2016年6月14日火曜日

☆Paul McCartney;『Pure McCartney』(ユニヴァーサル/UCCO8003/6)


ポール・マッカートニーの現時点でのオールタイムベストがこの4枚組の『Pure McCartney』だ。全67曲で、ポールのセレクトによるこのコンピは妙に偏った選曲となり1997年の『Flaming Pie』から7曲も入っていながら、名盤の一つと人気が高い1989年の『Flowers In The Dirt』からは1曲もセレクトされていない。2001年の『Driving Rain』からもゼロ。もちろんカバー曲やアンプラグドのアルバムからはセレクトされるはずもない。この手の高額のコンピには未発表曲か別ヴァージョンを入れるものだが、全て既発のものばかり。2015年に12インチのみでリリースされた「Hope For The Future」(配信は2014年)が初めてCD化されたのが自分にとっての唯一の救い。2016Remasterが24曲あるが自分には違いがよく分からず、この24曲はみなSuper Deluxe Editionになっていないアルバムなどの曲なので、わざわざこのコンピの為にリマスターしたのではなく、今後の発売のための下準備をしただけだ。CDで発売されるとつい買ってしまう自分にはまあこの「Hope For The Future」1曲だけで渋々OKだが、自分のようにポールをコレクティングしている人以外は不要だろう。それ以外では先日リリースされた『Pipes Of Peace(Super Deluxe Edition)』のボーナスで初登場のした「Say Say Say(2015 Remaster)」は47秒のフーフーというファルセットのハモりが違いハーモニカの後のイエーイエーが入っていなかった初登場の別テイク。ただしこちらは7分弱と長いが、『Pure McCartney』のものは3分37秒と短く編集されている。そして「No More Lonely Night」はSingle Editなのでアルバムの頭の20秒間のベースはカットされ、歌から始まっている。もうひとつ「Venus And Mars~Rock Show」はさらに大胆なSingle EditでVenus And Marsの歌の前のコードが8回から5回と短く、特に「Rock Show」はアルバムの1分6秒から2分10秒までがカットで特に華やかな前半のサビがないのはもったい無さすぎる。トータルで3分6秒も短い。これらの3曲は短く編集しただけなので特に価値はなし。なお、この67曲の配分は70年代35曲、80年代10曲、90年代8曲、2000年以降14曲で、やはりポール自身も黄金期は70年代と思っているようだ。(佐野邦彦)
 

 

2016年6月13日月曜日

千尋:『旅の途中』(Happiness Records/ HRBR-003)


 横浜在住の女性シンガー・ソングライターの千尋が、4年ぶりとなる通算3枚目のアルバムを6月15日にリリースする。
 09年8月に某テレビ局が開催した楽曲オーディションで「満ちた月」がグランプリを受賞した後、同年10月にファースト・アルバム『うたうため』、12年3月には『この街から』をリリースしている。
 また全国規模で展開しているライヴ・パフォーマンスにも定評があり、その歌声に魅了されているファンは数多いのだ。
 今作では彼女が活動の拠点としているヨコハマ系のミュージシャンが多く参加しているのも特色で、アルバム全編でその卓越したプレイを聴かせてくれている。
筆者は一聴して彼女の歌声にノックアウトされてしまったので、こうしていち早く紹介出来ることは心より嬉しい。

 シンガー・ソングライター千尋の一番の魅力はなんと言っても、柔らかく素朴で優しく繊細なその歌声であり、聴く者を歌の世界に引き込んでくれる表現力だと思うのだが、今作のレコーディングには笠原敏幸や椎野恭一(共に吉川晃司with PaPaのオリジナルメンバーで、数多くのアーティストのセッションにも参加している)など第一線で活躍してきた歴戦のミュージシャン達が加わってバッキングが一新したことで、更に際立っているように感じる。
これまでの2枚のアルバムでは「Less is more(より少ないほど、より豊かである)」という感覚で、音数を削ったアレンジと楽器編成とそれをすくい上げる様な丁重なミックスを施しており、今作でもその姿勢は変わらないが、ミュージシャンが一新したことでダイナミズムがより増している。

 

 では主な収録曲を解説していこう。
 ハモンド・オルガンのイントロに導かれてブルージーなギターから静かに始まる冒頭の「朝焼け」。リズム・セクションは前出のベースの笠原、ドラムの椎野にギターの長崎真吾、そして加藤ミリヤのツアー・バンマスでもあるキーボーディストのMAKO-Tの4人。 この曲はサザンソウル系のサウンドを下敷きにしていると思われるが、千尋のヴォーカルは静かに熱くソウルフルだ。長崎のギターとMAKO-Tのハモンドのプレイも出色である。
続く「それいゆ」もリズム・アレンジにはサザンソウルのエッセンスを残しているが、ここでは軽快なポップスに仕上げている。またこの手のリズムでは笠原と椎野のコンビーネションが抜群でMAKO-Tが弾くウーリッツァーも印象的だ。

 タイトル曲の「旅の途中」ではシカゴソウル(チャールズ・ステップニー等)に通じるリズム感が現代のフリーソウル・ファンにも受け入れられるだろう。この曲ではエレピがフェンダー・ローズにチェンジされており、きちんとサウンドの構造が考えられている。 続く「wave」は筆者的に今作のベスト・トラックと考えるほど、曲とアレンジ、歌と演奏の一体感が素晴らしい。
 笠原による巧みなベース・ラインとツボを押さえた椎野のドラミング、長崎のギター・ソロもアルバム収録曲中のベスト・プレイではないだろうか。この曲では鍵盤がハモンドだけという構造がアレンジ的にはミソなのかも知れない。とにかく一聴して好きにならずにいられない曲である。
 他にもレゲエのリズムで歌われる「Mr. melody」やジャズ・テイストの「シャラライフ」な聴きどころが多く、各曲で千尋の表現力豊かなヴォーカルを楽しめる。
興味を持った音楽ファンは是非入手して聴いてみて欲しい。

(テキスト:ウチタカヒデ)

2016年6月9日木曜日

☆Kinks:『Everybody's In Show-biz(Legacy Edition)』(RCA/88875112367)


キンクスのLegacy Editionだが、3年経ってようやく1972年の傑作『Everybody's In Showbiz』がリリースされた。さすがのLegacy EditionだけありCDが1枚増えて2枚組、2枚目のCDにはオリジナルのリリースでは1972年3月3日のライブ中心だったが、ボーナスの2枚目には1日前の3月2日のライブが入り、他に未発表曲とか未発表別テイクなど17曲が収められた。ただし1998年リリースの1枚もののボーナストラックの2曲は3月3日、同じ曲がこのLegacyにもあるが3月2日のライブなので、勘違いして処分しないこと。さてアルバム本体の内容は、キンクスファンなら知らぬ者などいないので省略し、ボーナスディスクの内容のみ紹介させていただく。ただ一言、自分のスタンスとして書いて置きたいが、一番売れなかったこのRCA時代こそキンクスのベストな時期で、RCA時代が最も好きと言う事がキンクスファンの証みたいな事を言う人がいるが、それはただのその人の趣味と思うこと。自分が1番好きなのはPye、次はRCAの後のAristaで、RCAはその後だ。このアルバムの後の『Preservation』シリーズは楽しいが、マニアック過ぎ。1曲丸々女性シンガーに歌わせるとかやり過ぎで、覇気もない。さて話は戻ってディスク2。冒頭の「‘Til The End Of The Day」は以降と同じニューヨークのカーネギーホール1972年3月2日のライブで、2006年版のボーナストラックに入ったのに比べ冒頭に16秒の3コードを搔きならずオープニングが多く入っている。後の曲を途中で止めるアレンジは同じ。続く「You’re Looking Fine」は嬉しや、Pye時代のカバーだが、アレンジを変えていてそれが楽しい。ベースラインをまったく変え、デイヴの激しいギターソロがこの曲をブルースからロックに変えた。「Get Back In Line」もPye時代。ここでもアレンジを変えていて全体的にスローで、特にイントロはオリジナルがアルペジオのギターのバックで歌うところがほぼア・カペラ(微かにギターは聴こえるが)だった。RCA時代の前作収録の「Have A Cappa Tea」は前作より1分近く短くアレンジしているが曲の楽しい雰囲気は同じ。ただイントロがオリジナルはバックがピアノだが、このライブではあえてギターのコード弾きのバックからはじめている。「Sunny Afternoon」はもちろんPyeを代表する名曲。基本的な進行は同じだがイントロにあの特徴的な下降するベースをあえて外し、フェイドアウトするエンディングはコミカルなピアノで終わらせる。「Muswell Hillbilly」はライブ同士でオリジナルが3月3日、こちらが3月2日で、イントロがメンバー紹介になっている構成は同じだがなぜかボーナス盤の方はちゃんと歌が始まるコードに合わせてアドリブの演奏をしているが、一日後のオリジナル盤の方はアドリブのコードがバックでスムーズではない。歌が始まるとカントリーロックで前作と同じだ。「Brainwashed」も同じライブ対決?だが、こちらはミックスでオリジナル盤の方はオルガンの音が目立つが、ボーナス盤ではオルガンが小さくミックスされギターが大きく聴こえるのでロック色が強い印象になった。「Acute Schizophrenia Paranoia Blues」も同対決。オリジナル盤のライブではイントロと歌の初めでホーンとリードギターが同時に鳴ってうるさい印象だったが、ボーナス盤の方ではホーンを小さくしてリードギターがよく聴こえるのですっきりとした。「Holiday」も同対決。オリジナル盤のライブの方は後半若干シャウト気味に歌う。ボーナス盤のライブはミックスだと思うが冒頭の1番のバックはピアノ、2番ではホーンがすっと入ってきていい感じに仕上げていた。「Alcohol」も同対決。これは大きく違い、ボーナスのライブはオルガンがバックで鳴る中、30秒近い謎の曲(聴いたことがあるのだがタイトル不明)をソロで吹く。その後もオルガンとギターのコードがなってレイのセリフが入っているので歌は1分45秒から始まる。オリジナル盤のライブは冒頭からオルガンで15秒から歌が始まったのでトラックの尺が1分半近く違っていた。「Complicated Life」でやっと3月2日のみのライブになる。オリジナルはRCAの前作だが。印象的なラリラリラーラーのメロディ部分を1回目の後56秒後に2回目とタイトに編集、オリジナルはその間が1分50秒と長いので全体的にその分長尺となった。ライブの方が、編集がうまい。「She’s Bought A Hat Like A Princess Marina」はまたライブ対決だが1998年版のCDのボーナストラックが相手となる。この曲はPye時代の曲でオリジナルは静かにピアノで始まり最後テンポアップして激しく終わるのだが、どちらもイメージを忠実に、ライブを行っていてその差はほとんどない。そしてここまで続いたライブの終わりは3月2日のみの「Long Tall Shorty」。このデイヴ・デービスが歌う曲はなんとデビューアルバムからという驚きの選曲。当時のギターのリフは、最初はピアノが担当、そしてオルガンに変わるとデイヴのへヴィなギターが活躍、途中はレイも歌っている。これは聴きものだ。そしてこのディスク2の目玉、未発表曲の「History」だ。レイ・デービスが作った曲で、ヒット性のあるキャッチーな曲ではないが、心惹かれるメロディがある佳曲でボツはもったいない。1973年3月1日に録音された曲だ。「Supersonic Rocket Ship」は1972年2月9日に録音された初期ヴァージョンで、3月22日と5月30日録音されたものがこのオリジナル盤の方に収録された。いわばスタジオ対決?である。完成版の方が、マリンバがずっときれいに鳴り続けておりホーンの入り方もきれいで、それに比べ本ディスクの方が全てに少しずつ粗削りだ。でも基本的なアレンジは完成している。またsupersonic rocket shipの2回目のサビは2分22秒だがオリジナルはそのままAメロを繰り返して終わるが、ボーナスの方は2回Aメロを繰り返し3分22秒に3回目のサビがありAメロの繰り返しとなって終わるので一分近く長い。次の「Unreal Reality」のスタジオ対決でオリジナル、ボーナスとも収録が1972年6月1日なので編集の差となっている。完成版は歌が全部終わったあとすぐにスローのパートで終わるが、ボーナスの方はしばらく歌がリフレインした後にスローパートになるので26秒長い。最後は「Sophisticated Lady」というロックのインストだが、これは後の『Preservation Act2』の「Money Talk」のオケの原型で1973年3月22日の録音で、前述のトラックにも1973年録音があり、本盤発売後なので本当はおかしな話なのだが、次作『Preservation Act1』の録音が1973年3月からなので、ギリギリ本盤に収録されたと思われる。(佐野邦彦)