自らのソングライティングとアレンジに活かしているという。
1曲にそれが30曲くらい忍ばせているのが角谷君の探究心の賜物というか、その姿勢に毎回感服しています。 


◎角谷:消化というか、ん〜特に消化は出来てない気はしています。出来ないですし。単純フワッとデビット・ゲイツなり他いろいろがかっこいいと思っていて影響を受けていたといったそれだけの感じなのです。
今作に限らず、作風を映画監督に例えるならばどっちも好きですが、タランティーノ方面で、クリストファー・ノーラン方面ではないとは思っています。 そして、誰々のようにという例えはきっと知っている人には分かりやすい事もあるかも知れませんが、それ以外にそういった面では無い部分もたくさん組み込んでいるつもりです。 

●オマージュ手法は善し悪しあると思うけど、僕が触れたのは露骨に引用してあやかりたいという短絡的発想では無いということなの。そもそもそんな知る人ぞ知る曲まで掘り下げていることに敬意を持っているんです。
70年代~80年代初期の大滝詠一氏や山下達郎氏に通じるというかね。角谷君なりの独自のアプローチについては、曲毎に歌詞の世界観をコーラスや細部に渡るアレンジメントで徹底的に引き出していると感じますよ。 

◎角谷:そうですね、個人的に嬉しかった感想としては、「雨になる」のMV公開後に友人の映画監督から送られてきたメッセージで、「雨という明らかにウェッティーな自然現象に、一番乾いたギターサウンドを乗せる、このポエジーなコントラストがたまらないね!!」というものでした。
映画に例えるなら銃撃戦の時にスローモションになって、深刻な場面なのに軽快な音楽がかかってより残酷さがます、といったような総合的な感覚表現の部分の拡大解釈で、それが表現したい事の一つにありましたので、そこを捉えてもらえていて、それが活字で送られてきた時に結構感動しました。 

 
ウワノソラ'67 「雨になる」MV
監督&撮影:阿部友紀子 

●成る程。62年のイタリア映画でグァルティエロ・ヤコペッティ監督の『世界残酷物語(Mondo Cane)』というのがあって、所謂「モンド」の語源にもなっているんだけど、衝撃的なシーンにリズ・オルトラーニが手掛けた静かで美しいテーマ曲「モア」が流れるんだよね。そんな極端な対比によって強烈なイメージを植え付ける「知覚のコントラスト効果」というのがあってそれですよね。角谷君は芸大出身だから恐らく講義で学んでいると思いますよ。 
アルバムに話を戻しますが使用楽器については、ウワノソラとの区別を意識してないということですが、前作では使用しなかった楽器を多用したものは具体的にありますか? ピアノはアコースティックのみで、エレピはローズやウーリッツァーも使っていないですね。
またメジャー感とは真逆のミックスやマスタリングを心掛けたとのことですが、ハイファイになり過ぎないようにするということかな? 

◎角谷:使用楽器はローズなど使いませんでした。「未来世紀ヨコハマ」でボコーダー・シンセを使用したぐらいで、シンセサイザーもほぼ使っていません。
ミックスはおっしゃる通りです。一般的なポップスのレンジよりは狭めで、最初のインパクトとかは無いので物足りないと感じちゃう方は多いかもしれません。刺激が足りないみたいな。それを捨てたお陰でずっと自分自身が楽しめそうなアルバムになった気はしています。


~10曲の夏物語。
そんなシーンがそれぞれ浮かぶような曲で
構成されています~ 

 ●本作の曲作りとレコーディングに入った時期はいつ頃ですか? 
またコロナ禍によってスケジュール的に影響した点などはあるでしょうか? 

◎角谷:曲書きは2020年の9月のKaedeさんの『秋の惑星、ハートはナイトブルー。』のプロジェクトがひと段落ついてからです。
そこから2021年の8月10日まで毎日やっておりました。レコーディングは去年の11月から入りました。終わったのは今年の6月末で、夏にリリースしたかったので、ミックスは4月の末から並行してやっていました。ミックスとマスタリングだけでも計30日間ぐらいかかりました。 影響は奏者がコロナに罹ってしまい、少し予定が変わったことはありました。強いてあげるとすれば本当にその程度でそれも特に問題はありませんでした。

◎いえもとめぐみ(以下いえもと):わたしも特に影響はありませんでした。ヴォーカルのレコーディングは角谷君と2人なので自由に予定組めますし、幸い2人共1度もコロナに罹らなかったのでよかったです。

 ●ソングライティングにも結構な期間を掛けていますね。パート毎のモチーフのストックはあったと思いますが、完成形としては10曲全て書き下ろしということでしょうか? 
またレコーディングは参加ミュージシャンが多く、感染された方がいればスケジュールのコントロールは大変だったと思いますが、よく調整されていると思います。 ヴォーカルを取るお二人の感染がなかったのが幸いでした。声質にも影響するので心配していましたから。

◎角谷:全て新曲です。15、16曲ぐらい作ってそのなかで大丈夫そうな10曲です。 

●新曲16曲ほどから10曲に絞ったんですね。漏れた曲も機会があれば発表して下さい。 
次にレコーディング中の特質すべきエピソードを聞かせ下さい。 

◎角谷:ペダルスティールを僕が演奏しています。大変でした。ずっと使っていたアコギを売って買いました。教本も何もなかったので独自の奏法が身についてしまいました。是非聴いてみて下さい。

あとは、エレキのレコーディングに何日間も梃子摺っていた「ジョルノ」という曲がありまして。もうダメだ、終わった…、と諦めていたのですが、ふと目覚めた朝に田中ヤコブさん(家主)のことを思い出し、電話したところ”今日空いていますよ〜”とその日に駆けつけてくれまして。
素晴らしいプレイでボツになる曲が救われました。何日か後にヤコブさんが使っていたものと同じOver Driveを買いました。

そしてもう一つあげるなら、ポルトガル語のアナウンスで参加していただいたマルセロ木村さんのレコーディングです。ブラジル音楽の特にギターの名手なのですが今回はアナウンス声のみで参加です。ハイボールを用意していないと本気が出ないらしいから用意しないと絶対ダメだヨ!という謎の前情報があり、しっかり用意しておきました。
録音後、嬉しそうにハイボールを飲んでいらっしゃったので前情報があって助かりました。キャラもブラジル音楽の談義もレックも楽しかったです。

●角谷君がプレイしたペダルスティールが聴けるのは、冒頭の「雨になる」、「冷めたカルディア」、「砂の惑星」と結構ありますね。
特にカルディアのプレイは、昨年のフィル・スペクター追悼対談【フィル・スペクター・ソング・ベスト10】で挙げていた、ジョージ・ハリスンの「Ballad Of Sir Frankie Crisp (Let It Roll)」を少し意識していませんかね。カルディアの歌詞にある喪失感を演出していていいプレイですよ。

◎角谷:ジョージを意識していたり、あとはサビでテンポが遅くなってはまた戻ったりと変な曲です。こんな感じって今もあまりないですが、60’sには全くないのです。
僕は4弦を一気に弾く(普通は1~3弦)&独自のチューニングのペダルスタイルに自己流でなってしまったので、自ずと不思議な重厚感は出ました。 

●自己流が吉と出たんでしょう。
「ジョルノ」のリード・ギターは、ヤコブ氏のプレイだったんですね。Kaedeさんのミニアルバムではバッキング・ヴォーカルだけの参加でしたが、ギタリストとしても一流ですね。

◎角谷:ヤコブさんはギタリストだけじゃなく、全ての楽器演奏まで出来る方なのです。同時に曲書きも本当に素晴らしいので、楽曲をすぐに理解してもらえたんだと感じています。リード・ギターのレコーディングはその楽曲の上でもう一度作曲をしてもらうみたいな作業でした。
そこでこういった音楽にヤコブさんのライン、音色は想像以上にマッチしてかっこいいのです。録音作業では、ここにこれが欲しい、ここにはいらないですよねっていう共通感覚がお互いにあるといいますか。いろんなアイデアを投げて下さって、ほんと助かりました。 

●角谷君が推す田中ヤコブさんには今後も注目したいと思います。
そしてマルセロ木村さんのエピソードには笑いましたが、「未来世紀ヨコハマ」の間奏ですよね。この曲だけ他とは音像が異なっていて気になっていました。そしていえもとのコーラスにはボコーダー処理されていたので驚きました。これは未来世紀というシチュエーションのための演出でしょうか? 

◎角谷:はい。ボコーダーは詞の世界に合っていて面白いなと思いやってみました。僕も試してみたのですが上手くいかないのでこの部分はエンジニアの玉田君にマニュピュレートをお願いしました。
アナウンス部分は運動会で使っているような拡声器を購入し、それを使ってそのまま録音しています。

●1曲の中の短いパートのために拡声器まで購入して使用という拘りには脱帽ですね!実機のエフェクター、ソフトやプラグインで済ませないのが凄いな。
生のブラスが加わった「雨になる」や「一週間ダイアリー」、弦が入った「めまいの中で」や「ジョルノ」もですが、レコーディングのマイキングなど結構大変だと思いますが、各アレンジも含めてレコーディング状況を聞かせ下さい。


◎角谷:ブラス、弦はすべて大阪で録音して、ブラスは僕が、弦はエンジニアの玉田君がそれぞれ担当しています。
コーラス、ブラス、弦のアレンジは僕と深町君で、今回は全てリモートで行いました。
ベーシック・トラックは、ドラムの越智さん、ベースの熊代君、ピアノの渡辺翔太さん、オルガン、チェンバロの宮脇君、Voのいえもとさんと東京で、リハとレコーディングをしています。他は関東での録音などの作業は僕のスタジオでした。
詳しくは今回の制作工程を曲書きの段階から全てのレコーディングを映像にとってありまして、作品にまとめる予定ですので、そちらを観て頂けたら幸いです。
実は今回のアルバムは、プレス枚数が仮に全て捌けてもマイナスなのです。ただ出来ることならまた音楽を作りたいので、その補完を別でしなくてはという考えがあります。ですので、当分サブスクは難しいと感じています。

●曲作りからレコーディング工程を映像化してリリースするとは!20年程前に嘗ての名盤を扱った『メイキング・オブ・***』シリーズがありましたが、それを彷彿とさせて興味が沸きますね。しかしその工程を長時間カメラで録っていて、これから編集するのも大変な作業になりますね?

◎角谷:そんな大したものではないとは思いますが、その時の想いや試行錯誤、苦難が淡々と記録されているのでウワノソラに興味のある方や製作者の方にとっては面白いかなと思っています。
編集は僕がやるわけではないので分かりませんが、めちゃくちゃ大変だとは思います。

●アルバム・バジェットのマイナス分をその映像作品の売り上げで補完出来ることを願って、次作の制作を強く希望していますよ! 

◎角谷:ありがとうございます。僕らのようなバンドがこれまで続けられたというのがかなり奇跡でありまして。もう流石に厳しい感じなのですが、またチャンスがあれば頑張ります。


●いえもとさんは歌入れでの苦労点などはなかったでしょうか? 

◎いえもと:今回のアルバムもクリックを使わずにレコーディングしており、特に土台となるドラム、ベース、ピアノはそれぞれの姿が見えない状態でのレコーディングだったので、「冷めたカルディア」などテンポが変わる曲は息を合わせるのが難しかったと思います。 
「ラストダンスは僕と」という角谷君が歌っている曲のラストに「ワン、ツー!」と掛け声が入っています。リハーサル時から角谷君が合図として言っていて、リズム隊のレコーディングの仮歌はわたしが歌っていたので、掛け声の時の一瞬だけみんなに聞こえるように角谷君にマイクを向けました。その時録音されていた声がそのまま使われています。角谷君がすごく元気に掛け声をしたのでみんな「声が大きくてびっくりした」と言っていたのを覚えています。

●「ラストダンスは僕と」のブレイク後の掛け声はそういった経緯だったんですね。いえもとさんの仮歌ヴァージョンも聴いてみたいです。
『陽だまり』収録の「プールサイドにて」や、ウワノソラ元メンバーの桶田知道君ソロの「歳晩」(『丁酉目録』収録/2017年)はライヴ限定や特典CDRで聴きましたが、声楽を学んだいえもとさんの表現力には感動しました。Kaedeさんの「さよならはハート仕掛け」(超名曲!)をはじめ、『秋の惑星、ハートはナイトブルー。』収録曲の仮歌ヴァージョンがあれば凄く聴きたいです! 

◎いえもと:ありがとうございます。2019年に月見ル君想フで行ったライヴでは、Negiccoさんの「土曜の夜は」をセルフカバーさせていただいたので、またもしライヴをすることがあって、皆さんの前で演奏できれば楽しそうだなと思います。

2019年 『ウワノソラ 7Years Live』
月見ル君想フ

●ソングライティングやレコーディング期間中、イメージ作りで聴いていた曲をお二人で10曲ほど挙げて下さい。 

◎角谷博栄
●Yoko, Oh / Tot Taylor (『Frisbee』/ 2021年) 
●Reflections of My Life / Marmalade
 (『Reflections of the Marmalade 』1970年)
●Hot Rod U.S.A. / The Rip Chords
 (『Three Window Coupe / Hot Rod U.S.A.』7インチ/1964年)
●Little Honda / The Hondells
(『Little Honda / Hot Rod High』7インチ/1964年) 
●Mass #586 / Sagittarius (『Present Tense 』1968年) 

◎いえもとめぐみ
●The Blue Marble / Sagittarius (『The Blue Marble』/ 1969年)
●Baby Love / The Supremes (『Where Did Our Love Go』/ 1964年) 
●Where Did Our Love Go / The Supremes
 (『Where Did Our Love Go』/ 1964年)
●I Do / The Castells (『I Do / Teardrops』/ 7 1964年) 
●Move In a Little Closer, Baby / Mama Cass
 (『Bubblegum, Lemonade &...Something For Mama』/ 1969年) 



●では最後にこの『Portrait in Rock'n'Roll 2』のピーアールをお願いします。

◎角谷:今作は「すべての夏に感謝する。」という帯文になっています。
10曲の夏物語。そんなシーンがそれぞれ浮かぶような曲で構成されています。
ウワノソラ’67 『Portrait in Rock'n'Roll 2』楽しんで頂けたら幸いです。

◎いえもと:ようやく皆さんに聴いていただけるようになり嬉しいです。
可愛らしい曲もバラードも、角谷君の書く詞はとても素敵なので、是非歌詞カードを片手に聴いていただければと思います。

ウワノソラ/ウワノソラ'67-Official Site-:https://uwanosora-official.themedia.jp/

 (企画・設問作成・編集 ・テキスト / ウチタカヒデ)

2022年7月22日金曜日

FMおおつ 音楽の館/Music Note(2022年6月号)~西城秀樹特集Set List& 次回放送予告

 「音楽の館~Music Note」6月も全国のヒデキ・ファンの皆さんお応えし先月に引き続き「ヒデキ特集」パート2でした。(6月25日放送済み) そのプレイリストをお送りします。

  今回は1980年代以降が中心になります。トップはファンの皆さんがヒデキのライヴで一番多く大合唱されたであろう<青春に賭けよう>。この曲の1996年『LIFE WORK』に収録されたリメイク・ヴァージョンです。

 
 なおこのアルバムは盟友吉野藤丸率いるSHŌGUNのメンバーが1979年結成時のほぼオリジナルで再結集し、ヒデキをサポート。発表当時WOWOWでライヴ映像が放映され、そこでこの曲はゴスペラーズを思わせるようなアカペラ付きのパフォーマンスで、それが耳に焼き付いています。なおSHŌGUNは翌1997年に、このメンバーで再結成されており、『LIFE WORK』はSHŌGUNフューチャリング秀樹といえます。 

  BGはその再結成メンバーでリメイクされた<Lonely Man (1997 Version)>。最初のパートはX JAPANのYOSHIKIプロデュースで1997.8.6. リリースの76作シングル<Moment>。1991年の<走れ正直者>以来のトップ40入(29位)ヒットで、年末の第48回NHK紅白歌合戦へ2年ぶりに復帰(14回目)。 

 BGは<Moment>に続き、1998年5月リリースのユーミン書下ろし77枚目のシングル<2R(ツーラウンド)から始めよう>。
 なおヒデキの紅白への出場ですが1991年に<走れ正直者>がヒットしたその年はオファーなし。当時のNHKは民放と距離を置くスタンスで、ヒット曲が民放局放送関連番組では選出対象外とみなされたようです。 

 ではここで最近のローカルなプチ情報を。現在金沢在住の音楽評論家:宮永正隆氏の北国新聞掲載コラム「ミーやんの金沢ポップンロール」での「<走れ正直者>誕生秘話」です。なお彼は元雑誌「りぼん」のさくらももこさん担当者編集者で、この曲のプロデューサーでした。 
 記事は5月27日版掲載の第36回「歌入れでヒデキにお願い」。「ヒデキの歌唱力の凄さ、主人公の一途さを表現する」ために、「一番のエンディング「知っているさ♪」の部分を100%の力で」、「二番のエンディング「汗が光るよ♪」はそれを上回る150%の迫力で」、さらに「三番のラスト「ダイナマイトさ♪」はもう180%の力で爆発して」、最後に再登場する「知っているさ♪」は200%で燃え尽きるつもりで」と歌唱指示したそうです。そんな無茶ぶりに彼は快く応え、「ヒデキ以外では歌い上げられぬ物凄い作品が完成した。」とありました。


さらに6月8日版の第37回「ビフォー&アフターを見届ける」では、<走れ正直者>のカップリング<HIDEKI Greatest Hits Mega-Mix>のエピソード。この<Mega-Mix>は「激しい恋~傷だらけのローラ~情熱の嵐~薔薇の鎖~YOUNG MAN(YMCA)~ギャランドゥ~ナイトゲーム~ちぎれた愛」を過去の音源の繋ぎ合わせでなく、新たに吹き込み直しを慣行。 

 そこではヒデキ自ら多くのアイデアを提案、まず<YOUNG MAN>では「イントロで「行くぜ~っ!」「オーッ!」と客席とやり取りする感じに!と発案、スタッフ全員がマイクを囲み雄叫びを上げ、大人数の迫力で盛り上げています。また<ギャランドゥ>では「透き通る白い肌、黒いドレスに包み~踊るギャランドゥ♪」の部分をラップに、また「〔(黒いドレスに)包み〕では「Do to me」風の発音で」とスタッフの進言にも耳を傾け、即マイクに向かって実践。なお曲のバックで黒人風バック・コーラス隊の女性歌手はデビュー前の「大黒摩季さん」と紹介されています。 

 さて次は1993.11.21. リリースの69枚目シングル<いくつもの星が流れ>。通称“ヒロスケ”文田博資が1980.3.21.にリリースしたデビュー曲のカヴァー。芳野アレンジによる黄昏時を思わせる洗練されたテイクになっています。 
 なお作者のヒロスケは3rd Single<あ・れ・か・ら>が、朝日放送のドラマ「ザ・ハングマン」のエンディング曲で起用され高い評価を受けたシンガー・ソングライター。そんなナンバーをレパートリーにしたヒデキのセンスには脱帽です。   

 続いては1985年の第18作『TWILIGHT MADE …HIDEKI(トワイライトまで …ヒデキ)』について。このアルバムは、当時日本を代表する先端のクリエーターに成長した角松敏生の曲を核に制作。彼の起用は今BGの<THROUGH THE NIGHT>(1984年17作『GENTLE・A MAN』収録)をヒデキが気に入ったことからでした。 

 
 なおこのタイミングは、ヒデキのアルバム発表の2か月前に角松氏が大傑作『GOLD DIGGER〜with true love〜』をリリース直後で、私自身が大ファンの山下達郎氏を脅かすような存在に飛躍しており、彼の起用は切望の的になっています。 
 またアルバム・ジャケットは彼のイラストで匿名風の仕上げ。そんな匿名風ジャケットといえは、ヒデキの妹コンテストからデビューした河合奈保子が全曲自作でリリースした13作『スカーレット』(1986年)もそんな手法になっています。 


 そんなピーク時の角松氏が4曲提供(全10曲中)し、彼の信頼厚いベーシスト青木智仁氏まで参加させると意気込むも、シングルも含め不完全燃焼の感は否めません。個人的に「何故プロデュースも彼に依頼しなかったのか?」というのが本音でした。
 
 もし彼であればオープニングにラストの<レイクサイド>をインターリュードに据え、FOとともにラップ・フューチャーのMAYUMI作ファンク・ナンバー<オリーブのウェンズディ>、その勢いで角松作の<SWEET SURRENDER>に続き、芳野藤丸作AORナンバー<HALATION>が登場する流れに配置、エンディングに<レイクサイド>で締め、傑作『GOLD DIGGER〜with true love〜』を彷彿させるようになったのでは?曲だけでなくリリックも初期達郎ソングにあったエキセントリックな作風の吉田美奈子が担当と「名盤」の粗材は揃っていただけに惜しまれる印象です。 

 BGは『LIFE WORK』収録の<抱きしめてジルバ -Careless Whisper->のボサノバ・タッチで囁くように歌うリメイクです。 
 ここでのヒデキの「ウィスパー・ヴォイス」、伸びやかなヴォーカルの後に登場する裏声の艶っぽいスタイルは彼の真骨頂と感じます。そんなヒデキの特性をしっかり反映させたのが“マエストロ”筒美京平氏の書き下ろし<勇気があれば>で、「声フェチ」筒美氏ならではの作風に多くの女性が魅了されたはず。この曲は1979年にジュディ・オング<魅せられて>とレコード大賞を争うに値するほどの傑作ナンバーでした。 
 
 1981年にはオフコースの<眠れぬ夜>をカヴァー。これは同時期リリースの『HIDEKI SONG BOOK』収録曲で、古くからの・ファンの私にとっては意表を突かれた選曲でした。ただこのアルバム収録曲は<哀愁トゥナイト>以外はフォーク寄りで肩透かしをくった感があります。個人的には<あなたのすべて>や<ランナウェイ>といった中期オフコースもカヴァーがあればという心境でした。 
 続いてはBarry Manillowとデュエット1985年の<腕の中へ -In Search of Love->。彼とのデュエット実現は、偶然にもこの年彼がヒデキと同じRCAへの移籍でした。 
 ちなみにそのBarryは1984年に、それまでのポップ・シンガーを封印したジャズ・アルバム『2:00 AM Paradise Cafe』をリリース。これにより正統派シンガーとして称賛を浴びています。この時期にヒデキの歌う<抱きしめてジルバ -Careless Whisper->に感銘を受けたのはヒデキの輝きを伺える事象といえます。今回はその<腕の中へ -In Search of Love->をヒデキのソロ・ヴァージョンで。 

 BGは私が彼の選曲センスに着目した1974年全米1位曲 Frankie Valliの<My Eyes Adored You(瞳の面影)>。Valliは<Sherry>のヒットで有名なThe Four Seasonsの看板ヴォーカリスト、ソロではスタンダード<Can't Take My Eyes Off You(君の瞳に恋してる)>(1967年)のオリジナル・シンガー。 
 この<My Eyes Adored You(瞳の面影)>は全米1位全英でも5位の大ヒット曲も、日本では印象の薄いものでした。私が彼のライヴ・アルバムを聴くきっかけになったのは、この曲を藤丸さんとのデュエットで、「もう一度~♪」と歌うシーンを見たのがきっかけでした
 なおこの曲、今では2014年に映画化されたミュージカル『Jersey Boys』の挿入歌としても知られており、作者のKenny Nolanは1974年にLabelleで全米1位を記録した<Lady Marmalade>も作曲、その後2001年のミュージカル映画『ムーラン・ルージュ』の主題歌にもなっています。 

 これまでヒデキのアルバムはほぼ廃盤状態したが2021年4月に全作品復刻が開始されています。それを実現させたのは、ソニーミュージックに復刻リクエストを繰り返していた多くのヒデキ・ファンたちでした。そのファンの皆さんが励みされていたのが、以前私がネット配信していた【洋楽はアイドルが教えてくれた/西城秀樹編】の記事だったという事実を知り、私自身驚きでした。 

 そんなヒデキはNHK連続テレビ小説第37作『都の風』(1986年)の主題歌に起用されています。この曲は1984年3月にリリースの17作『GENTLE・A MAN』に収録の<帰港>が元で、このドラマに合わせ<約束の旅~帰港 ~>(1986年12月)とリメイク。個人的には『GENTLE・A MAN』収録のウィスパー・ヴォイスが際立つテイクの出来に惹かれます。 
 BGは『GENTLE・A MAN』収録のチバチャカとのデュエットで収録されたメロウ・ナンバー<Love・Together>。なおこのアルバムは私のフェイヴァリットのひとつ<Do You Know>も収録された好アルバムです。 
 次は1986年の第19作『FROM TOKYO』から、まずはMAYUMI書下ろしの<CITY DREAMS FROM TOKYO>。このMAYUMIは元モデル兼歌手の堀内まゆみで麗美のお姉さんという「美人すぎるソングライター」。そして黄昏時ドライヴにお似合いのBGM<ROOM NUMBER 3021>です。 
 今BGでは第19作と1987年第20作『PRIVATE LOVERS』に収録の<夢の囁き>。この曲はヒデキがピアニストのつま弾く傍らでダンディーに歌っているような光景が目に浮かぶような雰囲気です。 

 次は1990~2000年代の作品から、この時期の収穫は織田哲郎プロデュースの最後のオリジナル・アルバム第23作『MAD DOG』(1991年)、それに吉野藤丸全曲アレンジのセルフ・カヴァー・アルバム『LIFE WORK』(1996年)といえます。 
 まず『MAD DOG』からは、ヒデキらしい壮烈なロックナンバー<Rock Your Fire>、ファンク・テイストのタイトル曲<Mad Dog>、そして奥田民生作<きみの男>の3曲。『LIFE WORK』からはファンク仕上げの<ギャランドゥ>、デジタル・ビート<YOUNG MAN (Y.M.C.A)>の2曲、この計5曲です。 
 BG はヒデキの44歳の誕生日1999年4月13日にリリースのRCAラスト・シングル78作<最後の愛>(80位)です。作曲は嵐の<明日の記憶>の平義隆、アレンジの武藤星児はAKB48<恋するフォーチュンクッキー><心のプラカード>等を手がける人気アレンジャー。 
 元来私は「きまぐれ」で「飽きっぽく」「ひとつの事を極められない」タイプなので、これだけ私が心酔しているヒデキは「真の本物」なんだと思います。ちなみに、彼以外ではまり込んだ経験は、「The Beatles」「ジュリー」「山下達郎」くらいです。  

 さてそのUniversal籍後のナンバーから、エンリケ・イグレシアス<バイラモス>のカバーで第50回NHK紅白歌合戦の出場曲80枚目の<Bailamos ~Tonight We Dance~>(30位)、そして2000年代最初のシングルm.c.A・T作<Love Torture>(79位)。 

 続いてBG は1985年から河合奈保子のバックバンド「Natural & MILK」のユニット「MILK」のM Rie作<恋をしよう>。この曲でも1980年代のAORヒデキを彷彿させる藤丸氏のアレンジが光っています。 

 2003年にはつんく作<粗大ゴミじゃねえ>。この曲リリース直前の公演先韓国で2度目の脳梗塞を発症。その後リハビリを経て、2006年9月27日に復帰作<めぐり逢い->リリース。ピアニスト、アンドレ・ギャニオン曲に日本語詞をつけたもので、事実上の生前ラスト・オリジナル・ソングになります。  

 今BGは元LUNA SEAの河村隆一と組んだ2001年83作<Jasmine>のカップリング<Love of My Life>。ここで自身を「僕」と呼んでアカペラをバックに歌うヒデキは、「青春ど真ん中」といった感じです。そしてラストは<Hideki Ballad Memories>です。

 さて7月号は山下達郎氏の共演経験を持ち、世界的大作家・村上春樹氏もお好みといわれる「直訳ロッカー王様」をゲストに迎えたプログラムをおとどけします。

 2022.7.23(土) 16:00~ (再放送)2022.7.24(日) 8:00~ 
 ※FMおおつ 周波数79.1MHz 
 ※FMプラプラ(https://fmplapla.com/fmotsu/)なら全国でお楽しみいただけます。


 「ヒデキ特集」パート2☆セット・リスト> 

Opening B.G.~ Gems1(A Cappella)/ esq( 三谷泰弘 ) 
1. 青春に賭けよう(LIFE WORK Version) 
BG: Lonely Man (1997 Version)/ SHŌGUN 
2. Moment BG: 2R(ツーラウンド)から始めよう  
3. いくつもの星が流れ  
BG: THROUGH THE NIGHT 
4. オリーブのウェンズディ 
5. SWEET SURRENDER 
6. HALATION 
7. レイクサイド 
BG:抱きしめてジルバ -Careless Whisper-(LIFE WORK Version) 
8. 腕の中へ -In Search of Love- (HIDEKI Solo Version)
BG: My Eyes Adored You(瞳の面影) /(Frankie Valli)
9. 帰港 
BG: Love・Together /( 西城秀樹 with チバチャカ )
10. CITY DREAMS FROM TOKYO 
11. ROOM NUMBER 3021 
BG: 夢の囁き 
13. Rock Your Fire 
14. Mad Dog 
15. きみの男 
16. ギャランドゥ(LIFE WORK Version)
17. YOUNG MAN (Y.M.C.A) (LIFE WORK Version)
BG: 最後の愛 
18. Bailamos ~Tonight We Dance~ 
19. Love Torture 
BG: 恋をしよう 
20. 粗大ゴミじゃねえ 
21. めぐり逢い 
BG: Love of My Life 
22. Hideki Ballad Memories 
23. Claps:Thank You /( Various Artist Last Coment HIDEKI )