2011年5月2日月曜日

BRIAN ELLIOT:『BRIAN ELLIOT(君と一緒に)』(ヴィヴィッド・サウンド/VSCD-3516)


 幻の名盤として99年に一度CDリイシューされた、シンガーソングライターBRIAN ELLIOT(ブライアン・エリオット)の唯一のアルバム(78年)が、SHM(スーパー・ハイ・マテリアル)-CDにて再びリイシューされたので紹介したい。

 99年のリイシュー以後廃盤状態が続き入手困難であった本作、幻の名盤という名にふさわしいAORアルバムである。

 一般的にはマドンナの86年のヒット曲「Papa Don't Preach」(当時特有のアレンジやサウンドでポップス・クラシックとはいえなくなったが名曲である)の作者として後年名をあげるが、シンガーソングライターとしての魅力はこのアルバムに集約されている。筆者もアナログ盤時代から聴き込んでいたアルバムだけに、再びのリイシューは極めて嬉しい。


 エリオットのプロフィールについては、今回のリイシュー盤解説に詳しいのでそちらを読んで頂きたいが、ワシントン州出身で十代の頃よりミュージシャンとしてボビー・ヴィーのツアー・メンバーなどとして活動していたらしい。その後プロデューサーのエリック・ジェイコブセンと出会い本作が製作された。
 VANDA読者ならご存知だと思うが、ジェイコブセンはラヴィン・スプーンフルの『Do You Believe in Magic』(65年)や『Daydream』(66年)を手掛けたことで知られる、東海岸グッドタイム・ミュージックの名プロデューサーである。ジェイコブセンが手掛けたソッピーズ・キャメルのメンバーを通じて、エリオットは彼と知り合ったようだ。
 本作はリリース元のワーナー・ブラザーズの本拠地に近いロス録音で、70年代米音楽産業を支えていた西海岸の名立たるミュージシャン達が多く参加しているのも特徴である。クルセイダーズのウィルトン・フェルダー(ベーシスト、元々はテナー・サックス奏者)と74年から正式メンバーとなっていたギタリストのラリー・カールトン、本作レコーディング直後にTOTOを結成するリズム隊のデヴィッド・ハンゲイトとジェフ・ポーカロをはじめ、リー・リトナーやジェイ・グレイドンなど百戦錬磨のギタリストから、70年代モータウン・ビートを担っていたジェームス・ギャドスン等々。因みに曲毎のクレジットはないので、聴きながら名手達のプレイを探っていくのも一つの楽しみ方だろう。

 冒頭の「Let's Just Live Together」は、ボズの「Whatcha Gonna Tell Your Man」(『Down Two Then Left』(77年)収録)にも通じる、しなやかな
ポーカロらしき16ビートのドラミングにストリングスとフィメール・コーラスが絡む軽快なチューン。
 続く「Summer Nights in Hollywood」は強力なベース・ライン(フェルダーか?)にエリオットによるホンキートンク風ピアノが絡む。シンコペーションが効いたホーン・アレンジやムーディなフィメール・コーラスなどアレンジ的にも完成度が高く、クレジットではアルバム全体のアレンジは名匠ジミー・ハスケル(S&G「Bridge Over Troubled Water」等々)とエリオット自身が担当しており、仄かなニューオリンズ・テイストを持つ他、チャーリー・カレロのそれを彷彿させる東海岸の小粋なジャイヴ感覚もあって聴き飽きない。

 

 ソリッドなファンクをベースとしたミッドテンポの「Room to Grow」は、ハンゲイト特有のスラップとダブル・ストップのアクセントが聴けるベースからTOTO組のリズム・セクションだろう。グレイドンらしきハーモニックなギターのサスティーンもやたらと聴けるのだが、この2人の最良のプレイは同時期のキャロル・ベイヤーセイガーの「It's the Falling in Love」(『Too』(78年)収録)でも耳にすることができる。
 終盤に収められた東海岸風サウンドの「Las Vegas Wedding」はポップスとしての完成度が非常に高く、60年代にも活躍したジェイコブセンの影響力をひしひしと感じさせる。ハスケルによるオーケストレーションも金管と木管のポジションがきちんと計算されて素晴らしい。
 最後になったがヴォーカリストとしてのエリオットは、テクニカル的に語れるレベルではないが、ニック・デカロやマイケル・フランクスにも通じる所謂"ソングライターズ・ヴォーカル"と呼べばいいだろうか、とぼけた声質が味となっていて悪くない。
 マストといえる名盤なので、興味を持ったAOR、シティポップのファンは直ぐに入手すべきだ。

(テキスト:ウチタカヒデ





2011年4月30日土曜日

秘宝感:『秘宝感』(ローヴィング・スピリッツ/ RKCJ-2047)


 ジャズ系を中心にsaigenjiやorange pekoeなど、ボーダーレスなセッションで活躍するドラマーの斉藤良率いるフリージャズ・グループ、秘宝感(ひほうかん)がデビュー・アルバムをリリースしたので紹介しよう。

 秘宝感は2010年に、東京のジャズ・ライブハウスの名門である新宿ピットイン昼の部での活動を皮切りにスタートし、若手ジャズ・ミュージシャンの中でも最も注目される存在となっている。
 メンバーはリーダー兼ドラマーの斉藤良を中心に、ピアニストのスガダイロー、アルトサックス奏者の纐纈雅代、ベーシストの佐藤えりか、そしてヴォーカルとパフォーマンスで熱海宝子というテクニシャンで個性的なプレイヤーから構成される。

 アルバムはセルジュ・ゲンズブールが手掛けたブリジット・バルドーの「コンタクト」のカバーから幕を開ける。原曲が持つサイケデリック且つミニマルな展開を見事に打ち砕くフリー・スタイルで非常に斬新的だ。導入部の台詞回しはマリーナ・ショウの「Street Walkin' Woman」のそれを彷彿させ、類い希な拘りも感じさせる。
 続く「紫水晶アラベスク」から「サンドウ」まで強力なフリージャズが展開され、各プレイヤーが持つバックボーンと感覚のみで高度な演奏が無限に繰り広げられ、佐藤のアルコ奏法が響き渡る「紫水晶アラベスク」や纐纈のアルトがブロウしまくる「黄金虎と銀雨」、斉藤とスガのみで演奏される「男」の静と動のコントラストの見事さなど聴きどころは多い。
 ラストはあがた森魚の「春の嵐の夜の手品師」のカバー。決して技巧的とはいえない熱海のヴォーカルも表現力でそれをカバーしており、グループの演奏もここで一気にピークをむかえ、実に感動的な大団円で清々しくもある。

(テキスト:ウチタカヒデ

2011年4月29日金曜日

JUNK FUJIYAMA:『JUNKWAVE』(Mil Music/ MICL-70003)


 若きシティポップの旗手である、JUNK FUJIYAMA(ジャンクフジヤマ)がニューアルバム『JUNKWAVE』を5月11日にリリースする。
前作『ジャンクスパイス』から約半年という早いインターバルでのリリースは、彼の溢れる才能を如実に物語っている。では早速紹介しょう。

 今作は昨年12月に配信された「はじまりはクリスマス」をはじめ、今年3月と4月に矢継ぎ早に配信されたばかりの「遠い日の手紙」と「僕の女神」のトルプル・シングルを収録した、正にジャンクの現在進行形を聴けるニューアルバムとなった。
 ライヴでのお馴染みの強力なミュージジシャンによる洗練されたプレイと、プロデューサーの知野芳彦によるアレンジはジャンク・サウンドの要であり、今作でもより結晶している。

 アルバム冒頭の「僕の女神」は、ソングライティングのよきパートナーである神谷洵平との共作で、彼の持ち味がよく出ているキャッチーなコーラスが印象的なポップスだ。ピアノのオブリガートがリチャード・ティーしているのを聴き逃さなかった。
 ウーリッツアーのスイートなリフで始まる「この街~meet again~」は、ニューソウル寄りのメロウ・ナンバーで、アコースィック・ギターの刻みとミッドテンポのグルーヴが心地いい。リードギターはデヴィッドT風プレイで筆者的にも今作のベストに挙げたい名曲。
続く「束縛」は一転してベイエリア・ファンク系の流れを汲むタイトなヴァースから、エモーショナルなフックへと展開しジャンクの激しいシャウトが堪能できる。
 3月に先行配信された「遠い日の手紙」はストリングを配したスロー・バラードで、前作の「ノスタルジア」にも通じる味わい深いヴォーカルが楽しめる。
 毎作楽しみなライヴ音源は、昨年ジェームス・テイラーと感動的な来日公演(筆者もゲントウキ田中君らと鑑賞)をしたキャロル・キングの「I Feel The Earth Move」をチョイスしている。ハードなロック・アレンジには目から鱗で、名テナー・プレイヤー本間将人の熱気を帯びたインター・プレイが花を添える。また1stアルバム収録の「秘密」が新たなアレンジでライヴ収録されているのも嬉しい。以上2曲で一際存在感を放つのが、村上"ポンタ"秀一の国宝級のドラミングであることも記しておく。

 ボーナス・トラックは昨年ジャンクが参加した、はっぴいえんどトリビュート・カバー集『CITY  COVER BOOK(1983-2010)』から鈴木茂作の「さよなら通り3番地」を収録。ファンキーなジャンク・サウンドで新たな息吹を与えている。
 なお今作はタワーレコードにて4月27日に先行リリースされているので、いち早く聴きたい方はそちらをチェックしてほしい。
(ウチタカヒデ)